私が20年間編集代表を務めた雑誌「演劇と教育」の最新号に、拙著『地域演劇教育論-ラボ教育センターのテーマ活動』の書評が掲載されました。
評者は髙﨑彰さん。彼は私と同じ団塊の世代です。東京都の中学校教師から指導主事、江戸川区室長、都内各地の校長などを歴任し、退職後は大学数カ所で特任教授、講師などを勤められています。日本演劇教育連盟では長らく研究部を牽引され、数年、私もその仕事に携わってきた同志です。
髙﨑さんによる書評は、私の意図を余すところなく汲んでいただいき、嬉しくもありありがたいもので、ただ感謝あるのみです。おそらく書評しにくいであろうこの本を、しっかり関連づけられ、まとめ上げる力量に感服するしかありません。
近々、私も携わり、髙﨑さんを編集代表とする「ことば教育」に関する新刊本(日本演劇教育連盟編、晩成書房)が出版される予定です。「乞う、ご期待」といったところです。
では、その書評を採録させていただきましょう。
■長年の演劇教育実践を背景にした到達点―
福田三津夫=著 晩成書房=刊 定価=二〇〇〇円+税
『地域演劇教育論』
髙﨑彰 東京・日本演劇教育連盟会員
私は昨年の秋、群馬県・渋川市・上三原田に江戸時代から伝わる「常設農村歌舞伎」の舞台と地元の小学生による「子ども歌舞伎」を参観してきた。地域による演劇教育の伝統は古くから様々な形で日本の各地に残されていると思われる。本書は私が従来より関心をもってきた伝統的な「地域演劇教育」とは全く異なる視野ではあるが、新しい発見もあり最後まで楽しく読ませていただいた。
この福田三津夫さんの新著『地域演劇教育論』は二〇一三年に刊行された『実践的演劇教育論』と並び、彼の「演劇教育論」の到達点を示すものである。福田さんのこの作品の背景には、それを支える深くて幅広い「根っこ」があると思われる。
その一つ目は、彼の公立小学校教員としての先進的かつ長期にわたる地道な実践の成果である。そして公立小学校教員退職後にも、埼玉大学や白梅学園大学で非常勤講師として斬新な授業を行い、教員を志す学生たちに自己のユニークな経験を踏まえた「ことばと心の受け渡し」をおこなっている。
その二つ目は、様々な文化運動の同志ともいうべき仲間たちとの出会い、そして日本の演劇教育運動の優れた活動家たちとの直接的な出会いである。「日本演劇教育連盟」の創始者である冨田博之(以下敬称略)、「劇あそび研究会」の小池タミ子と平井まどか、そして全劇研などの講師として出会った詩人・谷川俊太郎や竹内敏晴、特に竹内のレッスンからは彼は多くのことを学んでいる。日本演劇教育連盟は『演劇と教育』誌を発行し続けているが、その編集代表であった副島功の後を受けて、二十年間にわたって彼がその重責を果たしてきたことも、人々との出会いを考えるうえで重要なことであると思う。
本書の第二章の〈演劇教育の原点を探るⅠ〉という箇所にまとめられた高山図南雄、鳥山敏子、辰嶋幸夫、渡辺茂、及び〈原点を探るⅡ〉の寒川道夫などへの交流と人格的描写も素晴らしいものがある。
そして彼を支える三つ目の「根っこ」は、諸外国の教育実践や日本の教育運動に強い関心をもち、それを支えるリーダーたちとの深い連帯のきずなを形成しているということである。
福田さんは教育評論家・村田栄一の主宰する「飛ぶ教室」の縁で三年連続春休みにヨーロッパヘの学校訪問ツアーに参加しておられるが、そのことがきっかけで「フレネ教育」に関心をもち、 一九九八年に埼玉県の「自由の森学園」で開催された「第二二回フレネ教育者国際会議」に実行委員として参加しておられる。その会議の中で、「テーマ活動」と呼ばれる参加者の自主的な劇表現を体験し、独自の手法で英語を学習する「ラボ教育センター」という組織とのつながりをもち、「言語教育総合研究所」の研究員として新たにその運動にも参画するようになった。
本書『地域演劇教育論』では、彼の各地の「ラボ・パーティ」への参加の様子や各ラボのチューターを対象とした「ラボ・ワークショップ」の実践の様子などについて詳しく報告されている。そこでは、竹内敏晴や冨田博之などの薫陶を受けた福田さんの演劇教育指導者としての力量がいかんなく発揮されている。
昨年、日本演劇教育連盟の元副委員長、佐々木博の『日本の演劇教育―学校劇からドラマの教育まで』(晩成書房)という労作が刊行されたが、この福田さんの著書も、前に刊行された『実践的演劇教育論』と併せて日本の演劇教育運動の到達点を示す労作であると思われる。
(A5判二〇〇ページ)
さて、この書評は『演劇と教育』2019年5+6月合併号に掲載されたものです。その内容を紹介します。
■晩成書房HPより
新刊!
『演劇と教育』2019年5+6月合併号 通巻709号
【特集】「平成」の教育と学校演劇
この30年を振り返って
編*日本演劇教育連盟
定価 900円+税
【ドラマの眼】中学校演劇…本当に盛んなのは?=福島康夫
【論考】
「子ども・学校・教育の危機」と「教育改革」の時代を拓く
~人間らしさあふれる教育をめざして~=行田稔彦
【対談】
「平成」の演劇教育を振り返る
~小学校での劇づくり・ドラマ教育の30年~=大垣花子+神尾タマ子
【論考】
「平成」の中学校演劇を振り返って
~東京都大会 30年間の記録から~=田代卓
【新刊旧刊】
『授業づくりの考え方』(渡辺貴裕=著)=若杉健彦
『地域演劇教育論』(福田三津夫=著)=髙﨑彰
【スポットライト】
『どうぶつ会議』こまつ座公演=松林陽子
【PLAY ON!】
インクルーシブ・アーツフェスティバル2019で出会う=平井康子+神尾タマ子
晩成書房40年 お祝いと懇親のつどい=市橋久生
【発表会報告】
2019 関東中学校演劇コンクールによせて=一丁田康貴
【報告】
第7回 演劇部外部指導者情報交換会 参加者の感想から
【連載】
誌上教育カフェ 7 男の子 女の子の役割って、変わってきている?=編集部
劇づくり版「しくじり先生」 7 劇創り、夢創り=大野敬一
【誌上講座】
マイムの世界=近藤春菜
【小学生向脚本】
『たかがお話~A Never Changing Story~』=川窪章資
【中学生向脚本】
『明日の学校へ』=柴田千絵里
【全劇研NEWS】
2019全劇研 第68回全国演劇教育研究集会 講座・講師紹介!=日本演劇教育連盟
参加申込書
7+8月合併号のおしらせ
5+6月の本棚
事務局からの手紙
編集だんわ室
評者は髙﨑彰さん。彼は私と同じ団塊の世代です。東京都の中学校教師から指導主事、江戸川区室長、都内各地の校長などを歴任し、退職後は大学数カ所で特任教授、講師などを勤められています。日本演劇教育連盟では長らく研究部を牽引され、数年、私もその仕事に携わってきた同志です。
髙﨑さんによる書評は、私の意図を余すところなく汲んでいただいき、嬉しくもありありがたいもので、ただ感謝あるのみです。おそらく書評しにくいであろうこの本を、しっかり関連づけられ、まとめ上げる力量に感服するしかありません。
近々、私も携わり、髙﨑さんを編集代表とする「ことば教育」に関する新刊本(日本演劇教育連盟編、晩成書房)が出版される予定です。「乞う、ご期待」といったところです。
では、その書評を採録させていただきましょう。
■長年の演劇教育実践を背景にした到達点―
福田三津夫=著 晩成書房=刊 定価=二〇〇〇円+税
『地域演劇教育論』
髙﨑彰 東京・日本演劇教育連盟会員
私は昨年の秋、群馬県・渋川市・上三原田に江戸時代から伝わる「常設農村歌舞伎」の舞台と地元の小学生による「子ども歌舞伎」を参観してきた。地域による演劇教育の伝統は古くから様々な形で日本の各地に残されていると思われる。本書は私が従来より関心をもってきた伝統的な「地域演劇教育」とは全く異なる視野ではあるが、新しい発見もあり最後まで楽しく読ませていただいた。
この福田三津夫さんの新著『地域演劇教育論』は二〇一三年に刊行された『実践的演劇教育論』と並び、彼の「演劇教育論」の到達点を示すものである。福田さんのこの作品の背景には、それを支える深くて幅広い「根っこ」があると思われる。
その一つ目は、彼の公立小学校教員としての先進的かつ長期にわたる地道な実践の成果である。そして公立小学校教員退職後にも、埼玉大学や白梅学園大学で非常勤講師として斬新な授業を行い、教員を志す学生たちに自己のユニークな経験を踏まえた「ことばと心の受け渡し」をおこなっている。
その二つ目は、様々な文化運動の同志ともいうべき仲間たちとの出会い、そして日本の演劇教育運動の優れた活動家たちとの直接的な出会いである。「日本演劇教育連盟」の創始者である冨田博之(以下敬称略)、「劇あそび研究会」の小池タミ子と平井まどか、そして全劇研などの講師として出会った詩人・谷川俊太郎や竹内敏晴、特に竹内のレッスンからは彼は多くのことを学んでいる。日本演劇教育連盟は『演劇と教育』誌を発行し続けているが、その編集代表であった副島功の後を受けて、二十年間にわたって彼がその重責を果たしてきたことも、人々との出会いを考えるうえで重要なことであると思う。
本書の第二章の〈演劇教育の原点を探るⅠ〉という箇所にまとめられた高山図南雄、鳥山敏子、辰嶋幸夫、渡辺茂、及び〈原点を探るⅡ〉の寒川道夫などへの交流と人格的描写も素晴らしいものがある。
そして彼を支える三つ目の「根っこ」は、諸外国の教育実践や日本の教育運動に強い関心をもち、それを支えるリーダーたちとの深い連帯のきずなを形成しているということである。
福田さんは教育評論家・村田栄一の主宰する「飛ぶ教室」の縁で三年連続春休みにヨーロッパヘの学校訪問ツアーに参加しておられるが、そのことがきっかけで「フレネ教育」に関心をもち、 一九九八年に埼玉県の「自由の森学園」で開催された「第二二回フレネ教育者国際会議」に実行委員として参加しておられる。その会議の中で、「テーマ活動」と呼ばれる参加者の自主的な劇表現を体験し、独自の手法で英語を学習する「ラボ教育センター」という組織とのつながりをもち、「言語教育総合研究所」の研究員として新たにその運動にも参画するようになった。
本書『地域演劇教育論』では、彼の各地の「ラボ・パーティ」への参加の様子や各ラボのチューターを対象とした「ラボ・ワークショップ」の実践の様子などについて詳しく報告されている。そこでは、竹内敏晴や冨田博之などの薫陶を受けた福田さんの演劇教育指導者としての力量がいかんなく発揮されている。
昨年、日本演劇教育連盟の元副委員長、佐々木博の『日本の演劇教育―学校劇からドラマの教育まで』(晩成書房)という労作が刊行されたが、この福田さんの著書も、前に刊行された『実践的演劇教育論』と併せて日本の演劇教育運動の到達点を示す労作であると思われる。
(A5判二〇〇ページ)
さて、この書評は『演劇と教育』2019年5+6月合併号に掲載されたものです。その内容を紹介します。
■晩成書房HPより
新刊!
『演劇と教育』2019年5+6月合併号 通巻709号
【特集】「平成」の教育と学校演劇
この30年を振り返って
編*日本演劇教育連盟
定価 900円+税
【ドラマの眼】中学校演劇…本当に盛んなのは?=福島康夫
【論考】
「子ども・学校・教育の危機」と「教育改革」の時代を拓く
~人間らしさあふれる教育をめざして~=行田稔彦
【対談】
「平成」の演劇教育を振り返る
~小学校での劇づくり・ドラマ教育の30年~=大垣花子+神尾タマ子
【論考】
「平成」の中学校演劇を振り返って
~東京都大会 30年間の記録から~=田代卓
【新刊旧刊】
『授業づくりの考え方』(渡辺貴裕=著)=若杉健彦
『地域演劇教育論』(福田三津夫=著)=髙﨑彰
【スポットライト】
『どうぶつ会議』こまつ座公演=松林陽子
【PLAY ON!】
インクルーシブ・アーツフェスティバル2019で出会う=平井康子+神尾タマ子
晩成書房40年 お祝いと懇親のつどい=市橋久生
【発表会報告】
2019 関東中学校演劇コンクールによせて=一丁田康貴
【報告】
第7回 演劇部外部指導者情報交換会 参加者の感想から
【連載】
誌上教育カフェ 7 男の子 女の子の役割って、変わってきている?=編集部
劇づくり版「しくじり先生」 7 劇創り、夢創り=大野敬一
【誌上講座】
マイムの世界=近藤春菜
【小学生向脚本】
『たかがお話~A Never Changing Story~』=川窪章資
【中学生向脚本】
『明日の学校へ』=柴田千絵里
【全劇研NEWS】
2019全劇研 第68回全国演劇教育研究集会 講座・講師紹介!=日本演劇教育連盟
参加申込書
7+8月合併号のおしらせ
5+6月の本棚
事務局からの手紙
編集だんわ室