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ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(Alternative für Deutschland :AfD)等の躍進の真の背景とドイツ政府や立法、裁判所の取組みを探る

2024-07-13 12:42:51 | EUの極右政党の躍進と政府、立法、裁判所等の取組み

 フランスやドイツ等を始め欧州議会選挙での極右政党の躍進が著しい。筆者は、その背景について改めて調査する中で特にドイツにおける極右政党に対する諜報機関や裁判所の厳しい見方を整理したいと考え、今回の取りまとめることとした。

 特にドイツ連邦共和国基本法の問題、刑法解釈問題につきピッツバーグ大学ロースクールのレポートなどを中心に仮訳とともにまとめてみた。

 なお、ドイツだけでなくEU全体として極右思想やテロ思想の対する具体的法規制の具体性についても一部引用した。先般の都知事候補の選挙広報やテレビ放送などにおけるわが国憲法の言論の自由規定のはき違い・誤解などをみるにつけわが国でも参考とすべき点が多い。

 なお、関係者の略歴、写真、関係URLとのリンクは筆者の責任で行った。いずれも高学歴かつ政治面の専門性や経営実務経験を有していること等、注目される点も多い。

1.2017 1 17 日、連邦憲法裁判所は、極右政党 NPD(国民民主党)について違憲性を認めたが、違憲に当たる目的を達成するほどの勢力を確認できないとして、政党禁止としなかった

  外国の立法 (2017.4) 国立国会図書館調査及び立法考査局)から以下、抜粋する。

今回の判決において、連邦憲法裁判所は、NPD のコンセプトは「自由で民主的な基本秩序」の排除を目指すとし、その違憲性を確認した。しかし、同時に、新たな政党禁止の要件として、当該政党が違憲に当たる目標を実現する可能性があることの具体的な根拠がなければならないことを示した。連邦憲法裁判所は、以下のとおり、議会及び議会外における NPD の影響力を確認し、NPD が違憲に当たる目標を実現する可能性はないと判断した。

<議会における影響力>

・連邦議会に議席を有したことは一度もない。

・州議会については、ザクセン州において 2004~2014 年に、メクレンブルク・フォアポメルン州において 2006~2016 年に議席を有したが、現在は全く議席を有していない。

・欧州議会には、1 議席を有するのみである。

・自治体の議会においては、現在合わせて約 350 議席を有する。しかし、自治体の議席数が全部で 20 万以上であることを考慮すれば、取るに足らない。

連邦憲法裁判所は、NPD は、自治体の議会において若干の議席は有するものの、国民の政治的意思形成に一定の影響を与えるものではないとした。

<議会外における影響力>

・党員数が 1969 年の 28,000 人から 2014 年には 5,066 人に減少しており、現在の党員数ではその活動に大きな制約がある。

・ドイツ各地の極右暴力事件の多くは NPD の党員によるものでない。

連邦憲法裁判所は、自由な政治的意思形成が侵害されると感じるほどに、NPD が社会において不穏な空気を醸成しているという十分な根拠はなく、NPD の強迫行為や暴力行為に対しては、警察法や刑法により、個別に適切な対応を行わなければならないとした。

2.JURIST解説「ドイツの裁判所、国内諜報機関による極右政党の分類を支持」

 ネザーランド、フローニンゲン大学法学部( U. Groningen Faculty of Law, NL)ジュリ・ベルガー(Juri Berger)氏のレポート仮訳する。

 ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州ミュンスターの高等行政裁判所(Oberverwaltungsgerichts für das Land Nordrhein-Westfalen, Münster,)は5月14日、ドイツの国内諜報機関である連邦憲法擁護庁(Bundesamt für Verfassungsschutz:BfV)が極右政党「ドイツのための選択肢」(Alternative für Deutschland :AfD)とその青年組織「ドイツのための若い選択肢(Junge Alternative für Deutschland :JA)」を過激主義活動と疑ったのは正当であるとの判決を下した。(ノルトライン=ヴェストファーレン州ミュンスター高等行政裁判所プレスリリース)参照)

 同裁判所は、AfDがドイツ連邦基本法に反する自由民主主義秩序に反する目標を追求する可能性があるという十分な証拠があるため、連邦憲法擁護庁はAfDを監視する権利を保持すると判決を下した。しかし、第5上院議長は、憲法違反の疑いのある活動は過激主義活動を証明するものではないと述べた。

 裁判所は、AfDが移民の背景を持つドイツ国民の法的地位を低下させる取り組みを行っていたと疑うのは合理的であり、AfDが移民に対して差別的な目的を持っていたことを示す十分な証拠があると述べた。裁判所は、AfDがイスラム教徒と難民に対して軽蔑的な言葉をかなり使用していたと判断した

 さらに、同裁判所は、JAが移民の背景を持つドイツ国民をコミュニティの平等なメンバーとして認めないことを望んでいると疑うのは合理的であると述べた。また裁判所は、JAの政治思想はイスラム教徒の人間としての尊厳を無視することを目的としていると述べた。

 AfDを疑わしいケースとして分類した際にBfVが不適切に行動したことを示す証拠はないと述べたことに加えて、また裁判所は、分類が明確である限り、BfVには連邦憲法保護法に基づくケースの分類を国民に通知する権利があると指摘した。

 裁判所の判決を受けて、AfDの主要人物であるティノ・クルパラ(Tino Chrupalla)(注1)アリス・ヴァイデル(Alice Weidel)(注2)は、X(旧Twitter)に、裁判所の判決は手続き管理が不十分だったために可決されたと投稿した。彼らは、AfDはこの裁判所の決定に反対すると述べた。

Tino Chrupalla 氏

Alice Weidel 氏

 AfDは2017年に初めてドイツ連邦議会に入り、その年の選挙で3位になった。AfDは近年人気が高まっている。 5月4日、ドイツのオラフ・ショルツ首相と欧州連合の首脳らは、ドイツ国内の政治家に対する襲撃を非難した。ザクセン州社会民主党はAfDを襲撃の責任があると非難したが、AfDはメディアと政治体制による憎悪キャンペーンの被害者であると主張した。

 2024年1月20日、ドイツの114都市でAfDに対する大規模な抗議活動が行われた。デモはAfDの人気の高まりと、同党員が大量国外追放を議論したとの疑惑に反応したものだった。ドイツの政治家の中にはAfDを「民主主義への危険」とみなす者もおり、AfDを禁止する提案も以前からあった。

 5月13日、ドイツの連邦行政裁判所は、国内治安当局が極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を潜在的過激主義団体に分類し続け、監視下に置く権利を保持できるとの判決を下した。AfDは2021年以来、連邦憲法擁護庁(BfV)によって潜在的に過激な団体に分類されている。「裁判所は、AfDが特定の集団の人間としての尊厳や民主主義に反する目標を追求していることを示す十分な証拠があると判断する」と判事らは判決文に記した。「党の少なくとも一部が移民の背景を持つドイツ国民に二級の地位を与えたいと考えていると疑う根拠がある」と彼ら付け加えた。この判決は、AfDが移民と「非同化」ドイツ国民の大量送還を求める「再移民」計画に関する暴露を受けて最近反発に直面してから数カ月後に下された。連邦内務・コミュニティ(Bundesministerin des Innern und für Heimat)大臣ナンシー・フェーザー(Nancy Faeser)氏は最近の裁判所の判決について次のようにコメントした。「この判決は、私たちの民主主義が自らを守ることができることを示している。(中略)民主主義には、内部の脅威から身を守る手段がある」

Nancy Faeser氏

3.ドイツのハレ地方裁判所、ナチスのスローガンを使用した極右政治家に罰金

 ネザーランドのマーストリヒト大学法学部Maastricht U. Faculty of Law, NL)、マライカ・グラフェ(Malaika Grafe)氏(注3)レポートを以下、仮訳する。

 ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州ハレ地方裁判所は7月1日、ナチ党に関連するスローガンを公然と使用したとして、「ドイツのための選択肢(AfD)党」の有力メンバーであるチューリンゲン州議会(Thüringer Landtags)の議員ビョルン・ヘッケ(Björn  Höcke)(注4)1万6900ユーロ(約292万円)の罰金を科した。ヘッケ氏はX(旧Twitter)に罰金を科された旨の動画を投稿した。

 ドイツのメディア「中部ドイツ放送( Mitteldeutscher Rundfunk, MDR」は同裁判所での各審理につき詳細な内容と動画を紹介している。

Björn Höcke 氏

 2023年12月のAfDのイベントで、ヘッケ氏は「Alles für Deutschland(すべてはドイツのために)」というフレーズを使用した。このスローガンは、以前ナチ党の準軍事組織突撃隊(SA)が使用していたものであり。演説で、ヘッケ氏は「Alles für」というフレーズの最初の部分を話し、聴衆に「Deutschland」で終わらせるよう促した。

 ドイツ刑法第86a条(注5)では、違憲組織やテロ組織のシンボルの使用は、最高3年以下の自由刑または罰金に処せられる。これには、違憲と宣言された政党や組織のスローガンや挨拶などのシンボルを広めることが含まれる。国民社会主義ドイツ労働者党:ナチ党(Nationalsozialistische Deutsche Arbeiterpartei :NSDAP)と突撃隊(Sturmabteilung,:SA)や親衛隊(Schutzstaffel :SS)などのその関連グループは、ドイツ刑法第86条第1項第4号で違憲組織に分類されている。

 ヘッケ氏は、2021年の演説で同じスローガンを使用したとして、2024年4月12日ザクセン・アンハルト州のハレ地方裁判所のプレスリリースによるとビョルン・ヘッケ氏に対する第2回本訴訟がハレ地方裁判所で開始され、最終的に5月に1300ユーロ(225万円)の罰金を科せられていた。

今回の訴訟で、検察官はヘッケ氏に自由刑8ヶ月と2年間の公職禁止を求刑した。ヘッケ氏は現在、テューリンゲン州議会議員である。X(旧ツイッター)での声明で、ホッケ氏は判決は民主的な立憲国家に反し、司法の政治的動機に疑問を投げかけるものだと主張した。同氏の弁護団は、スローガンはSAに限ったものではない一般的なフレーズだと反論を主張した。

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(注1) ティノ・クルパラ(Tino Chrupalla)氏の教育とキャリア

1975年4月14日ヴァイスヴァッサー生まれ。既婚; 3人の子供。

1991 年中等学校卒業。 1991 年から 1994 年まで塗装とニス塗りの職業訓練を受ける。 2000 年から 2003 年にドレスデン工芸会議所のマスタースクールを卒業し、マスターペインターおよびワニス師として卒業。

2015年にAfDに参加。 2017年2月から2021年10月までゲルリッツ地区協会の地区会長。 2019年12月からAfDの連邦報道官。 2021年9月よりドイツ連邦議会AfD議員団議長、以前はドイツ連邦議会AfD議員団副議長。 2017年と2021年は第157選挙区(ゲルリッツ)の直接委任。 AfD中小企業フォーラムザクセン州のメンバー。 「連邦中小企業協会、ドイツ起業家協会」のアッパー・ルサティア政治諮問委員会のメンバー。

(注2) アリス・ヴァイデル(Alice Weidel)氏の教育とキャリア

1979年2月6日、ギュータースロー(Gütersloh)生まれ。子供2人。同性結婚(Lebenspartnerschaft)。高校を卒業;大学で経済学を学ぶ(経済学の卒業証書)。経営学を学ぶ(経営管理学の卒業証書)。経済学博士号(Dr.rer.pol.)取得。

大手金融会社の投資顧問および執行部にアナリストおよび副社長として勤務。食品業界で国際的に活動する企業グループの投資管理および新市場開発の責任者。中国を中心としたアジア、ヨーロッパ、アメリカでの数年の海外経験。スタートアップ企業の共同設立、コンサルティング、構築を行っている。

(注3) マライカ・グラフェ(Malaika Grafe)氏はマーストリヒト大学法学部欧州法ロースクール成績優秀な法学学士(LL.B. European Law Honours Student at Maastricht University)

(注4) ビョルン・ヘッケ(Björn Höcke)氏の教育とキャリア

1991年高校卒業

1991 - 1992 兵役

1992年~1998年 ボン、ギーセン、マールブルクで大学留学

1998年 第1回高等学校教員国家試験合格

2001年 第2回高等学校教員国家試験合格

2003 - 2005 大学院(Postgraduales Studium)で「学校経営」を学び、修士号 (M.A.) を取得

1999 - 2014 ヘッセン州のさまざまな学校で教員奉仕

2014 年よりチューリンゲン州議会(Thüringer Landtags)の議員

(注5)ドイツ刑法典第84条から第89条は,ドイツ基本法に違反するものとしてドイツ連邦憲法裁判所によって宣言された反民主主義的な組織(ナチスなど)の結成,結党,運動,宣伝等を禁止し,それらの違反行為に対する処罰を規定している。このうち,第86条は,反民主主義的宣伝活動を禁止し処罰する規定である。以下で仮訳する

第 86条 違憲組織およびテロ組織によるプロパガンダ資料の配布

§ 86  Verbreiten von Propagandamitteln verfassungswidriger und terroristischer Organisationen

第1項 ドイツ国内で次の宣伝資料を配布または公衆に提供し、またはドイツ国内または国外で配布するために作成、保管、輸入または輸出する者は、次の行為を行ったとみなす。

  1. 連邦憲法裁判所により違憲と宣言された政党、または最終決定によりそのような政党の代理組織であると判断された政党または組織の宣伝資料、
  2. 憲法秩序または国際理解の概念に反するとして最終決定により禁止された組織、または最終決定によりそのような禁止された組織の代理組織であると判断された組織の宣伝資料、
  3. 本法の管轄地域外にあり、第 1 項から第 4 項までに言及された政党または組織のいずれかの目的を積極的に追求している政府、組織または機関の宣伝資料。
  4. 内容が旧国家社会主義組織の活動を促進することを意図している場合は、3 年以下の自由刑または罰金の刑罰を科す。

(1) Wer Propagandamittel

1.einer vom Bundesverfassungsgericht für verfassungswidrig erklärten Partei oder einer Partei oder Vereinigung, von der unanfechtbar festgestellt ist, daß sie Ersatzorganisation einer solchen Partei ist,

2. einer Vereinigung, die unanfechtbar verboten ist, weil sie sich gegen die verfassungsmäßige Ordnung oder gegen den Gedanken der Völkerverständigung richtet, oder von der unanfechtbar festgestellt ist, daß sie Ersatzorganisation einer solchen verbotenen Vereinigung ist,

3.  einer Regierung, Vereinigung oder Einrichtung außerhalb des räumlichen Geltungsbereichs dieses Gesetzes, die für die Zwecke einer der in den Nummern 1 und 2 bezeichneten Parteien oder Vereinigungen tätig ist, oder

4. die nach ihrem Inhalt dazu bestimmt sind, Bestrebungen einer ehemaligen nationalsozialistischen Organisation fortzusetzen,

im Inland verbreitet oder der Öffentlichkeit zugänglich macht oder zur Verbreitung im Inland oder Ausland herstellt, vorrätig hält, einführt oder ausführt, wird mit Freiheitsstrafe bis zu drei Jahren oder mit Geldstrafe bestraft.

2 テロ対策を目的とした特定の個人および団体に対する特定の制限措置に関する規則 (EC) No 2580/2001 の第 2 条 (3) を実施し、実施規則 (EU) 2020/1128 (OJ L 43, 8.2.2021, p. 1) を廃止する 2021 年 2 月 5 日の欧州連合理事会実施規則 (EU) 2021/138 の付属書に個人、グループ、または団体として記載されている組織の宣伝資料をドイツ国内で配布または一般に公開し、またはドイツ国内または国外で配布するために作成、保管、輸入、または輸出する者は、同じ罰則を受ける。

(2) Ebenso wird bestraft, wer Propagandamittel einer Organisation, die im Anhang der Durchführungsverordnung (EU) 2021/138 des Rates vom 5. Februar 2021 zur Durchführung des Artikels 2 Absatz 3 der Verordnung (EG) Nr. 2580/2001 über spezifische, gegen bestimmte Personen und Organisationen gerichtete restriktive Maßnahmen zur Bekämpfung des Terrorismus und zur Aufhebung der Durchführungsverordnung (EU) 2020/1128 (ABl. L 43 vom 8.2.2021, S. 1) als juristische Person, Vereinigung oder Körperschaft aufgeführt ist, im Inland verbreitet oder der Öffentlichkeit zugänglich macht oder zur Verbreitung im Inland oder Ausland herstellt, vorrätig hält, einführt oder ausführt.

3 第1項 (1) の意味での宣伝資料とは、自由民主主義の基本秩序または国際理解の概念に反するコンテンツ (第 11 条第3 項) のみを指す。 (2)項の意味における宣伝資料とは、国家または国際組織の存在または安全に反し、またはドイツ連邦共和国の憲法原則に反する内容(第11条第3項)のみを指す。

(3) Propagandamittel im Sinne des Absatzes 1 ist nur ein solcher Inhalt (§ 11 Absatz 3), der gegen die freiheitliche demokratische Grundordnung oder den Gedanken der Völkerverständigung gerichtet ist. Propagandamittel im Sinne des Absatzes 2 ist nur ein solcher Inhalt (§ 11 Absatz 3), der gegen den Bestand oder die Sicherheit eines Staates oder einer internationalen Organisation oder gegen die Verfassungsgrundsätze der Bundesrepublik Deutschland gerichtet ist.

4 第1項および第2項は、当該行為が市民情報、違憲行為の防止、芸術または科学の促進、研究または教育、時事または歴史的出来事の報道、または類似の目的に役立つ場合には適用されない。

(4) Die Absätze 1 und 2 gelten nicht, wenn die Handlung der staatsbürgerlichen Aufklärung, der Abwehr verfassungswidriger Bestrebungen, der Kunst oder der Wissenschaft, der Forschung oder der Lehre, der Berichterstattung über Vorgänge des Zeitgeschehens oder der Geschichte oder ähnlichen Zwecken dient.

5 罪が軽い場合、裁判所は本規定に従って刑を免除することができる。

(5) Ist die Schuld gering, so kann das Gericht von einer Bestrafung nach dieser Vorschrift absehen.

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最高裁大法廷は旧優性保護法の下で不妊手術の強制は憲法第13条及び第14条第1項違反を理由に国に賠償命令を命じるとともに下級裁判所における改正前の民法の解釈巡る除斥期間の解釈を憲法違反と判示(その2完)

2024-07-09 08:42:20 | わが国の最高裁と違憲判決を巡る諸問題

(2)ここでカナダのケベック州民法典における消滅時効(Extinctive prescription)の定義を見ておく。

「時効は、行使されていない権利を消滅させる手段、または訴訟の不受理を主張する手段である。」(ケベック州民法典(CIVIL CODE OF QUÉBEC)第 2921 条)499頁以下を以下で、引用)

TITLE THREE

EXTINCTIVE PRESCRIPTION

2921. Extinctive prescription is a means of extinguishing a right owing to its non-use or of pleading a peremptory exception to an action.

2922. The period for extinctive prescription is 10 years, except as otherwise determined by law.

2923. Actions to enforce immovable real rights are prescribed by 10 years.
However, an action to retain or obtain possession of an immovable may be brought only within one year of the disturbance or dispossession.

2924. A right resulting from a judgment is prescribed by 10 years if it is not exercised.

2925. An action to enforce a personal right or movable real right is prescribed by three years, if the prescriptive period is not otherwise determined.

2926. Where the right of action arises from moral, bodily or material injury appearing progressively or tardily, the period runs from the day the injury appears for the first time.

2926.1. An action for damages for bodily injury resulting from an act which could constitute a criminal offence is prescribed by 10 years from the date the person who is a victim becomes aware that the injury suffered is attributable to that act. Nevertheless, such an action cannot be prescribed if the injury results from violent behaviour suffered during childhood, sexual violence or spousal violence. Conversion therapy, as
defined by section 1 of the Act to protect persons from conversion therapy provided to change their sexual orientation, gender identity or gender expression (chapter P-42.2), constitutes violent behaviour suffered during childhood within the meaning of this article.
However, an action against an heir, a legatee by particular title or a successor of the author of the act or against the liquidator of the author’s succession must, under pain of forfeiture, be instituted within three years after the author’s death, unless the defendant is sued for the defendant’s own fault or as a principal. Likewise,an action brought for injury suffered by the person who is a victim must, under pain of forfeiture, be instituted within three years after the death of the person who is a victim.

2927. The prescriptive period for an action in nullity of contract runs from the day the person invoking the cause of nullity becomes aware of such cause or, in the case of violence or fear, from the day it ceases.

2928. An application by a surviving spouse to have the compensatory allowance determined is prescribed by one year from the death of his spouse.

2929. An action for defamation is prescribed by one year from the day on which the defamed person learned of the defamation.

2930. Notwithstanding any provision to the contrary, where an action is based on the obligation to make  reparation for bodily injury caused to another, the requirement that notice be given prior to bringing the action or that the action be instituted within a period that is less than that provided for in this Book, cannot defeat a prescriptive period provided for in this Book.

2931. In the case of a contract of successive performance, prescription runs with respect to payments due,even though the parties continue to perform one or another of their obligations under the contract.

2932. The prescriptive period for an action to reduce an obligation that is performed successively runs
from the day the obligation becomes due, whether the obligation arises from a contract, the law or a judgment.

2933. No holder may be released by prescription from the prestation attached to his detention; however, its extent may be prescribed, as may the arrears.

カナダ民法典の消滅時効につき、ケベック州Lambert Avocats team弁護士サイトから抜粋、仮訳する)

 消滅時効は、民事責任の観点からあなたの権利を認めてもらう上で、我われにとって最も重要なものである。

 確かに、このタイプの消滅時効期間は、法律で定められた期限内に訴訟権を行使しないという単純な事実によって訴訟権を消滅させる効果がある。したがって、所定の期間が経過したら訴訟を起こすことを決定した場合、不受理の申し立てに反対する可能性がある。たとえば、時効が経過した後に訴訟を起こした場合、裁判所は、救済の可能性はあるものの、訴訟の権利は時効があるとみなされるため、それにアクセスできないことを認める場合がある。したがって、これらの期限を理解し、権利を行使するときに不愉快な思いをしないようにすることが重要である。

 一般的に、身体の完全性に対する権利などの個人的権利を主張する場合、期間は3年に短縮される。これは、精神的損害および物質的損害に関しても有効である。

 ただし、過失を犯してから数年後に損害が発生することもある。たとえば、ケベック州控訴裁判所で審理されたある事件では、土地測量士が土地の境界を定める際に誤りを犯した。しかし、損害が発生したのは契約終了後 7 年経ってからであった。その後、裁判所は、民事責任の場合、3 年間の時効期間は、過失、損害、因果関係という 3 つの必須要素が満たされた時点から始まるとの判決7/3(21)を下した。したがって、過失が行われた時点を考慮する必要はなく、具体的に損害が最初に生じた時点を考慮する必要があるとした。

 損害が徐々に進行する場合も、同じ原則が適用される。その場合は、損害が発生したとする名誉権(right to reputation)の主張に関しては、法律は、被害者が自分に対する名誉毀損を知った瞬間から 1 年間の期間を定めている。テレビ番組で放送された人種差別的発言を扱った控訴裁判所の判決では、発言の重大性に関わらず、期限は同じであると裁判所は指摘した。 

 受けた損害が刑事的に非難されるべき行為の結果である場合、議会は法的措置を取るためのより寛大な時間枠を設けている。したがって、被害者は、受けた犯罪行為と顕在化した損害との因果関係を知った瞬間から 10 年間、訴訟を起こすことができる。性的暴行行為によって引き起こされた損害の場合も、消滅期限はない

 また、民事訴訟における立証責任は刑事事件と同じではなく、民事裁判では前者が優先されることも考慮する必要がある。つまり、犯罪行為が実際に行われたことをしたがって,ある事実についてどちらが立証責任を負っているかは,訴訟において極めて重要な意味を持ち、蓋然性のバランス (balance of probabilities)によって証明するだけで済む。(注6)

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(注6)立証責任を簡単に定義づけるとすると,立証責任を負っている当事者が当該事実の存在または不存在について証明する負担を負っており,仮にその証明に失敗すれば,その事実の存在または不存在は認められないという不利益を被ることを指す。

証明の程度は,英国法下では,民事訴訟においては「balance of probabilities」(ちなみに,刑事訴訟では「beyond reasonable doubt」とされ,検察官がより重い立証責任を負っている)において判断されると言われ,50%以上あり得ると証明できれば,事実が認定されると説明されている。日本法も類似の観念を採用している。

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最高裁大法廷は旧優性保護法の下で不妊手術の強制は憲法第13条及び第14条第1項違反を理由に国に賠償命令を命じるとともに下級裁判所における改正前の民法の解釈巡る除斥期間の解釈を憲法違反と判示(その1)

2024-07-09 07:32:05 | わが国の最高裁と違憲判決を巡る諸問題

 令和6年(2024年)7月3日、最高裁判所大法廷(裁判長:戸倉三郎長官)は旧優性保護法(Eugenic Protection Law)の下で不妊手術を強制した(forced sterilisation)のは憲法第13条及び第14条第1項に明らかに違反するとして、国に賠償命令を命じるとともに、違法な旧法を放置してきた国会議員の責任を明確化し、さらに下級裁判所における改正前の民法の解釈巡る「除斥期間」(注1)の解釈を憲法違反と判示した。

 筆者は、この判決の意義を改めて内外メデイアの英字紹介レポートの解説を期待したが、JIJI.com、Nikkei Japan、Japan Timesなどいずれも一長一短な内容であった。また、併せてピッツバーグ大学ロースクールやBBCの英字ニュースを改めて読んでみたが、それらも同様であった。

 この判決については後日、専門家による詳細な解説が行われることは間違いないが、筆者なりに画期的な内容を持つ本判決の主要な論点整理を行う。

 なお、わが国民法の根拠法といえるドイツ民法第5章の消滅時効の規定の訳文(2015年3月)があり、原文を参照のうえ併せ引用した。

今回のブログは2回に分けて掲載する。

1.最高裁判決の重要ポイント

最高裁判所 戸倉三郎 長官

(1)最高裁判所は7月3日、即日判決文を公表した。判決文全文参照されたい。(裁判長裁判官 戸倉三郎 裁判官 深山卓也 裁判官 三浦 守 裁判官 草野耕一 裁判官 宇賀克也(注2) 裁判官 林 道晴 裁判官 岡村和美 裁判官 安浪亮介 裁判官 渡 惠理子 裁判官 岡 正晶 裁判官 堺 徹 裁判官 今崎幸彦 裁判官 尾島 明 裁判官 宮川美津子 裁判官 石兼公博)

 主文部を抜粋、以下で引用する。

1. 優生保護法中のいわゆる優生規定(同法3条1項1号から3号まで、10条及び13条2項)は、憲法13条及び14条1項に違反する。

2. 上記優生規定に係る国会議員の立法行為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける。(注3)

3. 不法行為によって発生した損害賠償請求権が民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条後段の除斥期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合には、裁判所は、除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されないと判断することができる。

4. 同条後段の除斥期間の主張をすることが信義則に反し権利の濫用として許されないとされた事例。

(2)今回の最高裁判決の対象となる5件の訴訟は札幌仙台東京大阪神戸の各地裁に起こされた。一審はいずれも除斥期間を適用し、原告の請求を棄却。二審はいずれも旧法を違憲とした上で、札幌、東京、大阪の3高裁4件が除斥期間の適用を制限して国に賠償を命じた一方で、仙台高裁は訴えを退けていた。

(この点、7月3日の読売新聞の1面記事はやや不正確)(下線部は筆者が引いた)

(3) 従来の最高裁(1989年)や下級審における除斥期間に関する最高裁判決の違憲判断の主文要旨を改めて整理する。

 除斥期間の適用について、①立法という国権行為が憲法上保障された権利を違法に侵害することが明白である場合は法律関係の安定という除斥期間の趣旨が妥当しない面があること、②長期間にわたり国家の政策として多数の障害のある者等を差別して不妊手術という重大な人権侵害を行った国の責任は極めて重大であること、③被害者らが損害賠償請求権を行使するのは極めて困難であったこと、④国会は、1996年に旧優生保護法を母体保護法へと改正した後、適切に立法裁量権を行使して速やかに補償の措置を講じることが強く期待されていたにもかかわらず、長期間にわたり補償の措置をとらなかった上、2019年4月に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)は国の損害賠償責任を前提とするものではなかったこと等を理由として、旧優生保護法による被害に除斥期間を適用することは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができないと判断したものである。(日本弁護士連合会サイト「旧優生保護法国賠訴訟の最高裁判所大法廷判決を受けて、被害の全面的回復及び一時金支給法の改正を求める会長声明」を抜粋)

(3) パン・ホー・リウ(Pan Ho Liu)氏 | 香港大学法学部、中国/香港Pan Ho Liu | HKU Faculty of Law, CN/HK

2024年7月4日ピッツバーグ大学ロースクールJURIST「日本の最高裁、強制不妊手術法は違憲と判断(Japan top court finds forced sterilisation law unconstitutional)」の仮訳の併記と筆者が一部追記

 日本の最高裁は、現在は1996年に廃止されている優生保護法(Eugenic Protection Law)が違憲であると判断し、強制不妊手術の被害者に賠償するよう日本政府に命じた。この判決は、東京、仙台、札幌、大阪の4高裁の判決に対する統一判決だった。判決の中で、日本の最高裁は、優生保護法とその後の手続きは「個人の尊厳と人格の尊重の理念に著しく反する」ため、日本国憲法第13条および第14条第1項に違反すると裁定した。

The Supreme Court of Japan ordered the Japanese government to compensate victims of forced sterilization after holding that the now-defunct Eugenic Protection Law was unconstitutional. The decision was a unified decision on five different appeals from Tokyo, Sendai, Sapporo, and Osaka. In its ruling, the Japanese Supreme Court held that the Eugenic Protection Law and its subsequent procedures were “significantly against the idea of respect for individual dignity and personality” and thus in violation of Article 13  and 14, paragraph 1 of the Japanese Constitution.

 最高裁は国が主張した賠償請求権の20年の時効(除斥期間)を批判し、時効は「正義と公平の理念」に反すると判断した。優生保護法を批判する下級裁判所の判決が多数あったにもかかわらず、時効により下級裁判所は賠償金の支払を命じ得なかった。

The Supreme Court also criticised a 20-year statute of limitations(extinctive prescription) on the right to bring compensation claims by ruling that the statute of limitations goes against “the idea of justice and fairness.” The statute of limitations prevented the lower courts from awarding compensation despite many lower court rulings criticising the Eugenic Protection Law.

 最高裁の判決に先立ち、全国優生保護法被害者弁護団の共同代表でもある被害者の弁護士、新里宏二氏は最高裁に対し「生存中の名誉回復と救済のため、迅速な判決を下してほしい」と訴えた。同弁護士は「手術で人間の尊厳が奪われた」ため「憲法違反と判断されるのは当然だ」と述べた。被害者の一人、80歳の北三郎(仮名)氏は「最後まで闘いたい。国に謝罪してほしいという思いを抱えたまま死にたくない」と断言した。

Prior to the Supreme Court’s judgment, a victim’s lawyer, Koji Niisato, who is also the co-chair of the National Eugenic Protection Law Victims’ Lawyers Group, called on the Supreme Court to make “a swift decision to be made in order to restore their honor and provide relief while they’re still alive.” The lawyer cited how “the surgery took away their human dignity” and thus “it’s only natural that it will be ruled a violation of the Constitution.” One of the victims, 80-year-old Kita Saburo, affirmed that “I want to fight to the end. I don’t want to die with the desire for the country to apologize.”

優生保護法は戦後の日本の人口爆発に対処するため1948年に制定された。この法律は、優生保護法第1条に概説されている「劣等な子孫の増加を防止する」ために、日本政府が遺伝性の身体的または精神的障害を持つ人々を不妊にするために優生保護法は戦後である1948年に制定され、1996年まで半世紀近くにわたって存続した。政府の報告によると、約25,000人が不妊手術を受け、そのうち16,500件の手術が同意なしに行われた。

The Eugenic Protection Law was enacted in 1948 to combat Japan's postwar population explosion. The law allowed the Japanese government to sterilize people with hereditary physical or mental disabilities in order to "prevent the increase of inferior offspring" as outlined in Article 1 of the Eugenic Protection Law, and remained in place for nearly half a century until 1996. According to government reports, approximately 25,000 people were sterilized, with 16,500 of those surgeries being performed without consent.

2019年、日本の国会は、旧優生保護法(最終更新:平成二十五年法律第八十四号1996年「母体保護法」(昭和二十三年法律第百五十六号)(注4)に改正・改称)に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給に関する法律を制定し、優生保護法に基づいて不妊手術を受けた被害者1人につき320万円の一時金を支給した。2019年の法律の前文で、国会は優生保護法の被害者とそもそもこの法律が可決されたことに対して「心からお詫び申し上げます」と述べた。

In 2019, the National Diet of Japan enacted the Law on the Payment of Lump Sum Payments To Those Who Have Undergone Eugenic Surgery, etc., Based on the Former Eugenic Protection Law, which offered a lump sum of 3.2 million Japanese yen to every sterilised victim of the Eugenic Protection Law. In the 2019 law’s preamble, the Diet offered “deepest and most sincere apologies.” to the victims of the Eugenic Protection Law and for the passage of the law in the first place.

(4)2024.7.3 BBC news の和訳「日本の最高裁、強制不妊手術は違憲と判断 」

 同記事の英文の原文は法律記事として必ずも正確な内容とは言えない。原文を見直し、追記するとともに英文読者宛て和英文を併記した。

 日本の最高裁判所は、7月3日、1950年代から1990年代にかけて1万6500人の障害者(知的障害、遺伝性の視覚・聴覚障害等)が強制的に不妊手術を受けた。廃止された優生保護法を憲法第13条および第14条第1項に違反すると裁定した。

On July 3, the Supreme Court of Japan ruled that the since-abolished Eugenic Protection Law, which forced 16,500 people with disabilities (such as intellectual disabilities and hereditary visual and hearing impairments) to be sterilized between the 1950s and 1990s, violated Articles 13 and 14, paragraph 1 of the Constitution.

 すなわち、最高裁は旧法でいう「障害者の出生を防止するという目的は、当時の社会的状況を勘案しての正当とは言えず、障害者を差別的に扱い、不妊手術によって生殖能力の喪失という重大な犠牲を強いた」として個人の尊厳や人格の尊重をうたう憲法第13条および法の下での平等を定めた憲法第14条第1項に違反すると判示した。

The Supreme Court ruled that the old law's "purpose of preventing the birth of disabled people could not be considered legitimate given the social situation at the time, and it discriminated against disabled people and forced them to make the grave sacrifice of losing their reproductive ability through sterilization," and that it violated Article 13 of the Constitution, which proclaims respect for the dignity and personality of the individual, and Article 14, Paragraph 1, which stipulates equality under the law.

 さらに、このような違法性が明白な法律を成立させたことは国家賠償上、違法であると判断した、国の責任は極めて重大であるとともに、国は1996年に旧優性保護法が廃止された後も不妊手術を適法であると主張、補償しなかったと批判した。訴訟が除斥期間経過後に起こされたということのみで国が賠償責任を逃れることは著しく正義・公平の理念に反するもので、国が除斥期間の適用を主張することは権利の濫用にあたると結論付けた。

Furthermore, the court ruled that passing such a clearly illegal law was illegal in terms of state compensation, and criticized the government for its extremely grave responsibility, insisting that sterilization was legal and failing to provide compensation even after the old Dominant Sex Protection Law was abolished in 1996. The court concluded that for the state to avoid liability for compensation simply because the lawsuit was filed after the statute of limitations had passed is a gross violation of the principles of justice and fairness, and that the state's insistence on the application of the statute of limitations is an abuse of rights.

 また、最高裁判所は2022年から2023年の間、札幌、仙台、東京、大阪高裁で言い渡された計5件の訴訟に関与した11人の被害者に損害賠償を支払うよう政府に命じた。

The Supreme Court also ordered the government to pay damages to 11 victims, who were involved in five cases that were heard on appeal.

 今回の7月3日の画期的な最高裁判決は、補償と謝罪を求めてきた被害者による数十年にわたる正義・公平を求める闘いに終止符を打つものとなった。

The landmark Supreme Court ruling on July 3rd brings to an end a decades-long fight for justice and fairness by victims who have sought compensation and an apology.

 長年のこれら訴訟の後、2019年4月の法律により生存する被害者に1人当たり320万円の一時金による損害賠償が認められたが、一部の被害者はより高い補償額を求めて闘い続けていた。最高裁判所に持ち込まれた4件の訴訟では、高裁が命じた賠償額1650万円を不服として国が上告していた。5件目の訴訟では、2人の女性原告が、下級裁判所が時効を理由に請求棄却したことに対し不服として控訴していた。

After years of litigation, an April 2019 law awarded surviving victims a lump sum of 3.2 million yen each, but some victims continued to fight for higher compensation. In four cases that reached the Supreme Court, the state had appealed against a high court's award of 16.5 million yen in compensation. In the fifth case, two female plaintiffs had appealed a lower court's dismissal of their claims on statute of limitations grounds.

 1948年に制定された第2次世界大戦後の法律に基づき、約2万5000人が、遺伝性の障害を持つ人々を中心に、「劣等」とみなされる子供を産まないように手術を受けた。日本政府は、不妊手術のうち1万6500件が同意なしに行われたことを認めた。

Under a post-World War Two law enacted in 1948, some 25,000 people - many of whom had inheritable disabilities - underwent surgeries to prevent them from having children deemed "inferior".

Japan's government acknowledged that 16,500 of the sterilisation operations were performed without consent.

 当局は、残りの8500人は手術に同意したと主張しているが、弁護士らは、当時彼らが直面した圧力により、手術を「事実上強制された」と述べている。

Although authorities claim the 8,500 other people consented to the procedures, lawyers have said they were "de facto forced" into surgery because of the pressure they faced at the time.

 2023年6月19日に発表された国会あて報告書(注5)によると、一部被害者はわずか9歳だった。

Victims were as young as nine years old, according to a parliamentary report published in June last year.

この法律は1996年に廃止された。

The law was repealed in 1996.

2.2020年4月1日の改正民法施行と除斥期間の問題点

 改正民法では、不法行為による損害賠償請求権(慰謝料請求権)の除斥期間はなくなり、消滅時効に統一された。

具体的には、その損害及び加害者を知ったときから5年、または、その不法行為の時から20年の時効期間である。

 「不法行為の時から二十年間行使しないとき。」も、改正民法では時効期間で統一された(改正民法724条2号)。旧法民法724条では、「除斥期間」(除斥期間は、一定の時間の経過により権利が消滅するという点で消滅時効と似ているが、以下の点で異なる。

 ①中断・停止(改正民法では完成猶予・更新)の制度がないこと。

 ②当事者が援用しなくても権利消滅の効果が発生すること。

 ③起算点が権利の発生時点であること。

 ④効果が遡及しないこと。

と解釈されていたので、不法行為時から20年経つと問答無用で権利が消えてしまった。(1989年最高裁は判例として「除斥期間」を定着させていた)

これに対し、2020年4月1日施行の改正民法では、20年の時効期間内に、時効の更新や完成猶予(旧法でいう「中断」や「停止」)もありうることになり、権利行使の機会をより確保できることとなった。

 (不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)

724(改正前民法) 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

改正民法724

不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

1 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。

2 不法行為の時から20年間行使しないとき。

改正民法724条の2

人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。

3.消滅時効に関するドイツやカナダの民法規定の概観

(1)わが国の民法は言うまでもなくドイツ民法の総則を引用している。参考までドイツ法務消費者保護省サイトのドイツ民法・消滅時効の関係条文の訳文(2015年3月国立国会図書館調査及び立法考査局 山口 和人 (専門調査員 行政法務調査室主任)「基本情報シリーズ⑲ドイツ民法Ⅰ (総則)を抜粋、引用する。(青字は筆者の追記部)

ドイツ民法 5 章 消滅時効

第 5 章 消滅時効

第 1 節 消滅時効の対象及び期間

194  消滅時効の対象

⑴ 他人に対してある行為をすること、又はしないことを求める権利(請求権)は、消滅時効[Verjährung]に服する。

ただし、次の場合は消滅時効に服さない

  1. 時効の対象とならない犯罪から生じる請求権(筆者がドイツ民法に基づき追加)

2.家族関係から生じる請求権は、それが将来に向けて家族関係に応じた状態の創設又は血族関係の解明のための遺伝学上の調査に対する同意に向けられている限りにおいて消滅時効に服さない。

195  通常の消滅時効期間(Regelmäßige Verjährungsfrist)

通常の消滅時効期間は、3 年とする。

196 条 土地に関する権利の消滅時効期間(Verjährungsfrist bei Rechten an einem Grundstück)

土地に関する所有権の移転及び土地に関する権利の設定、移転若しくは取消し又はこれらの権利の内容の変更に対する請求権並びに反対給付に対する請求権は、10 年で消滅時効が完成する。

197  30 年の消滅時効期間(Dreißigjährige Verjährungsfrist)

⑴ 次に掲げる請求権は、別段の定めがない限り、30 年で消滅時効が完成する。

  1. 故意による生命、身体、健康、自由又は性的自己決定の侵害に基づく損害賠償請求権
  2. 所有権その他の物権、第 2018 条、第 2130 条及び第 2362 条の規定に基づく引渡請求権並びに引渡請求権の主張に資する請求権
  3. 確定判決をもって確認された請求権
  4. 執行可能な和解又は執行可能な証書に基づく請求権
  5. 破産手続において行われた確定により執行可能となった請求権
  6. 強制執行の費用の償還に対する請求権

⑵ 前項第 3 号から第 5 号までの請求権が、将来弁済期が到来する規則的に反復される給付を内容としているときは、30 年の消滅時効期間に代えて通常の消滅時効期間を適用する。

198  権利承継者の場合の消滅時効(Verjährung bei Rechtsnachfolge)

物上請求権の対象となっている物が、権利の承継により第三者の占有に帰したときは、前権利者の占有期間に経過した消滅時効期間は、権利の承継者のために効力を有する。

199  通常の消滅時効期間の始期(Beginn der regelmäßigen Verjährungsfrist und Verjährungshöchstfristen)

⑴ 通常の消滅時効期間は、別段の始期が定められていない限り、次に掲げることがいずれも生じた時が属する年の終了とともに開始する。

  1. 請求権が成立したこと。
  2. 債権者が請求権の根拠となる事情及び債務者が誰であるかについて知っていたか又は重大な過失なく知りうべきであったこと。

⑵ 生命、身体、健康又は自由の侵害に基づく損害賠償請求権は、請求権の成立及びそのことに関する知又は重大な過失による不知にかかわらず、犯行、義務違反又は損害を生じさせたその他の事象から 30 年で消滅時効が完成する。

⑶ その他の損害賠償請求権は、次に掲げる期間の満了により消滅時効が完成する。

  1. 知識又は重大な過失による不知にかかわらず、請求権の成立の時から 10 年
  2. 請求権の成立及びそのことに関する知又は重大な過失による不知にかかわらず、犯行、義務違反又は損害を生じさせたその他の事象から 30 年

消滅時効の完成には、先に満了した期間を基準とする。

(3a) 相続開始に基づくか、又はその主張が死因処分を知ることを要件とする請求権は、知又は重大な過失による不知にかかわらず、請求権の成立から 30 年で消滅時効が完成する。

⑷ 第 2 項から前項までに規定する請求権以外の請求権は、知識又は重大な過失による不知にかかわらず、請求権の成立の時から 10 年で消滅時効が完成する。

⑸ 請求権が不作為に対するものであるときは、違反行為をもって請求権の成立に代える。

200  その他の消滅時効期間の始期(Beginn anderer Verjährungsfristen)

通常の消滅時効期間に服さない請求権の消滅時効期間は、別段の消滅時効期間の始期の定めがない限り、請求権の成立とともに開始する。前条第 5 項の規定は、この条に準用する。

201  確定した請求権の消滅時効期間の始期(Beginn der Verjährungsfrist von festgestellten Ansprüchen)

第 197 条第 1 項第 3 号から第 6 号に掲げる種類の請求権の消滅時効は、裁判の確定力(Rechtskraft der Entscheidung)、執行名義の作成(Errichtung des vollstreckbaren Titels)又は破産手続における確定とともに開始するが、請求権の成立前には開始しない。第 199 条第 5 項が適宜適用される。(筆者がドイツ民法に基づき追加))

202  消滅時効に関する合意の不許容(Unzulässigkeit von Vereinbarungen über die Verjährung)

⑴ 消滅時効は、故意による責任の場合に、法律行為により、あらかじめその完成をより容易にすることはできない。

⑵ 消滅時効は、法律行為により、法律上の消滅時効開始から 30 年の消滅時効期間を超えて、その完成をより困難にすることはできない。

2 節 消滅時効の停止、消滅時効完成の阻止及び消滅時効の新たな開始(Hemmung, Ablaufhemmung und Neubeginn der Verjährung)

  203  交渉の場合の消滅時効の停止(Hemmung der Verjährung bei Verhandlungen)

債務者と債権者との間で、請求権又はその根拠となる事情についての交渉が未確定であるときは、一方又は他方の当事者が交渉の継続を拒絶するまで、消滅時効は停止する。消滅時効は、最も早い場合で、停止の終了の 3 月後に完成する。

204  権利追求による消滅時効の停止(Hemmung der Verjährung durch Rechtsverfolgung)

⑴ 消滅時効は、次に掲げる行為により停止する。

  1. 給付の訴え(Klage auf Leistung)、請求権の確認の訴え(auf Feststellung des Anspruchs)又は執行文付与の判決(Vollstreckungsurteils,)を求める訴えの提起

       1a.(削除)

  1. 未成年者の扶養に関する簡易手続における申立ての送達
  2. 督促手続における督促通知、又は欧州の督促手続導入に関する 2006 年 12 月 12 日の欧州議会及び理事会の規則(EC)1896/2006 号による欧州督促手続における支払命令の送達
  3. 州の法務行政機関により設置され若しくは承認された調停所に対する調停申立ての公示の指示、又は各当事者が、合意の試みを一致して行っているときは、紛争解決を行うその他の調停所に対する調停申立ての公示の指示。申立て後まもなく公示がなされたときは、消滅時効の停止は、申立て提起時に開始する。
  4. 訴訟における請求権の相殺の主張
  5. 訴訟告知の送達

  6a. モデル手続

  係が請求権の基礎となっている限りにおいて、モデル手続において規定されている請求権のためこの手続を利用する

  旨の申出の送達であって、モデル手続の確定判決による終結後 3 月以内に申出において掲げられた請求権の給付の訴

  え又は確認の訴えが提起されたとき。

  1. 独立した証明手続実施の申立ての送達
  2. 合意された鑑定手続の開始(Beginn eines vereinbarten Begutachtungsverfahrens,)
  3. 仮差押命令(Erlass eines Arrests)、仮処分若しくは仮命令の申立て(einstweiligen Verfügung oder einer einstweiligen Anordnung)の送達、又は、申立てが送達されない場合における、申立ての提起であって、仮差押命令、仮処分若しくは仮命令が債権者に対する言渡し若しくは送達から 1 月以内に債務者に送達されたとき。
  4. 破産手続(Insolvenzverfahren)又は水路法上の分配における請求権の申出(die Anmeldung des Anspruchs im Insolvenzverfahren oder im Schifffahrtsrechtlichen Verteilungsverfahren)仲裁裁判手続の開始(den Beginn des schiedsrichterlichen Verfahrens,)
  1. 訴えの許容性が官庁の事前の決定に依存しているときの、官庁に対する申立ての提起であって、申請処理後 3 月以内に訴えが提起されること。この規定は、裁判所又は第 4 号にいう調停所に提起されるべき申立てであってその許容性がある官庁の事前の決定に依存しているときに準用する。
  2. 上級裁判所が管轄裁判所を決定すべき場合における上級裁判所に対する申立てであって、申請の処理後 3 月以内に訴えが提起され、又はこれに対して裁判所の管轄の決定を下さなければならない申立てが提起されたとき。
  3. 訴訟費用扶助又は手続費用扶助の最初の申立ての公示の指示。申立て後まもなく公示が行われたときは、消滅時効の停止は、申立て提起時に開始する。

⑵ 前項の規定による消滅時効の停止は、確定力ある裁判又は実施された手続のその他の終結の 6 月後に終了する。手続が、当事者がこれを行わないことにより停止に至ったときは、当事者、裁判所又はその他手続に関与した機関の最後の手続行為をもって手続の終結に代える。当事者の一方が、手続を更に行ったときは、新たに消滅時効の停止が開始する。

⑶ 第 1 項第 6a 号、第 9 号、第 12 号及び第 13 号には、第 206 条、第 210 条及び第 211 条の規定を準用する。

205  給付拒絶権の場合の消滅時効の停止

債務者が債権者との合意に基づき、一時的に給付を拒絶する権利を有する間は、消滅時効は停止する。

206  不可抗力の場合の消滅時効の停止(Hemmung der Verjährung bei höherer Gewalt)

債権者が、消滅時効期間の最後の 6 月以内の期間に、不可抗力により権利の追求を妨げられているときは、消滅時効は停止する。

208  性的自己決定の侵害による請求権の場合の消滅時効の停止(Hemmung der Verjährung bei Ansprüchen wegen Verletzung der sexuellen Selbstbestimmung)

性的自己決定の侵害による請求権の消滅時効は、債権者が満 21 歳になるまで停止する。性的自己決定の侵害による請求権の債権者が、消滅時効の開始時に債務者と家内共同体において生活しているときも、消滅時効は、家内共同体の終了まで停止する。

209  停止の効力(Wirkung der Hemmung)

消滅時効が停止している期間は、消滅時効期間に算入しない。

210 条 完全行為能力者でない者の場合の消滅時効完成の停止(Ablaufhemmung bei nicht voll Geschäftsfähigen)

⑴ 行為無能力者又は制限行為能力者が、法定代理人を有しないときは、その者のために又はその者に対して進行する消滅時効は、その者が無制限の行為能力者となり又は代理の不在が除去された時点の後 6 月間の満了前には完成しない。

⑵ 前項の規定は、行為能力を制限された者が、訴訟能力を有するときは、適用しない。

211  相続財産の場合における消滅時効完成の停止

遺産に属する請求権又は遺産に対する請求権の消滅時効は、相続が相続人により承認された時点、遺産に関する破産手続が開始された時点、又は、請求権を代理人により若しくは代理人に対して行使することができる時点の後 6 月間の満了前には、完成しない。消滅時効期間が 6月に満たないときは、消滅時効のために定められた期間をもって 6 月間に代える。

212  消滅時効の新たな開始(Neubeginn der Verjährung)

⑴ 消滅時効は、次に掲げるいずれかの場合に新たに開始する。

  1. 債務者が、債権者に対し、一部弁済(Abschlagszahlung)、利息の支払(Zinszahlung)、担保の提供(Sicherheitsleistung)又はその他の方法で請求権を承認したとき。
  2. 裁判所又は官庁により強制執行が行われ、又はその申立てがなされたとき。

⑵ 強制執行による消滅時効の新たな開始は、強制執行が、債権者の申立てにより又は法律上の要件の欠如のため取り消されたときは、なかったものとみなす。

⑶ 強制執行の実施の申立てによる消滅時効の新たな開始は、第2項に従って申立てが許容されないとき、申立てが強制執行の場合に取り下げられたとき、又は実行された強制執行が、前項の規定により取り消されたときは、なかったものとみなす。

213  他の請求権の場合の消滅時効の停止、完成の停止及び新たな開始(Hemmung, Ablaufhemmung und erneuter Beginn der Verjährung bei anderen Ansprüchen)

消滅時効の停止、消滅時効完成の停止及び消滅時効の新たな開始は、同じ原因から選択的に請求権と並び又はこれに代えて存在する請求権についても適用する。

3 節 消滅時効の法的効果(Rechtsfolgen der Verjährung)

214 条 消滅時効の効力

⑴ 消滅時効の完成後は、債務者は、給付を拒絶する権利を有する。

⑵ 消滅時効の完成した請求権の満足のため給付した物は、消滅時効の完成を知らずに給付したときであっても、その返還を請求することはできない。債務者による契約に従った承認又は担保の提供についても同様とする。

215  消滅時効完成後の相殺(Aufrechnung)及び留置権(Zurückbehaltungsrecht)

請求権が最初の相殺の時点又は給付が拒絶された時点で消滅時効が完成していなかったときは、相殺又は留置権の行使を妨げない。

216  担保付請求権の場合の消滅時効の効力(Wirkung der Verjährung bei gesicherten Ansprüchen)

⑴ 抵当権、船舶抵当権又は質権が存在する請求権の消滅時効は、債権者が、担保権が設定された対象から請求権の満足を得ようとすることを妨げない。

⑵ 請求権の担保のため、ある権利が創出されたときは、請求権の消滅時効を理由として返還を請求することはできない。所有権が留保された場合において、担保された請求権について消滅時効が完成したときであっても、契約を解除することができる。

⑶ 前 2 項の規定は、利息請求権その他の反復される給付に対する請求権の消滅時効には適用しない。

217  従たる給付の消滅時効(Verjährung von Nebenleistungen)

主たる請求権とともに、これに依存する付随的給付も、その請求権に適用される特別の消滅時効が未だ完成していないときであっても、消滅時効が完成する。

218 条 解除の無効(Unwirksamkeit des Rücktritts)

⑴ 給付が行われないこと又は契約に従って行われないことを理由とする解除は、給付に対する請求権又は履行の追完に対する請求権に消滅時効が完成しており、かつ、債務者がこれを援用したときは、効力を有しない。債務者が、第 275 条第 1 項から第 3 項、第 439 条第 3 項又は第 635 条第 3 項の規定により、給付を行う必要がなく、給付に対する請求権又は履行の追完に対する請求権について消滅時効が完成していたこととなるときも同様である。この項の規定は、第 216 条第 2 項第 2 文の規定の適用を妨げない。

⑵ 第 214 条第 2 項の規定は、前項の場合に準用する。

第 219 条から第 225 条まで(削除)

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(注1)「除斥期間」の英訳ははたしてどうか。消滅時効であれば“extinctive prescription”であろう。

ちなみに、わが国民法の英訳例(法務省)で第724条を見ておく。

(Extinctive Prescription of Claim for Compensation for Loss or Damage Caused by Tort)

Article 724:

In the following cases, the claim for compensation for loss or damage caused by tort is extinguished by prescription:

(i)the right is not exercised within three years from the time when the victim or legal representative thereof comes to know the damage and the identity of the perpetrator; or

(ii)the right is not exercised within 20 years from the time of the tortious act.

(注2) 裁判官 宇賀克也氏の意見は、次のとおりである。反対意見や小数意見ではない。

1 私は、本件規定が憲法13条及び14条1項の規定に違反すると解する点、改正前民法724条後段について、期間の経過により請求権が消滅したと判断するには当事者の主張がなければならないと解すべきであり、また、その主張が信義則に反し又は権利濫用として許されない場合があり、本件はまさにかかる場合に当たるので平成元年判決等を変更すべきとする点については、多数意見に賛成である。

(注3) 国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)第1条第1項

第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

(注4) 「母体保護法(Maternal Health Act)」は、母性の生命健康を保護することを目的とし、不妊手術と人工妊娠中絶について定める。平成8年(1996年)に、優生保護法から、優生思想に基づく規定が削除され、名称が改められた。旧優生保護法は、「不良な子孫の出生を防止する」ことを1つの目的とし、本人、配偶者または4親等内の血族が遺伝性疾患やハンセン病等の場合に、不妊手術と人工妊娠中絶を認めていた。不妊手術は優生手術と呼ばれ、遺伝性疾患等の遺伝を防止するために優生手術が公益上必要であると優生保護審査会が決定したときには、本人の同意なしに不妊手術を強制できるものとしていた。同法に基づいて、1万6,000件以上の強制不妊手術が行われた。

(注5) 令和5年6月19日(月)、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律第21条に基づく調査報告書」が、衆参両院の議長に提出されました。本調査報告書は、平成31年4月に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」第21条の規定に基づく調査報告書として衆議院及び参議院が共同して取りまとめたもので、第1編「旧優生保護法の立法過程」、第2編「優生手術の実施状況等」、第3編「諸外国における優生学・優生運動の歴史と断種等施策」の3編構成となっています。

国立国会図書館では、衆参両院の厚生労働委員長からの協力要請に基づき、調査及び立法考査局社会労働調査室課が中心となり、主に第3編「諸外国における優生学・優生運動の歴史と断種等施策」の原案を作成しました(国立国会図書館「旧優生保護法一時金支給法第21条に基づく調査報告書」から抜粋、引用)

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児童のプライバシー保護強化にかかるコロラド州「2021年コロラド州プライバシー法(CPA)」の改正法案SB 41とそのモデル法たるコネチカット州立法SB 3の概要

2024-05-19 14:40:30 | 個人情報保護法制

 筆者は個人情報保護法とりわけ児童の保護強化に関する米国州や英国の立法の実態をブログで紹介してきた。具体的には米国の州については、2024.4.2 ブログ「フロリダ州、オハイオ州およびウタ州等の未成年者のソーシャル・ メディア・ プラットフォーム利用にかかる厳格な規制州法立法とそれらを巡る憲法違反裁判等の最新動向」、英国については2024.4.6 ブログ「英国の個人情報保護機関である英国情報コミッショナーはSNS等オンライン利用にかかる子供のプライバシー保護強化のための具体的施策に関し2024 年から 2025 年の優先事項「児童規範戦略」 を発表」で取り上げた。 

 今回のブログは、コロラド州「2021年コロラド州プライバシー法(CPA)」の改正法案SB 41を可決した情報をローファーム(Husch Blackwell LLP)の解説記事および同州議会の法案上程者の解説を概観する。なお、Husch Blackwell LLP)解説が取り上げているとおり、法案 SB41”はコネチカット州の立法をモデルにしていることから、あえて今回のブログでは20236月に署名されたコネチカット州のSB 3についても併せ解説を試みる。

Ⅰ.コロラド州の児童データプライバシー法案(SB41)

1コロラド州議会が児童データプライバシー法案を可決を仮訳

著者はHusch Blackwell LLPのassociate (注1)弁護士Shelby E..Dolen(シャビー・.Eドーレン)氏である。

Shelby E.Dolen 氏

 5月8日の州議会閉会に先立って、コロラド州議会は児童のデータプライバシーの保護を追加する「2021年コロラド州包括プライバシー法(CPA)」の一部改正法案SB 41を可決した。 コロラド州知事ジャレッド・ポリスの署名が成立すれば、2025101日に発効することになる。この法案は、未成年者(18歳未満)にオンラインサービス、製品、機能を提供する事業体に新たな義務を課すことになる。 この法案は、2023年6月に署名されたコネチカット州のSB 3をモデルとしている。

 以下の記事では、SB 41 に基づく義務の概要と、SB 41 (注2)とコネチカット州の SB 3 の主な違いについて説明する。

(1) 広い法適用性

 この法案の要件は、CPA が現在カバーしているよりも多くの企業に適用される。これは、収益と処理基準額の要件が同じではないためである。 CPA に基づく子供のプライバシーに関する規定は、未成年者 (18 歳未満) であることを実際に知っているかについては意図的に無視しているオンライン サービス、製品、または機能を提供するあらゆる事業体に適用される。

(2) 管理者の義務

(A)注意義務

 管理者(controller)が未成年者であることを実際に知っている、または故意に無視している消費者にオンラインサービス、製品、または機能を提供する管理者は、オンラインサービス、製品または機能によって引き起こされる未成年者への危害のリスクの増大を回避するために合理的な注意を払う全体的な義務がある。法律に基づく「危害のリスクの高まり」とは、以下のような合理的に予見可能なリスクをもたらす方法で未成年者の個人データを処理することを意味する。

     ①未成年者に対する不当または欺瞞的な扱い、または不平等・差別的影響(disparate impact)

     ②未成年者に対する経済的、身体的、または風評被害

     ③セキュリティ侵害による未成年者の個人データの不正開示(unauthorized disclosure)

     ④未成年者の孤独や隔離、あるいは私的な事柄や関心事に対する身体的またはその他の侵害(その侵害が良識ある人にとって不快な場合)

(B) 禁止行為

 管理者(controller)は、以下の目的で未成年者の個人データを処理するには、未成年者の同意、または13 歳未満未成年者の場合は未成年者の親または法的保護者の同意を取得する必要がある。

  a.特定の処理: (i) ターゲットを絞った広告の目的。 (ii) 個人データの販売。 または (iii) 消費者に関して法的または同様に重大な影響をもたらす決定を促進するためのプロファイリング。

   b.処理の目的: 収集時に開示された処理目的以外の処理目的、または開示された処理目的に合理的に必要であり、開示された処理目的と互換性のある処理目的。

 c.合理的に必要な事項: オンライン サービス、製品、または機能を提供するために合理的に必要な時間を超えて処理するため。

 d.地理位置情報データ: 以下の場合を除き、正確な地理位置情報データを収集する。(i) 管理者がオンライン サービス、製品、または機能を提供するために正確な地理位置情報データが合理的に必要である。 (ii) 管理者は、オンライン サービス、製品、または機能を提供するために必要な期間のみ、正確な地理位置情報データを収集および保持する。 (iii) 管理者は、管理者が正確な地理位置情報データを収集していることを示す信号を未成年者に提供し、その信号は収集期間中常に未成年者に利用可能であること。

 e.大幅な延長使用: 未成年者によるオンライン サービス製品または機能の使用を大幅に増加、維持、または延長するためのシステム設計機能の使用する場合。

 さらに、未成年者にオンライン サービス、製品、または機能を提供する管理者は、未成年者が使用できるいかなる種類のダイレクト・ メッセージング装置も、未成年者に接続されていない、未成年者に一方的な通信を送信することで、未成年者である成人の能力を制限するアクセス可能で使いやすい保護手段を提供することなく利用提供してはならない。 この制限は、メッセージが送信者と受信者のみに表示され、公開されない電子メールまたはダイレクト・ メッセージングの主要な機能または排他的な機能を備えたオンライン サービス、製品、または機能には適用されない。

(3)データ保護の影響評価(Data Protection Assessments)

 他の州のプライバシー保護法で見てきたように、SB 41 に基づき管理者は、未成年者に危害を及ぼすリスクが高まるオンラインサービス、製品、または機能についてのデータ保護影響評価を準備する必要がある。 影響評価では以下に対処する必要がある。

   a.処理される個人データのカテゴリー

    b.処理目的

    c.合理的に予見可能な危害のリスクの増大

 管理者が別の適用法に準拠するためにデータ保護影響評価を実施する場合、評価の範囲が同様であれば、その評価は SB 41 に基づく要件を満たすことになる。州司法長官は、遵守状況を評価するために管理者のデータ保護影響評価を要求する権利を有する。 データ保護影響評価要件は、2025 年 10 月 1 日以降に作成または生成された処理アクティビティにのみ適用され、遡及的なものではない。

コロラド州法対コネチカット州法の比較

【地理位置情報データの取扱い上の違い】

 SB 41 には、正確な地理位置情報データ要件に基づく興味深い例外が含まれている。 この法案では、管理者が未成年者の正確な地理位置情報データを収集していることを示す信号を提供するという要件は、スキー場の運営者によって、またはその指示の下で使用されるサービスやアプリケーションには適用されないと規定されている。これはコロラド州特有の免除規定であり、明らかに大規模な州産業を考慮したものである。

【反駁可能な推定と強制力】

 全体として、司法長官または地方検事が提起するいかなる法執行措置においても、管理者が上記の義務を遵守した場合には、管理者が合理的な注意を払ったという反駁可能な推定が存在する。

 2026 年 12 月 31 日まで、企業は司法長官または地方検事からの通知後、違反を是正するために 60 日の猶予が与えられる。 2026 年 12 月 31 日以降は、管理者等は法違反を治癒する権利は失効する。

 2.コロラド州議会の未成年者のオンライン活動に対するデータ保護の追加改正法案(SB24-41)につき上程者の解説

 解説SB24-041仮訳する。なお、前述のShelby E..Dolen氏のblog内容と重複する部分が多いがあえて記載する。

【法案の概要】

(1)この法案は2021年「コロラド州プライバシー法」を改正し、未成年者のデータが処理され、未成年者に害を及ぼすリスクが高まった場合の保護を強化するものである。この法案は、その活動から得られる収益の量や額に関係なく、消費者の個人データを管理し(管理者)、コロラド州で事業を行うか、コロラド州住民を対象とした製品やサービスを提供するあらゆる事業体に適用される。

(2) 管理者が未成年者であることを知っている、または意図的に無視している消費者にオンライン サービス、製品、または機能を提供する管理者は、次のことを行う必要がある。

(3)サービス、製品、または機能によって未成年者に危害が及ぶリスクが高まることを避けるために、合理的な注意を払う。

 また未成年者に害を及ぼすリスクが高まる場合は、サービス、製品、または機能のデータ保護評価を実施および必要に応じて確認し、評価に関する文書を指定期間保管すべきである。

(4)未成年者、または 13 歳未満の未成年者の場合は未成年者の親または法的保護者の同意がない限り、管理者は未成年者の以下のとおり個人データを処理することを禁止される。

①ターゲットを絞った広告、未成年者の個人データの販売、または未成年者の個人データのプロファイリングのため。

②未成年者の個人データの収集時に開示された目的、または開示された処理目的に合理的に必要な目的以外の処理目的のため。 または

③サービス、製品、または機能を提供するために合理的に必要な期間を超えて行うこと。

(5)管理者は次のことも禁止される。

①システム設計機能を使用して、未成年によるサービス、製品、または機能の使用を大幅に増加、維持、または延長する。 または

②特定の状況を除き、未成年者の正確な地理位置情報を収集する。

(6)司法長官と地方検事は、管理者に違反を通知し、管理者に違反を是正する時間を与えるなど、「コロラド州プライバシー法」で認められているのと同じ方法で法案の要件を執行する権限を与えられる。

Ⅱ.コネチカット州はデータプライバシー法(CTDPA)を改正

Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr LLPの解説「Connecticut Legislature Passes Privacy Bill Addressing Health Data and Child Online Safety」仮訳する。

 なお、コネチカット州司法長官のデータ保護法(Connecticut Data Privacy Act (CTDPA)(2022年5月10日成立)の解説およびFuture of Privacy Forumの解説も併読されたい。

Kirk J. Nahra (PARTNER)

Ali A. Jessani (SENIOR ASSOCIATE)

Samuel Kane (ASSOCIATE)

 2023年6 月 2 日、コネチカット州議会は「上院法案 3  (以下、「SB 3」という)」を可決した。この法案には、消費者の健康データと子供のオンライン保護に関連する新たな要件を課す条項が含まれた。 この法案は署名のためにネッド・ラモント州知事の机上に移される。 法律に署名されれば、SB 3 の消費者健康データ条項は、コネチカット州データプライバシー法 (CTDPA) の関連部分を修正することになる。

 これらの新しい規定は CTDPA の修正として含まれているため、影響を受ける企業にとって、消費者の健康データに関連する新しい規定は CTDPA の残りの部分と同じ 2023 7 1 日に施行する。

 SB 3 の最も注目すべき条項は、消費者の健康データと子供のオンライン安全に関するものである。 消費者健康データ条項は、とりわけ、企業が消費者の同意を得ることなく消費者健康データを販売または処理することを禁止する。 SB 3 の消費者健康データ規定は、最近制定されたワシントン州 「マイヘルス マイデータ法(My Health My Data Act)」(注3)よりも範囲が狭いものの、健康データの保護強化に対する連邦レベルおよび州レベルの議会および規制当局の間での関心の高まりを反映している。 一方、SB 3の児童オンライン安全規定は、同様に現在進行中の連邦および州の立法努力を反映しており、企業による児童の正確な位置情報データの処理や児童の個人データの使用能力を制限する、ターゲットを絞った広告の目的制約など、オンラインプラットフォームでの児童データの処理に制限を設けることになる。

 SB 3 はコネチカット州プライバシー法において重要な岐路に達している。 上で述べたように、2022 年 5 月に制定された包括的なプライバシー法である “CTDPA” は2023年 7 月 1 日に施行され、SB 3 によって追加された消費者の健康データに関する規定が含まれることになる。したがって、SB 3 は、すでに消費者健康データの遵守に向けて取り組んでいる企業にさらなるコンプライアンス義務を課すCTDPA の要件を遵守させる。実際、コネチカット州司法長官は2024年1月、CTDPAがコネチカット州の消費者向けに創設する新たなプライバシー権に関するFAQガイダンスを発表5/16⑲しており、同庁がコンプライアンスの取り組みに細心の注意を払っていることを示唆している可能性がある。

 この投稿では、SB 3 からの重要なポイントを強調し、その主要な規定を要約する。

SB3の重要なポイント】

 CTDPA の対象となる企業は、SB 3 の可決によって生じる主要な問題として以下の点に注意する必要がある。

(1)消費者健康データの販売および処理の制限: SB 3 は CTDPA を修正し、消費者健康データに特有の新しい規定を追加し、消費者健康データを含むように CTDPA の「機密データ」の定義を修正する。 これらの改正の結果、企業は消費者の健康データを販売または処理する前に消費者の同意を得るという新たな義務を負うことになる。

(2)児童のオンラインデータの処理に関する制限: SB 3 は、未成年であることがわかっている消費者にオンライン サービス、製品、または機能を提供する管理者に一連の要件を課す。これらの要件には、1)ターゲットを絞った広告、個人データの販売、および特定の種類のプロファイリングを目的とした未成年者の正確な位置情報データの処理の禁止が含まれる。2) システム設計機能を使用して、未成年者によるオンライン サービスの利用を「大幅に増やす」こと。 3)これらの規定の対象となる管理者は、さらに、未成年者の個人データの処理に関するデータ保護評価を実施することが求められる。

(3)発効日: 企業は、特に消費者健康データ規定の発効日に注意する必要がある。 これらの条項は、CTDPA の残りの条項とともに 2023 年 7 月 1 日に発効する。

 児童のオンライン安全規定のほとんどは、2024 10 1 日まで発効しない (ソーシャル メディア プラットフォームに特に適用される第 7 条を除く)。 しかし、これらの規定によって課せられる実質的な要件を考慮すると、企業はこれらの規定に基づく対応するコンプライアンス義務を、遅かれ早かれ早く評価し始める必要がある。

(4)法施行権限: SB 3 は、消費者の健康データまたは子供のオンライン安全規定のいずれについても、私的訴訟の権利を創設しない。 代わりに、コネチカット州司法長官や検事は、これらの条項に対して(CTDPA と同様に)独占的な執行権限を持つ。

【注目すべき条項の概要】

 コネチカット州データプライバシー法の医療データ改正 (第 1 条から第 6 条)

 SB 3 の第1条から第6 条は、コネチカット州データプライバシー法 (CTDPA) を改正する。 これらの修正は、CTDPA とともに 2023 7 1 日に施行し、主な修正内容は次のとおり。

(1)消費者健康データの定義: 「消費者健康データ」を「管理者が消費者の身体的または精神的健康状態または診断を特定するために使用する個人データ」と定義する。これには、性別を肯定する健康データや生殖または性的健康データに関するデータが含まれるが、これらに限定されない。

(2)消費者健康データ管理者の定義: 「消費者健康データ管理者」を「単独で、または他の管理者と共同して、消費者の健康データを処理する目的と手段を決定する管理者」と定義する。

(3)機密データとしての消費者の健康データ: CTDPA の「機密データ」の定義を修正し、消費者の健康データを含める。 その結果、消費者の健康データは、管理者が機密データを処理する前に消費者の同意を得るという CTDPA の要件の対象となる。

(4)消費者健康データの処理に関する要件: 以下を含む、消費者健康データに特有の要件を概説する新しい条項 (第 2条) を追加する。 (ⅰ) 契約上または法定の機密保持義務に従う場合を除き、従業員または請負業者への消費者健康データの提供を禁止する。 (ⅱ) 「消費者の消費者の健康データに関する特定、追跡、消費者からのデータの収集、または消費者への通知の送信を目的とした精神(mental)、生殖(reproductive)、性の健康施設の近くでのジオフェンス(注4)の使用を禁止する。 (ⅲ) 消費者の同意なしに消費者の健康データを販売することを禁止する。

(5)適用免除: 第 2 条には独自の免除条項が含まれており、特に1)州および州の政治・行政機関、2) 高等教育機関、3) 特定の全米証券業協会、4) 金融機関の情報保護法Gramm-Leach-Bliley Act (GLBA) の対象となる金融機関及びデータ主体、5) 1996年HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996;医療保険の携行性と責任に関する法律)でカバーされる医療事業者や外部委託先の事業提携者。

(6)ソーシャルメディアアカウントの削除と非公開 (第7条)

 ソーシャル メディア アカウントの非公開または削除に対する未成年者のリクエスト: ソーシャル メディア プラットフォームに対して、ソーシャル メディア アカウントの非公開 (つまり、一般公開から削除) または削除を求める未成年者のリクエストに従うことを義務付ける。 これらの規定は、2024 7 1 日に発効する

(7)子供のオンライン上の安全性 (第 8 条から第13条)

 第 8 条から第 13 条は、以下に概説するように、「管理者が未成年者であることを実際に知っているか、意図的に無視している消費者」にオンライン サービス、製品、または機能を提供する管理者に要件を課す。 これらの規定は、2024 10 1 日に発効する

①相当な注意(思慮分別のある一般人が払うレベルの注意(Reasonable Care):

 オンライン サービス、製品、または機能によって未成年者に危害が及ぶリスクが高まるのを避けるために、相当な注意を払う必要がある。

②広告、販売、またはプロファイリングのための児童データの使用:

 ターゲットを絞った広告、個人データの販売、または法的または重要な影響をもつ類似の行為を生み出す「完全に自動化された意思決定を促進するためのプロファイリング」を目的として、未成年者の個人データを (同意なしに) 処理することは禁止される。

③必然性の制限(Necessity Limitation):

 関連するオンライン サービス、製品、または機能を提供するためにそのような処理が必要な場合を除き、同意の例外を条件として、未成年者の個人データを処理することは禁止される。

④期間の制限(Duration Limitation:):

  同意の例外を除き、関連するオンライン サービス、製品、または機能を提供するために必要な期間を超えて未成年者の個人データを処理することは禁止される。

⑤使用を延長するためのシステム設計の使用:

 「未成年者によるオンライン サービス、製品、または機能の使用を大幅に増加、維持、または延長するためのシステム設計機能」の使用を禁止する。

➅正確な位置情報データ:

 指定された要件 (関連する機能を提供する必要性、時間制限、未成年者への通知を含む) が満たされない限り、未成年者の正確な位置情報データを (同意なしに) 収集することは禁止される。

⑦ダイレクト・メッセージング:

  未成年者が使用するダイレクト メッセージング装置に制限を設ける。これには、未成年者に迷惑な通信を送信する成人の能力に対する制限も含まれる。

⑧データ保護影響評価: 未成年者の個人データの処理に関するデータ保護影響評価を実施する必要がある。

⑨適用免除: さまざまな事業体および情報タイプが免除される。これには、次のものが含まれる。

1)州および州の政治機関の下部機関、2) NPO団体、3) 高等教育機関、4)特定の全米証券業協会、5) 金融機関の情報保護法Gramm-Leach-Bliley Act (GLBA) の対象となる金融機関及びデータ主体、5) 1996年HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996;医療保険の携行性と責任に関する法律)でカバーされる医療事業者、公正取引報告法(Fair Credit Reporting Act (FCRA)の対象機関、家族の教育の権利とプライバシーに関する法律( Family Educational Rights and Privacy Act(FERPA)に準拠する個人データ、および特定の雇用関連データ。

⑩法執行権: 私的訴訟の権利は履行できない。 むしろ、排他的な執行権限は州司法長官のみにある。

⑪対象企業等への違反是正救済期間: 2024 年 10 月 1 日から 2025 年 12 月 31 日まで、州司法長官は、企業が「そのような違反容疑を是正する可能性がある」と判断した場合、これらの規定に違反したとされる企業に対して 30 日間の救済期間を付与しなければならない。 2026 年 1 月 1 日以降、州司法長官 は多要素枠組みに基づいて治癒期間を付与するかどうかを決定する裁量権を有する。

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(注1) アソシエイト弁護士とは、パートナー弁護士の業務を補助する勤務弁護士のことである。アソシエイトとはもともと仲間や一緒に働く人という意味の単語であり、その意味の通り、パートナーとして法律事務所の経営には関与していないものの、その法律事務所の看板を背負って、パートナー弁護士と一緒に働いている弁護士をいう。

(注2)コロラド州改正法案原文

(注3) ワシントン州の新たな健康データ保護法制定の背景

岩崎元太「ワシントン州新法、My Health My Data Act制定〜シアトルの知恵ノート」から一部抜粋。

 米国では従来、1996年に制定された連邦「医療保険の携行性と責任に関する法律(HIPAA)」が国民の健康データ保護を主に担ってきた。HIPAAは医療従事者や保険会社による健康データの取り扱いを想定しており、実際に医療機関や保険会社のみが保護義務を負っていた。しかし昨今では、アップル社のアップルウォッチが測定する心拍数、スマートフォン向けの万歩計や月経管理のアプリが収集するデータも立派な健康データと言え、非医療機関の関与が高まる傾向が見られる。新法では、当時に想定していなかったアプリ、ウェブサイト、ゲーム、装着式のスマートデバイス等を中心に健康データ保護義務を課している。

【新法の概要】

 本法は、個人の健康データ保護を目的とし、規制対象事業主(regulated entity)に対して適用されます。規制対象事業主とは一般的に、(1)ワシントン州で事業を行っている/ワシントン州の消費者に対して製品やサービスを生産または提供している、かつ(2)単独または共同で個人の健康データの収集、処理、共有をしている/販売の目的と手段を決めている事業主を指す。

 一方で、健康データの定義については、消費者に紐付けられている、もしくは消費者と紐付けることが合理的に可能な、過去、現在、未来の身体的または精神的健康状態を特定できる個人情報とされている。これには手術歴や服用中の医薬品情報が挙げられるであろう。そのほか、フィットネス系ゲームでプレー前に自身の体重や身長を入力することも含まれ、健康データの提供先となるそのゲーム会社は、本法における規制対象事業主となる。(以下、略す)

(注4)「 ジオフェンス」とは、仮想的な境界線で囲まれたエリアのことを指す。

仮想的な境界線で囲んだエリアにWi-FiやGPSなどの位置情報データを使用した移動体(スマートフォンを持っているユーザーやドライブレコーダーを車載した車など)が出入りすることをトリガーとして、何らかのイベントを発生させることができる仕組みをいう。

取得したいイベントに応じて、機器や機能を連携する開発が必要となるが、この技術を用いることで、顧客の行動を調査したり、最適なタイミングで情報を提供することが可能になる。

位置情報とは、スマートフォンのGPSやWi-Fi、Bluetooth、通信基地局などで特定した位置の情報のことを指すが、位置情報からユーザーの行動履歴をたどることで、どの範囲が生活圏か、働いているのかなど、個人を特定しない範囲でのユーザーの特性を推測できる。

(「ジオフェンスとは?」ZENRIN DataCom解説から抜粋)

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米コロラド州は米国内で最初の州として人工知能 (AI) の使用を規制する法案 (SB24-205) を可決、その内容を概観する

2024-05-17 07:05:31 | 米国のAI規制立法

 コロラド州は、米国内で人工知能 (AI) の使用を規制する法案 (SB24-205) を可決した最初の州となった。 この法律は、さまざまな分野にわたる AI テクノロジーの倫理的法的社会的な影響と予測される事態に対処することを立法目的としている。

  筆者は、かつて23日付けブログ AI立法 のトレンド: 米国の州法案の発展を概観」36日付けブログ「わが国のAI立法の在り方を見据える観点からEUAI規則案(AI法案:Artificial Intelligence Act)の最終段階を改めて探る(その1)「同(その2完)」を投稿した。

  今回のブログは、これらを受け(1)ローファームの解説を仮訳するとともに、(2)コロラド州議会の法案上程者の解説の仮訳を試みるものである。特に生成AIについては倫理的な問題だけでなく法的にも大きな課題をかかえていることから、筆者なりに注記を加えながら補筆した。

1.LexblogColorado Passes AI Regulation仮訳

 法案全条の原文参照。

 同法は消費者と対話することを目的とした高リスク AI システムの開発者または導入者を含む、コロラド州でビジネスを行うすべての人物が対象となる。 この法案では、「高リスク AI システム」を、結果的な意思決定を行う上で重要な要素となる AI システムと定義している。 特に、重要な決定を下さない限り、顔認識(facial recognition,(注1)、マルウェア対策、データストレージ、データベース、ビデオゲーム、チャット機能を使用しない不正行為対策技術は(とりわけ)含まれていない。

 この法案には、AIの開発と導入における倫理基準透明性説明責任の促進に重点を置き、政府、教育、企業内でのAIの使用を管理する包括的な枠組みが含まれている。 この法案は、意思決定プロセスにおける AI の使用に関する開示を義務付け、AI 開発を導くための倫理基準を定め、AI 関連のバイアスやエラーが発生した場合の救済と監視のメカニズムを提供します。 これらの救済メカニズムには、消費者が高リスク AI システムによって処理された誤った個人データを修正する機会や、(可能であれば)人間によるレビューを伴うシステムによって下された不利な決定に対して異議を申し立てる機会が含まれる。 開示要件は開発者に適用され、アルゴリズムによる差別のリスクを管理するために使用される方法を説明する公開された声明が必要となる。

 この法案では、企業が高リスクの AI システムを使用する場合、いくつかのコンプライアンス・メカニズムの開発が義務付けられており、これらには、(1)影響評価、(2)リスク管理ポリシー策定とプログラム、(3)高リスクシステムに関する年次レビューが含まれる。 これらのメカニズムは、これらのAIシステムの開発と使用における透明性を促進するように設計されている。

 この法案の可決により、コロラド州は米国における AI 規制の最前線に位置し、同様の課題に取り組んでいる他の州や管轄区域にとって先例となることになる。

2.法案の概要(州議会サイトで法案上程者の解説仮訳

Robert Rodriguez上院議員(民主党)

Brianna Titone議員(民主党)

Manny Rutinel 議員(民主党)

 

【法案要旨】

 この法案は、高リスク人工知能(AI)システム(以下、「高リスクシステム」という)の開発者に対し、高リスクシステムにおけるアルゴリズムによる差別(algorithmic discrimination)(注2)を回避するために合理的な注意を払うことを義務付けている。 開発者が法案の次のような特定の条項を遵守していれば、開発者および実働展開責任者(以下、「導入者(deployer)という)(注3)は合理的な注意を払っていたという反駁可能な推定が存在する。

(1)高リスクシステムに関する特定の情報を開示する声明を高リスクシステムを導入者に提供する。

(2)高リスクシステムの影響評価を完了するために必要な高リスクシステム情報と文書を導入者が利用できるようにする。

(3)AI開発者が開発または意図的かつ大幅に変更し、現在導入者が利用できるようにしている高リスクシステムの種類、または、これらの高リスクシステムのそれぞれを意図的かつ大幅に変更する開発から生じる可能性のあるアルゴリズム差別(algorithmic discrimination)の既知または合理的に予見可能なリスクを開発者がどのように管理するかを要約した公開可能な声明を作成する、

(4)高リスクシステムが原因であるか、またはそうであるという信頼できる報告をAIシステムの導入者から発見または受領してから 90 日以内に、州司法長官および高リスクシステムの既知の導入者に、アルゴリズム差別の既知のまたは合理的に予見可能を引き起こした可能性がかなり高いリスクを開示する。

 また、この法案は、高リスクシステムの導入者に対し、高リスクシステムにおけるアルゴリズムによる差別を回避するために合理的な注意を払うことを義務付ける。導入者が法案の次のような特定の条項を遵守していれば、導入者は合理的な注意を払っていたという反駁可能な推定が存在する。

(1)高リスクシステムの「リスク管理ポリシー」策定と「プログラム」を実施する。

(2)高リスクシステムの「影響評価(impact assessment )」を完了する。

(3)導入者が導入した各高リスクシステムの導入を毎年レビューし、高リスクシステムがアルゴリズムによる差別を引き起こしていないことを確認する。

(4)高リスクシステムが消費者に関して重大な決定を下した場合に、指定された品目を消費者に通知する。

(5)高リスクの人工知能システムが結果的な決定を下す際に処理した誤った個人データを修正する機会を消費者に提供する。

(6)高リスクの人工知能システムの導入から生じる消費者に関する不利な結果的決定に対して、技術的に可能であれば人間(human)による審査を通じて消費者に異議を申し立てる機会を提供する。

(7)導入者が現在導入している高リスクシステムの種類と、これらの高リスクシステムのそれぞれの導入から生じる可能性のあるアルゴリズムによる差別の既知または合理的に予測可能なリスクとその性質を導入者がどのように管理するか、導入者によって収集および使用される情報のソースおよび範囲を要約した公開可能な声明(satement)を作成する。

(8)アルゴリズムによる差別(algorithmic discrimination)の発見を発見後 90 日以内に、高リスクのシステムが引き起こした、または合理的に引き起こした可能性があることを州司法長官に開示する。

 消費者と対話することを目的とした人工知能システムを展開または利用可能にする、導入者または他の開発者を含め、この状態でビジネスを行う者は、人工知能(AI)システムが、人工知能システムと対話する各消費者に、次のことを確実に開示する必要があり、消費者は人工知能システムと対話している。

 この法案は、開発者または導入者が次のような特定の活動に従事する能力を制限するものではない。

(1)連邦、州、地方自治体の法律、条例、規則を遵守する。

(2)特定の調査への協力および実施

(3)消費者の生命または身体の安全にとって不可欠な利益を保護するために緊急措置を講じること。

(4)特定の研究活動を実施し、取り組むこと。

 この法案は、次の場合に開発者または導入者に積極的抗弁(affirmative defense)(注4)を提供する。

 潜在的な違反に関与する高リスクシステムの開発者または導入者は、法案または司法長官が指定する国内または国際的に認められた人工知能システムのリスク管理フレームワークに準拠していることを遵守し、また、開発者または導入者は、法案の違反を発見するために指定された措置を講じる。

 最後にこの法案は、州司法長官に法案の要件を実施し執行する規則制定権限を与えている。

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(注1)解説から抜粋

 「顔認識」は顔の特徴や表情を読み取る技術で、「顔認証」は前もって取得した画像のデータと照合して本人かどうかを見分ける技術である。

 顔認識とは:顔認識技術は、人工知能やコンピュータビジョン技術を使用して、画像またはビデオの中で人の顔を自動的に検出し、識別する技術です。この技術は、セキュリティシステム、監視システム、マーケティング、医療、ゲーム、ロボット工学など、さまざまな分野で使用されている。

 顔認識システムの主な機能は、以下のとおり。

①顔検出

②特徴抽出

③顔比較

(注2)アルゴニズムによる差別からの保護(Algorithmic Discrimination Protections):

アルゴリズムによる差別に直面すべきではなく、システムは公平な方法で使用、設計される必要がある。アルゴリズム差別は、自動化システムが人々を人種、肌の色、民族、性別、宗教、年齢等に基づいて不当に異なる扱いを行ったり、不利益となる影響を与える場合に生じる。システムの設計者、開発者、導入者はこうした差別から個人とコミュニティを保護し、公平な方法でシステムを使用および設計するために、積極的かつ継続的な対策を講じなければならない。

(注3) デプロイ(deploy)は、「展開する、配置する」などの意味を持つ。IT分野では、Webアプリケーションなどのシステム開発工程で、アプリケーションの機能やサービスをサーバー上に配置・展開し、利用可能な状態にする一連の作業を指す。

通常のシステム開発では、「開発環境」「テスト環境」「本番環境」など、環境ごとにファイルが設置されて、開発作業が行われる。デプロイはテスト環境と本番環境を利用して、サーバー上に実行ファイルを反映し、実際に稼働できる状態にする。(本稿では“deployer”は「導入者」と訳す)。

(注4) 積極的抗弁(affirmative defense)(conell 大学ロースクールの解説仮訳)

 積極的抗弁とは、たとえ被告が申し立てられた行為を行ったことが証明されたとしても、その証拠が信頼できると判断された場合には、刑事責任または民事責任を無効にするであろう証拠を被告が提出する抗弁をいう。 積極的抗弁を提起する当事者は、それが適用されることを立証する立証責任を負う。 積極的抗弁を提起しても、当事者が他の抗弁を提起することを妨げるものではない。

 正当防衛(Self-defense)、罠(entrapment)(注5)、心神喪失(insanity)(注6)、必要な防御(注8)、および優れた対応は、積極的防衛の例である。

 連邦民事訴訟規則第 56 条に基づき、いずれの当事者も積極的抗弁について略式判決を求める申し立てを行うことができる。

(注5)罠(entrapment): 被告がそうでなければ犯しなかった犯罪行為に従事するよう被告を誘導することによって、被告の訴追を開始するために必要な証拠を入手したと被告が主張する肯定的抗弁。 たとえば、ジェイコブソン対米国、503 US 540 (1992)を参照。 各州には、罠に対する抗弁がいつどのように適用されるかを概説する独自の判例法および法令があり、罠の主張に対して主観的なテストが適用される場合がある。これには次の 2 つの要素が含まれる。

    ① 被告には犯罪行為の性向がないこと。

 ② 政府による犯罪誘発

(cornell 大学ロースクール解説仮訳)

(注6)心身喪失(insanity)とは、人が自分の行動を完全に理解することができない精神疾患または疾患である。 心神喪失は主に刑法の概念ですが、契約法や遺言書にも見られることがあります。 心身喪失は部分的な場合もあれば完全な場合もあり、一時的な場合もあれば永続的な場合もある。 心神喪失の定義は、法律、特に州の刑法に多く見られるが、司法判決に由来する場合もある。

 事的心神喪失とは、被告が自分の行動の性質を知ることや理解すること、あるいは善悪を区別することを妨げる心神喪失のことである。 心神喪失の定義は州によって異なり、ほとんどの州ではマックノートン・ルール(M’Naghten rule)(注7)またはモデル刑法(Model Penal Code (MPC))の心神喪失に対する弁護(insanity defense)のいずれかに従う。 犯罪的心神喪失の他の検査には、抵抗不能衝動検査(irresistible impulse test)やダーラム検査(Durham test)などがある。(cornell 大学ロースクールの解説仮訳)

(注7) マックノートン・ルール(M'Naghten Rule ) (McNaghten と綴られることもある) は、犯罪的心神喪失に対する最初の法的検査である。 この検査は 1843 年に英国でダニエル・マックノートンに対する訴訟中に始まった。 マックノートンは首相秘書官エドワード・ドラモンドを首相だと信じて射殺した。 マックノートンは逮捕中、「保守党」が自分に対して共謀し、首相を殺害したいと考えていたため、首相を殺害する必要があったと主張した。 公判でマックノートンの弁護士は心神喪失の弁護を行い、これを裏付ける専門家の証言やその他の証拠を提出した。 裁判官の指示に従い、陪審の評決は「心神喪失のため」無罪となり、マックノートンは残りの生涯を精神病院で過ごすことになった。(cornell 大学ロースクールの解説を仮訳)

Daniel M'Naghten(Wikipedia から抜粋 )

(注8) 必要な防御(necessity defense):必要性の抗弁は、不法行為が避けられず、より深刻な危害の発生を防ぐため特定の行為が正当化される場合の、不法行為に対する責任に対する抗弁である。

刑法では、必要性の弁護は、俳優または他人に特定の危害を及ぼす恐れのある状況において、行為者の違法行為は 2 つの悪のうち必然的に小さい方であると主張する。 カリフォルニア州の陪審説示(California Jury Instructions)によれば、必要性の弁護を成功させるには、次のことを証明する必要がある。(筆者注記:わが国でいう「緊急避難」)

①行為者は、行為者または他の誰かへの怪我を防ぐために行動しました。

②行為者には合理的な代替手段がなかった。

③行為者は回避した危険よりも大きな危険を引き起こしたわけではない。

④行為者は実際、脅迫された危害や悪を防ぐために違法行為が必要だと信じていた。

⑤まともな人であれば、その状況では違法行為が必要だったとも信じただろうし、

その行為者は緊急事態に実質的に貢献しなかった。

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米国16州の包括的個人情報保護立法の最新動向から見たわが国の保護法改正の課題

2024-04-10 10:06:03 | 個人情報保護法制

 筆者は、これまで米国各州の包括的個人情報保護立法につき解説してきた。例えば、最も厳しいとされるカルフォルニア州同州オハイオ州コロラド州につき取り上げてきた。

 4月初め、ケンタッキー州議会は包括的なプライバシー法(H.B.15)(以下、「法律」という)を可決した。この法律は4月4日に州知事が署名し、成立、この法律は 2026 年 1 月 1 日に発効する。

 今回のブログ投稿では、この法律の重要な要点を要約する。これにより、カリフォルニア、バージニア、コロラド、コネチカット、ユタ、アイオワ、インディアナ、テネシー、モンタナ、オレゴン、テキサス、フロリダ、デラウェア、ニュージャージー、ニューハンプシャー州の立法に加わる。 (計16州)

 また筆者が注目するのは英国や米国州の最近時の立法傾向は「正確な地理位置情報データ(precise geolocation data)」や「13歳未満の児童の個人情報」(注1)を機微情報としている点である。また、従来から国際スタンダードとして立法上明記されている「データ保護影響評価 (DPIA)」の重要性や義務化問題もある。

 一方で、わが国の法改正の経緯を見ると欧米のような経緯をたどっているようには見えない。今回のブログはこれら問題につき詳細に論じる。

Ⅰ.ケンタッキー州の包括的情報保護法の概要

 Covington & Burling LLP.の以下の弁護士が執筆したブログ仮訳する。

 Lindsey Tonsager 氏

Libbie Canter氏

Hensey A. Fenton III 氏

Samar Amidi 氏

法律の適用範囲: この法律は、ケンタッキー州で事業を行うか、ケンタッキー州住民を対象とした製品やサービスを生産する暦年中に、(i) 少なくとも 100,000 人の消費者の個人データを管理または処理する、または (ii) 少なくとも 25,000 人の消費者のデータを管理または処理し、総収益の 50% 以上を個人データの販売から得る管理者および処理者に適用される。

消費者の権利: この法律は、とりわけ、消費者にアクセス、削除、携帯性・移植性、および修正の権利を付与する。 同法により、消費者は、(1)ターゲットを絞った広告、(2)個人データの販売、(3)法的または同様の重要な効果を生み出す意思決定を促進するプロファイリングを「オプト・アウト」することも可能となる。

■機密データ(Sensitive Data)について事前同意義務: 管理者(controllers)は、消費者の機密データを処理する前に同意を得る必要がある。 同法では、機密データを、(1)人種または民族的出身、(2)宗教的信念、(3)精神的または身体的健康状態、(4)性的指向、(5)市民権または永住権保持・在留資格(immigration status)(注2)を示す個人データ、(6)固有の個人を識別するために処理された遺伝子(genetic)データまたは生体認証データ、(7)収集された既知の子ども情報(注2-2)および「正確な地理位置情報データ(precise geolocation data)」(注3)を「機密データ」と定義している。

■データ保護影響評価 (DPIA)の義務付け: この法律は、(1)ターゲットを絞った広告、(2)個人データの販売、(3) 限られた状況でのプロファイリング、(3)機密データの処理、または(4)その他の消費者への危害リスクの増大を伴う活動の処理に対して、データ保護影響評価 (DPIA) を義務付ける。

執行: ケンタッキー州司法長官は、この法律を執行する独占的な権限を有する。 この法律はまた、管理者と処理者に、日没しない30日間の治療権を与えることになる。

Ⅱ.米国各州の包括的情報保護法のおける「機微情報」をめぐる特徴的な点やわが国の今後の保護法立法や法改正のあり方を巡る課題

 1. 子供特に 13 歳未満等の児童の個人情報の機微情報の明確な規定化

(1)米国の新しい州の「包括的な」プライバシー法には、子供に適用される規定がある。 たとえば、カリフォルニア州では、子供が 13 歳未満であることを実際に知っている企業は、連邦法である1998年COPPA(Children's Online Privacy Protection Act) の同意要件に加えて、その子供のデータを販売または共有する場合は親の同意を得る必要がある。 13 歳から 16 歳までの子どもの場合、カリフォルニア州法に基づき、企業は子どもの情報の販売または共有について子どもの「同意」を得る必要がある。 他の州では、子供の情報を「機密情報(sensitive data)」と定義している。 そしてこれらの法律に基づき、企業は機密情報を第三者と共有する場合、消費者(未成年者の場合はその親)に通知しなければならない。 また、場合によっては、機密情報を処理する前に「データ保護影響評価(DPIA)」を実施する必要がある。

(2)次に、カリフォルニア州が、英国の児童保護規範 (Children's Code:年齢確認に基づく保護規範)(筆者ブログ参照)をモデルとした「カリフォルニア州年齢適正設計法:The California Age-Appropriate Design Code Act)」 を2022年11月に可決した。(解説例参照) この法律は2024年7月1日に施行される予定で、「子供がアクセスする可能性がある」オンライン製品、サービス、機能を提供する企業(つまり18歳未満の子供)に適用される予定である。 ただし、この法律は 裁判結果もあり2023 年末に一時的に禁止された。この法律が予定どおり発効した場合、企業は以下の行為を禁止される。

①「ダーク・パターン」(注4)を使用する。

②「子どもにとって重大な害を及ぼす」行為。

③子どもたち情報の自動プロファイリング。(注5)

 さらに、企業は(やむを得ない理由がない限り)子供の地理位置情報を収集することはできず、サービスの提供に必要な個人情報のみの収集に限定される。 さらに、通知と条件は年齢に応じた言葉で提供される必要がある。 最後に、企業は子供が利用できるサービスを提供する前に、データ保護影響評価(DPIA)を実施する必要がある。

 (3)学生のプライバシー保護

 連邦レベルで「家族の教育の権利とプライバシーに関する法律 (Family Educational Rights and Privacy Act :FERPA 」と米国の州の約半分の両方で、学生のプライバシーに対処する法律がある。 これらの法律の主な焦点は、学校が生徒からどのような情報を収集できるかということである。 ただし、学校のビジネス パートナーが生徒とどのようにやり取りできるかにも影響を与える。 たとえば、州法に基づき、学校のビジネス パートナーは、生徒の個人情報を不正なアクセス、使用、破壊、開示から保護する必要がある。 また、学校から要請があった場合には、生徒情報を削除しなければならない。

4)ソーシャルメディア・プラットフォームを対象とした新しい米国の州立法の動向に留意

 心に留めておく価値があるのは、ソーシャルメディア・プラットフォームを対象とした新しい米国の州立法である。 これらの法律はこれまでにアーカンソー州、モンタナ州、オハイオ州、テキサス州、ユタ州で可決された。 しかし、発効予定だったすべての法律は延期されており、合衆国憲法修正第 1 条の言論の自由を理由に州の法律は違憲であるという難題に悩まされている。 一般に、これらの法律では、アカウントを作成する際に個人に年齢の提供を義務付け、アカウントが完成する前に子供の親の同意が必要となる。 また、プラットフォームが子供から収集できる情報の量や、子供がアクセスできる広告の種類も制限されることになる。

2.米国でビジネスを行っており、子供たちから情報を収集する場合、現在施行されている法律、および今後施行される法律に備えるためにどのような手順を踏むことが必要か?

 (1) 親や保護者の同意

 13 歳未満のユーザーから個人情報をオンラインで収集する場合は「同意」が必要であることに注意すべきである。この要件は 1998 年COPPAから存在する。その間に「オンライン」は変化した可能性があり、「個人情報」に対する我々の理解も広がった。 オンライン・ プラットフォームにはモバイル・ アプリが含まれており、インタラクティブなおもちゃも含まれる場合があることに注意されたい。 また、個人情報は単なる名前や電子メール・ アドレスだけでなく、画像や音声に加え、連邦取引委員会(FTC) によれば永続的な識別子も含まれる。

 (2) データ最小化の原則の検討

 法律で子供から収集するものを最小限に抑えることが特に義務付けられていない場合でも (ただし、そうしている人が多いことに注意されたい)、データが多ければ多いほど、保護する必要があるものも増える。 現時点では、COPPA は、該当する場合、収集できる内容を「サービスまたは機能を提供するために必要なもの」に制限しており、新しい州法も同様である。

(3)収集行為が「暗いパターン」に該当するかどうかを評価する

  FTC は、EUのデータ保護委員会(EDPB) と同様に、消費者をだまして、誤解を与えて、通常よりも多くの情報を提供させることに懸念を表明している。 あるいは、もっと反省していれば同意しなかったであろう方法で自分の情報が使用されることに同意することを重要視している。 こうしたアクティビティは「ダーク ・パターン」と呼ばれ、FTC はさまざまな推奨事項の中で、ユーザーの観点からプログラムをテストすることを提案している。 子供の場合、これには子供だけでなく、COPPA の目的で同意を与える親も含まれる可能性がある。

 (4)子供への危害の概念に留意する

  規制当局が特に懸念しているのは、子供に危害を及ぼす可能性のある活動である。 規制当局からの明確な指示がない場合、またはこれらの法律に基づく判例が存在しない場合、企業は規制当局が自社のプラットフォームについてどう考えているのか疑問を持つ可能性がある。 たとえば、それが子供を搾取していると誰かが主張できるか? 子どもが関与する活動に対して、どのような対抗措置や利益が存在するか? 潜在的な危害を最小限に抑えるためにどのような措置が講じられているか? 言い換えれば、GDPR データ保護影響評価を実施するときに通過する思考プロセスに参加されたい。

3. 「正確な地理位置情報データ(precise geolocation data)」を機微情報の位置づけ問題

 「正確な地理位置情報」は、カリフォルニア州(Cal Civ. Code § 1798.121)やバージニア州(Va. Code § 59.1-517)を含め、最近のデータ・プライバシー法がそのような情報の収集と処理を規制しようとしていることにより、プライバシーの世界でホットボタンとなる問題となっている。「正確な地理位置情報データ」の定義は州によって異なるが、一般的には「デバイスから取得され、消費者の位置を特定するために使用される、または使用されることが意図されている、一定の距離(注6)を半径とする円内の地理的領域以下の地理的領域内のあらゆるデータ」を意味する。 現在、州レベルのプライバシー法の大多数は、正確な地理位置情報データを「機密個人情報」として分類している。この分類により、正確な地理位置情報データを収集および処理する組織に追加の義務が生じます。 例えば以下の州法を参照されたい。

 ① カリフォルニア州法: 正確な地理位置情報データを含む「機密個人情報」を収集および処理する対象となる組織・団体は、特定の例外を除き、その組織による「機密個人情報」の使用を制限する権利をカリフォルニア州民に提供する必要がある。

 ② バージニア州法: 対象となる組織・団体は、正確な地理位置情報データを含む「機密データ」を処理すること、およびデータ保護評価を実施および文書化することについて同意を得る必要がある。

(3) 日本のデータ保護影響評価 (DPIA)の重要性や義務化問題

 令和2年6月に成立した改正個人情報保護法(施行は、令和4年4月1日)には、データ保護影響評価(Data Protection Impact Assessment (DPIA)の実施を事業者に求めるという要件は含まれていない。しかし、令和元年12月の制度改正大綱において、民間の自主的取組の推進として、DPIAの実施が推奨されている。

 このような動きに伴いDXを推進する組織は、個人識別可能情報1(以下、PIIという。)を処理するプロセス、情報システム、プログラム、ソフトウェアモジュール、デバイス又はその他の取組において、今まで以上にプライバシーに対するデューデリジェンス(善管注意義務)およびプライバシーバイデザイン(Privacy by Design)の達成が求められることとなった。DPIAは、潜在的なプライバシーへの影響を事前にアセスメント(評価)するための手段であり、ステークホルダーと協議してプライバシーリスクに対応するために必要な行動を起こすための手段である。DPIAを実施することは、プライバシーバイデザインを達成することである。

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(注1) 米国の新しい州の「包括的な」プライバシー法には、子供に適用される規定がある。 たとえば、カリフォルニア州では、子供が 13 歳未満であることを実際に知っている企業は、COPPA の同意要件に加えて、その子供のデータを販売または共有する場合は親の同意を得る必要がある。 13 歳から 16 歳までの子どもの場合、カリフォルニア州法に基づき、企業は子どもの情報の販売または共有について子どもの同意を得る必要がある。 他の州では、子供の情報を「機密情報」と定義している。 そしてこれらの法律に基づき、企業は機密情報を第三者と共有する場合、消費者(未成年者の場合はその親)に通知しなければならない。 また、場合によっては、機密情報を処理する前にデータ保護評価を実施する必要がある。

  さらに、企業は(やむを得ない理由がない限り)子供の地理位置情報を収集することはできず、サービスの提供に必要な個人情報のみの収集に限定される。 さらに、通知と条件は年齢に応じた言葉で提供される必要がある。 最後に、企業は子供が利用できるサービスを提供する前に、データ保護影響評価 (DPIA)を実施する必要がある。

 第三に、連邦レベル (FERPA) と米国の州の約半分の両方で、学生のプライバシーに対処する法律がある。 これらの法律の主な焦点は、学校が生徒からどのような情報を収集できるかということである。 ただし、学校のビジネス・パートナーが生徒とどのようにやり取りできるかにも影響を与える。 たとえば、州法に基づき、学校のビジネス パートナーは、生徒の個人情報を不正なアクセス、使用、破壊、開示から保護する必要がある。 また、学校から要請があった場合には、生徒情報を削除しなければならない。

 最後に、心に留めておく価値があるのは、ソーシャルメディア・プラットフォームを対象とした新しい米国の州法ですある。 これらの法律はこれまでにアーカンソー州、モンタナ州、オハイオ州、テキサス州、ユタ州で可決された。 しかし、発効予定だったすべての法律は延期されており、憲法修正第 1 条の言論の自由を理由に法律は違憲であるという難題に悩まされている。 一般に、これらの法律では、アカウントを作成する際に個人に年齢の提供を義務付け、アカウントが完成する前に子供の親の同意が必要となる。 また、プラットフォームが子供から収集できる情報の量や、子供がアクセスできる広告の種類も制限されることになる。( Sheppard Mullin Richter & Hampton LLPの弁護士Liisa Thomas氏 およびKathryn Smith氏のブログを抜粋、仮訳)

(注2) Immigrant (移民): 米国永住権保持者として米国内に居住している人。Status (在留資格/ステータス): 米国内に存在する、すべての人には、必ず何かしらのステータス (身分) があり、米国市民というステータス、永住権保持者というステータス、H-1B (特殊技能職) ビザ保持者のステータスという具合に、カテゴリごとに分けることができます。よって、米国で滞在するためには、外国人も、移民、非移民を問わず、必ず何かしらのステータスを保持していなければならない。

(注3)正確な地理位置情報」は、カリフォルニア州(Cal Civ. Code § 1798.121)やバージニア州(Va. Code § 59.1-517)を含め、最近のデータ・プライバシー法がそのような情報の収集と処理を規制しようとしていることにより、プライバシーの世界で大いなる議論(hot button)となる問題となっている。「正確な地理位置情報データ」の定義は州によって異なるが、一般的には「デバイスから取得され、消費者の位置を特定するために使用される、または使用されることが意図されている、一定の距離(注6)を半径とする円内の地理的領域以下の地理的領域内のあらゆるデータ」を意味する。 現在、州レベルのプライバシー法の大多数は、正確な地理位置情報データを「機密個人情報」として分類している。この分類により、正確な地理位置情報データを収集および処理する組織に追加の義務が生じる。 例えば以下の立法を参照されたい。

カリフォルニア州法: 正確な地理位置情報データを含む「機密個人情報」を収集および処理する対象組織は、特定の例外を除き、その組織による「機密個人情報」の使用を制限する権利をカリフォルニア州民に提供する必要がある。

バージニア州法: 対象となる組織は、正確な地理位置情報データを含む「機密データ」を処理すること、およびデータ保護評価を実施および文書化することについて同意を得る必要がある。

(注4) ダーク・パターン(Dark pattern)は、主にウェブサイトなどで、ユーザーを騙すために慎重に作られたユーザインタフェースのことである。認知バイアスを利用して、ユーザーが思っているよりも多くの時間やお金を使わせる。または注意を払うように設計されている。

 例としては、購入時に保険に入会させたり、何かを定期購入させるなどの特定の行動をユーザーに促すものがある。また、「『購入ボタン』よりも『定期購入ボタン』の方が目立つ配色や大きさになっている」や「登録は簡単なのに退会が非常に面倒である」などの例もある。特に悪質なものが多いとされる例の1つは、利益が関わるショッピングサイトなどで、有名なウェブサイトほどダークパターンを利用しやすい傾向がある。ダークパターンには、プライバシー侵害や人々の判断力低下など複数の問題点が指摘されている。

 ダークパターンの例:①おとり商法(bait and switch:値引きした商品をおとりとして、類似した高額な商品を買わせる商法。 baitは「餌」、switchは「(小枝で)むち打つこと」の意味)、②比較を困難にする(Comparison prevention)、③羞恥心に働き掛ける(Confirmshaming)、④偽装広告(Disguised ads)、⑤強制開示(Privacy zuckering)他(Wikipedia から抜粋)

(注5) プロファイリング:本人に関する行動・関心等の情報を分析する処理を行う場合には、分析結果をどのような目的で利用するかのみならず、前提として、かかる分析処理を行うことを含めて、利用目的を特定する必要がある。具体的には、以下のような事例においては、分析処理を行うことを含めて、利用目的を特定する必要がある。

(事例1)ウェブサイトの閲覧履歴や購買履歴等の情報を分析して、本人の趣味・嗜好に応じた広告を配信する場合

(事例2)行動履歴等の情報を分析して信用スコアを算出し、当該スコアを第三者へ提供する場合

(個人情報保護委員会サイト「個人情報取扱事業者は、個人情報の利用目的を「できる限り特定しなければならない」とされていますが、どの程度まで特定する必要がありますか」から抜粋)

(注6) カリフォルニア州の保護法(CPRA) では、地理位置情報データの精度と精度の範囲は半径 1,850 フィート(563.88m)以下である。 一方、他の州のプライバシー法では、半径は 1,750 フィート(533.40m)以下である。(JD SUPRAの用語解説「Precise Geolocation: Recent Trends and Enforcement」から抜粋、仮訳)

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英国の個人情報保護機関である英国情報コミッショナーはSNS等オンライン利用にかかる子供のプライバシー保護強化のための具体的施策に関し2024 年から 2025 年の優先事項「児童規範戦略」 を発表

2024-04-06 11:27:21 | 個人情報保護法制

 筆者は去る4月2日のブログでフロリダ州、オハイオ州およびウタ州等の未成年者特に児童等のソーシャル・ メディア・ プラットフォーム利用にかかる厳格な規制州法立法につき詳しく解説した。

 一方、英国の取組みを見ると、2024 年 4 月 3 日、英国情報コミッショナー事務局 (以下、「英国 ICO」という) は、オンラインでの子どもの個人データ保護に関する 2024 年から 2025 年の優先事項「児童規範戦略(Children’s Code Strategy” (「戦略」という)発表した。

John Edwards, UK Information Commissioner

 翻ってわが国の保護法制整備の現状を見た。まず、思いつくのは「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(平成20年法律第79号)(以下、「環境整備法」という)(注1)(注2)であろう。最後にわが国の保護法強化につき喫緊の問題点をとりあげる。

Ⅰ.英国ICO児童規範(UK ICO Children’s Code)」の概要

 ここで英国「児童規範戦略(Children’s Code Strategy” (「戦略」)」の内容に入る前に“Principleworks”のblogをもとに2020年1月21日に公開された「英国ICO児童規範(UK ICO Children’s Code)」に基づき補足する。なお、Principleworksは、オープンソース・ソフトウェアに関連した各種サービスの提供業者である。

1.Children's Code

(1)制定の背景

 Children's Code は子どもたちが生活のあらゆる側面において必要とする特別な保護措置を認める「国連子どもの権利条約(UN Convention on the Rights of the Child:UNCRC)」に根ざしている。また、Children's Code は、ICO により、親・子どもたち、学校、開発者、ゲーム会社、オンラインサービス・プロバイダーとの対話による徹底的な協議プロセスを経て作られたものである。

 また、英国では忘れられない事件があった。年齢確認の欠落は今でこそ即時摘発案件であるが、当時(2017年)は Instagram は年齢確認を行われていなかった。この事件は2019年にBBC でも取り上げられ大きな社会問題となった。時系列でまとめると次のようになる。

2017年 英国Instagram を利用する14歳の少女が自殺

2019年1月 BBCのニュースで取り上げられる

2019年4月 Children's Code 草案作成

2019年12月 Instagram の年齢確認実施(新規ユーザーのみ)

2020年9月 Children's code 発効

(2) 適用されるサービス

 Children's Code の適用対象は ISS(“information society services likely to be accessed by children”)である。 この定義は、下記のようなものとなる。

「通常、報酬を得て提供されるサービスであり、 遠隔地において、電子的手段により、個別の要求に応じて提供されるサービス」

 具体的に対象となるオンラインサービスは以下のとおり多岐にわたる。

・アプリ

・オンラインゲーム

・サーチエンジン

・SNS

・メッセージサービス、もしくはネットベースの通話

・マーケットプレース

・コンテンツ・ストリーミング・サービス(動画、音楽、ゲーム配信サービス)

・ネット接続されたおもちゃやデバイス

・ニュースまたは教育ウェブサイト

(3)留意事項

 子どもが対象でない場合も、子どもがアクセスする可能性がある場合は対応する必要がある。

(4)Codeの適用対象企業

 英国に本拠を置く企業のみならず、英国の子どもの個人データを処理する英国外企業にも適用される。

(5)EU一般データ保護規則(GDPR)との関連

 Children's Code 原文にはGDPR前文(38)が一部引用されている。

(6) Children's Ccode の具体的な基準は以下の15項目となる。

子どもの最善の利益:子どもがアクセスする可能性のあるオンライン・サービスを設計および開発するときは、子どもの最善の利益を第一に考慮する必要がある。そしてこれは「国連子どもの権利条約(UNCRC)」の第3条に由来し、子どもにとって何が最善かが極めて重要である。

データ保護の影響評価(Data Protection Impact AssessmentDPIA:DPIA を実施して、データ処理から生じるサービスにアクセスする可能性のある子どもの権利と自由に対するリスクを評価し軽減する。さまざまな年齢・能力・開発ニーズを考慮し、DPIA がこの規定に準拠して構築されていることを確認する。

年齢に応じたアプリケーション:リスクベースのアプローチを採用して個々のユーザーの年齢を認識し、この規範(Code)を確実に子どものユーザーに適用する必要がある。データ処理によって生じる子どもの権利と自由に対するリスクに、適切なレベルの確実性で年齢を設定するか、代わりにこの規範をすべての年齢のユーザーに適用するようにされたい。

透明性保持:ユーザーに提供するプライバシー情報、およびその他の公開された規約、ポリシー、コミュニティ基準は、子どもの年齢に適した簡潔で目立ち、明確な言葉で表現されている必要がある。個人データの使用がアクティブ化された時点で、個人データをどのように使用するかについて、追加の具体的な「わかりやすい」説明を提供されたい。

データの不利益な使用禁止:子どもの個人データを、子どもの幸福に有害であることが判明した方法、または業界の慣行規定、その他の規制規定、または政府の勧告に反する方法で使用しないこと。

ポリシーとコミュニティ標準の遵守:独自に公開された規約、ポリシー、コミュニティ標準(プライバシー ポリシー、年齢制限、行動ルール、コンテンツ・ ポリシーを含むがこれらに限定されない)を遵守する必要がある。

高度なプライバシー保護に沿った初期設定(デフォルト)設定:初期設定(以下、「デフォルト」という)の設定は「高度なプライバシー」保護でなければなりません (異なるデフォルト設定を選択する説得力のある理由を証明できない限り、子どもの最善の利益を考慮して「高度なプライバシー」保護をデフォルトで設定されたい)。

個人データの収集・保持の最小化:子どもが積極的かつ故意に関与するサービスの要素を提供するために必要最小限の個人データのみを収集及び保持されたい。また、どの要素をアクティブにするかについて、子どもたちに個別の選択肢を与える。

データ共有の限定:子どもの最善の利益を考慮して、やむを得ない理由を証明できない限り、子どものデータを開示しない。

地理位置情報のデフォルト時のオフ:地理位置情報オプションをデフォルトでオフに切り替える (子どもの最善の利益を考慮して、地理位置情報をデフォルトでオンにする説得力のある理由を証明できない限りオフにすること)。位置追跡がアクティブなときは、子どもたちにそのことがわかりやすいよう表示を行う。子どもの位置を他の人に見えるようにするオプションは、各セッションの終了時にデフォルトで「オフ」に戻す必要がある。

保護者による制限:保護者による制限を提供する場合は、その子どもの年齢に応じた情報を提供されたい。オンライン・ サービスで、親や保護者が子どものオンライン活動を監視したり、位置を追跡したりできる場合は、監視されているときに子どもにわかりやすく表示する。

プロファイリングのオフ設定:デフォルトでプロファイリングを「オフ」にするオプションに切り替える(子どもの最善の利益を考慮して、プロファイリングをデフォルトでオンにする説得力のある理由を証明できない限りオフにすること)。子どもを有害な影響(特に、子どもの健康や幸福に有害なコンテンツを与えられること)から守るための適切な措置を講じている場合にのみ、プロファイリングを許可する。

ナッジ(nudge)手法の禁止:子どもに不必要な個人データを提供させたり、プライバシー保護を弱めたり無効にしたりするよう誘導するための手法を使用しない。ナッジ(nudge)は注意を引くためひじなどで軽くつつく意味であるが、ナッジ手法は2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー(Richard H. Thaler)教授(米国・シカゴ大学)らが提唱したもので、「心理学の洞察を利用して経済的意思決定の際の分析を行い、それらを利用したしくみによって望ましい行動を自発的に選択するよううながす」という手法である。 ここで説明するナッジ手法はこの手法を悪用したケースを指し示す。

接続されたおもちゃやデバイス:接続されたおもちゃやデバイスを提供する場合は、この規定への準拠を可能にする効果的なツールが含まれていることを確認する。

オンライン・ ツール:子どもがデータ保護の権利を行使し、懸念事項を報告できるようにわかりやすく扱いやすいツールを提供する。

(7) ガバナンスとアカウンタビリティ(説明責任)

①GDPR 第 24 条第 1 項(コントローラ(管理者)の責任)を引用。

(仮訳 :処理の性質、範囲、状況および目的、ならびに自然人の権利および自由に対するさまざまな可能性および深刻さのリスクを考慮して、管理者は、適切な技術的および組織的措置を講じて、確実かつ適切な権利と自由を確保しなければならない。」この規定に従って処理が行われていることを証明できること。これらの措置は必要に応じて見直され、更新されなければならない。)

②GDPR 第 5 条第 2 項(アカウンタビリティの原則)を引用。

(仮訳 :管理者は第1項に対する責任を負い、それを遵守することを実証できるものとする。)

  組織的な対応・措置は経営陣のリーダシップがないと容易には達成できず、経営層の関与はGDPRの法令そのものと共通の課題だと考えられ、Children's Code にはこうした内容も細かく書かれている。

③アカウンタビリティの実行

 DPO(Data Protection Officer) を任命している場合は DPO が主導し、あるいは取締役会レベルの上級管理職が監督する必要がある。中小企業の場合でも、子どものプライバシーが担当者に理解されていることを確認することが重要であり、優先事項が説明責任とされている。また、継続的に評価・改善し、子どものプライバシーをめぐる環境の変化に対応していく必要がある。

(8)スタッフのトレーニング

 対象サービスの設計に関わるスタッフがデータ保護に関する適切なトレーニングを受け、Children's Code を認識していることを確認する必要がある。

(9)記録の保管

 GDPR第30条 取扱活動の記録(Records of processing activities)第1項に基づき、以下の記録を保管する必要がある。

①組織 (管理者、代表者、DPO) の氏名と連絡先の詳細

②処理の目的

③個人データのカテゴリーおよび個人データのカテゴリーの説明

④個人データの受け取り者のカテゴリー

⑤第三国への送信の詳細(送信メカニズムの保護措置の文書化を含む)

➅保存スケジュール

⑦技術的および組織的なセキュリティ対策の説明

⑧DPIAの記録

 なお、これらの記録に使用できるテンプレートがICOのサイトに用意されている。

データ保護法への準拠をサポートおよび実証するためのポリシーを用意する。

Children's Codeの要件(GDPR含め関連するデータ保護法含め)を遵守する方法を明文化したポリシーを用意する必要がある。特に前述した取り扱い活動の記録を保存する義務(GDPR第30条第1項)をポリシーでカバーすることが必要である。

Ⅱ.オンラインでの子どもの個人データ保護に関する 2024 年から 2025 年の優先事項「児童規範戦略」(「戦略」) を発表

1.この戦略は、2021年に導入された「英国ICO児童規範(UK ICO Children’s Code)」に基づいており、ソーシャルメディアとビデオ共有プラットフォームの改善の優先分野を定め、英国ICOが児童規範への準拠をどのように強化し推進し続けるかを示している。 英国の ICO は、この戦略を通じて、ソーシャル・ メディアとビデオ共有プラットフォームに関して以下の点に焦点を当てる。

(1) デフォルト時のプロファイルにつき「プライバシー」遵守と「地理位置情報」の設定 (子供のプロファイルはデフォルトで非公開に設定され、地理位置情報の設定は初期設定で無効にされる必要がある )

 (2) ターゲットを絞った広告を目的とした子供のプロファイリングにつき、通常、プロファイリングはデフォルトで無効にする)。

 (3) レコメンダー・システム(recommender systems)(注3)での子供の情報の使用 (子供たちを有害なコンテンツにさらしたり、子供たちにプラットフォーム上で追加の時間を費やすよう奨励したり、子供たちにプラットフォームに追加の個人情報を提供するよう奨励するなど、アルゴリズムで生成されたコンテンツ フィードによってもたらされる子供への潜在的な危害に焦点を当てることの禁止。

 (4) 13 歳未満の子供のオンライン情報の使用 の制限(サービスが親や保護者の同意を取得し、確実な年齢確認技術を使用する方法に焦点を当てる)。

 この戦略を運用するために、英国 ICO は 2024 年夏に具体案の基づく“Call for Evidence(注4)を発表し、さまざまな利害関係者からの意見を募り、主要なソーシャルメディアとビデオ共有プラットフォームを特定し、利害関係者(親、子供、関連する児童団体を含む)と連携し、当局の規制執行権限を利用してコンプライアンスを確保する予定である。

2.ICO子供向け規範のガイダンスとリソースの内容

 ICOの関係サイトのリンクを提供する。

(1)共有部(共有パネルを開く)

 このページのガイダンスは、あらゆる規模のあらゆる部門の組織に適している。中小企業では、中小企業 Web ハブのリソースを使用することもできる。

(A)簡単な入門ガイダンス

 児童向け規範の入門解説(Introduction to the Children's code):児童規範が誰に適用されるのか、またそれに準拠するには何をする必要があるのかの解説。

(B)実践規範

 年齢に応じたサービス・デザインの徹底(Age appropriate design: a code of practice for online services) : オンライン・ サービスの実践規範

 児童規範には、子供がアクセスする可能性が高いオンライン・サービス (アプリ、オンライン・ゲーム、Web サイトやソーシャルメディア・ サイトなど) のプロバイダーが準拠すべき 15 の基準が詳しく規定されている。

 (C)法執行や規範の徹底に向けた戦略

 オンラインでの子供のプライバシーの保護: 子供向けの規範の徹底化戦略(Protecting children's privacy online: Our Children's code strategy)

 この戦略は、法律の執行と児童規範への準拠を継続する方法など、我われの取り組みの次の段階における優先事項をまとめたもの。

(D)追加のガイダンス

子供に向けた最善の利益確保策

 最初の基準の紹介、子どもの権利の理解、影響の特定と評価、行動の優先順位付け等。

年齢確認(Age assuarance):コミッショナーの意見(Age assurance for the Children’s Code)

 コミッショナーは、(1)IT企業がこの規範の年齢に適した適用基準を満たすことをどのように期待しているか、(2)年齢に適した適用がどのように実行されることを期待しているか、および(3)年齢確認による個人データ保護コンプライアンスへの期待。

アクセスされる可能性が高いISS向けガイダンス(‘Likely to be accessed’ by children – FAQs, list of factors and case studies)

子供を対象としたものではない場合でも、子供がサービスにアクセスする可能性がある ISS に対するガイダンス。

(E)あなたの分野に関し

Edtech (学校と教育テクノロジー)- あなたの質問が解決される。

学校や教育テクノロジーへのCodeの適用に関してよくある質問を例示(FAQ)。

②Codeが組織・団体に適用されるかどうかなど、デジタル ニュース業界でのコードの適用に関してよくある質問を例示。

ゲームデザイナーのための重要なヒントの提供 ( 児童向け規約に準拠する方法等)

リスク評価の実施、年齢確認の取得、透明性の確保、子供の情報の不利益な使用の防止、高度なプライバシー設定、責任あるプロファイリング、および積極的なナッジ技術の規制。

3.リソース

児童向けCodeにかかる自己評価リスク ・ツールキット(Children's code self-assessment risk toolkit)

  サービスにどのように適用されるかについてリスク評価を実施し、子供とそのプライバシーを保護するために適切かつリスクベースのアプローチを確実に適用するための実践的な手順を取得できる。

よくある質問: Codeに関する 15 の標準の解説

 Codeの標準を適用する方法についてよくある質問に答える。

データ保護影響評価 (DPIA) ツール(Tools for completing a data protection impact assessment (DPIA))

 オンライン小売、コネクテッド・トイ(注6)、モバイルゲームやアプリ向けの一般的な DPIA テンプレートとサンプル DPIAを提供。

Ⅲ.我が国のオンライン児童保護強化、徹底に向けた課題

1. オンライン児童保護に関する法制の現状

 環境整備法で、事業者・管理者側に閲覧できないような措置をとるよう努力義務を課しているが、罰則規定はない。わが国IHC(インターネットホットラインセンター)(注7)が主にメールで管理者側に削除を要請しても、2ちゃんねるの場合は「削除要請のメールに反応もない」(警察庁幹部)という。

 全国の警察は、ネット上の違法情報に基づく摘発を進めているが、大半は書き込みや投稿をした側が対象。サイト管理者側の摘発は、児童ポルノやわいせつ画像を掲載させた容疑など昨年は8件にとどまる。サーバーが海外にあるなど日本の法律の適用が難しいケースもある。

 ネット問題に詳しい岡村久道弁護士は「ネット上でも、交流サイト(SNS)のように身元を明かして情報交換などを行う場が広がり、匿名の掲示板には違法情報が集中しやすい構造にある」と指摘。「自らが管理する場所に違法情報があることを知ったら責任を持って対処すべきだ」として、サイト管理者が削除要請に応じる体制を整える必要性を強調している。(日経新聞サイトから抜粋)

 2.わが国の特に児童(小中学生)のオンライン利用からいかに子供たちを守るべきか(私見)

①「環境整備法」はあくまで抽象的に事業者の努力義務を課しているが、具体的でなく、また「罰則規定はない。実効性が疑問。

② IHC等国際的ネットワークのホットラインの効果はいかがであろうか。法的な罰則の根拠がないままで効果があげられるとは思えない。

③前記法で見る通り、「青少年」が対象であるが。海外の立法例も十分斟酌し、わが国でも13歳未満の児童のオンライン利用保護立法が喫緊の課題であろう。その根拠としてINHOPE年報で世界的に見た被害者の年令層やジェンダーを見た。その結果は以下のとおりである。(13歳未満の被害者は85% また女性の被害は95%)

④親や保護者に向けた具体的対応に向けたガイダンス、Q&Aがない。

*************************************************

(注1) 「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(平成20年法律第79号)」の一部抜粋

(定義)

第二条 この法律において「青少年」とは、十八歳に満たない者をいう。

2 この法律において「保護者」とは、親権を行う者若しくは後見人又はこれらに準ずる者をいう。

(携帯電話インターネット接続役務提供事業者等の青少年確認義務)

第十三条 携帯電話インターネット接続役務提供事業者及び携帯電話インターネット接続役務提供事業者の携帯電話インターネット接続役務の提供に関する契約(以下「役務提供契約」という。)の締結の媒介、取次ぎ又は代理を業として行う者(以下「携帯電話インターネット接続役務提供事業者等」という。)は、役務提供契約(既に締結されている役務提供契約(以下この項において「既契約」という。)の変更を内容とする契約又は既契約の更新を内容とする契約にあっては、当該既契約の相手方又は当該既契約に係る携帯電話端末等の変更を伴うものに限る。以下この条及び次条において同じ。)の締結又はその媒介、取次ぎ若しくは代理をしようとするときは、あらかじめ、当該役務提供契約を締結しようとする相手方が青少年であるかどうかを確認しなければならない。

2 携帯電話インターネット接続役務提供事業者等は、前項の規定により役務提供契約を締結しようとする相手方が青少年でないことを確認したときは、当該相手方に対し、当該役務提供契約に係る携帯電話端末等の使用者が青少年であるかどうかを確認しなければならない。

3 携帯電話端末等を青少年に使用させるために役務提供契約を締結しようとする者は、携帯電話インターネット接続役務提供事業者等が前項の規定による確認を行う場合において、当該携帯電話インターネット接続役務提供事業者等に対し、その旨を申し出なければならない。

(携帯電話インターネット接続役務提供事業者等の説明義務)

第十四条 携帯電話インターネット接続役務提供事業者等は、役務提供契約を締結しようとする相手方が青少年である場合にあっては当該青少年に対し、役務提供契約に係る携帯電話端末等の使用者が青少年であり、かつ、当該役務提供契約を締結しようとする相手方がその青少年の保護者である場合にあっては当該保護者に対し、次に掲げる事項について、説明しなければならない。

一 携帯電話端末等からのインターネットの利用により青少年が青少年有害情報の閲覧をする可能性がある旨

二 青少年有害情報フィルタリングサービスの利用の必要性及び内容並びに第十六条に規定する青少年有害情報フィルタリング有効化措置の必要性及び内容

(携帯電話インターネット接続役務提供事業者の青少年有害情報フィルタリングサービスの提供義務)

第十五条 携帯電話インターネット接続役務提供事業者は、役務提供契約の相手方又は役務提供契約に係る携帯電話端末等の使用者が青少年である場合には、青少年有害情報フィルタリングサービスの利用を条件として、携帯電話インターネット接続役務を提供しなければならない。ただし、その青少年の保護者が、青少年有害情報フィルタリングサービスを利用しない旨の申出をした場合は、この限りでない。

(携帯電話インターネット接続役務提供事業者等の青少年有害情報フィルタリング有効化措置実施義務)

第十六条 携帯電話インターネット接続役務提供事業者等は、携帯電話端末等(青少年有害情報フィルタリング有効化措置(インターネットを利用する者の青少年有害情報の閲覧を制限するため、インターネットと接続する機能を有する機器に組み込まれたプログラムの機能を制限する措置をいう。以下この条及び第十九条において同じ。)を講ずる必要性が低いものとして総務省令・経済産業省令で定めるものを除く。)であって、その販売が携帯電話インターネット接続役務の提供と関連性を有するものとして総務省令・経済産業省令で定めるもの(以下この条において「特定携帯電話端末等」という。)を販売する場合において、当該特定携帯電話端末等に係る役務提供契約の相手方又は当該特定携帯電話端末等の使用者が青少年であるときは、当該特定携帯電話端末等について、青少年有害情報フィルタリング有効化措置を講じなければならない。ただし、その青少年の保護者が、青少年有害情報フィルタリング有効化措置を講ずることを希望しない旨の申出をした場合は、この限りでない。

(インターネット接続役務提供事業者の義務)

第十七条 インターネット接続役務提供事業者は、インターネット接続役務の提供を受ける者から求められたときは、青少年有害情報フィルタリングソフトウェア又は青少年有害情報フィルタリングサービスを提供しなければならない。ただし、青少年による青少年有害情報の閲覧に及ぼす影響が軽微な場合として政令で定める場合は、この限りでない。

第三章 インターネットの適切な利用に関する教育及び啓発活動の推進等

第四章 青少年が青少年有害情報の閲覧をすることを防止するための措置

(注2) 環境整備法の要旨を引用する。

 18歳以下の青少年がインターネットを利用する際、暴力、アダルト、出会い系、薬物といった有害情報に触れる機会を減らすことを目的に作られた法律。

 正式名称は「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」。内容としては、企業や個人に対して主に下記のようなことを定めている。

ケータイ事業者……保護者が申し出た場合を除き、青少年がネットを利用する際にコンテンツフィルタリングサービスを提供する

インターネット事業者……コンテンツフィルタリングサービスの普及、および利用を促進するための措置を取る

サイト管理者……青少年にとって有害な情報が発信されていることを知ったときに、青少年の閲覧を防ぐように努める

 そのほか、青少年の安全なネット利用に関する基本方針を決める「インターネット青少年有害情報対策・環境整備推進会議」を内閣府に設置することや、フィルタリングの調査、開発、啓発を行なう団体を第三者機関として認定して、国や地方公共団体が支援することなどを定めている。

(注3) レコメンダー・システム(recommender system)は、情報フィルタリング (IF) 技法の一種で、特定ユーザーが興味を持つと思われる情報(映画、音楽、本、ニュース、画像、ウェブページなど)、すなわち「おすすめ」を提示するものである。通常のレコメンダ・システムは、ユーザーのプロファイルを何らかのデータ収集基準と比較検討し、ユーザーが個々のアイテムにつけるであろう評価を予測する。基準は情報アイテム側から形成する場合(コンテンツベースの手法)とユーザーの社会環境から形成する場合(協調フィルタリングの手法)がある。(Wikipedia から抜粋)

(注4) “Call for Evidence”とは、政府のモデル分析などについて、その根拠となる仮定やデータが適当であり、利用可能な最善の根拠に基づくものあるかを検証するため、広く国民、専門家、事業者、NGOなどに対して、質問票の照会事項に沿った、根拠に基づく情報の提供を照会する(公開協議)ものである。その意味からして、わが国で一般的な「根拠に基づく情報提供の照会」という訳語は誤訳であろう。

(注5) 子供にオンライン サービスを提供するために子供の個人データを使用する場合は、どうする必要があるか?(ICOサイトから抜粋、仮訳する)

子供にオンライン サービスを提供するために子供の個人データを使用する場合は、DPIA を実行して、その処理がデータ主体の権利と自由に高いリスクをもたらすかどうかを確認する必要がある。 これは、子供たちへのオンライン サービスの提供が、そのようなリスクを引き起こす可能性が高い状況の 1 つであると ICO がみなしているためである。 さらに詳しいガイダンスについては、データ保護影響評価に関する詳細なガイダンスを参照されたい。

英国GDPR 8 条には何と書かれているか?

 英国の GDPR の第 8 条は、情報社会サービス (information society service (ISS)  を子供に直接提供する場合に適用される。 この文脈における子供の個人データの処理について常に同意を得る必要はないはないが、同意に依存することを選択した場合は、次のようなさらなる条件が定められている。

 「1. 第 6 条 第1項 の点 (a) が児童への直接的な情報社会サービスの提供に関連して適用される場合、児童の個人データの処理は、児童が 13 歳以上であれば合法となる。 児童が 13 歳未満の場合、そのような処理は、児童に対する親の責任を負う者の同意が得られるか許可されている場合に限り、またその範囲においてのみ合法となる。

  1. 管理者は、このような場合、利用可能なテクノロジーを考慮して、子供に対する親の責任を持つ者によって同意が与えられているか、または許可されているかを確認するための合理的な努力を払うものとする。
  2. 第 1 項は、児童に関する契約の有効性、成立、効力に関する規則などの国内法で運用されるため、一般契約法には影響を及ぼさないものとする」

(注6) 「コネクテッド・ トイ」は、Wi-Fi、Bluetooth、またはその他の機能が組み込まれたインターネット対応デバイスである。これらのおもちゃは、スマート・ トイである場合もそうでない場合もあり、アプリの統合、および/または画像認識、RFID機能、およびWeb検索機能、音声認識を提供できる組み込みソフトウェアを通じて、子供たちによりパーソナライズされた遊び体験を提供する。コネクテッド ・トイは通常、ユーザーに関する情報を自発的または非自発的に収集するため、プライバシーに関する懸念が生じる。(Wikipedia から抜粋、仮訳)

(注7) インターネット・ホットラインセンター(IHC)は、ホットラインの国際的な連合組織である”INHOPE”の日本支部である。

利用者からインターネット上の違法情報や自殺誘引等情報、重要犯罪密接関連情報の通報を受理し、ガイドラインに基づいて警察に情報提供するとともに、サイト管理者等に送信防止措置を依頼する。

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ドイツ連邦データ保護法および連邦電気通信テレメディア・データ保護法 (TTDSG)の改正を巡り何が変わるのか、企業等は何に特に注意を払う必要があるのか?

2024-04-04 17:40:08 | 個人情報保護法制

 2024 年 2 月 7 日、ドイツ連邦内閣は連邦データ保護法(Bundesdatenschutzgesetz :以下、「 BDSG」という)を改正する法案 (以下、「法案」という) を承認した。 この法案は今後、連邦参議院(Bundesrat:連邦レベルでドイツの16の州を代表する立法機関)に意見を求め、その後、連邦議会 (Bundestag))に提出されて議論され、場合によっては採択される予定である。

 この法案は、BDSGの第1部と第2部を一部改正することにより、2021年の連邦内務省によるBDSG評価で浮き彫りになった問題に対処することを目的としている。 他の立法プロジェクトではさらなる修正に取り組む予定である。

 この法改正につきドイツを中心に400 lawyers, 22 languagesをカバーする国際法律事務所である「HEUKING」の標記解説記事blogを読んだ。筆者はDr.Philip Kempermann氏( LL.M.(法学修士)である。他の解説を踏まえ補足しつつ仮訳、解説を加える。

Philip Kempermann氏

 要約すると「ドイツ連邦政府はデータ保護の施行と一貫性を改善するために、我々は欧州の協力を強化し、連邦データ保護法(Bundesdatenschutzgesetz :以下、「 BDSG」という)に「データ保護会議(Datenschutzkonferenz:Data Protection Conference)(以下、「DSK」という)」を制度化し、可能な限り法的拘束力のある決定を下せるようにしたいと考えている。現在、 連邦内閣は現在、BDSGの改正草案を承認しており、その目的はデータ保護とBDSGの評価結果に関する連立協定を部分的に実施することである。

 また、同時に連邦デジタル・運輸省(BMDV)も電気通信電気メディアデータ保護法 (Telekommunikation-Telemedien-Datenschutz-Gesetz – TTDSG)の改正草案を提示した。 電気通信電気メディアデータ保護法 (Telekommunikation-Telemedien-Datenschutz-Gesetz – TTDSG) は、特に「番号に依存しない対人電気通信サービス」が次のように標準化した完全エンドツーエンド暗号化を使用して電気通信サービスを提供することが義務付けられる範囲で改正される予定である。

Ⅰ.BDSGの主な改正点

 1970 年代に BDSG が導入されて以来、数多くの法律改正が行われてきた。 法律の明確化を目的とした多くの変更に加えて、データ管理者とデータ主体に影響を与える可能性のある特定の変更も数多く行われている。

(1)新たに導入された BDSG 草案第 16a に従って、データ保護会議 (Datenschutzkonferenz – DSK) は、独立したデータ保護監督当局の正式な代表機関としての立場に関する疑念を払拭するために制度化される。 しかし、連立合意の意図に反して、DSKの決議は法的拘束力を持たないままであり、さもなければ憲法上の制限に影響を与える可能性がある(混合統治)

(2)BDSG 草案の新設第 40a 条によると、国境を越えたプロジェクトを行う企業および/または研究機関は、単一の州のデータ保護当局にのみ服従するものとします。(注1) これらの企業は、共同管理者であることを共同で示すことができる必要があります。 その場合、管轄監督当局は、通知の前の会計年度において年間売上高が最も高かった企業が管轄する当局となる。 通知は、共同管理者に対して責任を負うすべての監督当局に行われるべきである。

 科学的または歴史的研究目的および統計的目的でデータを処理する共同管理者、および独占的企業でない、または独占的企業ではない共同管理者については、最も多くの人が雇用されている当局が単独で責任を負うという条件で、新設のBDSG40a が適用される。

(3)GDPR第 15 条に基づくデータ主体のアクセスの権利

  GDPR第 15 条 は、情報が管理者または第三者の企業秘密またはビジネス秘密をデータ主体に開示する可能性を規定しており、ドイツは機密性に対する利益が情報に対するデータ主体の利益を上回る場合の扱いについて、BDSG 改正草案第 34 条(Section 34 Right of access by the data subject)によって明確化される。

 その背景は欧州司法裁判所 (CJEU) は、2023 年 7 月 12 日 判決( C-634/21 )において、民間信用情報会社SCHUFAスコアリングが第三者の権利を決定するものである場合には、許されない自動決定に当たるとの判決を下したことである。 送信されたSCUFAのスコア値は、この与信申込人物との契約関係を確立、実行、または終了する。 CJEU の判決は、GDPR の要件が BDSG 第 31 条の適用を妨げるかどうかの問題も扱っている。 ヴィースバーデン行政裁判所と欧州司法裁判所法廷長官は、EU法違反を含む「深刻な懸念」を表明し、その結果、連邦政府はBDSG第31条を廃止し、新たに第37a条を新設し、置き換えることでこの問題を是正したいと考えているという。 この問題は、後記第2節で詳しく述べる。

(4)企業実務にとって重要な点:企業秘密における情報への主体の権利の制限

 連邦政府はBDSG 第 34 条の改正も望んでいる。この基準は、GDPR 第 15 条に基づく情報に対する権利が適用されなくなる条件を規定する。 BDSG は、法定の保存要件によりデータが削除できないため、データが保存されるだけの場合に当てはまる。しかし、新しい改正法の文言によれば、情報に対する権利はもはや公法に基づく法律には適用されないのみでとある。

 一方、新たに挿入された法案文によれば、営業秘密または営業秘密が関係者に漏洩する可能性があり、秘密保持に対する利益が関係者の情報に対する利益を上回る場合には、情報に対する権利はもはや存在しないはずである。

 BDSG 第 34 条の規定のいずれかにより情報に対する権利が存在しなくなった場合、第 3 項は、本人の要求に応じて少なくとも連邦長官に情報を提供する可能性を規定している。この段落では、連邦公共団体がこの可能性について関係者に通知する義務を追加した。

 例外は、営業秘密および営業秘密の機密性への利益が、情報におけるデータ主体の利益を上回る場合に適用される。

 (5)民間団体のビデオ監視に関する法規制の撤廃

 BDSG第4条第(1)項の改正案は次のように要約される。(注2)

「公的機関による光学電子機器(ビデオ監視)を備えた公的にアクセス可能な部屋の観察は、許可される。」

 その結果、非公的機関、特に企業による公的にアクセス可能な部屋のビデオ監視に関する規制は、BDSG連邦法から削除された。このビデオ監視の許容性は、GDPR の第 6 条第 1 項に直接基づいている。

 考えられる影響:規制がこのように施行された場合、BDSG第4条第4項がまだ参照されている場合、ビデオ監視の参照標識は法的根拠に関する調整と見なす必要がある。

2.欧州連合司法裁判所 (CJEU) は、2023 12 7 日、SCHUFA Holding AG (以下、「SCHUFA」という) に対して画期的な判決

 CJEUのリリースと判決原本、ならびに解説から抜粋、引用、仮訳する。

(1)SCHUFA とは何か

 SCHUFA とは個人を中心とした信用スコアである。ドイツに住むほぼ全ての人についてスコアがつけられている(移住して間もない場合はスコアデータが出せない)。

 SCHUFA は決して公的機関の出すものではなく、Schufa Holdings AG という民間金融機関や一般事業会社からの出資によって経営されている会社によって運営されている。

 一般のスコア Basisscore は、100点満点中 97.5 以上であれば最優秀のカテゴリーですが、95 以上であれば十分で、90 を超えていれば何とか支障はないという印象です。逆に50 を切るとかなり問題になる。

 これとは別に、100 を最高点に600 台まで下がっていく、SCHUFA-Orientierungswert というスコアもある。

 また、SCHUFA には主に2種類あって、オンラインで請求して書面郵送を待つ正式版の SCHUFA-BonitätsAuskunftと、銀行や不動産系のウェブサイトでもその場で PDF の形でダウンロードできる SCHUFA-Bonitätscheckがある。

(2) 2023 年 12 月 7 日、欧州連合司法裁判所 (CJEU) は、SCHUFA Holding AG (以下、「SCHUFA」という) に対して画期的な判決を下した。この判決は、信用スコアリング機関の「EU 一般データ保護規則 」の適用方法に影響を与える可能性がある。 判決では、借り手予定者(prospective borrower) (以下、「OQ 」という)対. ヘッセン州事件で、CJEU は、SCHUFA の信用スコアリングが GDPR 第 22 条の対象となる自動意思決定 (以下、「ADM」という) として適格であると決定した。以下で、裁判経緯を概観する。

①事件の背景

 この事件には、ドイツの民間信用照会機関である SCHUFA が提供した信用情報に基づいて貸し手が融資申請を拒否した後、GDPR に基づく個人の権利を行使した「OQ」が関係している。 SCHUFA は OQ の個人データを使用して個人の信用度を示すスコアを生成し、その後ドイツの金融業者と共有した。

 OQ は、GDPR に従って、SCHUFA の自動信用スコアリング プロセスに関する情報を求める件名アクセス リクエストを作成した。 具体的には、GDPR 第 15 条 (1) (h) では、個人が「関係するロジック、およびデータ主体にとってのそのような処理の重要性と予想される結果について」知るためにADM に関する情報を要求することを許可している。 要約すると、第 22 条第 1 項は、「[データ主体] に関する法的効果を生み出す、または同様に [データ主体] に重大な影響を与える」決定をもたらす処理の自動化を規定している。

 SCHUFAは、企業秘密を理由に、OQのこの情報の要求を拒否した。 SCHUFA は、同社は第 22 条第 1 項の対象となる種類の ADM を実行しておらず、最終的な融資決定に向けた「準備行為」に従事しているだけであると主張した。 ローン申請を拒否する決定を下したのは SCHUFA ではなく銀行等貸し手であり、SCHUFA の役割は OQ の自動スコアを作成することだけであり、したがってSCHUFAは、OQの第15条の要求に従う必要はないと主張した。

CJEUは何を決定したか?

 CJEU は、SCHUFA の主張に反して、同機関は第 22 条第 1 項に従う決定を下したという判決を下した。同裁判所は、SCHUFAが金融機関によるOQの融資申請拒否の結果において「決定的な役割」を果たしたことから、SCHUFAは実際に関連するGDPRの ADM義務の対象となる意思決定者を構成していると明言した。

 これは、例えば信用スコアリングの法的根拠を作成することになり、 それは消費者を保護するのに役立つ。すなわち、以下のデータを使用して、スコアリング中に確率値を作成することはできないことになる。:

  • 民族的起源、生体認証データ、健康データなど、DSGVO第9条1項の意味における個人データの特別なカテゴリ。
  • ソーシャルネットワークの使用によるデータ主体の名前または個人データ。
  • 銀行口座からの入金および入金に関する情報。
  • アドレスデータ。
  • 未成年者に関するデータ。

 この決定を受けて、CJEUはプレスリリースを発行し、第三者が自動プロセスを「信用の付与における決定的な役割」とみなす場合、実施される信用スコアリングは「GDPR第22条によって原則的に禁止されている[ADM]とみなされなければならない」という与信決定機能を確認した。

SCHUFA事件の信用情報(スコアリング)事業者等への影響

 GDPR第 22 条に基づく ADM の構成要素に関するこの CJEU の広範な解釈は、企業が個人に影響を与える最終的な決定を下さなかったとしても、企業が「決定的な役割」を果たしている場合には、依然として GDPR の ADM 義務の対象となる意思決定者を構成できることを意味する。最終的な結果では。 特に、この決定は信用スコアリング機関に影響を与えるだけでなく、個人に重大な影響を与える決定を下す際に信頼されるリスクベースのスコアを生成する自動プロセスを使用するサービスプロバイダーにも影響を与える可能性がある。

 したがって、意思決定チェーンに参加する自動化プロセスに従事するすべての団体・組織は、自身がGDPR に準拠する独立した義務があるかどうかを検討する必要がある。

3.連邦法務省の改正法案の逐条解説 

 連邦法務省のBDSG改正法案の逐条解説(全27頁)を以下で、仮訳する。

第1条

連邦データ保護法の改正 

(1)  目次を次のように変更する(Die Inhaltsübersicht wird wie folgt geändert:)

(2)  第 1 条は次のように修正される。(§ 1 wird wie folgt geändert:)

(3)  第 1 部第 2 章を次のように修正する。(Teil 1. Kapitel 2. wird wie folgt geändert:)

(4) 第 1 部、第 4 章の後、次の第 4a 章を 挿入する(Nach Teil 1. Kapitel 4. wird folgendes Kapitel 4a. eingefügt:)

(5)  第 17 条は次のように修正される。(. § 17 wird wie folgt geändert:)

(6) 第 18 条は次のように修正される。

(7). 第 19 条第 1 項は次のように修正される。(§ 19 Absatz 1 wird wie folgt geändert)

(8) 第 27 条は次のように修正される。(§ 27 wird wie folgt geändert:)

(9) 第 29 条第 3 文 1 において、情報「2a」が情報「2」に置き換えられる(In § 29 Absatz 3 Satz 1 wird die Angabe „2a“ durch die Angabe „2“ ersetzt.)

(10) 第 30 条第 2 項第 3 文は廃止される。(§ 30 Absatz 2 Satz 3 wird aufgehoben.)

(11) 第 31 条は廃止される。(. § 31 wird aufgehoben.)

(12) 第 34 条は次のように修正される。(§ 34 wird wie folgt geändert:)

(13) 第 37 条は次のように修正される。(. § 37 wird wie folgt geändert:)

(14)第 37 条の後に、次の第37a 条が挿入される。

「§37a スコアリング」(Nach § 37 wird folgender § 37a eingefügt:§ 37a Scoring)

(15) 第40 条第 2 項は次のように修正される。(§ 40 Absatz 2 wird wie folgt geändert:)

(16) セクション 第40条 の後に、次の第40a 条が挿入される。

「第40a条 共同責任会社の監督権限」

(筆者注:本条はEUのGDPR第56条のワンストップ・ショップ制度を取りこんだもの。複数の加盟国内に拠点を有する管理者/処理者の処理を担当する監督当局を一つに集中させることを狙いとしている。具体的には、管理者/処理者の主たる拠点の監督当局が、国境を越えた処理に関する主要監督当局としての役割を果たし、管理者/処理者にとって、越境での処理に関わる唯一の窓口となる。

主要監督当局は、意見の一致を図り、すべての関連情報を交換するよう、他の関連する監督当局と協力する。主要監督当局は、他の監督当局が相互支援や共同作業を行うよう要請し、特に、他の加盟国内に拠点をもつ管理者/処理者に関わる調査や対策実施の監督を行う。(筆者ブログ(注1)参照。)

(第2条以下は略す)

 Ⅱ.ドイツ連邦電気通信テレメディア・データ保護法 (TTDSG) の一部改正法案

 電気通信情報保護法に基づく同意管理業務等に関する改正法案につき連邦「交通・デジタル・インフラ省(Bundesministerium für Digitales und Verkehr)」の法案解説を抜粋、仮訳する。 

 1.エンドツーエンド暗号化の義務化に加えて、明確化および補足的な規制も法律に組み込む必要がある。

 たとえば、「安全なエンドツーエンド暗号化」(注3)とは、通信コンテンツが送信側エンドユーザーで暗号化され、受信側エンドユーザーでのみ再度復号化されるため、閲覧することはできず、電気通信サービスのプロバイダーまたは第三者はキーにアクセスできず、伝送路全体にわたって解読できないようにする暗号化技術として定義される。

 エンドユーザーには、電気通信サービスのプロバイダーからエンドツーエンド暗号化について通知される必要がある。 このような暗号化が技術的に不可能な場合、プロバイダーは、そのような暗号化を妨げる技術的な理由に関する情報を提供する必要がある。

2.新たに導入されたTTDSG-E第13a 条は、商業的に提供される電気通信サービスのプロバイダーが、EUの刑事手続きにおける証拠、および刑事手続き後の懲役刑の執行には証拠を必要とする「欧州電子情報セキュリティ命令(Electronic evidence in criminal proceedings – production and preservation orders)(注4)の場合に電子証拠を保護および送信するために必要な場合に限り、加入者データ、トラフィック データ、および位置データを処理できるようにすることを目的としている。 (TTDSG第13条は位置情報規定(Standortdaten)

 3.同じ目的で、TTDSG-E 第24a条 によれば、ユーザーが相互に通信したり、別の方法でデータを処理したりできるようにする商用テレメディアのプロバイダーは、データの保存が許可されることを条件として、加入者データと使用状況データの処理を許可されるべきで、ユーザーに提供されるサービスのプロセスの決定的な部分である。 これは、インターネット ドメイン名と、IP アドレス割り当てやドメイン名登録サービスなどの IP 番号付けサービスのプロバイダー、ドメイン名レジストラ サービスのプロバイダー、ドメイン名に関連するプライバシーとプロキシ サービスのプロバイダーにも適用される必要がある。

4.2 つの新たな違反行為につきTTDSG第28条細則(Bußgeldvorschriften) の罰金規定に追加される。

  一方で、TKG の第 3 条第 13 号(注5)の意味に含まれるエンドユーザーは、エンドツーエンド暗号化の実装または可能性について通知される必要がある。 一方、ユーザーには、TKG 第3条(定義)第41号(注6)の意味の範囲内で、提供されたユーザーのみが情報を読み取ることができるようにする継続的かつ安全な暗号化の可能性について通知する必要がある。 罰金の額は変更されるべきではない。 TTDSG-E 第29条 (注7)では、データ保護と情報の自由に関する連邦長官の権限が拡大される。 特に、データ保護の遵守を確保するための命令やその他の措置を講じることができるようになる。

現在のところ、そのような一般条項は GDPR 第 58 条に規定されていない。 この権限が GDPR 第 58 条に記載されている権限にどの程度限定されるかは、まだ不明である。TTDSG-E第 29 条 の措置を施行するために、最大 100 万ユーロ(約1億6400万円)の違約金の支払いを設定する可能性があることは言うまでもない。

*********************************************************

(注1) BDSG 草案の新設第 40a 条はGDPR第56条、第60条のワンストップ・ショップ・メカニズムの国内法化である。

ワンストップ・ショップ・メカニズムにつき、筆者blog(注1)参照。

(注2) 現行法のBGSG第 4条第1項を仮訳する。

公共のアクセス可能なスペースにおけるビデオ監視

(1) 光電子機器による公共のアクセス可能なエリアの監視 (ビデオ監視) は、次の必要な場合にのみ許可される。

  1. 公共機関がその任務を遂行するため、
  2. 誰かにアクセスを許可または拒否するかを決定する権利を行使するため、
  3. 特別に定義された目的のために正当な利益を保護するため、

また、もしデータ主体の正当な優先利益を示すものが何もない場合、以下の ビデオ監は、参加者の生命、健康、自由を保護することは、非常に重要な利益とみなされる。

  1. スポーツ施設、集会や娯楽の場所、ショッピングセンターや駐車場などの公共の利用できる大規模な施設
  2. 公共鉄道、船舶、またはバス交通機関の車両および公共の利用できる大規模な施設、

(注3) エンドツーエンド暗号化(end-to-end encryption、E2EE、E2E暗号化)は、通信経路の末端でメッセージの暗号化・復号を行うことで、通信経路上の第三者からのメッセージの盗聴・改ざんを防ぐ通信方式である。E2EEを用いた通信では、メッセージは意図した受信者だけが復号できるよう暗号化してから転送されるため、通信が傍受されたり、通信を中継するサーバが危殆化したりした場合でも、通信の機密性が確保される。

 一方、TLS(Transport Layer Security)では、通信はメッセージを中継するサーバとの通信経路では保護されるが、中継サーバからは保護されない。一方、E2EEを用いると、メッセージはサーバ間ではなく通信経路の末端で暗号化・復号されるため、通信は中継サーバを含む意図した受信者以外から保護される。(Wikipedia から抜粋)

(注4) “Electronic evidence in criminal proceedings – production and preservation orders”の立法目的の規定を仮訳する。

データの所在に関係なく、刑事犯罪の捜査と訴追に使用される電子証拠へのアクセスを容易にし、迅速化することを目的としている。

欧州連合 (EU) 加盟国の司法当局は、別の加盟国におけるサービスプロバイダーの指定設立またはその任命された法定代理人に対し、次のことを要求することができる。

加入者データ、ユーザーを識別するために必要なインターネット・ プロトコル (IP) アドレス、電子メール、テキスト、アプリ内メッセージなどの電子証拠を作成する。

また、今後のリクエストが保留されるまで、指定されたデータを保存する。

(注5) Telekommunikationsgesetz (TKG)第 3 条Begriffsbestimmungen(定義)第13号の仮訳

13.号 「エンドユーザー」とは、公衆電気通信ネットワークを運営せず、公的に利用可能な電気通信サービスを提供しないユーザーを意味する。

(注6) TKG 第3条(定義)41号の仮訳

 「ユーザー」とは、公的に利用可能な電気通信サービスを私用またはビジネス目的で使用または申請する自然人または法人を意味する。

(注7)  TTDSG第29条「データ保護と情報の自由に対する連邦長官の責任、任務、権限」参照。

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フロリダ州、オハイオ州およびウタ州等の未成年者のソーシャル・ メディア・ プラットフォーム利用にかかる厳格な規制州法立法とそれらを巡る憲法違反裁判等の最新動向

2024-04-02 11:52:18 | ITと未成年者保護

 フロリダ州では3月25日(月)、州知事ロン・デサンティス(Ron DeSantis)氏はSB 3法案に署名した。この法案は大まかにいうと、ソーシャル・メディア・プラットフォームに対し、14歳未満の個人のアカウント作成を停止する一方で、14歳または15歳のアカウント作成については親や保護者の同意を求めることを義務付けている。州法務局は、違反 1 件につき最高 50,000 ドル(約755万円)の民事罰金、妥当な弁護士費用および訴訟費用、および (特定の条件下で) 懲罰的損害賠償を徴収する場合があり、また未成年のアカウント所有者に対し、最大 10,000 ドル(約51万円)の損害賠償を請求することもできる。

 この法律は 2025 年 1 月 1 日に発効する。

 この記事を読んで、まず筆者は他州の動向を調べるべくオハイオ州、ウタ州の法解説サイトにたどり着た。

 今回のブログは、これら3州の法内容を比較すべくまとめるとともに、これら発生するであろう大手テクノロジー企業のメンバーからなる全国的な業界団体であるNetChoiceの告訴による仮差止命令の意義等に言及する。

 この判決は、いくつかの州が州レベルで子供のプライバシーを規制しようとし、連邦取引委員会(FTC)が連邦レベルでCOPPA制度の大幅な変更を提案(注1)するなど、米国内および海外で子供のデータ・プライバシーへの注目が高まっている中で下された。

 一部の州では、ソーシャル・ メディア・ プラットフォームなど、特定のコンテンツや Web サイトの種類に制限を設けることで、より対象を絞ったアプローチを採用しているが、カルフォルニア州(注2)等他の州では、英国の「子供のアクセスの年齢適正化デザイン規則(Age-Appropriate Design Code))(「Children’s Code」が略称)」のより包括的なアプローチに従っている。(注3)(解説から一部抜粋)

 なお、Children’s CodeはEUのGDPRおよび国連子どもの権利条約(UN Convention on the Rights of the Child :UNCRC)などに大きく依存しており、今後のわが国の子どものソーシャル・メディア・プラットフォーム等保護法の在り方を考える上で重要となろう。

 なお、後述するオハイオ州連邦地裁判決には筆者には大いなる異論がある。この点はEUのAI法の対する米国の考えの差にもつながる。この点については、別途本ブログで取り上げる予定である。

-1.フロリダ州上院の法案解説

 フロリダ州上院の法案解説仮訳する。(法案原文)

 この法案は、規制対象のソーシャル・メディア・プラットフォームに対し、14歳未満の未成年者がアカウント所有者となるためにソーシャルメディア・プラットフォームと契約を結ぶことを禁止することを義務付けている。 14 歳または 15 歳の未成年者もアカウント所有者になることができるが、親または保護者の同意がある場合に限る。ソーシャル・ メディア・ プラットフォームは、次の場合にこの法案に基づいて規制される。

(1)ユーザーがコンテンツをアップロードしたり、他のユーザーのコンテンツやアクティビティを表示したりできるようにすること。

(2)法案に記載されている一定の毎日のアクティブ ・ユーザー指標を満たすこと。(筆者補足:一定とは16 歳未満の場合、毎日のアクティブ ・ユーザーの 10% 以上が、過去 12 か月間、プラットフォームで 1 日あたり 2 時間以上過ごしたこと)。

(3)ユーザーデータまたはユーザーに関する情報を分析するアルゴリズムを採用して、ユーザー向けのコンテンツを選択できること。

(4)特定の中毒性のある機能・内容を持っていること。

 この法案は、14 歳未満の未成年者が所有するすべてのアカウント、および 14 歳または 15 歳の未成年者が所有するが親または保護者の同意を得ていないアカウントに関して、規制対象のソーシャル・ メディア・ プラットフォームにそれらのアカウントを停止することを義務付けており、また、アカウント所有者またはその親または保護者がアカウントを終了できるようにする義務がある。

 ソーシャル・ メディア・ プラットフォームは、法律で個人情報の保持が義務付けられていない限り、これら停止されたアカウントに関連して保有するすべての個人情報を永久に削除しなければならない。

 また、この法案は、ウェブサイトやアプリケーション上で未成年者にとって有害なコンテンツを意図的かつ故意に公開または配布する規制対象の営利団体に対し、そのウェブサイトやアプリケーションにコンテンツの大部分が含まれている場合、18 歳未満による当該コンテンツへのアクセスを禁止することも義務付ける。

 それらは未成年者にとって有害であり、このような営利団体は、匿名または標準の年齢確認方法を使用して、未成年者にとって有害なコンテンツにアクセスしようとする人の年齢が法案の年齢要件を満たしていることを確認する必要がある。

 また、匿名の年齢確認方法を使用する場合、その確認は、米国の州の法律に基づいて組織された非政府の独立した第三者によって行われなければならない。この年齢確認に使用された情報は、年齢を確認した後に削除する必要がある。

 規制対象のソーシャル メディア プラットフォーム、営利団体、および法案の要件に故意かつ無謀に違反する営利団体の年齢確認を行う第三者は、「フロリダ州欺瞞および不公正取引慣行規制法(Florida Deceptive and Unfair Trade Practices Act)」に基づく強制法執行の対象となる。

  州法務局は、違反 1 件につき最高 50,000 ドル(約755万円)の民事罰金、妥当な弁護士費用および訴訟費用、および (特定の条件下で) 懲罰的損害賠償(注4)を徴収する場合がある。また未成年のアカウント所有者に対し、最大 10,000 ドル(約51万円)の損害賠償を請求することもできる。

-2.フロリダ州の16歳以下の未成年のアクセスを制限するソーシャルメディア規制法案の詳細

2024.3.29 Inside Privacy「フロリダ州は16歳以下の未成年のアクセスを制限するソーシャルメディア規制法案を制定」を前節と重複しない形で仮訳する。

 3月25日(月)、フロリダ州知事ロン・デサンティス(Ron DeSantis)氏はSB 3法案に署名した。 この法案は大まかに、ソーシャル・メディア・プラットフォームに対し、14歳未満の個人のアカウントを停止する一方で、14歳または15歳のアカウント作成については親の同意を求めることを義務付けている。 この法律は 2025 年 1 月 1 日に発効する。

Ron DeSantis氏

  主要な規定を、以下のとおり要約する。

(1)ソーシャルメディア・プラットフォームの定義

  この法案は、次の基準をすべて満たすプラットフォームに適用される。

① ユーザーがコンテンツをアップロードしたり、他のユーザーのコンテンツやアクティビティを閲覧したりできるようにします。

② 16 歳未満の毎日のアクティブ ユーザーの 10% 以上が、過去 12 か月間、プラットフォームで 1 日あたり 2 時間以上過ごしたこと。

③ ユーザーデータまたはユーザーに関する情報を分析して表示するコンテンツを選択するアルゴリズムを採用しています。

 ④ 1 つ以上の中毒性のある機能が含まれている。

(2) 「中毒性のある機能」の定義

 この法律は、以下は中毒性のある機能とみなされると説明する。

① 無限スクロール(infinite scroll) (継続的に読み込まれるコンテンツ、または終了または改ページがないコンテンツ; ページを下にスクロールするたびに記事がある限り無限に次々と読み込まれて記事が表示される動きのこと)。

② アカウントのアクティビティまたはイベントについてユーザーに通知するプッシュ通知(注5)またはアラート。

③ 他のユーザーがユーザーのコンテンツに反応、共有、または再投稿した回数を示すインタラクティブな指標。

④ ユーザーがビデオまたは再生ボタンをクリックせずに再生を開始するビデオ機能。

⑤ ユーザーまたは広告主がリアルタイムでライブビデオコンテンツをブロードキャストできる機能。「ソーシャル メディア・ プラットフォーム」の定義の 4 番目の要素を満たすには、機能が 1 つだけ存在する必要があることに注意されたい。

(3) 未成年者のアカウントの特定と開設

  ソーシャル メディア ・プラットフォームは、アカウントに関連付けられた年齢情報と、コンテンツやコンテンツをターゲットや広告目的でプラットフォームがアカウントを処理または分類する方法の両方を考慮して、アカウントを評価して、そのアカウントが 15 歳以下のユーザーに属しているかどうかを判断する必要がある。

(4) 14 歳未満のアカウント:14 歳未満と判断された人のアカウントは停止されなければならない。アカウント所有者は、停止に対して 90 日間異議を申し立てることができる。 アカウント所有者またはその親もアカウントの終了を要求することができる。この場合、アカウント所有者が要求した場合は 5 営業日以内に、また親が要求した場合は 10 営業日以内に終了する必要がある。 さらに、プラットフォームは、法的要件を除き、終了したアカウントに関連するすべての個人情報を永久に削除する必要がある。

(5)私的訴訟の権利

 この法律の故意または無謀(reckless)な違反は、不公平で欺瞞的な取引慣行であり、国家によって罰則が強制される。 州は、違反 1 件につき最高 50,000 ドル(約755万円)の民事罰金と、妥当な弁護士費用および訴訟費用を徴収する場合がある。 また、違反行為のパターンに対して懲罰的損害賠償(punitive damages)が課されることもある。

(6)年齢認証

 未成年者にとって有害なコンテンツが 33.3% 以上含まれている Web サイトまたはアプリケーション上で、未成年者にとって有害なコンテンツを故意かつ意図的に公開または配布する営利団体は、ユーザーが 18 歳以上であることを確認するために年齢認証を実行する必要がある。ただし、 報道機関はこの要件から免除されます。

 事業体は、標準または匿名の年齢確認の両方のオプションを提供する必要がある。 匿名の年齢確認は、年齢確認に使用された後は個人識別情報を保持せず、そのような情報を匿名に保ち、不正または違法な使用、アクセス、破壊、変更、または開示から保護するプロセスとして定義される。この規定は、国家および私的訴訟権を通じて執行可能である。

Ⅱ.Utah 州「Utah Social Media Regulation Act」の概要

(1)2024.3.1 Utah州法(Utah Social Media Regulation Act)を施行

 Utah 州の統合法案(S.B. 152 Social Media Regulation Amendments)の解説から抜粋、仮訳する。

 ソーシャル・ メディア・ プラットフォームへの関与による未成年者への危害について、親、保護者、教育者、安全担当者、研究者、個人などとしての経験を共有されたい。

■2024 年 3 月 1 日以降、ソーシャル・ メディア企業は以下を行う必要がある。

〇ソーシャル メディア アカウントの維持または開設を希望するユタ州の住民の年齢を確認する

〇18 歳未満のユタ州ユーザーの場合は、親または保護者の同意を得る。

〇親または保護者は子供のアカウントへのフルアクセスを許可する。

〇未成年アカウントへの夜間アクセスをブロックするデフォルトの門限を設定 (午後 10 時 30 分から午前 6 時 30 分) を作成し、保護者が調整できるようにする。

〇未成年アカウントを未承認のダイレクト・メッセージから保護する。

〇未成年アカウントを検索結果からブロックする。

■さらに、ソーシャル メディア企業は次のことを行う。

〇未成年者の個人データは収集できない。

〇未成年者のソーシャル・メディア・アカウントを広告のターゲットにすることはできない。

〇中毒性のあるデザインや機能を備えた未成年のソーシャル・ メディア・ アカウントをターゲットにすることはできない。

■ソーシャルメディア規制法の施行

 消費者保護局は、新しい法律を施行するために行政的または民事上の措置を講じる場合がある。法違反は 2024 年 3 月 1 日から同部門に報告できるようになる。

■ソーシャルメディア規制法が公布された。

プレスリリース: ユタ州行政規則局( OAR )がソーシャルメディア規制法の規則を発行

ユタ州がTikTokを告訴(ウタ州司法長官の告発状

動画: コックス知事がTikTok訴訟を発表

プレスリリース: ユタ州、児童中毒被害を巡りTikTokを提訴、中国に拠点を置く親会社との「巻き込み」を標的に

■ユタ州がメタ(META PLATFORMS, INC., and INSTAGRAM, LLC,)を告訴訴訟(ウタ州司法長官の告発状)

プレスリリース: ユタ州、児童中毒被害とFacebookとInstagramの危険性について両親を欺いたとしてメタを告訴

Ⅲ.Ohio の規制法制定と裁判

1.州法「Social Media Parental Notification Act」の制定

 同法は、ソーシャル・メディア・プラットフォームに年齢確認措置を課し、16歳未満のユーザーには親の同意を求めるものである。オハイオ州法は、特に子供を対象としたプラットフォーム、または子供がアクセスする可能性が高いプラットフォームに適用され、以下の要素に基づいて決定される。

(1) 主題。

(2) 言語。

(3) デザイン要素。

(4) ビジュアル・コンテンツ。

(5) アニメキャラクターや子供向けの活動やインセンティブの使用。

(6) 音楽またはその他の音声コンテンツ。

(7) モデルの年齢。

(8) 子供芸能人や子供向けの有名人の存在。

(9) 広告。

(10) 視聴者の構成に関する経験的証拠。

(11) 対象読者に関する証拠。

 さらに、この法律は、製品レビュー サイトと、コメント機能を備えた「確立され広く認知されている」ニュース サイトを例外としている。

  違反に対する罰則は、(i) 違反の最初の 60 日間は 1 日あたり最大 1000 ドルの罰金が含まれる。 (ii) 61 ~ 90 日目は 1 日あたり最大 5000 ドルの追加料金。 (iii) 91 日目以降は 1 日あたり最大 10,000 ドルの追加料金である。

 この法律はオンラインで未成年者を保護することを目的としている一方で、デジタルプラットフォームにおける言論の自由、曖昧さ、コンプライアンスの負担について深刻な懸念を引き起こしている。

2.米大手テクノロジー企業のメンバーからなる全国的な業界団体NetChoiceが連邦地裁に憲法違反で告訴と一連の企業の対応

 大手テクノロジー企業のメンバーからなる全国的な業界団体であるNetChoiceが主に合衆国憲法修正第1条を根拠に、これらの法律をめぐってさまざまな州を訴えおよびオハイオ州では2024年1月9日、オハイオ州南部地区連邦地方裁判所裁判決の争点内容と他州への影響につき、 以下のローファームの解説をベースに仮訳する。

 2024.2.15 JD Supra LLCの解説「Court Prohibits Ohio’s AG From Enforcing Social Media Parental Notification Act」

 2024.1.22 Hunton Andrews Kurth LLP’の解説「Ohio Social Media Age Verification and Parental Consent Law Temporarily Blocked 」

 オンラインビジネスを代表する業界団体であるNetChoiceは、同法がNetChoiceの会員とそのユーザー双方の憲法修正第1条と第14条の権利を侵害しているとして、オハイオ州司法長官デイブ・ヨスト(Dave Yost)氏に対して仮差止命令を出すよう申し立てた。

Dave Yost 氏

 NetChoice は、この法律は表現の自由とインターネット上の情報にアクセスする権利を不当に制限していると主張した。 さらに、NetChoiceは、この法律は曖昧であり、一部の企業が適用すらされない法律を遵守するために不必要に多額の費用を費やすことになると主張した。

 裁判所はまず、NetChoice が NetChoice の主張を聞き入れなかった場合の言論の自由への萎縮効果などの憲法上の損害だけでなく、会員への経済的損害に基づいて、NetChoice が自社とその会員の両方を代表して訴訟を起こす資格があると判断した。 次に同裁判所は、言論の自由への影響とソーシャル・メディア・プラットフォームとそのユーザーに及ぼす潜在的な損害を考慮し、合衆国憲法修正第1条と第14条の両方のレンズを通して同法を精査した。

1.厳格な精査と内容に基づく制限: 裁判所は、本法は「内容に基づく」ものであるため、最高水準の審査である厳格な精査の対象であると判断した。 厳格な監視のため、政府は、法律が政府のやむを得ない利益にかなうように、厳密に調整されたアプローチを使用していることを示す必要がある。 司法長官は、オハイオ州法は、「子供を対象とした」サイト、または「子供によるアクセスが合理的に予想される」サイトに適用することで、未成年者のプライバシー、健康、安全にリスクをもたらすプラットフォームに適用を調整しているだけで特定のコンテンツをターゲットにするのではないと主張した。 しかし裁判所は、特定の機能を備えたサイトに適用される法律の規定は、そのサイトが管理し育成することを意図したコミュニティに関するメッセージを伝えているため、本質的にコンテンツベースであると判示した。 さらに、裁判所は、明らかにコンテンツベースであるとして「確立された」ニュースサイトと製品レビューサイトの例外を指摘した(一例として、裁判所は、なぜ法律に書籍や映画のレビューサイトの例外も含まれていないのかを尋ねた)。 したがって、裁判所は、この法律は言論を選択的に規制しており、厳しい精査の対象であると判断した。

2.法律の曖昧さと範囲の広さ: 裁判所は、同法の曖昧さと広範な適用が言論の自由を冷やす可能性があり、プラットフォームのコンプライアンス要件が不明確であると認定した。 たとえば、司法長官は、オハイオ州法は未成年者が個人データの使用を許可する利用規約を締結することを保護することに関係していると主張した。しかし、裁判所は、この法律は、親の同意がない限り未成年者をこれらのサイトから完全にブロックしているため広範すぎる一方、「子供は親の同意がなくてもニューヨーク・タイムズとの契約に同意することができ、 しかしFacebookはそうではない」と判示した。 司法長官はまた、特定のソーシャルメディアサイトの使用によって子どもたちに潜在的な心理的および現実世界の危害が及ぶ可能性についても列挙したが、これに対して裁判所は、この法律は「子どもたちに対するソーシャルメディアの危害を軽減するための、息をのむほど率直な手段である」と答えた。 憲法修正第 14 条に基づく曖昧さの問題に関して、裁判所は、「確立された」および「広く認知されている」報道機関に対する同法の「眉をひそめるような例外」を指摘し、「そのような大胆で主観的な表現は事実上、法的規制の恣意的な適用を招く」と結論付けた。

3.未成年者の権利への影響: 2011 年の最高裁判例、ブラウン対エンタープライズ事件を取り上げます。 マーチャンツ・アッセンは、未成年者への暴力的なビデオゲームの販売を禁止するカリフォルニア州法を無効としたが、裁判所は、司法長官が主張したように、オハイオ州法は親権を強制するものではなく、むしろ親の拒否権を条件として政府の権限を課すものであると指摘した。 。 裁判所はまた、オンラインプラットフォームには保護された言論を未成年者と成人の両方に広める権利があるという逆の主張も行った。

4.衡平法上の正当な権利と公共の利益のバランス: NetChoice が本案と取り返しのつかない損害の可能性に関して成功の可能性が高いことを示したと結論付けた後、裁判所は、差し止め命令が他者に損害を与えるかどうか、および公衆に害を及ぼすかどうかという最後の 2 つの予備的な差し止め命令の要素を検討しました。 これら 2 つの要素は「政府が当事者である場合には統合される」と指摘し、差し止め命令によって利益が得られるだろう。 司法長官は、法律の施行を許可して未成年者を保護することで公共の利益が果たされると主張したが、裁判所は「国家は憲法に違反する法律を施行することに関心がない」というネットチョイスの主張に納得した。 したがって、裁判所は一時的差止命令を認めた。

 本訴訟は、ソーシャル・メディア・プラットフォームを規制しようとする立法府の試みと、プラットフォームとそのユーザーの言論の自由やその他の憲法上の権利とを争う最近および係争中の数多くの訴訟の1つである。

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(注1) 米国連邦法「COPPA(Children's Online Privacy Protection Act)」とは、米国連邦取引委員会(FTC)が、子どものオンライン個人情報を保護者の管理下で安全に管理することを目的に制定した法律。 COPPAでは、子ども向けのサイトやアプリが13歳未満の子どもから情報を収集する場合は、本人確認済みの親や保護者から許可を得ることを義務付けている。

(注2) 英国Children’s Codeは、様々な影響をすでに与えており、例えばYouTubeは18歳未満のユーザーの自動再生機能を無効にした。他にも、Instagramは、フォロー外の18歳未満のユーザーに大人がメッセージを送ることを禁止、TikTokは、時間帯によって18歳未満に対するプッシュ通知の送信を停止するなど、対応を余儀なくされている。(解説から抜粋)

(注3) 今回の規則はEUのGDPR(一般データ保護規則)や2018年のデータ保護法をベースに策定されたもので、今年の秋に英国議会で審議される見通しだ。法案が成立した場合、企業らは12カ月間の猶予期間内に、新基準を満たすことを求められる。

 この規則は子供がアクセスする可能性のあるアプリやソーシャルメディア、ストリーミングサイト、ネット接続可能な玩具まで、あらゆるネットを用いたサービスを対象とする。サービスの運営者は、プライバシー設定をデフォルト状態で高度なレベルにしておくことを求められ、子供らに抜け道を与えてはならない。規則に違反した企業は最大で1700万ポンド(約25億円)の罰金もしくは、世界の総売上の4%の支払いを求められる。小規模な企業にとってシステムの改修は大きな負担になり得るし、利用者の年齢を把握する義務も生じる。デジタルの権利と自由の保護を推進する団体のOpen Rights Groupも、基本的にはこの規則を歓迎しているが、様々なサービスに年齢認証が義務づけられることには懸念を示している。(Forbes japan記事から抜粋)

(注4) 懲罰的損害賠償の請求(punitive damage)とは、英米法上の概念であって、主として不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において、強い非難に値する加害者の行為に対して裁判所の裁量により、実際の損害の補填に加えて制裁金を上乗せして賠償請求をすることをいう。

(注5) プッシュ通知とは特にモバイル端末において、情報の更新があった際に自動でユーザーへ送られる通知を指す。

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生成AIにおける人間(人力)のキュレーター(Human curator)の役割の神髄を明確化した新論文の意義

2024-03-30 14:10:14 | 生成AIとキュレーター

 昨今、生成AIの功罪を巡る議論が高まる中で、消費者保護から見たマーケティング活動の問題に関し重要と考える点を例示する。

(1)テレビ番組等のサプリメント等スポンサー広告の多過ぎ、またインフルエンサー広告は全く無意味、(2)ネット広告・ターゲット広告のしつこさ(場合によっては詐欺広告類似)、(3)なりすまし詐欺メールの氾濫、(4)かつて一般に利用出来た商品テスト(注1)は皆無である。

 このようなマーケィングの在り方に加えて、AI技術の普及は消費者にとってメリットはますます後退している。(3月29日付け読売新聞1面連載特集「情報偏食:AIが回答「多様性減少」第6部 求められる規範五最終回 参照)

  ところで、ブロガー(コンテンツ・クリエイター)である筆者は、最近AIにおける人間のキュレーター(Human curator)の役割の神髄を明確に指摘した海外レポートを読んだ。具体的にはジョーン・ウェステンバーグ(Joan Westenberg )氏のblog「キュレーション(人力で情報を収集、整理、要約、公開(共有)すること)は知的な会話における最後の望みである」およびグレグ.・ブックレス(Greg Buckles)氏(注2)の eDiscovery Journal への最新投稿 「キュレーション : AI の事実の背後にある人間の意味(Curation – the Human Meaning behind the AI Facts)」のうち、今回は内容から見て目から鱗が落ちるといえる前者のみ取り上げる。また、RSSの再評価などもわが国では珍しい点で特記事項にあたる。

Greg Buckles 氏

 さらに、AIに関しコンテンツ・キューレーターやコンテンツ・アグリゲーターの役割等につき、わが国で詳しく解説したものは皆無である。今回のブログの後半でまとめた。

 なお、後段で説明するコンテンツ・アグリゲーターの例について、筆者はこの例示には異論がある。【私見】として長年の筆者の法律ブロガーの経験から補追する。

Ⅰ.AIキュレーションは、知的な会話(discourse)における最後の望みである」

 Joan Westenberg氏のレポート仮訳する。なお、注書き、リンクおよび太字部は筆者の判断と責任で行った。

Joan Westenberg 氏

 ChatGPT のようなツールを使用すると、誰でも、いくつかのプロンプト(コンピューターがユーザーに対して入力を促す記号)を表示するだけで、書き直された Wikipedia の記事、エッセイ、規範(code )、詩などを思いつくことができる。 コンテンツ作成のこの「民主化」は、これまで聞かれなかった声に力を与えるという偉大な約束として宣伝されている。 しかし、ここでいう「民主化」という言葉は間違いなく誤った呼び名といえる。

 これは、コンテンツ作成の力関係における平等主義的な変化を示唆しており、より多様な声を聞くことが可能になるとされている。この視点は、よく言えば盲目的に理想主義的で、悪く言えば冷笑的に操作的であるが、AI が支配するインターネットの根底にある複雑さと潜在的な落とし穴を認識していない。

 これは、さまざまな層にわたってこれらのテクノロジーに平等にアクセスし、理解していることを前提としているが、これは現実とはかけ離れている。デジタル格差(digital divide)は依然として大きな障壁となっており、これらのツールへの公平なアクセスを妨げている。 これらの AI テクノロジーの管理と開発は少数の大手企業や機関に集中しており、(必然的に) 情報のゲートキーピング(門番)、偏見、情報の商業化につながる。

 AI によって生成されたコンテンツが無差別に拡散しても、過小評価されている人々に力を与えることも、知識創造を民主化することもできない。 むしろ、一般に公開されている情報の信頼性と信頼性がさらに薄まり、ますます断片化することになる。

AI の過剰利用により、誤った情報や低品質のコンテンツの問題が大幅に悪化している。

  AI テクノロジーの現状には、AI テクノロジーが生成するコンテンツの正確性と完全性を確保するために必要な微妙な理解と倫理的判断が欠けている。 この能力のギャップにより、誤った情報が野放しに拡散し、言説を分断し、分断を深め、意思決定を妨げる水門が開かれる。

 これは結局、 以下の1 点に集約される。 人間によるキュレーションは、現在これまで以上に重要になっている。 アルゴリズムが精度や品質の程度に応じて膨大な量の情報を量産する中、人間のキュレーターの洞察力のある判断が、誤った情報と平凡さの潮流に対する唯一の防御手段となり、 人間のキュレーターは、(1)微妙な理解、(2)状況認識、(3)倫理的判断をそのテーブルに乗せるが、これらの性質は、現在の状態では AI が基本的に再現することができないものである。

 人間のキュレーターは、アルゴリズムではできない方法で、微妙な議論を区別し、文化的な微妙さを認識し、情報源の信頼性を評価することができる。 この人間味は、情報エコシステムの完全性を維持するために不可欠である。これは、品質のフィルターとしてだけでなくAI システムによって生成される圧倒的なノイズの中で、意味のある信頼できるコンテンツを示す信号としても機能する。

  人間のキュレーターの役割は、コンテンツを選択して提示するだけではなく、人間の洞察力だけが提供できる信頼性と信頼性の感覚をデジタル環境に吹き込むことでもある。 テクノロジーが容易に誤解を与えたり、圧倒したりする時代においては、人間によるキュレーションを信頼することは優先事項ではなく、世界の理解を形作る情報の質を維持するために必須なものとなっている。

 フェディバース(Fediverse)(注3)内外で、尊敬される声が分散型SNSであるマストドン(Mastodon)やその Web サイトなどのプラットフォームを活用して、POSSE モデルに従って個人的に精査されたリンク、分析、創作物を共有している。つまり、自分のサイトで公開し、他の場所でシンジケートする。 これらの人間キュレーターは、高品質で人間中心のコンテンツをソーシャル・ ネットワークに配信する前に、独自の洞察力のレンズを通して渡すことで、出所が疑わしい機械生成コンテンツの海の中に正気の島を作り出す。 さらに、彼らのフォロワーは、これらの洞察の価値ある情報(nuggets)をソーシャル・ウェブ上でさらにシンジケートし、一元化され、アルゴリズムによって強化されたフィードに代わる手段を提供する。

 この分散型分散モデル(distributed, decentralised model)は、Web 自体のアーキテクチャ、つまりネットワーク内のネットワーク、信頼と認識された権限に基づいて他のサイトにリンクするサイトに従う。 これは、利益主導の巨大企業によって後押しされた、いわゆる「インフルエンサー」だけにたよるコンテンツ生成だけでなく、読者の積極的な参加と批判的思考を中心とした情報民主主義の再考である。我々キュレーター全員には、自分の注意を注意深く管理し、共有や推奨を通じて広めるコンテンツに対して責任がある。声が増えるとノイズも増えるが、識別力を高めれば真実の信号を見つける機会も増えるのである。

 この POSSE モデル(注4)は RSS(Rich Site Summary)(注5) と見事に連携しており、加入者は中央プラットフォームによって完全に検閲されていないオープン標準フィードを介して、信頼できる Web サイト、ブログ、ポッドキャストをフォローできるようになる。 RSS は、ソーシャル・ メディアの消防ホースの時代にはほとんど忘れられていたが、壁に囲まれた庭園内のアルゴリズム・ フィードからの重要な出口を提供する。 これにより、読者が自分自身の情報ダイエットを決定できるという主体性が戻り、クリエイターにはサードパーティのネットワークを介するのではなく、視聴者との直接的な関係が与えられる。

 またRSS は、テクノロジー・ エッセイストのヴェンカテシュ・ラオ(注6)氏が「コモンシズム(commonsism」と呼ぶものを可能にする。これは、記事全文を含む Web サイトからの簡単な時系列の更新を通じて、読者が再び自分自身の注意を向けることができるようにするものである。RSS を使用すると、コンテンツ・ ストリームが再び民主的になり、各人が中央のゲートキーパーにフィードを送信するのではなく、さまざまなサイトからフィードを厳選するようになる。これは、情報民主主義を文脈に基づいて再考するものであり、読者が自分の興味や価値観に沿って情報摂取量を決定することにつき信頼を増す。

 RSS と POSSE の復活は、初期のブログ時代に繁栄した個人 Web サイトのエコシステムの復活を示しています。 作家、研究者、技術者などが、公開ノートと洞察を共有するチャネルの両方として、フィードを備えた独立したホームページを再起動している。 個人の Web サイトは、オンライン上の究極の主権領域であり、クリエイターが独自の条件でコンテンツを共有できるようになる。 これらのサイトは、外部情報をフィルタリングして知恵と視点を養いながら、アイデアをデジタル公共広場にエクスポートする。 これらは、サイト所有者の行程に基づいて時間の経過とともに進化する、まさに拡張可能な生きたドキュメントである。

 Large Language Grift (大文字詐欺商法)の時代には、情報源の出所と信頼性のシグナルをさらに可視化する必要がある。クリエイターの個人サイトでは、明確な情報起源のストーリーと背景を通じてこれを提供する。 我われは物語の作者が誰であるかを正確に知っており、それに応じて評価することができる。これらの個人は、個人サイトからリンクし、ソーシャル・チャネルを介してシンジケートすることによって、信頼できるノードを備えたネットワークにシード値を与える。 クリエーターの拠点は、過剰生成による作戦基地や要塞となり、慎重な検討に基づいて、彼らが高い信号とみなしたものだけを情報発信することになる。

 自然界の生態系が繁栄するには、動植物間の注意深いバランスが必要である。 同様に、私たちのAI情報環境も、編集者、著者、記者、アナリスト、熱心な市民など、デジタル公共広場全体にわたる洞察のノードを管理する思慮深い人間の管理者に依存している。注意と洞察力があれば、人間中心のコンテンツを向上させることができ、情報民主主義を、計算上の法定ではなく、信頼できる人間の判断に基づいた共有の協力的なプロセスとして再考することができる。

 一部の企業は、完全な自動化といくつかのプラットフォームの統合を支持し続け、それが増加や拡大する唯一の方法であると信じている。しかし、それは視点の独占を生み出し、モノカルチャーが連鎖的な失敗や濫用により脆弱になる危険を冒すことにつながる。 我われは、主権者の声がより広範な知識生態系に貢献できるようにする相互運用可能なプロトコルを必要としている。 生成アルゴリズム(Generative algorithms)は、既存の厳選された洞察を完全に置き換えるのではなく、強化するように指示できる。我々は、オンラインと自然内のネットワーク間の健全な接続が、どのノードをも超える反脆弱性と集合知にどのように貢献するかを見てきた。

 生態系の多様性がこれらの大規模なAI言語モデル自体に関係している可能性があるという初期の兆候がある。 Anthropic 社の「憲法 AI (Constitutional AI)」(注7)のようなツールは、自動出力で既存のコーパス(corpora)(注8)を上書きするのではなく、既存のコーパスを尊重するように設計されている。本質的に慎重で支援的なシステムは、人間が厳選したノードと調和して動作し、編集の完全性を損なうことなく増幅を提供できる。 人間と機械のハイブリッド・キュレーションを念頭に置いて慎重に構築されたこれらのテクノロジーは、たとえ私が AI 仲間についてどれほど不満や不平を言ったとしても、前向きな力になることができる。

 多くの点で、我われの情報ダイエットのキュレーションを、我われの利益と一致しない遠く離れたプラットフォームに委託してきた。 知識ネットワークをナビゲートする際にたとえ部分的な主体性を取り戻すことは、セルフケアの行為である。 独自の RSS フィードを設定し、個人サイトにリンクし、インスピレーションを与える声を高めることは、健全な情報民主主義の基礎である。 単に無限に生成することではなく、信頼できるガイドを介して思慮深い情報の刈込剪定、編集、文脈設定によって定義されるものである。

 どの庭園でも、成長の季節には、栽培、剪定、さらには土壌を補充するための休閑期間など、手入れの季節が必要であると同様に、単に情報を支配したりコントロールしたりしようとするのみではなく、情報の豊饒のサイクルを私たちが受け入れられるべきで形態にすべきである。

Ⅱ.コンテンツのキュレーターとコンテンツ アグリゲーターの違いの明確化

 TechTargetジャパン(IT製品/サービスの導入・購買に役立つ情報を提供する無料の会員制メディア)の解説から抜粋、仮訳する。

1.コンテンツ・アグリゲーターとは何か?

 コンテンツ・ アグリゲーターは、再利用のためにさまざまなオンライン・ソースから Web コンテンツとアプリケーションを収集する個人、組織、またはツールをいう。 コンテンツ ・アグリゲーターは、独自のオリジナル コンテンツを作成しない。

 コンテンツ・ アグリゲーターには 2 つのタイプがある。(1)内部使用のために表示するコンテンツを収集するものと、(2)顧客に配布するためにコンテンツを収集するものである。 後者のアプローチはシンジケーションとも呼ばれる。 アグリゲーターは、ブログ、ニュース、ソーシャル・メディア投稿など、さまざまな種類のコンテンツを収集する場合がある。

 コンテンツの集約は、インターネット上の膨大な量のコンテンツと情報を整理し、それによって情報過多と戦う方法である。 これは、コンテンツ作成者、消費者、マーケティング担当者にとって役立ち、エンタープライズ・ コンテンツ管理 (ECM) 戦略のコンポーネントでもある。

2.コンテンツ ・アグリゲーターはどのように機能するか?

 コンテンツ・ アグリゲーターは、インターネット上の複数のソースからデータを収集し、単一のリポジトリに入れる。 アグリゲーターは、公開される新しいコンテンツを継続的に収集する。 多くの場合、コンテンツ・ アグリゲーターは RSS フィードを使用してこの機能を自動化したり、特定のトピックを中心としたコンテンツや特定のキーワードを含むコンテンツを検索したりする場合がある。

 一部のコンテンツ・アグリゲーターは、人工知能 (AI) を使用してコンテンツを検索、フィルタリング、収集する、より高度なツールに依存している。 たとえば、AI ツールを使用するニュース・アグリゲーターは、ウェブ上の何千もの記事を自動的に読み取り、最も洞察力のある記事を決定したり、次のような定義された基準に基づいて優先順位を付けたりするアルゴリズムを備えている。

①特定のキーワード

②ハッシュタグ

③トレンド

④トピック

⑤類似のコンテンツ

 類似したコンテンツの場合、ユーザーは、類似したコンテンツを見つけるためのモデルとして機能するコンテンツをコンテンツ・ アグリゲーターにフィードできる。 ユーザーは、どの結果が役に立ったかについて AI アグリゲーターにフィードバックを送信できる。 AI ツールは入力を使用して将来のコンテンツを選択する。

 集約プログラムは多くの場合、アプリケーション・プログラミング・インターフェイスを使用して他の Web アプリケーションに接続する Web アプリケーションである。

3.コンテンツのキュレーションとアグリゲーション

 コンテンツのキュレーションとアグリゲーションは、既存のコンテンツを収集して再公開するプロセスの以下の 2 つの別個の部分である。

(1)コンテンツの集約

 集約とは、バックエンドでのデータとコンテンツの収集と編成を指す。 多くの場合、集計は自動化されたプロセスである。 アグリゲータは、コンテンツ内の特定の特徴 (キーワードなど) を自動的に検索することにより、Web からソースを取得する。 アグリゲーターはコンテンツを頻繁に投稿することで、検索エンジンの最適化にプラスの効果をもたらす。

(2)コンテンツのキュレーション

 キュレーションとは、コンテンツに簡単にアクセスして使用できるようにコンテンツを編成、配置、表示することである。 キュレーターは個人または企業の場合があり、キュレーションは通常、手動のプロセスである。

 コンテンツ・ キュレーターは、さまざまなコンテンツを取得できる複数のソースにアクセスできる必要がある。 理論的には、個人はコンテンツ集約ツールを使用してコンテンツを自動的にまとめ、その後手動でそのコンテンツを調べて、最適なものを選択してキュレートすることができる。 キュレーションを成功させるには、エンド ユーザーのニーズに関する洞察を活用し、コミュニケーション・チャネルを通じて戦略的にコンテンツを共有するかどうかにかかっている。

 コンテンツ・キュレーションの例としては、Twitter や YouTube などのソーシャル・サイトが機械学習を使用して有害なコンテンツを検出して削除する場合等がある。

4.コンテンツ・ アグリゲーターを使用する理由は何か?

 コンテンツ・アグリゲーションの主な利点は、特定のトピックや重点領域に関連する多数のコンテンツが 1 つにまとめられることである。 通常、アグリゲータは情報を効率的に整理し、コンテンツをすばやく見つけられるようにする。

 人々や組織がコンテンツ・ アグリゲーションやコンテンツ ・アグリゲータを使用する理由には、次のようなものがある。

①消費者は、他の方法では見ることのできないさまざまなコンテンツにアクセスできるようになる。 これにより、既存の興味に関する新しいコンテンツを常に把握し、新しい興味を発見することができる。

②コンテンツ・クリエイターは、コンテンツ・ アグリゲーションを使用して、自分の作品をより広範なコミュニティまたは新しいコミュニティに公開し、コンテンツの認知度を高める。

③デジタル マーケティング担当者は、コンテンツ・ アグリゲーターを使用して、コンテンツを複数のプラットフォームに配信してより幅広い視聴者に公開することで、デジタル・ コンテンツ・ マーケティング戦略を改善できる。 また、アグリゲーターを使用して、さまざまなプラットフォームで誰が自社のコンテンツに関与しているかを確認することもできる。

5.コンテンツ・アグリゲーターの種類

 アグリゲーターは、扱うコンテンツの種類とコンテンツの収集元によって異なる。 アグリゲーターは 1 つのソースからコンテンツを収集し、それを 1 か所に整理してキュレーションを容易にすることができる。 たとえば、企業は内部コンテンツを整理するために集計ツールを使用する場合がある。

 アグリゲーターが使用されるコンテンツの種類には、次の 6 つが含まれる。

ブログ: ブログ・アグリゲーターは、複数のソースからニッチなブログ投稿を収集し、中央サイトに表示する。 Blog Engage はブログ・ アグリゲーターの一例である。

ニュース: これらのアグリゲーターは複数の情報源からニュースを収集します。 例としては、Google ニュースや Apple ニュースなどがある。

ソーシャルメディア: Curator などのソーシャル メディア・ アグリゲーターは、Facebook や Twitter などのさまざまなソーシャル・ メデイア・サイトから情報を取得し、その情報をライブ映像として表示する。

Research:リサーチ・アグリゲーターは、専門家からの質問に答えたり、さまざまな業界の動向を把握したりするために、研究ジャーナルから情報を収集する。 Feedly は研究論文を集約するために使用できる。

サービス: サービス ・アグリゲーターは複数のサービス・ プロバイダーを収集し、ユーザーが選択肢を参照して 1 つ選択しやすいように分類する。 たとえば、Airbnb は、特定の場所でユーザーが滞在できる可能性のあるすべての宿泊場所を表示する。

➅ビデオ: ビデオ・ アグリゲータは、特定のトピックに関する最近公開されたビデオをさまざまなサイトから集める。 YouTube はビデオ・ アグリゲーターの一例である。

6.コンテンツ・アグリゲーターの例

 コンテンツ・ アグリゲータは通常、Web ベースのツールまたはアプリケーションである。 一部のツールはさまざまなコンテンツ タイプを集約でき、多くの場合、ユーザーが特定のタイプのコンテンツに集中できるようにカスタマイズ可能である。

 コンテンツ集約ツールの例には、次のものがある。

AllTopはニュース アグリゲーター。

Apple Podcasts  はポッドキャストを集約。

Blog Engageはブログ・ アグリゲーター。

Curatorはソーシャル・メディア・アグリゲーター。

Google ニュースはニュース コンテンツを集約。

Feedlyは、あらゆる種類のコンテンツを対象とした AI を活用したアグリゲーター。

Flipboard は、カスタマイズ可能なフィードを備えたブログ・ アグリゲーター。

Information and Content Exchange (ICE) は、財務データと市場データを集約。

Pandaはニュース・ アグリゲーター。

Rotten Tomatoesは映画レビューを集約。

Reddit は、ニュースおよびソーシャル・ コンテンツのアグリゲーター。

Science News は科学関連のコンテンツを集約。

travel blogger communityは、旅行関連のコンテンツが集約。

Taggboxは、マーケターが自分について投稿している人を確認するために使用するソーシャル ・メディア ・アグリゲーター。

Ⅲ.コンテンツ・キュレーションの取組みから見た新たな提言

 Ⅱ.の内容の最後にコンテンツ集約アグリゲーター・ツールの例を挙げた。しかし、筆者が約18年間かけて築いてきた海外情報ブログ、特に法律、個人情報保護、情報セキュリティにつき原データを正確に理解し、翻訳、追加説明を行うには、コンテンツ集約アグリゲーターのみに頼ることは極めて危険ある。

 すなわち、例えば法律の立法や裁判情報 正確に読むには、まず収集力や執筆陣が優れたロースクールや多くの国際的拠点や異なる言語に習熟した人材をかかえる大手ローファームからの第一次情報の入手が必須である。具体的なこれらの情報源のついてはこれまでの筆者のブログを読まれれば明らかであろう。

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(注1)世界的なオーストラリアの商品テスト機関である消費者保護団体“CHOICE”については、筆者ブログ「オーストラリアの消費者擁護団体やACCCが行った水に流せる使い捨てシートによる下水施設の「ファットバーグ」の原因追及と製造企業の広報活動の在り方をめぐる告発の動向」を参照。

(注2) Greg Buckles 氏は、 eDiscovery(電子情報開示)と Infographic solutionsに重点を置いた独立系コンサルタント。

*米国の民事訴訟においては、当事者は、事件に関連する全情報の開示が求められる。これをディスカバリー(Discovery=証拠開示)制度という。この制度により、訴訟の当事者は、相手の有する証拠と成り得る情報を有利不利に関わらず、広範に取得することができる。

ディスカバリーの方法には

  • 質問書(Interrogatories
  • 文書提出要請(Request for Production
  • デポジション:証言録取(Deposition

などがある。

このうち電子データに関わるものがeディスカバリー(eDiscovery)である。正式にはElectronic Discovery(電子情報開示)といい、米国では2006年12月の連邦民事訴訟規則(FRCP)改定によって義務付けられた。

これにより企業は、原告被告のどちらもが、法的要求に応じてコンピュータなどに保存されているすべての関連データを証拠として期限内に提出する責を負う。 日本企業の場合には、日本に保存されているデータも対象となり、情報は膨大な量になる。開示対象となるべき情報を、その保存場所が発見できずに提示できないなどの場合には、厳しい制裁措置を受けたり敗訴に至る事例が多々あり、注意が必要である。(解説から引用)

(注3) Fediverse (「federation(連合)」と「universe(世界)」の合成語)は、SNSミニブログブログ等を含むWebサイトの公開やファイルホスティングを行う、独立性を保ったまま相互接続されたサーバー群のことを指す。異なるサーバー(インスタンス)それぞれにおいてユーザーがアカウントを作成し、異なるサーバーに属するアカウント同士が各サーバー上のソフトウェアが実装するオープン標準通信プロトコルを通して通信できることが特徴である。(Wikipedia から抜粋)

(注4)「Posse モデル」は学生と大学キャンパスの両方で機能し、慎重に選ばれ訓練された少数の多様な才能のある学生グループ、つまり Posse が個人とコミュニティの発展の触媒として機能できるという信念に基づいています。 米国がますます多文化社会になるにつれ、21 世紀のリーダーはこの国の豊かな人口構成を反映する必要があるとPosseは考えている。 我が国の有望な未来の鍵は、複雑な社会問題に対して合意に達した解決策を開発する、多様な背景を持つ強力なリーダーの能力にかかっている。 Posse の主な目的は、こうした明日のリーダーを育成することである(解説から抜粋、仮訳)

(注5)  RSS(アール・エス・エス:Rich Site Summary)とは、ウェブサイトの要約や記事の見出しなどを配信するためのXMLベースのデータフォーマット。

RSSリーダーと呼ばれるソフトウェアやRSSに対応したブラウザを使用することで、総務省に掲載された新着情報を素早く入手して、興味のある記事を簡単に閲覧することができる。(総務省の解説から抜粋)

(注6) Venkatesh Rao氏は2007年の“ribbonfarm”の創設者でかつチーフ編集者である。

(注7) Anthropic と集合知プロジェクトは最近、AI システムの憲法草案を作成するために、約 1,000 人のアメリカ人が参加する公開入力プロセスを実行した。 これは、民主的なプロセスが AI 開発にどのような影響を与えるかを調査するために行った。 実験の結果、社内の体質に共感できる部分と、好みが異なる部分が分かれた。 この投稿では、その結果として得られた公的に入手された憲法と、憲法 AI を使用して憲法に対して新しい AI システムをトレーニングしたときに何が起こったかを共有する。

憲法 AI (CAI) は、憲法に書かれた高レベルの規範原則を遵守するように汎用言語モデルを調整するために Anthropic が開発した手法である。 Anthropic の言語モデル“Claude” は現在、Anthropic の従業員が厳選した憲法に依存している。 この憲法は、国連世界人権宣言などの外部情報源と、言語モデルをより有益で無害にするために言語モデルを操作したわれわれ自身の直接の経験からインスピレーションを得ている。

憲法 AI は、AI システムの規範的価値をより透明にするのに役立つが、これらの価値を選択する際に開発者としての私たちが果たす大きな役割も強調している。結局のところ、我われは憲法を自分たちで書いたのである。 そのため、この研究では、Anthropic で働いていない多くの人々の好みを使用して憲法を作成することに熱心であった。 われわれの研究は、一般の人々がオンラインの審議プロセスを通じて言語モデルの動作を集団的に指示した最初の例の 1 つである可能性があると信じている。 われわれのごく初期の取り組みと発見を共有することで、他の人が私たちの成功と失敗から学び、この取り組みをさらに発展させるのに役立つことを願っている。(Anthropic社のサイト3/26(54)を仮訳)

 筆者は別の「憲法AI」の解説文を読んだ、参考として以下、仮訳、引用する。(WIREDの解説も併読されたい)

憲法 AI: 基本ガイド

急速に進化する人工知能 (AI) の分野では、倫理とセキュリティが全面的に重視される傾向がますます高まっている。 この状況から浮かび上がってくる顕著なコンセプトが「憲法AI」である。 AI システムが司法、統治、政策立案などの重要な分野で足場を築くにつれて、憲法遵守の要求が最重要になっている。 本解説では、Constitutional AI の世界を明らかにし、AI セキュリティに関心のある技術的に鋭い読者に合わせた包括的な理解を提供する。

(1)「憲法AI」とは何か? 憲法上の AI の定義

本質的に、憲法 AI は、法的枠組み、特に憲法原則と AI システムを融合させたものである。 その目標は、AI の運用を国の憲法やその他の基本的な法的文書に謳われている法的および倫理的原則に組み込んで確実に整合させることである。 これは、社会契約の中心にある権利、特権、価値観を認識するだけでなく、尊重する AI システムを構築することを意味する。

(2)なぜ憲法AIなのか?

①倫理的保護:AI が人命に影響を与える意思決定を行う中、憲法を認識した AI は潜在的な倫理上の落とし穴に対する防波堤として機能し、基本的権利の保護を確実にすることができる。

②法令遵守:特に司法や政策決定などの分野における AI の決定の法的影響を考慮すると、憲法ガイドラインの遵守は交渉の余地がない。

③大衆の信頼の強化:AI を広く導入するには信頼が極めて重要である。 AI システムが基本的な社会原則に準拠していることを一般の人々が知ると、受け入れと信頼が強化される。

(3)憲法AIの仕組み

①ルールベースのシステム:1 つのアプローチは、憲法上の原則が明示的なルールとしてエンコードされる、ルールベースの AI モデルを構築することである。 この方法は明確性を提供するが、あいまいなシナリオでは柔軟性に欠ける可能性がある。

②トレーニングデータの拡張:憲法上の原則は、AI トレーニング・ データセットに組み込むことができる。 これにより、機械学習プロセス中に AI システムがこれらの原則を確実に内部化する。

③憲法検証レイヤー:事後検証レイヤーを統合でき、最終的な決定が下される前に AI 出力が憲法上の原則に照らして相互検証される。

④法律専門家とのフィードバック・ループ:AI モデルの継続的な改良は、法律専門家からのフィードバックを統合することで実現でき、憲法の微妙な違いを尊重しながらシステムを確実に進化させることができる。(解説から抜粋、仮訳)

(注8) 「コーパス(Corpus)」とは、自然言語の文章や使い方を大規模に収集し、コンピュータで検索できるよう整理されたデータベースのこと。日本語では「言語全集」などとも呼ばれる。AIが自然言語を扱うためには、膨大な量のデータ学習が必要である。人間が外国語を学ぶときと同じように、AIにも単語の意味や文法上の扱い、用例などを記した辞書のようなデータベースが欠かせない。

コーパスでは、新聞や雑誌、本で使われる文章や、文字化した話し言葉、インターネット上のテキストなどの自然言語を大量に集め、構造化している。辞書を引きながら外国語を読むように、AIはコーパスを参照しながら構造化されていない文章を読むことが可能である。

(AIsmiley解説から抜粋)

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第二次米国政府の責任ある企業行動に関する国家行動計画(U.S Government’s National Action Plan)の概要

2024-03-26 11:09:34 | 国家の内部統制

 3月25日、バイデン・ハリス政権は、(1)人権と労働者の権利の尊重を強化および改善し、(2)グリーンエネルギーの利用を拡大、(3)汚職に対抗、(4)環境を保護、(5) 人権擁護者を保護、(6)ジェンダー平等と平等を推進し、(7)権利を尊重したテクノロジーの使用を促進するというコミットメントを反映した、責任ある企業行動に関する「米国の第二次国家行動計画(NAP)(以下、NAPという)」を発表した。

 11月の大統領選挙を控えたバイデン政権の活動の一環ではあるが、その重要性から見て本ブログではその概要書を注補足の追加を踏まえ仮訳する。

 バイデン大統領は史上最も労働者寄りの大統領であり、ボトムアップとミドルアウトから持続可能な世界経済を構築することに尽力している。 同氏とハリス副大統領は共に、高い労働基準を推進し、意思決定の場に労働者の声を反映させ、ここ米国内だけでなく世界中で不当労働行為に対する規則を執行することに取り組んできた。

 今回の第二次行動計画(NAP)の発表は、複数の利害関係者の調整、会議、経済的インセンティブ、規制、その他の活動を通じて責任ある事業活動を強化するという政府全体の取り組みを反映している。 この NAP は、海外で事業を展開し投資する米国企業の責任ある企業行動 (responsible business conduct :RBC) (注1)に関するあらゆる問題に取り組んでいるが、特に、急速に変化するリスク環境における効果的なデューデリジェンスなどを通じて、人権を尊重するという企業責任への期待に焦点を当てている。

 NAP は、企業が国際基準に基づいてバリューチェーン全体にわたって人権デューデリジェンス (human rights due diligence :HRDD)(注2) を実施することに対する政府の期待を定めている。この報告書は、企業が利害関係者と協力して策定したセクター固有の基準の導入をさらに進める必要があることを強調している。この基準は、バリューチェーン全体にわたる人々に対するビジネスの影響に関する進捗状況を有意義に測定するための信頼できる指標を提供する。

 NAP は、米国政府が RBC を促進および奨励し、企業による効果的な HRDD 実践の実施を加速するために、利害関係者との協議に基づいて以下の 4 つの優先重点分野を定めている。

1.責任ある企業行動に関する連邦諮問委員会の設置

国務省は、責任ある企業行動に関する連邦諮問委員会(Federal Advisory Committee)(注3)を活用して、民間部門、影響を受ける地域社会、労働組合、市民社会(人権擁護活動家を含む)、学界、およびRBCに関する政策の編成、その他の関連利害関係者との連携や取組みを強化する。

②諮問委員会は、RBC 問題に関する進展を継続し、NAP 実施の追跡を支援することができる。

2.連邦の調達政策およびプロセスにおける人権尊重の強化

① 保健社会福祉省、国土安全保障省、司法省が議長を務める米国政府ホットライン作業部会は、労働者と市民社会が連邦請負業者や下請け業者による人身売買違反を政府に通報できる方法を改善するための選択肢を特定する予定である。

② 国務省は、買収要員と連邦請負業者がプロジェクトの設計、要請、監視中にデューデリジェンスを実施できるよう支援するため、高リスクかつ大量の契約に対する人身売買リスクマッピングプロセスを試験的に実施する。

③ 国土安全保障省の税関・国境警備局( Customs and Border Protection:CBP)は、CBPが関税法に基づいて罰則を課す場合は常に、企業の連邦政府との取引の停止や禁止について、ケースバイケースで積極的な検討を指示するためのガイダンスを草案する予定である。サプライチェーンで強制労働を使用している企業に米国の税金が流れないよう関税法違反やその他の法律の繰り返しによりCBPが強制労働と闘うために施行する。

④ 国防総省は、国際人権に沿って民間セキュリティプロバイダーの監視と認証を提供する複数の利害関係者によるイニシアチブである民間セキュリティプロバイダー協会国際行動規範協会(International Code of Conduct Association for Private Security Providers’ Association :ICoCA)への加盟を奨励または要求するかどうかを評価するための民間セキュリティベンダー向けの人道法基準にもとづく審査を実施する予定である。

3.救済策へのアクセスの強化

 ①国務省は、利害関係者の関与を強化することにより、RBC に関する OECD 多国籍企業ガイドラインのための米国国内窓口 (U.S. National Contact Point :NCP) を強化する。 NCP の改革には以下が含まれる。 1)NCP の新しい諮問機関の創設、2) NCP の機密保持ポリシーの変更を提案し、その手順規則を更新する。3) 刑務所に関するNCPの最初の政策の1つを策定する,4) NCP ウェブサイトのアクセシビリティを向上させる。 NCPを強化するためのオプションを評価する。

②連邦労働省は、労働者主導の社会コンプライアンスを促進し、グローバルバリューチェーンにおける労働者の権利を保護する国際労働機関が実施する200万ドル(約3億200万円)の技術支援プロジェクトに資金を提供することで、救済制度への革新的なアクセスを開発する

米国国際開発金融公社(U.S. International Development Finance Corporation :DFC))は、政策コミットメントを更新し、報復疑惑に対応するための内部ガイダンスを開発し、DFC 苦情処理メカニズムでの匿名苦情を可能にすることにより、DFC 苦情処理メカニズムを利用する団体および個人に対する報復からの保護を強化する。

 ④ 連邦財務省は、プロジェクトの影響を受けた地域社会に対して、国際金融公社や多国間投資保証機関を含む多国間開発銀行における効果的な救済システムを提唱する。

米国輸出入銀行(Export-Import Bank of the United States)は、救済手続きの強化について輸出信用庁と協力し、救済へのアクセスとプロジェクトベースの苦情処理メカニズムの有効性を改善する方法について意見を求めるための一般向けの働きかけに取り組む。

4.企業へのリソースの提供

① 連邦労働省は、事業運営とバリューチェーンにおける労働者の権利の成果を推進するための政府全体の視点、アプローチ、および一連のリソースを伝達するオンライン・リポジトリ(オンライン収納庫)である責任ある企業行動と労働者の権利にかかる情報ハブを設立する。

②米国政府は、先住民コミュニティおよび影響を受けるコミュニティとの部族協議および関与に関するベストプラクティスに関する企業向けのガイダンスを発表する予定。

③ 連邦国務省は3月25日の週、1)検索エンジン、2)ソーシャル メディア プラットフォーム、3)その他のデジタル サービスなどのオンライン プラットフォームに対する、人権活動家の保護に関する米国政府のガイダンスを発表した。

④ 国務省は、人権侵害を可能にする、または悪化させる可能性のあるテクノロジーへの投資を検討する際に、投資家が人権デューデリジェンス( HRDD)を実施することを奨励するためのガイダンスの開発を主導する。

⑤ 米国連邦政府は、特定の国および/または分野で事業を行う、またはそれに関わる取引に従事する企業、投資家、その他の利害関係者向けに追加のビジネス勧告を作成する予定である。

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 本NAPには、前述の4つの優先分野以外にも、特定の優先分野の取り組みを詳述する付則(appendix)が含まれており、技術、気候、公正な移行(just transitions)(注4)、労働者の権利、反汚職などの分野で、米国政府がRBCを推進するために講じる追加の措置を列挙している。

 本NAP の全文は state.gov 参照。なお、 関係者は、RBCNAP@state.gov まで電子メールでいつでもフィードバックや提案を提供可である。

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(注1) 「責任ある企業行動」の国際的なスタンダードに「OECD多国籍企業行動指針」がある。人権問題に対処するための手法として提唱された「デュー・ディリジェンス(DD)」の対象を企業行動全般に拡大させたガイドラインである。

 2023年、OECD多国籍企業行動指針の改訂が検討されている。公表されている改訂案では、DD対象の拡大・明確化が提案されている。環境・科学技術等の分野で、求められるDDの量と質が底上げされ、DD義務化の潮流を加速させる可能性がある。

 欧州では、既に環境DDを義務化した国がある。AIガバナンスの法整備も進んでいる。ハードローのプレッシャーに接している欧米企業に比べ、日本企業のDD義務化への備えは遅れている。

 DDは「責任ある企業行動」を達成するための手段に過ぎない。その義務化の潮流を、受動的な「規制対応」と捉えるのではなく、能動的に「企業文化の改革を求める社会からの要請の高まり」と捉えることが重要だ。

(第一生命経済研究所「企業行動デュー・ディリジェンス拡大への対応~責任ある企業行動のための国際ガイドライン改訂案から読み解く~」から抜粋)

(注2)国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)が作成した「人権デュー・ディリジェンス:解釈の手引き」およびビジネスと人権リソースセンター「ビジネスと人権リソースセンター「人権デューデリジェンスと影響評価」参照。

(注3)    連邦諮問委員会は、1972年成立の連邦政府諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act - PL92-463)に基づき個別法、大統領、議会、機関が設置するものである。総合サービス庁(General Services Administration-GSA)は、他の連邦政府機関の行政サービス改善を目的とした連邦政府機関であるが、その業務の一つに連邦政府諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act-FACA)の管理運営責任がある。

 2019 年 6 月 14 日に、連邦諮問委員会の効用を評価及び改善する大統領令 13875 号(Evaluatingand Improving the Utility of Federal Advisory Committees)が発令された。連邦政府の各省庁に設置され、政策上の助言等を行う諮問委員会は、連邦諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act,P.L.92-463: FACA)に基づき設置され活動しているが、その設置の必要性を評価し、不要な諮問委員会の廃止を求めるものである。(外国の立法 No.281-2(2019.11) 国立国会図書館 調査及び立法考査局「連邦諮問委員会の効用を評価・改善する大統領令」他から抜粋)

また、遠藤悟「政府諮問委員会の役割」が詳細に解説している。       

(注4) 「公正な移行(Just Transition)」とは、環境問題の解決や対策を実施するうえで、関係する産業分野に従事する労働者や、産業が立地する地域が取り残されることなく、公正かつ平等な方法により持続可能な社会へ移行することを目指す概念のことです。2015年に開催された気候変動枠組み条約の第21回締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」の前文では、「自国が定める開発の優先順位に基づく労働力の公正な移行並びに適切な労働(ディーセント・ ワーク)および質の高い雇用の創出が必要不可欠であることを考慮」すると言及されています。(朝日新聞デジタル版から抜粋)

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米国内外でのトランプ裁判の全体像について鳥瞰図かつ法的に詳しい解説に挑戦(その4完)

2024-03-16 07:37:48 | 国家の内部統制

3.議論すべき同裁判判決の法的問題

 ニューヨーク州司法長官の申し立ての闇の中心は、トランプ、トランプ・オーガナイゼーション、およびその他のさまざまな個人被告が、その組織のさまざまな不動産資産の評価額を水増ししたということである。 認められた巨額の不当利得の吐き出し額は主に、トランプ・オーガニゼーションがSFC資産の虚偽表示を通じて達成したとされる利息コストの削減約1億6,800万ドルで構成されており、残り(判決前の利息適用前)は主に「不正行為」に関連している。 トランプ氏らは特定の不動産資産(ワシントンの旧郵便局ビルを含む)の売却を通じて利益を得たことを実感した。

 エンゴロン判事は、同社のD&O保険と保証保険の更新が保険詐欺によって調達されたことを明示的に認定したが、保険取引に関連して授与された不当利得の吐き出し額の一部は存在しない。 エンゴロン判事の判決では、保険申請の虚偽表示により、トランプ・オーガニゼーションが保険を取得できたか、あるいは本来受け取れていたであろうより有利な条件で保険を取得できたことが、明示的ではなく暗黙的に示されている。

 エンゴロン判事の判決は、虚偽報道の疑いによって組織がどのような利益を得たかを、それほど多くの言葉で明確に述べていない。 確かに、保険に関する裁判所の認定は、間違いなく、彼のさまざまな差止命令による救済(例えば、役員の禁止を含む)の裁定を裏付けた。 しかし、この決定は、保険の不当表示の申し立てと差し止め命令による救済との間に直接の関連性を示していない。

 保険の世界を長年観察してきた著者(Kevin M. LaCroix)にとって、保険の調達に関連した重大な虚偽表示が、州の司法長官による訴訟での不正認定の根拠となっているということは、ある意味新鮮なことのように思える。 通常、申請の虚偽表示の申し立ては、誤解を招くとされる保険会社によって主張され、求められる救済は、誤解を招くように調達された保険契約の取り消しである。 確かに、申請の虚偽表示が保険契約取り消しの根拠となる可能性があるというだけで、その虚偽表示が詐欺容疑の根拠となる可能性を排除するものではない。 政策撤回の代替手段の方がより馴染みのあるアプローチであるというだけである。

 少なくとも、エンゴロン判事による公判証言の朗読によれば、トランプ・オーガニゼーションが保険会社の代表者に対する虚偽の説明によってD&O保険と保証保険を調達したという実質的な裁判証拠が存在したようだ。 しかし、ワイセルバーグ氏とマコニー氏が保険会社の代表者に対して積極的な虚偽の陳述を行ったという証言はあるものの、その証拠を拡張して、被告全員が保険詐欺を行う共謀に関与したというさらなる法的結論を導き出すことは、説得力に欠ける。

  さまざまな被告がトランプとトランプ・オーガニゼーションの財務状況を強迫的に虚偽報告する常習的かつカジュアルな方法は、保険詐欺の任務を含む一般的な陰謀を包含するのに十分広範であったと述べている。 確かに、ワイセルバーグ氏とマコニー氏のあからさまな保険詐欺行為は、他の被告の利益のために行われた。 同様に、他の被告に対する保険詐欺陰謀の判決も説得力に欠けるようだ。

 財務状況報告書が水増しされた資産評価を反映しており、さまざまな被告がSFCを利用してトランプ、トランプ・オーガナイゼーション、およびさまざまな関連団体にさまざまな利益を調達したことは、おそらく、実質的な公判証言やその他の証拠によって裏付けられている。 同様に、裁判所の不正行為の認定にも不可解な点がいくつかある。 例えば、被告らが繰り返し指摘したように、被告らがSFCを利用して調達したさまざまな信用枠やローンはすべて意図したとおりに機能した。 すべての債務は期限内に全額返済された。 信用枠と融資は、最終的にはドイツ銀行にとって利益となった。

 エンゴロン判事は意見書でこれらの事実を明示的に認めたが、次のようにも述べた。「適時に全額返済したからといって、虚偽の陳述が市場に与える損害は消えるわけではない…虚偽の陳述にもかかわらず、被告が行ったことは議論の余地がない。 必要なすべての支払いを期限内に行う。 次のグループの貸し手はそれほど幸運ではないかもしれない。」

 市場を保護することは訴訟を正当化するかもしれないが、それが巨額の賠償金を正当化するのだろうか? 巨額の賞金の計算方法には奇妙な点がある。 前で述べたように、賞金総額のうち約 1 億 6,800 万ドルは、トランプ オーガニゼーションが詐欺的な SFC を使用して確保したと想定される利息コストの削減に相当する。 事実上、裁判所は、トランプ・オーガニゼーションがドイツ銀行から1億6,800万ドルをだまし取ったと主張しているようだ。 しかし、ドイツ銀行が一瞬でも 1 億 6,800 万ドルを騙し取られたと考えたとしたら、銀行自体が独自の詐欺救済策を追求するのではないではないか?

 そしてドイツ銀行は結局、どの程度まで騙されたのだろうか? ドイツ銀行関係者らは公判で、富裕層から個人財務諸表を提示されると、銀行は日常的かつ当然のこととして50%のヘアカットを適用していると証言した。 同行自身のやり方は、トランプ氏のような富裕層が定期的に資産を膨らませているという認識を反映しているようだ。 50%のヘアカットを考えると、実際のところ同銀行は誤解さえあったのだろうか? あるいは、別の言い方をすれば、虚偽表示とされる内容を誰も信じず、詐欺の被害者とされる人が被害を受けたと信じていない場合、本当に詐欺はあり得たのであろうか?

 そうは言っても、エンゴロン判事の書面による決定書は、被告たちが定期的かつ日常的にトランプとトランプ・オーガナイゼーションの財務状況を虚偽報告していたという強い印象を与えている。 また、エンゴロン判事は、デゴルジュマン賞の巨額と差し止めによる救済の厳しさを説明する際、被告が誤りを認めようとしないことだけでなく(「悔悟と反省の完全な欠如は病的ともいえる」)、 また、トランプ・オーガニゼーションの広範な「企業不正行為」の歴史についても言及し、とりわけエンゴロン判事は、トランプ大学に対する詐欺容疑と和解について言及した。 トランプ財団に対する詐欺疑惑とその解散。 トランプ大統領の就任に関連してトランプ・オーガニゼーションが過剰な手数料を受け取ったという告発の和解。 そして、事業記録の改ざん疑惑を含む15件の税金詐欺の刑事訴追に対する同社CFO(ワイスルバーグ)の有罪答弁。 これらの考察に基づいて、エンゴロン判事は、「裁判所が大幅な差止め命令を認めない限り、被告は不正行為を続ける可能性が高いと判断した」と述べた。

 被告であるトランプ氏らは間違いなく控訴するだろうが、 控訴がどうなるかはまだ分からない。 控訴裁判所は、公判証言に基づいて、差し止めによる救済の一部または全部が正当であり、適切であると結論付ける可能性が十分にある。 その一方で、控訴裁判所が巨額の不当利得の吐き出し(disgorgement)についてどう判断するかは非常に興味深い。 当該の金額が訴えに耐えられるかどうかを見るのは興味深いことになるであろう。

 なお、エンゴロン判事の判決の保険的側面に注意を促し、判決のコピーを提供してくれた忠実な読者に特に感謝する。

(2)ニューヨーク州司法長官府の解説

 内容的に上記と重複するのでプレスリリース参照。

Ⅳ.ジョージア州府フルトン郡検事がジョージア州RICO(Georgia Racketeer Influenced and Corrupt Organizations (RICO) Act)違反で起訴

裁判所

ジョージア州フルトン郡上位裁判所(Superior Court of Fulton County)(注16)

② 裁判官

Judge :Scott McAfee 氏

Scott McAfee 氏

③起訴者:Fulton County District Attorney Fani T.Willis:

 

 Fani T.Willis 氏

④裁判の概要や経緯につき2023.8.15 JURIST blogを以下、抜粋し、仮訳する。

 ジョージア州フルトン郡大陪審は 2023年8月14日の夜遅くに13件の刑事告訴に関する元米国大統領ドナルド・トランプ氏を起訴した。合計41訴因の起訴状は、トランプが、同じく起訴された他の18人の個人とともに、2020年米国大統領選挙においてジョージア州の選挙プロセス中に干渉するために共謀したと主張している。トランプ氏は第4番目の刑事告発中のおいても、2024年の大統領選挙に向けてキャンペーンを続けている。

 これらの容疑には、ジョージア州での ①「威力脅迫および腐敗組織に関する取締法(Georgia Racketeer Influenced and Corrupt Organizations :RICO) Act)(注17)反1訴因、②公務員による宣誓違反)の教唆3訴因、③公務員になりすます陰謀1訴因、④陰謀のコミットにかかる2訴因、⑤ 第一級の文書偽造による陰謀のコミットにかかる2訴因、➅陰謀にコミットした2訴因、⑦実際に虚偽の陳述や書面を行った罪2訴因、⑧虚偽文書提出の陰謀1訴因、⑨虚偽の文書提出1訴因が含まれる。

 98ページにわたる起訴状には、トランプ氏と共同被告らが「(2020年11月3日の)選挙の結果を不法にトランプ氏に有利に変える」ために「関連する様々な犯罪行為に関与」した経緯を詳しく説明している。ジョージア州大統領選挙は接戦となったが、最終的に州内の有権者の過半数が現大統領ジョー・バイデンに投票した。

 起訴状では、被告らの犯罪行為は2020年大統領選挙でジョージア州の選挙人が投票してから約2年後の2022年9月15日まで続いたと主張している。 大陪審はまた、アリゾナ、ミシガン、ネバダ、ニューメキシコ、ペンシルベニア、ウィスコンシンなどの州でも同様の取り組みへの言及があり、ジョージア州以外でも選挙干渉の取り組みの証拠を審問するようである。

 起訴状には、最初の訴因であるRICO法違反だけでも161件の犯罪行為が挙げられている。 起訴状によると、選挙当局が2020年大統領選挙の結果をバイデン有利と認定するのを阻止するために、トランプ氏と共同被告らはジョージア州議会議員、ジョージア州知事ブライアン・ケンプ(Brian Kemp)(共和党:60歳)、ジョージア州務長官ブラッド・ラフェンスペルガー(Brad Raffensperger)(共和党:68歳)に対して影響力を行使しようとしたという。 ブラッド・ラフェンスペルガーは、トランプ前大統領が州選挙当局に対し、同州でのバイデン氏の選挙におけるリードを逆転するのに十分な票を獲得できるよう要求した悪名高い電話( NBC newsのyoutube音声)の受け手であった。

Brian Kemp 氏

Brad Raffensperger 氏

 また、起訴状は被告がジョージア州の選挙運動員に嫌がらせをし、大統領(副大統領)選挙人(有権者)の偽の酷評(slate)を作成して普及させ、州から選挙データを盗んだと主張している, そして起訴につながったまさにその調査を妨害したとある。

 起訴状の公表後、フルトン郡地方検事ファニ・ウィリス(Fani Willis)は記者団に記者会見を行い、そこで彼女は以下のとおり語った。

 「ここにいる皆さんに思い出していただきたいのは、起訴とは、告訴を裏付ける相当の理由(probable cause)(注18)についての大陪審の決定に基づいた一連の告発にすぎないということである。 現在、公判において合理的な疑いを超えて、起訴状におけるこれらの罪状を証明することが私の検事局の義務である」

 起訴に応じて、トランプの大統領選挙キャンペーンは 起訴ステートメント。その中で、彼らはウィリス氏の調査は党派的であると主張し、それが2024年の大統領選挙におけるトランプの選挙入札に干渉する可能性があることを示唆した。起訴ステートメントは次のとおりである。

 「トランプ大統領に対する法的二重基準セットは終了しなければならない。… これらの活動は...アメリカの民主主義に対する重大な脅威を構成し、大統領に投票する正当な選択からアメリカ国民を奪おうとする直接の試みである。それを選挙の干渉または選挙の操作と呼ぶ—それは人々の選択を抑制するための支配階級による危険な努力である。それは反アメリカ人の行動ありで間違っています。

 また大陪審は、トランプの18人の共同被告の起訴を支持するのに十分な証拠を見出した。元トランプの弁護士であるルディ・ジュリアーニ氏やジョン・イーストマン氏などの一部の個人は、他の人物で頻繁に発生した名前である 係争中の訴訟 そして 周囲の放射性降下物 2020年の大統領選挙から。その他は、ジョージア州の選挙干渉のこれらの主張に固有である。さらに、起訴状には、起訴状の発行を担当する大陪審に知られていない30人の起訴されていない共謀者およびその他の個人の追加のキャッシュへの参照がある。

 8月14日の起訴で起訴された19人の個人はすべて、同日の午後12時(EST)まで、逮捕の令状に従って自発的にフルトン郡の役人に引き渡さなければならない。

【補足】Open Caucasus Media 記事「 ジョージア州民・ドリーム、トランプ大統領の選挙法拒否権を「不正に」覆すよう起訴」から抜粋、仮訳する。

 米国のジョージア州が再び大統領選挙を巡る政治的激動の中心にある。

 ファニ・ウィリス(Fani T. Willis)検察官は2023年7月、ドナルド・トランプ氏に対する数年にわたる捜査の一環として、大陪審に証拠を提示する予定だ。

 差し迫った起訴の最も明らかな兆候として、ウィリス氏は2023年8月14日と8月15日の陪審審理で証言するよう証人を呼んでおり、大陪審は同週起訴状を採決する可能性がある。

 ウィリス氏は同州での2020年大統領選挙の結果を覆そうとしたとされるトランプ氏の試みに焦点を当ててきた。

 陪審結果の発表の可能性を前に、司法当局はすでにアトランタのフルトン郡裁判所の外にバリケードを築いている。

 トランプ氏は不正行為を否定し、捜査は政治的動機に基づくものだと攻撃した。 同氏は依然として2024年の大統領選の共和党指名獲得の最有力候補である。

 本記事は2023年8月14日の週に何が起こるかについてのガイドである。

1.トランプ大統領はジョージア州でどのような罪に問われる可能性があるか?

 元連邦検事のニーマ・ラフマニ(Neama Rahmani)氏は、トランプ氏は不正投票や選挙不正など、詐欺や陰謀関連の罪に問われる可能性ならびに司法妨害の可能性もあると指摘している。

Neama Rahmani 氏

 ジョージア州の法律専門家も、ウィリス氏が前大統領をRICO法により恐喝容疑で告発すると予想している。この法律は組織犯罪に適用されることで有名である。しかし、ウィリス氏は、他の広大な事件でもそれを使用しているという評判を築いている。

 トランプのホワイトハウス時代の首席補佐官マーク・メドウズ(Mark Meadows)氏、弁護士ルディ・ジュリアーニ–(Rudolph William Louis "Rudy" Giuliani III)氏は、主張されているように、カリフォルニアの弁護士と政治家は、起訴された人々の中におり、すべてが不正行為を否定している。

Mark Meadows 氏

Rudolph William Louis "Rudy" Giuliani III 氏

 RICO法としても知られる同州の「恐喝・腐敗組織取締法」は、検察官が共通の目的や目的によって結びついたさまざまな犯罪を告発することを認めている。 また、首謀者と疑われる人物を指摘することも可能になる。

 エモリー大学の法学教授モーガン・クラウド(Morgan Cloud:Charles Howard Candler Professor of Law Emer)氏)(注19)は、「恐喝とは、州法か連邦法、あるいはその両方で違法とされている特定の行為を行うことと定義される。一つの犯罪だけでなく、相互に関連した一連の犯罪を行うことだ」と述べた。

 この場合、裁判の具体的な共通の目的はジョージア州の選挙結果を覆すことであるとクラウド氏は述べた。

2.ドナルド・トランプ裁判の法的問題はどれくらい大きいのか?

 米国の大陪審とは何か?トランプ氏がこの件で起訴されるのは初めてではない。

 2週間前、連邦司法省は複数のレベルでの大統領選挙干渉でトランプ氏等を起訴し、起訴状ではジョージア州での同氏の行為に多くの時間を割いた。

3.トランプ氏が起訴されたらどうなるのか?

 大陪審がトランプ氏の起訴を可決した場合、同氏は罪状認否手続きのため数日以内にフルトン郡裁判所に出廷する可能性がある。

 ある意味で、このプロセスは日常的なものとなっており、これは2020年の選挙介入、不正な口止め料の支払い疑惑、フロリダ州の政府機密ファイルの保管をめぐる連邦告発に加えて、トランプ氏にとって4度目の刑事告発となる。

 しかし、ジョージア州アトランタでの起訴はいくつかの重要な点で目立つ可能性がある。

 過去3回の起訴では、連邦裁判所の規定によりテレビカメラの使用が禁止されたが、マンハッタンの法廷ではフォトジャーナリストの入場が一時的に許可された。

 ただし、この件は地方裁判所の規則によりテレビで放送される可能性がある。 NBCニュースの報道によると、最終決定権は裁判長にあるが、申請は認められることが多いという。

1)トランプ氏が勝つのが最も難しいと思われる刑事事件はいずれか?

 3 つの全く異なるトランプ裁判について法廷研究者が語る。

 元連邦検察官のパトリック・コッター氏は、この呼び出しはおそらく今後のトランプ氏らの起訴の「最高の宝石」になるだろうと述べた。

 この被告らの電話による会話のニュースを受けて、ウィリス氏は2021年2月に捜査を開始した。

 起訴状によると、トランプ氏は司法長官やブライアン・ケンプ州知事など、州内の他の共和党幹部らにも支援を求めたというが、彼らはその事実を拒否した。

2)議員へのプレゼンテーション

 トランプ氏の仲間、特に弁護士のルディ・ジュリアーニ氏も、ジョージア州で不正投票やその他の陰謀論について虚偽の主張を広めた。

 連邦政府の起訴状によると、これにはジュリアーニ氏がジョージア州議員らに行ったプレゼンテーションにも含まれており、その中で彼は根拠のない主張を数多く行った。

 これらには、何千人もの死者が州内で投票したという主張が含まれていた。 ジョージア州の世論調査員が投票に干渉し、議員が同州の正当な選挙人団の結果を認定を取り消す権限を持っていたことを主張した。 トランプ氏はソーシャルメディア上でこうした主張を拡大した。

 さらにジュュリアーニ氏は、フルトン郡の捜査の対象であることも明らかにした。

3) 偽の選挙人団計画

 また前大統領の同盟者らは、選挙人団(技術的に米国大統領を選出するシステム)の偽選挙人に、ジョージア州で同州で勝利し支持を得たバイデン氏ではなく、トランプ氏に投票させる計画を調整したとされる。 その選挙人団の投票計画は失敗した。

 連邦特別検事のジャック・スミス氏とジョージア州検察官のファニ・ウィリス氏はともに捜査において偽の選挙計画に焦点を当ててきた。

4) 選挙データの違法侵害

 最後に、トランプ陣営の弁護士がデータ会社と協力して、ジョージア州コーヒー郡の選挙システムから機密データをコピーしたと伝えられている。

 ワシントン・ポスト紙の調査によると、この事件はトランプ氏の弁護士らによる複数の州で投票機器にアクセスしようとする試みの一環だった。 ウィリス氏はこの事件に注目していると言われている。

5)元大統領はすべての不正行為を否定した。

 同氏の弁護士らはおそらく、同氏がジョージア州当局に投票の改ざんを明示的に依頼したことはないと主張するだろう。

 同氏は2020年4月、ラフェンスペルガー氏との電話会談は「まったく完璧」であり、電話に応じた弁護士の誰も不適切な指摘をしなかったと述べた。

 「何も間違ったことは言われなかった。実際、電話の終わりに、特にジョージア州における選挙不正について話し合いを続けることで合意したのみである」

米国大統領選挙の本来の争点とは?社会保障費に注目?(2024.3.17補筆分)

  米国の社会保障支援事業団体である“Social Security Works”と連邦社会保障庁(Social Security Administration)(注20)の説明等から引用、仮訳する。

1.社会保障予算を巡る民主党・共和党の対立

 米国社会保障団体であるSical Security  Works (注21)の予算案関係サイトから抜粋、仮訳する。

 3月11日、ドナルド・トランプ元大統領が社会保障の削減を呼びかける一方、ジョー・バイデン大統領は社会保障の保護と拡大を求める2025年度予算案を発表した。

 以下は、ソーシャル・セキュリティ・ワークスの理事長、ナンシー・アルトマン(Nancy Altman)氏の声明である。

Nancy Altman 氏

 3月11日朝、ドナルド・トランプはテレビに出演し、メディケアとメディケイドとともに社会保障の削減を要求した。これは、大統領候補としてあらゆる予算の削減を提案し、社会保障専用の資金を永久に廃止しようとしたトランプ大統領の記録と一致している。 さらに、社会保障の民営化と退職年齢の引き上げを求めるトランプ氏の過去の主張や、それを「ねずみ講」と中傷したことと一致している。

 これは、密室での社会保障とメディケアを削減することを目的とした委員会の創設を提案している下院共和党の2025年度予算案とも一致している。

 ジョー・バイデン大統領は本日、社会保障の将来について全く異なるビジョンを掲げた2025会計年度予算案を発表した。 バイデンの予算案では、社会保障の保護と拡充が求められており、億万長者や億万長者に応分の拠出を義務付けることでその費用を支払うことが求められている。

(2) 1月18日、下院予算委員会(House Budget Committee : Chairman Jodey C.Arrington (テキサス州選出・共和党)は、いわゆる 「2023年財政委員会法(Fiscal Commission Act of 2023)」を進めることを投票した。出席したすべての共和党員委員が賛成に投票した。

Jodey C.Arrington 氏

 *ビデオ: 公聴会中に、Social Security Worksのアレックスローソン事務局長は、委員会に反対する50万件を超える請願書を提出した。ジョディ・C・アーリントン委員長は、ローソン氏を逮捕することで対応した。

 「共和党は、社会保障とメディケアを削減するために設計された非公開の委員会を進めている。共和党員の多くはそれが彼らの目標ではないと主張しようとしたが、彼らは民主党の修正案を投票してそれらのプログラムの削減を除外し、代わりに億万長者に公平な分配を支払うことを要求した。

 委員会の民主党の大多数は委員会に合法的に反対した。ただし、少数の例外に民主党委員3人Scott Peters(D-CA)、Jimmy Panetta(D-CA)、Earl Blumenauer(D-OR)は賛成した(彼らはアメリカ人を後ろから突き刺し、ジョー・バイデン大統領を弱体化させた)。

 3月7日、ジョディ・アリントン委員長が仕切る下院予算委員会は、下院共和党の「2025会計年度予算決議案(House Republican FY2025 budget resolution)」の審議を行った。 予算決議案は出席した共和党員全員の支持を得て委員会外で報告されたが、民主党員全員が反対票を投じた。

以下は、ナンシー・アルトマン氏の声明である。

 「この予算にはいわゆる『財政委員会』が含まれており、ホワイトハウスはこれを正確には社会保障とメディケアのための委員会と呼んでいる。 この委員会は、共和党が政治的責任を回避できるようにすることを目的とした、迅速かつ非公開のプロセスを通じて、重要な獲得利益を削減することを目的としている。この予算案に賛成票を投じた共和党議員全員が社会保障とメディケアの削減に投票した。法案上程の際、民主党は社会保障とメディケアを保護するための多数の修正案を提案したが、共和党はそれらすべてを否決した。」

2. 大統領選挙で大きな争点となると考える米国の公的扶助制度

 わが国と大きく制度が異なるので補足する。厚生労働省の解説[2014 年の海外情勢]第2節 アメリカ合衆国(United States of America)社会保障施策から以下、抜粋(P.7以下)する。なお、SSIについては、野田 博也「アメリカの補足的保障所得(SSI)の展開― 就労自活が困難な人々に対する扶助の在り方をめぐって ―」を参照されたい。

(1)米国の公的扶助制度

 日本の生活保護制度のような、連邦政府による包括的な公的扶助制度はない。高齢者、障害者、児童など対象者の属性に応じて各制度が分立している。また、州政府独自の制度も存在している。

  主 要 な 制 度 は、 貧 困 家 庭 一 時 扶 助(Temporary Assistance for Needy Families:TANF)、補足的所得 保 障(Supplement Security Income:SSI)、 メディケイド、補足的栄養支援(Supplemental Nutrition

Assistance Program: SNAP(2008年10月より 食料スタンプ(Food Stamp)から名称変更))、一般扶助(General Assistance:GA)の5つである。

(2)特に筆者は補足的所得保障(Supplement Security Income:SSI)に注目し、SSAの2025年予算案に関する部分を仮訳する。

 連邦社会保障庁(SSA)では、2025バイデン・ハリス大統領予算案は次のことを行う。

(A)アメリカ人が自ら稼いだ社会保障給付を保護する。主管庁(SSA)は社会保障の保護と強化に力を注いでおり、社会保障給付を削減しようとするあらゆる試みや社会保障を民営化する提案に反対している。

①社会保障の保護は、最高所得のアメリカ人に公平な負担を払うように求めることから始めるべきであると信じている。

②高齢者や障害を持つ人々、特に目的を達成するための最大の課題に直面している人々のために、社会保障給付とSSI給付を改善する取り組みを支援し、サービス提供を改善する。

③ SSAは、600万人を超える退職者、生存者、およびメディケア請求者のサービス提供を改善することを約束し, また、毎年200万人を超える個人が障害と補足的所得保障(SSI) (注22)を申請している。

④予算では、SSAの現地事務所、州の障害決定サービスでの退職者、障害のある個人、およびその家族のためのテレサービスセンターでのカスタマーサービスを改善するために、154億ドル(約2兆2,946億円)の裁量予算権限—  13億ドル(約1937億円)または9%の増加を2023年の制定レベル—に要求し、また,予算は、待ち時間を短縮することにより、SSAのサービスへのアクセスを改善する。

(B)事前資本とアクセシビリティの改善。

 この予算により、社会保障プログラムの厳格な管理と監視を維持しながら、対象となるすべての個人にアクセス可能な社会保障サービスを提供できる。SSAプログラムは、サービスが行き届いていないコミュニティや、サービスへのアクセスの障壁に直面している人々(低所得、限られた英語能力、精神的および知的障害を持つ個人、ホームレスに直面している人々など)に到達する必要がある。

 また予算案は、SSI申請プロセスを簡素化および更新し、特にサービスが行き届いていないコミュニティのためのアウトリーチ活動を通じてSSAプログラムおよびサービスへのアクセスを拡大するためのSSAの取り組みをサポートする。さらにITシステムを改善して、顧客により一貫性があり、公平で、アクセス可能な体験等を提供する。

 さらに従業員の面倒な手動プロセスを削減させる、すなわち National 800番号のセルフサービスオプションを増やし(注23); サイバー・セキュリティ・プログラムを拡張する。さらに、予算案は不適切な支払いの防止と解決を優先させる。

(C)全米規模で包括的な有給家族および医療休暇を提供

①アメリカの労働者の大多数は、民間部門の労働者の73%を含む、雇用主が提供する有給の家族休暇を利用できていない。不釣り合いに女性と有色労働者である最低賃金の労働者のうち、94%は雇用主を通じて有給の家族休暇を利用できない。

 さらに、5人に1人の退職者が退職計画よりも早く退職し、国家の労働供給と生産性に悪影響するだけでなく、病気の家族の世話させるなど家族に悪影響を与える。

②予算案は、SSAが管理する全国的な包括的な有給家族および医療休暇プログラムを確立することを提案している。プログラムは次のことを行う。

1)家族や医療上の理由で休暇を取るために、労働者に進歩的で部分的な賃金交換を提供する。堅牢 な管理資金を含めるため、包括的な家族の定義を使用させる。

2)予算案は、適格な労働者が休暇を取ることができるように、最大12週間の休暇を提供する。重病の愛する人の世話; 彼ら自身の深刻な病気から癒させるとともに、愛する人の軍事展開から生じる状況に対処する。

3)家庭内暴力、性的暴行、またはストーカー行為からの安全を見つける—それ以外の場合は“安全休暇”として知られている。

4)予算案は、愛する人の死を悲しむために最大3日間を提供する。

 3.2025年予算案のファクトシートのポイント

 バイデン氏の予算案はSSAのスタッフ、情報技術、その他の改善にも資金を提供し、同局の資金を2023年に制定された水準から9%増加させると述べている。

 また社会保障庁長官のマーティン・J・オマリー(Martin J.O’Malley)氏(民主党)は3月11日、声明で「政権は高齢者や障害者、特に家計のやりくりに大きな困難に直面している人たちに対する社会保障給付やSSI給付金を改善する取り組みを支援する」と述べた。一方、トランプ大統領「予算削減に関してはできることはたくさんある」と述べた。

Martin J.O’Malley氏

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(注16) ジョージア州フルトン郡上位裁判所(Superior Court of Fulton County)

(注17) Georgia Racketeer Influenced and Corrupt Organizations (RICO) Actにつき  Poole Huffman 弁護士事務所の解説から抜粋、仮訳する。

 ジョージア州(Georgia Racketeer Influenced and Corrupt Organizations (RICO) Act)法は、州の恐喝者および腐敗組織取締法を作成する際、州議会は連邦の RICO 法をモデルとして使用した。 ただし、ジョージア州 RICO 法 (OCGA 16-14-4) にはいくつかの相違点があり、連邦法に比べてはるかに広範である。

  最も重要な 2 つの違いは、連邦 RICO 法では継続性と企業の証明が必要であることです。 対照的に、ジョージア州 RICO 法は、短期間しか活動していない個人や計画を訴追するために使用できる。

 民事訴訟において、RICO法 は被害を受けた企業や個人が損害を回復するために使用できるツールである。 すなわち、RICO 請求を提起する場合、当事者は私設司法長官または公益弁護士(private attorneys general)になる。 彼らは3倍(原告の損害賠償額の3倍)を回収でき、場合によっては弁護士費用も回収できる。

 残念なことに、RICO 法は訴訟で乱用されており、単純な契約事項違反がしばしば持ち込まれています。 本質的に被告は犯罪行為で告発されているため、これらの問題を弁護することは困難であり、賭け金も高くなる。

 通常、ジョージア州 RICO 法に基づいて起訴される犯罪の種類は、数千件の取引または複数の被害者が関与する複雑な犯罪計画です。 ジョージア州RICOに基づいて起訴されるためには、その基礎となる犯罪が恐喝行為である必要があります。 恐喝行為として認定される犯罪類型は、OCGA 16-14-3 にリストされている。

 RICO法 は当初は組織犯罪と闘うためのツールとしてスタートしたが、今日の検察は従業員の横領事件、ポンジスキーム(ねずみ講詐欺)、クレジットスキーム(credit schemes)、複雑な投資スキーム、または総額 10 万ドルを超える一連の窃盗事件を起訴するために RICO を使用している。 この法律は、商業賭博事件、鎮痛剤(オピオイド)クリニック(または丸薬製造所)(pain management (opioid) clinics (or pill mills)、公務員の訴追にもよく使用されている。

 RICO 法は OCGA 16-14-4で成文化されている。 RICO 犯罪には最高 20 年の拘禁刑と、25,000 ドルまたは金銭的不当利得の 3 倍のいずれか大きい方の罰金が科せられる。両罰の併科もある。

(注18) 推定原因(probable cause)は、警察が逮捕、捜索を行う、または令状を受け取る前に通常満たされる必要がある憲法修正第 4 条にある要件である。 裁判所は通常、犯罪が行われたと信じる合理的な根拠がある場合(逮捕の場合)、または捜索する場所に犯罪の証拠が存在する場合(捜索の場合)に相当原因を認定する。緊急の状況では、推定の原因によって令状のない捜索や押収が正当化される場合もある。令状なしで逮捕された者は、推定原因の迅速な司法判断のため、逮捕直後に管轄当局に連行されることが義務付けられている。

(コーネル大学ロースクールの解説から抜粋、仮訳

 合衆国憲法修正第4条(仮訳)は、「不合理な捜索および押収に対し、身体、家屋、書類および所有物の安全を保障されるという人民の権利は、これを侵してはならない。令状は、宣誓または確約によって裏付けられた推定原因(probable cause)に基づいてのみ発行され、かつ捜索すべき場所、および逮捕すべき人、または押収すべき物件を特定して示したものでなければならない。」 本条は直接には捜索・押収(Search and Seizure)についての規定であるが、ここにいう押収には、「人の押収」すなわち逮捕(Arrest)が含まれるとするのが米国における判例・通説である」(Weblio 辞書から抜粋)

Amendment IV

The right of the people to be secure in their persons, houses, papers, and effects, against unreasonable searches and seizures, shall not be violated, and no warrants shall issue, but upon probable cause, supported by oath or affirmation, and particularly describing the place to be searched, and the persons or things to be seized.

(注19)クラウド教授のサイトでは、ファニ・ウィリス検事のトランプ氏等の起訴にかかる各種報告等をリンクさせている。

(以下は、2024.3.17補筆分)

(注20)  社会保障庁(Social Security Administration:SSA)は、アメリカ合衆国連邦政府の独立機関の1つ。社会保障(ソーシャルセキュリティ)および社会保険プログラム(年金・障害者保険・公的扶助)を扱う。これらの福祉を支えるため、アメリカの労働者のほとんどが所得から社会保障税を支払っている。(Wikipedia から抜粋)

(注21) Social Security Works(社会保障事業団)のHPから仮訳する。

 社会保障事業の任務・使命は、以下のとおり。

①恵まれない人々やリスクにさらされている人々の経済的安全を保護し、改善する。

②現在または将来、社会保障に依存している人々の経済的安全を守る。

③社会正義の手段として社会保障を維持する。

 社会保障事業団の資金は、一般からの寄付と、オープン ソサエティー財団、退職研究財団、CREDO、市民参加活動基金などの財団からの助成金によって賄われている。 社会保障事業団 は、Atlantic Philanthropies からの寛大な助成金を受けて設立された。

(注22) 補足的所得保障(Supplement Security Income:SSI)は、連邦政府による低所得者に対する現金給付制度であり、65歳以上の高齢者又は障害者のうち資産及び所得に関する受給資格要件を満たす者が対象となる。新規無資産受給者に対する連邦の所得保障の給付上限月額は、710ドル(2013年)である。なお、他からの収入がある場合やOASDIなど他から給付所得がある場合には、補足的所得保障の給付額は減額される。また、多くの州において連邦所得保障に州独自の上乗せ支給を行っている。2013年12月現在のSSIの受給者は約840万人であり、約54億ドルが給付されている。

(注23) SSA現地事務所とNational 800 番に関する社会保障計画に関する解説仮訳する。

 月曜日が来ると、社会保障庁の現地事務所ほど忙しい場所はない。 多くの人が週末後にやって来て、給付金について問い合わせたり、新しい社会保障カードを申請したり、保険請求に関して社会保障に必要な情報を提供したりする。 現場事務所でのサービスの待ち時間は非常に長い場合がある。

 社会保障のNational 800番 から情報を入手しようとすることは、多くの人が実際の人と話すまでに電話で 1 時間以上待つのと同じくらい難しいことである。 現地事務所やNationall800番への電話での待ち時間に応えて、社会保障庁は、2019年度予算で提供される以下の情報により、これらの問題を是正するという目標を発表した。(以下、略す)

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米国内外でのトランプ裁判の全体像について鳥瞰図かつ法的に詳しい解説に挑戦(その3)

2024-03-15 19:10:38 | 国家の内部統制

⑨今後の裁判予定

 2024.2.26 The Hill記事「トランプ前大統領はストーミー・ダニエルズ、マイケル・コーエンがニューヨークの静けさのお金刑事裁判で証言することをブロックしようとしている」仮訳する。

 2024年2月26日の元トランプ大統領の口止め料審理(hush-money trial)でトンプ氏の弁護士は、ニューヨークの連邦裁判所の裁判官がトランプの最初の刑事裁判で証言することから主要な目撃者をブロックすることを要求した。

 トランプ氏の弁護士であるトッド・ブランシュ(Todd Blanche)氏は、トランプの元フィクサーであるマイケル・コーエン(Michael Cohen)とポルノ女優 ストーミー・ダニエルズ(Stormy Daniels) 元プレイボーイモデルのカレン・マクドゥガル(Karen McDougal)につき、トランプとの申し立てについて口止め料に支払った2人の女性からの証言を阻止するために移動した。

 トランプ氏のコーエン氏への賠償金の支払いは、マンハッタン地方検事アービン・L・ブラグ(lvin L.Bragg)(民主党)によるトランプ氏の刑事訴追の推進策でもある。ブラッグ氏は同事件を否認し、業務記録文書偽造の34件の容疑でコーエン氏や他の証人につき無罪を主張した。

 トランプ側の47頁にわたる動議(motion)は、証人の信頼性を徹底的に攻撃し、コーエン氏を「嘘つき」と非難し、ダニエルズが「虚偽」で「卑劣な」証言をするだろうと示唆している。

 またトランプ氏の弁護士らは、検察が口止め料の支払いを、2016年の大統領選挙前にトランプ氏に関する否定的な情報を隠蔽するための「捕まえて殺す」計画であると述べたことにも焦点を当てた。

  2月26日の検査官へのmotionの提出は、トランプ氏が裁判で特定の証言を導入することを阻止するため行われた。これには、トランプ氏が選択的に起訴されている主張や、コーエンの信頼性に疑問を投げかける司法省の提出書類が含まれていた。

 弁護人は、トランプ氏の民事詐欺裁判で、1月に終了したコーエン氏の証言内容を指摘し、コーエンは詐欺裁判で、彼とワイセルバーグ“リバースエンジニアリング”元大統領が好む数に到達するためのトランプの資産であると証言しましたが、反対尋問では、彼の発言を取り上げた。

 すなわち、「マイケル・コーエン 嘘つきである」トランプの弁護士が書いた。「彼は最近、トランプ大統領を含む民事裁判で、証言台と宣誓の下で偽証を犯した。彼の公式声明が何らかの兆候である場合、彼はこの刑事裁判で再びそうすることを計画している。裁判所は、この裁判所の完全性と正義のプロセスを保護するために、コーエンの証言を排除する必要がある」と述べた。

 トランプ氏の口止め料審理(hush-money trial)裁判は、3月25日にニューヨークで開始される予定である。これは、彼が直面する最初の刑事裁判—であり、元大統領がこれまでに直面したことのないものである。

 ブラッグ氏は2023年春、当時トランプ氏のフィクサーだったマイケル・コーエン氏への支払いに関連し、業務記録を改ざんした34件の罪でトランプ氏を起訴した。 コーエン氏は複数の女性に対し、トランプ氏との不倫疑惑について沈黙を守るよう報酬を与えていた。

 トランプ氏はこの事実を否定し、無罪を主張した。

 起訴直後、トランプ氏には秘密保持命令(protective order)が出され、証拠開示によって受け取った資料を公に開示することが禁止された。

 しかし、トランプ元大統領の証人らの言論制限要求は、トランプ氏が2024年3月25日に裁判に臨む数週間前に大きなエスカレーションを示している。

 トランプ氏は他の2件の事件でも自身に課されたgag orderを攻撃している。 同氏の弁護士らは法廷で、これらの制限はトランプ氏の核心的な政治的演説を抑圧し、大統領候補としての地位を強調するものだと説明し、依頼者の合衆国憲法修正第1条の権利を侵害していると主張した。

 NY裁判の陪審の選考は2024年3月25日に行われる予定。

 「そのような保護の必要性は切実である」と検察側は申し立ての中で書いている。 「被告には、陪審員、証人、弁護士、裁判所職員など、被告に対するさまざまな裁判の参加者について、公の場で扇動的な発言をしてきた長い歴史がある。これらの発言は、被告の追随者や同盟者から誘発される避けられない反応と同様に、この刑事訴訟の秩序ある運営に重大かつ差し迫った脅威をもたらし、重大な偏見を引き起こす可能性がかなり高い」と付け加えた。 gag orderは事件を監督するフアン・メルチャン判事の承認が必要となる。

-2. ニューヨーク州ニューヨーク郡裁判所の民事裁判

 ドナルド・トランプ前大統領の民事詐欺裁判判決の詳細とりわけD&O 保険および保証保険の調達詐欺裁判について、筆者の手元に弁護士Kevin M. LaCroix氏のブログ「The Insurance Part of the Massive Trump Civil Fraud Verdict」が届いた。

 その内容は、2月6日のニューヨ―ク州最高裁判所(注14-2)のドナルド・トランプ前大統領の民事詐欺裁判判決の詳細内容と、有罪判断の根拠である不正行為の疑いのある行為の中で、不実表示の疑いによる D&O 保険および保証保険の調達があったことの注目した点である。

 わが国メデイアでは詳しい判決内容は言及されていないことから(1) Kevin M. LaCroix氏のブログを仮訳、(2)は司法長官府の解説を引用する。

(1) Kevin M. LaCroix氏のブログの仮訳

 本ブログの読者は間違いなく、2024年2月16日、ドナルド・トランプ氏に対するニューヨーク民事詐欺裁判を主宰する判事、トランプ・オーガニゼーション(The Trump Organization)およびその関連団体、そしてさまざまなオーガニゼーションの幹部(トランプの息子2人を含む)が、被告に対して次のような裁判後の評決を下したことを知っているであろう。

 最終判決前の利息(pre-judgment interest )(注15)と合わせると、その価値は4億5,000万ドル(約670億5,000万円)を超える。 裁定の際、判事はトランプ氏と他の被告が銀行、保険会社、公務員に対し組織とトランプ氏の財務状況を不正に虚偽報告したと結論づけた。

 本ブログの読者にとって興味深いのは、不正行為の疑いのある行為の中に、不実表示の疑いによる D&O 保険および保証保険の調達があったことである。

 以下で説明するように、裁判所の判決の保険に関する部分には興味深い点がいくつかある。 2024 年 2 月 16 日のニューヨーク州 (ニューヨーク郡) 最高裁判所判事アーサー F. エンゴロン判事による判決および命令のコピーは、ここでご覧いただける。

1.事件の背景

  ニューヨーク州司法長官レティシア・ジェームス(Letitia James)は、2022年9月21日にドナルド・トランプ氏と他の被告に対して初めて民事訴訟を起こした。訴状では、ニューヨーク州司法長官法執行法第63条(12)に違反する詐欺的または違法な金融活動の疑いを含む7つの訴訟原因が主張されていた。) (1)業務記録の意図的な改ざん(intentional falsification of business records)、(2) 業務記録を改ざんに関する共謀(conspiracy to falsify business records)、 (3)虚偽の財務諸表の提出に関する共謀(conspiracy to submit false financial statements.)。

 訴状の第6訴因は、被告のアレン・ワイセルバーグ(Allen Weisselberg)氏とジェフリー・マコニー(Jeffrey McConney)氏(それぞれトランプ・オーガニゼーションのCFOと管理者(controller))が、ニューヨーク州司法長官法執行法第63条第12項ニューヨーク刑法第176.05条に違反して保険詐欺を犯したと主張した。 第 7 訴因では、被告全員に対する保険詐欺の共謀を主張した。

Allen Weisselberg氏(76歳) (左)

Jeffrey McConney 氏(69歳)

 保険詐欺疑惑は、トランプ・オーガニゼーションによる2017年1月のD&O保険の買収(ちょうどトランプが大統領に就任しようとしていた頃)と、2017年から2020年の期間中の保証保険の買収に関連していた。

 2023年9月26日、アーサー・エンゲロン(Arthur F. Engoron)判事は、訴状の最初の訴因(つまり、被告がニューヨーク州司法長官法執行法第63条(12)に違反する詐欺的または違法行為に従事したと主張する最初の訴因)に対する略式判決を求める司法長官の申し立てを認め、他の6件の訴因については2023年10月2日から裁判が始まった。

Arthur F. Engoron 氏

 エンゲロン判事が最近の判決で述べたように、司法長官は公平な救済(不当利得の吐き出し(disgorgement)  :差止命令(injunction)の付随的命令による救済の形で)のみを求めていたため、被告には陪審裁判を受ける権利がないと裁判所は述べた。 この事件はエンゲロン判事によって審理された。 法廷は最終的に43日間の公判で40人の証人の証言を聞いた。 裁判は2023年12月13日に結審し、裁判所は2024年1月11日に最終弁論を行った。

2.エンゴロン判決の概要

 エンゴロン判事の判決に要約されているように、公判証言の多くはトランプ大統領の財務状況報告書(SFC)の財務情報に関連していた。 ニューヨーク州の司法長官は基本的に、被告らはトランプ・オーガニゼーションのさまざまな不動産資産の高騰評価を反映してSFCを利用して、有利な金利での不動産ローンやその他の利益を得るため利用したと主張した。

 エンゴロン判事が要約した裁判証言の多くは、不動産資産の評価の問題に関連していた。 裁判証言の朗読は興味深い読み物となる。 多くの例の中で、さまざまな裁判証言によると、ブライアクリフ・ゴルフ・クラブの潜在的な付属ユニット71戸の評価額は4,350万ドル(約64億8,150万円)から4,500万ドル(約67億500万円)の範囲であったが、その資産は2016年、2017年、2018年のSFCに1億100万ドル(約150億4,900万円)強で引き継がれていたことが示されている。 トランプ ナショナル ゴルフ クラブ LA の評価額は 1 億 700 万ドル(約159億4,300万円)でしたが、2015 年の SFC では資産が 1 億 4,000 万ドル(約208億6,000万円)と評価された。 セブン・スプリングスの特定の建設用地の潜在的な建設地役権は、総合的に550万ドル(8億1,950万円)と評価されたが、2014年のSFCのバックアップデータでは、資産は「驚異的な」1億6,100万ドル(約239億8,900万円)とされていた。

 トランプの不動産資産に関する誇張の中には、本当に情けないものもあった。 トランプ氏はトランプタワーにある高級アパートの広さを水増ししたようだ。 2015年と2016年の財務諸表で、トランプ氏は自身のトリプレックス・アパートの広さは3万平方フィートを超え、評価額は3億2,700万ドル(約487億2,300万円)だと主張した。 アパートの実際の広さは10,996平方フィートであった。 トランプ大統領またはトランプ・オーガニゼーションがトランプ大統領の特定のオフィスビルの階数を誇張したとする裁判証言もあった。 例えば、トランプ大統領は、マンハッタンにある58階建てのトランプタワーは68階建てであると主張したと伝えられている。 判決の裁判概要には、他にも多数の同様の例が挙げられている。

 SFC で使用される資産評価が重要だったのは、SFC が、ドイツ銀行やその他の貸し手がトランプ・オーガナイゼーションへの信用供与と不動産融資を行うことに合意し、より有利な条件でそうすることに同意したための基礎だったためであり、信用と融資は延長された トランプ氏の個人保証に基づいてより有利な金利での支払いであったが、SFCに基づいて十分であると受け入れられた。 裁判所は最終的に、トランプ・オーガニゼーションがこの方法で確保した金利コストの削減は相当なものであったと結論付けた。 実際、エンゴロン判事が認めた巨額の金額のかなりの部分は、この方法で同社が確保した想定される利息コストの削減額を反映している。

 司法長官はまた、トランプ・オーガニゼーションが財務上の不正表示の疑いに基づいてD&O保険と保証保険を取得したと主張した。裁判所は、国際的な専門保険グループである HCC Global (「HCC」) の従業員マイケル・ホール(Michael Holl )氏と、2010 年から 2020 年までチューリッヒ保険の引受人を務めてたクラウディア・マルカリアン(Claudia Markarian)氏の証言を聞いた。

 ホール氏は、2016年12月にトランプ・オーガニゼーションの保険ブローカーから、同社のD&O保険の更新に関して連絡を受けたと証言した。 どうやら、トランプ大統領の就任式が近づいていることを考慮して、同社はD&O保険プログラムの責任限度額を500万ドルから5,000万ドルに引き上げたいと考えていたようだ。 ホール氏は、組織の財務諸表を見るためには、トランプタワーにある同社のオフィスで財務諸表を見る必要があったと証言した。 同氏のメモには、「財務資料はほとんど見ていなかった」が、2015年の貸借対照表は見たことが記されている。 貸借対照表には1億9,200万ドル(約286億800万円)の現金が反映されており、ホール氏はこれが「流動性の尺度」として意味があると証言した。 ホール氏のメモには、「重大な訴訟や誰からの連絡もなかった」と言われたことも反映されていた。 ホール氏は、財務情報と表明に基づいて、HCC が補償範囲を更新することを決定したと証言した。

 一方、マルカリアン氏は、トランプ会社の保証保険を引き受けるために、彼女も会社のオフィスを訪れて財務諸表を見る必要があったと証言した。 アレン・ワイセルバーグ(Allen Weisselberg)氏と同社のCFO兼監査役のジェフリー・マコニー(Jeffrey McConney)氏に会った。

 また彼女は、ワイセルバーグ氏がマルカリアン氏に代理した不動産保有物件が外部の評価会社によって毎年決定されたものである2018年と2019年のSFCも見せられた。 (エンゴロン氏は、トランプ・オーガニゼーションが専門の評価会社を一度も雇っていないことを明らかにした。)マルカリアン氏のメモには、彼女が会社の流動性の指標として手元現金の額を具体的に調べたことも反映されている。 ワイスルバーグ氏が公判で、トランプ・オーガニゼーションが不動産評価に専門の鑑定士を雇っていないと証言したことを知らされると、それが更新を承認するための分析に「重要」になっただろうと彼女は述べた。 彼女はまた、現金の額についての虚偽の表示が更新を承認するという彼女の決定に「大きな影響を与えた」だろうと証言した。

 エンゴロン判事はその調査結果と結論の中で、特に「チューリヒは、トランプ・オーガナイゼーションの保険契約の引受を決定する際に、ワイセルバーグ氏とマコニー氏による虚偽の表明と、SFCにある手持ち現金の額に関する意図的に虚偽で誤解を招く情報に依存した」と認定した。

 D&Oの更新に関して、エンゴロン判事は、2017年1月10日の会合の時点では捜査が進行中であったため、ホール氏に対する「重大な訴訟や誰からの連絡もなかった」という陳述は「虚偽」であると明示的に認定した。 司法長官室は、トランプ財団とトランプ家族のドナルド・トランプドナルド・トランプ・ジュニアイヴァンカ・トランプエリック・トランプに捜査を依頼した。彼らは全員トランプ・オーガニゼーションの理事および役員であり、捜査を知っていた。 エンゴロン判事は、更新方針が拘束される以前には、トランプ・オーガニゼーションの誰もが調査の存在をHCCに知らせていなかった、と認定した。 しかし、トランプ・オーガニゼーションは2年後、司法長官の捜査に起因する執行措置を求める申し立てを保険会社に提出した。

 エンゴロン判事の意見書には、「HCCが請求を認識したとき、引受会社はリスクのエクスポージャーが価格設定よりも大幅に高いと判断し、既存の保険料の5倍を超える更新保険を提示した」と述べられている。 また、エンゴロン判事は、2015年のSFCに反映されているように、HCCがドナルド・トランプが手元に1億9,200万ドルの現金を持っているという虚偽の表示にさらに依存していたと認定し、「これは、SFCが約款にSFCを書くべきかどうかについてのHCCの分析に重要な役割を果たした」とエンゴロン判事は結論づけた。

 エンゴロン判事は法的結論の中で、ワイセルバーグ氏とマコニー氏がそれぞれ第6の訴因に基づき、「ニューヨーク行政執行法第63条(12)およびニューヨーク州刑法第176.05条(保険詐欺)に違反して、繰り返しかつ執拗に保険詐欺を行った」として責任を負っていると認定した。 エンゴロンによれば、ワイセルバーグ氏とマコニー氏は、両氏とも保険会議に参加し、「彼らはドナルド・トランプ氏のSFCについて、保険代理店に対し、彼の現金資産の価値を偽るなどの虚偽の説明を行った。 SFCは外部の評価から来ており、トランプ・オーガニゼーションに対する潜在的な請求権の存在について嘘をついていた。」 これらの行為のそれぞれにより、保険申請書に「保険会社を誤解させる目的で重大な虚偽の情報が含まれる」ことになった。

 エンゴロン判事は、保険金詐欺の公然行為を行ったのはワイセルバーグ氏とマコニー氏だけであると認定したにもかかわらず、保険金詐欺の共謀の第7の訴訟原因に基づいて被告全員が責任を負うと認定し、法的権限を引用して、公然行為は1人のみであると主張した。 陰謀を促進した共謀者の実態を明らかにする必要がある。 さらに同判事は、「各被告は事業記録や評価額を改ざんするという個々の行為によって、保険詐欺の陰謀を幇助し教唆し、実質的に詐欺的なSFCを意図的に保険会社に提出させた」と付け加えた。

 エンゴロン判事は、被告らが保険詐欺を犯した(または保険詐欺を共謀した)と結論づけたが、認められた救済は主に不動産ローンに関する虚偽表示の疑いに関連していた。 したがって、授与された巨額のうち約1億6,800万ドルは、トランプ・オーガナイゼーションが偽のSFCの使用を通じて確保した金利コストの節約に関連したものであった。 残りの裁定額のかなりの部分は、被告らがワシントンの旧郵便局ビルなど、特定の実質的な不動産資産の有益な売却を通じて確保した「不正に得た利益」に関係する。(資産売却益の返還に関する理論は、財務上の虚偽の表示がなければ、被告には資産を購入する余裕も、売却から利益を得る立場にもいなかったであろうということのようである)

 エンゴロン判事は、不当利得の吐き出し(disgorgement)という形での金銭的救済に加えて、さまざまな形での差し止めによる救済も認めた。トランプ氏、ワイスルバーグ氏、マコニー氏は、ニューヨーク企業の役員を3年間禁止される。 ドナルド・トランプ・ジュニアとエリック・トランプは2年間、ニューヨークの企業の役員または取締役としての勤務を禁止される。 トランプ大統領はニューヨークの金融機関からの融資申請を3年間禁止される。 トランプ・オーガニゼーションに内部統制と財務報告義務を確立し、遵守することを保証するために、新しい独立コンプライアンス担当ディレクターがトランプ・オーガニゼーションに設置された。 そして、エンゴロン判事が以前に命じた現在の監視員は引き続き同社の財務取引を監督することになる。

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(注14-2)ニューヨーク州最高裁判所の詳細については筆者ブログ(注1)を参照。

(注15) 最終判決前の利息(pre-judgment interest ); prejudgment interest: 裁判で勝訴が決定された時点から、最終判決が下される時点までの金銭の使用の損失の補償として、訴訟の勝訴当事者に与えられる利息(Marriam -Websterを仮訳)

(筆者ブログ(注2)参照)。

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米国内外でのトランプ裁判の全体像について鳥瞰図かつ法的に詳しい解説に挑戦(その2)

2024-03-15 14:55:14 | 国家の内部統制

■4つのトランプ裁判につきアクターも含め法的な意味で争点を整理する。

. フロリダ州での連邦政府機密文書の違法な収集と保管裁判

1.裁判概要 (刑事事件)

裁判所:フロリダ州南部地区連邦地方裁判所

裁判官:US District Judge :エイリーン・キャノン(Aileen Cannon)

Aileen Cannon 氏

検事:ジャック・L.スミス連邦特別検事(Special Counsel :Jack L.Smith)(注2)

Jack L.Smith 氏

②事件の概要

政府機密文書の違法収集と保管問題

 当初のDOJ起訴状(全49頁)は、トランプ氏が大統領として米国が所有する何百もの機密文書を収集し、それらをホワイトハウスの段ボール箱に保管したと主張している。一部の文書には、米国と外国の両方の米国の核計画含む米国とその同盟国の軍事攻撃に対する潜在的な脆弱性、そして外国からの攻撃に対応して報復の可能性を計画している防衛および兵器能力に関する情報が含まれていた、と述べている。

Mar-a-Lagoのトランプ邸内の機密文書の山(起訴状に添付されている)

 2023年6月8日、ドナルド・トランプ元大統領と彼の補佐官であるワルティン・T .ナウタ Jr. (Waltine Torre Nauta Jr.)氏はフロリダ州 Mar-a-Lagoのトランプ邸での機密文書の取り扱いの誤りに関連する容疑でフロリダ州南部地区の連邦大陪審により起訴された。取って代わる 起訴 2023年7月27日に封印が解除され、追加の被告カルロス・ド・オリベィラ(Carlos De Oliveira)が起訴され、トランプに対する証拠の改ざんに対する国防情報を故意に保持し, そして捜査官に嘘をついたとする3つの追加告発が含まれる。(2023年7月27日付け最終起訴状(全60頁))

 なお、起訴状によると計36訴因のうち主たる訴因1~31は「全米の国防に関する故意の保管(Willful Retention of National Defense Information:18 U.S.C.§793(e))」(注8)である。

 より具体的に言うと2021年1月から、トランプがホワイトハウスを去る準備をしていたので、 連邦検事は、トランプ氏がホワイトハウスのスタッフに、“数百の機密文書[。] ”を含む、彼の出発を見越してさまざまなアイテムを箱に入れるように個人的に指示したと主張している トランプ氏の共同被告のボディーマン、元米国海軍メンバーのウォルティン・T.ナウタ(Waltine Torre Nauta Jr.)氏は、この文書の転送を支援するよう指示されたグループの一部であった。

(機密資料の保管が明らかになった理由については、起訴状の他に2023.6.9付けLawFare記事2/6(42)を参照されたい。

 共同被告

Mar-a-Lagoの不動産マネージャーであるカルロス・ド・オリベィラ(Carlos De Oliveira)氏、ワルティン・T .ナウタ Jr. (Waltine Torre Nauta Jr.)氏

Carlos De Oliveira 氏

Waltine Torre Nauta Jr.氏

2.フロリダ州南部地区連邦地方裁判所アイリーン・キャノン連邦判事は機密文書裁判でトランプ前大統領の起訴棄却申し立てを却下(2024.3.17 追記分)

 3月14日のJURIST解説を仮訳する。一部、筆者の判断でリンクを追加した。

 ドナルド・トランプ前大統領の機密文書不当拘留容疑に関する刑事訴訟を管轄する米連邦判事は3月14日、2ページにわたる短い命令で前大統領の棄却申し立てを却下(rejected)した。 トランプ前大統領は、この事件で係争中の自身に対する刑事告発40件のうち32告発の却下を求めていた。 しかし、アイリーン・キャノン判事は、32件の刑事告発は違憲でかつ曖昧であるとするトランプ氏の主張を否定した。

 キャノン氏は最終的に、「提示された問題全体の解決策は、法定用語や語句の法定用語や語句の依然として変動する定義についての、争点となっている指導上の質問に大きく依存している」と結論付けた。 また判事は、トランプ前大統領の却下動議はいくつかの事実上の問題を提起したが、それらは本件の「事実認定者(finder of fact)」である陪審によって最もよく解決されるべきであると判示した。

 キャノン氏は3月14日初め、この却下動議に関して連邦検察官とトランプ氏の弁護士から3時間半に及ぶ弁論(arguments)を聞いた。 トランプ氏の弁護士は、トランプ氏が起訴されている刑法規定内のいくつかの文言に異議を唱えた。 これらの文言の中には、「不正所持」「国防に関する」「受け取る権利がある」などの文言が含まれていた。

 2月22日に裁判所に提出された棄却を求める動議の中で、トランプ前大統領は刑法の文言が「曖昧さの原則を生む適正手続きの原則や権力分立の懸念と矛盾している」と主張した。 彼の主張は、トランプ前大統領が「大統領記録・連邦記録法2014年改正」(Presidential and Federal Records Act Amendments of 2014, 法令番号113-187)に基づいて私的使用のために文書を保持し、機密解除したと主張したが、この訴訟の以前の提出文書のエコーであった。

 曖昧さの原則は、刑法が処罰される行為の種類を明示的に規定し、定義することを要求する憲法の原則である。 該当する刑法規定(18 U.S. Code § 793 - Gathering, transmitting or losing defense information)のあいまいな文言は法律の過度に広範な適用と恣意的な執行につながる可能性があるという懸念があるため、過度に曖昧な法律は適正手続きの懸念に基づいて廃止されるべきである。

 しかし、ジャック・スミス特別検事が率いる連邦検察当局はトランプ前大統領の主張を拒否した。 トランプ氏の棄却動議に対する返答の中で、連邦検察当局はトランプ氏の主張を「理由がない」として却下した。 検察側は、トランプ氏の行為は刑法で禁止されている明確に定義された行為に完全に該当すると主張した。 すなわち、連邦検察官は次のように主張した。

    「 [A] 元大統領であるトランプ氏が、国防情報を不正に取得したり故意に保持したりしない義務を含む、国家安全保障と軍事機密を保護することの最も重要性を理解していないはずがない。」

 トランプ氏に対するこの訴訟での40件の刑事告訴は、元大統領が2021年1月20日にホワイトハウスを出発する際に政府の機密文書を不当に持ち出したという主張に端を発している。これらの文書には、米国と外国の同盟国の防衛兵器能力、核情報、米国の潜在的な脆弱性、報復計画や防衛に関する機密記述と分析が含まれていた。起訴状には、トランプ前大統領が2021年1月20日に米大統領としての任期を終えた後、これらの機密文書を所有または保持する権限がなかったことが明確に述べられている。しかし、この文書は2022年8月のトランプ大統領のフロリダ州にあるア・ラーゴの私邸の捜索中にFBIによって発見された。

 キャノン氏がトランプ前大統領の訴えの棄却動議を偏見なく拒否したことは注目に値する。 これは、トランプ前大統領が後日の裁判で憲法の曖昧さに対して再び同じ異議を唱える可能性があることを意味する。

 キャノン氏は3月4日、前大統領の大統領特権(presidential immunity.)の主張に基づくトランプ氏の棄却動議についての弁論も聞いた。 しかし、キャノン氏は、この件におけるトランプ前大統領の免責の可能性の問題についてはまだ決定を下していない。

 米国連邦最高裁判所は2024年4月に、連邦検察によるトランプ氏に対する2020年の選挙干渉事件における別の免責請求に関する弁論を審理する予定である。 機密文書事件をめぐる事実と状況は2020年の選挙妨害事件とは異なるが、最高裁判所の判決はトランプ大統領の免責主張に関するあらゆる決定に影響を与える可能性がある。

Ⅱ.ワシントンD.C.連邦議会議事堂攻撃の陰謀および2020年の大統領選挙の結果を覆そうとした刑事裁判

1.裁判概要

裁判所;Wasington D.C連邦地方裁判所

事件の概要

 2023年8月1日、ワシントンD.C.の大陪審(grand jury)は、2021年1月6日の米国連邦議会攻撃に関連して元トランプ大統領を起訴することを投票した。また2020年の大統領選挙の結果を覆そうとする彼の主張された試みにつき起訴した。

裁判官

連邦地方判事ターニャ・S・チャッキン(US District Judge Tanya S. Chutkan)氏

起訴検察官

連邦特別検事ジャック・L.スミス(Jack L. Smith)

起訴状原本

➅ワシントンD.C. 巡回区控訴裁所判決(以下、「D.C.控訴裁判所」という)(judgment)(3裁判官:Karen LeCraft Henderson, J.Michelle  Child, Florence  Pan)

C-SPAN画像から引用

 2024年2月6日、D.C.控訴裁判所は、ドナルド・トランプ前大統領が2021年1月6日の連邦議会議事堂攻撃での彼の役割について彼に対する政府の訴訟で起訴から免除されないことを決定した。(米政治専門ケーブルチャンネルC-SPANで裁判内容は動画で音声とテキストで確認できる)

 トランプ氏は以前に持っていた 解任に移動 彼の起訴は 元大統領の刑事責任追及が大胆かつ公平に行動する大統領の能力を阻害すると主張し、検察からの行政免責を主張し、併せて大統領特権、特にデリケートな義務と大胆で躊躇しない行動の必要性を引用した。

 全会一致の57ページの意見書(opinion)同裁判所判決で、同裁判所はトランプ氏と他の元大統領—が在職中に犯した犯罪容疑で起訴できると裁定した。裁判所は、免責に関するトランプの主張は説得力がなく、元大統領が無益な連邦刑事訴追によって過度に嫌がらせを受けるリスクはわずかであると結論付けた。

 さらに、同裁判所は、「この刑事事件の目的のために、トランプ元大統領が他の刑事被告のすべての抗弁とともに市民たるトランプになったと決定した。しかし、彼が大統領を務めている間に彼を保護したかもしれないいかなる大統領の行政免除も、もはやこの起訴から彼を保護しない」と述べた。(注8-2)

 トランプ氏は2024年2月12日までに連邦最高裁判所に対し、D.C.控訴裁判所判決につき上訴できることとなっていた。

連邦最高裁判所SCOTUSの解説から抜粋、仮訳

 ジャック・スミス特別検事は連邦最高裁判所に対し、トランプ前大統領が起訴された犯罪は「我が国の民主主義の根幹を揺るがす」ものであり、これらの容疑が「速やかに解決」されることには「国益がある」と述べ、ターニャ・S・チャッキン判事らに求めた。 2020年大統領選挙の結果を覆す共謀の罪でトランプ氏が裁判を受ける道を開くため、2月14日の夜に開かれた。

 スミス氏の申し立ては、トランプ氏が裁判所に対し、自身の免責請求を却下するD.C.控訴裁判所の決定を一時的に差し止めるよう要請してからわずか2日後、ワシントン地裁がスミス氏にトランプ氏の要請に応じるよう設定した期限の6日前に提出された。

 米国連邦地方裁判所判事のターニャ・S・チャッキン氏は当初、トランプ氏の訴訟の公判期日を34に設定していた。2023年 12月初旬、彼女は、大統領としての公務の一部である行為については訴追を免除されるとして、トランプ氏に対する告訴却下を求める動議を拒否した。

 その時点で、スミス氏は連邦最高裁判所に出向き、D.C.控訴裁判所がトランプ氏の上訴に対する判決を下すのを待たずに、判事らに免責問題について早急に検討するよう求めた。

 連邦最高裁判所はその時点では介入を拒否し、D.C.控訴裁判所は2月6日に判決を下した。3人の裁判官からなる合議体は全員一致の意見でチャッキン判決を支持し、「トランプ前大統領はトランプ国民となった」と強調した。 彼が大統領を務めていた間に彼を守っていたかもしれない行政特権は、もはや今回の訴追から彼を守ってくれない」と述べた。

 トランプ前大統領側は2月5日に連邦最高裁判所に出廷し、最高裁判所の審査を申し立てる時間を与えるためにD.C.控訴裁判所の判決を一時的に差し止めようと求めた。 同氏は判事に対し、「刑事訴追からの免除がなければ、我々が知っている大統領職は消滅するだろう」と語った。

 しかし、連邦最高裁判所で100件以上の訴訟を弁論してきた連邦最高裁判所で政府の刑事事件を担当してきた元法務長官代理(Deputy Solicitor General)マイケル・ドリーベン(Michael Dreeben)氏(注9)署名した提出文書の中で、スミス氏は、トランプ氏は単に自分の事件の裁判を遅らせようとしているだけだと反論した。「これらの容疑の解決の遅れは、迅速かつ公正な判決に対する公共の利益を挫折させる恐れがある。これはあらゆる刑事事件における切実な利益であり、犯罪容疑による前大統領に対する連邦刑事告訴を伴うものであるため、ここでは国家的に独特の重要性を持っている。公権力の行使を含め、大統領選挙の結果を覆そうとする努力を行っているのみである」とスミス氏は記した。

 スミス氏は、既に弾劾され議会で有罪判決を受けていない限り、大統領としての公式行為の一部である行為に対する免責を求めるトランプ氏の主張は「過激な」もので、仮に受け入れられれば「大統領の責任についての歴史を通じて広く浸透してきた理解を根底から覆すことになり、民主主義と法の支配を損なうものだ」と述べた。 実際、スミス氏は、大統領が「選挙を覆し、後継者への平和的権力移譲を妨害しようとする犯罪計画とされるものは、連邦刑法からの新たな形の絶対免除を認める最後の場所であるべきだ」と示唆した。

 スミス氏は、裁判の続行を認めれば、将来の大統領が退任後の自らの行為で起訴されるのではないかと懸念することになるというトランプ氏の提案に激しく反発した。同氏は、刑事訴追の可能性が過去に大統領の行動を妨げてきたという「証拠はない」とし、将来的には構造的安全策によって純粋に政治的な理由による訴追は阻止されるだろうと強調した。

 他に米国大統領に対する刑事訴追がないことは、トランプ大統領の主張を裏付けるものではないとスミス氏は述べ、トランプ大統領は「前例のない」犯罪容疑の「前例のない」規模、性質、重大さ、つまり有権者の意志に反して大統領職に留まろうとする不正な取組みを見逃していると述べた。

 そしてスミス氏は、トランプ元大統領が自身の事件の公判前手続きを延期することにどのような関心を持っていても、彼に対する刑事告発の解決を延期することによる「政府と国民への深刻な損害」の方がはるかに大きいと続けた。スミス氏は、裁判を予定通り進めることに対する国民の関心が最も高まるのは、「今回のように、元大統領が大統領職に留まるために選挙プロセスを破壊する共謀の罪で起訴されたとき」であると示唆した。

 スミス氏はチャッキン判事に対し、トランプ氏の執行猶予申請と、その後に起こる可能性のあるD.C.巡回控訴裁判所の判決の見直しを求める申し立てを却下するよう求めた。しかし、別の選択肢として、裁判所はD.C.巡回裁判所の判決を保留するというトランプ大統領の要請を審査請求として扱い、紛争が迅速に解決されるよう、3月下旬に口頭弁論に向けて迅速に手続きを進める必要があると同氏は続けた。

刑事および民事訴訟に対する大統領の免責に関する論文例

 なお、Find Law 解説サイト「刑事および民事訴訟に対する大統領の免責(Presidential Immunity to Criminal and Civil Suits)」に関する論文を一部抜粋、仮訳する。

 合衆国憲法は、刑事または民事訴訟からの大統領の免責については直接規定していない。代わりに、この特権は、1860年代の連邦最高裁判所による第II条、セクション2、第3項(Article II, Section 2, Clause 3)の解釈を通じて、時間の経過とともに以下のとおり、発展してきた。

〇大統領は民事責任から免除されるか?

 大統領は、公務に関連する訴訟から生じる訴訟について、民事責任から免除される。これには、これらの職務の「外周」でのすべての行為が含まれる。しかし、大統領は非公式な行為から生じる行動から免除されない。

〇元大統領は責任から免除されるか?

 裁判所は、在職中の公式行動の「外周」で取られた措置について、元大統領に免責が及ぶかどうかはまだ決定していない。しかし、現職の大統領と同様に、元大統領は在職中の非公式な行為から生じる行動から免除されない, 就任前に発生した行為および退社後に発生した行為につき免除されない。

〇大統領の免責は何をカバーしているか?

 大統領の免責は、大統領の公務に関連する行動をカバーする。これには、それらの職務の「外周」にあるものも含まれる。免責は、非公式な行為、犯罪行為、および就任前に発生する行為には適用されない。

-2.ワシントンD.C.連邦巡回区控訴裁判所での決定

 2024年2月6日、米国のワシントンD.C.連邦巡回区控訴裁判所は、トランプ氏が2020年の連邦選挙干渉事件で起訴から免除されないことを決定

US appeals court rules Trump not immune from prosecution in federal 2020 election interference case

 JURIST解説から、抜粋、仮訳する。

 米国ワシントンD.C.の連邦巡回区控訴裁判所(以下、「D.C.控訴裁判所」という)の3人の裁判官からなる合議体は、2月6日、2020年の連邦選挙干渉事件でドナルド・トランプ前大統領には訴追の免除権がないと判示(No. 23-3228)した。

 裁判所は全会一致の判決で、トランプ氏が米国大統領としての公務中に行ったと主張する行為について「絶対的な」大統領訴追免責を受ける権利はないとの判断を下した。 この裁判所の判決は、「元大統領は連邦刑事責任に関して特別な条件を享受していない」としたコロンビア地区タニヤ・チュトカン連邦地方裁判所判事の2023.12.2判決を支持した。

 さらに巡回控訴裁判所は以下の点を明らかとした。

「この刑事事件の目的のために、トランプ前大統領は他の刑事被告の弁護をすべて引き受けてすなわちトランプは一市民となった。 しかし、大統領在任中に彼を守っていたかもしれない行政特権は、もはや今回の訴追から彼を守ってくれない。」

 D.C.控訴裁判所の3人の裁判官の合議体での控訴の訴えにおいて、トランプ氏は彼の免責主張を支持して次の3つの主要な論点を主張した。

①三権分立の原則により、裁判所は大統領が行った公式行為を審査することができない。

②三権分立の原則に根ざした機能政策の考慮事項では、行政府の機能への侵入を防ぐために免責が必要である。

③元大統領は、弾劾判決条項に基づいて連邦議会によって最初に弾劾され、有罪判決を受けた場合にのみ起訴される可能性がある。

 しかし、2月6日の判決では、D.C.控訴裁判所はトランプ側の3つの主張の根拠すべてを拒否した。

 トランプ前大統領の最初の主張に関して、裁判所は「正しく理解されているように、三権分立の原則は合法的な裁量的行為を免責する可能性があるが、あらゆる公的行為について前大統領を連邦刑事訴追することを妨げるものではない」と認定した。

 3 人の裁判官からなる合議体は、2024年1 月 9 日の口頭弁論中で、特に 1803 年の米国連邦最高裁判所のマーベリー対マディソン事件(Marbury v. Madison, 5 U.S. 137 (1803))に関連して、権力分立の問題も提起した。この画期的な訴訟において、裁判所は、裁量的行為(discretionary)と羈束行為(ministerial:行政の執行に、自由裁量の余地がないこと)という 2 つのタイプの公的行為を概説した。 裁量的行為は裁判所によって決して審査されることはないが(政治的プロセスを通じて対処するのが最善であるため)、同裁判所は、羈束行為を遂行する義務が法律によって課されているため、羈束行為は審査の対象となる可能性があると認定した。

 トランプ氏は、この訴訟で問題となっている行為は公的行為であるため、免責を受ける必要があると主張したため、合議体はトランプ氏の弁護士にマーベリー事件の先例について話すよう求めた。 最終的に同裁判所は判決の中で、トランプ前大統領の行動は、もし公式行為とみなされるのであれば、行政行為(ministerial.)であると結論づけた。このため裁判所は、トランプ氏は連邦刑法に従って行動したとして起訴されたが、それを怠ったと推論した。したがって、裁判所は、「トランプ前大統領の行為は連邦刑法に反するいかなる法的裁量権も欠如しており、その行為については法廷での責任がある」と認定した。

 次に裁判所は、政策上の懸念に関するトランプ前大統領の2番目の主張に焦点を当てた。 裁判所は、この訴訟で争点となっている2つの政策上の懸念につき、(1) 行政府の権限と機能に対する侵害の可能性、(2) 大統領選挙の完全性と有権者の民主的に大統領を選ぶ能力の維持問題であると述べた。

 裁判所は「国民と行政府の双方が抱く刑事責任への関心は、大統領の行動を萎縮させ、厄介な訴訟を容認するという潜在的なリスクを上回る」と結論付けた。 トランプ大統領は、こうした責任は将来の大統領が危険な決断を下す意欲を抑制するだろうと主張したが、裁判所はそのような責任は「権力乱用や犯罪行為の可能性を阻止する」ことで政府に利益をもたらすと認定した。 裁判所は、合衆国憲法の下では、大統領が米国の法律を忠実に執行することを求めるテイク・ケア条項(Take Care Clause)(注10)の対象となると指摘した。「もし大統領が…処罰されずにこれらの法律に反抗できる唯一の役人だったとしたら、それは顕著な矛盾となるであろう」と裁判所は述べた。 そうすることは、「個々の国民が投票し、投票を数えてもらう権利」を損なう可能性があることになる。

 トランプ氏の3番目の主張を検討した結果、裁判所は弾劾判決条項(注11)が実際に「前大統領に対する最も強力な証拠」を提供したと認定した。トランプ元大統領は、この条項は大統領の責任は議会弾劾によってのみ問われることを意味していると主張したが、裁判所はその文言が「『法律に従って』弾劾された当局者の刑事訴追の選択肢を明示的に保持している」と認定した。

 D.C 控訴裁判所は、トランプ氏側の主張を却下し、「トランプ前大統領の解釈では、容易に弾劾の対象に分類されない犯罪(すなわち、「反逆罪、贈収賄、またはその他の重罪および軽罪」)の犯行も許可されることになり、上院議員30人が正しければ」犯罪は大統領が退任するまで発見されない」と述べた。同裁判所は、このような条項の解釈は、大統領が国王になることを阻止するという法制定者の目的と根本的に矛盾していると認定した。

 また裁判所は、この事件でのトランプ氏に対する告発は二重の危険(double jeopardy)(注12)に相当するというトランプ氏の主張も棄却した。 トランプ氏は以前、2021年1月6日のアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件での役割を理由に下院(民主党が多数)で裁判にかけられ弾劾されたが、上院は弾劾罪で同氏に有罪判決を下さなかった。 たとえ弾劾があったとしても、裁判所は、そのような弾劾は同一または類似の事実に基づく将来の訴追を妨げるものではないと認定した。 裁判所は次のように書いている。

 「二重危険条項の先例の解釈によれば、トランプ前大統領の弾劾無罪は、次の 2 つの理由により、その後の刑事訴追を妨げるものではない。(1) 弾劾は刑事罰をもたらさない。 (2) 起訴状は、弾劾決議の単一の罪状と同じ罪を告発していない。」

Ⅲ-1.ニューヨーク州ニューヨーク郡裁判所係属の刑事事件

1.裁判概要

裁判所:

 ニューヨーク州ニューヨーク郡最高裁判所(supreme court)

起訴者

Manhattan district attorneyニューヨーク州マンハッタン地方検事(連邦裁判所管轄区の首席検事DA)アービン・L・ブラグ(lvin L.Bragg)

lvin L.Bragg氏

③事件の概要

  トランプ氏は2023年3月、2016年のアダルト映画スター(ストーミー・ダニエルズ(Stormy Danielss)氏 との不倫疑惑への13万ドル(約1950万円)の秘密保持契約(non-disclosure agreement )にもとづく口止め料(hush money)支払いや関連した重罪容疑等でマンハッタン地方検事によって刑事事件で初めて起訴された。すなわち検察は、トランプ氏が2016年の選挙の公平性・健全性を損なう違法な陰謀(Conspiring)に参加していたと主張した。 さらに、同検事は違法な業務・財務記録の改ざん等情報を隠蔽する違法な計画に参加していたと主張している。 一方、トランプ氏側は無罪を主張した。

 statement of facts URL:https://www.documentcloud.org/documents/23741577-read-trump-indictment-related-to-hush-money-payment

 ④裁判官

ファン・メルチャン(Juan Merchan)New York Supreme Court Judge(元検察官)

 

 Juan Merchan 氏

⑤トランプ側弁護士(Trump’s legal team)    

Todd Blanche 氏(Blanche Law com設立者 )(注13)

Susan Necheles 氏(Necheles Law LLP代表)

Joe Tacopina 氏(Tacopina Seigel & DeOreo代表)

 ⑤証人

Michael Cohen(元トランプ氏の顧問弁護士:2018年)(注14)

 

David Pecker氏  (右)

Stormy Danielss氏(45歳)

Karen McDougal 氏 (53歳)(右)

 ➅刑事責任

ニューヨーク州刑法第175.10に基づく第一級の業務記録等の改ざん等(FALSIFYING BUSINESS RECORDS IN THE FIRST  DEGREE Penal Law § 175.10)起訴状原本

*ニューヨーク州刑法第175.10第一級業務記録偽造罪は、第二級業務記録改ざん罪を犯し、かつ、その詐欺の意図に別の犯罪を犯したり、その行為を幇助したり隠蔽したりする意図が含まれている場合に有罪となる。

第一級の業務記録の改ざんはクラス E の重罪である。

合計訴因数 34

 JURISTの法事実の詳細解説        

根拠法 

(ⅰ)Conspiring to defraud the US (18 U.S. Code § 371 - Conspiracy to commit offense or to defraud United States)                             

(ⅱ)Conspiring to corruptly obstruct and impede the US Congress (18 U.S. Code § 1512 - Tampering with a witness, victim, or an informant)                            

(ⅲ)Conspiring against US citizens’ right to vote (https://www.law.cornell.edu/uscode/text/18/241)                                       

 

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(注8) 18 U.S. Code § 793 - Gathering, transmitting or losing defense information

(e)Whoever having unauthorized possession of, access to, or control over any document, writing, code book, signal book, sketch, photograph, photographic negative, blueprint, plan, map, model, instrument, appliance, or note relating to the national defense, or information relating to the national defense which information the possessor has reason to believe could be used to the injury of the United States or to the advantage of any foreign nation, willfully communicates, delivers, transmits or causes to be communicated, delivered, or transmitted, or attempts to communicate, deliver, transmit or cause to be communicated, delivered, or transmitted the same to any person not entitled to receive it, or willfully retains the same and fails to deliver it to the officer or employee of the United States entitled to receive it; or

(注8-2) 2023.9.15 米特別検察官がコロンビア地区連邦地裁「政府は裁判所に対し、司法の適正な運営と公正かつ公平な陪審を確保するために以下の即時措置を講じることの超法規的措置を確保するための政府の要請申立て:本声明はこれらの訴訟を不利にするものではない(GOVERNMENT’S OPPOSED MOTION TO ENSURE THAT EXTRAJUDICIAL :STATEMENTS DO NOT PREJUDICE THESE PROCEEDINGS)」(全19頁)から一部抜粋、仮訳する。

 この事件で大陪審が起訴状を差し戻して以来、被告(ドナルド・J・トランプ)はコロンビア特別区の住民、裁判所、検察官、証人候補者を攻撃する公式声明を繰り返し広く広めてきた。 被告は供述を通じて、我が国の司法制度において陪審の評決は「公開法廷での証拠と弁論によってのみ導かれる」という「逸脱の原則」に反して、これらの訴訟手続きの健全性を損ない、陪審員に偏見を与えると脅している。 外部からの影響によるものではない」 シェパード対マクスウェル、384 US 333, 351 (1966) (引用は省略)。

 「外部からの不利な干渉からプロセスを保護する」という裁判所の義務に従って、同上。 第 363 条で、政府は裁判所に対し、司法の適正な運営と公正かつ公平な陪審を確保するために以下の即時措置を講じることを要請する: (1) 地方刑事規則 57.7(c) に従って、特定の不利な超法規的判決を制限する、厳密に調整された命令を下すこと。 声明。 (2) いずれかの当事者がこの地区の住民との接触を伴う陪審調査を実施する場合、陪審調査が裁判員に不利にならない方法で実施されることを裁判所が保証できる命令を締結する。 政府は被告の弁護士から被告の立場を聴取しており、被告はこの動議に反対している。」

(注9) マイケル・ドリーベン(Michael Dreeben)氏は、米国連邦司法省の法務長官室に 30 年以上勤務し、そのうち 24 年間は連邦最高裁判所で政府の刑事事件を担当する法務長官代理(Deputy Solicitor General)を務めた。現在O’Melveny & Myers LLP.のパートナー、ハーバード大学ロースクール講師、ジョージワシントン大学ロースクール名誉講師を任務。

(注10)テイク・ケア条項(Take Care Clause)

 合衆国憲法ArtII.S3.3.1は大統領が「法律が忠実に執行されるよう配慮しなければならない義務」と規定している。 この義務には、少なくとも 5 つのカテゴリーの行政権が含まれる可能性がある。(1) 第 2 条の冒頭および後続の条項によって、憲法が大統領に直接与える権限、 (2) 議会の法律によって大統領に直接与えられる権限、 (3) 議会法によって連邦政府の各省およびその他の執行機関の長に与えられる権限、 (4) 米国の刑法を執行する義務から暗黙のうちに生じる権力、 (5) いわゆる「公務」を遂行する権限。これに関して連邦政府最高幹部は、解任の機会や方法に関して限られた裁量権を行使できる。

 以下の解説では、1)憲法や法令が大統領に与えている権限を大統領がどのように行使するのか、2)テイク・ケア条項と大統領の罷免権ひいては監督権との関係、3) 誰が彼に代わって行政権を行使するのか、そして4)議会が行政府職員の行動をどこまで指示できるのか等、これらの行政権によって提起される疑問のいくつかを検討する。(以下は略す。)(コーネル大学ロースクールの解説から抜粋、仮訳)

(注11) ドナルド・トランプ大統領に対する弾劾手続の経緯

 合衆国憲法第2章第4条は、「第 4 条 [弾劾]大統領、副大統領および合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪その他の重大な罪または軽罪につき弾劾の訴追を受け、有罪の判決を受けたときは、その職を解かれる」と規定している。

 同憲法の第1章第2条第5項は、下院は、議長その他の役員を選任する。弾劾の訴追権限は下院に専属する」とのみ規定している。つまり、下院が弾劾の罪状について大陪審の役割を果たし、調査・起訴する。

 これを受けて下院は2019年12月18日、権力乱用と議会妨害の2項目について大統領を弾劾訴追した。

 下院民主党による弾劾調査は、情報機関の匿名告発者が2019年9月に、トランプ氏とウクライナ大統領との電話会談に問題があったと議会に報告したことを機に始まった。

 ホワイトハウスが公表した通話記録によると、トランプ氏は7月25日にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話で、2020年の大統領選で対立候補になるかもしれない民主党のジョー・バイデン前副大統領とその息子について捜査するよう働きかけていた。

 民主党が進めた調査で複数の関係者が証言したところによると、トランプ氏は政敵に対する捜査要求と引き換えに、すでに米議会が承認していたウクライナへの軍事援助4億ドルの凍結解除を提示したほか、ホワイトハウスでの首脳会談の実現を提示したとされている。下院本会議をこれを権力乱用と認めて、大統領を弾劾訴追した。

 下院民主党が2019年9月に、トランプ氏がウクライナ大統領に何を働きかけたのか調査を開始すると、トランプ氏はホワイトハウス関係者の証言を次々と阻止した。下院本会議はこれを、議会妨害と認めて、大統領を弾劾訴追した。

【上院の弾劾権限】とは

 弾劾に関する合衆国憲法の規定はあいまいで、第1章第2条第5項では下院が「弾劾の権限を専有する」とのみ規定している。つまり、下院が弾劾の罪状について大陪審の役割を果たし、調査・起訴する。

 そして、憲法は第1章第3条第6項は「すべての弾劾を裁判する権限は、上院に専属する。この目的のために集会するときには、議員は、宣誓または宣誓に代る確約*をしなければならない。合衆国大統領が弾劾裁判を受ける場合には、最高裁判所長官が裁判長となる。何人も、出席議員の 3 分の 2 の同意がなければ、有罪の判決を受けることはない。」

*宗教上の理由などから宣誓できない場合に、これに代えて行う宣誓同様の陳述

 第1章第3条第 7 項は「弾劾事件の判決は、職務からの罷免、および名誉、信任または報酬を伴う合衆国の官職に就任し在職する資格の剥奪以上に及んではならない。但し、弾劾につき有罪判決を受けた者が、法にもとづいて、起訴、公判、判決、または処罰の対象となることを妨げない。

 1868年2月に始まった当時のアンドリュー・ジョンソン( Andrew Johnson, 1808年12月29日 - 1875年7月31日)は、アメリカ合衆国の政治家。第16代副大統領および第17代大統領を歴任)に対するものがアメリカ建国史上、大統領への初の弾劾裁判となり、この時に定まった手続きがその後も総則として引き継がれている。しかし、究極的には、今回の弾劾裁判で証拠や証人をどう扱うか、審理の期間や弁論をどうするかなどを決めるのは、共和党幹部のアディソン・ミッチェル・マコーネル Jr.(Addison Mitchell McConnell, Jr.)上院院内総務(2024年11月退任予定: 82歳)と、民主党のチャック・シューマー(Charles Ellis "Chuck" Schumer)民主党:72歳)上院院内総務ということになる。

(注12)米国の二重の危険(double jeopardy):同一の行為に関して民事制裁金と刑事処分を課すことは、一般に二重の危険には当たらないとされている(1997年Hudson vs. United States連邦最高裁判例)

(注13)トッド・ブランシュ(Todd Blsnche) :トップクラスのホワイトカラー刑事弁護人で元連邦検察官。

(注14) Michael Cohen(元トランプ氏の顧問弁護士)

 アメリカ人の元弁護士で、2006年から2018年までドナルド・トランプ元大統領の弁護士を務めた。コーエン氏はトランプ・オーガニゼーションの副社長およびトランプ氏の個人顧問を務め、しばしばトランプ氏のフィクサーと言われている。 コーエン氏はトランプ・エンターテインメントの共同社長を務め、子供の健康慈善団体であるエリック・トランプ財団の理事も務めた。 2017年から2018年まで、コーエン氏は共和党全国委員会の財務副委員長を務めた。

 トランプ元大統領は、2016年の米選挙へのロシア介入に関する特別検察官の捜査が始まった1年後の2018年5月までコーエン氏を雇用していた。 2018年8月、コーエンは選挙資金違反、税金詐欺、銀行詐欺など8つの罪状で有罪を認めた。 コーエン氏は、2016年の大統領選挙に「影響を与えることを主な目的として」トランプ大統領の指示で選挙資金法に違反したと証言した。 2018年11月、コーエン氏はモスクワのトランプ・タワー建設の取り組みについて米連邦議会委員会に虚偽を述べたとして有罪を認めた。(Wikipedia から抜粋し、仮訳)

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米国内外でのトランプ裁判の全体像について鳥瞰図かつ法的に詳しい解説に挑戦(その1)

2024-03-15 12:05:20 | 国家の内部統制

Last Updated:March 17 ,2024

 すなわち内外のメデイア記事の多くがトランプ裁判につき、誹謗中傷合戦を紹介しているものの、一部の米国のロースクールを除き法的点からの詳しい解析はほとんど行っていない。

 メデイアではトランプ氏やトランプ・オーガニゼーションに関する裁判数は民事、刑事事件で計4つと書いているのが多数である。しかし、例えば、本ブログの第Ⅲ-2章で述べるとおりニューヨーク州司法長官レティシア・ジェームズは、不動産価値を不当に水増ししたとしてトランプ前大統領・オーガニゼーションに2億5,000万ドル(約3,725億円)の損害賠償と州内での事業の禁止を求めている。その裁判は2023年10月に始まった。この関連でR&D保険詐欺問題も取り上げられている

 筆者はこのような背景にうんざりしつつ、改めて厳秘な意味で法解釈を試みようと考えた。例えば、本ブログで取り上げるジョージア州フルトン郡の検事が組織犯罪取締法である「同州RICO法(威力脅迫および腐敗組織に関する取締法(Georgia Racketeer Influenced and Corrupt Organizations :RICO) Act)」をもとにトランプ・オーガニゼーションを刑事起訴に持ち込んでいる。この起訴・裁判方法は従来のトランプ裁判法理では見られなかっただけに興味深い点が多い。これに関し、2021年1月6日の連邦議会議事堂占拠犯人らの起訴を含む裁判の一括審理の法的の有罪化の可能性等についても研究したい。(RICO法の問題点は本文や(注1)で述べた)

 また、トランプ前大統領は英国では逆に原告となった裁判で、英国高等法院(High Court of Justice)はクリストファー・スティール(Christopher Steele)氏の会社に対する風評被害とデータ保護の権利侵害に対する訴えを却下し、スティール氏に訴訟費用として30万ポンド(約2,670万円)を支払わなければならないとの判決を2024年2月1日に下した。(この裁判で原告側が前述の米国RICO法を援用をして、却下されている点が興味深い)

 さらにいうと大統領選挙と並行して進められるトランプ裁判特にスーパー・ロイヤーをうたい文句にトランプ元大統領の弁護士となった弁護士各位の弁論技術を見極めたいというのも本音である。また、司法取引後 トランプ氏から離反した多くの著名な弁護士らはどこに行ったのか。

 最後にもう1点、11月の大統領選挙に絡んで両候補の社会保障費の考え方の差をあえて取りあげる。この問題は司法判断以上にきわめて重要な投票判断材料となろう。

 これまで筆者ブログで取り上げたトランプ裁判について、以下のとおり整理する。その都度の断片的解説という問題があるが、少なくとも一般メデイア記事に比べ読むに堪えられよう。

 さらに2019年12月以降の連邦議会のトランプ前大統領に対する弾劾裁判の失敗もなおトランプ氏裁判に大きな影を投げかけていることは間違いない。((注11)参照)

2022.8.27 「フロリダ州連邦地裁の治安判事がドナルド・トランプ氏の領地マー・ア・ラーゴでのFBI捜査宣誓供述書の公開を命じた」

2022.11.7「ニュ―ヨーク州最高裁判所裁判官はニューヨーク州司法長官の要請に基づくトランプ一家(Trump Organization)の財務報告等を監督する独立した監視人(monitor)の任命を承認」

2023.1.15「米メリック・B・ガーランド連邦司法長官は1月12日、バイデン大統領の機密文書問題の特別顧問としてメリーランド地区の元米国検事ロバート・ハー氏を任命したと発表」

2023.12.19「二ューヨーク州上訴裁判所は民事詐欺裁判でトランプ前大統領が申し立てた(法廷で審議中の事柄の)発言禁止令を支持」

2023.12.26「2024年秋の米大統領選挙や同年3月の一部裁判の最高裁判決等を控えスピードアップするトランプ裁判の動向と争点」

 今回は4回に分けて掲載する。

トランプ裁判の鳥瞰レポート

Ⅰ.国際法曹協会(International Bar Association) 米国特派員たるフリーランスの記者ウィリアム・ロバーツ氏のレポート「裁判中のトランプ–と法の支配–」(2023年12月日)仮訳する。

 元米国大統領ドナルド・トランプ氏は、大統領再選挙に立候補している一方で、4つの刑事訴追と民事詐欺裁判に直面している。IBAグローバルインサイト は法の支配への影響を評価するレポートをまとめた。

 2023年11月中旬に米国ニューハンプシャー州で行われた選挙集会で、ドナルド・トランプ前大統領は、「アメリカを破壊するために嘘をつき、選挙で不正行為をする」敵対者を「害虫」のように「根絶する」と約束した。この文言は、トランプ大統領が再選されれば司法省を利用して現米国大統領ジョー・バイデン氏らを追及するという脅しに不気味な光を投げかけた。

 これは、2024年の大統領選の共和党候補を獲得しようとしているトランプ前大統領の最新の攻撃路線だ。アイオワ州とニューハンプシャー州では期日前投票が2024年1月に予定されており、米国大統領選挙まで1年を切っている。 刑事訴追と民事訴訟に直面し、トランプ前大統領の選挙戦での発言はますます過激になっている。 例えば、彼は自分を起訴したワシントンD.C.の米国連邦特別検事(US special Counsel )ジャック・スミス(Jack J.Smith)氏を「気が狂っている人物」と呼んだ。(注2) 

 トランプ氏は現在、合計4つの刑事訴追と連邦および州当局によって提起された1つの民事詐欺事件で裁判にかけられている。事件は広範囲に及び、元大統領の内外の行動に移る。トランプ氏は全面的にこれら告訴に異議を唱えた。これら組み合わせで、トランプ氏の主張は民主主義の規範と法の支配を公然と無視する危険な扇動者の絵を描いている。

(1)わが国の司法・政治システムは、ここ米国でいくつかの重要な方法で失敗した

 クリス・エデルソン(Chris Edelsons)(ワシントンD.C.アメリカ大学・政治学部・有期助教)Assistant Professor of Government, American Universityは次のとおり述べた。

Chris Edelsons氏

 「ここ米国では、私たちのシステムはいくつかの重要な点で失敗した。わが国が機能し健全な自由民主主義が行われていれば、ドナルド・トランプ氏が1月6日の連邦議会議事堂襲撃を奨励し称賛し、その後、下院で弾劾されたとき、彼は罷免されていただろう。しかし、彼はそうならなかったので、我われに残されたのは、彼の責任を問う方法としての裁判訴追だけである。」

 さらのエデルソン氏は「米国の選挙制度では、ドナルド・トランプ氏がまだ大統領選に立候補することが認められていることが一つの理由だが、次に何が起こるかは不透明だと(トランプ氏が)望んでいるのは、選挙に勝って、これらの刑事事件での責任を回避できることだ」と彼は言う。 「彼は刑務所から逃れるために戦うだろう。彼は刑務所から出ないための最善の道は選挙に勝つことだと期待しており、それができる可能性はある」と付け加えた。

 ニューヨーク州では、トランプ大統領がアダルト映画スターのストーミー・ダニエルズ(Stormy Daniels)氏とプレイボーイのモデル、カレン・マクドゥーガル(Karen McDougal)氏への口止め料の支払いを隠蔽するために業務記録を改ざんした疑いで州により起訴されているが、トランプ氏はこれを否認している。この裁判は2024年3月下旬に開始される予定である。

 一方、ニューヨーク州司法長官レティシア・ジェームズ(New York State Attorney General Letitia A.James)氏は、不動産価値を不当に水増ししたとしてトランプ前大統領に2億5000万ドル(約372億5,000万円)の損害賠償と州内での事業の禁止を求めている。 その裁判は2023年10月に始まった。

Letitia A.James 氏

 ジョージア州では、フルトン郡地方検事のファニ・T・ウィリス(Fani Taifa Willis)氏が、同州の「威力脅迫および腐敗組織に関する取締法(RICO Act)」に基づき、トランプ氏とその他18名を告発した。 トランプ元大統領の元法律顧問のうち3人目と4人目の被告が罪状を軽減して有罪を認め(司法取引)、国を代表して真実を証言することに同意した。 トランプ氏と他の被告(全員が無罪を主張)の公判期日はまだ設定されていない。

 スミス連邦特別検事はトランプ氏に対して2つの別々の告訴を提起しており、1件目は機密文書の取り扱いに関わるフロリダ州南部地区で、2件目は2020年大統領選挙を覆そうとするトランプ氏の試みに関連してワシントンD.C.で行われている。

 機密文書事件の裁判は2024年5月に始まる可能性があるが、延期される可能性がある。 選挙不正問題の裁判は3月上旬に始まる可能性がある。 トランプ前大統領は両方の疑惑を否定している。

(2) 無駄のない卑劣な起訴

 2020年の大統領選挙結果を覆そうとするトランプ元大統領の試みに関連した2つの事件(1つは連邦レベル、もう1つは州レベル)は、おそらくアメリカ国民にとって最も政治的に爆発的な事件である。 2020年の全米一般投票ではジョー・バイデン大統領がトランプ大統領の7,420万票に対して8,130万票の差で勝利したが、米国の選挙制度の古風な18世紀の構造により、実際の選挙戦はさらに狭かった。

 米国大統領は直接選出されるのではなく、1789 年に合衆国憲法に基づいて設立され、選挙人団(United States electoral college)内の「選挙人」を人口に基づいて各州に割り当てる機関である選挙人団によって選出される。2016年にトランプ氏が勝利したミシガン州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州で勝利し、バイデン氏は選挙人獲得数306人、トランプ氏の232人で勝利した。バイデン氏は、これまで共和党に投票していたアリゾナ州とジョージア州でも勝利した。これら5つの激戦州ではバイデン氏が僅差で勝利し、合計27万7,000票を獲得した。もしこれら5州のうち3州が逆の方向に進んでいたら、トランプ氏は一般投票で敗れたものの、ホワイトハウスを維持していたかもしれない。

 トランプ氏と彼の政治的同盟者は、州と地方レベルでの選挙結果に異議を唱える76の訴訟をもたらした。2人を除くすべてが証拠の欠如のために解雇されたか、またはメリットに失敗した。成功した2人は未成年であり、詐欺を主張しなかった。

 それにもかかわらず、トランプ氏は選挙が不正に決定されたという根拠のない主張を展開した。彼は、連邦議会が選挙人投票の集計と検証を行うための正式な議会を開会する予定だったその日に、ワシントンD.C.で支持者の大規模な集会を組織した。 数千人の暴力的な親トランプデモ参加者が国会議事堂の警察のバリケードを突破し、議会議事堂に侵入し、議事は数時間の遅延を余儀なくされた。 2022年夏の米下院1月6日委員会に提出された証言によると、同氏のチームは主要州の偽の選挙人を代用しようとしたという。

 元米国大統領が数多くの重大な容疑で刑事告発され、係争中であることは米国歴史上、本当に異常なことだ。

 (3) ジョン・T.ショー(John T. Shaw) (南イリノイ大学ポールサイモン公共政策研究所(Paul Simon Public Policy Institute)所長)の発言

John T. Shaw 氏

 1年に及ぶ議会調査でトランプ氏の行為に関する忌まわしい証拠が山ほど明らかになった後、特別検事スミス氏は2023年8月1日に元大統領に対して4件の訴追を行った。 トランプ氏は米国に対する詐欺を共謀し、有権者の権利を剥奪し、公式手続きを妨害しようとした罪で起訴されている。

「最も重要な容疑は選挙人投票の認証を阻止する陰謀行為だ」とワシントンD.C.の法律事務所カールトン・フィールズの株主で元米国司法省検事のジーン・ロッシ(Gene Rossi)氏は述べた。

 

 Gene Rossi 氏

「ロッシ氏はこの起訴はドナルド・トランプ個人に対するものである。 これは無駄がなく卑劣な起訴であり、彼は非常に深刻な結果に直面している。2024年11月に行われる大統領選挙前に、トランプ氏が陪審によって有罪とされる可能性がある。元大統領がこれほど重大な罪に問われていること自体、歴史的で注目すべきことであり、まったく衝撃的だ」と述べた。

 2021年1月6日の連邦議会暴動からほぼ3年間で、議事堂侵入に関連した罪で1,200人以上が起訴された。400人以上が暴行や法執行妨害の罪で起訴された。右翼団体「プラウド・ボーイズ(Proud Boys)」(注3)(注3-2)や「オース・キーパーズ(Oath Keepers)」(注4)の主催者や国会議事堂を襲撃した暴徒の先兵らに10年以上の長期拘禁刑が言い渡された。 「彼らの主な目的は、議会、つまり下院と上院が(1月6日)に任務を遂行するのを阻止することであった」とロッシ氏は言う。「あの日、元大統領の指示と彼の激励と熱烈な支援を受けて国会議事堂に押し入った人々は、彼らがしたかったことは[…]議員たちに危害を加えるまではいかなくても、議員たちを脅かして白昼の光を奪うことだった」

 デモ参加者が国会議事堂に侵入したとき、マイク・ペンス元副大統領は選挙人集計を主宰していた。 大統領のツイートに反応して、親トランプ派の群衆は「マイク・ペンスを吊るせ」と叫んだ。 国会議事堂の敷地内には間に合わせの足場が建てられた。 約114人の警察官が負傷し、中にはクマよけスプレー、野球バット、盾、槍を振り回したデモ参加者との白兵戦で重傷を負った人もいた。

Former Vice President Mike Pence氏

 現在、ワシントンD.C.でのトランプの連邦裁判は、連邦地方判事のターニャ・S・チュトカン(US District Judge Tanya S Chutkan.)氏が主宰している。 バラク・オバマ前大統領によって任命されたチュトカン氏は、トランプ大統領に対し、「顧問弁護士」による弁護(被告が専門家の弁護に従ったと主張する、有罪を回避するための危険な戦略)につき、申し立てられた犯罪の実行につながる法的アドバイスを利用するつもりかどうかを2024年1月15日までに裁判所に通知するよう命じた。同裁判は、米国の15の州と2つの準州で共和党大統領候補の予備投票が行われる「スーパー・チューズデー」の前日である3月4日に始まる予定である。

Tanya S Chutkan氏

 重要なことは、またトランプ氏は、2020年の大統領選挙を覆そうとする試みに関連して、ジョージア州フルトン郡で非常に深刻な恐喝罪に直面していることである。同州の大陪審が提出した41件の広範囲にわたる起訴状は、偽の選挙人投票を連邦議会に提出し、選挙を不正に覆そうと共謀した罪でトランプ氏と他の18人を起訴した。 おそらくこの事件は今後の大統領選挙戦で大きく取り上げられることになるだろう。トランプ氏はこの不正行為を否定している。

 つまり、ジョージア州には連邦法以上に広範なRICO法があり、フルトン郡地方検事のファニ・T・ウィリス(Fani T.Willis)氏に対し、州の選挙結果を取り消すためにトランプ大統領に加わった多数の共謀者容疑者を起訴する裁量権を与えている。 RICO法では、ウィリス被告が他の州で被告がとった可能性のある行為を含め、幅広い事実を証拠として提出することが認められている。

(4) 権力を握る(Going to stay in power)

 トランプ裁判の重要な進展として、元トランプ弁護士のケネス・j・チェセブロ(Kenneth John Chesebro) (注5)、シドニー・パウエル(Sidney Powell) (注6)、ジェナ・エリス(Jenna Ellis) (注7)へのインタビュー’の検察官のビデオ録画の抜粋が、3つの司法取引に達した後、オンラインで公開された。

Kenneth John Chesebro 氏

Sidney Powell 氏

Jenna Ellis 氏 (右)

*ジョージア州検察局は去る2023年10月20日、トランプ前大統領らが選挙結果を覆すために共謀したとされる事件で、起訴対象者の一人、ケネス・チェスブロ弁護士(62歳)が有罪を認め、今後の裁判でトランプ氏らにとって不利な証言をすることに同意したと発表した。

 エリスは、2020年12月にホワイトハウスのクリスマスパーティーでトランプ大統領補佐官のダン・スカヴィーノ Jr.( Daniel Scavino Jr.)との出会いを語った。エリスはバイデンの勝利に対する法的挑戦が失敗したことをスカヴィーノに後悔を申し出た。スカヴィーノ氏は、トランプは関係なくホワイトハウスに滞在するつもりだったと答えた。

Daniel Scavino Jr.氏

 ジョージア州の刑事訴訟におけるトランプ裁判の主任弁護士であるスティーブ・サドウ(Steven H.Sadow)氏は、エリスが‘絶対に意味のない’を詳述した‘のプライベート会話’を呼び出した。

Steven H.Sadow 氏

 残りの15人の被告の1人を代表する主任弁護人は、報道機関にビデオを提供したことを認めた。ウィリス検事は事件の保護命令を求め、裁判官はこれに同意した。

 ハーバード大学ロースクールで憲法を学んだチェセブロ弁護士は、16人のジョージア共和党がトランプ氏が同州で勝利し、自らを宣言したと主張する計画を考案し、調整したとされている。

 チェセブロ氏は州の当初の陰謀容疑を認めず、代わりに虚偽の文書を提出したことによる単一の重罪の容疑で有罪を認めた。チェセブロ弁護士は、検察官との契約では、彼がいかなる種類の偽の選挙人計画やそのようなものの構築者でも決してなかったことを証明していると述べた。

 パウエル氏は、2020年のトランプの敗北後、外国の行為者がトランプからバイデンに電子投票システムへの投票を反転させる方法を設計したという陰謀論を促進した。彼女はトランプの法務チームに参加し、トランプとのホワイトハウス会議に参加し、トランプの誤った主張を推進する上で重要な役割を果たした。

 ジョージア州フリントン郡地方検事ウィリス氏は、裁判が2024年半ばまで開始されないと予測しており、大統領選挙の最中に裁判が継続されることを意味し、2024年後半または2025年初頭までは結論が出ないと考えている。

 仮にトランプ氏が共和党の指名を獲得し、2024年の総選挙に勝利した場合、彼は2025年1月20日に大統領になる。その場合, トランプ氏は、州検察官が選出または現職の大統領に対して起訴することにより米国政府の事業に干渉することを許されるべきではないという強い憲法上の議論を利用できるであろう。

 特に珍しいのは、トランプ氏が対立する当事者間の平和的な権力の移転を阻止しようとする罪で起訴されていることある。そしてその後、彼の検察は共和党の有権者の間で彼を助けたように見えるがが、彼の裁判の結果は彼の立候補と総選挙での党のための災害を意味するかもしれない。

 トランプ氏は、大統領選挙の干渉があったことを明示的に主張しており、自身の裁判にかかる裁判官、検察官、書記官を政治的に偏っているとして攻撃している。2023年6月、彼はバイデン大統領を米国連邦司法省を兵器化していると非難した。それは本当に私たちの民主主義の本質、民主主義の核心、つまり平和的な権力の移転に行く。それは250年の間アメリカのシステムの魔法の1つあった、とジョン・T.ショー(John T. Shaw)氏は以下のとおり述べた。

 「米国には、行政機関が司法省と検察官を使用して政治的反対者を追いかけることができないことを明確にする法律がある」とフIBAのフォーラム共同副議長(Secretary, IBA Rule of Law Forum)ロバート・バーンスタイン氏は個人的な立場でコメントする。現職の大統領が司法省を武器にしていると誰かが言ったときはいつでも、それは私たちの司法制度の公平性、そして私たちの法執行機関全般に対する信頼を損なう, これは法の支配に対する脅威である」

(5)トランプ裁判はフロリダからニューヨークへ

 一方、トランプ氏は他の理由で法的措置に直面しています。元大統領, 元大統領が取った何百もの機密文書を不適切に処理した罪で、2023年8月に個人補佐官とMar-a-Lagoのボデーマンが起訴された–政府が違法に– ホワイトハウスはフロリダ州パームビーチのマール・ア・ラゴ(Mar-a-Lago)にに向かい、全員が無罪を主張した。2017年から2021年まで大統領として、トランプは定期的な諜報ブリーフィングから受け取った秘密資料を含め、数十箱の紙資料と記念品を蓄積していた。

 大統領の記録を保持する責任を負う米国の機関である国立公文書館が資料を要求したとき、トランプはいくつかを返却した, しかし、他の人々を守り、彼自身の弁護士による彼が持っていたものをカタログ化して返却するためのフォローアップの試みを回避したとされている。

 FBIは2023年8月にマール・ア・ラゴを捜査のため襲撃し、102の秘密の米国文書を押収した。明らかに、国家安全保障文書について話しているとき、それは大きなノーノーです’、現在ワシントンDCで実務訴訟担当者である司法省の元最高検察官であるポールペルティエは言います。

 IBA 法の支配フォーラム共同副議長(Secretary, IBA Rule of Law Forum)のロバート・ステイーブン・バーンスタイン(Robert Steven Bernstein)氏は以下のとおり語った。

 「現在起こっているように、法的プロセスの信頼性と正当性が疑われるとき、それは私たちの司法制度全体への信頼を損なう風土を作り出す。」

 Mar-a-Lagoの文書事件は2024年5月までに裁判にかけられるとは予想されておらず、おそらくさらに遅れるであろうし、選挙後まで遅れる可能性は十分にある。大統領であった2020年にトランプによってベンチに指名された米国地方裁判所のエイリーン・キャノン(Aileen Cannon)裁判官が事件を処理している。彼女は、トランプの弁護側に、事件の根底にある機密文書を検討する十分な時間を与える意欲を示した。これは、別個の複雑な一連の米国の証拠手続きを呼び起こす。他の裁判の場合と同様に、トランプは不正行為を否定した。

 一方、ニューヨークでは、トランプの民事詐欺事件で非陪審裁判を監督しているアーサー・F・エンゴロン州裁判官が, これはトランプ側から控訴されているが、トランプ・グループが銀行や保険会社に虚偽の財務諸表を提出したことをすでに決定している。訴訟で問題となっているのは、どのような救済策と罰則を適用すべきかである。

 トランプ氏と彼の3人の大人の子供たちは、事件の裁判で証言するために裁判所に呼ばれた。公判では、トランプ氏は裁判官に偏見があると非難し、ニューヨーク州司法長官ジェームズ氏を攻撃し、彼女を「政治的ハック(political hack)」と呼んだ。特に、裁判官はトランプがソーシャルメディアで彼の法務書記官を攻撃することを禁止する「ギャグ命令(裁判にかかわった参加者による情報またはコメントを制限する裁判所命令)」を出した、そしてそれはトランプがそれに違反した場合、10,000ドル(約148万円)の罰金を引きだした。(注7-2)

(6)権威主義対民主主義

 トランプ氏が2024年に共和党の大統領候補になるかどうかの最初の実際のテストは、1月15日にアイオワ州中西部で行われる。共和党員は、州全体のコミュニティセンターや地元の講堂で‘コーカサス’として知られる党会議に出席する。世論調査では、トランプ氏がアイオワ州で最も近いライバルであるフロリダ州知事のロンデサンティスと元サウスカロライナ州知事および国連大使のニッキーヘイリー氏よりも強いリードを示している。

 これは、ドナルド・トランプが提示する多くの前例のない状況の1つである。アイオワ州デモインにあるドレイク大学の政治学部教授兼共同議長であるレイチェル・ペイン・コーフィールド(Rachel Paine Caufield)氏は、トランプ氏はこれまでに見たことのない’とは別の大統領候補者である。彼はまさにこのノミネートフィールドのフロントランナーである。

Rachel Paine Caufield氏

 コーフィールド氏は「トランプ氏に対する起訴状は、少なくとも最初は、ドナルド・トランプ氏を助けているようである。ニューヨークでの最初の起訴により、彼は世論調査で批判を跳ね返ったという。彼の後に来る設立エリートがいるという考えに彼はよく仕えているようで、彼らは政治的に動機付けられており、彼らは悪意を持っている。これらの犯罪容疑者の顔写真(mug shot)」がジョージア州フルトン郡から出てきたとき、それはドナルド・トランプを傷つけなかったと彼女は付け加えた。すなわち、それはドナルド・トランプを助け、彼は犯罪容疑者の顔写真(mug shot)」で選挙資金を調達した」

 世論調査では、共和党の有権者の最大70%が、トランプが2020年の大統領選挙に勝利したとまだ信じており、2024年に再びそれを実行できると考えている。その理由の1つと米国の政治情勢の厄介な側面の1つは、トランプ氏と彼の基地の間のフォックス・ニュース・テレビや、彼の方針を踏襲し続けている政治家などの支持メディアの自己強化フィードバックループである。ジョン・T.ショーショー氏は、2021年1月6日に米国議会議事堂にいて、事件を目撃したが、それでもトランプを支持している主要な政治家がいると語った。彼らは中世の戦闘が展開するのを見て、誰がそれを引き起こしたかを正確に知っている’とショーは述べた。‘彼らの即時の反応は非常に批判的で非常に内臓的でした。しかし、彼らは最も重要なことは、基地がどこにあるかを理解することであると決定した。そして共和党の基地がトランプを許すことをいとわないとき,この神聖な規範の違反でさえ、議員たちは一列に並んだ。

 アン・ランバーグ(Anne Ramberg)氏は、IBAの人権研究所評議会の共同議長である。法の支配に基づいて構築された民主主義は、米国では深刻な[危険]である。これまでのところ、チェックとバランスは司法府によって支持されている。しかし、トランプ氏は民主主義と法の支配を妨害するためにできる限りのことをしている。その結果はもちろん、米国と民主主義世界全体にとって壊滅的なものである。[...]より多くの独裁者が大規模で重要な国で権力を握るようになることを踏まえると、それは危険な進展である。いくつかの国で民主主義が弱体化しているという明らかなパターンがある。

 アイオワの後、共和党の大統領指名コンテストはすぐに展開される。有権者は、2024年1月23日にニューハンプシャー、2月8日にネバダ、2月24日にサウスカロライナの投票に行く。コロンビア特別区、アイダホ州、ミシガン州、ミズーリ州、ノースダコタ州が3月の第1週に投票する。3月5日までに– ‘として知られるスーパー・チューズデイ共和党の指名大会への代表のほぼ半分が決定される。

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(注1) 川崎友巳「アメリカ経済刑法における RICO 法違反の罪の意義」(同志社法学 71巻6号[通巻409号](2020))参照。なお、同論文は、ジョージア州RICO法(注17)参照)には言及していない。

(注2) On November 18, 2022, Jack Smith was appointed by Attorney General Merrick B. Garland to serve as the Special Counsel by Order No. 5559-2022.

連邦司法省のJack J.Smith特別検事に関するリンクサイト

(注3) プラウド・ボーイズ( Proud Boysとは、アメリカ合衆国およびカナダの男性のみによって構成されるネオ・ファシズム思想を有するオルタナ右翼団体。カナダ公安省によりテロ組織登録されている。

アメリカで2021年1月にあった連邦議会襲撃事件をめぐる裁判で、極右団体「プラウド・ボーイズ」の元リーダー:ヘンリー・"エンリケ"・タリオ(Henry "Enrique" Tarrio,Henry:40歳)に2023年9月5日、扇動共謀罪などで拘禁刑22年が言い渡された。同国の民主主義の中枢を襲ったこの事件の首謀者に対する量刑としては、これまでで最も重い。(2023年9月6日BBC news日本語版から抜粋)

*2023.5.5 BBCnews: 2021年1月6日の米連邦議会襲撃事件について、首都ワシントンの連邦地方裁判所の陪審は5月4日、極右団体プラウド・ボーイズの4人に対して扇動共謀の罪で有罪の評決を下した。同じ罪で起訴されていた5人目についても、同罪では無罪評決を出したものの、他の複数の重罪で有罪と評決した。

連邦議会襲撃事件では、2020年米大統領選でジョー・バイデン氏の当選を認めず、選挙結果を覆そうとしたドナルド・トランプ氏の支持者らが、バイデン氏の当選認定手続きを阻止しようと議事堂に乱入した。プラウド・ボーイズは当日、100人以上がこの襲撃に参加し、大きな役割を果たしたとされる。

*2023.9.1 BBCnews:および米連邦司法省のリリース

 アメリカで2021年1月にあった連邦議会襲撃事件をめぐる裁判で、極右団体「プラウド・ボーイズ」のリーダーのジョー・ビッグス(Joe R.Biggs 39)は2023年8月31日、拘禁刑17年の刑と監視付き釈放36か月の判決を受けた。また共同被告ザカリー・レール(Zachary Rehl)被告( 38歳)は拘禁刑15年と監視付き釈放36カ月の判決を受けた。

 2人は2021年1月6日の連邦議会議事堂侵入に関連した扇動陰謀およびその他の容疑であり、彼らの行動は、2020年大統領選挙の認定に必要な選挙人票の確認と集計の過程にあった米国議会の合同会議を混乱させたというものである。

 首都ワシントンの連邦地裁で開かれた裁判で、検察側は陸軍退役軍人で陰謀論サイト「インフォウォーズ」の特派員だったビッグス被告について、議会襲撃の「扇動者」だったと主張していた。同被告は2023年5月、扇動共謀罪(18 U.S. Code § 2384 - Seditious conspiracy(注3-2)などで有罪評決を受けていた。

Joe R.Biggs ジョー・ビッグス被告(BBC new から抜粋)

(注3-2) 扇動共謀罪(18 U.S. Code § 2384 - Seditious conspiracy): いずれかの州または準州、あるいは米国の管轄下にある場所で、二人以上の人物が、米国政府を打倒、鎮圧、武力破壊すること、または米国政府に対して戦争を起こそうと共謀した場合、 またはその権限に武力で反対すること、または米国法の執行を武力で阻止、妨害、遅延させること、あるいはその権限に反して米国の財産を武力で押収、奪取、占有したときは 、彼らはそれぞれ、本編に基づいて罰金を科されるか、20年以下の拘禁刑、あるいはその両方が科せられる。(コーネル大学ロースクールの解説2/6(109)を仮訳)

(注4) Oath Keepers:護憲派(を自称する極右団体)。“oath”(誓い)は、アメリカ合衆国憲法に記された国民の権利、とりわけ「政府の横暴に対して実力で抵抗する権利」への誓いを意味する。彼らの目には、オバマ政権による医療保険改革も金融業規制も「政府の横暴」と映っている。(Imidas  から抜粋)

(注5) ケネス・j・チェセブロ(Kenneth John Chesebro) 

(注6) テキサス州の弁護士、シドニー・パウエル氏(68歳)は 2020年の選挙で敗北した後、ドナルド・トランプ前大統領の法務チームに加わった, ジョージア州の選挙干渉事件でいくつかの軽犯罪につき有罪を認めた。

 フルトン郡フルトン郡上位裁判所のスコット・マカフィー裁判官の前に現れ、彼女は6年間の保護観察を行い、 6,000ドル(約88万8,000円)の罰金を支払うこと、 2,700ドル(約39万9,600円)をジョージア州国務長官の事務所に支払うこと、ならびに共同被告たる裁判で誠実に証言することに同意した。

 パウエル氏は選挙詐欺に関する陰謀論を広めるのを助けた。当初、パウエル氏はジョージア州の訴訟で7件の重罪容疑に直面した。これには、選挙詐欺を犯すための威力脅迫および腐敗組織に関する陰謀が含まれ。検察官との交渉により、パウエル氏は元の容疑で有罪とされた場合に直面したよりもはるかに低い罪で判決が下された。

 パウエル氏は、彼女の裁判のための陪審員の選択が始まる予定の1日前に有罪の嘆願書に入った。彼女は起訴状で指名されたトランプ氏を含む19人の被告の1人であり、司法取引を受け入れた2人目である。

(注7)元トランプ氏キャンペーン弁護士ジェナ・エリス(Jenna Ellis) 氏は ジョージア州の選挙転覆事件で2023年10月23日に有罪を認め、フルトン郡の検察官–過去1週間で3番目の有罪の嘆願に協力した。

 アトランタ裁判所での予定外の公開審理で、エリス氏は虚偽の発言を支援および禁ずる1カウントにつき有罪を認め, 選挙に起因する重罪の背景は、エリスと他のトランプ氏の弁護士が2020年12月にジョージア州の議員に売り出したことである。

 彼女は5年間の保護観察の判決を受け、 5,000ドル(約74万円)の賠償金を支払うよう命じられた。

 エリス氏は10月23日に有罪を認めながら裁判官に涙の声明を発表し、2020年の選挙を覆そうとするトランプ氏の前例のない試みへの彼女の参加を否定した。

 エリス氏、チェセブロ氏、パウエル氏はすべて、将来の裁判で検察に代わって証言することに同意した。裁判ではじきだされたこれらのかつてのトランプ弁護士は現在、主要なトランプ氏の悪の元凶になるために軌道に乗っている。彼らはすべて弁護士であり、起訴側に2020年に舞台裏で起こっていたことに光を当てることができる。

 検察官にとって、もともと19人を請求するという 広大な裁判ケースで。これまでのところ、4人が有罪を認めている。(2023.10.24 CNN new から抜粋、仮訳)

(注7-2) 2023.9.16 BBC news 「米特別検察官、トランプ前大統領による裁判関係者の威圧や中傷を禁止するよう裁判所に請求」

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