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オーストラリアにおける“Black Lives Matter protect”運動の高まりと連邦政府や裁判所のCOVID-19対策のはざま問題(その1)

2020-06-09 11:21:58 | 国家の内部統制

2020.6.5 ABC news記事(主催者の発表では1万人以上が参加)

 筆者の手元に6月6日付けのABC news記事が届いた。表題は“NSW Supreme Court bans Sydney Black Lives Matter protest”というもので連日、関連記事が載っている。
 実は、この問題は米国で大社会問題となっている「George Floyd氏のピッツバーグ警察官による殺害事件」と深くかかわる問題でもあり、わが国も明らかな人種差別はないものの、より本質的には「ヘイトクライム社会(ヘイトクライム [憎悪犯罪]の 規正法とその問題点等の問題は、わが国でも無視しえない重要な課題でもある。
 特に、最近、わが国でもSNSなどを使った匿名の誹謗中傷規制の在り方が総務省、国会議員やSNS事業者団体である「ソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)」(筆者注1)でも具体的な検討が始まるとのことである。

 今回のブログは、これらの問題に関し、連載で(1)オーストラリアの最新情報、(2)米国のFBI長官のバーチャル記者会見の内容と米国の歴史上なお多くの課題を残す米国の人種差別問題につき課題を論じる。
 なお、わが国でもオーストラリアの州裁判所の“Black Lives Matter protest”に関する決定が引用されるが(注1-2)、残念ながらオーストラリアの州の裁判制度全般(筆者注2)および控訴裁判所(筆者注3)についての正確な解説が皆無と言ってよい。併せて補足説明を加える。

1.ABC newの“Black Lives Matter protest”に関する一連の記事
 おそらく記事の初めは6月5日の記事であろうが、関係者の意見も含め詳しい記事は“NSW Supreme Court bans Sydney Black Lives Matter protest ”であろう。以下で仮訳する。なお、デモの様子はメデイアのMSN動画記事を参照されたい。

 抗議者は、警察がイベントを禁止するために最高裁判所(supreme court)の命令で勝ったにもかかわらず、シドニー・ブラック・ライブ・マター集会(Black Lives Matter rally)が6月5日の午後に進むと述べた。

【記事のキーポイント】
・国際的な抗議行動がオーストラリア先住民の警察による扱いに光を投げかけている
・デビッド・エリオット警察/ 非常事態担当大臣(Police and Emergency Services Minister David Elliott)(注4)は地元の抗議を「私の担当すべき種類の理由ではない」と呼んだ。
・政界の長老は、パンデミックの中で公衆衛生面の悪化を懸念していると述べた。

 NSW警察は主催者を裁判所に連れていき、この集会事件が社会的距離に関するCOVID-19公衆衛生命令に違反することを懸念した。しかし、禁止が最高裁で認められたにもかかわらず、抗議者たちは計画通り集まる意思を表明している。すなわち、集会「Stop All Black Deaths in Custody」のFacebookページで、支持者は前進する決意を表明した。

「抗議するための許可は必要ない」と参加者の一人は主張し、また別の人は「NSW州の高等裁判所の判決は人々の力を止めることはできない」と別の人は述べた。

 Facebookで約12,000人が集会に「行く」をマークし、さらに18,000人が「関心がある」をマークした。

 NSW州のコロナウイルスの社会的距離法(coronavirus social distancing laws) (筆者注5)は、500人以上の集会が違法であると規定している。
警察は、500人を超える人が参加した場合、移動命令を発布する権限を持ち、社会的距離のルールを破った場合は、1,000豪ドル(約77,000円)の罰金を課すこともできる。

 この集会の元主催者である「先住民社会正義協会(Indigenous Social Justice Association)」「反植民地アジア同盟(Anticolonial Asian Alliance)」、「人種差別に対する自律的集団(Autonomous Collective Against Racism)」は、現在、このイベントから公的に撤回している。


「いかなる集会も…私たちが公式に組織するものではなく、NSW警察の介入を受けやすい」とデモの主催者はFacebookの投稿で述べた。

 6月5日金曜日に、NSW州の最高裁のデズモンド・フェイガン(Desmond Fagan)裁判官は公の集会の承認された権利と健康リスクとのバランスをとっていることを認めたが、最終的には現在の健康上のアドバイスを考えると5,000人の集会は「非常に望ましくない考え」であると述べた。さらに次の意見を述べた。
 「集会の基本的権利の行使は、現在のコロナによる公衆衛生秩序によって奪われることはなく、延期される。この集会の目的は、数ある問題の中でもとりわけ、拘留中の先住民族の死についての意識を高めることであることは認められ、その原因が地域社会で広く支持されており、大きな力と感情を持っていることが疑いの余地がない。
 しかし、集会を許可する裁判所命令を与えることは、政府の大臣と彼らに助言する公衆衛生当局によってなされた判決に反抗することになる。」

 一方、NSW州の最高保健責任者(主席医務官)であるケリーチャント博士(Dr. Kerry Chant)は、証拠を提出する証人の一人であり、NSWでコミュニティへの伝染が低レベルである一方で、大きなリスクが高まるという出来事があったと法廷に告げた。

Dr. Kerry Chant

 また、現時点では、高いコロナウイルスの検査実施率にもかかわらず、コミュニティでケースが見落とされている可能性がある」とChant博士は語った。

 さらに、バリスタのエマニュエル・ケルキャシャリアン(Barrister Emmanuel Kerkyasharian)(筆者注6)は、デモの主催者の立場で、「より安全なコース」は社会的距離を隔てた措置で集会を許可することであると意見書を提出し、人々が姿を現し、より密集し、コミュニティー感染のリスクが高まるだろう」と述べた。

 しかし、ファガン判事はその議論を拒否した。

 また、本事案は、集会に関して主催者が警察に与えた通知、予想される数が急増した場合のその通知の修正、および警察が行進を進めるための推測された同意を与えたかどうかにも左右された。
さらに最高裁判所は、デモ主催者が必要な7日前の通知を提供しなかったと判断した。そのため、イベントを進めるための警察長官の同意なしに、彼らはそれを合法であると見なすよう裁判所命令を求めた。

 警察は抗議者たちに家にいるように促す。

 NSWの警察副長官(NSW Police Assistant Commissioner)であるマイケル・ウィリング(Michael Willing)氏は、抗議者たちに家にいるように要請し、「発生したあらゆる状況に対処する」ために市内には警察の重要な資源があると述べるとともに以下のコメントを述べた。

Michael Willing氏

「6月6日[土曜日]には集会に出席しないようお願いしたい。現時点では、主張すべき意見や意見を別の方法で表現してください。
 警察は、法律が確実に遵守されるように[土曜日]に強い存在感を持つであろう。もし人々が最高裁判所の判決に従わずに、計画された抗議に参加することを選択した場合、彼らは違法であることを知っている必要があり、警察はそれに応じて対応するであろう。」

 オーストラリア緑の党のデービッド・シューブリッジ(David Shoebridge)氏は、この裁判所の決定は「明らかに残念な結果だった」と語り、それが「できるだけ安全」であることを保証するために引き続き集会に出席すると述べた。

David Shoebridge氏

 6月6日、かなりの数のファースト・ネーション(注7)の人々がまだ出て来ることを私は期待するだろう[土曜日]…そして彼らは依然として連帯を要求するだろう。
その連帯を示すかどうか、出席するかしないかは個人の判断次第だ。

 彼は人々に社会的距離のルールを守るように要請し、そしてあらゆる集会が安全と同じくらい安全であることを保証するためにできる限りのことをするように警察に要請した。

 最高裁の決定が伝えられる前の記者会見で、5人の刑務所の警備員に拘束されたままロングベイ刑務所で拘禁中に死亡したデイビッド・ダンゲイ(David Dungay)氏の母親であるリートナ・ダンゲイは、土曜日の集会で彼女が行進することを止めるものはないと語った。(注8)

ダンゲイ女史は「矯正サービスの官吏達は…息子を地面に入れて、米国の警官から殺されたジョージ・フロイド氏やブラック・ライブズ・マッターと同じように、私は行進のために歩く。私たちはこの土地を所有しており、先祖と共に過去から現在に至るまで何が起こっているのかを見る必要がある。人種差別は今もオーストラリアで存在しており、そして、それが私の息子を殺したのである。」

 6月2日の夜、何百人もの人々がシドニーの街を行進し、ジョージ・フロイドの死をめぐって抗議行動が全米で続いたことなどもあり、オーストラリア先住民のより良い待遇を呼びかけた。

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(筆者注1) Facebook Japan, Twitter Japan, ByteDance, LINEなどのネット事業者が参加するソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)が、名誉毀損や侮辱などを意図する投稿に関する緊急声明を発表した。

(筆者注1-2)日本人向けの“Black Lives Matter protect”運動についての解説は2つある。いずれもNSW州の裁判制度が理解できていないと混乱しよう。
(1) 2020.6.6 日豪プレス(オーストラリア生活情報サイト)「国内主要都市で「Black Lives Matter」抗議行動」
シドニーでの抗議行動は、6月5日にNSW州警察が州最高裁に差し止め請求を出して認められ、警察は、「抗議行動を強行すれば主催者の逮捕もあり得る」と発表していた。しかし、6日朝には主催者が差し止め請求を不当として控訴裁判所に持ち込んで認められたため、シドニーの抗議行動も合法とされた。
 また、SA、WA州のように抗議行動に対して特別許可を出したり、VIC州のように「コロナウイルス社会規制違反があれば取り締まる」という手段だけを採用したりして対応している。
  オーストラリアの抗議行動はアメリカの黒人の死よりもオーストラリア先住民族の人々が警察や刑務所などに勾留されている間に死亡する事件に対して行われており、「勾留中の黒人の死に関する特別調査委員会が報告書を提出して改善を勧告した1991年以来432人のアボリジニ、トーレス海峡諸島の人々が亡くなっていることを大きく掲げている。
(2) 2020.6.6 生活情報誌「チアーズ」判決が一転、『Black Lives Matter』抗議デモは開催
シドニーの『Black Lives Matter』抗議デモは、違法であるという最高裁判所による昨夜の判決が、NSW州控訴裁判所によって覆された。

(筆者注2) わが国でオーストラリアの裁判制度につき連邦司法制度の解説はあるが、州および連邦の裁判制度の全体像かつ新しい解説は最高裁、国会図書館も含め皆無に近い。NSW州の司法制度を民亊事件と刑事事件に分けてdiagramで表記されているサイトがあり、以下で引用、補足するとともに、在日オーストラリア大使館のHPから一部抜粋する。ここで注意すべきは州の最高裁は一般的には最高裁であるが、州によってはさらに上告法廷(Court of Appeal)がある。
 また、オーストラリア「High Court of Australia 」は、同国における最上級裁判所として、高等裁判所が第一審として下した判決、他の連邦裁判所(オーストラリア連邦裁判所、オーストラリア家庭high Court of Australia裁判所及びオーストラリア連邦微罪裁判所)の判決、州最高裁判所の判決及び連邦法に係る州裁判所の判決に対する上訴について審理する。高等裁判所への上訴には特別の許可が必要とされる。

「各州と準州および特別地域における裁判所の制度 は、それぞれ独立して運用されています。すべての州と 準州には、最高裁判所があり、州によっては、州レベ ルでは最高の上告法廷である民亊事件および刑事事件の上告法廷 があります。「地方」または「郡」裁判所として知られる 法廷では、判事が法廷で法の解釈や決定を行って、 より重要な事件を審理します。さらに重大な容疑に対 しては、陪審員 (通常 12 名) が被告の有罪か無罪 かを決定するのが普通です。殺人、性的暴行および 武装強盗のような重い犯罪は、通常それより上級の 法廷で裁かれます」(在日オーストラリア大使館のHPから一部抜粋、筆者が補足した(青色箇所)。

(筆者注3) NSW州の控訴裁判所に関するNSW州の最高裁サイトの解説文仮訳する。
 控訴裁判所はニューサウスウェールズ州の最終的な控訴裁判所である。控訴裁判所は、最高裁判所の単一の裁判官および他のニューサウスウェールズ州の裁判所および裁判所からの控訴および控訴の申請を審理する。それは、国家システムの他のすべての裁判所に関して上訴管轄権と監督管轄権の両方を持っている。

 控訴裁判所は、最高裁長官、控訴裁判所の長官、および9人の控訴裁判官で構成されています。さらに、各裁判部門の裁判長は裁判所のメンバーである。必要に応じて、控訴審の代理人も控訴裁判所に座り、場合によっては、最高裁判所の裁判部の裁判官が特定の訴訟の期間中、控訴の追加裁判官を務めることがある。

 控訴裁判所は、通常3人の控訴裁判官によって構成されるパネルに置かれます。裁判官が同意しない場合、多数意見が優先される。
場合によっては、5人の裁判官のベンチが、裁判所の以前の2つの決定の間に認識された矛盾がある場合、または当事者が控訴裁判所の以前の決定で設定された法的原則に異議を申し立てる場合に召集される。

(筆者注4) Ministerial Matters (Police and Emergency Services)はモリソン内閣の大臣である。自由党員である。

(筆者注5) ABC new記事では500人の集合が禁止の根拠法は、“NSW coronavirus social distancing laws”とある。筆者なりに同法の原本を探した。実は、その根拠法は“Public Health (COVID-19 Gatherings) Order (No 2) 2020”の“Part 2 Mass gatherings 5 Definitions” である。

(筆者注6) バリスタのエマニュエル・ケルキャシャリアン(Barrister Emmanuel Kerkyasharian)
エマヌエル・カークアシャリアン(Emmanuel Kerkyasharian) はForbes Chambersバリスター法律事務所のバリスターである。

(筆者注7)オーストラリアの先住民文化に対する理解は、観光サイト等においても極めて広く紹介されている。その一部を抜粋する。
「オーストラリアの先住民は、この国の広大な土地に数万年以上も居住しています。彼らは世界で最も古い生活文化を持ち、その独自のアイデンティティと精神は国のいたるところに存在し続けています。
「アボリジニ(Aboriginal)」や「先住民(Indigenous)」という言葉は、オーストラリア先住民(First Peoples)を表すのに用いられることがありますが、彼らは違う見方をしています。「私たちは一つであり、それぞれ違うのです。そして、たくさんの種族がいるのです」とリッジウェイ博士は言います。
クイーンズランド州の一部であるトレス海峡諸島(Torres Strait Islands)の先住民は、オーストラリア本土やタスマニア州のアボリジニの人々とは区別されます。以下略す」

(筆者注8) この犯罪行為に関し英国メデイア“The Guardian”は、5月31日記事“Family of David Dungay, who died in custody, express solidarity with family of George Floyd:Aboriginal man said ‘I can’t breathe’ 12 times before he died while being restrained by five guards in Sydney jail”で容疑者5名(刑務所の警備員)の動画も含め詳しく論じている。

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