Civilian Watchdog in Japan-IT security and privacy law-

情報セキュリティ、消費者保護、電子政府の課題等社会施策を国際的視野に基づき提言。米国等海外在住日本人に好評。

CJEUの判決 はGDPRはデータ主体のアクセス要求に応じて、カテゴリだけでなく、データ受信者IDの開示を要求した

2023-02-13 09:28:37 | EUのGDPR

 欧州連合の一般データ保護規則(GDPR)の下では、個々のデータ主体は、データ主体の個人情報に関する情報を共有することをデータ管理者に要求する権利を有する。これには、データ主体の個人データが開示された「受信者または受信者のカテゴリー」を知る権利が含まれる。これまで、データ管理者は、特定の受信者を名前で開示するのではなく、受信者のカテゴリーのみを開示することをデフォルトで行っていた。しかし、それはCJEU判決により変わろうとしている。

 今回のブログは、Bradley Arant Boult Cummings LLPのレポート(著者はBenjamin William Perry氏 & Rachel M. LaBruyere氏)などに基づき欧州司法裁判所判決の重要論点を論じる。

Benjamin William Perry氏

Rachel M. LaBruyere氏

1.要旨

 2023年1月12日、欧州連合司法裁判所(CJEU)は、データ主体のアクセス要求に応じて、データ管理者は受信者のカテゴリ-だけでなく、受信者を具体的に特定する必要があるとの判決を下した。この判決は、GDPRの第13条(データ主体のアクセス権)に基づくデータ主体のアクセス要求に特に対処したが、この決定は、GDPR第15条に基づく収集時点での必要な開示にも重要な影響を及ぼす。

2.事件の背景・経緯

 この事件は、オーストリアの個人であるRW氏が、オーストリアの郵便サービスプロバイダーであるÖsterreichische Post AG(以下、OPという)(注1)にデータ主体アクセス要求を提出し、データの受信者の身元を求めたときに始まった。GDPRの第15条に従い、データ主体は「個人データが開示された、または開示される予定の受信者または受信者のカテゴリ-を要求することができる。RWへの回答の中で、OPは、マーケティング目的でRWの個人情報を取引パートナーと共有しているが、特定の受信者を特定することを拒否したと述べた。

 原告RWは受信者の身元を求めて訴訟を起こしたが、GDPRが「個人データが転送される特定の受信者を名前で特定することなく、受信者のカテゴリのみをデータ主体に通知するオプションを管理者に与える」という理由で、訴訟は当初却下された。RWはこの決定をオーストリア最高裁判所(Oberster Gerichtshof)に上訴し、TFEU第267条(注2)にもとづき最高裁判所は予備判決のためにCJEUにこの質問を付託した。

CJEUはGDPRの広範な解釈を採用した

 広範囲にわたる影響を伴う決定において、CJEUは、管理者がデータ主体アクセス要求に応じてデータ主体にデータ受信者の特定のIDを明らかにする必要があると裁定した。受信者のカテゴリを明らかにするだけで十分であり、受信者の特定の身元を明らかにすることが不可能な場合のみである。その決定を支持するために、CJEUは、GDPRの全体的な目標に照らして、アクセス権にはすべての個人データ処理における透明性が必要であることを強調した。CJEUは、データ主体がGDPRに基づくデータ主体の権利(修正、消去、処理の制限の権利など)を行使するためには、受信者の身元へのアクセスが必要であると指摘した。

3.CJEU判決から導き出された結論

 この判決は、データ主体のアクセス要求と収集のポイント開示の両方に関して重要な意味を持つ。

①データ主体のアクセス要求 –少なくとも、このCJEUの決定では、管理者はデータ主体のアクセス要求に応じてデータ受信者の特定のIDを開示する必要がある。管理者が特定のIDを共有することは不可能であると判断した場合(特に、すべての受信者のIDをまだ知らないため)、管理者(コントローラー)は不可能であると判断した理由を明確に文書化する必要がある。GDPRの第14.5条(b)(第三者からデータが収集された場合の開示の提供)の文脈で、欧州データ保護委員会(EDPB)は次のように述べている。不可能の程度は問わない。」また、EDPBは、データ主体のアクセス要求に関して同様の態度をとる可能性がある。

②収集時点での開示–管理者は、データ主体のアクセス要求に応じて特定の受信者IDを開示することに加えて、EUのデータ主体全般に対する収集時点の開示を再検討することを検討する必要がある。GDPRの第15条(データ主体のアクセス権)と同様に、第13条(収集時点の開示)には、「個人データの受信者または受信者のカテゴリーがある場合は」の開示を要求する文言がある。CJEUはまだその理由を収集の開示のポイントに拡張していないが、管理者がデータ受信者のIDをすでに知っている場合は、収集の時点でそれらのIDの開示も検討する必要があると判示した。

 念のため、データ主体のアクセス要求は、要求が明らかに根拠のないものであるか過剰であるかの「しきい値照会」の対象であるため、GDPRで要求される透明性には制限がないわけではない。また、管理者は、特定の受信者の身元が不可能な場合、特にCJEUの見解では、身元がまだわかっていない場合、特定の受信者の身元を開示する必要はない。

 不可能性に関するEDPBの調査結果に照らして、不可能性の決定は控えめに使用する必要がある(使用する場合は徹底的に文書化する必要がある)。結局のところ、訴訟や規制当局の調査を防御するためのコストは、これらの要求に対応するための管理コストを小さくするため、企業は可能な限り合理的なデータ主体のアクセス要求を尊重することで誤りを犯すことに適合する。

*************************************************************************

(注1) ÖsterreichischePostは、オーストリアの郵便サービスを担当する会社である。この会社は、旧国営PTTエージェンシーPost- und Telegraphenverwaltungの郵便会社部門から分離した後、1999年に設立された。ウィーン証券取引所に上場している。(Wikipedia から抜粋、仮訳)

(注2) 特定の事件を審理する欧州連合(EU)加盟国の裁判所は、欧州共同体設立条約(Treaty establishing the European Community: TEC)第 234 条および欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of the European Union: TFEU)第 267 条に基づき、EU の法律や規則の解釈または有効性について CJEU に予備判決(preliminary ruling)を照会・請求することができる。この照会制度は、上記の垂直的な控訴制度と対照をなす水平的な協力体制であり、EU 全域にわたって法・規則の統一的な適用を促進・担保するものである。日本弁理士会「欧州連合司法裁判所への予備判決の照会制度」から抜粋。)

 なお、TFEU第267条を、以下、仮訳する。

欧州連合の司法裁判所は、以下に関する予備的判決を下す管轄権を有するものとする。

( a )条約の解釈;

( b )連合の機関、団体、事務所または機関の行為の有効性と解釈;

そのような質問が加盟国の裁判所または法廷で提起された場合、その裁判所または裁判所は, 質問の決定が判決を下すために必要であると考える場合、裁判所に判決を下すよう要請する。

国内法に基づく司法的救済がない決定に反対する加盟国の裁判所または法廷で係争中の訴訟でそのような質問が提起された場合, その裁判所または法廷は、問題を裁判所に提起するものとする。

拘留者に関して加盟国の裁判所または法廷で係争中の訴訟でそのような質問が提起された場合, 欧州連合の司法裁判所は、最小限の遅延で行動するものとする。

***************************************************************************:

Copyright © 2006-2023 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

FCAはマネーローンダリング防止システムとその管理のさらなる失敗に対してギャランティ・トラスト・バンク(英国)リミテッドに760万ポンドの罰金を科した

2023-02-13 06:27:48 | マネーローンダリング

 英国金融行動監視機構(FCA)は、2014年10月から2019年7月までのマネーローンダリング防止(AML)システムと管理上の深刻な脆弱性に対して、ギャランティ・トラスト・バンク(UK)リミテッド(Guaranty Trust Bank (UK) Limited、以下「GTバンク」という)(注1)に7,671,800ポンド(約12億2,720万円)の罰金を科した旨のリリースが筆者の手元に届いた。以下で、筆者なりに補足、仮訳する。

 この関連期間中、GTバンクは適切な顧客リスク評価を実施できず、多くの場合、顧客によってもたらされるマネーローンダリング・リスクを評価または文書化していなかった。

 また同銀行は、顧客取引と取引関係を必要な基準をもって監視していなかった。

 これらの弱点は、FCAを含む内部および外部の情報源によってGTバンクに繰り返し強調されたが、それにもかかわらず、GTバンクはそれらを修正するための適切な措置を講じることを怠った。

 2018年初頭から、GTバンクは新規顧客の獲得を停止した。その年の後半、GTバンクは、FCAの継続的な懸念を考慮して、ビジネスに対するより広範な自主的な制限に同意した。その制限要件は、銀行が独立した第三者によってチェックされた修復計画を完了した後に解除された2021年半ばまで有効であった。

 GTバンクの行為は、同銀行がAML管理に関連して法執行措置に直面したのはこれが初めてではなく、FCAは2013年8月に重大かつ体系的な懈怠に対してGTバンクに525,000ポンド(約8,452万円)の罰金を科したことから、特に悪質といえる。

 FCAは、個人や組織が金融機関を使用して、違法な手段で取得した資産から利益を得るのを防ぐための制限を回避するリスクを軽減するために、効果的なAML管理を実施することを企業に求めている。

 FCAの執行および市場監視担当エグゼクティブディレクターであるマーク・スチュワード(Mark Steward)氏(注2)は、次のように述べた。

Mark Steward氏

 「GTバンクは、2013年の罰金に続いて、適切なAML管理を実施するために迅速に行動すべきであったが、そうしなかった。GTバンクは、AMLの弱点に対処できる計画を策定しておらず、AMLとより広い市場を金融犯罪リスクに長期間さらした。

 「企業は、金融犯罪のリスク、特にマネーローンダリングから自社とそれに対処する人々を保護する必要がある。FCAは、金融サービスの市場が安全でクリーンであり、金融犯罪を阻止するための堅牢なシステムと管理により信頼されることを保証することを決意している。FCAは、これらの基準が満たされない場合、引き続き強い措置を講じる。」

GTバンクはFCAの調査結果に異議を唱えておらず、和解に同意しているため、30%の割引を受ける資格がある。この割引がなければ、金銭的ペナルティは1,095万9,700ポンド(約17億3,200万円)となった。

【編集者への注記】

(1)GTバンクは、アフリカと英国でさまざまな銀行サービスを提供するナイジェリアの多国籍金融サービス機関であるギャランティトラストバンクホールディングカンパニーPlc.の完全子会社であるギャランティトラストバンクナイジェリアリミテッドの完全子会社である。Guaranty Trust Bank Holding Company Plcは、ロンドンとナイジェリアの両方の証券取引所に上場している公開有限会社である。

(2)GTバンクへのFCAの最終通知原本

(3)2013年8月8日、FCAは最終通知を発行し、2008年5月19日から2010年7月19日の間に適切なAMLシステムと管理を維持できなかったとして、GTバンクに525,000ポンド(約8,292万円)の罰金を科した。

(4)2018年初頭、GTバンクは新規顧客のALM新人研修を停止させた。2018年5月、GTバンクのAMLシステムとコントロールに関する重大な欠陥を浮き彫りにした熟練者のレポートが作成された。その後、GTバンクは2018年11月13日に事業に幅広い要件を自主的に課すことに合意した。

(5)AMLシステムとコントロールの改善に続いて、GTバンクが熟練者によって検証された改善計画を完了した後、この要件は解除された。

(6)金融犯罪の削減と防止は、深刻な被害を防ぎ、金融市場でより高い基準を設定するためのFCAの3カ年戦略の重要な部分である。

*************************************************************************************

(注1) Guaranty Trust Bank (UK) Limited は、イングランドとウェールズで設立された有限会社である (05969821)。 登録事務所: 60-62 Margaret Street, London, W1W 8TF. Guaranty Trust Bank (UK) Limited は、健全性規制機構(Prudential Regulation Authority)によって認可されており、金融行為監督機構(Financial Conduct Authority)および健全性規制機構によって規制されている。 GTBank および GTBank UK は、Guaranty Trust Bank (UK) Limited の商号である。 当行は、ナイジェリアの大手金融サービスプロバイダーの 1 つである Guaranty Trust Bank Plc の英国完全子会社である。

 なお、英国の金融監督システムはわが国や米国等と異なる。すなわち、金融システム全体の安定化(マクロプルーデンス)を担うイングランド銀行内の金融政策委員会(Financial Policy Committee:FPC)、個々の金融機関の健全性の確保(ミクロプルーデンス)を担う健全性監督機構(Prudential Regulation Authority:PRA)、そして金融事業者による業務上の行為の監督を担う金融行為監督機構(Financial Conduct Authority:FCA)が設置されることとなった。この体制は、銀行・証券・保険といった業種別ではなく、健全性規制と事業者の行為規制という機能面から PRA と FCA の2つの規制当局を設けている点に着目して、二頭体制(twin-peaks system)とも言われている。なお、FPC および PRA はイングランド銀行内部の組織であるが、FCA は FSA が改称された独立の機関である。(後藤 元「イギリスにおける銀行の業務範囲規制」から一部抜粋)(筆者ブログの注4参照)

(注2) マーク・スチュワード氏は 2015 年に FCA に入局して以来、同氏 は FCA の最も複雑で注目を集め、先例となる執行事件のいくつかの実施を主導しており、主要な国際金融機関や個人に対して多くの顕著な成功を収めている。彼はまた、FCA の上場権限と英国の上場市場の監視を主導し、市場監視に対するFCA のデータ主導のアプローチを開発した。さらに、彼は FCA の詐欺防止マーケティング キャンペーン「Scamsmart」の最前線に立った。彼は、2023 年春に FCA を去った。(FCAサイトから抜粋、仮訳)

********************************************************

Copyright © 2006-2023 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする