米国・証券取引委員会(以下、”SEC”という)は、2018年5月22日にカリフォルニア州中央地区連邦地方裁判所に詐欺的仮想通貨業者に対する正式訴状を提出し、5月30日に、同裁判所は、1)予備的差止命令(preliminary injunction)(筆者注1) を発令、2)被告会社の資産凍結を命令、3)米国内外の投資家に対する2,100万ドル(約22億8900万円)にのぼる「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」(筆者注2)を含む救済を命じた旨公表した。また同裁判所は、告訴されている計画の背後にあるとされる被告会社である”Titanium Blockchain Infrastructure Services Inc.”(以下、”Titanium”という) (筆者注3)の恒久的管財人(permanent receiver)を任命した。予備的差止命令は、被告の同意を得て行われた。
SECは、5月30日の前記リリースに続き6月7日付けリリースでSECの告訴状の詳細、根拠法の規定、SECの担当部署・担当者等、詳しい内容を報じている。
ブロックチェーン自体、多くの法的・技術的課題、コンプライアンス問題等を残したまま見切り発車しているわが国の実態を見るにつけ、早めの警告という意味で本ブログで取り上げた。
なお、わが国の金融庁もいわゆる仮想通貨業者の登録につき厳しい姿勢(筆者注4)を取り始めているが、一方で投機対象としてのICO勧誘サイトは野放しである点は否定しがたい。 (筆者注5)
今回のブログでは、SECのリリース内容を統合のうえ仮訳を中心に述べるが、従来のブログと同様に補足説明と必要に応じリンクを張った。
いわゆる仮想通貨の法規制、罰則の在り方特に詐欺的投資勧誘を予防する法的手段としてSECの既存の証券関係の法令を駆使する方法は現実問題として、わが国でも監督、規制策を考える上で参考となりうると考えられよう。
1.2018年5月22日に提出されたSECの正式訴状及び連邦地裁が下した各種命令の概要
Titanuumのオーナーで自称「ブロックチェーンの伝道者(blockchain evangelist)」と名乗るマイケル・アラン・ストーラー(Michael Alan Stollery:別名Michael Stollaire)は、連邦準備制度理事会やPayPal、Verizon、ボーイング、ウォルト・ディズニー・カンパニーなどとのビジネス関係を構築していると唱えていた。 (筆者注6)
Michael Alan Stoller のツイートの写真。2015年10月登録 :Thechnology Consultancy Owner, Senior Enterprise Management and Security Expert, Blockchain Evangelist, Patriot, and at times, a Singer/Songwriter.と自己紹介している。
訴状には、Titaniumのウェブサイトに法人顧客からの声明が掲載されており、 ”Stollaire”は公然とかつ不正に 多くの法人顧客との関係を持っていると偽りの主張を行った。また訴状では、 ”Stollaire”がビデオやソーシャルメディアを通してICOを宣伝し、それを「IntelまたはGoogle」への投資と比較したと主張している。連邦地方裁判所は、SECが一時的な差止命令を申請し、5月23日に凍結資産およびその他の緊急救済を命じた。訴状および一時的差止命令は、5月29日に公式に発令された。
2.SEC法執行幹部の法執行に関するコメント
SECの法執行部のサイバー・ユニット(Cyber Unit)のロバート・A・コーエン(Robert A. Cohen)チーフは、「このICOは、ビジネスの見通しを純粋に架空の主張で投資家に騙したとされるソーシャルメディア・マーケティングの成果に基づいていた。不正なICOと関連した複数の訴訟を提起したため、これらを投資とみなす際に投資家が特に慎重になるよう、再度奨励する」と述べた。
SECの投資家教育・擁護局(Office of Investor Education and Advocacy )は、イニシャル・コイン・オファリングに関する投資家向け啓蒙情報や「偽のICOウェブサイト」を見極める掲示板を発行した。 ICOに関する追加情報は、Investor.gov およびSEC.gov / ICOサイトにある。 犠牲者である可能性があると考えられるTitanium ICOの投資家は、www.SEC.gov/tcrを通じてSECに連絡し、あわせて「SEC対チタニウム・ブロックチェーン・インフラサービス、その他事件」(カリフォルニア州中央地区ロスアンゼルス連邦地方裁判所:民事訴訟(Civil Action)第18-4315号)を参照。
カリフォルニア州中央地区ロサンゼルス連邦地方裁判所に5月22日付けで提出されたSECの訴状は、個人である”Stollaire”と法人”Titanium”に対し、連邦証券法の詐欺不正行為および登録規定に違反したことを理由に告訴している。また訴状では、Stollaireが保有する別会社「EHIインターネットワーク・アンド・システムズ・マネジメント(IHI Internetwork and Systems Management Inc.)」に対し、詐欺不正防止規定に違反した旨請求している。 同訴状は、予備的および恒久的的な差止め命令、不当利得や利益の返還ならびに罰金、および将来的にStollaireにデジタル証券の募集に参加することを禁じることを求めている。 同裁判所が予備的差止命令束を発動した後、Stollaireとその会社は予備的差止命令の登録力とTitaniumに対する恒久管財人の任命に同意した。
SECの調査は、なお継続中であり、David S. Brownの指揮およびMarket Abuse Unit のJoseph G. SansoneとDiana K. TaniおよびSteven A. Cohen SEC 委員長の共同監督下で行われている。この調査を支援するのは、SEC法執行部Cyber UnitのMorgan Ward DoranとLos Angeles Regional OfficeのRoberto Grassoである。本訴訟は、SEC法執行部のDavid VanHavermaatならびにSECのLos Angeles Regional OfficeのAmy Jane Longoの監督下で行われている。
3.SEC告訴の法的根拠
今回のStollaire とTitaniumuに対するSECの訴えは、1933年証券法第5条(a)項、第5条(c)、および同法第17条(a)および1934年証券取引法第10条(b)およびSEC規則10b-5(a)、10b-5(c)違反の基づくものである(筆者注7)
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(筆者注1) preliminary injunction :,予備的差止命令と仮制止命令は,中間的・暫定的に発令されるものであり,講学上の整理概念として,中間的差止命令(interlocutory injunction)と呼ばれる(1)。連邦民事訴訟規則は,中間的差止命令として,予備的差止命令(65条⒜項)と仮制止命令(65条⒝項)の2つを規定している(2)。各州においても,連邦裁判所の中間的差止命令に相当する差止処分を利用することができるが,その要件,手続は連邦及び州間において異なる。(吉垣実「アメリカ連邦裁判所における予備的差止命令と仮制止命令の発令手続 ⑴──わが国の仮処分命令手続への示唆」から一部抜粋
(筆者注2) ICOとは、投資家からビットコインやイーサなど既存の有力な仮想通貨の払い込みを受けて、トークンと呼ばれる独自の電子的な証票(あるいは仮想通貨)を発行して資金調達(クラウドファンディング)を行うこと。
(筆者注3) 筆者はためしに”Titanium Blockchain Infrastructure Services Inc.”にアクセスしてみた。違法サイト表示がなされる。
(筆者注4) 金融庁「仮想通貨交換業者の新規登録の審査内容等 」、2018.6.7 ロイター記事「金融庁、仮想通貨みなし業者1社の登録を拒否」 参照。
(筆者注5) Titanium Blockchainで大儲けしたと題するツイッターの例を見ておく。
(筆者注6) ここでいうビジネス関係とTitanium サイトの以下のロゴ表示の関係は、不明である。しかし、古今東西をとわず詐欺師がもっとも利用する権威づけの手口であることは間違いない。
(筆者注7) Secutities Exchange act 1934の第10条(b)とSEC規則10b-5との関係についてInvestpedia が簡単に解説しているので、以下、仮訳する。
「SEC規則10b-5は、1934年証券取引所法の下で作成された、端末・手段を用いて操る又は欺く欺瞞的な証券取引慣行の採用の禁止を定めた規則として正式に知られているものである。この規則は、誰かが直接的または間接的に詐欺行為、虚偽記載の措置を用いることは違法であると見なす。 関連する情報を省略するか、または株式その他の有価証券に関する取引を行うことに関して他人を欺く事業の運営を行うことも同様に違法とする」
コーネル大学ロースクールサイトから原文を以下、引用する。
§ 240.10b-5 Employment of manipulative and deceptive devices.
It shall be unlawful for any person, directly or indirectly, by the use of any means or instrumentality of interstate commerce, or of the mails or of any facility of any national securities exchange,
(a) To employ any device, scheme, or artifice to defraud,
(b) To make any untrue statement of a material fact or to omit to state a material fact necessary in order to make the statements made, in the light of the circumstances under which they were made, not misleading, or
(c) To engage in any act, practice, or course of business which operates or would operate as a fraud or deceit upon any person,in connection with the purchase or sale of any security.
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