Civilian Watchdog in Japan-IT security and privacy law-

情報セキュリティ、消費者保護、電子政府の課題等社会施策を国際的視野に基づき提言。米国等海外在住日本人に好評。

ベトナムの新サイバーセキュリティ法や施行令等に見る内容面からみた新たな課題

2019-03-20 14:00:23 | サイバー犯罪と立法

Last Updated : April 24,024

 過去にさかのぼることになるが、筆者は最近、昨年2018年11月15日付けの米国のローファームHogan Lovells LLPのブログ「更新情報:ベトナムの新サイバーセキュリティ法」を読んだ。

 筆者自身、ベトナム法は全くの素人であるが、社会主義国家でありかつてサイバー・セキュリティの後進国といわれるベトナムのサイバー立法の中身と同国に進出を行っている海外のプロバイダー等テクノロジー企業にとってい如何なる影響があるのかなど、気になる点も多いことから、あえてその仮訳や追加的解説試みた次第である。

 また、筆者なりにより立法措置や法解釈面からの詳しいレポートを探したところ、2018年7月30日付けのベトナム・ビジネス法サイトの解説記事「Vietnam’s New Cybersecurity Law 2018」を見出した。さらに2022年4月のData Guidanceの解説等である。

 今回のブログは、まず(1)Vietnam’s New Cybersecurity Law 2018」の概要・ポイントを仮訳したのち、(2)Hogan Loells LLPのブログ(Vietnam’s New Cybersecurity Law)を仮訳し、(3)Data Guidanceの”Vietnam 

cybersecurity”の概要の仮訳最後に(4)新サイバー法に関する問題点につき広く関係メディアにリンクを広く張った解説記事を紹介する。

 なお、(1)、(2)の内容はかなり重複がみられる点があるが、あえてそのまま掲載した。後日、あらためて整理したい。また、ベトナムの所管国家機関や執筆者の写真は筆者の責任でリンクを張った。もうベトナムのサイバー規制法を理解するうえで重要なことは中国のサイバー規制法の正確な理解である。(筆者注0)

 最後に、今回紹介した解説記事を正確に読むには「改正サイバー・セキュリティ法」の全文および「施行令草案」等の全文とを関連付けた解説を併読する必要があることは否めない。後日、改めて投稿したい。

1.「Vietnam’s New Cybersecurity Law 2018」の概要とポイント

 以下、全文を仮訳するが原文(英語版)はかなり英米法に熟知した筆者(Nguyen Bich Ngoc)(筆者注1)によるもので大変読みやすいし、かつ法律にかかる問題指摘の視点も時宜を得ている。(なお、筆者の判断と責任でベトナムの関係法令等のリンクを張った)

 Nguyen Bich Ngoc氏

 2019年1月1日からベトナムで新しいサイバーセキュリティに関する法律(Law on Cybersecurity (Luật an ninh mạng)(以下、「CSL 2018」という)が施行される。ベトナムでは2015年11月19日付けの「サイバー情報安全法(LAW ON CYBER INFORMATION SECURITY)」(2016年7月1日施行)によりある程度規制されているサイバー環境を保護するための措置を提供するだけでなく、CSL 2018には政府機関によるサイバーネットワーク上に掲載または公表される内容を管理するためのさまざまな規定も含まれる。以下は、CSL 2018の中のいくつかの顕著な問題を取り上げる。

 なお、ベトナムの独立系メディア” The Vietnamese Magazine”がCSLの年表(Timeline)をまとめている。参考になろう。

(1) CSL 2018の適用範囲

 CSL 2018は、サイバーセキュリティの保護に関与するすべての機関、団体および個人に適用される。これは、サイバースペースでの活動が、国家の安全、社会の秩序と安全、合法的な権利と団体および個人の利益に害を与えないことの保証として広く定義される。特に、CSL 2018は、GoogleFacebookなど、ベトナムに居住するユーザーをかかえる海外のネットワーク事業者にも適用される。

  CSL 2018は、ITインフラストラクチャ、電気通信、インターネット、コンピュータシステム、データベース、情報処理、保管および管理システムのすべてのネットワークを網羅し、電子商取引、Webサイト、オンライン・フォーラム、ソーシャル・ネットワーキングとブログなどのサイバースペースおよびインターネットユーザーにサービスを提供するあらゆる企業の活動を規制する。

(2) 情報システムの運営者( Ch Ch qu quant n h th thngngthôngtin )

 CSL2018は、情報システムの運営者に様々な義務を課す。同法によると、「情報システムの運営者」とは、情報システムに対する直接的な管理権限を有するあらゆる機関、団体または個人を意味する。

(3) 重要な情報システムと非重要な情報システム

  CSL 2018は、情報システムを(i)国家安全保障に不可欠な情報システム(Critical Information Systems )と(ii) Critical Information Systemsに分類されないもの( Non-critical Information Systems )に分類する。

 重要情報システムは、一般に情報主体が、事件、侵入、ハイジャック、または運用管理、歪曲、中断、停止、麻痺、攻撃による破壊にさらされた場合、サイバーセキュリティを著しく危険にさらす情報システムとして定義されている。CSL 2018に基づく重要情報システムの具体的リストは、2017年5月10日付けの首相決定632号(Decision 632 of Pime Minister)(以下、「決定632」という)の下ですでに規定されているものよりも広いと思われる。現在、決定632は、情報通信省(MIC )または官庁が管理者である共産党および政府機関内の電気通信エリアおよび情報ネットワークを対象としている。重要情報システムには、 とりわけ、エネルギー、金融、銀行、電気通信、運輸、天然資源と環境資源、化学、ヘルスケア、文化、報道などの分野の情報システムが含まれる。 おそらく、決定632には、国家安全保障および情報通信省(CƠ QUAN CHỦ QUẢN: BỘ THÔNG TIN VÀ TRUYỀN THÔNG (MIC) )以外の関連省庁の関与にとって重要なより多くの分野が補完される可能性がある。(筆者注2)

  ベトナム情報通信省のHPから抜粋

  一方、重要ではない情報システムは、明確には定義されていないが、民間組織や企業によって管理されている情報システムであるべきである。

 (4) サイバースペースに対する禁止行為

 CSL 2018では、サイバースペースを使用して以下の行為を行うことを禁止している。

 ①国家安全保障、社会秩序および安全に関する法律に違反する目的で、サイバースペース、ITおよび電子メディアを使用すること。

②ベトナム社会主義共和国国家に反対する目的で人々を組織化、活性化、共謀、扇動、賄賂、詐欺またはトリック、コントロールする、訓練または叩き込むこと。

③歴史を歪め、革命的な功績を否定し、国家の団結的まとまりを破壊し、宗教に対する犯罪、性差別または人種差別的行為を行うこと。

 ④ 虚偽の情報を提供し、市民を混乱させ、社会経済活動に害を与え、国家機関や公務を遂行する人々の業務に支障をきたす、あるいは他の機関、団体および個人の合法的権利および利益を侵害すること。

⑤ 売春、社会的な悪、人身売買などの活動を行うこと。すなわち、卑猥な、堕落した、または犯罪的な情報の公開 または人々の優れた伝統や慣習、社会倫理あるいは地域社会の健康を破壊すること。 

⑥ 犯罪を仕掛けるために他の人々を扇動、誘惑、または活性化すること。 

 これらの禁止のリストは例えば、歴史を歪めたり、革命的な達成を拒否したり等、きわめて一般的な意味で曖昧であり、権限を実質的な取締機関の裁量に委ねることになる。

(5) データのローカライゼーションの要件

 ベトナムにおいて国内外の企業が電気通信ネットワークでサービスを提供し、インターネットや付加価値サービスをサイバースペースで収集、分析、処理する「個人情報」、「サービス利用者の関係データ」、「サービス利用者が作成したデータ」は、ベトナム国内に保管されなければならない。さらに、これらの活動を行っている外資系企業は、ベトナムに「駐在員事務所」または「支店」を設立する必要がある。

 現在、多くの外国企業が国境を越えてベトナム内のユーザーにサービスを提供している。これらの要件を遵守するためには、外国企業はおそらく、ベトナムでストレージ機器を設置および維持するためのコストを増加させる必要があろう。

(6) 重要情報システムの監督

 重要情報システムは、所管官庁による評価の対象であり、かつ満足のいくサイバーセキュリティ条件として認定された後にのみ運用に入ることができる。重要情報システムは、定期的またはこの法律に基づいて指定されたイベントの発生時に検査することができる。重要情報システムの運営者は、システムの監督、自動警告のメカニズムの策定およびサイバーセキュリティに対する脅威の警告の受け取りを担当し、それらの状況に対処するための計画を立てる責任がある。

(7) 重要でない情報システムの監督・検査

 国家安全保障を侵害する、または社会秩序および安全に重大な損害を与えるサイバーセキュリティ法の違反がある場合、重要でない情報システムは、サイバーセキュリティ対策本部(task force)によるサイバーセキュリティ検査の対象となる可能性がある。 サイバーセキュリティ対策本部は、検査の少なくとも12時間前に非重要情報システムの管理者に書面による通知を送付した後に、検査を実施することができます。検査の対象となるコンポーネントには、 システム内で保存、処理、転送されたデータおよび国家秘密保護手順にかかるソフトウェア、ハードウェア、デジタル機器などがある。

 しかしながら、CSL2018はCSL2018の違反があると判断するための明確な根拠および手順を定めていない。例えば、CSL2018はサイバースペース内で歴史を歪め、革命的な業績を否定し、国家連帯を破壊し、宗教、性差別または人種差別的行為に対する違反行為を禁ずる。しかし、個々の行為を歴史を歪め、したがってその規定に違反していると判断することは困難であり議論の余地がある。そのため、これらの規定は、サイバースペースでサービスを提供し、サービスの提供中に顧客のデータを保持する企業にとって不確実性を生み出す可能性がある。

 (8) コンテンツの監視

 ベトナムのサイバースペースのサービス・プロバイダーは、サイバースペースでアップロードおよび配信されたコンテンツを監視するため、次にあげる多くの要件を満たす必要がある。

①政府機関、団体および個人のソーシャルネットワーク上のすべてのWebサイト、ポータルまたは専門ページでは、国家に対する宣伝活動を伴う情報の提供、アップロード、送信、暴動の誘発、セキュリティの妨害、治安紊乱、困惑または中傷的な使用および経済管理命令に違反は「禁止されているコンテンツ」として禁止される。

②サイバーセキュリティの管轄当局である情報通信省(MIC)公安省(Bộ Công an)から書面による要求を受け取ったときに、ユーザーのアカウント登録を確認し、ユーザーの情報を提供しなければならない。

ベトナム公安省(Bộ Công an)のHP

③サイバーセキュリティ対策本部または情報通信省からの依頼を受けた24時間以内に情報の共有を禁止し、禁止されているコンテンツを削除し、調査目的で関連するシステム・ログ(nhật ký hệ thống)を記録保管場所に移動する。

④ 禁止されている情報をアップロードした団体や個人へのサービス提供を中止する。

 前述した内容のいくつかは曖昧であるので、ネットワーク管理者が禁止されたコンテンツを決定し、フィルタリングすることは非常に困難で費用がかかる可能性がある。例えば、CSL2018は、次の内容を含むように国家に対して宣伝されている情報を定義している。(i)人々の行政当局に対する信頼を歪めたり、中傷したりする。(ii)心理的戦争を開始し、侵略的な戦争を起こし、民族、宗教およびすべての国の人々の間で分裂または憎悪を引き起こす。(iii)人々、国旗、国章、国歌、偉人、指導者、有名人、または国民的英雄を侮辱とあるが、これらの制限を読むとき、ある人は次の点で混同するかもしれない。

① 誰を「偉人」、「指導者」、「有名人」、「国民的英雄」と見なすべきか?

② 「国民的英雄」の達成について異なる観点を持つ新しい公的研究が、「国民的英雄」を侮辱すると見なすことができるかどうか?

 ③ この規制は、行政システムやそのシステムの特定の役人の指導力と統治を批判する人々の権利を奪うことにならないか? 

(9) 法執行

 CSL 2018の法執行を担当する対策本部は、公安省と国防省(Bộ Quốc phòng Việt Nam )の下に任命される。サイバーセキュリティ対策本部は、CSL 2018の下での監視範囲は限られているが、幅広い権限を持っている。 例えば、サイバーセキュリティ対策本部は、情報システムの検査を実施したりユーザー・データを収集したりするために刑事訴訟法に基づく手順に従うことは要求されず、かつ彼らが収集している情報を秘密にし続けることは要求されない。

 CSL 2018の下では、同法に違反した結果は、懲戒処分、行政上または刑事上の責任を問われる可能性がる。 商業法人の場合、CSL 2018の違反に対して刑事責任が適用されるかどうかを検討する際には、そのような違反が「2015年改正刑法」(筆者注3)の下で商業法人に適用される犯罪の範囲に該当するかどうかを判断する必要がある。

(10) 結論

 CSL 2018の要件は、費用を増加させ、法令遵守に対する責任と、サービスプロバイダーにとっての法令遵守と顧客データ保護との間のジレンマをもたらす可能性がある。CSL 2018に基づく多くの要件は、政府のさらなるガイダンスの対象となるでろう。したがって、影響を受ける団体や個人は、この法律を導くため更なる関係機関の文書に従っていく必要がある。 

2.Hogan Loells LLPのブログ(Vietnam’s New Cybersecurity Law)

 以下で仮訳する。なお、いうまでもなく、このブログは公安省のサイバーセキュリティ法の施行令草案の内容も引用している。

 2018612、ベトナムの国民議会は、2019年1月1日に施行されるサイバーセキュリティ法 (Law on Cybersecurity (Luật an ninh mạng);以下、「 サイバーセキュリティ法」という)を可決した。とりわけ、この法律は、ベトナムで事業を行うテクノロジー企業のデータ処理方法を規制するとともに、「禁止」されたコンテンツを投稿するユーザーのインターネット接続を制限するものである。法律の規定が一見して広い範囲で適用されるため、ベトナムのエンド・ユーザーにサービスを提供している外国のハイテク企業は、データのローカライズ義務やベトナム国内での支店、事務所等物理的施設の設置義務化等を懸念している。

 

ベトナム国民議会(Quc hiNational Assembly)のサイト

  ベトナムで一般的であるように、サイバーセキュリティ法は関連当局によって発行される将来の実施ガイダンスを通して提供されるべきさらなる詳細化を目的として非常に広く起草された。導入ガイダンスの以前の草案では当局がサイバーセキュリティ法のすべての条項を推進していたが、2018年10月31日に公開された最新の施行令草案(latest draft implementing decree)は、ある程度、法律の適用範囲の明らかな狭小化に対する懸念を和らげた。しかし、問題は残る。

 以下で、サイバーセキュリティ法の重要な側面と現時点の施行令草案について説明する。 

(1) 1年間の法遵守の猶予期間

  サイバーセキュリティ法は、原則として、電気通信ネットワークまたはインターネットを介したサービスを提供したり、またはベトナムの顧客に付加価値サービスを提供する国内外の会社を対象とする。同法は広く解釈すると、これらのサービスには、ソーシャルネットワーク、検索エンジン、オンライン広告、オンライン放送およびストリーミング(streaming) (筆者注4)EコマースのWebサイトおよびマーケット、インターネット・ベースの音声/テキストサービス(OTTサービス(筆者注5)、クラウドサービス、オンラインゲーム、その他のオンラインアプリケーションが含まれる。

  当初、同法が2019年1月1日に施行されると、そのようなすべてのサービス・プロバイダーはサイバーセキュリティ法を遵守することが義務付けられると予想されていたが、最新の施行令草案では、サービスプロバイダーは公安省からの要求の受領後1年間の猶予期間が明記された。 最終的な施行令が発行されたときに変更がないと仮定すると、これは当局によって明確に指示されるまで、企業がコンプライアンスに向けた措置を講じる必要がないことを意味する。これは、法律の適用範囲の広さに関する一般的な懸念を軽減するだけでなく、より具体的には、遵守期限が迫っている2019年1月1日の期限を守ることができない企業に安心感を与える。

(2) 個人データのローカライズされた保存と保持義務

 サイバーセキュリティ法の対象となるオンラインサービス・プロバイダーは、法的に定められた期間内は、ベトナムのエンドユーザーの個人データをベトナム国内に保管し、要求に応じてそのようなデータをベトナム政府当局に引き渡すことが求めらる。 この文脈における個人データには、①名前、②生年月日、③出生住所、④IDカード番号、⑤住所、⑥電話番号などの個人を特定できる個人情報だけでなく、⑦役職、⑧健康状態、⑨医療記録、⑩バイオメトリクス(筆者注6)などのものも含まれる。ユーザによって作成されたデータ(たとえばアップロードされた情報およびデバイスからの同期または入力されたデータ)およびユーザの関係に関するデータ(たとえばユーザー個人が接続または対話する友人およびグループ)もデータ・ローカライゼーション要件の対象となる。

 法律が定めるデータ保持期間は、保持するデータの種類によって異なる。サービスプロバイダーが対象サービスを提供し続ける限り、個人データはベトナム国内に保存されなければならないが、ユーザーによって作成されたデータおよびユーザーの関係に関するデータは少なくとも36ヶ月間保存されなければならない。

2018.11.28 Draft Cybersecurity Decree issued in Vietnam から一部抜粋のうえ筆者が仮訳した。なお、同ブログはベトナムの弁護士Yến Vũ(イエン・ヴオー)氏によるものである

Yến Vũ 氏

(3) 当局によるコンテンツの管理と検閲問題

 サイバーセキュリティ法は、情報通信省または公安省からの要求を受けてから24時間以内に、オンラインサービス・プロバイダがユーザーの投稿を監督し、政府によって「禁止」されているコンテンツを削除することを要求している。「禁止されるコンテンツ」には、ベトナム社会主義共和国に反対する、またはそうでなければ害を及ぼす情報が含まれる。 例えば、理論的には政府、共産党あるいはそれぞれのメンバーまたは役員に対して行われた批判的または反対意見を含む「中傷的宣伝」は禁止される。また、 政治的または社会経済的な活動や反国家活動を奨励すると見なされる内容も、同様にサイバーセキュリティ法に違反する。

 オンラインサービス・プロバイダーが、禁止されたコンテンツを投稿することについてユーザにフラグを立てる場合、そのようなユーザへのインターネット接続の提供を停止し、またそのユーザをその電気通信ネットワークから本質的にブロックしなければならない。 関係当局から要求された場合、プロバイダはユーザ情報を報告して引き渡すことを強制されることさえある。そのため、新しい法律を遵守するとするためには、企業のユーザーのプライバシー保護に関する自社の利用規約(および場合によっては他の司法管轄)に違反することが必要となり、オンラインサービス・プロバイダーはサイバーセキュリティを遵守する方法を選択でき、これにより利用者の個人情報を保護する。

(4) 海外のサービス・プロバイダーの支店または駐在員事務所の設立の条件

 サイバーセキュリティ法は表面的にはすべての海外のサービス・プロバイダーにベトナム国内での支店または駐在員事務所の開設を要求しているが、施行令草案は多くの基準を守ることにつき、ありがたいことにその範囲を狭めた。海外のサービス・プロバイダーが現地での駐在員事務所や支店の設置することを要求される前に法律の大部分に違反するかあるいは当局との協調に失敗した時の条件に関する設置基準を定めている。

 具体的には、法令の下では、とりわけ、(i)ユーザーがサイバー攻撃、サイバー犯罪、または国家の安全と公の秩序を乱すその他の行為を行うことを許可する場合、および(ⅱ)サイバーセキュリティポリシングの違反、ユーザーの詳細な個人情報の認証の失敗、ユーザーの個人情報の機密保持の失敗、関連当局へのユーザー情報の提供、またはタイムリーな違法コンテンツの削除に失敗するなど、サイバーセキュリティ法に違反した場合に限り、海外のプロバイダーはベトナム国内に現地での支店や駐在員事務所を設立する必要がある。

 この施行令草案では、どの海外サービス・プロバイダーが現地の駐在員事務所等の設置要件の対象となるかを特定する責任を公安省(Bộ Công an)に割り当てている。この基準が広い解釈に開放されていることを考えると、同省は、特定の海外のサービスプロバイダーがベトナムに現地での駐在員事務所等を設置する必要があるかどうかの事実上の仲裁人となるであろう。したがって、ベトナムで認められている活動のいずれかに従事している海外の会社は、ある時点でこの要件に巻き込まれる可能性がある。それは確実にそのようなすべての会社が法の施行日(2019年1月1日)から自動的にカバーされるという初期の懸念をへらす改善内容といえる。

(5) サイバーセキュリティ法の不遵守に対する潜在的な罰則内容

 サイバーセキュリティ法を遵守しなかった場合の罰則内容はまだ発表されていないが、当局者は、違反即のサービスの禁止はありそうもないと指摘している。しかし、ベトナム国内企業は以前、当局から反国家的な資料を宣伝すると思われるサイトでの広告掲載を一時停止するよう圧力をかけられており、新しい法律は当局がそのような取り組みを行うためのさらなる基盤を提供することになると考えられている。

(6) 結論

 サイバーセキュリティ法の具体的施行が続いているので、ベトナム国内の顧客にオンラインサービスを提供している会社は間違いなく注目しているであろう。当面の間、懸念は残るものの、当局がサイバーセキュリティ法の骨を荒廃させるために当局が傾いているように見える方向は、少なくとも、海外の技術者が主張するより厄介な条項から後退しているように思われ、特に企業はそう懸念している。

 

****************************************************************************************

(筆者注0)筆者がこれまで行った中国のサイバーセキュリティ法や情報保護法に関する立法内容につき一覧をあげる。

(1)「中国のサイバーセキュリティ法の施行と重大な情報インフラ等の保護に関する規制草案等の公表と今後の課題」(その1)、(その2)(その3)

(その4完)

(2)「中国のサイバーセキュリティ監視機関が国内人気オンラインサービス10社のプライバシーポリシーの監査計画を発表」(その1)(その2)

(その3) (その4完)

(3)「中華人民共和国が『データ安全保障法(データセキュリティ法):中华人民共和国数据安全法)』を可決」

(4)「中华人民共和国最高人民法院が民間の顔スキャン技術の使用と身元とプライバシーの保護に関するガイドラインを定めた『司法解釈文書』を発出」

(5)「中国、全国人民代表大会常任委員会で個人情報保護法(中华人民共和国个人信息保护法:PIPL)を可決」(その1)(その2)(その3完)

(6)「中国が取り組んでいる国家安全法やサイバー強化法の重要性を最新、正確な情報入手および平易に理解する方法」

(7)「中国の国境を越えた個人データ転送メカニズム措置の最終版公表と事業者の対応にむけた実際のステップ内容」

(筆者注1) 筆者は2024年4月現在、ベトナムのローファーム(Venture North Law (VNLaw))のパートナ―弁護士である。プロファイルを読むとハノイ大学の経済・法学士、貿易大学の輸出技術認定を受けており、これまで企業・M&A、土地・不動産ビジネス、商業・法令遵守、証券規制、環境・雇用等多くのビジネス案件を扱ってきている。

(筆者注2) ベトナムの電子政府計画に係る法整備の概要は次のサイトが参考になる。

2017年9月開催された3rd Asia-Pacific Regional Forums on Smart Cities

and e-Government 2017におけるベトナム情報通信省のスライド「E-GOVERNMENT POLICY OF VIETNAM」

(筆者注3) 2015年11月27に国民議会で可決された改正刑法(No. 100/2015/QH13)の全文(英語版)および概要解説を参照されたい。なお、同法は2018年1月1日施行されている。なお、わが国でも国際協力機構(JICA)のベトナム改正刑法の全文訳が公表されている。

(筆者注4)streaming”とは、インターネット上で動画や音声などのコンテンツをダウンロードしながら逐次再生すること。Windows Media PlayerやQuickTime、RealPlayerなどのストリーミング・ソフトを使って受信する。映像や音楽データはデータ容量が大きいため、すべてのデータをダウンロードしてから再生する従来の方式では、受信が完了するまでに時間やネットワーク負荷がかかる。ストリーミングでは、サーバーから映像や音声データが少しずつ配信され、受信した側で同時に再生する。ネットワークへの負担がなく、ユーザーはダウンロードを待つことなく、すぐに映像や音声を視聴できる。(ASCII.jpデジタル用語辞典から引用)

(筆者注5) OTTとは、通信会社やISP(インターネットサービスプロバイダ)とは無関係にインターネット上で提供される、通信容量を大量に使用するサービス。また、そのようなサービスを提供する事業者。パソコンやスマートフォンからインターネットを通じて誰でもオープンに利用できる動画や音声の配信サービス、音声通話、ビデオ通話サービスなどがこれに当たる。(IT用語辞典から引用)

(筆者注6) ベトナムにおけるバイオメトリクとは具体的に何を指すのであろうか。Hogan Lovells LLPのブログは言及していない。このため筆者は別途、公安省サイトのガイダンス資料で見たが、なお詳しい定義は記載されていなかった。

*******************************************************************************************************

 Copyright © 2006-2019 芦田勝(Masaru Ashida).All rights reserved. You may display or print the content for your use only. You may not sell publish, distribute, re-transmit or otherwise provide access to the content of this document.

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« FTCがCOPPA違反訴訟でこれま... | トップ | ベトナムの新サイバーセキュ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サイバー犯罪と立法」カテゴリの最新記事