Aのはまり役だと思えるいじめ役…。
彼女が初めて壁にぶつかろうとしていた。
主役の女性の恋人を奪い、勝利の高笑いをする…までは良かったのですが、その高笑いが、稽古を重ねるごとに、テンションが低くなる。
「なんでそこでテンション下がる?最初の頃の意地悪い高笑いは出ないのか?」
演出も、そう言って、頭を抱え込むようになって来ていた。
ーーある時Aが、早い時間から稽古に来て、ぽつんと稽古場で台本を読んでいた。
いつも、いち早く稽古場に来る私は、戸惑った。
「おはよう!早いね」
「おはよう…」
今日は、稽古はじめからテンションが低い…。
気まずい…。
「あのさ…」
「ん?」
「このセリフ、読んでみて!」
「うん」
開いた台本のページにあるAのセリフを読んだ。
「未熟なあなたに彼は似合わない。彼ははじめからあなたを好きでは無かったと言ったわ。」
私がセリフを読むと、Aは、「う~ん…」と唸って頭を抱えた。
「大丈夫?」
「このセリフ、嫌い…」
『嫌い…とか、そういう問題じゃないでしょ。』
『どんなセリフも自分のものにしないと!』
…と、A自身の口から聞こえて来そうな気がした。
「大丈夫?」
…大丈夫?しか言えない…。
「ありがとう…」
Aは、スッと立ち上がると稽古場を出ていった。
本当に彼女、大丈夫そうじゃなかった。