演出に言われたく無いことを言われて、Aは、稽古場を出ていった。
そのまま、稽古は続けられた。
そして、その日はAは、戻って来なかった。
「明日、来るよね。」
私は電話をした。
「……」
言葉に詰まっているようだ…。
「明日、来ないとかなりまずいよ。」
「わかってる。」
翌日、例の団子屋に寄ってみた。
ーーいた。
Aが背中を丸めて、店の隅でお茶を飲んでいた。
「良かった」
「…来ないかと思った?」
「来ないと、本当にまずいから…」
「今日、来なかったら、あゆみと役をチェンジかな?」
Aは、笑った。
私は笑えない…。
「限界なんだけど…」
「限界?」
「私の演技…。おさえてるワケじゃなくて…。」
「……。」
団子を一串残してAは、立ち上がった。
稽古場には、すでに準備万端な仲間たちが待っていた。
あゆみもストレッチに余念がない。
「さぁ、例のシーンから行こうか!」
例のシーンとは、Aとあゆみが絡むシーンだ。
穏やかな会話から徐々に激しくなり、言い合いになる…というシーンだ。
Aは、深く肩で息を吸い込んだ。