あの頃(新入生)10

2020-06-25 07:54:40 | 日記
例のシーンからの稽古だ。

Aは、深く息を吸い込んだ。

穏やかなセリフから、激しく言い合う…というシーン。

う~ん、今までと比べると、ずいぶん前進した感じだが…、やはりあゆみに食われている。

稽古場がし…んとなった。

演出も拳を顎にあてて、考え込んでいる。

「先生、あゆみと役をチェンジしてください」

えっ⁉

まさかの展開に、皆、固まった。

「何を言ってる?そんな事をしたら、あゆみにも迷惑だ。」

「……」

「あゆみだって、万全の役作りをして臨んでるんだ。今さらチェンジなんて出来ない。」

「私も今の役が好きです。変わりたくありません。」

「ふたりで、…いや、皆で話し合ってくれ」

困ってしまったのか…呆れたのか…、演出は、腕組みをしたまま稽古場を出ていった。

「どうして、急に、こんなこと?」

Uが聞いた。

「力量が無いと言うならそうなんだと思う…。だけど、私なりの役作り、演技プランがあって、どうしても皆が思うパワーは出せない。」

Aも、頑なに意見を撤回しない。

「…だけど、このままじゃ平行線だよ」

長い沈黙がつづく…。

「あゆみ、主演をやったら?」

あゆみも黙ったままだ…。