本番近くになって、あゆみが稽古を休んだ。
風邪だという…。
なんだか、変な胸騒ぎがした。
電話も一度繋がったような気がしたが…切れた…。混線だろうか…?
Aとのトラブルをそんなに気に病んでいた様子は無いし…。
本当に風邪なのかな…?
そして、次の稽古の日。
誰よりも早く稽古場に来てストレッチをしているあゆみの姿が無い…。
「電話してみたか?」
演出があゆみの様子を気にしていた。
「してみたんですが…。出ないんです。」
電話を掛けたとき、一度かかったような感じがあって切れてしまったことは、言わなかった。
「事務所には、連絡あったんですか?」
「今日はまだ、連絡が無い…。
よほど具合が悪いのかも知れない。R子、用意しておけ」
あゆみが万一、出演出来なかった時は、R子があゆみの役を演じる。
ーーそして、その日も稽古が始まった…。
おそらく、今日が限界だろう…。
「おはようございます!」
すると、あわててあゆみが稽古場に飛び込んで来た。
…そして、何事も無かったかのように、その日の稽古は終わった。
「風邪…大丈夫か?」
「申し訳ありませんでした。もう、大丈夫です!」
あゆみは、深々と頭を下げた。
一件落着…だろうか…。
一度電話が繋がったときに、電話口に確かに誰かの息づかいがあった。混線などでは無いはず。