役をチェンジして欲しい…という、Aの無茶な発言…。
スタートしたばかりだし、本人同士が大丈夫なら、叶わないコトでは無い。
だけど、無茶苦茶なお願いだ。
あゆみは深々と頭を下げ、帰って行った。
あゆみにしてみれば、今までの役を全うしようと全力で研究してきたのだから、急遽役を変更する…ということは、大変なことだと思う。
だけど、新入生としてやってきて、初めての公演でいきなりの主演は…大抜擢だと思う。いきなりではあるが、主演とは…、決して悪い選択では無いはず。
…どうするんだろう…。
次の稽古の日…、演出を伴って、複雑な表情であゆみとAが入ってきた。
「皆も知ってることだと思うが…。いろいろあって、あゆみが主演を演じる方向で話し合って来たが…。やはりあゆみは今のままの役を全うしたい…と言う。…なので、再度Aには、このまま主演を全うするように説得した。そして、このまま、役を変えずに続けることになった」
ざわっとした後、徐々に拍手が起きた。
「よろしくお願いします」
あゆみが頭を下げる。
「申し訳ありませんでした。」
Aも頭を下げる。
あゆみは、なぜ断ったんだろう…。
そんなに、主演のライバル役に魅力を感じるんだろうか…と、しばらくの間、稽古場では、その話しで持ちきりだった。