その後の稽古も順調だ。
あゆみは、どんなに暑くとも、相変わらず長袖を着ている。
チラッと見えたあゆみのアザ、大丈夫だろうか?
すると、暑さのあまり足を出した時、また違うアザ…というか、怪我を見つけた。
大きめの絆創膏を貼っている。
次の日、ジャズの喫茶店に来ていた。
少し遅れてあゆみも走り込んで来た。
「おはよー!暑いね~!」
他愛もない話をしながら、思いきって聞いてみた。
「アザ…?怪我…?どうしたの?」
「あ、これ?」
アザを見せてくれた。
「武道を習っているの。それでちょっと…」
「そうなんだ…。どうしたのかと思った…。」
とても明るく振る舞っているようで、実は謎をたくさん抱えているんじゃないか…と思わせるあゆみ。
最近、この店に来て、珈琲を飲みケーキを食べながら、思いっきり笑うことが多いけど、時々、ふっと暗い表情を見せる。
それが、謎を抱えているように見せるのかも知れない。
「武道は、何を?」
「え?…いろいろ」
「へぇ…、そうなんだ…。カッコいいね」
帰り道、ひとりになった時、やっぱり違和感を感じた。
…武道は何を?
と聞いたとき、少し間があって、悩んだ気がする…。
…いや、それだけじゃなく…。
とことん仕事をしてお金を貯めて、そのあと、とことん芝居に集中できるのが楽しい…と言っていたけど、今の作品への集中ではなく、いつ役に立つかわからない武道に"浮気"をするのが、あゆみらしくない気がする。
それは、端役だから?
だけど、そんなあゆみでは無い気がするし…。
…やっぱり謎だ。