あの頃(スター)16

2020-07-29 08:10:25 | 日記
ある日の稽古。

役者のひとりが行き詰っていた。

彼女の役柄は、主役の王子を好いている女性の役で、セリフはそんなに多くない。

彼女は素直で真っ直ぐで、悩み出すと、「適度なところで妥協ができない」とことん悩むタイプのように思えた。

彼女は数人の女性たちと笑いながら登場して、「あの人は、そんな人じゃないわ。いつも優しくしてくださるいい人よ」(…たぶん、こんなセリフだったと思います)

最初は、「あの人は、そんな人じゃないわ。いつも……。…いつも…。」

セリフ忘れがきっかけだった…。

「…すみません、もう一度、お願いします」

再び同じところをはじめから…。


ところが、緊張してしまったのか、また、同じところで躓いた。

「…すみません💦もう一度💦」

…そして、また、同じところで躓く。

3度、4度、5度……と、躓く。

迷宮に入ってしまった。

それだけなら彼女自身の問題なのでいいのだけど、演出が参戦してきた。

何度目かのトライでやっとセリフを言い終わった時、

「もう一度!」

…となった。

見ていた皆は、『え~💦せっかくOKテイクなのに~💦』

そしてまた、あらたな迷宮がはじまった。

『え?今のOKじゃないの?』

…という状況でも、演出は、

「もう一度!」

…となる。

彼女はどんどん追い詰められていく。

「あの人は…そんな人じゃないわ。いつも優しくしてくださるいい…」

「ダメ。もう一度」

笑いながら登場するシーンなのに、もう彼女は笑えない。

数人での登場シーンなので、自分のNGテイクのせいで、数人の仲間に何度も何度もやり直しをさせて申し訳ない…という思いが彼女を追い詰めていった。