あの頃(新入生)24

2020-07-09 07:56:24 | 日記
あゆみは、ポロポロと泣き出した。

「辞めるって…、本当に?💦」

「…限界」

『限界?何に?』

なんだか、それ以上踏み込んではいけないような気がした。

「武道では無かった…って、その怪我は?」

それを聞くと、あゆみは一気に黙ってしまった。

聞くべきでは無かった?

…あゆみは、何を言いたいのか、私に聞いて欲しいのか…?

きっと、私が聞いても、何の役にもたたない…。

もう、これ以上踏み込めない💦💦

目の前のコーヒーとケーキには、いっさい手を付けない。

運よく、他にお客さんもいないので、あゆみを泣かせてやることにした。

私はというと、コーヒーを飲むくらいしかする事がない。

怪我?アザは、誰につけられたの?

それが、なぜ、辞めるとこと関係があるの?

前の劇団も、それが理由で辞めたとか?

たくさん頭の中では、あゆみへの質問が渦巻いた。

「私、ある人と一緒に暮らしているの…」

…あ、同棲?

「その人、メンタルに問題があって…」

「その怪我…💦💦」

「そう…。その人、子供みたいに私を独占したがるの…。演劇も辞めて欲しいみたいで、舞台の本番になると嫌がらせみたいに私を困らせるの…。」

「だけど、なんで?殴られたの?」

「違うの…。私に出掛けてほしくなくて、自傷行為をするの…。ソレを止めるのに、私が怪我をしちゃうの…」

「……

「なんで、別れないか?って?」

ーーそう、それ。

「彼には、私しかいない。私が見放したらかわいそう…」

「……」

「私が、彼以外のことで楽しそうにしているのが、寂しいんだと思う。」

「本番前にだけ、彼の症状が悪化するの?」

「うん。私がすごく困るタイミングだからね」

「あゆみが、このまま今の生活を続けていくための、何か、方法はないの?」

「いろいろ話し合ったけど、ダメみたい…」

あゆみの私生活は、思った以上に深刻だった。

「だけどね、私が側にいてあげれば、子供みたいに笑うの…彼。」

あゆみのこの状況を知れば、誰もが、別れれば?…と、言うと思う。そして、何度も言われて来たと思う。

だけど、彼の話をするあゆみの顔は、幸せそうに輝いていた。

もう、何も話せなくなった。

様々な愛の形があっていいと思う。

こんな慈愛に満ちたマリアさまみたいなあゆみを育てたのは、彼かも知れない。

そんな人生を学んでこそ、素晴らしい女優が生まれるのかも知れない。