あゆみは、ポロポロと泣き出した。
「辞めるって…、本当に?💦」
「…限界」
『限界?何に?』
なんだか、それ以上踏み込んではいけないような気がした。
「武道では無かった…って、その怪我は?」
それを聞くと、あゆみは一気に黙ってしまった。
聞くべきでは無かった?
…あゆみは、何を言いたいのか、私に聞いて欲しいのか…?
きっと、私が聞いても、何の役にもたたない…。
もう、これ以上踏み込めない💦💦
目の前のコーヒーとケーキには、いっさい手を付けない。
運よく、他にお客さんもいないので、あゆみを泣かせてやることにした。
私はというと、コーヒーを飲むくらいしかする事がない。
怪我?アザは、誰につけられたの?
それが、なぜ、辞めるとこと関係があるの?
前の劇団も、それが理由で辞めたとか?
たくさん頭の中では、あゆみへの質問が渦巻いた。
「私、ある人と一緒に暮らしているの…」
…あ、同棲?
「その人、メンタルに問題があって…」
「その怪我…💦💦」
「そう…。その人、子供みたいに私を独占したがるの…。演劇も辞めて欲しいみたいで、舞台の本番になると嫌がらせみたいに私を困らせるの…。」
「だけど、なんで?殴られたの?」
「違うの…。私に出掛けてほしくなくて、自傷行為をするの…。ソレを止めるのに、私が怪我をしちゃうの…」
「……」
「なんで、別れないか?って?」
ーーそう、それ。
「彼には、私しかいない。私が見放したらかわいそう…」
「……」
「私が、彼以外のことで楽しそうにしているのが、寂しいんだと思う。」
「本番前にだけ、彼の症状が悪化するの?」
「うん。私がすごく困るタイミングだからね」
「あゆみが、このまま今の生活を続けていくための、何か、方法はないの?」
「いろいろ話し合ったけど、ダメみたい…」
あゆみの私生活は、思った以上に深刻だった。
「だけどね、私が側にいてあげれば、子供みたいに笑うの…彼。」
あゆみのこの状況を知れば、誰もが、別れれば?…と、言うと思う。そして、何度も言われて来たと思う。
だけど、彼の話をするあゆみの顔は、幸せそうに輝いていた。
もう、何も話せなくなった。
様々な愛の形があっていいと思う。
こんな慈愛に満ちたマリアさまみたいなあゆみを育てたのは、彼かも知れない。
そんな人生を学んでこそ、素晴らしい女優が生まれるのかも知れない。