セリフに躓いて、迷宮に入り込んでしまった仲間がいた。
何度やり直しをしても、演出がダメ出しをする。
数人の女性たちと登場するシーンなので、自分のミスで何度も何度も他の出演者たちも付き合うことになってしまっていた。
それゆえに、申し訳なさで、さらに追い詰められていく。
「ごめんなさい💦私のせいで💦💦」
「いいよ。いいよ。気にしないで」
「頑張って!」
…と、優しかった共演者たちも、黙ってしまった。
「少し休もう」
演出が休憩を提案した。
少しだけ空気が緩んだが、ダメ出しを言われ続けて追い詰められた彼女は、トイレに駆け込んだ。
ーー休憩も終わり…、また、例のシーンから…。
彼女は泣きはらしたようだ。
目が真っ赤だ。
「さぁ、はじめよう。…セリフを言う彼女だけでいい。」
一緒に笑いながら登場する女の子たちは休憩。(免除された)
それだけでも、彼女には少し肩の荷が降りた。
彼女は緊張で深く息を吸った。
「あの人は、そんな人じゃないわ。いつも優しくしてくださるいい人よ」
「………。」
長い沈黙が続いた。
(いいと思うんだけどなぁ…と、皆思ったんじゃないか…と思う)
「誰か、ちょっとやってみてくれ」
し…ん…として間もなく。
「はい」
姫が手をあげた。
優雅に立ち上がり、所定の位置に着く。
「あの人は、そんな人じゃないわ。いつも優しくしてくださるいい人よ」
「…うん」
(…そりゃ、いいでしょうよ~、姫は追い詰められてもいないし…、新鮮なハズ💦)
「…それじゃ、もう一度、君」
姫はいいとも悪いとも言われず戻ってきた。
そして、再び本役の彼女が所定の位置に着いた。
「あの人は、そんな人じゃないわ。いつも優しく…、優しく…して…くださる……いい人よ…」
ついに彼女は泣き出した。
見ている私たちも、何がダメで何がOKなのか全くわからない。
「今日はもう、これで解散!」
自分が泣き出したために"解散"と言われたと思ったのか、彼女は泣き崩れてしまった。