いろいろあった公演も終った。
あゆみは、あの後、体調を崩した…と言って、ずっと稽古に出てきていない。
このまま辞めるんじゃないか…と、仲間たちは噂していた。
私はと言うと、
『今日こそ、あゆみは、稽古に出て来るんじゃないか』
『…そしたら、また、ケーキを食べにジャズの流れる喫茶店に寄るんじゃないか』
…と、期待していた。
なんとか、あゆみの本当の気持ちを聞きたかった。
このまま縁が切れてしまうのが寂しかった。
そして、あゆみが来なくなって何日目かの稽古の日、
相変わらず、ジャズの流れる喫茶店で、チョコレートケーキを頬張っていた。
最近、チョコレートケーキが苦く感じる。
コーヒーをすすり、窓の外を見る。
雨が降りだして、急ぎ足で通りすぎる人の中に、見覚えのある顔が…。
あゆみだ。
雨足が強くなって、ジャズの流れる喫茶店に飛び込んで来た。
「あ❗」
すぐに私を見つけて、まっすぐに駆け寄る。
「おはよう❗」
久しぶりだと言うのに、当たり前みたいに私の真向かいに座った。
コーヒーとケーキを頼んだ。
私は、何から話したらいいのか戸惑った。
「私ね、辞めるの」
「えっ?!」
「もう、限界…」
「何かあったの?」
あゆみは、ポロポロと涙を流した。
「これね、武道なんかじゃないの」
腕のアザを見せた。
「どいうこと?どうしたの?」
私は混乱していた。