あの頃(新入生)23

2020-07-08 07:47:22 | 日記
いろいろあった公演も終った。

あゆみは、あの後、体調を崩した…と言って、ずっと稽古に出てきていない。

このまま辞めるんじゃないか…と、仲間たちは噂していた。

私はと言うと、
『今日こそ、あゆみは、稽古に出て来るんじゃないか』
『…そしたら、また、ケーキを食べにジャズの流れる喫茶店に寄るんじゃないか』
…と、期待していた。

なんとか、あゆみの本当の気持ちを聞きたかった。

このまま縁が切れてしまうのが寂しかった。

そして、あゆみが来なくなって何日目かの稽古の日、
相変わらず、ジャズの流れる喫茶店で、チョコレートケーキを頬張っていた。

最近、チョコレートケーキが苦く感じる。

コーヒーをすすり、窓の外を見る。

雨が降りだして、急ぎ足で通りすぎる人の中に、見覚えのある顔が…。

あゆみだ。

雨足が強くなって、ジャズの流れる喫茶店に飛び込んで来た。

「あ❗」

すぐに私を見つけて、まっすぐに駆け寄る。

「おはよう❗」

久しぶりだと言うのに、当たり前みたいに私の真向かいに座った。

コーヒーとケーキを頼んだ。

私は、何から話したらいいのか戸惑った。

「私ね、辞めるの」

「えっ?!」

「もう、限界…」

「何かあったの?」

あゆみは、ポロポロと涙を流した。

「これね、武道なんかじゃないの」

腕のアザを見せた。

「どいうこと?どうしたの?」

私は混乱していた。