ドラゴン桜が始まった。
2005年に放送された「ドラゴン桜」の続編。
暴走族上がりの弁護士・阿部寛が倒産寸前・低偏差値の高校にやってきて、落ちこぼれたちを東大受験させ合格させる、いわゆる痛快お受験ドラマの続編が15年ぶりに制作された。コロナによる放送の延期で16年ぶりになってしまったが待たされた分だけ期待が高まる。
続編となると「前作は良かった」などと言う奴が必ず出てくることや、キャスティングについてあれこれ言われることを前回に書いたが、今回は演出や脚本について。
「続編ならここは外さないでほしい」ってのが、前作ファンなら必ずある。
前作の「ドラゴン桜」の醍醐味は、暴走族上がりの破天荒な弁護士が、無気力な生徒達を奮起させ、東大合格のための奇想天外な勉強法や受験テクニックを教えるところだ。
卓球しながら勉強したり、ビートルズで英単語覚えたり。どんどん偏差値が上がっていく落ちこぼれ生徒たち。生徒たちそれぞれには家庭事情や悩みがあるのだが、そんなこんなも全部東大受験勉強で吹き飛ばす痛快さね。ここは外さないでほしい。
しかし、第1話では全くその気配すら感じさせなく、いきなり「半沢直樹か?」って感じで始まった。
偏差値32で年々生徒数が減り、経営破綻しかかってる学校を東京大学合格者を出して再建するってのは前作と同じテーマだが、ちょっと学園再建の部分を描くのに偏りすぎ。
会議室では「伝説の桜木(阿部寛)先生を招致してこの学校から東大合格者を出す」と再建案を出す教頭・及川光博の姿が。親から継いだ学校を自由な校風のままでいいと及川の提案を一蹴する理事長・江口のりこ。「現実を見たまえ!現実を」と机を叩きながら剣幕まくしたてる校長・山崎銀之丞。固唾をのんでた教師陣も喧々諤々論争を始める。
なんだこれ?
及川光博、江口のりこ、山崎銀之丞で会議室ときたら、まるで半沢直樹。いや、阿部寛だから下町ロケットなのか?
いくら演出に福澤克雄が入っているとはいえ、これはちょっと偏りすぎでは。
いきなり「コレジャナイ感」が漂う。期待してたのは、見たいのはこんなのじゃない。
学校再建や派閥闘争がメインではなく、奇想天外な痛快受験テクニックで落ちこぼれ生徒がやる気を出していく姿が見たいのだがね。
それに三田紀房の原作漫画を弄りすぎ。
もちろん前作でも、受験テクニック中心だった原作漫画を、生徒たちの成長を描くヒューマンドラマにしていた。
ドラマ化にあたって視聴者にわかりやすくしたり、あちこち変えたりするのは仕方がない。漫画や小説など原作のある作品が実写化された際、必ず賛否両論出てくる。特に東大という日本最高府の受験勉強をわかりやすく描くのは難しいもんな。
だけど原作漫画の続編では、阿部寛が教え東大合格者を出たおかげで入学者が増え進学校になったが、今は東大進学者が0になってしまった龍山高校。理事になった阿部寛は元教え子で、今は弁護士として自分の事務所で活躍してる長澤まさみに東大クラスを受けもたせるって話なのだが、大幅に設定が変えられてる。そもそも舞台になる学校・龍山高校がドラマ続編では龍海学園と別学校になっているし。
冒頭の会議室のシーンの江口のりこは、「半沢直樹」で堺雅人と対立する憎たらしい代議士を彷彿させるような演技。だが、このドラゴン桜の続編も本来なら2020年の夏期に放送される予定だった(コロナ禍で延期)。同時期に撮影してたはず(半沢は2020年夏期放送)だからキャラがかぶってても仕方がないのだ。
今年に入って「その女、ジルバ」や「俺の家の話」などで一気に評価が高まっている彼女が今回演じる理事長は、自由な校風を理想に掲げ、勉強や押し付けを嫌う。
「自由でのびのびと生徒の自主性に任せるのが一番」と教育方針を熱弁する。
教頭・校長・理事長そして教師陣の討論が行われてる会議室に入ったきたのは、前理事長・木場勝己。現理事長・江口のりこの父親だが、方針の違いや反発心から二人の間には確執がある。
なんか某大手家具会社の父娘騒動みたいだなぁって思って観てたのだが、エンドロール見てびっくり。大塚家具(あっ!実名出しちゃった)が美術協力してるじゃないか。多分重厚な応接セットやインテリアなどは大塚家具の提供だろうが、いいのかこれ。テレ東じゃないんだぞ。
「1週間後の理事会の採決で方針を決める」とか、現在の賛成派は誰で反対派は誰で、誰をどう寝返らせるかと画策するところなんかは、完全に福澤克雄ワールド。太陽が沈むシーンがあれば文句なしだ。
でも、見たいのはそれじゃない。
学校の経営破綻や再建はともかく、権力闘争、派閥などはどうでもいいのだよ。
設定も原作とは違い、阿部寛は弁護士事務所を畳んでるし、行方不明になった阿部寛の事務所をさっさと解散し、自分の新設する弁護士事務所に長澤まさみを引き抜こうとした早霧せいなとか出てくる。
そのたたむ原因となったのは2年前の東大受験絡みとか、行方不明になった阿部寛を探すのを手助けする長澤まさみの後輩で東大同期のIT企業経営者・林遣都とか、その会社で原因となった生徒・佐野勇斗は働いてる。
そんなあれこれドラマ用の設定を詰め込まんでも・・・。
見たいのは暴走族上がりの破天荒な弁護士が、無気力な生徒達を奮起させ、東大合格のための奇想天外な勉強法や受験テクニックを教えるドラマだ。
長澤まさみを嵌めたクソみたいな不良生徒二人を、阿部寛が元暴走族らしく(本人曰く今でも現役)バイクで追うシーンは良かった。
荒くれKNIGHTの善波七五十のごとく、鉄パイプを地面にこすりながら追いかけ、学校に逃げても校舎内をバイクで追っていき、最後は追い詰め鉄パイプで殴ると思いきや寸止め。
痛快なのはいいのだが、これじゃぁまるでGTOだ。
しかもその不良生徒は、姉思いで親の遺したラーメン屋を継ぐとか言ってた高橋海人にそそのかされて今回の騒動を引き起こしたって・・・。そんなややこしくしないでも・・・。
前作で江口のりこも暴走族役で登場してたが、今回それは引き継がれてるのか?とかいらないことまで考えるが、落ちこぼれを東大受験という目標をもたせて奮闘させるのが見たいのであって、不良が厚生するドラマが見たいわけじゃない。
「ルーズベルトゲーム」を演出した福澤克雄だから、このままでは落ちこぼれ生徒を熱血教師がラグビーで更生させるドラマになってもおかしくない。それは「スクールウォーズ」だ。それは山下真司だ。阿部寛じゃないぞ。
そういや「スクールウォーズ」も続編は低評価だったな。主役の山下真司は一緒だが、学校など設定を変えちゃったせいだな。今回のドラゴン桜もその二の舞にならないことを祈る。
阿部寛の人気作と言えば、仲間由紀恵との「TRICK」。人気が出てシリーズ化されたが、故・野際陽子(前作のドラゴン桜で理事長を演じてた)さんや生瀬勝久さんというメインキャストは変えなかったからだな。映画化もされたが、ゴールデン進出となった「3」はちょっとね。深夜帯で放送されてた時の方が自由だったんだろうな。
同じく阿部寛の人気作「結婚しない男」も、続編「まだ結婚しない男」が13年ぶりに制作された。これは前作の世界観が全く引き継がれてなくてダメだった。キャストも塚本高史以外ほぼ一新され、肝心のメイン女の人三人が全然魅力的じゃなかったせいもあるが、独身を謳歌する阿部寛ってところが中途半端に描かれてたからだ。
続編ってのはキャスティングもそうだが、演出や脚本が前作とあまりにも違うと、前作ファンは付いていけなくなる。
そりゃ時代は変わるんだから、以前は許された描写が、今はコンプライアンスに引っかかったり、クレーム入ったり、炎上したりする。なんとも世知辛い世の中である。
今回も不良学生二人が喫茶店でタバコを吸ってるシーンがあるが、そこに乗り込んできた阿部寛が「条例違反だ」とか「注意しなかった店にも問題がある」とかいうシーンがある。バイクで追いかける時もちゃんとヘルメット確かめてるし。対向車線にはみ出したり鉄パイプ持ってたり、校舎内を走ったりするのに今更ヘルメット?って感じなのだがね。
でも、ドラマなんだから大目にみてよ。
「子供が真似したらどうする」とか言うのなら見せるな。それかその時に教えろ。「こんなことしたらダメだよ」って。指導のチャンスを放棄するな。自分の教育ミスを誰かのせいにするな。
それこそ江口のりこ演じる理事長の「自由でのびのびと自主性に任せて」ってのだな。それは言い換えれば無責任・無関心・教育放棄ともいうのだよ。
最近はこういった勘違い親が多いからわざわざ描いたのかな。
「バカとブスほど東大へ行け」も今では差別とかなんとかかんとか言われるのだろうか。
先生が喋ってるのにスマホ弄ったり喋ったり、「自由でのびのびと自主性に任せて」たせいで、学級崩壊どころか学園崩壊してる生徒の前で「いいかお前ら東大になんか絶対行くな」と壇上から言う阿部寛。
東大なんか受験テクニックとそれにのとって勉強すれば誰でも入れると豪語し、続いて「お前らにそんな価値などない」「東大の方からお断りだ」と言う。
バイクで不良を追い詰めた時も「大人が子供に何もしないと思ったら大間違いだぞ」と凄み、囲む生徒たちにも「一日中、スマホだゲームだ。毎日なんとなくボケーとした日々を送ってる」「人を叩き、罵り、そのくせ自分の権利ばかり主張する」「真面目に生きてる人間の足を引っ張る、クズみたいな大人に成り下がる」と熱弁を振るう。
そうなんだ、こういうのが見たいのだ。
いろいろ「コレジャナイ感」は漂うが、今回のシン・ドラゴン桜。
とりあえず第2週も見るべし。