さすがだ。面白い!
俺の家の話。
と言っても俺の家の話ではなく、1月22日に第一回が放送されたTBSドラマ『俺の家の話』のことである。これが面白いのだ。
脚本は宮藤官九郎。主演は長瀬智也。
この二人は『池袋ウエストゲートパーク』や『タイガー&ドラゴン』『うぬぼれ刑事』と過去にも面白い作品を世に送り出してきている。池袋の八百屋でトラブルシューター、昼は噺家で夜はヤクザ、ボジティブ思考なうぬぼれ刑事。そして今回長瀬が演じるのは能楽師の息子で元プロレスラー。
能の宗家の生家を飛び出してプロレスラーになった長瀬智也。ある日、人間国宝の父・西田敏行が倒れたと連絡が入り病院に行き、そこから家族との数年ぶりの対面から介護やら相続やら跡継ぎとか話が展開する。
能とか人間国宝とか言われても一般人にはほぼ無縁。ユネスコの無形文化遺産になってても、95%の日本国民はよくわかっていない。俺も道成寺くらいしか知らん。
歌舞伎ならまだしも、能、狂言、浄瑠璃、文楽を行ったことある人はほぼいない。いても小学や中学校の課外授業とやらで行かされたってくらいだろう。ミスチルのコンサートに行くかのように「今度の休みは能を見に行く」なんて人は皆無、せいぜい野村萬斎さんを知ってるくらいだと思う。
こんな一般人にほぼ無縁の能を取り入れて、ホームドラマを作るという無茶ができるのが宮藤官九郎のすごいところ。
そしてプロレス。昭和の頃はゴールデンタイムで平気でプロレス中継してたのだ。額から血を流そうが、リングサイドでパイプ椅子で殴りあおうがお構いなしだったのよ。
プロレスラーの入場にはテーマ曲があった。そもそも全日本プロレス中継のオープニング「スポーツ行進曲」は聞けば誰もが知ってるはずだ。
ブッチャー「吹けよ風、呼べよ嵐」、ミルマスカラス「スカイハイ」、ファンクス「スピニング・トーホールド」、アントニオ猪木「炎のファイター」、スタン・ハンセン「サインライズ」。
そして、今回のドラマで長瀬智也が憧れたブルーザ・ブロディのテーマ曲は「移民の歌」(LED ZEPPELIN)。だが、デビュー戦でレフェリーが「ブルーザ寿一」を間違え紹介し「ブリザード・寿」になった。開き直って入場テーマ曲は松任谷由実の「ブリザード」だ。軽すぎて合ってないが許す。クドカン遊びすぎ。盛り込みすぎ。
ガキの頃川口ひろし探検隊やプロレスを見て育ったせいで、「やらせだ」「仕込みだ」「捏造だ」などの許容範囲は今の若者よりかなり広い。毎回マジでやってたら死人が出るって。放送時間内に終わらんて。3回やられたら反撃。ロープに振られたらチョップを受けダウン、何度か目でかいくぐって逆襲からスープレックス。コーナポスとかニーパット、このままじゃぁってところで回避し自爆。お約束でいいのよ。
この受けと攻め、百合やBLの世界にも通じる筋書きを盛り上げるのが、解説者の熱い実況とニックネーム(異名)。
アントニオ猪木の「燃える闘魂」を始め「鉄人」ルー・テーズ、「神様」カール・ゴッチ、「鉄の爪」エリック、「魔王」デストロイヤー、「超人」ハルク・ホーガンなど短いのから、「ブレーキの壊れたダンプカー」スタン・ハンセン、「千の顔を持つ男」ミル・マスカラス、「黒い呪術師」ブッチャーなどね。
ブルーザ ブロディは新日時代は「インテリジェンス・モンスター」だったけど全日では「キングコング」ってありきたりになっちゃった。
よく勘違いされるけど、この異名をつけて中継してたのは初代・舟橋慶一さんだ。古舘伊知郎さんは2代目ね。ハンセンの必殺技「ウエスタン・ラリアット」とか藤波辰爾の「ドラゴンスープレックス」も舟橋さんで、アンドレ・ザ・ジャイアントを「人間山脈」とか「ひとり民族大移動」とか実況したのが古舘さん。
このdramaでも長瀬智也が「お久しブリザード」とマイクパフォーマンスしたりする。SKE48の松井珠理奈か。いや清野菜名の「おつカレーライス」の方が近いか。父・西田敏行も人間国宝のくせに「やりまセンチュリーハイアット」って言ったりして「あぁこの二人は親子なんだね」って。
さらに唯一の幸せな親子の思い出がプロレス中継を見てた時だった、だから長瀬は家を捨てて、認めてもらいたくてプロレスの道に・・・こういうさりげない演出が上手いなぁクドカンは。
父が倒れうろたえてる長男・長瀬を尻目に、妹・江口のりこと弟・永山絢斗は遺産の話をしている。不謹慎だと長瀬は言うが二人は2年前に西田敏行が倒れた時に覚悟を決めたと。今更のこのこ帰ってきてお前こそ何を言ってるんだと。
父が倒れたシックや哀しみは「もう次のフェーズに入ってる」と某東京都知事のような横文字を使って話したがる江口のりこ。この人は先の『半沢直樹』での議員役といい、今の『その女、ジルバ』でのお局事務職員といい上手いなぁ。無表情なのにツボを押さえた演技。
フェーズという言葉は「使ってみたかっただけ」だし、LINEのグループ追加どころかまだガラケーの長瀬に「まずはスマホに買い替えろ」と毒舌を吐く。そして介護士の戸田恵梨香と結婚すると言い出した西田敏行には「年の差婚なんてカトちゃんだから許されるのだ」と。
こういった言葉の遊び、テンポはクドカン脚本ならではだが、それをちゃんと演技で表現出来る江口のりこがいることがすごい。
永山絢斗も負けてはいない。(誰にだ)
「壊れかけのRadio」という言葉遊びもわかる人にだけわかればいいという大胆さ。
桐谷健太も負けてはいない。(だから誰にだ)
また病院に向かおうとした長瀬智也を追いかけようとしたらまだ玄関にいた長瀬。「なんでリングシューズを履いてきたんだよ・・・」と嘆く長瀬に「クロックス貸そうか?」
この天然さが桐谷健太の醍醐味だね。
この二人と江口のりこ、長瀬智也で『羽衣』を謡うシーンはなかなか迫力があった。今は芸養子となった桐谷健太以外は能の世界から離れているが、4人が幼い頃から能を叩き込まれてきたのがこのシーンだけでわかる。戸田恵梨香が「呪いの儀式かと思った」と圧倒されるくらい迫力があった。
認知症の症状が出て野菜の名前が言えない、思い出せない西田敏行が一人、舞台で能を謡い「能なら覚えて出てくるのに、なんで野菜の名前は出てこないんだ・・・」と嘆くシーン。
長瀬智也の「いいんじゃないの、あんた別に八百屋じゃないんだし」ってセリフがこれまた上手いなぁって。
長瀬智也が西田敏行をお風呂入れるシーンもよかった。
風呂場で洗うシーンで泣いてない」と嘯く長瀬が握ったスポンジから水滴が落ちる演出なんか上手いなぁって。
膝を悪くしたとはいえつい先日までプロレスラーだった長瀬が、西田敏行を抱きかかえて移動させるのに四苦八苦。力じゃないのよ。慣れないと介護で入浴って本当に大変なのよね。
もう3-4年くらい前の話になるが、ある飲み屋の隣の席で女子会らしき集まりがあって、その会話が丸聞こえだったのだよ。盗み聞きじゃないよ。声が大きすぎるんだよ。しかも今みたいにマスクしてない頃だもん。
で、どうも結婚するのに理想の男の話をしてるみたいなのだが、これがかなり印象深かった。
「今は三高とかイケメンとかなんやかんや言ってるけど、健康なのが一番」「身長が高いとかがっちりしてるとかスポーツマンとかは絶対ダメ」「今は見栄えがいいからいいけど、老後の介護のこと考えたら背が低いとか痩せてるとかの方がいいって」
やけに現実味を帯びた会話でちょっと考えてしまったよ。介護職についてる方だったのかなぁ。今回の長瀬智也が西田敏行を運ぶシーンを見て「本当にそうだなぁ」って。
宮藤官九郎。彼はやっぱり天才です。
介護、離婚、学習障害、認知症、後妻業、門跡継ぎ、相続・・・第一話だけでこの盛りだくさんな内容。1線級の俳優陣に満遍なく見せ場を作り、一気に見させるスピーディな展開、と思えばじっくり見させる緩急のつけ方、言葉選びと言葉遊び。
うーん、第二話目も期待です。
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