今回の衆院選の勝利は国民民主党(国民)の躍進だ。前回の衆院選では立憲民主党(立憲)の獲得票のわりに獲得議席が少なすぎたから、立憲の議席増加は当然のことである。
朝日新聞の出口調査によると、国民と立憲を合わせると、80歳以上を除き、どの年齢層でも自民党の支持率をうわまった。
朝日新聞の出口調査で、もっとも驚くべきは、20代の比例投票先では、国民の支持がどの政党よりも大きくうわまっている。出口調査では、国民は26%で、自民の20%、立憲の15%、維新10%、れいわ10%である。
国民は、「手取りを増やす」以外、選挙で何も言わなかったのに、若者の支持を集めたのである。これは、都知事選で何も政策を述べなかった石丸伸二が若者の票を集めたのと似ている。じっさい、都知事選と同じ選挙参謀が国民の選挙を取り仕切った。
しかし、それだけとは言えない。「手取りを増やす」という国民のキャッチフレーズがお金が欲しいという若者の心をつかんだのである。
立憲の野田佳彦は、「政権交代」と「裏金スキャンダル」の一点張りで自民党を攻め、多くの人びとが経済的に困窮しているという事実を軽く見ていた。この点で国民の玉木雄一郎の選挙戦術をわたしは高く評価する。
一方で、「給料を上げろ」でなく「手取りを増やす」だったことには、わたしは不安を覚える。今回の衆院選の選挙公報では、国民は「減税」「社会保険料の軽減」で「手取りを増やす」と言っているからである。公報の「公費投入増による後期高齢者医療制度に関する現役世代の負担軽減」と「減税」とは矛盾しているのではないか。
一般的な減税でなく、立憲の泉健太が今回の代表選で言っていた、困窮層と富裕層や企業との税負担率の見返しを、国民は主張すべきでなかったのか。
「手取りを増やす」ために、福祉予算を削るのでは、オカシイ。防衛費増額(軍備拡大)に反対すべきではないか。国力に見合った防衛費で充分であると考える。
福祉は、単に生活困窮者を助けるだけでなく、J. ガルブレイスが言うように、不況のとき需要を底支えするのである。不況は需要が供給力を大きく下回ることで起きるので、福祉は不況をやわらげる効果がある。
さらに、3週間前に小熊英二が朝日新聞で言っていたように、福祉は雇用先を増やす。AIを含む大量生産技術の進展は、製造業における雇用を減らしていく。労働力の新しい吸収先として、政府が影響力を比較的持つ医療・福祉・教育に雇用をシフトしていく必要があると、小熊は言う。私自身はそれらに文化活動(芸術・音楽・演劇・研究など)も加えたい。
「手取りを増やす」だけの国民民主党に不安を感じ、これでは国政をまかすわけにはいかないと、わたしは思う。
[11月3日補遺]
きょうのTBS報道19:30を聞いていると、せっかくの国民民主党の提案「手取りを増やす」が税制体系全体の改定、税金の使い道につながらず、財源がないという理由で、国民民主党叩きになっている。これはフェアでない。
「103万円の壁撤廃」が国の財政不足を起こすなら、富裕層や大企業からもっと税金をとればよいのではないか。福祉にかける予算を削らず、膨張している防衛費を削れば良いのではないか。また、負担が大きいのは国税だけでなく、累進課税になっていない地方税の負担がとても重い。
番組のコメンテーターには、選挙で支持された「手取りを増やす」を良い方向に導くよう議論して欲しい。