猫じじいのブログ

子どもたちや若者や弱者のために役立てばと、人権、思想、宗教、政治、教育、科学、精神医学について、自分の考えを述べます。

岸田文雄の「新しい資本主義」は何だったのか、政府の「実現会議」が実行計画案作成に失敗

2022-05-31 22:05:09 | 経済と政治

きょう、5月31日の夕方、テレビを見ていたら、政府の「新しい資本主義実現会議」が、総理大臣官邸で会合を開き、岸田文雄が掲げる「新しい資本主義」の実現に向けた実行計画案などが示された、と言っていた。

しかし、中身がわからないので、ネットでNHKのサイト『「新しい資本主義」実行計画案 「資産所得倍増プラン」策定へ』を見たが、それでも、よくわからない。

3日前の28日に朝日新聞が実行計画原案がわかったと報道していたが、それも、ただの経済政策をばらばらと挙げていただけであった。たとえば、「大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の『3本の矢』を堅持」「再生可能エネルギー、原子力など脱炭素電源の最大活用」「NISA制度などによる『資産所得倍増プランの検討』」など7項目があがっていた。

結局、「新しい資本主義」とは何か、だれもわからず、実現計画がまとまらなかったのではないか。それでも、7月の参議院選挙を目指して、むりやり、「新しい資本主義」の実現計画をぶちまけようとしたのではないか。

けさの朝日新聞4面で、岸田文雄の経済ブレーン原丈人が「資産所得倍増の前に分配政策を」と、実行計画案を批判している。原の言うように、少しも「新しい資本主義」のところがない。

今年の1月17日の岸田の第208回国会施政演説には、具体性がないが、刺激的言葉が散りばめられていた。

「市場に依存し過ぎた」「市場や競争の効率性を重視し過ぎた」「行き過ぎた集中によって生じた」「自然に負荷をかけ過ぎた」「分厚い中間層の衰退」

そして、「新しい資本主義」は「市場に任せれば全てが上手くいくという、新自由主義的な考え方が生んだ、様々な弊害を乗り越え、持続可能な経済社会の実現に向けた、歴史的スケールでの『経済社会変革』」を行うと岸田は言ったのである。

それが、どうして、「NISA制度などによる『資産所得倍増プランの検討』」となるのだろうか。「資産所得倍増」と言うが、会社や工場で真面目に働いていて「資産所得」のない人はどうなるのか。まず、「勤労所得倍増」ではないか。

先日、田園都市線で車内広告「不労所得を得る方法」が見たが、不動産投資の広告であった。「資産所得」とは「不労所得」ではないか。

けさの朝日新聞の記事では、原はつぎのように言う。

「成長産業を作っても、利益のほとんど株主がとってしまう株主資本主義の時代が続けば、社員は豊かになれません。成長の結果、成果物が働く人たちや、社会全体に還元するルールを作ることが新しい資本主義の骨格のはずです。」

まったく そうである。「新しい資本主義」は、働いた成果物の「新しい分配」であって、「資産所得倍増」ではない。実現会議が実行計画案をまとめるのに失敗したことは、「新しい資本主義」は、結局、社会主義か共産主義でしか実現しえないことを物語っていると思う。今の自民党政権では到底無理である。


「専守防衛」のタガをはずそうと気勢をあげる自民党と日本維新の会

2022-05-30 23:47:56 | ロシアのウクライナ軍事侵攻

きょうの朝日新聞の記者解説は『空文化する「専守防衛」』であった。この62日前の3月19日にも同じ新聞の〈オピニオン&フォラム〉に、元内閣法制局長官 坂田雅裕のインタビュー記事『なし崩しの「専守防衛」』がのった。安倍政権のもとに、2013年の防衛計画大綱、2015年成立の安保法制をもって、実質的にも法的にも「専守防衛」の規制が崩れたとする。

「安保法制」では、日本が、国民の生命と財産を守るために、同盟国と共に他国で戦うことが想定されているのだから、「専守防衛」という自己抑制の「たが」が外されている。それでは、自衛の範囲をいくらでも拡張できるようになる。他国にいる日本人の生命と財産を守るための戦争が「安保法制」では制定されている。

じっさい、2月24日に始まったロシア軍のウクライナ侵攻は、アメリカやNATOの支援で軍事化するウクライナがロシアの安全を脅かしているから、自衛のための特別軍事作戦だとプーチンが言っている。

「専守防衛」という自己抑制の「たが」をはずせば、自衛隊の存在は、日本国憲法第9条の「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」に明らかに違反する。だから、日本弁護士会連合会(日弁連)は、今なお「安保法制」は憲法違反と言い続けている。日弁連は正常な感覚をもっている。

これまで、自衛隊の存在が合憲であるとされてきたのは、憲法第9条は自衛のための武力行使まで禁じていないからという理由であった。それが、「専守防衛」という「たが」をはずせば、なんでも「自衛」と強弁できてしまう。

90年前、日本と戦った中国は、戦闘を中国内に限定したから、自衛のための戦争と見なされたのである。日本軍に民間人も含めて中国人が殺されたから、日本軍を追い出すための反撃が自衛だと見なされたのである。

今、ウクライナ軍がウクライナに侵攻してきたロシア軍と戦っているから、ウクライナ軍の戦いは自衛のためと見なされ、支援の声が世界に広がっているのである。

今回のウクライナ侵攻から何も学ばずに、軍事面だけを見て敵基地攻撃能力が必要だ、射程距離が900~1500kmのミサイルをもとうとする、自民党や昭和維新の会は何を考えているのだろう。あきらかに、「専守防衛」の枠を超えている。

そんなことをすれば、日本は「国際紛争を解決する手段として」戦っていると見なされるだろう。世界は、日本がアメリカのもとに戦ったからといって、自衛の戦いとみなさい。アメリカ政府だってこれまでロクなことをしていないことを、世界は知っているからだ。


戦争がエンターテイメントである子どもたちが大人になったとき

2022-05-29 22:37:14 | 戦争を考える

私はNPOで子どもたちの作品を集めて「文芸誌」をだしつづけて5年目になる。文芸誌と名付けたが、イラストや工作や積み木の写真が圧倒的に多い。私は子どもの意思を尊重する立場から、投稿されたものを、タイトルを含めて、そのまま載せることにしている。大人が作品に手を加えるのに反対である。

3日前、来月に発行する文芸誌を編集していたら、「せんとうき」というタイトルのレゴ作品の写真があるのに気づいた。放デーサービス利用の小2の男の子の作品だ。いつも部屋の片隅で一人で正座して、レゴを組み立ている。寡黙の子である。迎えに父親に誇らしげにレゴ作品を見せている。

それまで、彼が宇宙探検隊を組み立てていると私は思っていた。だから、驚いた。同僚にこの話をしたら、「ウクライナ侵攻」の影響ではないか、という返事が返ってきた。しかし、ウクライナ侵攻のテレビ報道では戦闘機がでてこない。

彼の過去の作品を調べると、「にゃんこ大戦争のたたかい」とのタイトルのイラストがみつかった。ウクライナ侵攻の前から、「せんそう」がエンターテインメントなのである。

自分の子ども時代を思い出してみると、彼ぐらいの年頃のとき、島の地下全体が要塞になっていて、敵の戦闘機を打ち落とすイラストを描いていたような気がする。少年誌の影響である。当時の少年誌には、小松崎茂のリアリスティックな絵つきの戦争ものや、横山光輝の秘密基地の戦争マンガがのっていた。敵国がアメリカでなければ戦争ものが少年誌にのっても良かったのである。それが、アメリカに従属していた日本の自由であった。

さらに、町のパチンコ屋では軍艦マーチが流れていた。映画でも日露戦争ものが上映されていた。ロシア(ソビエト連邦)がアメリカ公認の敵国であったからだ。

それでも、日本に「平和主義」が存在しえたのは、戦争体験者が生きていたからだ。母親からは、空襲の話や軍人が威張っていた話や町の有力者の妻たちが銃後の婦人会として威張っていて竹槍でアメリカ兵を殺す訓練をやらされた話しを聞かされた。赤紙で中国での戦争にひっぱられた父親の話は、理由もなく上司に殴られたとか、食べるものがなく、中国人の家を壊して壁に埋められていた食べ物を探したとか、であった。今から思うと、人を殺したという話しがなかった。戦闘の話は父にとって悪夢で話せなかったのだと思う。

戦争がエンターテイメントであることは、いまもかわらない。テレビでは、宇宙人を殺すことはあたりまえである。彼の上の世代は松本零士や宮崎俊のアニメを見ており、ガンダムのプラモデルを組み立てている。

いっぽうで戦争の体験者がどんどん死んでいなくなっている。リアルの戦争を知らない私の世代も後期高齢者を迎えている。

戦争をしらない親に育てられた子供が、戦争をエンターテインメントと思って大人になったとき、世の中はどうなるのだろう。

憲法第9条の改正をしたら、戦争を封印する重しがなくなるのではないだろうか。すでに、日本は相手を屈服させるために4年前に隣国に経済戦争をしかけた。経済戦争から武力戦争に拡大するリスクが増大するのではないだろうか。

このまえ、BSTBS『報道19:30』で元自衛隊幹部が「今の自衛隊は人を殺したことがないのです」と言っていた。戦争とは人を殺すこととわかっていず、アメリカ軍の指示に従って戦闘訓練をしている自衛隊の精神構造はどうなっているのだろう。上官によるいじめと、いじめによる自殺が自衛隊で起きている。

そんな自衛隊がだんだん大きな口をきくようになると、いったい何が日本に起きるのだろうか。

加藤陽子の『とめられなかった戦争』(文春文庫)の第2章に、軍部(陸軍参謀本部、海軍軍令部)で精力的に働いていたのは40歳代で、少年時代に日露戦争を少年少女雑誌で体験していた世代だとある。戦争をエンターテインメントとして受けとめ、軍人を志したのである。軍事予算は特別会計になっており、敗戦までその内訳が明らかになっていなかった。20年かけてアメリカとの戦争を準備した彼らにとって、無謀な戦争ではなかったのである。そして、彼の上の世代だけが戦争犯罪の追求をうけた。

日露戦争にあこがれた世代の軍部がそのまま戦後に生き残ったのである。


ウクライナ侵攻の理解に加藤陽子の『とめられなかった戦争』をおすすめ

2022-05-28 23:27:31 | 戦争を考える

加藤陽子の本を2冊 図書館にネットで予約したとき、『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』(朝日出版社)と間違えて、別の本、『とめられなかった戦争』(文春文庫)をクリックしてしまった。2日前に図書館で現物を受け取って、はじめて、間違いに気づいたが、この本は薄いが論旨が簡潔で悪くない。『戦争まで』と比べ、上から目線もさほど強くない。おすすめできる。

本の構成は歴史的順序と逆に書かれており、第1章が「敗戦への道」、第2章が「日本とアメリカとの戦争」、第2章が「日米開戦決断と記憶」、第3章が「日中戦争長期化の誤算」、第4章が「満州事変 暴走の原点」である。

本書を読むと、当時の中国と日本関係がウクライナとロシアの関係に対応しているに驚く。

第3章では、日本が中国に宣戦布告することなく、1937年に軍事侵攻を行うのである。当時の中国政府は、これに軍事的に反撃するから戦争である。しかし、中国も日本もそれを戦争と呼ばなかった。当時、アメリカに「中立法」があって、戦争する当事国には武器や戦争に利する物資の輸出を禁じていたからだという。

なし崩しに始まった戦争に、1年たったころには、大陸に動員された兵士たちも、銃後の国民も、疲れはじめて、戦争に疑問を持ち始めたという。その事態を打開するために、1938年に、日本政府は「東亜新秩序の建設」を打ち出したという。後づけの大義名分である。

その2年前の1935年に、中国の胡適はつぎのような論文を書いたという。

<中国は豊かな軍事力を持つ日本を自力では倒せない、日本の軍事力に勝てるのはアメリカの海軍力とソ連の陸軍力の2つしかない、だからこの2国を巻き込まない限り中国は日本に勝てない>

<中国が日本との戦争をまずは正面から引き受けて、2,3年間、負け続けることだ>

このアメリカを巻き込むという戦略は、いま、ウクライナ大統領のゼレンスキーがやっていることである。

第4章は日中戦争と導く根本原因の1931年の満州事変である。ここで、満州事変を起こした張本人の石原莞爾の1928年の軍部内の報告が引用される。

<日米が両横綱となり、末輩までこれに従い、航空機をもって勝敗を一挙に決するときが世界最後の戦争。……対露作戦のためには数師団にて十分なり。全支那を根拠として遺憾なくこれを利用せば、20年でも30年でも〔アメリカとの〕戦争を継続することを得。>

私には、この石原が何を言っているのか理解しがたい。加藤は彼の評価を「毀誉褒貶愛半ば」すると言っているから、論理的に解せよと言っても無理だろう。第1の疑問は「全支那を根拠として利用せば」とは、実現性のあることと考えていたのか、である。「全支那」とは「全中国」のことであって、「満州」だけではない。石原はドイツに留学したというから、何か欧米に対する劣等感を引きずって、中国人も日本人と同じ黄色人種だから、日本に味方してくれるという妄想をもっていたのではないか、と気になる。暴力を振るう日本に中国人が好意を持つはずがない。

第2の疑問は、いつごろ、日本とアメリカとが戦争すると、石原は予測していたかである。

ここで第2章に戻ると、1941年の日米開戦に先立つ20年近く前、日本政府は国防方針で最大敵国をアメリカに変えたとある。政府は、戦争の起きうる理由を、東アジア(中国をさす)での日本とアメリカの経済的利害対立とした。それから、日本は20年に渡ってアメリカとの戦争の準備をしてきたと加藤はいう。

ロシア軍のウクライナ侵攻を考えるとき、本書は薄くて論旨がわかりやすく、おすすめの本である。


不可解なコロムニストの眼、ロシアとアメリカの戦争になる危険が増す

2022-05-26 21:20:03 | ロシアのウクライナ軍事侵攻

1週間前の5月20日に、朝日新聞の〈コラムニストの眼〉にトーマス・フリードマンの不可解な記事がのった。不可解というのは、何が言いたいのか私は最初わからなかったからである。

これはニューヨク・タイムズのOpinionの欄に5月6日にのった記事を日本語に妙訳したものである。「抄訳(しょうやく)」とは一部を省略したものである。

日本語訳のタイトルは『ロシアのウクライナ侵攻 米に迫る「巻き込まれリスク」』である。元のタイトルは “The War Is Getting More Dangerous for America, and Biden Knows It”である。「戦争がアメリカ人にとってだんだん危険なものになっていることをバイデンはわかっている」という意味であろう。

翻訳で省略されたのは、上院議員だったバイデンが2002年にアフガニスタンを視察したことと、今回、ロシアへの軍事支援をしないようにバイデン大統領が習近平に働きかけたことの3つのパラグラフである。

何度も何度も英文と日本文をよんで、私が理解したのは、ロシアもウクライナもアメリカを戦争に巻き込もうとしているが、ウクライナも汚職にまみれた国であり、アメリカはnational interest(国民の利益)を中心に考えて、距離感をもってゼレンスキーを支援し、ロシアとアメリカの直接の戦争にならないようにすべきで、バイデンはそれが分かっているとトーマス・フリードマンが言いたいのだ。

プーチンは地上戦でも出口戦略でも面目を失っているだけでなく、フィンランドとスウェーデンのNATO参加に動き、追い詰められたプーチンの行動予測がむずかしくなっている。不安定要素が増しているのに、アメリカがウクライナに情報を与えてロシア軍将校の殺害に手を貸したとか、黒海上のロシア軍の戦艦の位置をウクライナに教えてミサイル攻撃で沈没させたとか、ロシアを刺激するような自慢をアメリカ政府高官がするなということである。

アメリカにこのような慎重な意見があるとは気づいていなかった。私は、ロシアを挑発した責任をアメリカがとって直接参戦すべきであると思っていたが、考え直す必要があるかもしれない。

しかし、バイデンの発言は意図的なのか軽率なのかわからないことも多い。先月にはプーチンを政権の座から引きずり落とさないと戦争は終結しないと言ったり、2、3日前には中国が台湾に侵攻したら台湾を守るために参戦すると言ったりしている。