土日に猿田佐世の『自発的対米従属』(角川新書)を読む。松田武の『自発的隷従の日米関係史 日米安保と戦後』(岩波書店)は、「自発的対米隷属」を強いてきたアメリカ政府の狡猾さに焦点があたっているのに対し、猿田は「自発的対米従属」する日本政府の狡猾さを明るみにする。日本の支配層は、アメリカの外圧を演出して、自分たちの都合を日本の国民に押しつけている、と彼女は告発する。
猿田は本書を、ドナルド・トランプが2016年11月にアメリカ合衆国の大統領選に勝利した半年後に出版した。アメリカ・ファーストを主張するトランプが大統領になったことに慌てふためく日本の政界、メディアに対して、対米関係を見直す好機だと主張する。
これまでの対米関係は、日本の支配層とアメリカの少数の知日派によって作られてきた。猿田によると、「実際に影響力を有する知日派の数は、5~30人程度」という。
日本支配層は、日本国内に政府の方針を徹底させるに、アメリカの少数の知日派に働きかけ、発言させることで、「アメリカ」が支持しているかのように、見せてきたという。これを猿田は「ワシントン拡声器」と呼ぶ。
知日派とは日本通ということであって、別に親日派ではない。日本政府はこの少数の知日派に情報とお金を渡し、互いにウインウインの関係を築いてきた。
この知日派は、アメリカの保守派であり、ほとんどは共和党系である。トランプ出現の日本側のろうばいは、このウインウインの関係を飛び越えて、在日米軍の引き上げを言うなど、トランプの言動の予測不可能性にあるという。
猿田はアメリカの政界・経済界・メディアのほとんどが日本に関心をもっていないと言う。
私の狭い経験でも、日本のバブルが崩壊した1990年以降、アメリカ人は日本に関心をもたなくなった。アメリカはふたたび日本に勝ったからである。
アメリカの経済界の関心は、アジアでは中国になった。中国は10億人を超える人口をかかえており、その高い経済成長率とともに、アメリカの経済界は、未来の巨大消費市場に期待を膨らませていた。中国の敵視は、米中の経済摩擦が高まったこの10年である。特に、トランプ、バイデンが、根拠なく、中国への憎悪を駆り立てている。
猿田は、日米関係を、日本政府とアメリカの少数の知日派を通してでなく、幅広い多様な層からなる関係にもっていくべきだと言う。私もその通りだと思う。アメリカには多様な意見があるのに、保守派の知日派を相手にしていては、日本の選択肢が狭まる。
アメリカ人の多数は、共和党を含め、日本人のために血を流そうとは思わない。朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争と経験したアメリカ人が、戦争で自分や自分の子どもが死んだり 障害者になったり したいと思わない。これは、ロシアの侵攻でウクライナ人が苦しんでいるのに、アメリカが参戦しないことに通じる。アメリカにはウクラナイからの移民が多数いるのにウクライナ本国が見捨てられている。
このことから、アメリカ政府が中国を敵視しても、直接の戦争にならず、台湾、朝鮮半島、沖縄、日本本土の一部が戦場になるだけと想定される。日本が軍備を増強すればするほど、日本がアメリカのために最前線で戦うことをアメリカ政府は期待する。
冷静に考えれば、日本に米軍基地がある必要はない。特に、沖縄にアメリカの海兵隊が駐屯していることに何のメリットもない。日本が、社会福祉や教育の予算を削減してまて、軍事力を拡大する必要もない。それより、平和憲法のブランドで、中国とアメリカのあいだの戦いの機運を、未然に鎮める方向に走り回るべきである。アメリカだって、中国だって、軍備拡張競争の経済的負担に苦しみたくない。
ところが、岸田文雄は安倍晋三の敷いた路線をひたすら走っている。安倍は左翼憎しだけの男で、理想も哲学も展望も何もない。統一教会、日本会議を利用して、首相の座についただけである。
岸田政権の支持率が広島G7サミットで9%上がったという。
しかし、G7は、広島を舞台にした見世物であって、何かG7で世界が変わる方向性が打ち出されたわけではない。岸田を有頂天にした責任は日本のメディアにある。メディはG7、G7と持ち上げたが、その中身は初めからなにもなかった。
生成系AIに関しても、日本政府はそれによる経済効果を期待し、いっぽう、欧米の政府は、技術が悪用されないよう規制したいと考えていた。G7は、今後、また討議しましょうと、お茶を濁しただけである。イギリスのテレビ BBCは、広島G7のニュースを、ほとんど取り上げなかった。
外交を日本政府にまかしておけない。そのまえに、日本人は英語など外国語をせっかく習っているのだから、アメリカやヨーロッパで人びとは何を言っているのか、インタネットで知り、自分も意見を発信すべきではないか。