一昨日せきたてられるように、一日早く大学病院を退院した。
入院したのは、膀胱がんの診断確定と早期治療のための「経尿動的膀胱腫瘍切除術」のためである。何か難しい術名だが、要は、全身麻酔のもと、おちんちんの先から直径8ミリの内視鏡と電気メス挿入し、腫瘍の削除と生検を行うものである。
ただ、私が血糖値のコントロールができていず、術を行うには危ないということで、糖尿病内科の意見のもと、術の2週間前に入院して、インスリン投与の治療を受けた。
同室の患者の多くは、入院翌日に術を行い、術後の経過が格別の問題がなければ、2、3日で退院していく。ベッドは次々と新しい患者で埋まり、私だけが術を受けることもなく、のんびりとしているようで、入院を要する患者に申し訳ない気がした。
しかし、これまで服薬で糖尿病治療を行っていた私は、はじめてのインスリン治療で四苦八苦していたのである。どれだけのインスリンを投与すれば、普通の血糖値になるか、なかなかわからなかったのだ。
今回初めて知ったのだが、高血糖より低血糖のほうが危険なのだ。高血糖は持続することで体に害を与えるが、低血糖は即座に脳に機能障害を起こす。
人間の体は、もともと、血液中のブドウ糖が過剰になればインスリンを放出し、ブドウ糖が少なくなれば自動的にインスリンの働きを抑えるようにできている。この自動的メカニズムが壊れた状態が糖尿病なのである。困ったことに脳はつねにブトウ糖を必要としている。
低血糖を起こさない程度に、インスリンを外部から注入し、術に安全なレベルに血糖値をコントロールするのが、意外と難しい。私は、3食ごとに、直前に自分で血糖値を測定し、指定された量のインスリンを自分で腹に打つ。寝る前にも血糖値を測定する。77歳の私には、手順正しく、自分で血糖値を測定し、インスリンを自分で投与すること自体が、大変だった。
低血糖を起こさず、血糖値を200未満に抑えるのに、内科の予告通り、本当に2週間かかった。
話しは、それで終わりではなく、言われた通りにインスリンを投与したのだが、退院した当日の昼食前、血糖値が71、昼食後4時間後には血糖値が74になった。血糖値70以下が低血糖である。大学病院に電話を掛けたが糖尿病の主治医がつかまらず、ブトウ糖を飲めという受付事務員と押し問答になった。その翌日には、朝食前の血糖値が77で、昼食前の血糖値が58になった。完全な低血糖状態である。インスリンの投与量がオカシイのだ。
今度は幸運にも主治医と直接電話で話すことができ、今回の昼食前のインスリン投与は中止、今後のインスリン投与量は半分にすることに決まった。きょうは3日目だが、投与量を半分にした結果、低血糖を起こさずに順調に血糖値コントロールができている。
この大学病院の売りは「チームで治療」だが、実際には柔軟に状況判断できるリーダーが重要である。チームリーダーが人間でなくAIに代わってもうまくいくはずがない。AIは例外的状況に対応できない。AIは平均的な答えしか出せないのである。
なお、私の膀胱がん治療は今後続く長い道にはいった。同じ階の泌尿器科の患者と話しても、みんな時間をかけて悪くなっていくので、あきらめはついている。