猫じじいのブログ

子どもたちや若者や弱者のために役立てばと、人権、思想、宗教、政治、教育、科学、精神医学について、自分の考えを述べます。

ホッブズの『リヴァイアサン』、独裁政とアナーキー

2019-08-31 23:10:52 | 国家
 
17世紀のイギリスの法哲学者トマス・ホッブズの『リヴァイアサン』を、豊永郁子の新聞での評論に刺激されて、70歳を過ぎてから、読んだ。
 
原文は英語で、現在の英語と少し異なるが、インターネットで無料ダウンロードでき、日本語の翻訳があれば、中学終了レベルの英語力で読める。
 
ホッブズは、『リヴァイアサン(怪物)』で、人間の特性の考察から始め、国というものを論じている。言葉を1つ1つ定義してから議論を進めるから、政治哲学の予備知識は不要である。
 
ホッブズは国をCOMMON-WEALTHと呼び、ラテン語のCIVITASの訳としている。永井道雄らの訳では、これを「コモンウェルス」と音訳している。
 
ホッブズは、コモンウェルスを人間が集まって1つの意志をもつことと考え、これは不自然なことであるから、「人工の人間」(an Artificiall Man)と呼んでいる。
 
豊永が指摘するように、ホッブズは、人間は能力的に平等であると考えた。ホッブズはつぎのように書く。
 
「《自然》は人間を身心の諸能力において平等につくった。…。たとえば肉体的な強さについていえば、もっとも弱い者でもひそかに陰謀をたくらんだり、自分と同様の危険にさらされている者と共謀することによって、もっとも強いものをも倒すだけの強さを持っている。」
 
ホッブズは、このことから、人間は自然な状態では戦争がおきる。だから、安定した秩序を人々が求めるとき、コモンウェルスが生まれると考える。そして、コモンウェルスは「怪物」なのである。
 
ホッブズがコモンウェルス同士の戦争をどう考えていたか、想像するに、戦争を繰り返し、合併の規模が次第に大きくなり、対立するコモンウェルスの数が減ると単純に考えたのであろう。
 
ホッブズは、主権者はだれかによって、コモンウェルスにはつぎの3種類しかないとする。
 
「代表者がひとりのとき、そのコモンウェルスは《君主政》(a MONARCHY)、また集まる意思のあるすべての者の合議体の場合は《民主政》(a DEMOCRACY)あるいは人民の(Popular)コモンウェルス、そして一部の者の合議体のときは《貴族政》(an ARISTOCRACY)と呼ばれる。」
 
そして、つぎのように指摘する。
 
「《君主政》のもとにあってそれに不満なものは、これを「専制政治」(Tyranny)と呼び、《貴族政》を嫌う人々は、これを「寡頭政治」(Oligarchy)と呼んだ。同様に、《民主政》のもとで苦しんでいる人々は、これを「無政府」(Anarchy)〔統治の欠如の意〕と呼ぶ。しかしこの統治の欠如を、何か新しい種類の政治形態と信ずるものはあるまい。」
 
日本では、monarchyを「君主政」と訳するが、語源のギリシア語にさかのぼれば、ただ一人(mono)が上に立つ(archy)という意味で、「独裁政」と訳すのが適切である。
 
日本の戦前の体制は、天皇の独裁政かそれとも貴族政か意見が分かれるところであろう。大日本帝国憲法では、陸軍・海軍が天皇に属するから、形式的には「独裁政」である。
 
ところが、実質的には天皇は操り人形とする人々がいる。安倍晋三もその一人である。すると、実権をにぎっている人が複数であれば、「貴族政」となる。明治維新をおこなった集団が実権を握って、日本の近代化を進めたのならば、実情に合わない憲法をもったことが、その後の国策の誤りを招く要因だろう。明文化された憲法が嘘となれば、だれも政治に責任をとらなくなる。
 
昭和天皇が敗戦の前の日本の状況を「下剋上」と捉えていたことは、昭和天皇は「独裁政」と大日本帝国憲法を理解していたことになる。そして、負けたことを死ぬまで悔しがっていたのだ。
 
ホッブズが「民主政」と「無政府」と区別していなかったことに私は賛成である。民主政とは、誰も上に立たない(an+archy)を言うのだ。だからこそ、私は民主政を支持する。政府が民衆を統治するのではなく、政府は民衆へのサービス機関であるべきである。
 
安倍晋三が「総理大臣だから偉い」と考える人は、「独裁政」支持者である。また、内閣が日本を統治していると考える人は、「貴族政」支持者である。
 
「自由」と「民主主義」をかかげることは、だれかがだれかを支配し、したいことを邪魔することではなく、すべての人が平等で、共存しようとすることである。
 
たくさんの人々が集まって1つの意志をもつ、ということは不自然で、その不自然さが、国と国の戦争を生む。国に多様な意見があるのが自然なのである。自民党の中に安倍晋三を批判する勢力がないということは、「自由民主党」の看板に偽りありで、怒るべきことなのだ。

国家間が合意すれば個人の苦痛や損害はどうでもいいのか

2019-08-30 23:52:29 | 日韓関係


今回の、日本による韓国叩きは、日本が安倍政権の下に安定しているがゆえに起きた、という説明をしている保守派のテレビ評論家がいた。彼によれば、「歴史問題」をぶり返す韓国に、日本はずっと我慢していたが、いまなら韓国に殴り返しても、日本の政局に混乱を引き起こさないから、韓国叩きの絶好のタイミングだと言っているのだ。

しかし、日本の韓国叩きは、日本が韓国に暴力をふるうことである。暴力をふるう理由は、韓国が日本の言うことを聞かないからである。言うことを聞かすために暴力をふるうことは、決して、正義だと言えない。当然、そんなことをしたら、だめだと言って止める人が出てきそうなところである。ところが、自民党も公明党も維新も止めない。共産党と山本太郎だけが、止めようとしているようだ。このことをもって、政局に混乱が生じないと言っているのだ。

ここで、日本とか韓国とか言っているものは、第一義的には日本政府であり、韓国政府である。そして、日本のメディアは韓国政府、ムン・ジェイン政権の悪口を言い、ムン・ジェィン政権が倒れれば良いとまで言ってしまう評論家もいる。

ここに「愛国者」のいい加減さがある。政府と政府との争いで被害を受けるのは国民の一人一人である。peopleである。men and womenである。

安倍晋三は1965年の日韓請求権協定で、歴史問題がすべて解決したという。しかし、協定は軍事政権の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領と 安倍晋三の大叔父 佐藤栄作首相との間の合意であって、しかも、協定によって、韓国人が、個人として、日本に併合されていた時に受けた不利益が実際に賠償されたわけではない。

日韓請求権協定は、日韓基本条約の付随協定である。極東の安定を図るアメリカが、日本と韓国との間に大急ぎで平和条約を結び、日本が韓国の経済復興を助けるよう、1960年代に圧力をかけた。日本が韓国の経済復興に協力するかわりに、そのとき、韓国が賠償請求権を放棄した、というのが、日本政府の解釈である。

しかし、韓国人が個人として何か賠償金を得たわけではないから、不満が絶えず吹き出て、慰安婦像を韓国内やアメリカに建てたり、元徴用工が日本企業を訴訟したりが起きる。韓国内で不満が吹き出るのはしかたがないことである。そもそもの問題が1965年の協定にあるのだから、風波がたたぬようしておくしかないのに、今回、日本政府は韓国政府に「反撃」してしまった。

「歴史問題をぶり返すな」というのは、安倍晋三は、韓国併合が合法的に行われたと主張し、1965年に日韓基本条約が結ばれたのだから、日本政府と韓国政府との韓国併合の事実認識の違いについて、韓国人は口にするな、ということである。韓国人に無理な要求をしているのだ。

安倍晋三は個人より国家を優先する右翼である。しかし、国家より個人を優先する自由主義者の日本人なら、メディアまで、韓国叩きをするのは、おかしいと思うはずである。日本のメディアは、いつから、右翼に転向したのか。

吉田松陰は、尊王攘夷しかない、過激青年だった。現在、吉田松陰を尊敬する安倍晋三は、攘夷の「夷」を韓国に絞っている。アメリカは「夷」ではなく、祖父の岸信介、大叔父の佐藤栄作と同じく、日本の「ご主人さま」になっている。その結果、トランプの顔を立てるために、日本人のひとりひとりに、個人としての負担を強要している。国家主義者は強きにへつらい、弱気をくじく、本当に人間のクズである。

心とは何か―『タコの心身問題』

2019-08-28 23:10:09 | 脳とニューロンとコンピュータ



ピーター・ゴドフリー=スミスの『タコの心身問題 頭足類から考える意識の起源』(みすず書房)は、気楽によめる娯楽作品である。

原題は“Other Minds”で、副題が“The Octopus, the Sea, and the Deep Origins of Consciousness”である。ダイビングとタコを愛する博識の科学哲学者が、タコと海と脳の活動についてエッセイを書いたものである。

知らなかったタコの生態を私も知ることができた。タコの神経細胞が約5億個もあり、犬の脳の神経細胞とほぼ同じ数とは知らなかった。また、タコの寿命が短くて約2年だとも知らなかった。

ただし、脳の機能については神経細胞の数だけから何も言えない。神経細胞から神経細胞に興奮を伝えるシナプス結合の数がもっと重要だ。神経細胞と神経細胞とのシナプス結合を変えることで動物は記憶するからだ。

人間の場合、1つの神経細胞が1000個から10000個のシナプス結合をもっているといわれる。タコのシナプス結合の数や脳の構造についての情報が本書にないので、神経細胞の数だけからは、タコが犬並みの知性をもっているとは言えない。

みすず編集部が目次の前につけた翻訳のことわり書きも、とても大事である。

《原文のmindに「心」、intelligenceに「知性」、consciousnessに「意識」という訳語を当てて訳し分けている。》

《英語のmindは、心の諸機能の中でも特に思考/記憶/認識といった、人間であれば主として“頭脳”に結び付けられるような精神活動をひとくくりに想起させる言葉である。》

日本語の「心」は、喜怒哀楽のような「情動」を思い起こさせるが、脳科学では、mindは情動を含めて脳の活動をひとくくりにして言う言葉である。日本精神神経医学会では、mindに「精神」という訳語を当てている。ところが、日本では、spiritを「精神」と訳すこともあり、編集部は「心」と仮に訳したのだと思う。

「知性」intelligenceは脳の活動から情動を除いた高次の機能をいう。

本書の第6章では、突然、タコの話からはずれ、言葉(speech)と心(mind)の話を始める。内なる声(inner speech)があるというのが、著者の主張である。言葉と心の関係は、難しい問題である。実は、脳の構造は哺乳類すべてに相似が成り立つ。そして、人間だけが言葉を話すが、心はすべての哺乳類にある。

聴力があり、発声能力があり、オウム返しができるが発語できない子どもを観察していると、確かに言葉にされるべき概念がない場合がある。言葉と心には関係がある。しかし、聴力がなくても、声帯機能に欠陥があっても、心があり、ボディーランゲージでコミュニケーションを取れる子どももいる。

言葉と心の相互作用による心の発達は確かにあるが、言葉によらない方法でも心の発達を促せるというのが、私の体験からくる信念である。

また、理系の人間の多くは、言葉を使わず、視覚に訴える手段を用いて考える。もっとも、バートランド・ラッセルは自分が言葉で考えると言っているが。

言葉と心の関係は、古くて面白い話題だが、教育や洗脳と関係するので、事例を集めての丁寧に議論すべきことだ、と私は思う。

なお、第6章の「意識」は言葉で説明できる自分の心の動きのことを言っているようで、興奮が脳全体に伝わり処理されることを指す脳科学での「意識」とは異なる。


記憶の連続性によって自己がある

2019-08-27 21:34:47 | 脳とニューロンとコンピュータ

今年の1月、突然、私の妻が記憶を失い、また、記憶ができなくなった。小説に出てくる記憶喪失と違い、古い記憶はあり、私や下の息子を認知できた。

しかし、自分が朝から何をやっていたかの記憶がない。そして、新しい記憶を作ることができない。妻は、「きょうは何曜日」を繰り返すのだ。「火曜日」と言っても、覚えることができず、同じ質問を繰り返すのである。

そして、記憶がないということが、本人にとって、とても不安なのである。だから、「何日」「朝から寝ているの」「朝は食べたの」「昼は食べたの」「わたしは何をしていたの」「父さん(私のこと)はどこにいたの」と繰り返し問うのである。

記憶の喪失は当日だけでなく、昨年の10月に上の息子に孫が生まれたこと、孫の名前も忘れているのである。妻のアイフォンに送られてきた赤ちゃんの写真を見ても、知らないと言うのである。いつもは、妻は私にその写真を見ろ、見ろと言っていたのに。

しかし、昔の記憶はある。私や下の息子を認識できる。救急隊員に自分の名前、生年月日、既往症を言える。「右の乳房がガンになった」「切除したのは乳房ではなく乳房の一部」と言えと、私の応答をも訂正する。救急車で行った脳外科病院でも私にあれこれ指示するのである。

当日はNPOの研修が朝にあったので、私は出かけていた。そして、引きこもっている下の息子が朝から妻を責めていた。下の息子にすれば、自分のトラウマ、高校で暴力を受けていたことを信じてもらおうと話していただけなのだが。

お昼過ぎに妻は突然奇声を発し、「何曜日」「何日」などしか言わなくなった。他人と話すことが怖い下の息子は、勇気をふるって、妻のために救急車を呼んだのである。私は、救急車の着く直前に自宅に戻った。

MRI検査、CTスキャンでは異常が見出されなかったので、妻を連れて自宅に戻った。その日は、ずっと「何曜日」「何日」「朝から寝ているの」「父さんはどこにいたの」「わたしはどこにいったの」を繰りかえしていた。

幸いに、翌日から記憶がじょじょに戻った。新しいことが記憶できるようにもなった。しかし、前日に起きたことは全く思い出せない。救急車に乗ったこと、脳外科病院に行ったこと、私に指示していたことなど、まったく覚えていない。

人間は、記憶し、記憶を再生することで、「自己」がある。「自己」をうしなうことは、人間にとって、とても居心地の悪いこと、空中にバランスを失って浮いているようなことなのだ。

まともな日本人なら急激な日韓関係悪化を憂えて言え

2019-08-26 23:38:56 | 日韓関係


今年の7月から急激に日韓関係が悪化した。

安倍晋三は、6月28日29日のG20サミットで、来日したムン・ジェイン大統領と首脳会談をもたなかった。理由は、元徴用工問題の具体的解決策を韓国政府が用意しなかったからとしている。

そのすぐあとの7月1日に、日本政府は韓国への半導体製造などに使われる化学製品3品目の輸出管理強化を発表した。8月1日には輸出許可手続きが免除される対象国(ホワイト国)からも韓国を外すと発表した。

この間、日本政府関係者は必死でこれが元徴用工問題への対抗措置ではないとしてきたが、ところが、安倍晋三は8月6日の広島市での会見で次のように言った。

「現在の日韓関係の最大の問題は、国家間の約束を守るのかどうか、という信頼の問題だ。日韓請求権協定に違反する行為を韓国が一方的に行い、国交正常化の基礎となった国際条約を破っている。」
「約束を守らない限り、ムン・ジェイン大統領と会談しない。」

7月以降の日本メディアは、日韓問題のこじれは、韓国のムン・ジェイン大統領が一方的に悪いという報道をしている。とくに、民放がひどい。NHKはまだ慎重な報道をしている。

私は、昭和のはじめのメディアの転向を思い浮かべる。満州事変あたりで新聞の論調が急激に変わった。軍部を礼賛し、戦争を煽るようになった。

いまこそ、まともな日本人は、ジャーナリストや野党は、この日韓関係のこじれを解きほぐさないといけない。共産党や山本太郎(れいわ新選組)はまともな対応をしているが、立憲民主党は対応を避けている。

「約束(=1965年の日韓請求権協定)を守らない限り、ムン・ジェイン大統領と会談しない」という態度を安倍晋三がつづけている限り、日韓関係は悪化しつづけてしまう。

なぜなら、問題は1965年の政府間の協定を守るか否かではなく、韓国の慰安婦支援グループが日本大使館前に設置した慰安婦像を韓国政府が力で撤去するか否か、韓国の最高裁が日本企業に元徴用工に賠償金の支払いを命令したことを韓国政府が超法規的に覆すことができるか否かである。

日本政府や日本の最高裁は、これまでアメリカ政府から何か言われると、超法規的措置をして、アメリカの言うことを聞いてきた。

安倍晋三は、これと同じ対応を韓国政府に求めている。

ムン・ジェイン政権はこれまで日本に好意的であったが、このような韓国を見くだしたゴリ押しは受け入れられない。

これまで、在日の韓国系コメンテーターは、日本の保守層に合わせて、日本政府の立場に立った意見を述べてきた。

しかし、今回は、あまりにも、日本メディアがひどいので、彼らは危機感をもって本当のことを言うようになっている。

例えば、テレビでの保守派の金慶珠(キム・キョンジュ)や辺真一(ピョン・ジンイル)がそうである。彼らは身の危険を冒して、日本人に警告しているのである。まともな日本人なら、彼らに耳を傾けるべきだろう。

キム・キョンジュは7月31日、8月23日、8月26日、TBSのゴゴスマに参加し、韓国の立場への理解を訴えているが、ところが、これに対するツイッターの反応がひどい。単なるヘイト発言である。たとえば、次である。

 《金慶珠「温かい #ゴゴスマ なんじゃないの?凄いアウェイ感なんだけど。」 増田「ここ、日本ですから」。 金慶珠、反日過ぎて何で日本に住んでるのかめっちゃ謎なんだけど。 嫌韓な日本を私が変える!!とでも思ってんの?? 帰化してないんだし 韓国帰れよ

 《スゲーな。 金慶珠が大声でヒステリックに韓国の主張をまくしたて、他のコメンテーターが冷静に正論を言う構図。 このオバサン、日本に住んで何やっているんだ?(笑)

 《金慶珠氏「報復の連鎖はどこかで止めなければならない」 #ゴゴスマ #TBS #CBC 殴りかかって大騒ぎして、追い詰められて問いつめられて、なにいってんだ。もう、許さないよ。》

 《日韓関係悪化について、まだ 「お互いに…」 いやいや 慰安婦問題はねつ造だし 徴用工問題は日韓請求権協定て決着済み ホワイト国は、韓国の不正輸出が原因。 そういえば、金慶珠さんに聞きたい。 「竹島は日本の領土ですか?」》

あなたは、ひどいと思わないのか。