ロシアが昨年の2月24日にウクライナへの軍事侵攻をはじめて1年半がたたんとしている。戦争を始めたロシア政府が悪いのだが、私には軍事侵攻を容認したアメリカ政府も悪いと思う。
その日、軍事侵攻でベラルーシからウクライナに入ったロシア軍の長い車列が、森と沼地のなかにつづく一本道を何の抵抗も受けずに淡々と進んだ。ロシア政府はアメリカ政府の黙認を受けていると信じていたからだろう。
当時、アメリカ政府は、ロシア政府がウクライナに軍事侵攻をすることを事前に知っていた。侵攻の1週間前にバイデン政権はそれを全世界に公表した。ロシアの軍事侵攻を止めるのでなく、ウクライナにいる全アメリカ人にウクライナから退避するよう、公に勧告した。ウクライナの大統領ゼレンスキー大統領にも亡命するよう勧めた。
大国間の戦争を避けるために、軍事侵攻を大国が黙認するというのは、第2次世界大戦前にドイツのヒトラー政権の軍事侵攻に たびたび見られたことである。
最初は、1936年にヒトラー政権がラインラントに軍事侵攻し、フランス政府は黙認した。第2次世界大戦後、フランス軍に尋問されたドイツ軍のハインツ・グデーリアン将軍は、「もし、1936年にフランス軍がラインラントに進軍すれば、我々は敗北し、ヒトラーは失脚していただろう。」と答えたという。
1938年にヒトラー政権がオーストリアに何の抵抗もなく軍事侵攻している。同じ年、軍事的脅しでヒトラー政権は、やはり帝国なくチェコスロバキアのズデーテン地方を占領している。翌年にチェコスロバキアからスロバキアを友好国として独立させ、次いで、ポーランドに軍事侵攻している。
ロシアのウクライナ軍事侵攻は突然始まったのではない。2004年にいわゆるオレンジ革命でウクライナの親ロシア政権が崩壊した後、ロシアのプーチン政権はウクライナの親ロシア派を軍事的に支援してきた。2014年に住民投票という大義名分を使って、プーチン政権はクリミアをロシアに併合し、黒海を支配する軍事拠点とした。
昨年からつづく戦争は、アメリカ政府が軍事侵攻を黙認したにもかかわらず、ウクライナのゼレンスキー政権がそれに従わずロシアの侵攻に立ち向かったからである。そして、アメリカ政府とヨーロッパの諸国の政府との危機感の違いが明らかになった。
ヨーロッパ諸国が、ロシアの公然とした軍事介入に強い危機感を覚え、ウクライナ軍を支援しているのに対し、アメリカ政府は、タテマエとしてウクライナの反攻を支持するが、ロシアとアメリカの戦争になることを避けるという奇妙な選択を行っている。
日本政府は、岸田文雄首相の地元の名産「必勝しゃもじ」をウクライナに送るという理解しがたい行動にでている。いっぽうで、岸田政権は、中国を仮想敵国として日本の軍備を増強を唱え、軍事予算を2倍にしている。バイデン政権との親密さを政権アピールに利用しようとしている。ロシアと戦わず、中国と戦う準備をしているとは、どういう考えなのか。
第2次世界大戦の教訓がいかされず、世界はいまトンデモナイ事態に進んでいる。