青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第61回)

2011-07-21 11:34:15 | 野生アジサイ

Dコアジサイ上群

コアジサイ群一群より成る。

DⅠコアジサイ群(=アジサイ属コアジサイ節コアジサイ亜節Sect.Petlanthe+ジョウザン属Dichroa)

園芸品種の“アジサイ”や、アジサイ愛好家に人気の高い多くの品種を持つヤマアジサイなどが含まれる。以下の各亜群の設置を行った。有装飾花種の、ガクアジサイ亜群(ガクアジサイ、エゾアジサイ、ヤマアジサイ、および中国産のヤナギバハナアジサイなど)、ガクウツギ亜群(コガクウツギ、ガクウツギ、ヤクシマコンテリギ、トカラアジサイ、ヤエヤマコンテリギ、および中国ほかに分布するカラコンテリギ、ユンナンアジサイなど)、無装飾花花序の、コアジサイ亜群(コアジサイ)、リュウキュウコンテリギ亜群(リュウキュウコンテリギ)。一般には独立属とされる、ジョウザン属(およびハワイアジサイ属)も、基本的形態は本群の特徴を示し、DNA分析結果からも同様の結果が示されていることから、本群の一亜群として扱う。中国大陸には、ジョウザン属の種以外にも、無装飾花花序を持つ複数の種が知られているが、それらについては充分な情報を得ることが出来ず、処遇を保留しておく(便宜上、「無装飾花亜群」として表示)。


正常花は開出、または反り返って下垂し、開花後も宿存する。子房は上位または半下位、花柱は基部から明瞭に2~数分岐し、左右に広がる。花序の内部(花序腋および小花序腋)には、苞葉や托葉を生じない。種子には顕著な翼や突起を生じない。



上図の文字変更:ヤマアジサイ群→コアジサイ群

すでに紹介した各群に対しては、以下に示す特徴のうち、それぞれ三つ以上の形質が相違する。
●正常花の花弁は開出、または反り返って下垂し、開花後も宿存する。●子房は半上位または半下位、柱頭は基部が接近し、明瞭に2~数分岐する。●花序の基部、またはその下方にある苞葉は、一般の葉と同形で、花期にも脱落しない。●花序の中には、葉や苞葉は生じない。●種子は、顕著な翼や突起をもたない。●雄蕊は10本。●葉は対生。●本木。



ここで、ガクアジサイ群の、各亜群の分布域を見渡しておこう。まず、これまでに述べてきた「ガクアジサイ亜群」に含まれる種は、ほぼ日本固有の広義のヤマアジサイ(ガクアジサイを含む)と、中国大陸南部産のH.kwangsiensis(ヤナギバハナアジサイ=ニセヤナギバアジサイから改称)、およびその東西に分布するとされる、実態が不確かな数種が、その全てである。日本列島では主役だが、中国大陸では、限られた地域にしか見られない、ごくマイナーな一群のように思える。台湾にも分布を欠く。

逆に、日本本土では、西半部のみに限られる(ガクウツギ・コガクウツギ)ガクウツギ亜群は、南西諸島で多様に分化(ヤクシマコンテリギ、トカラアジサイ、ヤエヤマコンテリギ)、台湾・ルソン・中国大陸に、カラコンテリギが、やや普遍的に分布する。台湾や中国では複数の種に(人によっては非常に多くの種に)分割されているが、著者は、西部のユンナンアジサイH.davidiiのみを独立種とし、ほかは全てカラコンテリギH.chinensisに含める処置を採った。以上が有装飾花種。

日本に自生しないため、マイナーなイメージがあるが、ガクアジサイ群中、分布域の広さも種類数の多さも群を抜いているのが、無装飾花のジョウザン亜群(=ジョウザン属Dichroa)である。中国の南半部と熱帯アジアに広く分布し、10種前後からなるとされている。

ジョウザン属以外の中国産無装飾花種が、カラコンテリギ分布域中に5種知られているが、著者はそれらについての知識を持ち合わせていない。その他の無装飾花種としては、沖縄本島に(後述する理由で、暫定的に独立の亜群を設置した)リュウキュウコンテリギ亜群(1種)、ハワイ諸島固有属とされるハワイアジサイ属(1または2種=本書ではジョウザン亜群に含めた)、そして日本の本州にコアジサイ亜群(1種)が分布する。

なお、中国では、ガクアジサイ群のみでなく、アジサイ属の全ての種が、ほぼ北緯35度以南の中~南部に分布が限られ、朝鮮半島本体ともども、日本の関東地方辺りから北に相当する地域には、一種も分布していない(新大陸においても同様)。その点日本に於いては、関東地方だけでも10(~12)種を数えるわけだから、アジサイの分布域としては、例外的に北方に偏っている、ということになる。

ガクアジサイ群の、日本に自生する4亜群に、ジョウザン属を加えた計5亜群の、形態の比較を行っておく。

まず、有装飾花の2亜群、日本での主役を成す、ガクアジサイ亜群とガクウツギ亜群については、葉、装飾花、花序、樹勢などの概形にも違いが見られる。しかし、いかにも分かり易く感じるそれらの差異は、おおむね個体変異に基づく差で、余り安定的なものではない。分類指標となりうる安定した構造差は、より基本的な形質に表現される。

それぞれの項目に示した亜群の特徴と重複するが、改めて整理しておくと、次のようになる。

①子房(果実)は、ヤマアジサイ亜群では背方の盛り上がりに欠け、ガクウツギ亜群では球状に丸く盛り上がる。
②正常花の花弁は、前者では基部の幅が広く屈曲して下垂、後者では基部が細い柄状となり平開。
③前者は原則として花序柄を有し、後者は常に花序柄を欠く(稀に例外的な個体あり)。





注:ヤマアジサイ亜群→ガクアジサイ亜群



ガクアジサイ亜群(写真左から2枚目はヤマアジサイ、他はヤナギバハナアジサイ)
正常花弁は基部が幅広く、子房を取り囲むため、活着時には子房本体が外部から見え難い(写真左)。子房は半下位で前後に長く、ガク筒部が大半を占め、花筒だけが明確に露出する(写真右3枚)。果実は朔果、熟すと丸味を帯び、花柱は活着したままの状態で花後も残る(写真右=若い果実)。


ジョウザン亜群(ジョウザン)
正常花弁は基部が幅広く、子房を取り囲むため、活着時には子房本体が外部から見え難く、細長い花柱が左右に開いて雄蕊の外側に露出する(写真左)。子房は大きく、半下位で球型、ガク筒部が大半を占める(写真右3枚)。果実は熟すと紫色の液果となり、花柱が脱落する(写真右)。


ガクウツギ亜群(写真左から、ユンナンアジサイ、カラコンテリギ、ヤクシマコンテリギ、ユンナンアジサイ)
正常花弁の基部は細く、子房から明確に離れ、活着時にも子房本体が外部からよく見える(写真左)。子房は上位で球型、本体が大きく盛り上がってガク筒部の縁から著しく露出する(写真右3枚)。果実は最終的には朔花となり、花柱は活着したままの状態で花後も残る(写真右)。


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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第59回)

2011-07-20 20:30:41 | 野生アジサイ



幻の“ヤナギバハナアジサイHydrangea kwangsiensis”探索記/広西壮族自治区融水苗族自治県九万大山③


2011.7.8
融水発、AM6:30。汪洞着AM10:00。バスの車窓から、目を皿のようにして、野生アジサイのチェックを続けていたのだけれど、目に入るのはアカネ科コンロンカ(近縁種)の白い花ばかり。いずれにしろ、目的のヤナギバハナアジサイは、昆明植物研究所所蔵でチェックした1958年の標本のデータにある最奥の集落“平時”の辺り、あるいはさらに隣町の河池側に越える峠の付近まで行かねば現れないことでしょう。

でも、ヤナギバハナアジサイはともかく、そろそろカラコンテリギが現れても良いと思うのですが、どこまで行ってもコンロンカばかりです。やや標高の低いところが主体ですが、(峠近くの高標高地まで)至る所に生えていて、ついついカラコンテリギと見間違えてしまいます。

バス終点の汪洞から平時の集落に向かい、徒歩で1時間ほど歩いたところで車に便乗、平時の集落を通り過ぎてAM11:50峠頂に到着。

峠のすぐ手前で、道脇の林内に咲くヤナギバハナアジサイを見つけました。おそらくカラコンテリギと左程変わらない外観をしているのでは?という予想に反して、鮮やかな青紫色(装飾花弁が淡く青味がかった白、装飾花の“目”の部分と正常花が濃青紫色)の、まるでガクアジサイそのもののような花序です。葉は、標本や「中国植物志」の図で見る通り、細長い革質、縁はほぼ全縁でほとんど鋸歯は生じません。“柳”と言うよりも“夾竹桃”のイメージです。

コアジサイ群のうち、ガクアジサイ亜群をガクウツギ亜群から分ける指標形質、花序柄がある、子房が半下位、正常花弁の基部が幅広い、といった特徴は、見事に合致します。加えて、濃い青紫色の正常花と薄っすら青味がかった装飾花。どこから見ても、間違いなく「ガクアジサイ亜群」の一員です。












(左写真の左はジョウザン)


ヤナギバハナアジサイの正常花(花弁、蕾、子房、雄蕊)。



写真左下に見えるのがヤナギバハナアジサイ


九万大山の峠を越えます。貴州省や湖南省との省境も目と鼻の先です。



ジョウザンの雌蕊花柱と柱頭は、一見雄蕊の花糸と葯に紛らわしい。


ジョウザン。左下写真の束になって上伸するのが雄蕊の花糸、その外側の左右に広がるのが雌蕊の花柱。花糸はすぐに脱落しますが、花柱はしばらくの間残ります。


ヤナギバハナアジサイ。ジョウザンの雄蕊の花糸に似ていますが、こちらは雌蕊の花柱です。花の終わった子房(果実)はガク筒部が球状味を帯び、全体の外観もジョウザンに似てきます。




左ジョウザン、右ヤナギバハナアジサイ。


左ジョウザン、右ヤナギバハナアジサイ。




左半分がヤナギバハナアジサイ、右半分がジョウザン。大きさが明らかに違います。


(左上の葉と蕾&子房のみジョウザン)

昨夜の豪雨は、今朝になって止んでいたのですが、再び雨が強くなってきました。この数日雨の気配は全く無かったものですから、雨具は用意してきていません。ずぶぬれになって撮影を行い、チェックしつつ歩いて山を下ることにしました(幸いしばらくして雨は止みました)。

九万大山一帯の最高峰は2000m前後(0000、0000)ですから、この辺りの稜線は、おそらく1500m前後ではないかと思われます。峠頂は1200mぐらいではないでしょうか? 最奥の集落で1958年の標本データにある「平時」までの、標高差500m程の下り道です。その間、林内の茂みに、ぽつぽつとヤナギバハナアジサイが姿を現します。標高にして700m~1200mくらいでしょうから、ちょうどカラコンテリギの主要生息域と一致します。

興味深いことに、山一つ隣りの、花坪・南山・芙蓉村・龍背にあれだけ多かった(ほぼ同一標高、花坪では1700m付近まで)カラコンテリギは、全く一株も見られません。カラコンテリギは、比較的低所では5月、標高1200m付近なら6月中旬が開花盛期でしょうから、この時期にはまだ咲き残っている株もあるはず、開花後も装飾花が目立ちますから、生えていれば間違いなく見付けることが出来るはずです。ということは、この一帯にカラコンテリギは分布していないと考えて良いでしょう。

逆に、カラコンテリギの産地には、ヤナギバハナアジサイは見つかりません。カラコンテリギの開花盛期の5月~6月はヤナギバハナアジサイの開花初期に当たるわけですから、生えていれば分からない筈はありません。ヤナギバハナアジサイは分布していないと考えるのが妥当なところでしょう。すなわち、融江(珠江上流)を挟み、一山を隔てて、カラコンテリギとヤナギバハナアジサイの分布が見事に入れ替っているのです。

異なる点は、カラコンテリギは生育地範囲内では非常に個体数多いのに対し、ヤナギバハナアジサイは生育地にも極めて疎らにしか出現しないこと。かなりの稀産種ということが出来ると思われます。

九万大山では、ジョウザンをヤナギバハナアジサイと同所的に(より普遍的で広範囲に)見ることが出来ます。ヤナギバハナアジサイより開花期はやや遅く初期~盛期です。峠頂から少し下った辺りから、ノリウツギも現れます。こちらは開花初期(ちなみに最普通種のアスペラは確認出来ませんでした)。以上の組み合わせは、花坪や龍背などのカラコンテリギ生育地とほぼ同じ(龍背ではアスペラも確認)です。

この一体の特徴は、アカネ科のコンロンカ(近縁種)が、著しく多いこと。やや標高の低いところが主体ですが、峠近くの高標高地まで至る所に生えていて、ついついカラコンテリギと見間違えてしまいます。

なお、カラコンテリギ生育地の山塊(花坪ほか)の、九万大山とは反対側に位置する猫児山にも、カラコンテリギが分布していない可能性があります。この、貴州省東南部や湖南省西南部に接する広西壮族自治区北縁一帯を、便宜上「広西南嶺」と呼ぶことにし、九万大山を「西部」、花坪ほかを「中部」、猫児山を「東部」としておきましょう(いずれも最高点は2000m前後、「南嶺」は、さらに東に広東省北縁山地に続きます)。

猫児山には4月下旬と9月下旬に訪れていますが、カラコンテリギを見た記憶は全く有りません。2005年の4月下旬(22日~25日)には山頂まで徒歩で足を運んでいて、開花最初期のカラコンテリギは、あれば当然チェックし得ているはずです。葉も充分展開しているはずですし、蕾も膨らんでいるでしょうから、見落とすはずはないと思う。この山には、カラコンテリギは生育していないか、ごく少ない(生育地が限られる)と考えて良いと思う。

ヤナギバハナアジサイも見ていないのですけれど、こちらは、前もって知識が無いと葉だけを見てアジサイの仲間と判断するのは困難でしょうし、この時期ぼつぼつ咲きはじめているカラコンテリギと違って、開花期にはまだかなり間があるため、もしあっても見落としている可能性があります。しかし、過去の記録や標本も未チェックのことですし、分布していない可能性も大いにあると思います。

地質が関係している可能性もあります。東部の猫児山周辺は石灰岩地帯、中部の花坪などは蛇紋岩を含む非石灰岩地帯、西部の九万大山は今手元に地質図が無いため未検証です。

「広西南嶺」のアジサイ属コアジサイ群(Series Petalanthaeに相当)の分布は、現時点では次のように想定することが出来ます。
東部:カラコンテリギ=(×)非分布可能性大/ヤナギバハナアジサイ=(?)不明/ジョウザン=(○)分布可能性大
中部:カラコンテリギ=◎豊産/ヤナギバハナアジサイ=×非分布/ジョウザン=○分布
西部:カラコンテリギ=×非分布/ヤナギバハナアジサイ=○稀産/ジョウザン=◎豊産

PM7:00汪洞帰着。町はずれのホテルに投宿。今日、開店したばかり(本来はたぶんまだ宿泊客は泊めない?)、最初の宿泊客で、しかも日本人と言うことで大歓迎を受けてしまいました。未使用のまっさらな部屋に泊まるのはなかなか気持ちが良いものです。お祝い用の食事を無料で御馳走になり、オーナーから、明日一緒に九万大山にハイキングに行こう、と強く誘われ、雨の中の中途半端な撮影のリベンジをしたい気持ちもあったのですが、人と一緒では自由な行動が難しくなってしまう(一か所で時間をかけて撮影が出来ない)し、本来なら宿泊せずに融水へ戻る予定だったこともあり、後ろ髪を引かれる思いで翌朝AM6:30のバスで融水に戻ることにしました。今になって考えれば、もう一日探索を行っておけばよかったと後悔しています。


ちょっと下った辺りではノリウツギがメインとなります。まだ開花初期です。


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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第58回)

2011-07-18 08:58:23 | 野生アジサイ



幻の“ヤナギバハナアジサイHydrangea kwangsiensis”探索記/広西壮族自治区融水苗族自治県九万大山②




朝の香港国際空港

2011.7.6
結局、Hさんに1万円を用立てて貰うことになりました。日本では出来なかったインターネットが、香港や中国では可能になります。このまま空港に滞在し、日本の各所とメール交渉を重ねて資金を得る予定だったのですが、すぐに交渉が成立する見通しは暗いと考えたほうが良さそうです。

目的の野生アジサイにしろヒグラシにしろ、6月後半、せいぜい7月前半が勝負、時間を浪費している余裕は一刻もありません。ということで、この1万円で、出来る限りのチャレンジをするべく、中国本土に向かうことにしました。とりあえず、最大の目標の「幻のヤナギバハナアジサイ」の探索に向かいましょう。

AM08:30香港空港からエアポートエクスプレスで九龍、無料シャトルバスに乗り継ぎ、東〇線ホンホン駅からシンセン羅湖にAM10:30着(計1400円)。イミグレーション通過後、食事をし(困ったことに、一度日本に帰国したためか、いつも出来ていた場所からインターネットが出来なくなったしまった、この後もそのことで悩まされます)、電話をかけ、地図を購入して、シンセン13:20発の動車(新幹線)で広州へ。車内でコンセントが使えるファーストクラス1350円(エコノミークラスは1200円)に乗ろうとしたところが、、、発車直前になって、食堂にバッテリーコードを忘れてきたことに気が付きました!慌てて走って取りに戻り、次の13:28発に振り替え乗車、しかし、広州行きではなく、一つ手前の広州東(なぜかこちらの便が大半)行きだったため、広州バスターミナルに向かうのに、バスや地鉄だと時間がかかるし、タクシーに乗ると料金がバカになりません。不便(便数が少ない)を承知で、近くの広州東バスターミナルへ。

案の定、広西方面に向かうバスは一つもありません。広州で停滞しても意味が無いし、少しでも先に進もうと、広州の衛星観光都市・筆慶へ。広州東15:20発、筆慶18:00着。そこから広西壮族自治区東南端の町・州へ向かおうと思ったのですけれど、やはり直通バスが無い!中国では隣り合った州や市を跨いで結ぶ(比較的近距離の)公共バスは著しく少ないのです(たぶん日本やアメリカでも同じ)。

切符売り場で頭を抱えていたら、窓口の女の子が、ブロークンな英語で、どこそこの町まで行け、と1枚の切符を発行してくれました。後でわかったのですが、州に隣接した、広東省側の小さな町です。そこで再び乗り換えれば州に行けると。
総じて、この筆慶のバスターミナルの人々は親切で、僕の中の中国人に対する認識が少しは変わってきたように思うのです(今回の地震以来、日本人に対する対応が微妙に変わってきた様な気がします、というよりも、もともと日本人に対して持っていたポジティブな心象が、微妙な形で良い方向に表れているのではないかと、そのことについては改めて)。

筆慶18:30発、開封(広東広西省境)21:30着、すぐに別のバスに乗り換えて、梧州22:00着。日本を出てから丸2日間寝ていないので、街中の大きなホテル(1500円)泊。



筆慶の町は、華東で言えば上海に対する杭州のような位置付けかも。町全体が、いわゆる“風光明媚”なイメージに包まれています。


(写真左)売店の女の子たちもなぜかとても親切、食べるものがほしいと言ったら、用意してくれたのがこれ。屋久島の餅菓子に似ているけれど、中に豚肉などが入っていてとても美味しい!
(写真右)バスの発車直前、切符売り場の女の子が、この先の行き方を記したメモを走って持って来てくれました。たどたどしい英語だけれど意味は充分に分かります。

2011.7.7
梧州08:30発、柳州15:30着(1800円)。柳州15:50発、融水18:30着(450円)。融水は、街全体が、林立する巨大な岩山の中にあり、一種異様な雰囲気を醸し出しています。バスターミナル近くの高級ホテルに投宿(1000円)。夜、雷を伴った豪雨。


梧州~柳州間は、このような風景がずっと続きます。




途中の町で昼食タイム。桂林米粉(50円)、瓜(30円)。






柳州~融水間は2時間半、しかしバスガイド?が添乗しています。自分用のクマさんの枕を出して、僕の前の座席で終点までずっと眠りこけていたけれど(笑)。


車内での晩飯(120円)。

 
融水のバスターミナル(右2枚)。広角のレンズが無いと、街全体を包み込む林立する岩山群が写せないのは残念です


町を鉄道が通っています。成都・重慶から、桂林や広州・シンセンへ2泊3日。町はずれの鉄道の駅に行ってみました。
輪車のオバちゃん「10元(135円)」。僕「3元じゃないと乗らない」。おばちゃん「じゃあ3元でいい」。往復で、かつ駅で20分ほど待たせたものだから、かなりの追加料金を要求されるかと戦々恐々、とりあえず10元を差しだしたら、(「これじゃ足りない」と言われるだろうという予想に反して)随分喜んでくれて、何度もお礼を言われたのでした。






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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第57回)

2011-07-18 08:56:46 | 野生アジサイ



幻の“ヤナギバハナアジサイ(新称)Hydrangea kwangsiensis”探索記/広西壮族自治区広西壮族自治区融水苗族自治県九万大山注洞郷①

2011.7.5
予定していたJRの成田空港行き特急が、“節電”のためとかで運休、京成のスカイライナーに振り替えて、成田空港PM5:58着。PM6:50発のDELTA便に危く乗り損ねるところだったのだけれど、滑り込みで間に会いました。カメラを質から出し、先月分の家賃を振り込んで、残り財産は8000円です。幾らなんでも、次の年金支給日の8月15日まで、事足りるわけがありません。でも1カ月有効の往復チケットの期限が今日までなので、ともかく中国に戻るチャンスは今日しかないのです。この8000円を使って香港空港で寝泊まりし(インターネットがスムーズに使えます)、日本のあちこちと交渉して、資金を調達するほかない。ところが何と!その虎の子の8000円を京成日暮里駅構内の公衆電話に置き忘れてしまった!1時間前には到着が難しい旨をDELTAのチェックインカウンターとやり取りするのに必死で、電車賃のお釣りで手に持ったままの8枚のお札を電話機の上に置いたままにしてしまったのです。

香港空港着PM10:00。むろん空港内で宿泊。でも日本のあちこちとメールでの交渉をしなくてはならないので、一睡も出来ない。出発前に、Aさん、Mさん、Kさんに幾許かの借金を申し入れ、それで質からカメラを出して(1万5000円)先月の家賃(3万5000円)を支払うことが出来たわけだけれど、あやこさんを含め、皆僕とは仕事上の繋がりは全く無い、いわば唯の知人に過ぎません。その(僕に対して何の義理もない)方たちが、僕の厚かましいお願いを聞きいれて下さり(金額の多少はともかく)助けてくれているのに、仕事関係の繋がりのある、要望に応じて写真や文章や情報を数多く提供している幾つかの企業やメディアや研究施設は、(未だ手にしていない)見返り報酬の打診をしてもウンともスンとも返事が無い。

なかには、こんな酷い例もあります。以前(その企業の一職員に対して)個人的に使用を許可してあった写真原版のうち、10数枚が営業用にネットで販売(顧客への贈呈?)されているのを見付けたので、いまさら使用料を請求するのもどうかと思い、(無断使用には目をつぶって)新たなルートが構築出来ればと、連絡を取って見ることにしました。一応大歓迎されたので、窮状を訴えるとともに、今後の写真提供に関わる交渉をメール送信したところ、次のような返事が。「大震災の被災者への援助金に回さねばならないので、資金的な余裕が無い」。それで「僕も被災者同様に日本の一市民です、かつ写真販売を生業としています、使用された写真の報酬を頂く当然の権利があると思っています、写真単価の金額には拘りませんのでそちらの判断で相当する使用料を納めて頂きたい」。と再メールを送ったところ、返事はなしのつぶて(苦笑)。

こんなことは、いつものことなのです。(それまで全く関わりのなかった)企業や大学などから、様々な情報や写真の提供を求められたり、講義講演のお願いをされたりするのですが、それに応じて相応の条件や報酬を要求すると、謝絶されてしまう。情報や写真はすでに提供しているわけですから、詐欺だとしか言いようがありません。

そしてしばしば(前にも一度記しましたが)こんなことを言われます。「もっとお金に恬淡としていると思った」「あなたが報酬を要求してはいけない」等々。どうしてこう甘く見られるのでしょうか? 出発前にジン君と食事をした際、彼に言われたのですが、今の日本では“所属”が明確でなければ、仕事としての交渉が成立しないのではないだろうか。言い換えれば、自分の“立場”を明確に相手に伝えること。僕の場合、正規の研究者でも無ければ、いわゆるマニア・愛好家でもない。
何らかの母体に所属しているわけでもない。今の日本の社会の中では甘く見られて当然なのかも知れません。ジン君が僕のことを友達に紹介するとき、「現代の南方熊楠です」と言ってくれるのは(身に余る光栄で)凄く嬉しいのです。でも実際問題、それに甘んじているわけには行きません。

そのうちに、大学とか、研究施設とかからの、理不尽な要求などを集めた、「コラム集」を披露しようかと思っています。





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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第56回)

2011-07-10 13:32:23 | 野生アジサイ


◆BⅠ③1 ホソバオオアジサイHydrangea aspera(狭義) 中国大陸中~南部

中国の各地(四川省を中心に、雲南省、広西壮族自治区、湖北省などで確認)で普遍的に見られる種。暫定的に狭義のH. asperaとしておく。



ほか、写真数頁


◆BⅠ③5 マルバオオアジサイHydrangea robusta 中国大陸中~南部・北部インドシナ半島、東部ヒマラヤ

四川省山岳地帯の、標高2000m以上に生育する大型種。暫定的にH. robustaを充てておく。



ほか、写真数頁



◆BⅠ③6 タイワンオオアジサイ(新称) Hydrangea kawakamii  台湾

台湾には、タマアジサイ亜群の「ナガバノタマアジサイ」と、オオアジサイ亜群の「タイワンオオアジサイ」が同じ山に見られ、開花期も同じだが、生育する標高が明らかに異なる(合歓山の中腹では、前者が標高800~1500m付近、後者が標高1700~2600m付近、ただし下に写真を紹介した南部山地では、標高1000m余の地点に後者が見られ、必ずしも標高が生育地を決定する要因とはなっていないようにも思われる)。



ほか、写真数頁
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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第55回)

2011-07-08 13:51:44 | 野生アジサイ


BⅠ③オオアジサイ亜群 (→アジサイ属アジサイ節タマアジサイ亜節Subsect.Asperaeの一部)

鮮やかな色彩といい、密に装飾花を纏った大きな花序といい、まさに中国の「ガクアジサイ」「ヤマアジサイ」を思わせるが、血縁的にはかなり遠縁の一群で、広義にはタマアジサイのグループに所属する。通常、種名から「アスぺラ」と呼び習わされていて、他に「ヒマラヤアマチャノキ」の名もある(筆者は「オオアジサイ」の名を提唱している)。

小花序の基部ごとに、先の尖った三角型の苞葉が多数取り巻く(●1/2)などの固有の特徴をもち、開花前の花序全体を大きな苞で丸ごと球状に包むタマアジサイとは明瞭に異なることから、別亜群として扱うことにした。子房は下位で上面がやや平坦な杯状、花柱は基部から大きく2(-3)分岐(●3)。花序基部には、通常葉柄を欠く(ごく短い)一対の葉を備える(苞葉の宿存?●4)。葉は表裏とも密に毛に覆われ、葉縁の細鋸歯は種によっては2重鋸歯となる(●5)。多数の種に細分されるが、1~数種に統合する見解もある。

中国大陸の東部から西南部~西北部にかけての広範囲に分布し、ヒマラヤ地方・インドシナ半島北部・台湾に至る。真のアジサイに近縁なガクウツギの一群(「カラコンテリギ」「ユンナンアジサイ」)が産しない長江の北側を含む地域にも分布、同じ地域でも標高や環境ごとに多くの種に分化しているようである。開花期は7~8月。







中国では最も普遍的な野生アジサイだが、なぜか日本には分布していない(四国や九州の山地に稀産するヤハズアジサイが、このグループの一員かも知れない)。開花盛期は、カラコンテリギやユンナンアジサイが、日本のガクウツギやトカラアジサイ同様、初夏(4月下旬から5月)なのに対し、夏のさ中から後半(7月下旬から8月)となる。その季節に咲く中国の野生アジサイ(ジョウザンの開花盛期はもう少し早い6~7月)の主役は、標高2500m付近を境に、それより上部ではノリウツギ群のミヤマアジサイH.heteromalla、下部ではオオアジサイ(アスぺラ)のグループと言うことになると思う。



中国の野生アジサイを代表する「アスぺラ」

◆BⅠ③ オオアジサイ(広義) Hydrangea aspera COMPLEX
中国大陸中~南部・台湾・北部インドシナ半島、東部ヒマラヤ
◆BⅠ③1 ホソバオオアジサイ(新称)Hydrangea aspera 中国大陸中~南部
◆BⅠ③2 Hydrangea coacta 中国大陸西北部(秦嶺:陝西)
◆BⅠ③3 Hydrangea strigosa 中国大陸中部(長江中流域:湖南、湖北、陝西、貴州、四川)
◆BⅠ③4 Hydrangea longipes(3変種) 中国大陸中~南部
◆BⅠ③5 マルバオオアジサイ(新称)Hydrangea robusta  中国大陸中~南部・北部インドシナ半島、東部ヒマラヤ
◆BⅠ③6 タイワンオオアジサイ(新称) Hydrangea kawakamii  台湾

アスペラの一群は、中国の多くの地域で、複数の種が標高や環境ごとに混在しているようである。著者は各種の区別点について正確な知識を持ち合わせていず、本書では、とりあえず全てを一括し、アスペラ(オオアジサイ)Hydrangea aspera COMPLEXとして扱い、その上で明らかに区別が可能な2つの集団「ホソバオオアジサイ」と「マルバオオアジサイ」を、暫定的にHydrangea aspera(狭義)とHydrangea robustaに振り分け、台湾産のHydrangea kawakamii(タイワンオオアジサイ)を加えた3種として記述して行く。

ホソバオオアジサイとマルバオオアジサイの差異は以下の通り(●ホソバオオアジサイ、○マルバオオアジサイ)。
【葉形】●小型で長楕円形。○大型で円形。【葉縁】●単鋸歯。○2重鋸歯。
【花序】●より小型。○より大型。【花色】●鮮明な紫。○白~淡い赤紫。
【生育標高】●500m~2300m。○2000m~2500m。【開花盛期(同一標高)】●7月上~中旬。○7月下旬~8月上旬。


左:マルバオオアジサイ、右:ホソバオオアジサイ (葉縁鋸歯)左:マルバオオアジサイ、右:ホソバオオアジサイ



開花盛期のホソバオオアジサイと開花末期のマルバオオアジサイ(右)
四川省西嶺雪山大巴原始森林 標高2100m地点 2009.8.5












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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第54回)

2011-07-07 08:50:27 | 野生アジサイ



花序の蕾全体が大きな球状の苞で覆われた薄紫色の美麗種
■BⅠ①1 タマアジサイ Hydrangea inbolucarta
●BⅠ①1aタマアジサイ(基変種)var.inbolucarta 本州中部
●BⅠ①1bラセイタタマアジサイvar.idzuensis 伊豆七島
●BⅠ①1cトカラタマアジサイvar.tokarensis トカラ火山列島(三島列島黒島・トカラ列島口之島・同諏訪瀬島)

首都圏近郊の丘陵や低山地で夏の終わりごろ最も普通に見ることができる野生アジサイのひとつ。装飾花や正常花が紫色を帯び、(関東地方などでは)白花の多いヤマアジサイより、むしろ栽培アジサイの野生種の様な趣を持つ。本州中部のほか、伊豆諸島とトカラ火山列島(三島列島・トカラ列島)に隔離分布する。同亜群のもうひとつの種、台湾産のナガバノタマアジサイを含めて考えると、変種トカラタマアジサイは、分布圏のちょうど中心に位置すると考えることも出来る。



群馬県榛名山85.7.24


山梨県甲武信岳山麓02.7.30




◆BⅠ①2 ナガバノタマアジサイ Hydrangea longifolia 台湾

合歓山東面の断崖絶壁とも言えそうな急斜面の山腹に、樹高5m以上ある大きな株が散在する。合歓山東面では“アスペラ”の仲間のタイワンオオアジサイH.kawakamiiと同時期に咲くが、生育地は明らかに異なり、本種は標高1000m前後、タイワンオオアジサイは標高2000m前後かそれ以上の地に見られる。著者の観察した限りでは、雄蕊花糸の数は、タマアジサイより明らかに多い15~20本。



合歓山東面中腹 2005.8.20



合歓山東面中腹 2002.9.6




合歓山東面中腹 2005.8.20  この集団に関しては、雄蕊数約20本。








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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第53回)

2011-07-06 13:04:15 | 野生アジサイ



BⅠ①タマアジサイ亜群(→アジサイ属アジサイ節タマアジサイ亜節Subsect.Asperaeの一部)

真のアジサイ類(コアジサイ群)と類縁的にごく遠い間柄にあることは、開花前の花序が大型の苞で球状にすっぽりと覆われてしまう(●1)ことからも、察しがつく。ヤハズアジサイやオオアジサイ(アスペラ)類と共にタマアジサイ節を形成。子房は下位、基半部は丸みを帯び、背縁はやや盛り上がる程度、花柱は基部から2分岐し(変種トカラタマアジサイは3~4分岐)、強く外側に湾曲、花柱の基部が膨張してその間に深い溝を生じ、子房本体が2分しているような印象をうける(●2)。蕾の花序を包み込んでいた基部の苞葉は開花後に脱落、花序柄(枝の最上部に相当?)は太く淡色で柔らか、花序の基部には葉を生じない(●3/4)。葉は極めて大型で、ざらざらとした質感を持ち、葉縁に細鋸歯が整然と並ぶ(●5)。

タマアジサイ、ナガバノタマアジサイとも開花盛期は8月中~下旬。






本州中部にタマアジサイ、伊豆七島にラセイタタマアジサイ、トカラ火山列島(三島列島黒島・トカラ列島口之島)にトカラタマアジサイ(後で述べる真のアジサイ類に近縁のトカラアジサイとは別種)の、3変種が隔離分布するほか、台湾の山地帯(合歓山東面では標高700~1200m付近で確認撮影)に、葉が細長くてより分厚いナガバノタマアジサイが分布する。中国大陸長江中流域(湖北省西部)産のH.sargentianaも同亜群に含められる可能性があるが、詳細は不明(後述)。






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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第52回)

2011-07-06 12:58:59 | 野生アジサイ


★『手違いついでに、どうせなら「コンパクト版」で続けていくことにしました』



Bタマアジサイ上群

種子の周囲や両端に翼がある(●1/2)。子房下位、花柱は基部から2分し外側へ強く湾曲する(●3)。タマアジサイ群・ツルアジサイ群・テリハタマアジサイ群・バイカアマチャ群の4群を「上群」に纏めた。この4グループの単系統性の証明については保留しておく。ノリウツギ上群~コアジサイ上群と対応するが、ノリウツギのグループをこの一群に含める見解もある。日本では少数派だが、熱帯アジアおよび新大陸産のアジサイ族の大多数の種は、この上群か次のノリウツギ上群に含まれる。





BⅠタマアジサイ群 (→アジサイ属アジサイ節タマアジサイ亜節Subsect.Asperae)
花序または小花序の基部に早落性の苞を持つ(●1/2)。子房は半下位~下位、雌蕊の柱頭は基部から明瞭に分離して左右に大きく開く(●3)。正常花の花弁は早落性(●4)、稀に先端が接着したまま帽子状に脱げ落ちることもある(●5)。種子は両端が翼状に広がり、本体との付け根が括れる(●6)。雄蕊は10~20本(●7)。装飾花や正常花が鮮かな色彩を持つ種が多い。







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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第51回)

2011-06-28 21:38:27 | 野生アジサイ


BⅠ③オオアジサイ亜群(→アジサイ属アジサイ節タマアジサイ亜節Subsect.Asperae)

中国の野生アジサイを代表する「アスぺラ」の仲間/オオアジサイ

中国の代表的な野生アジサイは、アスぺラ(通常、種名から「アスぺラ」と呼び習わされているが、筆者は「オオアジサイ」の名を提唱したいと考えている)。中国大陸の東部から西南部~西北部にかけての広範囲に分布し、ヒマラヤ地方・インドシナ半島北部・台湾に至る。真のアジサイに近縁なガクウツギの一群(「カラコンテリギ」「ユンナンアジサイ」)が産しない長江の北側を含む地域にも分布、同じ地域でも標高や環境ごとに多くの種に分化しているようである。

鮮やかな色彩といい、密に装飾花を纏った大きな花序といい、まさに中国の「ガクアジサイ」「ヤマアジサイ」を思わせるが、果実などの形状が大きく異なり、血縁的には、かなり遠縁の一群で、広義にはタマアジサイのグループに所属する。しかし、小花序の基部ごとに、先の尖った三角型の苞葉が多数取り巻くなどの固有の特徴をもち、開花前の花序全体を大きな苞で丸ごと球状に包むタマアジサイとは明瞭に異なることから、著者は別亜群として扱うことにした。子房は下位で上面が平坦な杯状。花柱は基部から大きく2(-3)分岐。種子は両端が括れ翼状に広がる。花弁は平開し早落(稀に帽子状に脱落)。花序基部には、しばしば葉柄を欠く一対の葉を備える(苞葉の宿存?)。葉は表裏とも密に毛に覆われ、葉縁の細鋸歯は2重鋸歯となることが多い。多数の種に細分されるが、1~数種に統合する見解もある。開花期は7~8月。台湾産のタイワンオオアジサイは同時期に咲くナガバノタマアジサイより高所(合歓山東面では標高1700~2600m付近)に見られる。





中国では最も普遍的な野生アジサイだが、なぜか日本には分布していない(四国や九州の山地に稀産するヤハズアジサイが、このグループの一員かも知れない)。台湾には、タマアジサイ亜群の「ナガバノタマアジサイ」と、オオアジサイ(アスペラ)亜群の「タイワンオオアジサイ」が同じ山に見られ、開花期も同じだが、生育する標高が明らかに異なる(合歓山の中腹では、前者が標高800~1500m付近、後者が標高1700~2600m付近、ただし下に写真を紹介した南部山地では、標高1000m余の地点に後者が見られ、必ずしも標高が生育地を決定する要因とはなっていないようにも思われる)。

開花盛期は、カラコンテリギやユンナンアジサイが、日本のガクウツギやヤクシマコンテリギやトカラアジサイ同様、初夏(4月下旬から5月にかけて)なのに対し、夏のさ中から後半(7月下旬から8月)となる。その季節に咲く中国の野生アジサイ(ジョウザンの開花盛期はもう少し早い6~7月)の主役は、標高2500m付近を境に、それより上部ではノリウツギ群のミヤマアジサイH.heteromalla、下部ではオオアジサイ(アスぺラ)のグループと言うことになると思う。




写真上:四川省西嶺雪山2009.8.6。左:四川省ミニャコンカ2009.7.4。右:四川省二朗山2009.7.27。いずれも標高1800m前後の地点。




アスペラ類の若い花序。小花序の蕾の回りを、先の尖った多数の苞葉が取り囲んでいる。苞葉は開花盛期には脱落する。
上:四川省宝興県(標高約1200m)2010.8.5、下左:四川省青城山(標高約900m)2003.8.1、下右:台湾合歓山(標高約2300m)2005.8.20。




子房は下位で、外面への顕著な盛り上がりは見られない。下列中左のタイワンオオアジサイ(台湾合歓山2005.8.5)において、その特徴がよく表れているが、上と下列中右のマルバオオアジサイ(四川省西嶺雪山2009.8.6)では、幾分タマアジサイのように子房本体の背縁が盛り上がり気味である。下列左はタイワンオオアジサイの正常花花弁(開きかけ)。下列右はホソバオオアジサイ(四川省西嶺雪山2009.8.6)の正常花と子房。

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アスペラの一群は、中国の多くの地域で、複数の種が標高や環境ごとに混在しているようである。著者は各種の区別点について正確な知識を持ち合わせていず、本書では全てを一括し、アスペラ(オオアジサイ)Hydrangea aspera COMPLEXとして扱っておく(特定できる場合に限り、ホソバオオアジサイ、マルバオオアジサイ、タイワンオオアジサイの名を記した)。さらに中国大陸の多くの地域では、垂直分布の上部付近(おおむね標高2500m以上)で、ノリウツギ群の白花種・ミヤマアジサイHydrangea heteromallaの一群に置き換わるが、花の構造などがアスペラに似ているため、意外に区別が難しい。
それらのことを踏まえ、四川省成都西方山地(西嶺雪山~二朗山、標高1200m~2900m付近)での状況を以下に紹介しておく。




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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第50回)

2011-06-27 14:36:13 | 野生アジサイ




Bタマアジサイ上群

タマアジサイ群・ツルアジサイ群・テリハタマアジサイ群・バイカアマチャ群の4群を「上群」に纏めた。この4グループの単系統性の証明については保留しておく。ノリウツギ上群~コアジサイ上群と対応するが、ノリウツギのグループをこの一群に含める見解もある。日本では少数派だが、熱帯アジアおよび新大陸産のアジサイ族の大多数の種は、この上群か次のノリウツギ上群に含まれる。

BⅠタマアジサイ群
花序または小花序の基部に、早落性の苞を持つ。子房は半下位~下位、雌蕊の柱頭は基部から明瞭に分離して左右に大きく開く。正常化の花弁は早落性。装飾花や正常花が鮮やかな色彩を持つ種が多い。

BⅠ①タマアジサイ亜群(→アジサイ属アジサイ節タマアジサイ亜節Subsect.Asperae)

花序の蕾全体が大きな球状の苞で覆われた鮮やかな花色/タマアジサイ

東京周辺の低地や山地ではヤマアジサイ以上に普通に見かけるのがタマアジサイ。おおむね白花のヤマアジサイと異なり、鮮やかな紫色を帯びているため、むしろこちらの方が、“アジサイ”的な印象を醸し出している。しかし類縁的に真のアジサイ類(コアジサイ群)とごく遠い間柄にあることは、開花前の花序が大型の苞で球状にすっぽりと覆われてしまうことからも、察しがつく。

ヤハズアジサイやオオアジサイ(アスペラ)類と共にタマアジサイ節を形成。子房は下位、基半部は丸みを帯び、背縁はやや盛り上がる程度。花柱は基部から2分岐し(変種トカラタマアジサイは3~4分岐)、強く外側に湾曲する。花柱の基部が膨張してその間に深い溝を生じ、子房本体が2分しているような印象をうける。雄蕊は通常10本。種子は両端が翼状に伸長。花弁は開花後早落、稀に先端が接着したまま帽子状に脱げ落ちることもある。花序の展開後、苞は脱落。花序軸は太く白く軟らか。花序の基部には葉を生じない。葉は極めて大型で、ざらざらとした質感を持ち、葉縁に細鋸歯が整然と並ぶ。




  タマアジサイ亜群の分布図                       ナガバノタマアジサイ 台湾合歓山

本州中部にタマアジサイ、伊豆七島にラセイタタマアジサイ、トカラ火山列島(三島列島黒島・トカラ列島口之島)にトカラタマアジサイ(後で述べる真のアジサイ類に近縁のトカラアジサイとは別種)の、3変種が隔離分布するほか、台湾の山地帯(合歓山東面では標高700~1200m付近で確認撮影)に、葉が細長くてより分厚いナガバノタマアジサイが分布する。中国大陸長江中流域(湖北省西部)産のH.sargentianaも近縁と考えられるが、詳細は不明。

タマアジサイ、ナガバノタマアジサイとも開花盛期は8月中~下旬。




ナガバノタマアジサイ。断崖絶壁とも言えそうな急斜面の山腹に、樹高5m以上ある大きな株が散在する。合歓山東面中腹。2005.8.20









合歓山東面では“アスペラ”の仲間のタイワンオオアジサイH.kawakamiiと同時期に咲くが、生育地は明らかに異なり、本種は標高1000m前後、タイワンオオアジサイは標高2000m前後かそれ以上の地に見られる。蕾の花序を包み込んでいた基部の苞葉は開花後に脱落、花序柄(正確には花序柄は存在せず、枝の最上部に相当?)は淡色で柔らかい。子房は花柱の基部が膨れて盛り上がり、左右に分離したような印象を受ける。2005.8.20(前頁上2枚のみ2002.9.6)



タマアジサイ。装飾花や正常花が紫色を帯び、(関東地方などでは)白花の多いヤマアジサイより、むしろ栽培アジサイの野生種の様な趣を持つ。しかし、血縁は大きく離れている。(左)山梨県甲武信岳山麓02.7.30。(左)群馬県榛名山85.7.14



BⅠ②ヤハズアジサイ亜群(→アジサイ属アジサイ節タマアジサイ亜節Subsect.Asperae)

特徴的な葉を持った、西日本の稀産種/ヤハズアジサイ

(略)

■BⅠ②1ヤハズアジサイH.sikokiana
本州(東海地方・紀伊半島)、四国、九州





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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第49回)

2011-06-26 15:33:23 | 野生アジサイ



なっちゃん個人講義&リアルタイム報告用に作った「野生アジサイ探索紀行」の紹介は昨日で終わりました。ちょうどこの連載の間、来年度に単行本として出版するべく、「日本および近隣地域(中国大陸・台湾)の野生アジサイ」の原稿を書き進めていて、たった今、それを書き終えたところなのです。全4章仕立てで、書き終えたのはそのうちの2~4章204頁分、第一章を併せれば計250頁程になると思います。第一章の「アジサイとは何か?」については、今回の「野生アジサイ探索紀行」をはじめ、以前「ネイチャークラブ」や「あやこ版」に連載した「日本および近隣地域(中国大陸・台湾)の野生アジサイ」の、それぞれ主に前半部分を、そのまま転用することになると思います。もちろん、2~4章の“本体”に当たる部分も、以前に発表した草稿を下敷きにしているのですが、新たな写真を加えたりして、大幅に加筆してあります。「野生アジサイ探索紀行」の連載終了というちょうど良いタイミングですから、この機会に、そのうちの一部(途中で差しこんだ「中国大陸のカラコンテリギ」もそれに相当します)を、紹介しておきたいと思います。再度取り上げるのは、タマアジサイ群(主にオオアジサイ=アスペラ亜群)、ノリウツギ群(主にミヤマアジサイ=ヘテロマッラ亜群)、およびコアジサイ群のジョウザン亜群とガクウツギ亜群(のうちのユンナンアジサイ)を予定しています。「野生アジサイ探索紀行」ほかですでに紹介済みの内容(写真・文章)と重複すること、文体が「だ・である」体のままな事を、ご了承ください。

まずは、目次から。第一章は飛ばして、第2~4章のみとしますが、その前に「はじめに」を記しておきます。以前、「あやこ版」(または「ネイチャークラブ」)で紹介したのと同じ内容です。


日本および近隣地域(中国大陸・台湾)の野生アジサイ」

(はじめに)

日本とその近隣地域に見られる、「野生」の「アジサイ」の、「種」と「分類」について、考察していきます。しかし、これまでに出版されている、アジサイについて述べられた各書物とは、「野生」「アジサイ」「種」「分類」それぞれの言葉の持つ意味が、全くといってよいほど異なることに、戸惑う方も多いのではないか、と思われます。

一言でいえば、アジサイ愛好家すなわちアジサイを愛でる人間の立場から見た、「野生」「アジサイ」「種」「分類」と、生物学的な立場、言わばアジサイたち自身の側から見た、「野生」「アジサイ」「種」「分類」の根本的な意味の違い。

他のアジサイ解説本は、アジサイを愛でる人々の為の手引き書なのに対し、本書での解説は、愛好家の立場や、情緒的な評価は全く無視して、ただただ事実のみを追求したものと考えていただいてよいでしょう。
アジサイの世界から、情緒的な興味を省いてしまえば、なにも残らないではないか、と言われそうですが、より深く情緒を楽しむためにも、基本的な事実を知っておくことは、決して損なことではないと思います。

というわけで、以下は、アジサイ愛好家の要求とは、いくぶん性格の異なると思われる、生物学的分類による「野生アジサイ」の紹介。

私は研究者ではないので、限られた知識しか持ち合わせていません。自分の足で調査し、自分の目で確かめた、断片的な資料を基にしていますが、これまでに生物学的な立場から成されたアジサイ解説本もない現在、将来に向けての“たたき台”として、それなりの意味を持つのでは、と考えています。

我慢して付き合って読んでいただけたならば、何らかの得られるところはあるはずです。

(目次)

第二章 「野生アジサイの仲間・そのⅠ」

クサアジサイ群/タマアジサイ群/ツルアジサイ群/イワガラミ群/ノリウツギ群




第三章 「野生アジサイの仲間・そのⅡ」

コアジサイ群(ガクアジサイ亜群/ジョウザン亜群/コアジサイ亜群ほか)計45頁






第四章 「野生アジサイの仲間・そのⅢ」


コアジサイ群(ガクウツギ亜群)計87頁



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各地産ガクウツギ亜群の葉の比較



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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第48回)

2011-06-25 09:05:01 | 野生アジサイ


フランスのパリで開かれているユネスコの委員会で、小笠原諸島が世界自然遺産に登録されることが正式に決まりました。





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野生アジサイ探索記(下2f)3徳之島【トカラアジサイ】2011年5月10日










葉は薄く大きく、屋久島産(ヤクシマコンテリギ)に類似するように感じられます。






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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第47回)

2011-06-24 17:27:49 | 野生アジサイ



野生アジサイ探索記(下2f)2沖永良部島【トカラアジサイ】2011年5月8日~5月9日



チェック出来た生育地は、山頂の手前3か所のみ



葉は口之島産に似て、大きく幅広く、縁の鋸歯が細かいが、分厚くはならない。全体としては徳之島産に共通する。



アジサイというよりも、一見サクラの葉に似ています。







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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第46回)

2011-06-23 14:05:36 | 野生アジサイ



野生アジサイ探索記(下2f)1沖永良部島・徳之島【トカラアジサイ】2011年5月8日~5月10日

トカラアジサイおよびその近縁種は、屋久島、三島列島黒島、口永良部島、口之島以下トカラ列島各島に分布し、トカラ列島南部の宝島とは呼指の距離に位置する(面積からすれば100倍近くもある)奄美大島には、なぜか分布を欠きます。

奄美大島の事を書きだせば、何100ページあっても足りません。実は全く偶然なのだけれど、いまこの文章を、徳之島から乗船した沖縄~鹿児島航路の船中で、奄美大島名瀬港に寄港中(10日夜7時30分~8時)に書いています。ああ、そうだ、今、僕は名瀬にいるのだ、と思うと感慨無量。今回は、この島に降りることなく鹿児島に向かうのです。

奄美大島は、僕自身にとっても、特別な島なのです。僕の、(30年ほど前、友子さんと出会った前後に付き合っていた)最初の彼女が奄美大島名瀬の出身。出会ったのは東京ですが、何度も名瀬に通って、デートをしていたのです。別れてからも、奄美大島に行くたびに(その後に結婚して離婚したご主人との間に生まれた)3人の娘さんたちと共に、食事などをしていたのですが、今回はパス。前回会ってから、5年余が経ちます。元気で暮らしていてくれれば良いのだけれど、、、後ろ髪を引かれる思いです。

奄美大島の生物相の魅力は、世界一だと言っても過言ではないでしょう。先日、東京都の小笠原諸島が、世界自然遺産に登録される(6月23日に登録される見通し)という情報を知ったのですが、奄美大島も、しばしば“東洋のガラパゴス”の名で呼ばれます。本家ガラパゴスの生物相は、派手でいかにも分かりやすいのですが、見方によれば、比較的新しい時代に急速に特殊化した生物(主に爬虫類と鳥類)が主体を占め、それらは必ずしも、極めて古い時代から遺存的に分布する生物であるということではありません。別の(根源的と言ってもよい)視点から見れば、奄美大島の生物相のほうが、遥かに古い時代から取り残された遺存性の上に成り立っていて、進化の基幹的な道筋を考えるに当たっては、より重要な意味を持っていると言えるのです。

遺存的・原始的ということは、他地域の集団から古い時代に切り離され没交渉のまま、狭い空間に命を繋げ、今に至っているということです。言い換えれば、それらの多くの種が、絶滅寸前の状態で現存しているということです。更に言い換えれば、現存する種はごく一部で、遺存的・原始的な種の大多数は、すでに絶滅してしまっている。

他の地域に見られない非常に特殊な種が残存する、ということは、他の地域には普遍的に存在している種が滅びてしまっている、ということと紙一重なわけです。

多様性に富んだ地形と植生環境を擁し、トータルに見れば九州~台湾間の南西諸島中最大の規模(面積は沖縄本島に次ぎ、標高は火山島を除けば屋久島に次ぐ)を持つ奄美大島なのに、なぜかこの島にだけ欠如する生物が少なからず存在する、という謎。上に記したように、本来なら存在してもいいはずの種が“存在しない”ということは、本来なら存在するはずのない種が“存在する”ということと、同等あるいはそれ以上に、大きな意味を持っているのです。

たとえば奄美大島における、クマゼミ(現在は、奄美大島にも人為的に移入帰化して一部定着)の欠如。以前は神奈川県南部付近が分布の北限だったのが、近年“北上”して東京都区内をはじめとする関東各地に定着しつつあることから、“地球温暖化”の象徴的な例として、しばしば取り上げられます。でも、それは思い込み。南から北へ分布を広げているのではなく、(おそらく庭木や都市樹の移動に伴って)周辺に広がっている、というのが実態ではないかと。

クマゼミは、単純な南方系の種ではありません。日本固有種。台湾や中国大陸には分布していません(近縁ではあっても全く別の種が分布)。関東地方などで分布を広げている集団は「日本本土タイプ」、もともとの分布域も、本州~九州、従って“北上”というニュアンスには相当しないと思われます。

以南の島々には、地域ごとに異なったタイプの集団が分布しています。沖縄本島産と八重山諸島(殊に与那国)産が対極的な特徴を示し、屋久島~トカラ列島(殊に屋久島)産は様々なタイプが出現します。変異の方向性は、空間的な順番と相同ではないのです。それぞれの地域に古い時代に隔離されたのち独自に進化したものと思われ、もし奄美大島に残っていたら、どの地域とも違った特異なクマゼミだったかも知れないのです。

これと似たパターンを示すのが野生アジサイ(トカラアジサイ)です。九州と台湾の間の島々には、小さなトカラ火山列島を含め、主な島嶼に分布しています。しかし、常識的に考えれば最も繁栄していても良いはずの奄美大島にのみ分布を欠くのです(*種子島と沖縄本島にも欠如しますが、近縁別群の種が分布、他にもスケール大きな島に何故か分布が欠如するという不思議な例は、屋久島のカラスアゲハ、西表島のナガサキアゲハなどをはじめ、少なからず知られています)。

トカラアジサイは、次ぎの徳之島、その次の沖永良部島に出現、沖縄本島で再び欠如し、隣接する小さな島の伊平屋島に生育しています。そんなわけで、トカラ列島産と伊平屋島産を橋渡しする位置付けにある、徳之島産と沖永良部島産は、是非ともチェックしておきたかったのです。



当初は、奄美群島の2か所のトカラアジサイ生育地のうち、沖永良部島はパスして徳之島に向かう予定でいたのですが、船の途中下船乗り継ぎが上手く行き、諦めていた沖永良部島の調査も追加することが出来ました。この島に上陸するのは初めて、今数えてみたら、40番目に上陸した(数え落としの可能性あり)日本の島ということになります。「40」という数が多いのかどうか、僕にはよく分りません。一般の人からすれば多いでしょうが、離島の生物を調べている人間としては、思ったより少ない気がします。別に、島に渡ることが目的なのではなく、調べたい対象がそこに生育しているので、仕方なしに訪れているわけです(船に弱い僕ですから、行かなくて済むなら行きたくない)。

今回訪れた6つの島もそうですが、島の最高峰には、大抵登っています。最高峰といっても、標高2000m近い屋久島や利尻島を別とすれば、大抵の島は500mそこいら。4000~8000m峰が大多数を占める「7大大陸最高峰」と比べると、ちゃちなことこの上も有りません。でも負け惜しみを言えば、亜熱帯ジャングルの悪路をハブやマムシにおびえつつ、何度も何度も滑って転倒しながら(今回は都合100回近く転倒している)、キイチゴやサルトリイバラの棘で体中傷だらけになって彷徨い歩くのも、それはそれでなかなかに大変なのです。

それに、目的は山登りではありません。調べたい昆虫や植物の探索のための山登りです。しかも大抵の場合、それらの昆虫や植物にどこで出会えるのかも分からない、場合によっては、その島や山に存在しているのかどうかも不確か、という状況下での登山です。楽しい山登り、というには程遠いのです。

もとより、僕は山の頂上に登るという趣味はありません。目的が果たせれば、山頂の一歩手前まで行っていても、そのまま引き返します。なかんずく、有名な山の場合は、意識的に山頂に立たないようにしている。富士山には一度も登ったことがないし、北アルプスの槍ヶ岳や奥穂高岳なども、山頂の手前でトラバースしたり引き返したりして、まだ一度も頂上に立ったことがありません。ときには、意地になって登山道の無い山腹を無理やりトラバースしたりするものですから、遭難しかかったりもします(笑)。でも、離島の最高峰は、その島の植生や生物相や生態系の全体像を把握するために、登らざるを得ない場合が多いのです。ということで、今回も、心ならずも、6つの島の最高峰(正確には西表島は第2峰)に登って来た、というわけです。

沖永良部島は、起伏の激しい山を擁する奄美大島や徳之島と異なり、単調な地形のなだらかな島ですが、一応標高250m程の最高点をもち、真っ平らな与論島などよりは、幾らか多様な自然環境に恵まれています。最高峰の大山の頂上は平坦な高原状で、航空自衛隊の基地があります。島の大多数は開墾され尽くしていますが、中腹より上部には鬱蒼とした森林も残されています。でも、トカラアジサイはなかなか見付けることが出来ません。やっと頂上の手前の林の中に発見、もう5時近くになっていたのですが、とりあえずこの株を集中撮影することにしました。

撮影終え、通りかかった車に現在地を訪ねてみました。助手席にダックスフォンドを乗せた若いおばさん(女性を安易に“おばさん”と呼んではいけないのだろうけれど、お嬢さんとか奥さんとか呼ぶのは何となく照れ臭いので、ついつい親しみを込めて“おばさん”と言ってしまう)です。撮影している花を見て、「アジサイの原種ですね」。一瞬、ギョ!としました。今回の撮影中、こんな反応は一度もなかったのです。こちらから「アジサイの原種を探しています」と言っても、
比較的自然に詳しそうな方を含め、そんなのがこの島にあるのですか?という反応がもっぱら。

“すぐ先のカーブのところにも咲いていますよ、島ではここでしか見られないので、貴重な植物では、と思っていつも通るたびに気にしているのです”、と。これは唯者ではない、相当に植物に詳しい方なのでは、、、。で、あなたは何ものですか?と訪ねたら、一介の主婦です、という答え。そういえば、ここに来るまで、車に乗せて頂いた年配の男の方(方向が分からなくなり、農作業をしていた方に道を訪ねた~案の定、逆の方向に向かってに歩いていた~ところ、暇だから送ってあげますと、林のある山の中腹まで連れて行ってくれたのです)も、趣味でカタツムリを調べている、この間新種を一つ見付けた、と。知る人ぞ知る有名研究者かもと思ったのですが、本人は“唯の元高校教師です”と言っていました。この島の人々は、気さくで、かつ謙虚な方が多いようです。

暗くなったので、明日もう一度来ることにして、とりあえず撮影を終えようとしたら、件の“一介の主婦氏(森オトノさん)”が戻って来ました。その間、通りかかった自衛隊の方にも声をかけられていて(普通このようなところで声をかけられる時は尋問に近い形となるのだけれど、この自衛隊員氏は単純に何かあったのかと心配してくれてのこと、町への戻り方などを丁寧に教えてくれました)、“野生アジサイの撮影です”と伝えたら、“この場所はもしかすると早晩造成されて無くなってしまうかも知れませんよ”と。

その話を森さんにしたところ、“どうすれば良いのでしょうね、場所を移せば厳密な意味での「野生」ではなくなってしまうのでしょう?”大抵の人は、このような場合、“ではどこかに植え変えて保護しなくてはならないですね”、というリアクションをするものです。善意の心持で言われているわけですから、(それは間違っていますと切り返すわけにいかず)返答に困ってしまいます。その点この方は、“一介の主婦”にしては本質が良く解っている、と関心したものです(ちなみに、僕と同じく、セミの鳴きはじめの日時を毎年チェックしている、と嬉しいことも)。

下の町まで車で便乗させて頂くことになったので、なっちゃん談義(攻略法の伝授、笑)をしていたら、港の町の宿舎まで連れて行って下さりました。


ノアサガオ。



リュウキュウイチゴの実。               シマアザミ。


モンシロチョウ、イシガケチョウ、ランタナとセイヨウミツバチ。

翌日、朝一番のバスで麓の町に。バスのある場所や時間帯には、なるたけヒッチをせずに公共バスを利用せねばなりません。あれあれ、7時46分発(始発)のバスが、7時40分に出発してしまったぞ! バスの運転手氏が、一人しかいない乗客の僕に気を利かせて早めに出発したのだけれど、良いのかしら?(親切にして貰っていて、それはダメです、とは言い難いです)

どこの離島でも似たり寄ったりですが、バスに乗ると乗客は僕一人ということがしばしば。利用者が少ない→本数が少なく運賃が高い、という構図になってしまいます。利用者がいないのは、皆が自家用車を持っているからです(観光地の場合ツアーバスが主体になることも一要因)。豊かになればなるほど、反比例するように地方の公共交通機関は廃れてしまう。こと公共交通機関に関しては、貧しい国ほど便利で、豊かな国ほど不便なわけです。いや、交通だけでなく、全ての事例についてもそのことは当て嵌まるでしょう。

豊かな国、というのは、結局のところ勝者が中心の世界なのです。勝者のための便利さ、取り残された人々は、必要以上の不便を強いられる構図になります。

極力自家用車の利用を無くし、より多くの人々が公共交通を利用するようになれば、長い目でトータルに見れば交通インフラの充実に繋がるはずです。

テレビも必要ない。冷暖房も要らない。最低限(T.V.ならニュースとか、冷暖房なら病院の病室とか)はあっても良いのでしょうが、今では無くては暮せないような世界になっているらしい。ファッションにしろ、グルメにしろ、日本人は、なんと贅沢なのかと、たまげてしまいます。そのような生活を続けている人達が、平等だとか、平和だとか、環境保全だとか、シンプルライフとか言っても、嘘っぱちにしか聞こえません。

慎太郎(東京知事)は嫌な奴ですが、物事の本質は分かっている。自動販売機規制は大賛成です。彼の言う、日本人は我慾の固まり、大震災は天罰、この機会に根本から思想や生活の仕組みを変えて行かねばなりません、と正しいことを言ってると思います。

さて、貸切状態のバスを終点で降りて、標高250mの最高点に登ります。登っている気配は自分ではほとんど感じないのだけれど、いつの間にか山頂に達していました。4000m峰が2つあるハワイ島では、ほとんど平坦に見える真っ直ぐな道を車で登っていたら、いつの間にか2000mほどの標高に達していたし、中国雲南省康定も、手前の濾定の町との標高差が1500m程あるのだけれど、車に乗っている限り“登っている”という感触は持ち得ないまま到着してしまいます。円錐状の大きな火山や、まっすぐに流れる川沿いの道は、気が付かぬうちに意外な標高を登っているのです。

昨日と同じ株を、たっぷり時間をかけて撮影。徳之島行き船便の時刻に併せて港に戻ったのですが、このあと、大変みっともない出来事を起こしてしまいました。カメラを撮影現場に置き忘れてしまって、親切な自衛隊の方が、わざわざ港まで届けに来てくれていたのです。面目ないことこの上も有りません(詳しい顛末はそのうちに紹介予定)。

午後2時30分沖永良部和泊出港、午後4時30分徳之島亀徳入港。港近くの素泊まり旅館に投宿。船内で見たT.V.で
台風1号の発生を知ります。12日には奄美地方に到達するとのことで、すでに風雨が強まっています。明日10日午後4時半発の鹿児島へのフェリーの出港も覚束来ません。よしんば、11日鹿児島に辿りつけたとしても、帰京便の12日夕刻は、ちょうど台風(もっとも勢力は衰えて熱帯低気圧になってはいるはずですが)が鹿児島に再接近している頃、なっちゃんへの電話連絡可能時間は、午後9時ジャストのみ、と本人から言い渡されています(笑)、船中から電話は出来ないでしょうから、今のうちに、変更の可能性を伝えておかねばなりません。公衆電話のあるコンビニ前まで行って、9時ジャストに電話、でも残念!繋がりませんでした(留守電に入れました)。まあ、電話が繋がらなかったからと言って度々落ち込んでいるわけには行きません。ついでにジン君に電話して、気を紛らわして(笑)、ここはグッと我慢の子です。

翌朝7時出発。林道をしばし歩き、徳之島最高峰・井之川岳(622m)に、トカラアジサイの最終探索行。暴風雨の中、道標も目印も何もない急斜面を、ハブを気にしつつ、ひたすら登ります。途中、トカラアジサイ群落出現。これで、フィリッピン・ルソン島を除く、この一群の主な生育地全てのチェックを終えたことになります。


山頂で昼食(宿のおばさんが無料で作ってくれたおにぎり)。右:山頂の手前にあった、大半が朽ち果てたプレート。



徳之島のカンアオイは興味深いテーマ満載。       冬にはこの植物(ヘツカリンドウ)の調査に再訪します。


あとは、12日になっちゃんに会うことだけ。何だか僕の人生全てが、“なっちゃんと会う一瞬”に集約されてしまっているようです。

なっちゃんの方は、忙しい最中に、さぞ気が重いことだろうけれど、それも一瞬の間だよね。僕と会ったあとは、彼氏とデートとかしてるんだろうなあー、いいなあー、、、、

その、僕にとっては一年に何回か(もしかしたら一生に一回きりとなってしまうかもしれない)の、“なっちゃんと一緒にコーヒーを飲む一瞬の間の幸せの時間”が、“毎日何時間も彼氏と過ごしている(のかも知れない、笑)なっちゃんの沢山沢山の幸せの時間”に挟まれた一瞬の間の“気の重い時間”と均等なのかぁ~。神様は不公平過ぎるよなあー。
【注:読者の皆様へ。“なっちゃん”がらみの話は、ほとんどジョークですから、真に受け止めなきよう、くれぐれもお願いします。】

限りなくヒガんでいる、今日この頃であります(いかんいかん!)



徳之島井之川岳山頂 2011.5.10




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