青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

中国の野生植物 Wild Plants of China リンドウ科Gentianoceae-10

2021-02-22 20:24:42 | 中国 花 リンドウ


 
 
Gentiana arethusae 輪葉竜胆 (地域集団:四川省雪宝頂)
 〔sect. Kudoa 多枝組〕





ナナツバリンドウ 輪葉竜胆 Gentiana arethusae。 四川省雪宝頂 標高4200m付近。 2005.9.25
 
一般論としてだが、日本でも中国でも、北半球中緯度の、いわゆる中間温帯地域(四季がはっきりし、日本大都市圏の多くが相当する)に於いては、植物でも昆虫でも、最も数多くのバラエティに富んだ種が現れるのが、6月の夏至の前後であり、梅雨の晴れ間でもある。 
 
南に向かうにつれ、その傾向は曖昧になる。逆に北方ではより明瞭になり、生物たちの出現は一時期に集中する。日本の高山地帯では、6月より一か月遅れの7月が中心。8月の後半以降は秋の様相を示し、9月には紅葉が始まる。
 
低地の多くの場所においても、8月は暑くて、野生生物の積極的な活動は行われていない(クーラーなどを頼りにして走り回っているのは人間ぐらいのものだ)。
 
野生生物の種類数が最も多いのは、6月から7月。
野生生物の個体数が最も多いのが、9月から10月。
(8月は“夏休み”)
前者には、古くから在来分布している(しばしばその地域に固有の)種が中心となり、後者には、比較的近年になった分布を広げてきたと思われる、他の地域にも広く普遍的に見られる種が多く含まれる。
 
リンドウ科の種の多くは、その流れに沿わない。ハルリンドウなどの春咲きの種を除く大半の種が、(その多くは固有種を含む古くから在来分布種であるにも関わらず)秋になって花の季節を迎える。
 
高山帯(や緯度が高い地域)では、8月の後半は既に秋、大半の種が咲き終えている。9月-10月は、各種リンドウ 類の独り舞台となる(他にはトリカブト類や秋咲きキク科の種)。僕が本来対象としている蝶においても、それは同様である。
 
ということで、通常、調査撮影に赴くのは、概ね7月いっぱいまでであることが多い。春咲きの小型リンドウ類はともかく、他の多くのリンドウ科の種に出会うチャンスは少ない。
 
ヤクシマリンドウの対応種とされる、中国西南部高地帯産の「輪葉竜胆」類も、開化期は9月~10月と(「中国植物志」などの文献に)記されている。どうにかして自分の目で確かめたい。
 
それで、他の多くの植物や昆虫は無視して(季節としてはシーズンオフだ)、「輪葉竜胆類」探索にピンポイントを絞って、秋に現地を訪れることを決意した。
 
2005年9月末。メインの目的地は雲南省の白馬雪山であったが、成都インの交通ルートを選んだので、スケジュールを数日だけずらして、四川省北部の雪宝頂(黄龍渓谷に向かう途中の標高4200mの峠)に、とんぼ返りで向かうことにした。
 
夏にはそれまでに(最初は1989年)何度もこの地域を訪れているが、花がまだ咲いていない時期なので、見つけることは出来なかった。通常はローカルバスを利用して、何度か乗り変えながら成都から黄龍に向かう。今回は、飛行機を利用してのピストン。「輪葉竜胆」との邂逅のため、2泊3日の突貫スケジュールである。
 
到着翌日は渓谷の上部を探索、見つけることは出来なかったので、最終日の帰路、路線バスを乗り捨てて、峠の周辺の探索に賭けることにした。あいにく吹雪のような最悪の天候である。ずぶぬれになって探したら、見つけた。傘をさして、雨と風が弱まるのを待ち、始めて出会った「ヤクシマリンドウ近縁種」の、唯一の写真を撮影することが出来た。
 
雪混じりの雨で花が閉じた状態(この天候では当分開かない)ゆえ十分とは言えないのだけれど、僕にとっては、この一枚が撮影できたことは、大きな成果だった。
 
夜、成都に戻り、夜行の列車で昆明に向かい、バスで香格里拉を経由して、目星をつけていたメインの探索地、白馬雪山に転進したのは、その3日後である。
 
雲南省最西北部の白馬雪山は、長江上流域とメコン川上流域を分ける分水嶺で、その峠は標高約4300m。ここで「輪葉竜胆類=ここでは“ナナツバリンドウ”と呼んでおく」の大群落に遭遇し、数多くの写真を撮影することが出来た。
 
次回(第12回)からは、雲南省に移って、白馬雪山の“ナナツバリンドウ”について紹介していく。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
「ヤクシマリンドウの中国大陸産対応種群」「ナナツバリンドウ」「輪葉竜胆 (中国文字では“轮叶龙胆”だがパソコンで示すのには手間がかかるので相当する日本漢字を使用した) 類」「ヤクシマリンドウ系(ヤクシマリンドウ組)」「Kudoa」「轮叶系(多枝組)」「七叶龙胆」「川东龙胆(ほかに「六叶龙胆」「六叶龙胆」etc.)」といった名称の使用についてのメモ。
 
このグループの紹介は、このあと7~8回に亘って続く予定なので、簡単に整理しておく。
 
上記の各名称は、「ほぼ同義語」と考えておいていただきたい。臨機応変に(あまり根拠なく)使い分けて置く。まあ、客観的に見れば、まるで無責任であるように思われるだろうけれど、(頭の悪い、笑)僕なりに熟考した結果である。
 
竜胆属Gentiana中の、「多枝組Kudoa」に含まれる「輪葉系」の種は、以下のような観点から、纏められている。
 
輪葉性、すなわち、茎の同じ位置から、3ないしそれ以上(3-8枚)の葉が派出していること。
 
茎頂に近い部分の葉の派生様式と、萼裂片の様式は、相関性があるように思われる。通常、萼裂片は、花をつける茎の最上部の葉と一応区別がつく(最上部の輪葉と萼裂片の間に間隔があく)場合が多いが、茎の輪葉の様式が
そのままの流れで、茎葉最上部の輪葉と全く同じ状態となって、萼裂片が構成されている例も少なくない。
 
ただし、萼裂片がほぼ常に概ね5~8片から成るのに対して、花茎最上部の輪葉の数は、それ(萼裂片)と同数のことも有れば、それより少ない(例えば3~4数)こともある。後に述べる(同組の別系に分類されている)フタツバリンドウ(すなわち対葉種)でも、萼裂片数が特に少なくなることはない。
 
ちなみに輪葉性の種の場合、同じ花茎に着く「輪葉」の数は、通常茎の位置(上下)によって異なる。
 
「中国植物志」そのほかでは、それら葉の状況(主に輪葉枚数)に基づいて、この系に所属する種(すなわち輪葉性のリンドウ)を8つの種/変種に分割しているようである。
 
「中国植物志」に掲載されている8種(1変種を含む)は、次のとおり。
*中国語版と英語版は微妙に内容が異なり、和名を含む細部は僕の判断で調節した。
 
Gentiana ecaudata  C. Marquand 1923
无尾尖龙胆 オナシリンドウ
西蔵東南部/雲南西北部 3000-4000m meadow slopes 生態写真:1枚、標本写真:4枚
 
Gentiana ternifolia  Franchet 1884
三叶龙胆 ミツバリンドウ
雲南北部3000m-4100m  wet meadow 生態写真:なし、標本写真:29枚
 
Gentiana yakushimensis  Makino 1909
台湾轮叶龙胆 ヤクシマリンドウ
台湾/日本 標高不明  grassland slopes(!←青山注) 生態写真:(別植物栽培3枚)、標本写真:1枚(詳細不明)
 
Gentiana viatrix  Harry Smith 1937
五叶龙胆 イツツバリンドウ
四川北~西部 3400-4800m alpine meadows, forest margins 生態写真:31枚(2個体)、標本写真:10枚
 
Gentiana tetraphylla  Maximowicz ex Kusnezow 1894
四叶龙胆 ヨツバリンドウ
四川北~西部 3300-4500m  grassland slopes 生態写真:なし、標本写真:8枚
 
Gentiana hexaphylla  Maximowicz ex Kusnezow 1894
六叶龙胆 ムツバリンドウ
四川北~西部/青海東南部/甘粛南部/陝西(太白山) 2400-4400 m  grassland and roadside slopes, alpine meadows, scrub 生態写真:約150枚、標本写真:約120枚
 
Gentiana arethusae var. arethusae  Burkill 1906
川东龙胆  カワヒガシリンドウ
四川東部 2000-3000 m grassland slopes 生態写真:なし、標本写真:なし
 
Gentiana arethusae var. delicatula  C. Marquand 1931
七叶龙胆 ナナツバリンドウ(*狭義)
西蔵東南部/雲南西北部 2700-4800 m grassland slopes, alpine meadows, scrub meadows, forest margins, roadsides 
生態写真:約250枚、標本写真:約130枚
 
それらの処遇の正否はひとまず置くとして(同じ個体の同じ花茎に関しても輪葉数は一定していない)、別の形質や傾向(花色、花冠の形、花筒の太さや長さ、個々の葉の形、種子を含むその他細部の形状等々)も複数に入り組んでいて、そのうちの幾つかは“種間”で連続しているように思える。
 
では、それら(多枝組輪葉系に含められる各種)を“同じ種”と見做して良いのか、というと、その両極の個体を見る限り、全く異なる。とても“同一種”とは言い難いのである。
 
では、やはり“複数の種”として捉えるべきなのか、と言えば、様々な形質が様々な組み合わせで、種ごとにクロス・オーバーしているようにも見える(具体的な説明は第16回に予定)ので、(どこで線引きしてよいか分からず)結局一つに纏めて置くほかなくなってしまう。
 
ここでは、(ヤクシマリンドウを除く輪葉系7種中6種を)強引に「輪葉竜胆*日本名と学名についてはこのあと考察」として(あくまで便宜上)一つに纏めておくが、そうなると今度は、同組別系(華麗系)種のフタツバリンドウ(第18回に紹介予定)との関りも、改めて考察する必要が起こってくる。
 
ということで、全く適当に“一種”として纏めておくのだが、となれば、「学名」「和(日本)名」はどのように表記すれば良いのだろうか?
 
「輪葉系」の各種の中で、最も早く記載が為されているのが「三葉竜胆Gentiana ternifolia」なので、“統合”(ただしヤクシマリンドウ以外)するとなればこれを使用することになるのだろうが、、、。生態写真は紹介されていないし、標本写真をチェックしても典型的な“輪葉竜胆”の特徴を示しているとは思えないので、使用を躊躇う。
 
といって、一般的には最も対外的に紹介されている「川東竜胆Gentiana arethusae var. arethusaeの変種Gentiana arethusae var. delicatula七葉竜胆」は、記載年がかなり後である。
 
さらに、原変種**(注:後述) 「川東竜胆」と、変種「七葉竜胆」の関係が、よく呑み込めない。「川東竜胆」は、この仲間としては例外的に低い標高に分布し(3000m以下、ヤクシマリンドウを除く7種変種の中で唯一標高4000m以上には分布しない)、分布域も他の種変種からかなり離れたところに位置している。この仲間としては、かなり特異な存在である。
 
なおかつ、その存在自体が、ほとんど知られていない(原記載の後どれほどチェックが為されているのだろうか?)。これを、この仲間の全体の代表とするのは、更なる躊躇を余儀なくされる。
 
ということで、ほぼ消去法で、全く暫定的便宜上処置として(こう表現すればともかく別の表現では“適当に”、笑)、全体に対する種名を、(狭義には“六葉竜胆”に相当する) Gentiana hexaphyllaとし、和(日本)名と中国名に、それぞれ「ナナツバリンドウ」と「輪葉竜胆」を当てて置く。
 
でも、正直のところを言えば、一つに纏めてしまうには、余りに無理があるようにも思う。なので(どうせ「適当に」処理するのならば)、両極の典型にそれぞれ「名」(一方は「ナナツバリンドウ」Gentiana hexaphylla、もう一方はこれから考える予定)を付けておく。
 
今、ちょっと迷っているところなのだけれど、、、「どうせ“適当”」なのだったら、やっぱり、インターネットでチェックする限りに於いて最も頻繁に出てくる(画像約250枚チェック)Gentiana aretusae var.delicatulaを「輪葉竜胆」全体の名に与えておいたほうが良いかも知れない(Gentiana hexaphyllaとされる画像は約150枚チェック)。変種名は、この際無視。
 
ということで、
一群(ヤクシマリンドウを除くヤクシマリンドウ系)に対しての名を、
日本語:ナナツバリンドウ
中国語:輪葉竜胆
学名:Gentiana arethusae
としたうえで、便宜上、各地域ごとに分けて紹介していく。
 
対応する種は、同じ「多枝組」でも(葉が輪生にならないことにより)別series「華麗系」に置かれるGentiana veitchiorumフタツバリンドウ(蓝玉簪龙胆)またはその近縁分類群。
 
ナナツバリンドウのうち、フタツバリンドウとの中間的な形質を示す個体を、Gentiana ternifoliaミツバリンドウ(三葉竜胆)あるいはGentiana hexphyllaムツバリンドウ(六葉竜胆)に暫定的に当て嵌めて置く(どちらを選ぶかこれから考える)。
 
冒頭に紹介した、四川省雪宝頂の一個体は、多くの個体(チェックした限り全ての個体)が典型Gentiana aretusae var.delicatulaであった雲南省白馬雪山産と、ほぼ変わらないように思われる(ただし「中国植物志」においてはGentiana arethusaeの分布域に四川省は含まれていない)。
 
**【原変種】という言葉について。
 
僕はこの日本語呼称があまり好きではない(しかし決められた用語なので使わざるを得ない)。
 
なぜ好ましくないと思うのかと言えば、多くの人たちに誤解を与えかねない言葉だからである。「原」というのは、たまたま人類(研究者)が最初にチェックした、ある特定の分類群(「種」と考えて貰っても良い)の中の、他と区別が可能な下位の分類単位、という“事務的手続き”を指す「原」なのであって、植物自体の在り方(いわゆる“母系集団”であるか否か)とは全く関係がない(原亜種の場合も同様)。
 
僕としては、「原名変種」「原名亜種」と呼びたいのだが、それは手続き上(慣例として?)許されないのだそうである。ちなみに、動物の分類の方では、「原亜種」ではなく「原名亜種」を使う。
 


雪宝頂5588m 1995.8.6
 


黄龍渓谷 1995.8.7
 


黄龍渓谷 2005.9.24





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中国の野生植物 Wild Plants of China リンドウ科Gentianoceae-8

2021-02-20 20:39:24 | 中国 花 リンドウ


★2月19日の記事にいいね!他ありがとうございました。

ヤクシマリンドウと“台湾輪葉竜胆”および中国西南部山岳地帯産ヤクシマリンドウ節の種について



ヤクシマリンドウGentiana yakushimensis。屋久島宮之浦岳山頂付近(1925m)。1995.8.31
(注:ポジ・フィルムは赤味が強く、この後に紹介するデジタル写真では青味が強く出るようです)



屋久島の自然の本質

屋久島は、東亜大陸棚の東南端にあり、海に隔てられ、高い山々が林立し(いわゆる山塊効果を齎す)、緯度的に温帯と亜熱帯の境目に位置し、黒潮の流れに洗われ、世界有数の豪雨に見舞われ、、、、それらの相乗効果によって、地球上に他に類を見ない多様な植生を有している(昔、前川文夫さんも、そのような要旨を書かれていた~書名は忘れたが、世界遺産登録以前に「屋久島の魅力」について極めて的確に言及した素晴らしい本)。

しかし、それらのことは、屋久島の多様性を作り出す上に於いて、「最も重要な要素」ではない。

それら平面的な要素よりも更に重要なのは、時間的要素が齎す「変遷」の積み重なりである。

屋久島を含む西南諸島の(それぞれの島の)アイデンティティーを探るためには、常に重層的な視点が必要である、と、民族学者の下野敏見氏も指摘していた。

人類の文化史と、僕が対象とする生物の種の出現の時間レベルは、全く次元が異なる。にも拘わらず、同じことがいえるのである(いつか“時間のフラクタル”について真剣に考えてみたいのだけれど、、、僕にはもう無理だろうから、誰か取り組んでくれないかな)。

何百万年もの間に、くっついたり離れたり、そのほか諸々の出来事があって、様々なパターンで、様々な場所に、様々な関係が、「今」という断面の中に示されている。

そのことを考えれば、自らのアイデンティティーの証は、むしろ周辺部よりも、遠く離れた地に見出されるのではないだろうか?

ヤクシマの名が冠せられた植物の多くは、この島に固有の分類群である。ただし「屋久島の固有植物」と一括りで言っても、分類単位の位置づけは様々だ。

その多くは、見かけの上で他の大多数の地域の集団に比べ、僅かな差異がある。しかし、屋久島のような特殊条件下に於いて生育する在来分布集団は、それぞれに程度の違いはあっても、見かけ上の変化は当たり前とも言える。

僅かな固有の変異でも、固有集団には違いないので、それらに「ヤクシマ」の名を冠して、マニアや一部の研究者や何も分からぬ大衆は、有難がるわけである。

屋久島を特徴付ける形質には、「矮小」「細葉」などがある。厳しい環境に耐えるため姿を小さくし、渓流の流れに適応して葉が細くなった(概ね固有の変種や品種とされ、和名に「ヤクシマ」が冠せられる)。

むろん、そのような例もあるかも知れないだろうけれど、それが全てだとは限らない。逆に、(もともと)小さな、あるいは細い葉の集団のみが、それぞれの生育条件に対応する特殊環境下で生き延びることが出来た、とは考えることも可能なのではないか?

前者が「新たに為された“この地に固有の現象表現”」なのに対し、後者は「どこか離れた地域に共通要素を持つ集団が残っているかも知れない“祖先的形質の発現”」と捉え得るわけである。

従って、本当に重要な、より興味深い屋久島産の種は、厳密な(と言うか分かり易い)意味での固有分類群には置かれず、(本州中部とか台湾とかから)隔離分布する姉妹集団の一方であったり、逆に近隣地域(屋久島の場合は種子島とか大隅半島とかトカラ列島とか)にのみ共通分布し、他の地域からは姉妹集団が全く知られていない、といったパターンを持つことが多い。

そして、そのような重要種には、和名に「ヤクシマ」の名を冠していないものが少なくない。思いつくまま挙げて置く。

シャクナンガンピ
カンツワブキ
ヒメキクタビラコ
ホソバハグマ
ヒメカカラ
、、、

*私見を一つ追記。例えば、「屋久島の大切な植物なのに、訳がよく分からない“シャクナンガンピ”などと名付けられているのは良くない、“ヤクシマガンピ”と改称すべき」と言ったような意見をしばしば聞く。(逆組み合わせだが)僕の調査対象である“ヤクシマコンテリギ”なども、近年は、「アジサイの一種なのだから“ヤクシマアジサイ”と呼ぼう」という方向性にある。僕は、そのような(なんでもかんでもの)統一傾向は、余り好きにはなれない。

上に挙げたような、重要固有(的)植物の中で、No.1に君臨するのが、ヤクシマリンドウだ。重要植物としては珍しく「ヤクシマ」の和名が冠せられているが、そんじょそこいらの「ヤクシマ」とは格が違う。

僕は、シャクナンガンピ(ジンチョウゲ科)が「屋久島固有植物の女王」で、ヤクシマリンドウが「王」であると、勝手に決めている。共に島で最も標高の高い地にのみに生育。シャクナンガンピが南の黒味岳に多いのに対し、ヤクシマリンドウは北の永田岳に多い(永田岳、黒味岳とも両者が見られる)。

他のどのリンドウとも異なる形質を持ち、かつてはこの一種で独立のヤクシマリンドウ属Kudoa(一属一種)として扱われたこともある。現在では(数十年前頃から)KudoaはGentianaのシノニムと見做され、Gentianaの中に本種を含む1セクション(4シリーズから成る)が設置されている(「多枝組」)。

その「多枝組」(日本語では「ヤクシマリンドウ節」と仮称しておく*)のラテン名には、 “Monopodiae”が当てられ、「中国植物志」でも永らくそれに準じてきたが、近年になって何故か“Kudoa”が復活採用されている。

*sectionは日本語で「節」中国語で「組」、seriesは日本語で「列」中国語で「系」、僕は別段どっちでもいいのだが、中国語の「組」「系」のほうが分かりやすいと思うので、そちらの方を使っていくことが多いと思う。

ずっと以前に、ヤクシマリンドウの近縁種について「中央アジアに分布する」と聞いた覚えがあるが、それは無いだろう。現在の知見での「ヤクシマリンドウ節(多枝組)」の分布域は、30数種が中国大陸の西南部山岳地帯、他に熱帯アジア(スマトラ、ボルネオ、セレベスなどの山岳地帯=僕はチェックしていない)に数種、および屋久島のヤクシマリンドウ、ということになる(台湾については後述)。

中国西南部産の「多枝組」に所属する多くの種(殊に「輪葉系series Verticillatae」の種)と、ヤクシマリンドウの類縁関係の妥当性については、否定はしないにしても、多くの疑問が残る。

ヤクシマリンドウの位置づけに於ける3つの問題点。
➀種ヤクシマリンドウは、台湾に分布するのか?
②種ヤクシマリンドウは、本当に「多枝組輪葉系」に入るのか?
③「多枝組」「輪葉系」の種構成は妥当なのか?

②③は次回以降に述べることにし、今回は➀について考えてみる。

台湾の“ヤクシマリンドウ”は幻なのか?

「中国植物志」には(それに基づく中国の諸文献でも)“台湾にヤクシマリンドウが分布する”と記されている。そのため、ヤクシマリンドウの中国名は「台湾輪葉竜胆」である。

記述は、長々と“形態”の細部について為されている。それを中国語文/英文で読み取る限り、確かにヤクシマリンドウそのものに当て嵌まる。

“出自”については、一切記されていない。(中国語文解説のほうに)『我们仅见到了一张产台湾的标本』と記されているだけである。

その「中国植物志」に、“ヤクシマリンドウ(台湾輪葉竜胆)Gentiana yakushimensis”として紹介されている標本写真を下に示す。



唯一の「台湾産」標本。存在する標本は、この一枚だけなのだそうである。採取地は「台湾」とあるだけで、地名や日付は附されていない。鑑定人の名前と鑑定した日付(1979年)が示されている。乾燥標本で見る限り、形態的には、屋久島産(ヤクシマリンドウ)と共通するとも、大陸産各種(輪葉竜胆/ナナツバリンドウ類)と共通するとも、どちらとも見做すことが可能と思われる。



「中国植物志」には、他に3張の「台湾輪葉竜胆」の標本写真が示され、いずれも屋久島産(1枚が花之江河~宮之浦岳、2枚は永田岳)で、詳細なデータが附されている。下写真はその一つ。

写真3

採取地点の1890mは、永田岳の以前の標高で、現在は1886mとされている。

台湾産の標本は、確かにヤクシマリンドウのそれに共通する。しかし乾燥標本では、細部のチェックは出来ない。


可能性は3つ。

case1:虚報(屋久島産の標本が紛れ込んだ)。

case2:この後(次回)に紹介する、中国大陸産ヤクシマリンドウ系の「輪葉竜胆類」の種が台湾のどこかに分布していて、(乾燥標本での区別は難しいため)それとの誤認、或いはそれらの一つの(大陸産の)標本が紛れ込んだ。

case3:実際に屋久島と同じヤクシマリンドウそのものが分布している。

第3のケースの可能性は、限りなく低い。







ヤクシマリンドウ。屋久島永田岳(標高1875m付近)。2006.8.15

例えば、下の写真を見て頂きたい。「中国植物志」(および「中国植物図像庫」)には、これまでヤクシマリンドウ(台湾輪葉竜胆)の生態写真は附されていなかった。それが2019年になって、ドイツのベルリンの植物園で撮影したとされる、Gentiana yakushimensisが、堂々と正式掲示された(百度百科にも「台湾轮叶龙胆」として、同じ写真が示されている)。写真を見て頂ければわかるように、ヤクシマリンドウ(上掲3枚)とは、縁もゆかりもない植物である。






台湾轮叶龙胆(拉丁学名:Gentiana yakushimensis Makino)为龙胆科龙胆属下的多年生草本植物。产于中国台湾、日本。目前尚未由人工引种栽培。


他に、やはり真のヤクシマリンドウとは全く異なる個体が、「植物百科」というコーナーに、「台湾轮叶龙胆Gentiana yakushimensis」として紹介されている(下写真)。



中国の図鑑などに「Gentiana yakushimensis台湾輪葉竜胆」として度々紹介されている写真。

そのような実態を併せ考えれば、台湾のヤクシマリンドウ(台湾輪葉竜胆)Gentiana yakushimensisは、何らかの誤解に基づいた虚報であると、ほぼ断言して良いものと思われる。

“ほぼ”と言ったのは、わけがある。

以前、たまたま琉球大学の研究室を訪れた時、そこで見せて頂いた台湾のカレンダーに、台湾最高峰の玉山の頂上巨岩に生えていたとされる「ヤクシマリンドウそのもの」(僕には全く「同じ」に見えた)が紹介されていたからである。

屋久島の山頂部と台湾の山々の山頂部(ことに巨岩)は、酷似している。引いた(背景に周囲が写った)写真でない限り、区別をつけ難い。

繰り返し言うと、「中国植物志」の記述は、標本(一張の「台湾産」だけでなく別の三張の屋久島産を含めてチェックした可能性もある)の詳細な特徴説明だけに終始していて、「台湾に本当に分布しているのか?」に関しての記述は一切ない。

「中国植物志」の英語版「Flora of China」でも同様に形態についてのみの記述に終始していて、末尾に生育地として“Grassland slopes”が付け加えられている。

「草原斜面」は、ヤクシマリンドウに関しては有り得ない(そのほかの同組種に関しては該当する)。カレンダーで見た「玉山山頂の写真」は、屋久島同様に岩壁の壁面である。もとより辻褄が合わない。

*僕がチェック(撮影)した屋久島に於ける生育地は、全て山頂付近の巨大岩塊の、垂直に切り立った壁面(一部その上端割れ目)。永田岳1886m(1875m~1885m付近)/宮之浦岳1935m(1930m付近)/翁岳1852m(1845m付近)/安房岳1841m(1840m付近)/投石岳1830m(1825m付近)/黒味岳1831m(1830m付近)。このうち、安房岳と永田岳(の一部)のみ岩の上面部(山頂岩平面状)の割れ目、宮之浦岳は余り大きくはない岩の外壁、他の4か所は巨大な山頂岩壁の垂直壁面。

屋久島のてっぺんの岩壁と、台湾のてっぺんの岩壁だけに、全く同じものが飛び離れて分布している(他に世界のどこにも姉妹種さえ見つかっていない)。

いかにも怪しい。

繰り返し言うが、おそらく「誤情報」だと思う。屋久島産と区別のつかない個体が写った台湾最高峰玉山頂上岩壁のカレンダー写真も、たぶん何かの手違いで(あるいは「同じ種なのだから屋久島産を使っちゃえ」という安易な見解でもって、、、よくあることだ)屋久島で撮影された写真を掲載してしまったのだろう。

念のため、インターネットで「台湾玉山」「台湾輪葉竜胆」「Gentiana yakushimensis」といった検索カテゴリーの許(もしや「カレンダー」のソースが示されてはいないかと)可能な限りチェックを行ってみた。

しかし、そこに出てくる(ヤクシマリンドウ/台湾輪葉竜胆/Gentiana yakushimensisに相当する)写真や情報は、上述した「ベルリンの植物園に植栽されている全く無関係の個体」「“植物百科”などで紹介されているこれも全く別の種」、および「ただ一張の“台湾産”の標本写真」の三つだけである。

それでも、100%「虚報」だとは言い切れない。なぜかといえば、「屋久島と台湾の共通固有種(上種)が少なからず存在する」、というのも事実だからである。 

例えばヒメキクタビラコ(近縁種群)の分布域は、屋久島、台湾、中国大陸西南部、熱帯アジア山岳地帯(台湾産は大量に撮影している)。「(台湾を含めた)多枝組Kudoa」の分布圏に、ぴったり重なる。

これが台湾でなければ、「フェイク」情報と断言しても良い。でも、屋久島と台湾の関係を鑑みれば、限りなくフェイクではあろうとも、全くあり得ないことではない。

僕は、1988年版の「中国植物志」を、刊行数年後に購入し、「ヤクシマリンドウ/台湾輪葉竜胆」の記述に、不審を懐いた。

しかし、屋久島はちょうどその頃「世界遺産」に登録され、そこに生育する固有生物たちについても、世間の注目を浴びることになった。屋久島を代表する固有種であるヤクシマリンドウの、リンドウ属の中での位置づけも、詳しく検討された、、、はずである。台湾における分布の真否の実態などは、さすがに新しい見解が齎されて、すぐに判明するものと思っていた。 

それが、全く前進していない。1909年の牧野富太郎の記載から現在に至るまで、100年余、ほったらかしのまま置かれている。中国の研究者たちに因る不確かな(かつ出鱈目な)情報発信を垂れ流している中国も中国だが、「屋久島の宝を絶滅から守ろう!」とか言って、やみくもに声を張り上げているばかりの日本の識者や大衆からなる日本も日本である。

(「屋久島の宝」の、そのアイデンティティの探求を)なぁ~んにもしていない。驚くべきことだと思う。

玉山なら、チェックは簡単なはずだ。なのに、余りに何もせず、公式には「台湾と屋久島に分布」とされた状態(日本側の公式見解はどうなのだろうか?)で、有耶無耶のまま据え置かれている。

玉山は、今は観光地だ。その気になれば、明日にでもとんぼ返りで確かめに行ってこれる(20年ほど前、僕は頂上手前まで行ったけれど、頂上には登っていない)。

ほったらかしにしてるのは、怠慢としか(というか不思議としか)思えない。

日本の研究者は、過信と自己顕示欲の塊で、やるべき基本的なことを何ひとつやっていない。
中国の研究者は、そのパワーは凄いが、いかんせん、どこか「抜けて」るところがある。
欧米の研究者は、(地球の生物相で東アジアが最重要なのを知ってはいても)敢えて無関心にスルーを決め込む。

注:↑といった思いは半分は本心なのだけれど、凄い知識や能力を持った人は、研究者にも、アマチュアにも、カメラマンにも、星の数ほどいる、ということも事実ですね。それを(両方を)思うと、、、ちょっと落ち込んでしまいます。

・・・・・・・・・・・・

次回は、中国大陸産のヤクシマリンドウ組「ナナツバリンドウ(輪葉竜胆)類」の“ロゼット・クラスター”を中心に述べていく予定です。



ナナツバリンドウ。雲南省白馬雪山。中央右にロゼット・クラスターが見える。赤はツツジ科のイワヒゲ属。2005.9.29



ヤクシマリンドウ組ナナツバリンドウ系の種の撮影地点(台湾は未詳)

⓵ 【青色】 雲南白馬雪山 標高3900~4100m付近 環境:高山礫地 分類群:AA
⓶ 【空色】 雲南四川省境 標高4300~4500m付近 環境:高山礫地 分類群:AA(稀にAB)
⓷ 【緑色】 四川四姑娘山 標高4500~4700m付近 環境:高山礫地 分類群:AA’-AB
⓸ 【緑色】 四川四姑娘山 標高3400~3600m付近 環境:渓谷草地 分類群:B
⓹ 【桃色】 四川雪宝頂 標高4200m付近 環境:高山礫地 分類群:AA
⓺ 【薄緑】 雲南香格里拉 標高3300m付近 環境:人里草地 分類群:AB
⓻ 【赤色】 屋久島 標高1800~1900m付近 環境:垂直岩面 分類群:AAA
⓼ 【赤色】 台湾玉山 標高3900m付近? 環境:垂直岩面 分類群:AAA?

大きな丸印はメイン撮影地。それぞれ数10個体(100枚以上の写真カット)を撮影している(⓷と⓸は同一地域、環境と標高が顕著に異なる)。小さな丸印は、一個体のみ撮影(⓼未撮影の台湾を参考として載せたが、分布の真偽は不明)。

AAA ヤクシマリンドウGentiana yakushmensis 
一応、ナナツバリンドウ系の一員とされているが、おそらく別系統に置かれるべきものと思う。「中国植物誌」には台湾での分布が記載(根拠なし)。

AA ナナツバリンドウ(Ser. Verticillatae-Gentiana arethusae またはGentiana hexaphylla)の典型個体
輪性葉。この系の個体は三葉から八葉まであり、概ねそれぞれに対応して独立種(7種)が設置されている。うち、花冠の筒状部が幅広く、花色が明空色で、輪性葉の葉数が多い(概ね6~7葉)個体をAAとした。花被裂片の先端から糸状の短突起が派出する。株の中央部に超小型のロゼットクラスターを備える(AA’を除く)。

AB 典型以外のナナツバリンドウ系の個体(Gentiana ternifoliaなどの各種に相当?)
葉は輪性だが概ね数が少なく、花色が比較的濃く、花筒部が細い。外観はフタバリンドウ系に似る。種としてはナナツバリンドウ以外の(複数)種に含まれるが、互いに形質は連続しているように見える。

B フタツバリンドウ系(Ser. Ornatae)の個体(Gentiana oreodoxaあるいはGentiana dolichocalyxに相当?)
対生葉。11種からなる。花色が濃く、花筒部が細く長い。輪葉性のナナツバリンドウ系の幾つかの集団に形質的な連続性があるように思われる。



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中国の野生植物 Wild Plants of China リンドウ科Gentianoceae-6

2021-02-19 14:08:13 | 中国 花 リンドウ


★2月17.18日の記事に、いいね!その他ありがとうございました。


Gentiana wasenensis瓦山竜胆 〔sect. Frigida高山竜胆組〕
写真27

四川省西嶺雪山の標高3200m付近。2010.8.6(以下同)

四川省西部には、同じFrigida-sectionのよく似たGentiana wasenensis瓦山竜胆なども分布していているが、「中国植物図像庫」によると西嶺雪山産はGentiana wasenensisとされている。萼裂片は短く、外側には屈曲しない。標高3200m前後の、冷温帯樹林上部と高山草原との境付近に、小型リンドウの一種や、シロウマリンドウ属、トリカブト属、シオガマギク属の種などと共に生えていた。花筒の長さは3~4㎝、花冠は緩く開くだけで、平開はしない。茎30㎝前後。

写真28


写真29


写真30


写真31

ピンクの花はシオガマギク属。

写真32


写真33



写真34


写真35


写真36


写真37


写真38


写真39

このリンドウの生える西嶺雪山の前山の稜線(標高約3400m)から、谷を挟んで西嶺雪山主峰5364mを望む。峰の向こう側に、巴朗山の峠を挟んで四姑娘山が位置している。(「陰陽界」と名付けられている)この辺りを境に、漢民族文化圏とチベット族文化圏が分かれる(生物相もそれに準じる)。

写真40

稜線の(西嶺雪山主峰の)反対側の谷は、「大邑原始森林」と呼ばれ、数多くの固有生物が生育している。
(ピンクはバラ科バラ属、青はキンポウゲ科トリカブト属)

Gentiana microdonta水晶竜胆 〔sect. Frigida高山竜胆組〕
写真41

四川省巴朗山(四姑娘山南方の峠)の標高4700 m付近。2010.7.31(以下同)。 

まるで水晶を思わせる、透き通るように美しい青い花が咲く大型種。本来ならばGentiana atuntsiensis に所属せしめるべきと思われるが、ここでは、極めて特徴的な花や葉のイメージ(ただし個体によってはそうとは限らない)から、暫定的にその近縁別種Gentiana microdonta中国名:小歯竜胆(Gentiana atuntsiensisのシノニムとする見解が主流)とし、(このタイプの個体を含む集団に対し)「水晶竜胆」と仮称しておく。

写真42


写真43

花冠の形だけで言えば、最もヤクシマリンドウに似ているように思える。

写真44

上の花はキンポウゲ科トリカブト連オオヒエンソウ属。

写真45

すぐ隣あって、Gentiana aatuntsiensisの典型に近い花冠を持つ個体も生えていた。

写真46


写真47


写真48

写真2枚の個体は、ほぼ隣り合って生えていた。下左は典型的Gentiana atutsiensisと大差なく、下右は極めて特異である。しかし、萼片や葉の形状は共通する。

写真49

黄色の花は、キク科のサワギク連の種(Cremanthodium reniforme)。

写真50


写真51

巴朗山峠の最高点(標高約4500m)から200mほど登った辺り。高等植物の生育限界近くと思われる。2010.8.1

写真52

四姑娘山6250mは世界最東端の6000m峰。大都市・成都から100㎞も離れていない(東京‐富士山よりも近い)。
2006.9.18

写真53

≪成都市~西嶺雪山(緑印)間の距離が約100㎞≫


蝦色:雲南省白馬雪山Gentiana atuntsiensis?
紫色:雲南省翁水Gentiana wilsonii?
青色:四川省雅江~新都橋Gentiana trichotoma?
緑色:四川省西嶺雪山Gentiana wasenensis?
黒色:四川省四姑娘山Gentiana atuntsiensis?(水晶竜胆)



Gentiana davidii 五嶺竜胆 〔sect. Kudoa 多枝組〕
写真54

台湾阿里山。標高2500m付近。2006.9.4


一見したところ、竜胆草組Pneumonantheのエゾリンドウや、前掲した高山竜胆組Frigida各種などに似ているが、「中国植物志」では、それとは別Sectionの、ヤクシマリンドウやリンヨウリンドウと同じ多枝組Kudoaに分類されている(ただし別Seriesの「頭花系Apteroideae」)。また、種名は、台湾の図鑑ではGentiana atokinsonii var. formosanaとなっているが、ここでは「中国植物志」に従って、Gentiana davidii var. formosanaとしておく






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中国の野生植物 Wild Plants of China リンドウ科Gentianoceae-4

2021-02-18 10:29:21 | 中国 花 リンドウ




Gentiana atuntsiensis 阿墩子竜胆 〔sect. Frigida高山竜胆組〕
写真1


雲南省白馬雪山の標高4000m付近。2008.7.29(以下同)

以下に紹介する、5地域集団は、いずれも高山竜胆群section Frigidaに所属する種と思われる。便宜上4つの種に振り分けておくが、種の特定に関しては定かではない。

白馬雪山の高山草原で撮影した写真の個体は、一応Gentiana atuntsiensis阿墩子竜胆と同定しておく。萼裂片は箆状で45度ぐらいに折れ曲がる。後で紹介する四川省四姑娘山(巴朗山)の集団(暫定的に別種「Gentiana microdonta水晶竜胆」とした)との関係については未詳。

「中国植物志」に於けるこの一群の分類は、かなり錯綜している。実質上一つの種に包括され得る何らかの異なる表現様式を持つ集団が広い範囲に重なりあって分布しているのか、実質的に多数の種が同じ地域集団の中に混在しているのか、今の僕の知識では判断が付かない。

写真2

(黄と紫の小さな花をつける)背の低いツツジの株の脇に、ぽつぽつと生えていた。

写真3


写真4


写真5

白馬雪山の峠は、標高4000m超を保ちながら、長江側の頂からメコン川側の頂まで、10㎞近く続く。初夏には黄と紫の小型ツツジ2種が、まるで手入れをされた庭園のように緩やかな斜面を覆う。何種類ものリンドウの仲間が咲き始めるのは、ツツジの花が終わってからである。2009.6.10


写真6

右が白馬雪山主峰(5640m)。2009.6.14

写真7

2010.9.13

Gentiana wilsonii 川西竜胆 〔sect. Frigida高山竜胆組〕
写真8

雲南省抽慶大雪山の標高4100m付近。2010.9.21

萼裂片は細長く、ほぼ直角に外側へ屈曲する。「中国植物志」では雲南省内からの本種の記録は無いが、萼裂片の特徴から、暫定的にこの種に同定した。後述するヤクシマリンドウ属の種の群落中に、この一株だけを見つけた。


写真9

上の写真の撮影地点付近。右奥は抽慶大雪山(標高5090m、5300mなど諸説あり)の主峰。


Gentiana trichotoma三岐竜胆 〔sect. Frigida高山竜胆組〕
写真10

四川省雅江~康定(臥龍峠)。標高4500m付近。2009.7.20(以下同)

消去法的に、Gentiana trichotoma三岐竜胆と同定したが、典型的なこの種の特徴(茎と花序の展開様式)を必ずしも示してはいない。萼裂片はやや細長く、緩く外側に膨らむ。

康定県と雅江県の省境草原上に、茎高20~40㎝ほどの多数の個体が群生(ただし密生ではなく疎ら)していた。花筒の長さは4~5㎝、花冠直径は2㎝前後。

写真11


写真12


写真13


写真14

花冠内面の斑紋は、個体によって様々。

写真15


写真16


写真17


写真18


写真19


写真20


写真21


写真22


写真23

雅江の町の理塘寄りの峠(標高約4700m)のすぐ下から、ミニャコンカ峰7556mを望む。雪嶺の下の左右に伸びた山波が、このリンドウを撮影した「臥龍峠」。

写真24

臥龍峠は標高約4500m。あちこちに放牧ヤクの群れが見られる。地面の黄色はキンポウゲ科の花。

写真25

この辺りの地質は、様々な特殊岩石からなっているように思われる。ところどころに、白い石が露出している。

写真26

国道418号線は、四川省成都西方の康定からチベット自治区との省境までの間に、標高4200m~4800mの峠(と言っても平坦な草原状)を5度越える。臥龍峠は康定から数えて2つ目。








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中国の野生植物 Wild Plants of China リンドウ科Gentianoceae-2

2021-02-17 21:07:46 | 中国 花 リンドウ



Gentiana crassicaulis葉隠竜胆(粗茎秦艽)〔sect. Cruciata秦艽組〕

写真1

云南省迪庆藏族自治州香格里拉県翁水村(中甸大雪山中腹) 標高3500m付近 2014.7.16

四川省との省境に近い、中甸(迪庆)大雪山麓の山道を探索中、ふと一頭のハナバチが目に留まった。付近には花が見あたらないのに、なぜここにいるのだろうと思って、改めて良く確認したら、唯の薄黒い塊に見えたのは、リンドウの花の集まりだった。花は極めて小さく(径5~6㎜)、薄黒い蕾のうちはまだ葉(肉厚で非常に大きく20㎝ほど)との区別がつくが、開花後は白に近い薄緑が葉に溶け込んで、よほど良く見ないと存在が分からなくなってしまう。

写真の個体は、Gentiana crassicaulisに該当するようだが、この種は非常にバリエイションに富み、次種との関係などを含め、分類上の再検討が必要と思われる。種全体としての中国名は「粗茎秦艽」。ここでは、このタイプの個体を、暫定的に「葉隠竜胆(ハガクレリンドウ)」と名付けておく。種としてのGentiana crassicaulisは、雲南省北部、四川省西部を中心とした、中国西南部山岳地帯に広く分布する。

写真2

真ん中は蕾の花序、上は開きかけ、下は開花花序。

写真3

開花前は、花被部分が黒ずんでいる。

写真4

ハナバチの一種が訪れていたので、花の存在に気が付いた。

写真5

3年後の再訪時(2017.6.8)。夏の間は開花前の葉だけの状態。

写真6

撮影中、地元のおばさんたちが通りかかった。

写真7

撮影地点の山道の奥の山は、標高5000m余(迪庆大雪山の一峰で地元名は貢千山)。白く見えるのは雪ではなく特殊岩石。2010.9.21撮影(この場所には何度も訪れているが、秦艽の存在には気が付かなかった)。

写真8

四川省との省境の山嶺(迪庆大雪山)に陽が沈む(太陽の下あたりが翁水村)。標準時の北京から西に遠く離れていることに加え、この写真の撮影時が夏至に近い頃だったので、日没は午後8時頃。2017.6.7、ヒッチハイクで乗せて貰ったトラックの荷台から撮影。

Gentiana macrophylla秦艽 〔sect. Cruciata秦艽組〕

写真9

雲南省香格里拉 標高3500m付近 2017.7.15

秦艽組Cruciataは中国大陸に16(~19)種が分布(西は中央アジアに至り、日本には分布を欠く)。「竜胆」や「当薬(千振)」などと共に、薬草として古くから知られていることから、他の竜胆とは別に独自の「秦艽(ジンギョウ)」の名で呼ばれている。写真の個体は、前種と同じGentiana crassicaulisに含まれる可能性が強いが、より大型の花序をもち(花冠直径は8~10㎜)、花色が淡紫色で、葉が細長いことなど外観上の差異が大きいこと、および「中国植物図像庫」の秦艽の項目で紹介されている幾つかの個体との著しい相似から、便宜上「秦艽Gentiana macrophylla」と同定しておく。ただし、Gentiana crassicaulis、Gentiana macrophyllaともに、花色などのバリエーションは多様で、また「中国植物志」に因るとGentiana macrophyllaの分布圏は雲南省には及んでいない(中国東北部~四川省)。したがって、この処遇に対しては、余り自信はない。

*日本の漢方で呼称される「オオバジンギョウ」は、この種の一変種「大花秦艽」を指すものと思われる。

写真10

根生葉?や茎葉は、細長い。

写真11

翁水の個体よりもやや大型で、花色は淡紫。

写真12

花序の基部の葉は、やや丸みを帯びる。

写真13

何度か近くを通ったのち、やっと気付いた。

写真14

撮影場所は、香格里拉郊外の小高い丘の中腹(ひと月前の2017.6.17、この時は秦艽の存在には気付かなかった)。

写真15

香格里拉の街(2010.5.14)。

写真16

香格里拉は標高3500m近い高所の広い平原上にある。昨年夏、僕が中国に行けなくなったので、モニカに蝶の撮影に向かわせた。着いてすぐ高山病にやられ、やっと治ったと思ったら、今度は日射病に罹り、なぜか蝶にはほとんど一頭も出会わず、散々の結果で引き揚げてきた。2020.6.22(Monica Lee撮影)。ちっちゃな黒点はゴミだと思って消去処理しようと思ったのだけれど、どうやら鳥らしいので、そのままにしておいた。

写真17


写真18

ピンク=云南省迪庆藏族自治州香格里拉県翁水村=「葉隠竜胆」とした個体*の撮影地。緑=云南省香格里拉=「秦艽」とした個体*の撮影地。*ただし、おそらく両者とも種としては「粗茎秦艽」に所属する可能性が高い(「粗茎秦艽」は、中国東北部から西南部にかけて広く分布している)。

写真19

【参考】僕の中国での主なフィールド。赤=四川省西部/青=雲南省西北部/紫=雲南省西部(ミャンマー国境付近)/蝦色=雲南・ベトナム国境付近(主にベトナム側サパ)/ピンク=広西壮族自治区北部山地/濃褐色=湖北省恩施周辺/緑=広東省北東部/空色=浙江省天目山系/墨色=陝西省秦嶺。






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