青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

週刊Weekly Magazine 【2022年1月8日号】下

2021-12-22 21:49:55 | コロナ、差別問題と民主化運動、日本と中国の蝶


週刊Weekly Magazine 【2022年1月8日号】下
カテゴリー:「コロナ」「差別問題と民主化運動」「中国の蝶」

中国(および東アジア)の蝶Butterflie of China(and Eastern Asia)中国(和东亚)的蝴蝶
クロキマダラヒカゲ 田园荫眼蝶 キマダラヒカゲ属 Neope荫眼蝶 【タテハチョウ科Nymphalidae蛱蝶科】
Junzo Aoyama
【Photo office萌葱】

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【*「中国のチョウ」に併記した、各種の雄交尾器の比較(必ずしも系統関係を反映するものではない)を、図版と共に再掲しておく。Neope oberthuriは、この時点では未検討。】

1a
Phallusが太短く、強く背方に屈曲し、suprazonar sheathの 腹面に広くperi-vesical areaが生じ、Zophoessa属に似る。Phallus以外はNeope一般型。
・・・・・・・・オオキマダラヒカゲNeope yama

1b
Phallusは屈曲しない。
・・・・・・・・2

2a
Phallusは著しく太短く、suprazonal sheath背面に不規則な粗い鋸歯を生じる。Uncusは太く短く、先端が大きくて2分する。
・・・・・・・・ウラキマダラヒカゲNeope muirheadi

2b
Phallusは前後に細長く、suprazonar sheath背面に鋸歯が生じる場合は細かく均質な微細な鋸歯が整然と並ぶ。Uncusは長く単一。・
・・・・・・・・3

3a
Valvaの末端背面に指状突起を欠き、代わりに後端付近に多数の微細な粒状鋸歯群を散付する。Phallusはよく前後に伸長し、台湾亜種では特に著しい。後端が背後方へ反り返り気味に強く突出、superzonal sheath後半やや背方寄り両側に多数の小鋸歯群が発達し、台湾亜種では鋸歯そのものが大きく、末端の数個が特に巨大となる。Juxtaの両翼は発達良く、manica背方に長く伸びる。Tegumenは比較的小型で、uncusは後方へ良く発達し、細くスリムで基部がやや縊れる。性斑は前翅中央下半に集中して上下に2分。
・・・・・・・・タイワンキマダラヒカゲNeope bremeri

3b
Valva末端背面に指状突起を備える。Phallusは良く前後に伸長し、幾らか反り返り気味で後
端は背後方へ強く突出し、suprazonal sheath後半側面に多数の小鋸歯を散付(goschkevitschiiのほうが腹方寄りにより広く散付される)。Tegumen背縁はgoschkevitschiiで
より隆起する。Uncusは後方へ良く発達し、比較的細くスリム、基部がやや縊れる(niphonicaでより顕著)。性鱗は前翅中央下半に集中、2分しない。
・・・・・・・・ヤマキマダラヒカゲNeope niphonica
・・・・・・・・サトキマダラヒカゲNeope goschkevitschii

3c
Valva末端背面に指状突起を備える。Phallusは単調で、後背端に突出は弱く、suprazonal sheath側面に小鋸歯を全く欠くか中央付近にごく弱く出現。Tegumenは比較的発達良く、Uncus基部はあまり縊れない。
・・・・・・・・4

4a
Tegumenは丸味を帯び背方へ隆起し、uncusはスリムで背腹の幅が狭い。Valvaは基縁が幅広い。Harpe先端は外縁が膨れ上がったうえ内側に指状突起を派生。Succusが短く、phallusも短めで、suprazonal sheath側面には全く鋸歯を欠くか、背側面に僅かに出現。性斑は前翅中央下半のごく狭い範囲に集中。
・・・・・・・・クロキマダラヒカゲNeope agrestis

4b
雄交尾器は全体に横長。Uncusも前後に長い。Valvaは基縁が幅狭く、前後に細長く、後方へほぼまっすぐに伸長し、末端はそのまま内向して突出する。Phallusも前後に長く、鋸歯群を欠く。性斑は広い範囲に亘って出現する。Juxtaは未発達。
・・・・・・・・シロキマダラヒカゲNeope armandii

4c
Uncusは背腹に幅広い。Valvaはあまり湾曲することなく後方へ伸長し、後端外縁はあまり膨れずに内側に指状突起を備える。Phallusは前後に短く、単調で鋸歯を全く欠くか腹方寄り側縁にごく弱く散付。性斑の出現状況は多様。
・・・・・・・・5(Neope pulaha complex)

5a
Pallusの鋸歯は全く出現しない。長毛と長伸鱗の密生した性斑が広範囲に広がる。
・・・・・・・・アリサンキマダラヒカゲ(台湾産) Neope pulaha didia

5b
Phallusにごく弱い鋸歯群が出現。前翅表上半に鱗粉が密生、長毛や長伸鱗を混じえない。
・・・・・・・・ニセアリサンキマダラヒカゲNeope pulahoides

5c
雄交尾器の形状、斑紋の状況は前種と同じ。翅表の地色がきわめて濃色。
・・・・・・・・ “ユンナンクロキマダラヒカゲ”

5d
Phallusに鋸歯は出現しない。性斑の位置はagrestisに似る。翅表地色がごく明るい。
・・・・・・・・Neope shirozui

Neope属の♂交尾器 ① pulaha-group



Neope属の♂交尾器 ③ bremeri-watanabei



Neope属の♂交尾器 ② agrestis



Neope属の♂交尾器 ④ niphonica-goschkevitchii 



Neope属の♂交尾器 ⑤ armandi



Neope属の♂交尾器 ⑥ yama
写真(省略)

Neope属の♂交尾器 ⑦ muirheadii
写真(省略)

(いずれも「青山1998」からの転写)

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Neope各種の撮影地域 Ⅰ
地図(省略) 
●muirheadii 重慶市/成都市/広東省翁源県/ベトナム・ファンシーパン山
●muirheadii ? 広西壮族自治区猫児山
地図(省略)
●yama 重慶市/四川省峨眉山

Neope各種の撮影地域 Ⅱ
地図(省略)
●armandi-1 四川省峨眉山/四川省西嶺雪山 
●armandi-2 広西壮族自治区興堂山/ベトナム・ファンシ-パン山
地図(省略)
●simulans 四川省ミニャコンカ海螺溝/雲南省梅里雪山明永

Neope各種の撮影地域 Ⅲ
地図(省略)
●agrestis 四川省峨眉山/雲南省梅里雪山明永/雲南省香格里拉近郊/雲南省維西
●bremeri(原名亜種) 浙江省杭州市/浙江省天目山系/四川省青城山
●a southern locality(ユンナンクロキマダラヒカゲ) 雲南省金平
地図(省略)
●obertuerii 雲南省梅里雪山/雲南省香格里拉南方
●ramosa?(複数種の可能性あり?) 浙江省西天目山/四川省青城山/四川省西嶺雪山
●pulahoides ベトナム・ファンシーファン山

【Photo gallery】 agrestis, obertueri, bremeri, and pulaha complex(ramosa/pulahoides)


Neope agrestis 田园荫眼蝶
雲南省梅里雪山明永(alt.2300m)2017.6.15

【Photo gallery】 agrestis, obertueri, bremeri, and pulaha complex(ramosa/pulahoides)


Neope agrestis 田园荫眼蝶
雲南省梅里雪山明永(alt.2300m)2017.6.15

【Photo gallery】 agrestis, obertueri, bremeri, and pulaha complex(ramosa/pulahoides)


Neope agrestis 田园荫眼蝶
雲南省維西(alt.2500m)2010.5.15

【Photo gallery】 agrestis, obertueri, bremeri, and pulaha complex(ramosa/pulahoides)


Neope agrestis 田园荫眼蝶
雲南省維西(alt.2500m)2010.5.15

【Photo gallery】 agrestis, obertueri, bremeri, and pulaha complex(ramosa/pulahoides)
写真10

Neope oberthurei 奥荫眼蝶
雲南省梅里雪山明永(alt.2300m)2013.5.10

【Photo gallery】 agrestis, obertueri, bremeri, and pulaha complex(ramosa/pulahoides)


Neope oberthurei 奥荫眼蝶
雲南省梅里雪山明永(alt.2300m)2017.6.14

【Photo gallery】 agrestis, obertueri, bremeri, and pulaha complex(ramosa/pulahoides)


Neope oberthurei 奥荫眼蝶
雲南省梅里雪山西当‐雨崩(alt.3500m)2009.6.11

【Photo gallery】 agrestis, obertueri, bremeri, and pulaha complex(ramosa/pulahoides)


Neope oberthurei 奥荫眼蝶
雲南省香格里拉‐虎跳峡(alt.2800m)2009.6.1

【Photo gallery】 agrestis, obertueri, bremeri, and pulaha complex(ramosa/pulahoides)
写真(省略)
Neope bremeri 布莱荫眼蝶 Spring form male & female
浙江省杭州市(alt.10m)1989.3.31

【Photo gallery】 agrestis, obertueri, bremeri, and pulaha complex(ramosa/pulahoides)
写真(省略)
Neope bremeri 布莱荫眼蝶 Summer form male
四川省青城山(alt.900m) 1989.8.4/陝西省西天目山(alt.1300m)2018.7.8

【Photo gallery】 agrestis, obertueri, bremeri, and pulaha complex(ramosa/pulahoides)


Neope ramose 大斑荫眼蝶
陝西省西天目山(alt.1300m)2018.7.8

【Photogallery】 agrestis, obertueri, bremeri, and pulaha complex(ramosa/pulahoides)
写真(省略)
Neope ramose 大斑荫眼蝶
陝西省西天目山(alt.1300m)2018.7.8

【Photo gallery】 agrestis, obertueri, bremeri, and pulaha complex(ramosa/pulahoides)


Neope ramose ? 大斑荫眼蝶 ?
四川省西嶺雪山(alt.1500m)2009.8.5

【Photo gallery】 agrestis, obertueri, bremeri, and pulaha complex(ramosa/pulahoides)


Neope pulahoides 黑斑荫眼蝶
越南Vietnam沙巴Fan-xipan(alt.1300m)2009.3.10

【Photo gallery】add.


Neope muirheadi 蒙链荫眼蝶
広東省翁源県(alt.500m)2013.6.12

【Photo gallery】add.


a type of Neope muirheadi 蒙链荫眼蝶的一型
広西壮族自治区猫児山(alt.800m)2005.4.23

纏めSummary概括

日本産キマダラヒカゲ2種のアイデンティティあるいはルーツのようなものを探ろうと思う。Neope属は、日本列島のほか、北部などを除く中国大陸と、台湾、海南島、インドシナ半島北部、およびヒマラヤ地方に分布し(朝鮮半島には分布を欠く)、日本の場合同様に、ほぼ全域で外観が類似する2種が混棲している。著者が現時点
で観察し得たところでは(斑紋構成や雄交尾器の形状が異なる数種を除くと)次のような組み合わせになる。

梅里雪山周辺(香格里拉近郊、ミャンマー北部など、中国南西部高標高地帯の、ざっと半径200km程の地域)
Neope agrestis クロキマダラヒカゲ
Neope oberuthueri スミイロキマダラヒカゲ

長江下流域(杭州市街地を含む)
Neope bremeri タイワンキマダラヒカゲ原名亜種(アカキマダラヒカゲ)
Neope ramosa(暫定同定) タイリクアリサンキマダラヒカゲ

長江上流域の入口付近(成都西郊山地)から、おそらく中流域にかけての南北の地域
Neope bremeri タイワンキマダラヒカゲ原名亜種(アカキマダラヒカゲ)
Neope pulahaアリサンキマダラヒカゲ群?(ramosa? pulahoides? ほか複数種?)

雲南省南部とベトナム北部に跨る国境山地
Neope plahoides オオアリサンキマダラヒカゲ
Neope sp. ユンナンクロキマダラヒカゲ

また、Neope simulans、Neope armandii、Neope muirheadiなど外観などが特徴的な種も、上記各種と何らかの系統上の繋がりを持っているように思われる。

以下は言い訳。様々な事情でデータが抜け落ちていたりして、つぎはぎだらけの報文になった。例えば、写真は翅の裏面が殆どである。Neope属は静止時には絶対に翅を開かないので、正しい“生態写真”としては真っ当なわけだが、翅表の模様や配布鱗粉の状況などがチェック出来ない事には、系統分類に取り組む資格は無いのかも知れない。筆者が拠り所にする外部生殖器の顕鏡解析も、2000年以降は使用可能な実体顕微鏡が手許にないため行えないでいる。

しかし、たとえそれらが充分に為されたとしても(更に付け加えれば分子生物学的な面からの解析が行えたとしても)、限りなく複雑混沌多様な「種」および「種(地域個体群)間ごとの相関性」を完全に捉えることは出来るのであろうか?ひたすら体系に沿い、類型に当て嵌めて結果を示す研究者の論文とか、あるいは重箱の隅をつつくような蝶マニアやコレクターたちの取り組みに、筆者はあまり魅力を感じていない。もちろん、地道に個々の作業を進めていくことは、必要だとは思う。ただ、同時に「俯瞰」という「曖昧で大雑把な」姿勢も必要なのではないだろうか?

まあ、自己正当化しているわけで、お恥ずかしい限りであるが、筆者のworkは「問題提起」に収斂されるので、
結果の正当性の獲得には全く拘泥していない。この報文を目にした蝶好きの方々には、どんどん反論・批判して頂ければ、と望んでいる。そして、殊に若い人たちには、性急に答えを求めずに、常に「俯瞰」の姿勢を忘れないで頂きたいと望んでいる次第である。

2022年正月


週刊・中国の蝶 2022年1月8日号 クロキマダラヒカゲ
著者:青山潤三
発行:Photo office 萌木MOEGI
2021.12.24





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週刊Weekly Magazine 【2022年1月8日号】中

2021-12-22 21:45:47 | コロナ、差別問題と民主化運動、日本と中国の蝶


週刊Weekly Magazine 【2022年1月8日号】中
カテゴリー:「コロナ」「差別問題と民主化運動」「中国の蝶」

中国(および東アジア)の蝶Butterflie of China(and Eastern Asia)中国(和东亚)的蝴蝶
クロキマダラヒカゲ 田园荫眼蝶 キマダラヒカゲ属 Neope荫眼蝶 【タテハチョウ科Nymphalidae蛱蝶科】
Junzo Aoyama
【Photo office萌葱】

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日本固有種「サトキマダラヒカゲ」「ヤマキマダラヒカゲ」の大陸産対応種について
The vicarious species of Neope niphonica and Neope goschevitschii (endemic species of Japan)found outside of Japan [青山潤三の世界・あや子版 2013.5.17からの転載]

大都市都心部を含めた日本の広い範囲(幾つかの離島を除く)に分布するサトキマダラヒカゲNeope goschevitschiiと、主に標高1000m以上の山岳地帯(寒冷地および房総半島では低標高地にも)に分布するヤマキマダラヒカゲNeope niphonicaは、ともに日本列島(サハリンの一部などを含む)の固有種である。

キマダラヒカゲ属は、朝鮮半島や中国北部、ロシア沿海地方など日本海対岸地方には分布せず、日本列島産2種のほか、台湾に4種、中国大陸(中部以南)・ヒマラヤ地方・インドシナ半島北部などに10種前後が分布することになっている。記載された種や亜種はかなりの数に上ると思われるが、相互の関係についての検証は全く成されていないというのが現状である。

筆者(青山は)以前、中国東部(杭州市)産のタイワンキマダラヒカゲ原名亜種Neope bremeri bremeriについて観察を行い、また「中国のチョウ」(東海大学出版会1998年)で、その時点で知り得たNeope属各種の雄外部生殖器の形状を比較し、各種間の相互関係を暫定的に考察した(166-168頁、315-322頁)。その後の15年間に、新たな知見の追加集積が成されているが、未だ総合的な纏めを行うには至っていない。最大の課題である日本産2種、ことにサトキマダラヒカゲの対応種についても、未解明のままである。

しかし、ひとつ、かなりの高い確率で指摘出来そうな事実がある。最終的な結論は将来の実証結果に委ねるとして、その概要をごく簡単に述べておく。

その前にヤマキマダラヒカゲ(以下“ヤマ”)とサトキマダラヒカゲ(以下“サト”)の外観上の区別点について説明しておく。多くの形質による比較が成されているが、両種を確実に区別しうる安定的な指標形質は次の3点。
●①前翅外縁。
>ヤマでは上部で緩く内側に湾曲、サトは湾曲しない。
●②前翅表第6室眼状紋中の黒点。
>ヤマで外縁寄りに、サトではほぼ中央部に位置する(♂についてのみ検証可)。
●③後翅裏基部の3個の丸紋の並び方。
>ヤマでは下の一個が上2個の延長線上から明瞭に外側へ外れ、中央の一個からの距離は上の一個に比べ明らかに遠い。サトでは3個がほぼ均等の距離を保って並び、下の一個が外側へ大きく外れることはない。上記3形質以外については傾向的な差異に過ぎず、それらに注目することで、しばしばかえって混乱してしまい分からなくなってしまう。上記3形質は極めて安定的なので、慣れればそれによって100%区別が可能である。

それらのうち、①②に関しては、幾分印象による判断が必要とされるため、よほどの熟練者でなければ同定を誤ることがある。しかし③については特徴が安定的で、この形質のみで同定が可能となる(それに①②による検証を加味すれば、ほぼ間違いなく正しい同定が出来ると思う)。
*両種の幼生期の形態には著しい差異があり、また染色体数も異なることから、外観上の酷似とはうらはらに、思いのほか血縁の離れた関係にある可能性も考えられる。

中国大陸産各種のうち代表的な種について大雑把に整理しておく(詳しくは「中国のチョウ」を参照)。

日本産2種から最も類縁が遠いと思われるのが、オオキマダラヒカゲNeope yama。外部生殖器は構造的にZophoessa属との類似性も示され、Neope属の中ではかなり離れて位置付けされる可能性がある。

Neope属中、低標高地を含む最も広い範囲に分布するウラキマダラヒカゲNeope muirheadiiも、外観が他の多くの種と顕著に異なる。♂外部生殖器にも、uncusの先端が2分岐するという他の各種に見られない明確な特徴を示す。ただし基本構造的には他各種と共通し、外観の相違から判断されるほど特異な存在ではないのかも知れない(将来複数種に分割される可能性もある)。分布状況や生態的地位に於いては、この種がサトキマダラヒカゲの代置的存在にあるように思われるが、形態形質的な面での相関性は特に見出し得ない。

シロキマダラヒカゲNeope armandiiは、山岳地帯を中心として、やはり広い範囲に分布している。ウラキマダラヒカゲに於いても同様のことが言えるが、季節・雌雄・地域などに於ける外観上の差が著しく、後翅表に白色やオレンジ色部分が広がり他の各種とは顕著に異なって見える個体から、意外に一般のキマダラヒカゲに類似した個体まで、多岐に亘っている。♂外部生殖器にも、他の種から隔てられる顕著な特徴は見出されず(相対的にvalva基半部の幅が狭いというのが特徴と言えば特徴と言える)、外観で想像される以上に、以下に述べる各種に、かなり近縁な存在であるのかも知れない(やはり複数種から成る可能性あり)。

ヤマやサトの対応種は、(Neope simulansなど幾つかの特異な種を除く)残る各種の中に見出されるものと思われる。上記の①②の分類指標形質を見る限りに於いては、それらの全ての種がヤマに対応するように思われ、サトに対応すると積極的に評価しうるような集団は見出されない。四川省から記載されたNeope shirozuiをサトの対応種と考える意見もあるが、おそらくはN.bremeriやN.agurestis(あるいはN.pulaha)に収斂される、顕著な変異型(または地域集団)ではないかと考えている。

キマダラヒカゲ属の分類に当って最も問題となる事項のひとつは、♂外部生殖器の形状比較による考察が困難なことである。基本的な構造に於いて種間の差が少なく、かつ種内に於ける末端的な部分での変異が多様なことから、外部生殖器の形状から種間関係の正確な実態を把握するのは至難の業なのである。ヤマとサトの外部生殖器の形状にも、ほとんど差異がない。そのため両者は、(上記したような)血縁上相当に離れた関係にあるとする見解とは逆に、比較的新しい時代に分化した集団ではないか、という見解も成し得よう。

ヤマとサトの間のみでなく、(yama, muilheadiiなど明らかな固有の特徴を示す種を除けば)国外産の各種間にも、基本的な構造差は、ほとんどないと言ってよい。差異が見られるのは下記のような部位。
●①プロポーション(uncusやvalvaやpenisの相対長)。
●②末端形質(valvaの先端部分など)。
●③penisの鋸状突起。

このうち、①や②については、種(または地域集団)間である程度の安定差が示されるが、③については、同一種の個体間(しばしば同一地域集団の個体間)でも、多様な表現が成される。また①については、しばしば亜種間(ことにN.bremeri watanabeiとN.bremeri bremeri間)で顕著な差が示される。

各部位が大型で、valvaやuncusの前後長が長く、penisの鋸歯群が最も発達するのが、タイワンキマダラヒカゲ台湾亜種N.bremeri watanabei。逆に各プロポーションが最もコンパクト(前後に寸詰まり)で、penisの鋸歯も発達が弱い(あるいは消失する)のがクロキマダラヒカゲN.agrestis。タイワンキマダラヒカゲ原名亜種(アカキマダラヒカゲ)N.bremeri bremeriと日本産の2種は、ほぼ中間的な段階を示し、アリサンキマダラヒカゲN.pulaha didia(および原名亜種を含む大陸産の幾つかの近似分類群)も、ほぼそれに準じる(penisの鋸歯の発達はおおむね弱い)。

思うに、外部生殖器の形状(例えば全体のプロポーションやpenisの棘の出現程度を含む末端部分)の差異は、種間差というよりも、種内(地域集団間、ときによっては個体間)変異と見るのが妥当ではないかと。

外観(翅の概形・斑紋・色彩など)の差異についても同様のことが言えるであろう。外観や外部生殖器の形状が酷似する複数の(しかし少数の)“種(または上種)”が存在、それぞれの種内で(同一空間に於いて並行的に相互相似する)変異の幅を示すことから、多くの種から成るように見えるのである(♂の性標の表現の違いにどのような意味があるのか? 今後の重要な検証課題だが、あえて誤解を顧みずに言えば、上記した他の形質同様に、2次的かつ並行的な相似/相違である可能性も考えられる)。

いずれにしろ、外部生殖器の形状に斑紋など外観的特徴を加味して考察すれば、国外産の典型Neope各種は、全ての種がヤマに繋がるように思え、サトに繋がる種は存在しない、と言い切ってもよさそうなのだが、今一度、外観上に表現された形質に惑わされることなく、改めて整理検討しておきたい。

上記したように、私見では、典型Neopeはごく少数の種、ほぼ同一の(かつ地域集団などの別に於いて様々な段階で異なった表現が成される)形質を備えた2つの分類群(種または上種)から成っているのでは、と見ている。ヤマもサトも、各々そのどちらかに収斂されるのである(同一空間に存在することによる偶然または必然的な相似)。

そのことを示唆する例を挙げておく。どうやらNeope分布圏内に於いては、幾つかの地域で(yama,muirheadii, armandiiなどを除き)日本のヤマ&サト同様に、2つの分類群(種または上種)が混在している可能性がある。
「2つの」ということが重要で、決して「多数の」ということではない。日本のヤマ同様に、いや遥かにそれを上回る顕著な変異を示すことから、「2つ」ではなく「多数」に見えるのだが、それらの「多数」は、全て「2つ」に収斂されるわけである。

その2つとは、すなわち「タイワンキマダラヒカゲNeope bremeri」と「アリサンキマダラヒカゲNeope pulaha」。ヤマが前者に対応することは容易に理解出来ようが、思い切って言うならば、サトは後者に対応する(後述)。

前者には、中国中部~東部のN.bremeri原名亜種や、西南部山岳地帯産のN.agrestisが含まれる。以下にこれまでに撮影した個体を、雲南省産N.agrestisを中心に紹介しておく。
*[Neope agrestisの写真18枚→別項目に移動]

四川峨眉山産と雲南金平産を除き、いずれも雲南北部の高標高地産で、5月上旬から7月上旬に至る撮影個体。8月中旬から10月上旬にかけての探訪時には確認していず、この期間に発生しているものと思われる。同一地点(例えば梅里雪山明永氷河末端下部の標高2300m地点)に於いても丸2ヶ月の期間に亘るため、2世代を繰り返している可能性も考えられなくはないが、5月上旬の個体と6月下旬の個体間に有意な差が見られないことから、年1化の発生(長期間に亘って暫時出現)と考えたほうが妥当であろう。もし2世代を繰り返しているとすれば、世代間の形質差がほとんどないということになる。(しばしばヤマキマダラヒカゲ房総亜種N.niphonica kiyosumiensis春型個体に見られるように)翅型がコンパクトで寸詰まりな印象、外縁の白色鱗と翅脈末端の黒色鱗のコントラストが強いため、外縁が顕著に凹凸を帯びて見える傾向がある。
全体的な形質はタイワンキマダラダラヒカゲ原名亜種(アカキマダラヒカゲ)N.bremeri bremeri春型に連続し、日本のヤマキマダラヒカゲN.niphonicaとも繋がるように思われる。写真下2枚の個体のように、裏面地色の色調がぼやけて明るい赤茶色を帯びた個体なども見出されるが、個体変異の範疇に入るものと考えている。「中国のチョウ」で“ウンナンクロキマダラヒカゲ”として紹介した雲南省南部のベトナム国境に近い金平産の個体は、北部のagrestisとは大分印象がことなり、bremeriに所属せしめるべきかも知れない。N.pulahaの系統とも考えられるが、裏面基部の丸紋の並び方は、後述する(*原典ではpulahaと仮同定した)雲南北部山岳地帯産N.oberthueriと異なり、明らかにagrestis~bremeri~niphonicaと共通する特徴を示している。
*[Neope bremeriの写真6枚→別項目に移動]

♂外部生殖器のプロポーションや末端構造に於いて(あるいは翅の概形や斑紋・色彩などに於いても)、クロキマダラヒカゲNeope agrestisと対極的な印象を持つのが、タイワンキマダラヒカゲ台湾亜種(N.bremeri watanabei)である。N.bremeriの大陸産原名亜種と台湾亜種の間には、一般的常識による種間差を優に越える差があるように見受けられるが、形質の一定方向への“傾き”であると捉えれば、両者を同一種として扱うことは妥当であると思われる。ただしその場合、反対方向の傾斜上に位置するN.agrestisの処遇も考慮しなければならない。大陸東部(杭州)産N.bremeri原名亜種は、全体の傾斜の中で、台湾亜種N.bremeri watanabeiと、大陸西南部高地産 N.agrestisとの中間に位置する、と言ってよい(日本産のN.niphonicaについてもそれに近いことが言えそうである)。

四川成都市近郊(青城山)産もN.bremeriに含めた。杭州市産と同じくbremeriの原名亜種に置く事が妥当か否かについては今後の詳しい検証を待たねばならないが、盛夏に同一種の夏型(外部生殖器形状の一致を検証済み)が出現することから、夏型の出現しないN.agrestisとは一線を区し、(青城山に隣接した西嶺雪山で撮影した夏型♀共々)狭義のbremeriに含めておく。

ほかに青城山からは、性票(特殊鱗の集中散布)を欠く春型♂を記録していて、「中国のチョウ」では暫定的にN.pulahoidesとしておいた。N.pulahoidesやN.pulahinaは、広義にはN.pulahaの一群に所属するものと考えられるが、この個体は、あるいはpulaha ではなくbremeriに繋がるのかも知れない。先に記したように、性標(特殊鱗の有無や散布範囲)が種間関係に於いてどのような意味を持ち、分類指標としてどの程度の重要性を示すのかを検証することは、今後の重要な検証課題であると思われる。

それらの課題はさておき、(N.niphonicaの分類上の処遇はともかく)N.bremeri, N.agrestis, N.niphonica等の各種が、同一の形質傾斜上に置かれた、ひとつの上種super-speciesを形成する可能性を、一応の結論としておきたい。

では、サトキマダラヒカゲNeope goschevitschiiは、どの傾斜上に位置するのであろうか? 筆者の結論は、少々乱暴ではあるが「アリサンキマダラヒカゲN.pulaha(*およびその近縁種群)」が、国外に於ける日本固有種「サトキマダラヒカゲ」の対応種であるということ。

“乱暴”の実態を補足しつつ、中国西南部に於ける「サトキマダラヒカゲ」対応集団の写真を紹介していく。

*[Neope oberthueri(原典では【仮同定】としてNeope pulahaを当てた)の写真13枚→別項目に移動]
現時点では(比較的限られた地域で広範囲とはいえないが)少なくとも4つの地域に於いて“典型Neope”と呼ぶべき2種の混棲が知られている。先にも述べたように、重要なことは、単に2種が混棲していると言うことよりも、それらの地域に見られる(一見多様な変異形質を示す)“典型Neope”の全てが、そのどちらかの種に帰属する、ということである。

ひとつはもちろん日本産の2種。そして台湾のタイワンキマダラヒカゲ台湾亜種Neope bremeri watanabeiとアリサンキマダラヒカゲ台湾亜種Neope pulaha didia。以下に述べる雲南省北部山地に於けるクロキマダラヒカゲNeope agrestisとNeope oberthueri(*原典ではpulaha類似種)。およびそれと同一の組み合わせと考え得るミャンマー北部産の2種(Butterflies Musiam展示の過程で多数の標本を検証)。それ以外の地域では、今のところ前者(bremeriなどniphonica対応集団)のみしか確認していないが、より多くの地域で“2種”が混棲している可能性も有り得る。

先に検証したように、niphonica~bremeri~agrestisは、同じ傾斜上に位置するniphonica対応集団と考えられる。ならば、一方のgoschchevitschii~pulaha didia(台湾亜種)~大陸東南部産pulaha類似種(*注:本書で暫定的にNeope ramosaを当てた集団)も、同じ傾斜上に置かれる対応集団、と考えるのは早計に過ぎるであろうか?

常識的には、暴論には違いない。アリサンキマダラヒカゲ台湾亜種N.pulaha didiaは(中国大陸産アリサンキマダラヒカゲN.pulahaのいくつかの亜種ともども)、外観上、様々な点でサトキマダラヒカゲN.goschevitschiiとは対極的な特徴を示している。 ヤマとサトの有意な区別点たる、「前翅外縁のカーブの仕方」「前翅表第6室眼状紋内の黒点の位置」「後翅裏面基部の3個の丸紋の並び方」など、いずれもサトとの共通性は全く示さず、むしろずっとヤマ的だ。アリサンとサトは、“典型Neope”の中では最も離れた位置にあると考えるのが妥当であろう。

大陸西南部高地産のNeope oberthueri(*原典ではpulaha類似種)に於いても、以下に述べる斑紋などの幾つかの特徴はともかく、より広域に分布するN.bremeri~N.agrestisに対して、明らかに(高標高地のみに)分布域が限られている。日本のヤマとサトの関係とは正反対なのである。

しかし、日本と中国では、近縁種間の組み合わせに於いて生態的地位が逆転する、という現象は、枚挙にいとまない。また、表現された形質が、必ずしも系統を反映しているとは限らない、ということも、多くの例で知られるところである。

そして、非常に気になる事実がひとつ。最初に示した、ヤマとサトの、最も安定的な分類指標である「③後翅裏面基部の3つの丸紋の並び方」に於いて、大陸西南部(雲南省北部)山地産のNeope oberthueri(*原典ではpulaha類似種)と、日本産N.goschevitschiiは、見事に一致するのである。

そのような前提で改めてこのNeope oberthueri(*原典pulaha類似種、本書での和名をスミイロキマダラヒカゲとした)に注目すれば、裏面の色調や全体的な印象も、どこかサトに共通する印象が感じられる(ただし現地での観察に於いて、ことに飛翔時には本種は真っ黒に見え、一方、筆者が「中国のチョウ」で“クロキマダラヒカゲ”と名付けたNeope agrestisは、遥かに明るい色調~赤褐色~に見えることから、和名については再検討するべきと考えている)。

ちなみに、最初に記したごとく、♂外部生殖器の形状は、ヤマとサトの間で酷似し、全く相同のようにも見えるが、川副昭人氏も指摘し(若林守男氏との共著による「日本産蝶類大図鑑」保育社) 筆者も「中国のチョウ」で解説したように、非常にデリケートではあるが、それなりの安定差が見出される。すなわち、ヤマではpenisに生じる鋸歯群の個々の鋸歯が相対的に大型で、やや疎らに散布される傾向があるのに対し、サトでは個々の鋸歯がより小型で、大きさや散布密度が一定しているということ。また、(あくまで傾向的・印象的な相違に過ぎぬが)uncus概形の全体的な印象が、サトでは茫洋とした感じで、ヤマのような引き締まりに欠ける気がする。それらの傾向は、buremeri watanabei~bremeri buremeri~agrestisと、pulaha complexの間にも当て嵌まるように思える。

筆者は、原則、Neope分布圏内の多くの地域で、2組の“典型Neope”の組み合わせが成されているのではないかと考えている。そして、どの組み合わせの2つの種も、ヤマ、サト、それぞれの傾斜上に位置しているのではないかと。日本列島に於ける2つの種の酷似は、並行的に成された、2次的な類似だと解釈したい。

むろん、それぞれの組み合わせに於ける2種が、同じ傾斜上の同一種群間に帰属するのではなく、各地での組み合わせごとに、(少なくとも“サト”に対応する側は)別系統の集団からなっている可能性も否定出来ない。ここに示した雲南省北部山地産Neope oberthueri(原典の“アリサンキマダラヒカゲNeope pulaha類似種”)が、果たして系統上、(台湾産亜種をはじめとした)ほかのアリサンキマダラヒカゲ各亜種に繋がるのかなど、全く分かっていない。
それらを含めた、より詳しい検証が成されなければならない。幼生期、生態、行動、生理の比較、性標(特殊鱗粉)の散布状況と機質的機能的意味の解明、DNA解析による系統的考察。アグレッシブな探求を切に願う。
*[Genitalia図ほか→別項目に移動]

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「中国のチョウ」(東海大学出版会1998)からヒカゲチョウ族の項を転載
本文309頁~322頁、写真図版166頁~177頁、総説7頁~11頁

ヒカゲチョウ族 Lethini
ルリオビヒカゲ類
ルリオビヒカゲMandarinia regalis
ヒカゲチョウ類
ウラジャノメ属(広義)Pararge
7種 16写真図版 雄交尾器3図版
ヒカゲチョウ属 Lethe
13種 16写真図版 雄交尾器2図版
オジロヒカゲ属 Zophoessa
7種 12写真図版 雄交尾器5群に分け文章での詳細解説
キマダラヒカゲ属 Neope
8種 15写真図版 雄交尾器7図版 25個体

以上は省略し、以下キマダラヒカゲ属については、原著(1998)をそのまま転写する(誤植は修正、【*】は「週刊・中国の蝶:2022年1月8日号」に於ける追記)。
写真・図版は、ほぼ全て再掲した。 ●は「中国のチョウ」刊行時に新たに提唱した和名。

キマダラヒカゲ属 Neope

ヒカゲチョウ属Letheに近縁で、Evans(1932)やTalbot(1947)は、Lethe属のyama groupとした。しかし、筆者の知る限り、ヒカゲチョウ族Lethiniの他の全ての種は、静止時に翅を開くことがあるのに対し、本属の種は静止時に常に翅を閉じていて、求愛時や飛び立つ瞬間などを別とした通常の状況下では絶対に開くことはない。静止時に絶対に翅を開かない蝶というのは案外少なく、断定し得るところでは、ほかにシロチョウ科のキチョウ亜科COLIADINAE(モンキチョウ族のColiasやCatopsilia, キチョウ族のGonepteryxやeuremaを含む)の各種ぐらいしか見当たらない(そのほかにも“静止時に絶対翅を開かぬ”可能性のある種はいくつかあるが、観察例が充分でないため断定は避けておく)。この形質(性質)は、系統分類上意外に重要であるとも考えられ、とすればNeope属は、他のLethe類各属と案外大きく隔たった系統上に位置づけされる可能性も生じてくる(それについての判断はここでは保留する)。

キマダラヒカゲ属Neopeは、中国大陸からヒマラヤ地方にかけてと、日本列島および台湾から計15種ほどが記載されているが、種の整理や系統関係の考察は(高橋真弓氏の業績を別とすれば)充分になされているとは言い難い。Neope属のうち、オオキマダラヒカゲN.yama、ウラキマダラヒカゲN.muirheadiの両種は、翅型や斑紋パターンからも察しがつくように、雄交尾器の形状も極めて特徴的である。しかし、他の各種、ことにアリサンキマダラヒカゲN.pulahaとその近縁種は互いに極めて類似し、雄交尾器による種の区別もほとんど不可能に近い。したがって、斑紋など外観による検討が必要とされてくるわけだが、その場合、種全体に不変の形質を前もって認識・把握したうえで、個々の個体群の相互比較を進めないことには、むしろ困難を助長するだけになってしまう。

本属の雄前翅表に出現する「性斑(性標)」は、種の分類形質として、どのように位置付ければよいだろうか。Neope属の場合、Lethe属の一部の種のように特殊鱗の顕著な集合部が存在するわけではなく、前翅表のかなり広い範囲に亘って細長く伸長した特殊鱗(大半は発香鱗ではない?)と長毛が密生し、その部分が他の地色の部分と比べて濃色の斑紋になっている(ただし、濃色斑の発達程度と発香鱗を含む特殊鱗の集合密度は必ずしも比例しない)。この濃色斑の出現程度や形状が、種として一定しているかどうかについては、ウラナミジャノメYpthima motschulskyiやベニヒカゲErebia niphonicaなどの場合同様、かなり疑わしい。もっとも、Neope属の日本産2種のように、種内でごく安定している場合もあるわけだから、有意な指標に成り得るか否かは、個々のケースごとに判断されるべきものと思われる(例えばタイワンキマダラヒカゲN.bremeriでは、高橋真弓氏も指摘するように大陸産夏型のみが他と異なる)。

ニセアリサンキマダラヒカゲN.pulahoides【*下注参照】は、アリサンキマダラヒカゲN.pulahaとは性斑を欠き前翅表翅底部が広く明色になることから、別種とされている。この性斑は、主に長毛や長伸鱗の密生によるもので、しかも大陸産のpulahaでは、長毛や長伸鱗が顕著に発達する台湾産のpulaha didiaや日本産2種に比べてその出現頻度がごく弱い。したがって鱗粉の集中した暗色斑、と理解し、斑紋構成上の問題として捉えた方がよいように思える。性斑の有無やその形状を必要以上に分類指標として重視することは、問題なしとしない。むしろ、台湾産pulaha didiaを含めた非bremeri-niphonica系の種は、クロキマダラヒカゲN.agrestisを除き、前翅表の上半部にも鱗粉の集中が見られることに注目したい。

斑紋その他の形質の、表現の程度の差が、そのまま種の帰属基準になり得るとは限らない。その形質が全体の中でどのように位置づけされているかをまず把握したうえで、差異の大小にとらわれずに評価を進めていくべきであろう。ごく微細にしか見えぬ部位が、種の帰属を決定する重要な基準になる例としては、ヤマキマダラヒカゲN.niphonicaとサトキマダラヒカゲN.goschkevitchiiの区別点がある。具体的には、前翅外縁の丸味の程度と、前翅表第3室(雌)、第5室(雄)の眼状紋の形、および後翅裏面基底部に並ぶ3つの丸紋のうち最下方の紋の位置。この3形質はniphonicaとgoschkevitschiiの比較に於いては、ほぼ完ぺきな分類指標となり得る。逆に、表現が全く異なるように見えても、種の比較には何ら意味をもたぬ場合もある。Niphonicaとgoschkevitschiiの例をとると、全体の色や斑紋の印象に関しては2つの種の暖地産の夏型どうしと寒冷地産の春型どうしのほうが、季節や地域を異にする2種間より、はるかに差は小さい。

雄交尾器についても同様の事が言える。微細な末端形質(困ったことに案外目につき易い)に拘泥されるのではなく、その場その場の局面に応じて正確に評価を下さなければならない(ある程度の形質が、有る分類群の中ではきわめて安定していて、分類上の大きな指標となり得るのに対し、別の分類群の中では変異が多く分類指標として全く意味をなさない、といった例も少なくない)。

Neope属の場合、phallusのsuprazonal sheathの側面に出現する微小な鋸歯群の存在を、どのように評価するか、という問題がある。Bremeriやniphonicaでは、常に広い面積に多数の鋸歯群が整然と出現するものと捉え、pulaha近縁種群やagrestis、armandiiでは、「全く欠く場合も含め、ごく発達が悪い」という視点から一括して把握し、両者の間には一線を区すべきであろう。また、鋸歯群の散付位置についても、検討する必要がある。単に鋸歯群を欠くか備えるかで評価すると、大きな誤りを犯すことになる。

そのような視点から、著者の検閲し得た各種について、属内の分類を試みた(検索表を参照【*本書では省略】)。やや別系統のyama、muirheadiや、標本を被検し得なかったウラナミキマダラヒカゲN.simulansなど数種、および色彩・斑紋が明瞭に異なるシロキマダラヒカゲN.armandiiを別とした、外観のよく似た中国大陸産やその周辺地域産の各種(それらは日本産の2種とも似る)は、bremeri、pulaha complex、argestisの3自然群に分けることが出来る。アリサンキマダラヒカゲの近縁種群をpulaha complexとして表したが、“一見同じに見える別物の集合体”としてより“一見違って見える同一物の集合体”と考えたい。Pulaha、pulahoides、pulahina、ramosa(未検)、“ユンナンクロキマダラヒカゲ”、それにshirozui(小岩屋1989の挿図による)は、いずれも、亜種・地域変異・季節変異・個体変異、および何らかの意味を持つ表現型として、同一種pulahaに帰属する可能性が強いと思われる(むしろ台湾産pulaha didiaは、筆者の検した限りでは常にphallusの棘を欠き、長毛・長伸鱗の密生した性斑の発達が著しく、他と区別される)。Pulaha complex内の正確な分類は、幼生期の形態比較、さらには遺伝子レベルでの分析結果を待たねばならぬであろう。

181 オオキマダラヒカゲ Neope yama

N.bhadraと並ぶNeope属中の最大種。翅は分厚く、体つきも頑丈で、他の同属各種とはかなりイメージが異なる。雄交尾器の形状は、全体としてアリサンキマダラヒカゲNeope pulaha近縁種群やシロキマダラヒカゲN.armandiiに似るが、phallusのみきわめて特異で、前後に短く、左右に幅広く、背方へ強く屈曲して腹方に広くperi-vesical areaを生じることなど、オジロヒカゲ属Zophoessaの種と酷似する。祖先的形質をZophoessaと共有している、と見ることが出来るかもしれない。四川省峨眉山では、中腹付近の登山道上や付近の湿った崩地などで吸水し、しばしば数頭の集団を形成する。6月のはじめには新鮮な個体が多い。なお、1989年4月25日には、重慶市の四川外語学院構内でも、1個体(おそらく雌)を目撃している。なお、オオキマダラヒカゲの和名はすでにN.bhadraに冠せられているため、本種にはウスグロキマダラヒカゲの名を当てるべきであろう。D(167頁6*)
【*「中国のチョウ」掲載写真を本書に再掲、新たな撮影はない】

182 ウラキマダラヒカゲNeope yama

人里付近にも多い最もポピュラーなNeope属の種で、その分布域や棲息環境上の位置づけは、ちょうど日本のサトキマダラヒカゲN.goschkevitschiiに相当するといってよい。ただし、斑紋構成や雄交尾器の形状は、goschkevitschiiはもとより他のNeope属各種とは、かなり異なる。四川省成都(市内にも分布する)近郊の青城山山麓で盛夏に見られるNeope属の種は、ほとんどが本種で、5月(手許の記録にある初見日は5月27日:1989年、青城山山麓)から10月(記録上の終見日は9月27日:1988年、重慶市四川外語学院)まで目撃していることから、年3化(またはそれ以上)の可能性が考えられる。D(167頁7*)
【*本書では、広東省翁源県(春型・夏型)およびベトナム・ファン―パン山(春型)の3個体を新たに掲載し、「中国のチョウ」に掲載した写真(重慶市烈士墓alt.300m 17.Sep.1988)は割愛】

183 ウラナミキマダラヒカゲ● Neope simulans

中国大陸西南部に分布する大型種。四川省西南部ミニャ・コンカ(7556m)山麓の海螺溝入り付近の、切り立った川岸を縦貫する車道のカーブ地点(1989年5月3日夕刻)や、集落につづく山道周辺に発達する雑木林(ナラガシワやクヌギに似たQuercus属の種で構成)内(5月4日午前中)を飛び交う数頭の個体を目撃したが、飛翔は活発でなかなかとまらず、撮影に苦労した。本種に類似したN.christiやN.oberthueriともども雄交尾器は見していず、属中の系統的な位置づけは不明(De Less1957の挿図から判断すれば、Neope属としての一般型で特異なものではない)。青山(1991b*「私たちの自然No.353:14‐18」日本鳥類保護連盟)では、本書に掲載したものと同じ写真をN.christiとして紹介したが、N.christiとN.simulansの関係の解明については、将来の研究に委ねなければならないであろう。F(167頁2*)
【*本書でも同一写真を再掲し、加えて、雲南省梅里雪山明永入山管理事務所の室内に紛れ込んでいた一個体(死骸)を紹介した】
【**翅表はN.oberthueriと全く同じ。裏面は特異で一見異常型のような趣きを持つが、遠隔2地域産で差異が見あたらない。後翅裏面の中央部付近に特殊鱗(黄褐色)の塊がある】

184 シロキマダラヒカゲNeope armandii

中国大陸南部からヒマラヤ地方東部にかけてと、台湾の高地に分布し、筆者は四川省峨眉山中腹と、雲南省南部のベトナム国境に近い山岳地帯、金平県で記録した。峨眉山では6月はじめ、中腹の登山道上で他のヒカゲチョウ類とともに吸水中の、やや飛び古した1雄を撮影・採取。台湾産亜種lacticoloraや雲南省産に比べ著しく小型で、後翅表の白色部の発達が悪く、種armandiiとしての外観的特徴の表現は、あまり顕著でない。金平では、4月中旬、峠頂の雲霧林中に形成された天然放牧草地の林縁に沿ってダイナミックに飛翔し、しばしば撮影中の著者らにまとわりつき、衣類に静止して吸汗を行う数頭の雌雄を観察した。金平産は四川省産に比べ明らかに大型で、台湾産lacticoloraとほぼ同大、翅表の淡色斑は白色のlacticoloraと異なり粉白色を帯びた明るいオレンジ色で、後翅表を広く覆って第4脈以下の外縁に達し(lacticoloraでは白色部は完全には外縁に達しない)、後翅表の各室に大きく鮮明な眼状紋を現す。峨眉山、金平産ともに、季節および鮮度から考えおそらく春型(乾季型)で、金平産は原名亜種に属すると思われるが、峨眉山産の亜種帰属については未詳。手許の資料によると峨眉山にも原名亜種が分布する由だが、本書掲載の個体は明らかにそれとは異なり、将来の検証が待たれる。雄交尾器は全体にきわめて細長く、雲南省金平産・四川省峨眉山産・台湾産の順でその特徴が著しい。D.H(167頁3・4/29頁右下*)
【*本書でも同一写真を再掲し、新たに四川省西嶺雪山産(外観は峨眉山産に類似しやや大型)を加えた(写真が手許になく本書での紹介は出来なかったが、広西壮族自治区興堂山2007.4.30の個体の外観は、雲南省金平産に類似する)】

185 ユンナンクロキマダラヒカゲ● Neope sp.

雲南省南部の金平北方の峠上で全種シロキマダラヒカゲN.armandiiと混棲し、曇天時の午後には周辺の林の梢から、峠頂の車道(未舗装)に何頭もの個体が舞い降り、路上に静止する。前種よりひとまわり以上小型で、日本のヤマキマダラヒカゲN.niphonica春型と感じは似ている。4月中旬には、新鮮な個体が多い前種とは対照的にやや汚損した個体が多く、おそらく3月後半頃から発生しているものと思われる。翅表の地色が濃黒色を帯び、アンテナの先端が鮮明な赤色を呈すなど独自の特徴を持ち、独立種の可能性もあるが、雄交尾器には、ニセアリサンキマダラヒカゲN.pulahoidesや大陸産アリサンキマダラヒカゲN.pulahaおよびN.pulahinaとの間に有意差を全く見出せず、それらの種と同一種である可能性も考えられる*。H(166頁5)
【*後翅裏基部の3丸紋配列や翅表色調などを考えれば現時点で結論を出すことは難しい】
【**本書にも同一写真を再掲した(Neope pulahoidesの項)】
【***該当文献が手許に無く確認が出来ないが「中国のチョウ」刊行と前後して、雲南省南部の個体群に新種記載が為されていたと思う】

186 ニセアリサンキマダラヒカゲNeope pulahoides

雄の前翅表に性標を欠く(正確には翅底の明色域が広い)ことから真のアリサンキマダラヒカゲN.pulahaと区別されるが、雄交尾器の形状は、アリサンキマダラヒカゲやユンナンクロキマダラヒカゲN.sp.、N.pulahoidesおよびN.shirozuiなどとの間に有意差を認め得ない*。四川省近郊ではタイワンキマダラヒカゲ(アカキマダラヒカゲ)N.bremeri bremeriと混棲し、春季には青城山山麓の渓流沿い(1990年4月8日)で、夏季には玉塁山中腹の雑木林内(1991年8月7日)と大邑原始林入口付近(車道脇のコンクリート側溝上で吸水、1991年8月9日)で、それぞれ新鮮な1雄を撮影している。タイワンキマダラヒカゲ(アカキマダラヒカゲ)と異なり季節による差は顕著でない。和名はウスイロキマダラヒカゲとするべきかも知れない。D(166頁6、167頁5)
【*筆者がチェックした限り、phallusのsuprazonal sheath背面の鋸歯群は、台湾産亜種didinaおよびN.shirozui(小岩屋1989の挿図による)では全く欠き、そのほかの“pulaha complex”の顕鏡個体では僅かながら出現する】
【**本書ではベトナムの雲南省境近くで春夏複数回に亘り撮影した集団をN.phlahoidesと同定し、和名をオオアリサンキマダラヒカゲに改め新たに紹介した。また、浙江省天目山系で撮影した(bremeriと混棲する)一部個体をN.ramosaタイリクアリサンキマダラヒカゲとし、「中国のチョウ」にN.pulahoidesとして図版を掲載した四川省成都西郊山地産の2個体(やはりbremeriと混棲)も暫定的にramosaとしたが、広義の種“pulaha”内での位置づけやbremeriとの関係を含め、今後の検証を要する。】

187 クロキマダラヒカゲ Neope argestis

雄交尾器の概形はpulaha complexやタイワンキマダラヒカゲ(アカキマダラヒカゲ)N.bremeriや日本産の2種に似るが、全体に寸詰まり気味で、ことにsaccusが短い。Tegmen背縁は丸味を帯び、uncusはごくスリム。Valvaの後半の椀状部は強く背向する傾向がある。Phallusはやや短めで、suprazonal sheath両側面には個体により背方からごく小さな鋸歯群が出現する。雄の性斑紋状暗色部は、niphonicaやbremeri同様に翅底部付近の翅脈沿いに出現する。四川省峨眉山では、他のヒカゲチョウ類各種よりも高標高地に見られ、標高2500m前後の亜高山帯夏緑樹林内に数が多い。翅型は左右に寸詰まりで全体に四角っぽく、体つきも華奢で、高山蝶のような趣がある。日本産ヤマキマダラヒカゲの房総半島亜種kiyosumiensis春型には、しばしば本種に似た翅型の個体が見出される。翅色は黒色味が強く、ことに後翅裏面の眼状紋は濃く発達が良いが、中央の白点を欠き、前・後翅の外縁は顕著な白色毛で縁取られる。D(167頁1)
【*「中国のチョウ」刊行時点では、四川省峨眉山で1個体を撮影(標本は雲南省西北部産を含め複数個体をチェック)】したのみだったが、その後雲南省をメイン・フィールドとするようになって、N.agrestisがこの一帯(中国西南部の高標高地帯)に於けるNeope属の最優占種(多くの地でoberthueriと混棲)であることを知った。峨眉山付近が分布の東限に当たると思う(西はミャンマー北部にまで分布)。
【**種としての特徴は上記各点のほか、後翅裏面基部の3丸紋の下の1つが内側に大きくずれること(ヤマキマダラヒカゲやN.agrestisと共通。】

188 タイワンキマダラヒカゲ(アカキマダラヒカゲ) Neope bremeri bremeri

アリサンキマダラヒカゲNeope pulahaやその近縁数種と対応し、北部を除く中国大陸のかなり広い範囲に分布するものと思われる。春型はもとはアリサンキマダラヒカゲの一亜種と考えられていたが、筆者が1988年3月31日に撮影したNeope sp.の正体を確かめるべく、翌春、高橋真弓氏とともに調査を行った結果、台湾に棲むタイワンキマダラヒカゲと同一種の、大陸産(原名亜種)春型であることが判明した(青山1991b[本書13~14頁に転載]、高橋1993a)。ただし、真のタイワンキマダラヒカゲ(台湾産亜種)とは雄交尾器に種を別にしても良い程の有意差があり、本書では暫定的に同一種に含めておくが、あるいは別種とされるべきかも知れない。

雄交尾器の大きさは、大陸産が日本産niphonicaとほぼ同程度なのに対し、台湾産は全体が明らかに大形。Uncusはniphonicaに似た大陸産に比べ、台湾産はより前後に長く、基部があまりくびれずに後方へ伸びる。Valvaのharpe末端は鈍頭で他の各種のような指状突起を持たないが、そのプロポーションがniphonicaとさほど変わらない大陸産に対し、台湾産では後半の椀状部がきわめて長く発達する。大陸産と台湾産の最も顕著な差異は、phallusの形状に見られる。大陸産は日本産niphonicaとほぼ同程度の大きさ。それに対し台湾産はphallus全体が著しく発達し、その全長はring高を遥かに超え、Neope属全種の中でもずば抜けて大きい。また、suprazonal sheathの両側縁に生じる鋸歯群は、大陸産ではniphonicaと同様に、細かく比較的密にかつ均等に散付されるが、台湾産では個々の鋸歯そのものが大きく、より粗く散付され、ことに後端部の数個が顕著に発達する。大陸2地域(*四川省/浙江省)間の雄交尾器各部形状には、有意差は見られない。

大陸産は、各形質の発達程度に於いては台湾産よりむしろ日本産niphonicaに近く、bremeri固有の特徴の発現度が低いのに対し、台湾産では特徴の発現が著しく進んでいる。台湾産と大陸産の雄交尾器の差異の程度は、(差が全くないに等しいpulaha complexはもとより)Neope属全体を通して見た種間差の一般的状況からすれば、別種として問題ない有意差と判断できる。大陸産、台湾産の両集団の特徴が同一方向の延長線上にあることから、両者の差異は、大陸産を祖型とし、隔離による著しい特殊化の結果生じたと考え、両集団を同一種の亜種関係に位置づけることも、必ずしも納得できないではない。しかし性斑の形状など雄交尾器以外にも差が見られることや、Neope属各種内での分類上のバランスを考えれば、とりあえず大陸産と台湾産を別の種に分けておく処置が、より賢明のように思える。本書では、暫定的に現行の処置に沿って台湾産をbremeriの一亜種(台湾から記録されている“2種”、タイワンキマダラヒカゲN.bremeri taiwanaとワタナベキマダラヒカゲN.watanabeiが同一種ならば、亜種名は先取権をもつwatanabeiとなる。ここでは高橋真弓[1993b]に従って両者を同一種とし、watanabeiとする)に置き、将来独立の種として認められる可能性をふまえて、和名をアカキマダラヒカゲ(春型後翅表下半が独特の赤味をおびることによる)と名付けておく(図版頁ではアカチャキマダラヒカゲとした。どちらを選ぶかは読者の判断にゆだねる)。

杭州では、アカオビギフチョウluehdorfia chinensisの棲む市内の雑木林に、3月中旬から4月上旬にかけて豊産し(1989年度の初見は3月14日)、棲息地にメダケ属Pleiobrastusの種ではないが、日本のメダケやネザサに相応する状態でマダケ属Phyllostachysの種が林床を覆っていて、地面近くに垂れ下がった葉の裏にとまり産卵姿勢をとる雌を撮影している(1989年3月16日、産卵前に逃げ去った)。

四川省成都市近郊の青城山山麓では、春型は4月上~中旬に数多く見られ、夏型は8月上旬頃出現するが、目にする個体は春季よりずっと少ない。春型の出現時期から考えれば、本来なら第2化が出現していてもよさそうな6月(杭州市内産は飼育下で6月に夏型が出現、高橋1991)には、1989年以降数多くの調査を重ねてきたのにも関わらず全く見出すことが出来ず、ヤマキマダラヒカゲ房総亜種と同様に、夏期に終齢幼虫や蛹で休眠している可能性も、全く考えられないわけではない。杭州市では樹木での吸汁性が著しく顕著で、吸水行動はほとんど記録していないが、青城山に於ける夏型は吸水志向が強く、吸水集団もしばしば形成される。市街地に隣接した林内にも多産する杭州市とは異なり、成都市(四川盆地の平原中に広がり、青城山などの山裾まで50㎞ほど離れている)では、市内では見ることが出来なかった。なお、北脇和光氏より、林幸二郎氏採集の海南島産2雌(1992年6月27日、かなり汚損、1989年6月3日五指山、ほぼ新鮮)の提供を受けている。このうち、1989年6月3日の個体は明らかなbremeri夏型の特徴を示している(したがってここでは年3回以上発生している可能性が強い)が、1992年6月27日の個体は斑紋構成がかなり異なっており(一見N.simulansに類似)、種の帰属には再考を要する。A.D(166頁1~4、168頁1・2)
【*著者は2000年代に入って雲南省に活動の拠点を移したこともあって、N.buremeriに出会う機会が激減した。本書で掲載した写真は「中国のチョウ」で紹介したものが大半(春型に関しては全て)】で、新たに追加紹介したのは杭州西郊の天目山系(西天目山山上と清涼峰山麓)で7月に撮影した夏型2雄のみである。杭州市区内でも7月(2002年)に夏型雄を撮影しているが、原版写真が見つからず紹介できなかった。本書でN.ramosa?として紹介した成都西郊山地産の個体の一部も、bremeriの可能性があるかも知れない。

【以下、2022年追記】

上記したように、「中国のチョウ」刊行後2000年代に入り雲南省北部に活動の拠点を移したことから、日常的に出会うNeope属のメンバーの中心は、N.argustisとN.oberthueriに置き換わった。

スミイロキマダラヒカゲ Neope oberthuri

梅里雪山や香格里拉近郊(標高2200m~3800m)でN.agrestisと混棲する。前翅表の翅脈沿いの黄色条を欠き(梅里雪山で同所的に分布するもう一つの種N.simulensと、前翅表の外観が共通する。後翅裏基部の3つの丸紋は、ほぼ直線状に並ぶ。ラオスなどインドシナ半島北部からも記録されているが、雲南省北部の集団との関係については未詳。




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週刊Weekly Magazine 【2022年1月8日号】上

2021-12-22 21:36:56 | コロナ、差別問題と民主化運動、日本と中国の蝶




中国(および東アジア)の蝶Butterflie of China(and Eastern Asia)中国(和东亚)的蝴蝶
クロキマダラヒカゲ 田园荫眼蝶 キマダラヒカゲ属 Neope荫眼蝶 【タテハチョウ科Nymphalidae蛱蝶科】
Junzo Aoyama
【Photo office萌葱】

はじめに

中国をフィールドにして35年が経つ(この3年間は新型ウイルスとかで日本に閉じ込められているが)。1998年に400頁余に及ぶ「中国のチョウ」を刊行してからも、倍以上の24年が経った。その間、何冊かの自主刊行本(ミヤマシロチョウ、ベニシジミなど)を作成したが、筆者の資金力では数冊の製本が精一杯で、その後は途絶えてしまった。

作品自体は、ほかにも数多く書き溜めてはいる。しかし書籍化することは困難である。ということで、このままでは写真や資料を死蔵したままになってしまう可能性が高い。そこで、これまでに書き溜めて来た「未完成作品」をクオリティには目をつぶって(廉価な印刷製本で)世に問うことにした。

一部は自主刊行本として発表済みの作品のリニューアルであり、また「中国のチョウ」(東海大学出版会1998)の記事の再掲も行った。構成上も内容的にも中途半端なスタイルであり、多くの内容が重複しているが、敢えてそのままの形で組むことにした。本来なら、到底商品として成り立つものではないと思うが、筆者は今後も改めて「中国と日本の蝶」の探索に挑戦したいという想いがあり、それを実現するためのカンパだと解釈して頂ければ幸いである(写真のクオリティに関しては付録にオリジナル原稿を収納したCDを添えることでカバーが出来ると思う)。

蝶の研究者や愛好家やコレクターの知識量は凄まじいものがある。著者などは、文字通り足元にも及ばない、と自覚している。ただ、著者は30年間以上に亘って、自分の脚で各地を歩き、自分の眼で生きた蝶たちの姿に接し、自分の頭でその実態再現を構築してきた、という自負もある。上記した人々(研究者や愛好家)とは別の次元からの、対象の把握が為されていると思っている。

体系的にではなく俯瞰的に、細部の徹底追及ではなくランダムな拾い読みで、斜め横辺りの視点から、様々な問題提起を行っていこうと思っている。それはそれで、意味のある事であろう。

とは言っても、なにしろ、ここ数年はフィールドからも遠ざかっているし、「中国のチョウ」上梓以降は、ゲニタリアの検鏡も出来ないでいる。古い知識に頼った、ほとんど感覚的ともいえる分析ばかりである。著者の指摘が、お門違いだったり、幼稚に過ぎるという批判を受けるだろうことは、承知している。

本を購入して頂いた、すなわちお金をとっていながらこのようなお願いをすることは厚かましいこと限りないのだが、 著者の呈した様々な疑問(問題提起)などについて、忌憚の無いご意見を頂ければ有難い。

著者の呈した問題提起を、読者の皆さんと一緒に考えていくことが出来ればと望んでいる。一応「マガジン」という性格を利用して、意見をくだされば、次号以降に誌上で議論を展開していくことも出来ると思う。
どうか、よろしく。

*作品によっては「青山潤三遺稿集」となっています。その時点における将来(正式作品発表時)を考慮しての準備処置であることを御理解ください。また、著者として、若い友人の李芳Li Fang(Monica Lee)/Lewis Crannitchの名が加えられている場合がありますが、撮影・執筆はほぼ全て青山によるものです(翻訳の一部を両名が担当)。両名のクレジットが為されているものについては将来を考え、それを付したままにしておきます。

*オリジナル原稿と原版写真を収納したCDを添付しました。原版写真の個人的利用は自由に行ってください。商業的に使われる場合は、その旨を著者へ報告いただき、収益の一部(各自のご判断に任せます)を納入ください。

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週刊:中国(および東アジア)の蝶 【2022.1.8】 『クロキマダラヒカゲNeope agrestis(キマダラヒカゲ属 Neope)』は、主に次の原典を元に構成しています。This book is based on the following original text. 本书根据以下原文改编。
●作成途上の単行本「中国の蝶」のNeope属の項の抜粋 2020.7.4脱稿(CD版「青山潤三作品集」収納)訳文追加
●「日本固有種ヤマキマダラヒカゲ・サトキマダラヒカゲの大陸産対応種について」
(ブログ青山潤三の世界あや子版2013.5.24)の再録(写真を除く記事全文、*は本書での注と改変)
●「中国のチョウ(東海大学出版会)1998」の再録(写真を除く記事全文)

ジャノメチョウ族Satyrini/ヒカゲチョウ亜族Lethina/キマダラヒカゲ属Neope荫眼蝶属
筆者が撮影したことのある中国大陸産(および日本産2種)
Neope yama 丝链荫眼蝶 オオキマダラヒカゲ
Neope muirheadii 蒙链荫眼蝶 ウラキマダラヒカゲ
Neope simulans 拟网荫眼蝶 ウラナミキマダラヒカゲ
Neope armandii 阿芒荫眼蝶 シロキマダラヒカゲ
Neope ramosa 大斑荫眼蝶(暫定分類) タイリクアリサンキマダラヒカゲ(台湾産を含むpulahaとの関係は未詳)
Neope pulahoides 黑斑荫眼蝶(暫定分類) オオアリサンキマダラヒカゲ(台湾産を含むpulahaとの関係は未詳)
Neope oberthueri 奥荫眼蝶 スミイロキマダラヒカゲ
Neope goschkevitchii 日本荫眼蝶 サトキマダラヒカゲ(日本列島固有種)
Neope agrestis 田园荫眼蝶 クロキマダラヒカゲ
Neope niphonica 山荫眼蝶 ヤマキマダラヒカゲ(日本列島固有種)
Neope buremeri 布莱荫眼蝶 アカキマダラヒカゲ(台湾産タイワンキマダラヒカゲの原名亜種)

Miller(1968)などによる古くからの分類でも、DNA解析に基づいた新しい分類体系でも、キマダラヒカゲ属は常にヒカゲチョウ族(あるいはジャノメチョウ族ヒカゲチョウ亜族)の一員として扱われてきた。筆者もこの処遇を概ね支持するが、「必ず翅を閉じて止まる」という、他のヒカゲチョウ亜族の各種と異なる独自の性質を持つことは、非常に気になる点である。ただし、キマダラヒカゲ属のうち、Neope yama において♂ゲニタリアの構造がヒカゲチョウ属の一グループ(独立属と見做した場合のZophoessa属)との共通点を有している事は、本種がNeope属とLethe属(Zophoessa属)との橋渡し的存在であることを示しているように思われ、生態上の特徴は二次的な現象なのかも知れない。
Neope agrestisとNeope oberthueriiは、Neope属全体として見た場合、ごく狭い地域にのみ分布する希少種だが、梅里雪山周辺では最もポピュラーな蝶の一つである。15年間に亘りこの地で調査・撮影を続けた著者にとっては、最も身近な対象であるため、本書ではこの2種を中心に紹介していく。  

Neope属は、日本でもよく似た2種(ヤマキマダラヒカゲとサトキマダラヒカゲ)がセットになって、大局的に見れば(原則サトキマダラヒカゲのみ分布する低標高地・温暖地を除く)分布圏のほぼ全域で混在している。同様に大陸部に於いても、属の分布域全体(「東アジア」地域、ただし朝鮮半島周辺を除き、ヒマラヤ地方を含む)で2つの種*がセットで分布しているように思える。それらの“2種”が日本産2種との間に、どのような系統的反映を示すかという判断はさておき、それぞれの地における近縁2種(あるいは任意の分類群)の関係性は、日本産2種間の関係性と同一方向を示している、という実態は確かなようである。

ごく大雑把に捉えれば、agrestis-niphonica‐bremeri(台湾産watanabeiを含む)と、oberthueri‐goschkevitchii
‐pulaha(complex)の流れを読み取れる。系統的な直接の繋がりの是非(ことに後者の組み合わせでは積極的な支持要素が見つからない)はともかく、雄交尾器、斑紋様式、雄の性標の状態、等々の比較の上では、ある程度の纏まりを持つようにも思えるし、かつ非常に複雑で混沌としている部分もある。DNAの解析も含め、今後の検証を待たねばならない。

*ほかに、やや異なる系統のシロキマダラヒカゲ近縁種群やウラキマダラヒカゲ(この両種は台湾にも分布)、ウラナミキマダラヒカゲ、オオキマダラヒカゲなども幾つかの地域で同所分布することを確認している。Neope 属としては他にも幾つかの種(全て中国西南部‐インドシナ半島北部‐ヒマラヤ地方)が記載されているが、筆者は未確認のため、詳細については言及し得ない。明らかな独立種(ただしarmandiとの関係については検討余地が残る)であろうbhadraなど数種を除いては、本書でとり上げた各種に収斂されるものと思われる(その場合の模式分類群の特定については未詳)。

**和名は、原則として「中国のチョウ」で取り上げた名を使用した。外観の印象に照らし合わせて、必ずしも適切で無いものも含まれると思うが、そのままにしておく。

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Neope agrestis 田园荫眼蝶 クロキマダラヒカゲ 《bremeri種群》
写真(省略)上:雲南省梅里雪山明永2017.6.15alt.2500m/下左:同2009.6.12 alt.3600m/下右:維西~巨旬2010.5.18 alt.2500m
>四川省の大渡河以西から雲南省西北部を経てミャンマー北部に至る標高2000m以上の高地帯に分布し、次種と混棲。長江中~下流域低地帯に分布するNeope bremeri(=台湾産タイワンキマダラヒカゲ原名亜種)の代置的存在で、同様に後翅裏面基部近くの三丸紋の下側の一つが顕著にずれるが、亜外縁沿いの眼状紋は余り離れずに並ぶ。眼状紋中心の白点を欠く。 おそらく年1化。4月から7月まで新鮮個体が見られる。
>Coexists with next species Neope oberthueri in the mountainous areas of southwestern China. A substitute species of Neope bremeri (distributed in the lowlands of middle to lower reaches of 長江), similar to bremeri, one of lower sides of 3 crest near base of back side of thind wing is significantly displaced. However, top 3 of the eye-spots along outer edge are not apart. Lacks white spot in the center of eyespot. One brood from April to July.
>在中国西南山区与下一个物种共存。它是分布在长江中下游低地的布莱荫眼蝶(=台湾荫眼蝶原名亚种)的替代种。但, 沿外边缘的成排眼点, 上三个也排成一排。它缺少眼点中心的白点。年发生一次(4‐7月)。

Neope oberthueri 奥荫眼蝶 スミイロキマダラヒカゲ 《pulaha種群》
写真(省略)上:雲南省梅里雪山明永2017.6.15 alt.2300m/下左:同/下右:梅里雪山西当~雨崩2009.6.11 alt.3300m
>中国西南部山岳地帯(雲南省西北部~ミャンマー北部)に分布しNeope agrestisと混棲する。色彩・斑紋の個体差が著しいが、後翅裏面基部の3丸紋が離れずに並び、前表翅脈沿いが暗色(同所分布するsimulansと区別不可)であること等は共通。後翅裏面外縁沿いの上から2つ目の眼状紋は前種同様余り内側に寄らない。翅裏は薄紫色を帯びることが多い。4月~7月に出現するが、おそらく年1化。
>Distributed in mountain areas of southwestern China and coexists with Neope agrestis. Significant individual differences in color and mottled pattern. 3 round patterns at base of back face of hind wings are lined up straight. vein of upper face are dark (indistinguishable from simulans). 2nd eye-spot from top along outer edge of back face of hind wing don't move inward same as agrestis. Back face is often light purple. One brood April to July.
>分布于中国西南部山区,与奥荫眼蝶共存。 颜色和斑纹个体差异显着,但共同点是后翅背面基部的3个圆形花纹排列成直线,前翅脉较暗(与拟象无区别)。沿后翅背面外缘自上而下的第2个眼点不向内移动,与奥荫眼蝶相同。 翅膀背面常呈淡紫色。年发生一次(4‐7月)。

Neope bremeri 布莱荫眼蝶 アカキマダラヒカゲ(タイワンキマダラヒカゲ原名亜種) 
写真(省略)浙江省杭州市alt.10m 1989.3.31(春型♂)/四川青城山alt.900m 1989.8.4(夏型♂)/浙江省清涼峰alt.400m 2018.8.14(夏型♂)/浙江省杭州市alt.10m 1989.3.31(春型♀)
>長江中~下流域に広く分布し、河口近くの杭州では都心にも棲息。成都西郊の低山地にも分布しているが、それ以西の西南部高地帯ではNeope agrestisに置き換わる。後翅裏面基部の丸紋、亜外縁沿いの眼状紋ともに2つ目と3つ目が顕著にずれる(agrestisとは前者で共通し後者で相違する)。雄翅表に特殊鱗密集域がある(上下には分離しない)。年二化。春型(次頁上右も)と夏型(次頁左下も)で外観差が著しい。
>Widely distributed in middle to lower reaches of 長江, also inhabits city center in 杭州 near mouth of 長江. Also distributed in low mountains west of 成都, but it replaces to Neope agrestis in high-altitude mountain area on west. Both, rows of round crests at the base of back of hind wings and rows of eye-spots along sub-outer edge are second and third are significantly off (former is same to agrestis and latter is different). Male wing surface have special scaled area (not separated above and below). Significant difference in appearance between the spring type (also on the upper right of the next page) and the summer type (also on the lower left of the next page).
> 广泛分布于长江中下游(包括近长江口杭州市中心)、在成都西郊的低山也有分布,但它取代它西部高地的 Neope agrestis。后翅背面基部圆冠,沿外缘的一排眼点,两个都,第二个和第三个显着交替(与agrestis比较,前者同,后者不同)。牡机翼表面覆盖着特殊的鳞片区域(上下不分开)。春季型和夏季型在外观上存在显着差异。

Neope ramosa大斑荫眼蝶₋pulahoides黑斑荫眼蝶₋pulaha complex   
写真(省略)四川省西嶺雪山alt.1100m 1991.4.9/四川省青城山alt.900m 1990.4.8、同・1989.4.5(参考Neope bremeri春型)/中段と下段左(参考Neope bremeri夏型)と中央:浙江省西天目山alt.1300m 2018.7.8、下段右:四川省西嶺雪山alt.1500m 2009.8.5
>四川省大渡江以西のNeope agrestisとNeope oberturi、長江下流域のNeope bremeriは種名を特定したが、その他の同定についてはギブアップ。参考としてbremeri春型(上右)と夏型(下左)も紹介しておく。上中央は性標欠如、右(bremeri)は有り、他は未確認。西天目山の個体はbremeriを含め全て同一地点・日時の撮影。
>Identify species names for N.agrestis and N.oberturi west of 四川大渡河, and N.bremeri lower reaches of長江, but give up for other identifications. For reference, also introduce bremeri Spring form (upper right) and Summer form (lower left). Upper center lacks special scaled area, right (=bremeri) present, others are unconfirmed. All individuals of 西天目山(including bremeri) photographed at same location and at same date and time.
>对四川大渡河以西的Neope agrestis、Neope oberturi、长江下游的Neope bremeri 进行种名鉴定、放弃其他鉴定。作为参考,还介绍了 bremeri夏季型(右上)和夏季型(左下)。上中特殊的鳞片无,右(=bremeri)有,其他未确认。 西天目山(包括bremeri)都是在同一地点同一日时拍摄。

Neope pulahoides 黑斑荫眼蝶 オオアリサンキマダラヒカゲ (附:ユンナンクロキマダラヒカゲ)
写真(省略)越南(ベトナムVietnam)沙巴(Sa-pa)2009.3.13 /越南沙巴alt.1500m 2009.3.10/越南沙巴alt.1400m 2011.7.25/ 雲南省金平alt.2000m 1995.4.8(ユンナンクロキマダラヒカゲ)
>春夏とも大型で、翅型が鋭角なことなどNeope armandiに類似(目を窄めて見ると後翅裏基方寄りのarmandiの白帯と同じ位置にぼんやりと白帯が走るようにも思える)。ここでは暫定的にNeope pulahoidesとしておく。下右は雲南省最南部のベトナム国境山地で4月上旬に撮影(やや汚損した個体が多く、同時期同所に見られるarmandiは新鮮)。Neope agrestisやNeope bremeriに対応すると思われるが、翅表地色が著しく黒く(それについてはNeope obertureiとの関連も考えねばならない)、♂交尾器はNeope pulahaなどにも似る。
>As a whole, similar to Neope armandi in that both spring and summer form are large and acute-angled wing. When squeeze eyes, it seems that the white belt runs vaguely at the same position as the white belt of armandi near the back of the hind wings. Here, it is tentatively indentify to as Neope pulahoides. Bottom right, photographing in early April in the Vietnam border mountainous area in the southernmost part of Yunnan (many individuals are slightly soiled, and armandii are fresh, that I checked at same time same place). It seems to correspond to Neope agrestis and Neope bremeri, but wing surface color is remarkably black (also need consider relationship with Neope oberturei) and ♂ genitalia is similar to Neope pulaha.
>作为一个整体与 Neope armandi 相似、春夏两季都很大、有一个锐角的翅膀形状(挤眼一看,白带似乎在后翅后部附近的armandii白带的同一位置依稀可见)。我暂时称 Neope pulahoides。右下图是4月初在云南省最南端的越南边境山区拍摄的(很多都是轻微的脏,同时在那里看到的Neope armandi是新鲜的)。它似乎对应于 Neope agrestis 和 Neope bremeri,但翼面颜色显着黑色(也必须考虑与 Neope oberturei 的关系),♂生殖器与Neope pulaha 相似。

Neope armandii 阿芒荫眼蝶 シロキマダラヒカゲ
写真(省略)四川省西嶺雪山alt.2000m 2011.7.11/雲南省金平alt.2000m 1995 .4.11/四川省峨眉山alt.1700m 1990.6.1/雲南省金平alt.2000m 1995 .4.11
>後翅表が白~オレンジ色を帯び、後翅裏基方寄りに明確な白帯が斜めに走る(この特徴がさらに強調されたのがNeope bhadraだが、系統的関連については未詳)。四川省産は後翅表が白色、雲南省金平産と広西壮族自治区興堂山産(2007.4.30図示なし)は橙褐色を帯びる(裏面にも出現)。雄交尾器はプロポーションがやや異なる以外は他の各種と共通(全体的に見てNeope agrestisが最も寸詰まりで本種が最も前後に長い)。
> Inside of hind wings white or pale orange, and outside clear white belt runs diagonally toward base to upper edge (this feature is further emphasized by Neope bhadra, but systematic relationship is unknown). Inside of hind wings color 四川 is white, 雲南and広西 (not shown this book, April 30, 2007) are orange-brown (also it appear on outside). The male genitalia is common to all other species except that the proportions are slightly different (overall, Neope agrestis is most compact and Neope armandii is longest in front to back).
>后翅正面白色和淡橙色,背面有一条清晰的白带斜向基部至上缘(Neope bhadra 进一步强调了这一特征,但系统关系未知)。后翅内侧颜色四川为白色,云南和広西(本书未显示,2007年4月30日)为橙棕色(也出现在外侧)。雄性生殖器与所有其他物种相同,只是总体比例有不同(总体而言,Neope agrestis 最紧凑,而 Neope armandii 从前到后最长)。

Neope muirheadii 蒙链荫眼蝶 ウラキマダラヒカゲ
写真(省略)広東省紹関市翁源県2015.3.29/越南沙巴2009.3.11/広東省紹関市翁源県2013.6.12
>中国南部の低地帯で最も普通に見られるNeope属の種。翅表は一様に褐色(亜外縁に眼状紋列がある)。裏面に白帯があり、春型では主に前翅に細く現れるだけ(一見bremeriなどに似た印象)だが、夏型では後翅を含みより太く明瞭に出現する。♂交尾器はuncus先端が二分する。大型種で雌雄は類似し♀はやや翅色が淡く丸みを帯びる傾向がある。生態的地位は、日本のサトキマダラヒカゲにほぼ一致する。
>Most common species of the genus Neope in lowlands of southern China. Wing surface is uniformly brown (with eye-spots line along sub-outer edge). Outside have a white belt, Spring form barely appearance thinly and only front wing (at first glance same as bremeri). Summer type it appears thicker and clearer including hind wings. Uncus of male genitalia is bisected. large species, male and female are similar(female wings slightly round) . Ecological niche is almost same as Japan's Neope goschkevitchii.
>中国南方低地最常见的尼奥佩属种。机翼表面呈均匀的棕色(亜外缘有眼点排)。背面有一条白色的带子,春季型只出现在前翼上薄薄的(乍一看,很像布雷梅里)夏季型前翼后翼都出现厚实清晰白帯。体型较大,雌雄相近,雌翅略和圆形。雄 uncus 的尖端被一分为二。生态位几乎与日本的N.goschkevitchii相同。

a type of Neope muirheadii ? 蒙链荫眼蝶的一型?
写真(省略)/広西壮族自治区興安県猫児山南麓2005.4.23/同/広西壮族自治区龍勝県猫児山北麓2009.4.22
>おそらくNeope muirheadiiの一型(北部産春型?)と思われるが、眼状紋が著しく小さくなるなど、極めて顕著で、かつ地域的に安定的な特徴を示すことから、別途に紹介しておく。湖南省との境に近い広西壮族自治区猫児山北麓と南麓の、渓流沿いの鬱閉した竹林や照葉樹林内に棲息する。
>Probably a type of Neope muirheadii (spring form in northern area in China?), but it is extremely remarkable shows regional stable characteristics (such as extremely small eye-spots), so I will introduce it separately. Lives in bamboo forest beside coppice, at north and south face of 猫児山(広西壮族自治区near border of 湖南省).
>可能是Neope muirheadii的一型(中国北方地区的春季形态?),但它非常显着,表现出区域稳定的特征(如极小的眼点),所以我将单独介绍。 生活在猫児山南北面的灌木丛旁的竹林中(広西壮族自治区湖南省边境附近)。

Neope simulans 拟网纹荫眼蝶 ウラナミキマダラヒカゲ
写真(省略)四川省ミニャコンカ海螺溝alt.1800m 1989.5.3/雲南省梅里雪山明永alt.2300m(屋内侵入個体)2017.6.15
>四川省最高峰ミニャコンカ(7556m)山麓の海螺溝氷河下方と雲南省最高峰梅里雪山(6740m)山麓の明永氷河下方で撮影した。梅里雪山では明永村の入山管理事務所の室内の床に多数のNeope agurestisに交じって死骸が散乱していた。翅表の色彩・斑紋は、同所に分布するもう一つの種Neope oberutueriと区別できない。後翅裏中室端(第4室基部)に明茶褐色の特殊鱗粉を密生する。
>Both pictures were taken at below glacier of Minya-konka (7556m), the highest peak in Sichuan, and Meili Snow Mountain (6740m), the highest peak in Yunnan. In Meili Snow Mountains, dead bodies were scattered on the floor of mountain management office, mixed with many Neope agurestis. Color and mottle on the wing surface are indistinguishable from another species, Neope oberutueri, which is distributed in same place. Light brown special scales are densely grown on edge of middle chamber behind hind wings (base of the 4th chamber).
>两张照片均拍摄于四川最高峰貢夏山(7556m)和云南最高峰梅里雪山(6740m)冰川下方。 在梅里雪山,山管处的地板上散落着尸体(混杂着许多Neope argestis)。 翅膀表面的颜色和斑驳与分布在同一地点的另一个物种 Neope oberutueri 无法区分。 后翅后中室边缘(第4室基部)密生淡褐色特殊鳞片。

Neope yama 丝链荫眼蝶 大黄斑日陰蝶
写真(省略)四川省峨眉山alt. 1700m 1990.6.1
>Neope属中の最大型種。♂交尾器のpennisの形状が、前後に短く、左右に幅広く、背方に強く屈曲して、その腹方に広くperi-vesical areaを生じることなど(一般的にはLethe属に含められる)Zophoessa属各種のそれと共通する。両者(Zophoessa属各種とNeope yama)による祖先的形質の共有と見る事が出来るかも知れない。
>The largest species in genus Neope. Pallus of male genitalia is short, wide in the left and right, and strongly bends in back side, and producing a wide peri-vesical area around abdomen,,,,etc. Its characteristics are common to those of genus Zophoessa(generally included in the genus Lethe). It may be seen as a sharing of ancestral traits by both (various species of Zophoessa and Neope yama).
>Neope 属中最大的物种。 雄性生殖器的penis苍短,左右宽,背部强烈弯曲,在腹部周围形成宽阔的peri-vesical area,等。 其特征与Zophoessa属(通常包括在Lethe属中)的特征相同。 它可以被视为两者(Zophoessa 的各物种和 Neope yama)共享祖先特征。

附:日本産ヤマキマダラヒカゲNepoe niphonica(左)とサトキマダラヒカゲNeope goschkevitchii
写真(省略)ヤマキマダラヒカゲ屋久島亜種alt.1800m 2006.7.15/ サトキマダラヒカゲ東京都青梅市alt.200m 2021.5.14(春型)/同2021.8.22(夏型)alt.200m

種群Species group A(暫定temporary:niphonica-bremeri-agrestis)の撮影地photographing
地図(省略)●Neope agrestis雲南省西北部および四川省峨眉山/●Neope bremeri四川省青城山および浙江省杭州市/●Neope watanabei台湾/●Neope niphonica日本列島

種群Species group B(暫定temporary:goschkevitschii-pulaha complex-oberthueri)の撮影地
地図(省略)●Neope oberthueri雲南省西北部/●ユンナンクロキマダラヒカゲ雲南省南部/●Neope plahoidesベトナム北部/●未同定種(ramosa?)四川省成都西郊山地/●Neope ramosa浙江省天目山/●Neope didia(Neope pulaha台湾/●Neope goschkevitchii日本列島

前頁地図に示した撮影地点(丸ドット)や地図の範囲外におけるNeope属全体の分布は、北は北海道(南千島とサハリンの一部を含む)西はヒマラヤ地方、南は海南島やインドシナ半島北部に及ぶ。朝鮮半島など日本海の対岸地域、中国大陸の北部には分布しない。いわゆる「東亜半月孤」分布様式だが、屋久島を除く南西諸島には分布を欠く。Distribution of entire genus Neope, except for photographing points (circle dots) and outside range of previous map Hokkaido (including part of South Chishima and Saharin) in north,Himalayan region in west, and Hainan Island and northern part of Indochina in south. It is not distributed Korean and northern part of mainland China. also lacks distribution in South-west Islands except Yakushima. 除了拍摄点(圆点)和之前地图的范围之外 Neope 的分布,北是北海道(包括南千岛和沙哈林的一部分),西接喜马拉雅地区,南接海南岛和印度支那北部。不分布于朝鲜半岛等日本海对岸及中国大陆北部。 除屋久岛西南诸岛也缺乏分布。

やや特殊な数種を除く大陸産各種を、種群Aと種群Bに分けた。分類指標としてとりあえず重視したのは、雄交尾器の形状と下記の「特徴形質1」。ユンナンクロキマダラヒカゲは暫定的にBに含めたが、①の特徴に関してはAと相同。これらの組み合わせが必ずしも系統関係を反映しているわけではないが、Neope属の分布圏のほぼ全域で日本産2種同様に類似2種が混生していることは確かなようである。Except few species, divided into species group A and species group B. Focused male genitalia and "trait 1". 金平1995.4.8 included in B, but characteristics of ① homologous to A. Although these combinations do not necessarily reflect phylogenetic relation, it seems certain that 2 similar species coexist in entire distribution area of Neope. 除特殊物種,分为A群(包括日本的niphonica)和B群(包括日本的goschkevitschii)。专注于雄性生殖器和“特征 1”。金平1995.4.8是暂B,但①的特征与A同。些组合并不一定反映系统发育关系,但在Neope属的乎整个分布区域中两个相似的物种共存。

特徴形質①:種群A(左)と種群B(右)① Trait①:Species group A (left) and species group B (right)
写真(省略)後翅裏基部近くの3つの丸紋の並び方。左N.agrestis(buremeri種群の各種を通して共通)。最下方の紋が外側に大きく外れる。右N.oberthueri(pulaha種群の各種を通し傾向的に共通)=最下方一紋は特に目立って外側に外れない。3 round crests near the base of the back of the hind wings. Left N.agrestis (same as all bremeri species group) = bottom one is largely off to the outside. Right N.oberthueri (same as pulaha complex) = bottom one is not largely off to outside. 基部3圆。左: 田园荫眼蝶(bremeri 物种组全相同)= 底部的一个在外面。右:奥荫眼蝶(pulaha 复合种全相同)= 底部的一个不是在外面。

特徴形質②:左は「種群」に関わらず中国西南部高地帯の2種に共通。Trait②:Left is common to 2 species in Southwest China highlands regardless of any species group. 左是西南高地的两个物种所共有的,不分物种群。
写真(省略)(参考)後翅裏の亜外縁の眼状紋配列に関しては雲南省西北部に混棲する2種が共通し、上から2個目と3個目は緩やかに連なる:左N.agrestis(N.oberthueriも同様)。他の多くのNeope属の種では、上から3個目は2個目と顕著に外れる:右N.bremeri(agrestisとoberthueriを除く主要各種も同様)。(Reference) Arrangement of 3 eye-spots of near base of hind wing. Left: Neope agrestis. 2nd and third from top are loosely connected (same as Neope oberthueri that coexist in the northwestern part of Yunnan). Right: Neope bremeri (almost species of Neope except agrestis and oberthueri). Third one is outside.
(参考) 后翅近基部3个眼点的排列。左:agrestis、第二个和第三个是松散连接的(与云南西北部并存的oberthueri 相同)。右:bremeri(除agrestis 和oberthueri 之外全Neope)、第三个在外面。

梅里雪山に於けるNeope agrestisとNeope oberthuer
写真(省略)上左と中:Neope agrestis/上右端と下4頭:Neope oberthueri 雲南省梅里雪山明永(2300m)2009.6.11/左:Neope oberthueri右:Neope agrestis 雲南省梅里雪山明永(2300m)2009.6.11

写真(省略)この部分の紋の並び方に注目してください(説明は前頁にあります)。Please attention to arrangement of crests in this part (explanation is previous page). 请注意这部分的波峰排列(说明见前页)。

梅里雪山周辺のキマダラヒカゲ類:Ⅰ Neope agrestis 田园荫眼蝶
写真(省略24枚)
四川省峨眉山alt.2400m 1990.6. 1
雲南省白水台alt.2400m 2009.6.3
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2013.5.8
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2013.5.8
雲南省香格里拉~白水台alt.3200m 2005.6.19
雲南省香格里拉~白水台alt.3200m 2005.6.19
雲南省虎跳峡-香格里拉alt.2900m 2009.6.1
雲南梅里雪山明永alt.2300m 2009.6.5
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2009.6.5
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2012.6.29
雲南梅里雪山明永alt.2300m 2012.6.29
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2009.6.5
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2009.6.6
雲南梅里雪山明永alt.2300m 2012.6.29
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2017.6.15
(左と同一個体same as the left)*
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2017.6.14
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2017.6.14
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2017.6.15
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2017.6.15
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2017.6.15
雲南省梅里雪山西当‐雨崩(峠頂)alt.3900m 2009.6.11
雲南省維西東南方alt.2500m 2010.5.18
雲南省維西東南方alt.2500m 2010.5.18
*向きを統一するため反転した画像を含む/Includes flipped images to unify orientation/包括反转图像以统一方向

梅里雪山周辺ののキマダラヒカゲ類:Ⅱ Neope oberthueri 奥荫眼蝶
写真(省略16枚)
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2013.5.8        
(左と同一個体same one as the left)*
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2013.5.10      
(左と同一個体same one as the left)*
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2013.5.7
雲南省虎跳峡-香格里拉alt.2900m 2009.6.1
雲南省虎跳峡-香格里拉alt.2900m 2009.6.1      
雲南省虎跳峡-香格里拉alt.2900m 2009.6.1
雲南省梅里雪山西当‐雨崩alt.3500m 2009.6.11     
雲南省梅里雪山西当‐雨崩alt.3300m 2009.6.11*
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2017.6.15
(左と同一個体same one as the left)*
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2017.6.14
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2012.6.29
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2012.6.30
雲南省梅里雪山明永alt.2300m 2012.7.1
*向きを統一するため反転した画像を含む/Includes flipped images to unify orientation/包括反转图像以统一方向。

キマダラヒカゲ類三種の原記載図など Neope agrestis
写真(省略)
Satyrus Agrestis Oberthür= Neope agrestis (Oberthür, 1876)(a: upperside, b: underside)
Leech 1892-1893 Neope agrestis albicans
写真(省略)
梅里雪山明永(管理事務所内にて)2017.6.15
写真(省略)
Neope agrestis(左:雄2013.5.9梅里雪山/中:雌2009.6.1香格里拉‐虎飛峡/右:雄2012.6.29梅里雪山)
写真(省略3枚)

写真(省略8枚)
各地のNeope argestis-bremeri種群:1~6 Neope argestis/7&8 Neope bremeri 1雲南省梅里雪山雨崩 標高約3900m地点 2009.6.11/2雲南省梅里雪山明永 標高約2300m地点2017.6.15/3雲南省維西 標高約2500m地点/4雲南省香格里拉~虎跳峡 標高約2900m地点/5雲南省香格里拉~白水台 標高約3500m地点/6四川省峨眉山 標高約2400m地点/7四川省青城山 標高約900m地点/8浙江省杭州市街地(湖畔)標高約10m地点(female)

キマダラヒカゲ類三種の原記載図など Neope oberthueri & Neope similens
写真(省略)
Neope obertueri Leech 1891
Neope simulans Leech 1891
写真(省略)
Neope obertueri 雲南省梅里雪山 2009.6.11
Neope simulans 雲南省梅里雪山 2017.6.15
Neope obertueri雲南省香格里拉‐虎跳峡 2009.6.1
Neope obertueri(female?)雲南省梅里雪山 2013.5.10
Neope obertueri梅里雪山 2013.5.7
Neope obertueri梅里雪山 2013.5.10
Neope simulans梅里雪山 2017.6.15

翅表に関しては、oberthueri(変異の幅は広い)とsimulansの間に有意差は無いように思われる。Front wing no significant difference between oberthueri (have many variation) and simulans .翼桌 oberthueri(有很多变化)和 simulans 之间没有差异。
注1:開翅表示は全てサンプリング個体。All open wing displays are sampled individuals. 所有开放式机翼展示均为采样个体。
注2:上に紹介した大半の個体は雌雄の判別を行っていない。おそらく大多数は雄。確実に雌と分かる個体のみ、それを記した。
Most of individuals introduced above don’t distinguish between male and female. Probably majority are male. Only individuals that is surely identified as females are shown so. 上面介绍的大多数不分雌雄。可能大多数是雄性。确定为雌性的个体才会显示。

写真(省略)
2017.6.15。梅里雪山明永氷河下の入山管理署室内の床や窓際には、多くのキマダラヒカゲ類の死骸が散乱していた。agrestis, oberchueriの他、simulansも混じっていた。新鮮個体が多く、なぜ屋外に逃げ出さなかったのか不思議である。上:窓際にとまるoberthueri。下:床に転がっていたagrestisとsimulans(右から2頭目)。/Many dead Neope (including simulans) were scattered on floor and near windows of mountain climbing control office. Many are fresh, why they didn't escape outdoors? Above: oberthueri perching by window. Bottom: agrestis and simulans (2nd from right) lying on the floor./许多荫眼蝶的尸体散落在梅里雪山入山行政办公室的地板和窗户附近。很多都是新鲜的,为什么不逃到户外呢?上图:奥荫眼蝶栖息在窗边.。下图:田园荫眼蝶和(右二)拟网纹荫眼蝶躺在地板上。
写真(省略)
左left:Neope oberthurei(2009.6.2)/中center:Neope simulans/右right:Neope agrestis
写真(省略)
左left:Neope simulens拟网纹荫眼蝶/右right:Neope agrestis田园荫眼蝶和
写真(省略)
左left:simulans/中と右center and right:agrestis【↓左left:oberthueri/右right:agrestis】
写真(省略)
22017.6.15。全て梅里雪山管理事務所(上左を除く)。一部は別頁にも重複掲載。All photos(except top left)of this page are same data, and some photos are also introduced on another page.全是梅里雪山管理办公室(不含左上)。 有些在另一页上重复。

Neope agrestis/Neope oberthueri
写真(省略)
Neope agrestis 2012.7.9
Neope oberthueri 2013.5.10

氷河末端から数km下った流れの横にあるこの水溜まりに、100種近い蝶が水を吸いに訪れる(水面が黄緑色の藻で覆われ、多くの蝶が藻に捕まって溺れる)。指を差し出すと、様々な蝶が指にとまって吸汁する。ただしキマダラヒカゲ属2種は、この水溜まりよりも、周辺の路上で吸水していることのほうが多い。/Nearly 100 species butterflies come here to suck water in this puddle next to stream down 明永glacier terminus (surface of water is covered with yellow-green algae, many butterflies are drowned in here). Various butterflies are perch my finger and suck moisture. 2 species Neope also can see on the roads around puddle. /近100种蝴蝶来这里在明永冰川终点旁的水坑里吸水(水面长满黄绿藻,很多蝴蝶都淹死在这里)。各种各样的蝴蝶栖息在我的手指上吸湿。2种荫眼蝶也可以看在水坑周围的道路上。

Neope agrestis
写真(省略)
with Delias subnubila 雲南梅里雪山Alt.2300m 2012.7.9
写真(省略)
with Pieris dubernardi)2012.7.9 下右:雲南省維西東南方alt.2500m

Neope agrestis
写真(省略)
雲南省梅里雪山西当-雨崩(峠頂)alt.3900m 2009.6.11 
これまで撮影した中での最高標高地。Neope as highest altitude taken picture.最高海拔拍摄的荫眼蝶的照片。
写真(省略)
雲南省維西東南方alt.2500m 2010.5.18

Neope agrestis
写真(省略)
雲南省維西東南方alt.2500m 2010.5.18

写真(省略)
雲南省梅里雪山雨崩alt.3500m付近、2009.6.11

Neope bremeri
写真(省略)
【上写真】四川省都江堰市青城山1989.4.16 。同じ場所には、雄前翅表の性標を欠き、後翅裏面3丸紋の3個目が特に大きく外れないpulaha系の種(ramosaまたはpulahoides?)も棲息。In the same place, live also pulaha-type species(ramosa or pulahoides?) that lacks sex patch on front wing surface, and 3 round crests near base of hind wing does not come off significantly. 在同一个地方,还生活着前翅表面没有性斑的pulaha型种(ramosa或者pulahoides?),后翅基部附近的3个圆嵴连接顺畅。
【下写真】浙江省杭州市内(西湖畔)1989.3.31





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日本の蝶 Ⅳ アサギマダラ(当初予定していたイチモンジセセリ=オオチャバネセセリの項目の「下」=に換えて)

2021-08-23 07:14:03 | コロナ、差別問題と民主化運動、日本と中国の蝶




読者の方々に質問です(僕は頭が悪いので、教えて頂ければ幸いです)。

【Ⅰ】
マスクは、なぜ必要なのですか?

【Ⅱ】
「沖縄に対する日本」
「台湾・チベット・ウイグルに対する中国」
の違いを教えて下さい。

*ブログ記事の冒頭に、この質問を繰り返し続けます。

・・・・・・・・・・・

昨日(2021.8.19)、午前中にABEMA-TVで大谷8勝目&40本塁打を見届けたあと、この記事を書き終えてアップしようと思っていたのですが、予想外に(いつものことです、笑)天気が良かったため、昼からフィールド観察に出かけました。バス代(計3回)1000円近く使って、5時間余り歩いて、やはりほとんど蝶の姿を見なかった(それでもって記事掲載が一日遅れになってしまいました)。

さらなる追記:今日(2021.8.20)も何故か快晴で、、、朝からフィールド探索8時間(疲れた、、、)。アパートの裏山(霞丘陵)の入口で、オオムラサキ(雌)を撮影していました。今、戻ってきたところです(ブログ記事のアップが更に先送りになっていきます ^^;)。

・・・・・・・・・・・・

さて、唐突に“アサギマダラ”の記事です。一昨日の午後、突然記述を思い立ち、半日かかって書き上げました。さっき一応書き終えてから、やっぱり唐突で場違いかな?と躊躇していたのですが、エイヤ、とアップしてしまうことにします。アサギマダラとかのマダラチョウの仲間は、蝶の中で僕が最も苦手な(興味が薄く知識も少ない)グループ*なので、今アップしておかないことには、次の機会はいつになるか分かりません。

*「中国のチョウ」(1998年刊行)に於ける、例えば、同じタテハチョウ科のコムラサキ亜科と比較してみましょう(中国にはマダラチョウ亜科Danainae・コムラサキ亜科Apaturinae共に40種前後が分布)。僕のこの本では、コムラサキ亜科(オオムラサキ・ゴマダラチョウなどを含むコムラサキ族)については、計46頁に亘り紹介しています。解説文26頁、解説した分類群26セクション(subsectionを含む)、カラー生態写真20頁16種58個体、雄交尾器図70個体。一方、マダラチョウ亜科については、解説文1頁(1/5頁分)、生態写真2枚(2種2個体)。

そんなアサギマダラについての記事を何でまた書き始めたのか、、、というのは、ちゃんと理由があって、ブログ一時中断以前は、次は(オオチャバネセセリの項目の「下」として)イチモンジセセリの記事と決めていたことに関わります。

6月18日に“アパートの近くの蝶”54種目のオオチャバネセセリを撮影してから、丸々2か月間、一種も新規撮影を追加出来ていない(追記注:今日2021.8.20に55種目のオオムラサキを撮影)。2か月余で54種撮影した後、次の2か月で新規撮影ゼロ(写し損ねたのが2種)というのは、異常事態です。新規出現種どころか、この二か月間、チョウ自体の姿をほとんど見ません。7時間‐8時間歩き回って、成果ゼロ、と言う日が何日も続いています(一応セミの鳴き声を録音したりしている)。

季節が例年より3週間ほど早く進行しているようです(フィールドで出会った何人かのベテラン・フィールドワーカーも口を揃えてそう言っていた)。ということは、多くの蝶が姿を消してしまった「6月後半」は、実質的には「7月中旬」頃に当たることになります。8月にかけての一年で最も暑い時期に6月半ばから突入していたわけです。例年を考えれば、東京近郊の低地では、7月下旬~8月の盛夏にチョウがいないのは当然と言えるのかも知れません。

でもそれならば、本来7月前半辺りに出現する年一化性の種(例えばオオムラサキとか、ゼフィルスの一部とか)は、どうなってしまうのでしょうか?“さて出陣”となった時に、暑すぎて出てこれなくなってしまった?秋まで待つことは出来んでしょうし、キャンセルするわけにもいかんでしょう。一応出現するにはする、でも表立ってはどこかに隠れている。暑い夏の間は“休眠” (越夏)している種もいるのですね。ヒオドシチョウやヤマキチョウなどが知られていますが、ほかにも案外結構多くの種が、様々なステージ(卵・幼虫・蛹・成虫)で生理的なコントロールを行っているのかも知れません。

*房総半島産のヤマキマダラセセリは、他の(より寒冷な)地域の個体群より長期に及ぶ夏眠期間を有する事を、同所的分布するサトキマダラヒカゲ、異所分布のヤマキマダラヒカゲ原名亜種との比較で、突き止めました。40年余前の仕事で未発表のままです(後に別の研究者によって正式発表されています)。

まあ、それらの性質の獲得は遺伝的に為されているものと思うのですが、案外「本来ならしない」それを、(場合によっては)「臨機応変」にしている、という“臨時の生理的コントロール”があったりするのかも知れません(そこら辺の実態については僕は余り知識がない)。

ということで、(暑い夏の期間を挟んで)次に多くの蝶を見かけるのは、秋(9月‐10月)ということになるのでしょうが、「3週間前倒し」ということは、今はそろそろ、秋の真っただ中に突入、という時期なのかも知れません。

・・・・・・・・・・・・・

その、たまたま「蝶の姿を見なくなった」時期に、あやこさんが手の怪我をして、ブログが中断されてしまったのですね。治癒が進んで再開すれば、中断していた「オオチャバネセセリ(下)」に取り掛かろう、と思っていたわけです(そういえば「ダイミョウセセリの仲間」とか、その他幾つかの項目も「上」だけで「下」は未完 ^^;)。

属単位(オオチャバネセセリ属Polytremis)よりも少し幅広い分類単位で、GegeniniあるいはBaorini(Polytremisの他にもイチモンジセセリ属Parnaraやチャバネセセリ属Pelopidasなど含む族)の紹介。メインはイチモンジセセリです。

イチモンジセセリParnara guttataは、僕が最も好きな蝶です。蝶(Skipperは“チョウ”には数えられないのかも知れませんが、、、その話題は前回書いたっけ?)のうち、最も地味で、かつ(少なくても一年の後半に於いては)最もポピュラーな種です。「著しく地味」で「超普通種」ということから、その人気の無さが分かります。

けれども、興味深い実態の宝庫でもあるのですよ。昔、「イチモンジセセリ研究会」というのがありました。僕のテーマは「水田耕作の発展に伴うイチモンジセセリの生態的変遷」。

同所的に分布する近縁別属種のチャバネセセリPelopidas mathiasとの比較。異所的分布の姉妹種オガサワラセセリ
Parnara ogasawarensisとの比較。その双方向から、イチモンジセセリのアイデンティティを探ろう、という目論見です。しかし
途中で中断してしまった。それから50年近くが経ちます。

日浦先生が亡くなられた後、「イチモンジセセリ研究会」はどうなってしまったのだろう(今でも存在しているのでしょうか?)。

それはともかく、僕は今年になって、ほとんど40年ぶりぐらいの期間を置いて、日本の「普通種」の蝶たちの探索を再開したのです。イチモンジセセリについても、一から調べ直さなければなりません。

当初、「イチモンジセセリ」の分布域は、日本列島の南部から東南アジアを経てヒマラヤ地方に至る、いわゆる「東亜半月弧」照葉樹林帯に相当する、と認識されていました。

しかし、その実態は、(日本に於いてはともかく)複数の分類群が混在する複雑多様な要素から成っているらしい、ということが、分かり始めてきました。そこら辺りの問題から再検討していかねばなりません。

実は、ということで言えば、当時(「イチモンジセセリ研究会」を始めた数十年前)から、イチモンジセセリの「移動」は、「“南から北”といった単純な図式ではなさそう」である、ということが、指摘されてはいたのです。しかし、おそらく現在に至るまで、その実態は詳しく検証されていないものと思われます。

少なくとも、昔は漠然と認識されていたのであろう「熱帯広域分布種」といった存在なのではなく、意外に狭い範囲の分布域を持つ種であるようなのです。その(ある程度の限られた)分布域の中で(「水田耕作の展開」も加えた)何らかの要因に基づいて、「特殊な動き(集団移動)」を示すようになった、、、。

大陸での実態はどうなのでしょうか? 1989年の初秋、重慶の大学に留学した際には、校庭の花壇に、おびただしい数のイチモンジセセリが訪れている様に遭遇しました。中に数頭、近縁別種(おそらくParnara ganga)が混じっていましたが、大多数の個体は真正のイチモンジセセリ(Parnara guttata guttata)でした。その様子は日本の都市部の初秋と同じで、必ずしも郊外に多く見られるわけではないことや、晩夏~秋以外の季節にはポツポツとしか見られないことなども、日本の場合と同様だったように記憶しています。

そこまでは確認できたのです。しかし、(前述したように)そこから先には進めなかった。

Parnara batta、Parnara ganga、Parnara apostata等々の近縁種(Parnara guttataの亜種とされるものを含む)の、中国に於ける分布状況(それ以前に分類群の認識/特定)を、一から洗い直さねばなりません。それは、とめどもなく困難な作業です。

それに、現状では(怪我の回復がまだ万全ではない)あや子さんを煩わせて写真を数多く載せることは出来ません。

そのように逡巡していた折、ふと思い立って、手っ取り早い手段を見つけたのです。イチモンジセセリの代わりにアサギマダラを紹介する。

本質的には良く似た立場にある両種ですが、一般的な視点から言えば、正反対の立ち位置にあります。外観上限りなく地味で、おそらく大多数のチョウ愛好家には見向きもされないだろうイチモンジセセリとは逆に、アサギマダラは蝶の中でも ナンバー1と言っても良い「見栄え」のする種です。

同じように「不思議な移動」をする興味深い生態を持っていても、見栄えの点で圧倒的に勝るアサギマダラは、いわゆるミーハー自然愛好家に(見向きもされないイチモンジセセリとは対照的に)諸手を上げて大歓迎されています。その、移動状況の実態調査に加わることが、ちょっとしたブーム、自然愛好家必須のムーブメント*みたく成っているわけです。

*(一応皮肉です→)その“健全な自然観察者”を意識共有する「空気」は、例えは悪いのだけれど「マスク」「ワクチン」絶対支持の「平均的正義」の集団や、(実際に信じられないほどの空前絶後の実績を残しているにしろ)“日本の誇り”と殊更持ち上げることで僕にはちょっと気持ち悪くさえ感じられる「大谷翔平信者」のイメージなどと、どこか重なります。

というわけで、「本質的なことは何も分かっていない」という点ではイチモンジセセリと50歩100歩としても、アサギマダラの場合は(ミーハー的かつ直截的な)資料だけは、掃いて捨てるほどあります。(本質探求への)取っかかりは、ずっと容易に得られるはずなのです。

アサギマダラも、イチモンジセセリ同様に、日本の多くの地域では夏の後半以降になって一気に姿を現します。ということは、そろそろ、その季節がやってくるわけですね。
*追記注:今年のイチモンジセセリ撮影は、5月23日に1頭、6月28日に1頭、これまでに出会った個体はその2頭だけでしたが、今日8月20日、一気に大量出現し始めました!←この事実は(アサギマダラの場合も併せ考えて)かなり大きな意味を持っています。

以下、アサギマダラについて、(たぶん大方の読者の方からみれば“斜め上”あたりの視点から、、、いや、“斜め下”かも、笑)僕の想うところを徒然(つれづれ)に語って行くことにします。

アサギマダラは、北は北海道稚内(利尻島も)から南は沖縄県与那国島(小笠原や大東諸島も)まで、それこそ日本中を行ったり来たりして飛び回っています。その様子を“オール蝶マニア”が寄ってたかって調べ倒している(笑)のです。資料はどんどん増えていきます。そのこと自体は、歓迎すべきことです(敬服に値する数多くの方々による調査・研究報告があります)。

しかし、敢えてへそ曲がりな事を言いますが(笑)、「井戸の中の蛙」状態ですね。無数の蛙(おたまじゃくし)が、限られた空間をぐるぐると廻り続けている。細部の細部まで徹底して(それこそ言葉通りにマニアックに)調べ尽くしているのですが、井戸の外側から俯瞰的に見ようとは、なぜか誰もしない。いくら細かいところを調べても、いつまで経っても本質的な部分には辿り着けない、と僕は思うのですが、、、。国内における「蝶愛好家全員参加」といってよい程の“移動情報調査(キャッチ&リリース&リキャッチ)”のムーブメントと対照的に、国外に於ける情報は、何一つといって良いほど入ってこない(たぶん皆が求めていない~興味の対象外~なんでしょうね)。

現時点で分かっていること。どうやら台湾には(日本と同一分類群に属する集団が)分布している。それから、中国大陸(華南)との間にある澎湖諸島にも分布している。澎湖諸島では、単に分布している、と言う事に留まらず、「日常的に」と言っても良い程の多くの個体が、日本と行き来している。

あるテレビ番組からの情報だと思うのですが、「650頭が日本から飛来した」と紹介されています。日本でリリース(マーキング)された個体のうち、650頭が澎湖諸島で再捕獲された、と言う事ですね。でも、幾らなんでも650組確認は多すぎやしないでしょうか?(マーキング個体の再捕獲ではなく、単に捕獲された、またはマーキングされた個体の総数?)

確かに、澎湖諸島への(日本からの)飛来個体の具体的報告例は、少なくはない(ネットでも10例前後をチェックできる)ですね。冬季集結地のひとつであることには違いないでしょう。ただし、いわゆる“故郷”というイメージではありません。

日本⇔香港の飛行機に乗った事のある人は、香港到着の小一時間ほど前に(あるいは香港離陸後小一時間ほど経って)、機上からこれらの島々を見下ろした覚えがあるはずです。島と言っても、ほとんど全く山の無い、平坦な地形です。近い過去まで何度も繰り返し、水没と陸化が繰り返し為されたであろうことが知れます。まあそのような場所だからこそ、現在ターミナルのひとつに成り得ているのかも知れませんね(人間だって平坦地により繁栄しているし)。ただし、そのような空間は、繁栄地点ではあっても、少なくとも“発祥地”ではない。

ちなみに、(、、、というか、このことは最も大事なことだと思うので、最初に言っておくべき事だったのですけれど)澎湖諸島に於いてもそうだし、日本の各地に於いても大多数がそうなのですが、リリース→キャッチの大半は、晩夏~秋に「北(東北)から南(西南)に向かう個体です。当然のことながら、春~初夏には、南(西南)から北(東北)に向かう個体も数多くあるわけですが、何故かそれら(南→北)の組み合わせのリリース→リキャッチの記録は、北→南の組み合わせに比べて、圧倒的に少ない。

いや、「当然のことながら」と記したのだけれど、本当にそうなのでしょうか? 実は、イチモンジセセリに於いても、これまで確認されている「集団移動」の大半は、南(南西)→北(東北)ではなく、逆方向です。「移動」は、我々が考えているほど単純なものではなく、極めて多様で複雑な要素が組み合わさって為されたものであるはずです。「常識」とは異なる視点で捉える必要があるのではないでしょうか? 例えば「南方や熱帯の蝶」の概念であるとか、「南から北へ、北から南へ」の概念とか、、、、今私たちが当たり前のように考えているのとは、別の視点から捉える、、、アサギマダラ(イチモンジセセリも同様)
の“謎”を解くカギは、そこいら辺にあるのではないかと。

このあと説明する、日本亜種としてのアサギマダラParantica sita niphonica(独立種Parantica niphonicaとして大陸産原名亜種と分けることも可能?)は、日本のまさに全域(分布域に於いて、よく「日本全域」という表現が為されるけれど、本当に「全域」を覆っているのは、この蝶のほかはヒメアカタテハぐらい?)と、北は朝鮮半島(およびおそらくロシア沿海地方も)、南は台湾(および、澎湖諸島、緑島、紅頭嶼)。

中国大陸には、僕の知る限り、2か所から記録されています。上海(出発地点:能登半島)と香港(出発地点:紀伊半島)です。そして、そのことには、結構大きな意味があります。

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上海や香港といった東シナ海-南シナ海沿海部からやや内陸寄りに位置する中国の南部山地帯が、(日本列島への)移動個体の出発点ではないか?と考えたのが、日浦勇先生の直系のお弟子さん筋に当たる、大阪自然史博物館の金沢至氏
です。僕は6年前(2014年)に、その金沢氏と共に、広西壮族自治区の花坪原始森林(標高1200m~1800m)にアサギマダラの調査に赴きました。

その数年前、多数のアサギマダラの生態写真を、そこで撮影していたのです。そして、僕も金沢氏の考え(中国南部の山地帯が移動の出発/到着地点)に賛同していました。

その時は、あいにく天候が悪く、余り多くの成果は得られなかったのですが、調査の結果と実態の推察について、共同論文として発表しました。

その報文では特に触れてはいませんが、僕の考えは、「そこから東北方面に向けて行き来しているのが日本亜種で、西北方面に向けて行き来しているのが原名亜種(中国南部山地には両者が混在する?)」。

先に(その後に知り得た実態に於ける)「答え」を言っておくと、少なくても前者については「違う」という事です。もっとも、ただ「違う」と一言では言い表し得ない、様々な意味を含んでいるのですが、、、。そのことについて、一から話して行きましょう。

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マダラチョウの仲間(タテハチョウ科マダラチョウ亜科)は、主に熱帯地域に繁栄する蝶です。その中で唯一アサギマダラが、温帯域の日本列島まで分布しています(新大陸に於いてはオオカバマダラDanaus plexippusがそれに対応する)。

日本の主に南西諸島などには、東洋熱帯に分布する数多くの種が“迷蝶”となって飛来します。ルリマダラ属Euploeaの種やコモンマダラ(コモンアサギマダラ)属Tirumalaの種です(他にカバマダラAnosia chrysippusやスジグロカバマダラSalatura genutia)。これらの“迷蝶”は、移動とは言っても、いわば突発的なもので、原則としてアサギマダラのように、移動先に定着(次世代が発生)したり、再び南下したりすることは有りません。

コモンマダラ属の各種は、外観がアサギマダラと良く似ています(古くは“コモンアサギマダラ”と呼ばれていた)が、両者の血縁はかなり離れています。

ちなみに、ヒメコモンアサギマダラParantica agleaは、真正のアサギマダラ属の種。(和名から“アサギ”を外した)コモンマダラ属とは反対に、現在では(“コモン”を外して)ヒメアサギマダラと呼ばれています。

もう一種、コモンマダラ属に似た別属種に、リュウキュウアサギマダラIdaopsis similisがあります。「別属なので“アサギマダラ”と付くけれど“アサギマダラの仲間”ではない」と説明されたりしますが、それも間違いです。一応別属(IdaopsisまたはRadena)には置かれているけれど、コモンマダラ属とは違ってアサギマダラ属に極めて近縁です(雄交尾器の形状から判断して両者=アサギマダラとリュウキュウアサギマダラ=を同属として扱っても良いのではないかと僕は思います)。しかしながら、「空気」と「お上の決定」、、、それが判断の全てなんでしょうね。

それ(「空気」「お上の決定」)との関連で言えば、これも一般の説明ではリュウキュウアサギマダラの日本に於ける分布は「トカラ列島以南」となっているようです。その根拠は何処にあるのかな?「なんとなく(空気)」「学術的(お上)に」“そうされているから”と言うことでしょう。南から北に、だんだん棲息密度が少なくなっていく。別にトカラ列島と屋久島の間で、突然少なくなるわけではありません(屋久島でも以前から結構記録されている)。教科書的「渡瀬線」バイアスの典型ですね。

ということで、アサギマダラから見ると、
「似ているけれど別グループに属するコモンマダラの仲間(カバマダラやスジグロカバマダラなども同様です)」
「一応別属とされるが近い関係にあるリュウキュウアサギマダラ」
「同じ属の一員でかつ明らかな別種ヒメアサギマダラ」
という図式で示すことが出来ます。

さらに、
「同属種であるだけでなく、実は別種かどうかわからないほど近縁な関係にあるタイワンアサギマダラ(クロアサギマダラ)Parantica melaneus」
もうひとつさらに、
「同じ種Parantica sitaで、しかし(日本のアサギマダラParantica sita niphonicaとは)明らかに別集団の(原名亜種)タイリクアサギマダラParantica sita sita」
の存在があります。

“アサギマダラの不思議”に肉薄するためには、出来ればタイワンアサギマダラとの、少なくともタイリクアサギマダラとの関係性の探索は不可欠だと思うのですが、これだけ寄ってたかって「調べ尽くされ」ているにも関わらず、ほとんど誰一人(上記金沢氏以外は)その事へのアプローチを試みない。

でもって、そこにアプローチしていこう、と言うわけです(もっとも僕は問題提起を行うぐらいしか出来ないので、実際のアプローチは若い人たちに任せます)。



上左:アサギマダラ日本亜種(屋久島)/上中:同(沖縄本島)/上右:アサギマダラ原名亜種=タイリクアサギマダラ(広西花坪)/下左:同(雲南梅里雪山)/下中:タイワンアサギマダラ(広西花坪)/下右:同(雲南大理)
*あや子さんの手の骨折が完治するまでは写真を多く掲載出来ないのでワードに張り付けたものをパソコン画面を通して撮影。

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タイワンアサギマダラはクロアサギマダラとも呼ばれ、台湾だけでなく大陸にも広く分布しています。大雑把に見て分布域はアサギマダラとほぼ同じですが、日本に分布していない事だけが相違点です(沖縄や屋久島などでは屡々見つかっている)。

僕も、広西壮族自治区花坪原始森林、雲南省大理蒼山山麓、ラオス北部、台湾合歓山中腹などで撮影していて、日本を除く大多数の地で、アサギマダラ(日本亜種または原名亜種)とセットになって分布しているようです。

両種の雄交尾器の差も微妙です。もし異所的に分布していたなら同一種として扱う事も可能かも知れない、という程度の差です(プロポーションと細部の形状が僅かに異なる、、、ヤマキマダラヒカゲとサトキマダラヒカゲの差ぐらいの感じ)。

両者が別種であることは間違いないとしても、完全に「別種」と言い切って良いのだろうか、、、、という思いがあります。「種が同じかどうか」とは別の立脚点から両種の関係を見渡したい、と思うのです(他の生物に関しても言えるのですが“メガ・スペーシス”といった概念)。

改めて「アサギマダラの組み合わせ」について見渡すと、片方(タイワンアサギマダラ)がいないところで、もう一方(アサギマダラ日本亜種)が顕著な特殊な動きをしている、、、、、そのことからも、両者の間には、何か根本的な部分での相関関係があるように思えてならないのです。

ほかにも台湾(合歓山山麓の太魯峡)で、アサギマダラと混飛する多数のタイワンアサギマダラの個体を撮影しています(ポジフィルムを探し出すのに時間がかかるため詳細については割愛)。「アサギマダラ」が、酷似した2つの種から成っていることを知ったのは、その時からです。

ところで、この「アサギマダラとほぼ同所的に分布する近縁種タイワンアサギマダラ」のほかに、いや、「ほかに」と言うよりも「別の次元から見て」“アサギマダラ”はもう一つの「近縁集団」とのセットで成り立っています。

それは、日本産の亜種Parantica sita niphonicaと、大陸産の原名亜種Parantica sita sitaの組み合わせです(台湾産はどうやら日本亜種に所属するようです)。

以下、この記事でのアサギマダラの和名使用は、種「Parantica sita」全体の名として使ったり、日本亜種に限定して使ったり、そのシチュエーションごとに、異なってきます。後者に於いては、原名亜種に対する和名は「タイリクアサギマダラ」とします。

(比喩的に言うならば)その関係性を、先に「アサギマダラとタイワンアサギマダラは、見解選択によっては同じ種と見做すことも可能かも知れない」と述べたわけですが、それとは別の次元で、「アサギマダラ(日本亜種)とタイリクアサギマダラ(原名亜種)は同一種ではあるのだが、見解選択によっては別種と見做すことも可能」と考えることも出来ると思います。

アサギマダラ(原名亜種/日本亜種)の分布を地図上に示します。

インターネット情報をチェックしたところ、さすがに“ブーム”だけの事はあります。日本中からの映像写真が挙げられていました。そのうち、確実にアサギマダラ(日本亜種)の特徴を持つ個体をピックアップし(まだ途中までしかチェックしていないけれどほぼ全国からの情報を得ることが出来た)、それらの記録地を『青丸』で示しました。大きなのは、自分の写真を示したもの(屋久島産と沖縄本島産(写真の角度が良くないので当該部位の把握がし難いけれど明らかに日本亜種特徴を示している)で、小さなのはネット上の写真で(特徴が)認められたもの。



アサギマダラ日本亜種Parantica sita niphonica [青丸]と原名亜種Parantica sita sita[赤丸]の記録地点。大きな丸は青山自身の撮影写真、小さな丸はインターネットで特徴を確認できた資料による。

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アサギマダラの特徴を述べておきます。

まず、タイワンアサギマダラと(原名亜種と日本亜種を含めた)アサギマダラとの違い(*共に雌雄差は微小で性斑の有無以外に特に相違点はない)。

➀腹部の色。
aアサギマダラ:後翅の地色と特に変わらない。
bタイワンアサギマダラ:後翅の地色とは全く異なる(鮮やかな黄褐色)。

②前翅と後翅の色調。
aアサギマダラ:顕著に異なる(後翅は明るい茶褐色)。
bタイワンアサギマダラ:地色色調は余り変わらない(ほぼ黒褐色)。

③前翅第9室の半透明水色斑。
aアサギマダラ:縊れない。
bタイワンアサギマダラ:縊れる。

④後翅内縁沿い第12室。
aアサギマダラ:やや不明瞭または出現せず(原名亜種には現れるがタイワンアサギマダラ程くっきりはしていない)。
bタイワンアサギマダラ:ごく明瞭に出現。

それらで判別できるのですが、デリケートな差である事には違いなく、ときに分からなくなってしまったりすることも有ります(改めて客観チェックすればほぼ判別できる、、、細部に拘っていると迷路に落ち込む)。



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さて、種としてのアサギマダラのほうですが、日本には(小笠原や大東諸島を含む)隅から隅まで記録されていて、原則(僕がネットに写真が示されている個体をチェックした限り)全て日本亜種の特徴を備えています(*後述する一例を除く)。

日本亜種“アサギマダラ”と、原名亜種“タイリクアサギマダラ”の相違点は、種アサギマダラとタイワンアサギマダラの組み合わせような“全体的な印象”、、、と言うわけではありません。それに関しては「全く同じ」と言っても良いでしょう。

唯一の相違点、それは④として示した、アサギマダラ(日本亜種)とタイワンアサギマダラの区別と同様の部位(後翅内縁)です。日本亜種のアサギマダラでは、その部分に水色の条線が生じません(褐色部が薄明るく広がることはある)。原名亜種タイリクアサギマダラでは、タイワンアサギマダラ同様に明らかな空色条線が生じます。ただし、タイワンアサギマダラの様に、 幅広くクッキリとは示されず、(タイワンアサギマダラに比べれば)やや細めで曖昧ではあります。

両亜種に於けるその部位の形質差は、(種差に相当するかどうかはともかくとして)かなり安定的に示されます。2つの分類群の分布域は、2つの地域に分かれ、原則として重ならないのではないかと推察されます(その辺りの検証が今後の大きな課題です)。言い換えれば、その部分の形質表現のチェックで、かなりの高い確率での亜種の振り分けが出来るわけです。

日本亜種の特徴を持つ個体は、インターネット上で全都道府県に於いてチェックすることが出来ました(原名亜種の特徴をもつ一個体ついては後記)。

南西諸島産も原則として日本亜種の特徴を示します。ただし南琉球(先島諸島)では、リュウキュウアサギマダラやコモンマダラ類の各種が(季節的飛来明蝶として)数多く記録されているのとは対照的に、余り多くは見られないようです。

僕の写真の、沖縄本島の個体は、角度の関係で後翅内縁が良く見えないとしても、明らかに日本亜種の特徴を示しています。ネットでチェックした他の多くの個体も日本亜種の特徴を持ちます。

屋久島では、11月‐12月と4月‐5月に、山麓部で非常に数多くの個体を見ることが出来ます。他に山上部で7月‐8月に多く見られることから、「水平移動」と「垂直移動」が組み合わさっているのではないか、とも考えられます。

台湾産は、日本亜種の特徴を示します。例えば、杉坂美典氏のインターネット図鑑「台湾の蝶」に紹介されている43例の生態写真も、そのほとんどが日本亜種の特徴を持っています(ただし、2~3の例では、原名亜種的な特徴が認められるような気がする)。

僕自身が撮影した合歓山山麓の数多くの個体も、そのうちにチェックしておきたいと考えています(ネット情報では台湾南部からも記録がありますが、特徴の確認できなかったので地図にドットは入れていません)。

ちなみに(アサギマダラのアイデンティティ考える上に於いて、これが最も重要なポイントなので、繰り返し述べておきます)長距離移動の記録(リリース→リキャッチ)の大半は、おそらく一般に想像し得るであろうパターンに反して、南から北ではなく、北から南なのです(そのことは、イチモンジセセリの場合でも共通します)。

一体、何を意味しているのでしょうか?

そして、そう多くは確認されていない、南から北への移動記録の大半が、台湾北部が出発点となっているらしい。これも気になります。

台湾西南方の澎湖諸島からも、数多くのアサギマダラが記録されています。こちらは(たぶん全て)日本起点の到着個体。既述したように、地形から見ても、“ホーム”というわけではなく、ターミナルのひとつでしょう。650例?の長距離飛来個体のほとんどが日本亜種と思われますが、1例だけ原名亜種(タイリクアサギマダラ)の特徴を持つ個体が混じっています(佐世保からの飛来個体)。これまで日本でチェックされた、唯一のタイリクアサギマダラの特徴を持った個体です。大陸南部から九州への飛来個体に基づく?それとも単なる個体変異?謎ではあるのですが、とりあえず余り深く考えることはやめておきます。

朝鮮半島での記録は、チェックした限り1例がありました。南→北。東北岸(江原道)への日本(五島列島)からの飛来です。

さて、問題は中国大陸。

日本亜種の記録が、次の2例。
上海。石川県からの飛来。
香港。和歌山県からの飛来。

一方、やや内陸寄りの沿海に近い地域としては、湖北省の武漢東方と、僕のフィールドの(金沢氏と共に探索を行ったこともある)広西壮族自治区花坪原始森林。こちらは、チェックした限り全て原名亜種(タイリクアサギマダラ)の特徴を示しています(データや写真の紹介は末尾に)。

更に内陸部に向かうと、僕の写した写真では、四川省成都市西郊山地、雲南省昆明(都心のホテル屋上と西南林業大学校庭)、雲南省麗江、雲南省梅里雪山明永氷河下(写真をパソコンから取り込んだので色合いなどがよく示されていませんが、タイワンアサギマダラではなくタイリクアサギマダラです)。ちなみに、梅里雪山明永氷河下では、全く同じ場所・同じ日時に、別亜科(ミスジチョウの仲間)のアサギマダラに酷似した稀産種Aldania imitans(仿斑伞蛱蝶)も見られます。

そのほか、ネットで検索し得た中国大陸産は、(僕のパソコンの状態もあって)ごく僅かです。チェックし得た限り、(日本から飛来した上海と香港の2頭を除き)全て原名亜種タイリクアサギマダラの特徴を示しています。

四川省や雲南省の西の延長の、インドシナ半島北部や、ヒマラヤ地方(西北部のインド・ヒマチャルプラディシュなど)の個体
も、チェックし得た限り、タイリクアサギマダラです。

なお、ここに示した地図の左下方、マレー半島やスマトラには、それぞれ原名亜種や日本亜種とは異なる別亜属が分布しています。また、ジャワ、ボルネオ、パラワン、ルソンなどには、近縁別種とされるルソンアサギマダラが分布します。

*アサギマダラ属全体としては、ウィキペディアによると35種ほどが含まれることに成っていますが、それらが単系統上にある(アサギマダラと同一分類群と認められる)のか否かについては、僕の知識では把握し得ません。アサギマダラ(各亜種)とタイワンアサギマダラ以外は、全て熱帯アジア産だと思います。

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日本にやってくる(?)アサギマダラは、何処が“故郷”なのでしょうか?

この「設問」は、それ自体が変ですね。

分かっている事は、アサギマダラに最も近縁な種は、(日本以外では同所的に広く分布している)タイワンアサギマダラ。

そして、種アサギマダラ自体は、東と西に(たぶん異所的に)分布する2つの分類群(一応亜種)から成っている(他に熱帯アジアに数亜種)。

日本各地(日本海周縁地域、南西諸島など)、台湾周辺、および中国大陸の一部(おそらく東シナ海や南シナ海の沿岸都市周辺部など)に、季節移動?をする日本亜種。

そこからさほど離れていない内陸寄りの山地に、原名亜種タイリクアサギマダラ。こちらは日本との行き来はしない。

アサギマダラ日本亜種のほうは、確かに日本周辺の南北を中心に長距離移動(一応“行ったり来たり”だとしても、その実態は、今のところ「北から南」が大半)しているわけですが、その「メインフィールドは何処か(供給源というか本来の発生地みたいなところの特定)」となると、何一つと言って良いほど分かっていない。このように指摘する研究者もいますね→「データが増えれば増えるほど実態が掴めなくなってしまう」。

「答えはない」というのが「答え」のような気がします。敢えて僕の答えを示せば、動いていること自体が「本来の姿」であり、「曖昧である」ということが「明確な実態」なのです。

地球の自然の成り立ちを考える際に於いての僕の基本概念である「動き続ける極相」とも重なります。

原名亜種タイリクアサギマダラは、日本との行き来はしない、と書きました(近接した台湾や南西諸島などには例外的な飛来個体が混じり得るかも知れない~佐世保→澎湖諸島の一例もその一つ?~としても)。

しかし、日本亜種同様に、季節的な長距離移動を行っている可能性は大いにあります。原名亜種は、比較的沿海部に近い広西壮族自治区だけではなく、(日本列島とは逆の西北方向)四川、雲南、インドシナ半島北部、ヒマラヤ地方などにも分布していて、それら大陸の奥地では夏の終わりから秋にかけて数多くの個体が現れる傾向があるからです。ただし、僕がチェックしたうち、雲南省西北部の大理や梅里雪山で撮影したのは春(前者)と初夏(後者)。(年間を通して探索している)広西壮族自治区で多数の個体に出会ったのは6月中旬~7月はじめ。移動と定着の組み合わせも考えられます。

*ちなみに北米大陸のオオカバマダラも、西南(メキシコ、カルフォルニア半島)からと、東南(カリブ海諸島、フロリダ半島)から、それぞれ合衆国西海岸と東海岸の間で移動を行っている、と言われています。

アサギマダラの場合も、2つがセットに成っているのかも知れません。ただしオオカバマダラの場合は、南のターミナル?の距離が相当に離れている。それに対しアサギマダラでは、南の記録地(“ターミナル”と認識してよいのかどうかは分からないけれど)が隣接している。「華南の山地が(日本にやってくる)アサギマダラの供給源」とした金沢氏の推察は、あながち間違いではないのかも知れません。広西や広東の、しかし距離的により香港に近い、華南の背部山地のどこかに隣接して、2つの集団(原名亜種/日本亜種)が棲息している可能性もあります(日本から移動したアサギマダラの記録がある上海西郊と、原名亜種タイリクアサギマダラの複数記録がある武漢東方も、位置関係は「香港/広西」と似ている)。

それぞれ「アサギマダラ+タイワンアサギマダラ」「タイリクアサギマダラ+タイワンアサギマダラ」の組み合わせで、いまのところ判明しているのは、桂林近郊・花坪原始森林の後者の集団と、香港に於ける日本からの前者の一飛来例だけなのですが、もしかすると「アサギマダラ+タイリクアサギマダラ+タイワンアサギマダラ」が混在している地域があるのかも知れない。 

でも、現時点では、(原名亜種/日本亜種に関わらず)アサギマダラとタイワンアサギマダラの組み合わせの実態さえも良く分かっていないわけで、、、、。圧倒的な見栄えの、プロの研究者やアマチュア愛好家が寄って集って(隅から隅まで)調べ尽くして?いるアサギマダラでさえ、本質的な部分へのアプローチは、この程度しか為されていないわけです。それを考えると、圧倒的に関心度の低いイチモンジセセリの実態なんて、、、、いつまで経っても分からないんだろうなぁ~。

・・・・・・・・・

話は全然変わりますが、「移動」という言葉に対する認識。時空の物差しは全く異なるのですけれど、ふとセミの例を思い浮かべてみました。「山をぐるりと回って、ずいぶん時間が経った後、同じ個体が同じ木の同じ位置に戻って、また鳴き始める」

もっと一般的な例では、「アゲハの蝶道」「ゼフィルスの追飛(同じ位置に戻る)」等々、、、。

命、生物界、自然界、、、、私たち人間が知り様もない“不思議”で満ちている。ウイルスだって、、、という話は、とりあえず止めておきましょう(笑)。

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僕の写真に於けるデータ(今手許にあるデジタル撮影写真)。

Parantica sita sita タイリクアサギマダラ
広西壮族自治区永福県花坪原始森林 標高1200m~1800m付近 2010.6.26ほか
四川省宝興県東拉渓谷 標高1400m付近 2010.8.8
四川省天全県二朗山中腹 標高1600m付近 2010.8.10
雲南省昆明市(都心) 標高1800m付近 2014.11.30ほか
雲南省徳欽県梅里雪山山麓 標高2300m付近2012.6.29

Parantica sita niphonica アサギマダラ
屋久島(南部) 標高0m~200m付近 2005.11.8ほか
沖縄本島(北部) 標高100m付近 2005.10.31

Parantica melaneus タイワンアサギマダラ
広西壮族自治区永福県花坪原始森林 標高1200m~1800m付近 2010.6.26ほか
雲南省大理市蒼山山麓 標高2200m付近 2013.5.4
ラオス(北部)ルアンパバン近郊2008.2.11

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広西壮族自治区永福県花坪原始森林に於ける(現時点でチェック可能な)撮影個体の詳細を記しておきます。

2010.6.25-7.1
アサギマダラ原名亜種 20♂♂ 7♀♀
タイワンアサギマダラ 7♂♂ 8♀♀
(うち、汚損個体は、アサギマダラ、タイワンアサギマダラ各♂2頭)
初見時刻:午前6時25分/終見時刻:午後5時43分
全てキク科シオン連の一種(黄花)での吸蜜個体。

2015.8.7-8.8
アサギマダラ原名亜種 5♂♂ 汚損個体2頭
タイワンアサギマダラ 2♂♂ 汚損個体1頭
(うち、やや汚損した個体が、アサギマダラで2頭、タイワンアサギマダラで1頭)
全てキク科ヒヨドリバナ属の一種(白~薄ピンク)での吸蜜個体。

いずれも花坪原始森林の標高1200m~(1400m~1600m)~1800m地点。



広西花坪で撮影した一個体。前翅第9室の斑はタイワンアサギマダラ同様に縊れ、後翅第12室の斑の出現程度が弱いが、総合的にはタイリクアサギマダラと判断できる。





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