生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

腐草為蛍 (芒種の次候で、6月11日から15日まで)夏草シーズン

2014年06月09日 08時47分54秒 | 八ヶ岳南麓と世田谷の24節季72候
夏草シーズン

腐草為蛍「くされたるくさほたるとなる」と読むそうだが、ここ八ヶ岳南麓では中々に意味深長に思うことがしばしばある。中国風では、この期間は鵙始鳴(もずが鳴き始める)であり、全く異なる表現をしている。梅雨時の蒸れむれとした、日本独特の節季の表現のようだ。つまり、腐った草が蒸れて蛍に化す季節だと考えられていたということなのだ。

いよいよ夏草シーズンの到来である。二週間も空けると、庭と云わず砂利を敷いた駐車場と云わず、処かまわず雑草が芽を吹く。芽だけなら可愛いものだが、1メーターも丈が伸び、葉を茂らせ根を張る連中もいる。一日がかりで雑草刈りをすると、雑草置場が山盛りになる。これを、二週間後に焚火で燃やすことになるのだが、生命力の強い夏草は、これが又一苦労になる、つまり、これで2日間つぶれることになる。抜くのも、燃やすのも根っこが一番厄介である。


びっしりと混みあった根っこは 土をいくら払っても取りきれない。これらは 次回まで岩の上に放っておくと、強い雨水が土を洗い流してくれる。そして、二週間後には見事に燃えてくれる。根の様子は、上の葉の茂り方で大体分かる。韮のように、細い葉が一様に伸びる草が、この手である。しっかりとした幹が伸びているものは、それと同じ太さの主根があり、見かけによらず抜くのも、燃やすのも楽である。しかし、太い地下茎でどこまでも続くものが一番困る。他の植物の根と絡みどうしようもない。

 有名な和辻哲郎の「風土」の中で、地中海の風土について、このような記述がある。(和辻哲郎全集 第8巻、岩波書店(1962)より)この記述によっても、夏草が日本独特のものであることが分かる。



 ヨーロッパには、雑草がない。それは夏が乾燥期だということにほかならぬ。雑草とは家畜にとって栄養価値のない、しかも繁殖力のきわめて旺盛な、従って牧草を駆逐する力を持った、様々な草の総称である。ところでそれが我々に「夏草」と呼ばれることによっても明らかなように、それは暑熱と湿気とを条件として繁茂する。路傍、土手、あき地、河原などに五月ごろ芽を出し始め、梅雨に養われ、七月に至れば見る見るうちに数尺にのびる。それは実に根強い、頑強な、従って練兵場にでも繁茂しうる草である。耕地でも住宅地でも、もし一二年の間放置せられるならば、たちまちこの種の雑草に占拠せられ、荒地に化してしまう。しかし雑草にこの旺盛な生活力を与えるものは暑熱と湿気との結合である。すなわち梅雨とそのあとの照りこみである。しかるに夏の乾燥はちょうど必要な時にこの湿気を与えない。従って雑草は芽生えることができない。

ちなみに、和辻哲郎は「大和古寺巡礼」でも有名なのだが、この全集の第八巻には、「風土」のほかに「イタリア古寺巡礼」が収録されている。この二作品のみで一冊分(ほぼ半々)なので、けっこう長い文章になっている。三つの文章を読むと、彼の旅程は常にかなりの早足で、いかに瞬時に本質を見抜く感受性に優れていたのかを随所に感じてしまう。なを、ここに示した写真は最近入手した1935年に発行された元本なのだが、全集にはない「序言」があり、「風土」の中味が、昭和三年の後期の大学の授業で話されたことが分かる。このような教養の授業だったら、きっとさぼらずに出席したことだろう。