生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

その場考学との徘徊(71)奈良からの帰途にて

2022年11月25日 14時56分39秒 | その場考学との徘徊
TITLE: 飛行中のモニター画面の楽しみ方

 先日、奈良での4泊5日の一人旅を終えて、伊丹空港から羽田空港までの空旅を楽しみました。機体はAirbusA350で比較的大型機なのですが、機内は満席。座席からは窓が望めない場所でした。
 
 A350機はAirbusの新型機で、色々な工夫が備えられていますが、その一つが、機体に取り付けた二か所のモニターカメラの画像を、リアルタイムで各座席で見ることができることでした。
 往路も同じ機体で、羽田から伊丹に行きましたが、その際には映画を見ていました。しかし、時間が短く、しかも頻繁に社内アナウンスで中断させるので、楽しめるほどのことではありませんでした。これがヨーロッパや米国への長時間飛行なら良いのでしょうが。

 そこで、帰路ではもっぱらモニター画面を楽しむことにしました。乗機時から、足元で地上作業員がしきりに前輪をチェックしている姿が写っています。ちなみに、カメラは2台あり、地上用と尾翼から機体の上部を映すものの2個のようです。こちらは、空の状態や、フラップの動きなどが分かりますが、興味はもっぱら地上を映す方です。これならば、窓側の必要はなく、曇りの時は、3次元の詳細な地形図画面で飛行位置が分かります。伊豆大島上空を通過するのが、通常のルートですが、大島の火口の詳細までがはっきりとわかりました。

 ところで、ジェットエンジン屋としては、機速と高度の関係に興味が湧きます。あるタイミング毎に目的地からの距離、機速、高度が表示されるので、それを記録してみました。帰宅後に、グラフ用紙にプロットをしてみると、意外なことが分かりました。まあ、パイロットに直接に聞いてみないと分からないのですが、国内の飛行ではコックピット入りは無理でしょう。
 ちなみに、日英を頻繁に往復していた1980年代では、British Airwayのジャンボ機では、コックピットの入り口はカーテンのみの時もあり、勝手に飛行中のコックピット内で、エンジンの様子などについて、パイロットとの会話を楽しんでいたものでした。



 グラフから、結構色々なことが読み取れます。
① 飛行高度(当日は8839m)は、1メートルの上下もなく、ほぼ100kmの間保たれている。
② そのためには、機速は結構大幅に上下している。
③ 上昇中は、スピードもどんどん上がるが、水平飛行の直前から、スピードを下げて、高度がオーバーしないように調整している。
④ 下降態勢は、随分と前から始まる。スピードと高度は、直線的に下降する。
などでした。実数のデジタル数字の表示なので、結構楽しむことができました。

 奈良、とくに明日香地方は、学生時代(1960年代)に何度も通った。脇道に入ると、人通りは全くなく、まだ昔の雰囲気が残っていて、ほっとしました。

様々なメタ(86)まとめ

2022年11月06日 06時46分38秒 | 様々な「メタ」、メタとは何か(公開)
meta-の日本語訳は、その場、その場で適当な漢字が充てられているのだが、中国語ではどうなっているのだろうか。
まず、meta-は「元」と一字で明確に示されている。そこで、色々なmeta-について、調べてみる。

・英語(日本語訳)中国語  

meta- (メタ)元
metabolic(変態する、変形する)新陳代謝
metabolical(変態する、変形する)代謝的
metabolism(物質交代、物質代謝)代謝
metabolite(代謝物質)代謝物
metaboly(変態)代謝
meta doctrine(メタ教義)元學說
metagalaxy(認識しうる全宇宙)超星系
metahistory(多様な歴史的認識の立場)元史
metainfective(感染後におこる)傳染性的
metalanguage(メタ言語)元語言
metalinguistics(メタ言語学)元語言學
metamathematician(超数学者)元數學家
metamorphous(変化の)變質的
metanalysis(異分析)元分析
metaphoric(比喩的な)隱喻的
metaphorical(比喩的な)隱喻的
metaphrase(翻訳、言い換えをする)直譯
metaphrast(翻訳者)隱喻
metaphrastic(直訳的な)比喻的
metaphychic(心霊研究の)玄學的
metaphysic(学問・研究の原理体系)形而上學
metaphysics(形而上学、思弁哲学)形而上學
metapolitician(政治哲学者)元政治家
metapolitics(理論的政治学)元政治
metapsychology(超心理学)元心理學
metastability(準安定状態)亞穩態
metastasize(転移する)轉移
metatheory(超理論)元理論
metaengineering (根本的エンジニアリング)元工程

中国語では、「元」で統一されていることが分かる。

 メタエンジニアリングの研究を始めて、丁度10年間が経過した。その纏めとして、「さまざまなメタの研究」3巻(註1)を記した。その中で、当初は考えていなかったことが、いくつも浮かび上がってきた。
 最も気になったのが、広辞苑の項目だった。「メタ」という前置詞が、第3版[1983]まで登場しない。一方の英和辞典では、すでに山ほどの項目があった。それは何故かを考え始めると、日本文化の矮小性ばかりが気になりだした。
 しかし、多くの単行本に接すると、そのことは全くの誤解で、むしろ日本人の著書に多くのメタが存在した。少し考えれば、分かったことなのだが、日本人の特徴は、ドイツ人同様に、先ずは全体を包絡する理論から入り、そこから各論を導き出す習性がある。アメリカ人と正反対の習性で、アメリカ人は、多くの実例の寄せ集めから、普遍的な理論を考え出そうとする。そのことは、直前に発行した、第28巻の「メタエンジニアリングで考える企業の価値」の中で引用した、米国で発行されたほぼすべてのビジネス書(ドラッカーを始めとして、エクセレント・カンパニーやビジョナリー・カンパニーなど)にあてはまる。

 考えてみると、日本人はもともと「メタ文化民族」なのだ。日本人は森の文化で育ち、西欧人は砂漠の文化で育った。森の複雑さと砂漠の単純さの結果が、日本人は「メタ」を意識せずに、常にメタの中で生活をしていることの原因ではないだろうか。一神教は、宗教とはなにか、絶対神とは何かに言及する必要があるが、多神教はそのようなものを定義する必要はない。つまり、メタ宗教論は必要ではなかった。
 随分とおかしな結論なのだが、「メタ」はいろいろと面白い。 少しでも多くの方が、「メタ」に興味を持ち、なかんずく、「メタエンジニアリング」により、人類の文明が正しい技術によって持続してゆくことを願うばかりです。

 先日「AIと人類」という本を読みました。著者は、キッシンジャー、シュミット(元グーグルのCOEなど)日本経済新聞出版 [2022.8]で、彼らが4年間議論を尽くした結果が書かれています。

 『10年前にデジタル社会が拡大しはじめたとき、クリエイターには哲学的枠組み、あるいは国家やグローバル社会の利害との関係性を考えることなど期待されていなかった。そもそもそんなことを要求された業界はこれまでなかった。 デジタル製品やサービスが適正であるとか評価するのは社会や政府だった。技術者はユーザーを情報やオンライン上の交流スペースと結びつける、乗客を車両やドライバーと結びつける、顧客を商品と結びつけるなど、実用的で効率的なソリユーションを追求した。世間には新たな機能や機会を歓迎する機運があった。そうしたバーチャルなソリユーションが社会全体の価値観や行動にどのような影響を与えるかといった予測へのニーズはほとんどなかった。』(pp.124-125)

 つまり、従来の技術者の機能は新たなものを創り出すだけだった。しかし、AIがすべてに関与する時代では、「ソリユーションが社会全体の価値観や行動にどのような影響を与えるかといった予測へのニーズ」が生じているというわけである。そこには、メタエンジニアリングの基本機能が要求される。我々は、そういう時代に、もはや突入をして、さまよい始めているということの認識がこの書の狙いになっている。

註1;さまざまなメタの研究
メタエンジニアリング・シリーズ (既刊)発行;メタエンジニアリング研究所

 第24巻 さまざまな「メタ」の研究(1) 人文・社会科学編
 第26巻 さまざまな「メタ」の研究(2) 理工・経済学編
 第27巻 さまざまな「メタ」の研究(3) 応用編
 


     
 


様々なメタ(85) 日本語の「メタ」は不確定

2022年11月05日 18時55分55秒 | 様々な「メタ」、メタとは何か(公開)
日本語の「メタ」は不確定

 広辞苑で初めて「メタ」(ギリシア語の間に、後に、超えるに由来する接頭語)が登場したのは第3版(1983)だった。私は、岩波書店から「アリストテレス全集」が発行されたのが、1968年-1973年なので、その影響と考えている。当時、この全集の発行は、世界的にも注目をされていたとの記録があった。

 一方で、英和辞典には初版本から多くのmeta-が存在する。そこでここでは、英和辞典での過去からの記述から、日本語の「メタ」とは、いったい何を示すのかを考えてみる。
 ちなみに中国語(英中辞典)ではmetaは「元」と明確に示されている。例えば、Meta-engineeringは「元工程」である。
 約150の英語のmeta-の日本語訳(ちなみに国語辞典では、すべて「メタ何々」とカタカナ表示になっており、僅かに形而上学(Metaphysics)などの例外があるだけである)がどのようになっているかを調べてみた。すると、次に示すように、その意味が一定していないことが明確になってくる。なお、ここではベンゼン核に由来する化学的な「メタ」については、全て除外した。
 後に示す英和辞典の日本語訳の文字から、敢えて「メタ」に関係する文字を選ぶと、以下のようになる。

・日本語訳に出てくるmetaに関係ありそうな漢字( )内はその回数。
「変」(15回)
「後」(14回)
「中」(7回)
「超」(6回)
「異」(6回)
「上」(4回)
「比」(3回)
「準」(3回)
「代」(2回)
「主」「同」「初」「原」「全」「真」「場」「多」(各1回)

となる。
中国語訳の「元」は一つもなかった。このことは、何を意味するのであろうか。どうも日本人の文化は「メタ」になじみが全くないように思われる。

新簡約英和辞典(研究社[1961])

meta- (第5版に記載)
metabolism(物質交代、物質代謝)
metacarpal(掌部、掌骨)
metacarpus(中手骨)
metacenter(傾心)
metagalaxy(認識しうる全宇宙)
metagenesis(真正世代交代)
metamer(異性体の一種)
metameric(異性の)
metamerism(体節性)
metamorphic(変化の、変態の)
metamorphism(岩石の変成作用)
metamorphosis(魔力や超自然力による変形、変態)
metaphor(隠喩)
metaphorical(比喩的な)
metaphrase(翻訳、言い換えをする)
metaphysical(難解な、超自然の、形而上学の)
metaphysician(形而上学的理論家)
metaphysicist(形而上学者)
metaphysicize(形而上学的に考える)
metaphysics(形而上学、思弁哲学)
metaplasm(語形変異)
metapolitics(理論的政治学)
metatasis(変形、変態)
metatarsus(中足)
metathesis(患部移動、音位変換)
metayage(分益小作制度)
matayer(分益農夫)
metazoan(後生動物、原生動物の上位にあるすべての動物)

新英和大辞典(研究社[1992])第5版で、初版は1980

meta- 『1.主に科学用語で次の意味を表す:
   a「・・の後;・・を超えた」:metanephros, metagalaxy, metaphysics. 
   b(位置・状態)の変化:metabolism, metamorphosis.
  c「二次的・・」:metalanguage.
2. 「・・より包括的な;超・・」の意で、既存の学問を批判的に扱う新しい関連学科名を表わす:metalinguistics, metamathematics, metapsychology.  
3,【化学】以下省略。』

以下は[1961]版から追加された項目のみを示す。
metabasis(病状変化、主題転移)
metabiosis(変態共生)
metabola(変態類)
metabolic(変態する、変形する)
metabolical(変態する、変形する)
metabolic water(同化作用によって生物体内に生じた水)
metabolite(代謝物質)
metabolous(動物の変態)
metaboly(変態)
metacentric(染色体の中央部にある動原体)
metacentric height(メタセンターの高さ)
metacentric stability(初期復元力)
metacercaria(吸虫類の幼虫の変形)
metacercarial(後生花被類)
metachlamydeae(後生花被類)
metachromasia(異染性)
metachromatism(細胞科学上の染色現象)
metachronal(多足類の歩脚で一定の位相差で運動する性質)
metanathous(二様式口器類の昆虫)
metahistory(対象を一時代に限定せず、多様な時代を比較しながら共通の歴史法則を追求しようとする歴史的認識の立場)
metahistorian(上記の立場の人)
metainfective(感染後におこる)
metakinesis(細胞分裂の中期)
metalanguage(メタ言語)
metalepsis(比喩的な言葉をさらに換喩する)
metalimnion(地質の変水層)
metalinguistic(メタ言語学の)
metalinguistics(メタ言語学)
metamathematical(超数学的な)
metamathematician(超数学者)
metamathematics(超数学)
metamaeral(動物の体節)
metamorphose(一変させる)
metamorphoses(変態の複数形)
metamorphous(変化の)
metanalysis(異分析)
metanauplius(ある種の幼虫)
metanephros(後腎)
metaphase(細胞分裂の中期)
metaphloem(植物の後生)
metaphoric(比喩的な)
metaphorically(比喩的に)
metaphrast(翻訳者)
metaphrastic(直訳的な)
metaphysic(学問・研究の原理体系)
metaplasia(病理の異形成)
metaplast(後形態)
metapleuron(昆虫の後側板)
metapneustic(昆虫の後気門の閉塞)
metapodium(動物の後ろ足)
metapolitician(政治哲学者)
metaphychic(心霊研究の)
metaphychics(心霊研究)
metapsychology(超心理学)
metastability(準安定状態)
metastable(準安定の)
metastable state(準安定状態)
metastasize(転移する)
metastrongylid(肺虫科の)
metatarsal(中足の)
metatheory(超理論、ある理論を一段と高い立場から解明するのに用いられる別の理論)
metatherian(後獣亜綱の)
metathesize(置換えが起こる)
metathetical(人工的患部移動の)
metathoph(複合有機栄養生物)
metatrophic(複合有機栄養形式をもつ)
metaxylem(後生木質部)
metazoa(後生動物門)
metazoan(後生動物門に属する)
metazoea(節足動物の幼生)

 なぜ、日本語に翻訳された「メタ」はこれほどに不確定なのだろうか、そのことの追求は、後刻。