メタエンジニアの眼シリーズ(41)
このシリーズはメタエンジニアリングで「文化の文明化」を考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です。
TITLE: 文明は見えない世界がつくる KMB3318
書籍名;「文明は見えない世界がつくる」[2017]
著者;松井孝典 発行所;岩波新書
発行日;2017.1.20
初回作成年月日;H29.7.14 最終改定日:H29.7.29
引用先;文化の文明化のプロセスImplementing
惑星探査などの宇宙論から人類の文明のあり方を模索している何冊かの著書の中での、最新刊の本書はその纏めのように思える。
それは、第4章の「宇宙論における人間原理と文明」に記されている。
『21世紀を前後して、我々の見えない世界の解明は飛躍的に拡大を遂げました。それはとりもなおさず、人間圏に蓄積される情報量が、爆発的に増加したということを意味します。果たして、我々が作り出すこの膨大な情報が今後、人間圏をどのように変化させてゆくのか。フラーの言う通り、我々がその生来の「包括的能力」を復旧することで、その情報を使いこなし宇宙船地球号を無事に水平飛行に戻すことは可能なのか?21世紀の人間圏はまさに、そのことが問われていることになります。』(pp.240)
『現在の人間圏は、IT技術をベースとした高度なネットワーク社会です。この情報ネットワークの発展が21世紀人間圏の最大の特徴です。その結果人間圏の構成要素は、組織から個人へと変化しつつあります。このネットワーク社会の発展が我々の文明にどのような未来をもたらすか、それを知る鍵を握っているのがネットワーク理論です。』(pp.241)
確かに、現在のホワイトハウスとトランプ大統領、日本の閣議と安倍首相の関係などを見ると、「人間圏の構成要素は、組織から個人へと変化しつつある」は、あちこちにその傾向を見ることができる。
その後、「ランダム・ネットワーク理論」、「スモール・ワールド・モデル」、「ベキ乗則」、「パレートの法則」、「ジッブの法則」などの説明が続く。
そして、ビックデータサイエンスとしての、新たな動きを独特な表現で記している。
『人文科学はこれまで、二元論と要素還元主義、あるいは仮説を観察やデータに基づいて検証するということを基本とする、いわゆる「科学」とは、ほど遠いものでした。しかしそれが今や、自然科学と同じ「科学」になろうとしているのです。
それは人間の行為が、デジタル化したデータとして蓄積され始めたことと関係しています。不特定多数が利用するウェブページ、ブログ、オンライン・ニュース、あるいは私的な連絡手段であるeメールやスカイプ、ショートメッセージにしても、すべてはオンライン上でやり取りされるようになっています。そうしたものの多くは、何らかの形で電子的に保存され、原理的には保存期間は半永久的です。これはまさに、人間圏についての分析可能なデータなのです。今やそれぞれの人に関して、その過去の驚くほど多様で詳細なデータが、蓄積され始めています。』(pp.248)
この考え方は、いかにも自然科学の専門家の意見だ。人文科学は、もともと立派な科学で、例えば「Why」を深く考える姿勢に関しては、自然科学は及ばない。自然科学者のタスクは、現象を数値化するか数式化するかでほぼ終わるが、人文科学はそこからが始まりになる。科学者=通常よりも論理を深く考えるヒト、とすると人文科学者のほうがよほど科学者らしいと思う。また、「原理的には保存期間は半永久的です」についても、現代の電子データが半永久的とは思えない。その保存に莫大な費用がかかるはずであり、例えば、ロゼッタストーンに刻まれたデータは無料で永久保存が可能になっている。全体最適の世界では、不要なデータは消去されると思う。
・人文を科学する
かなり以前に、グーグルが世界中の図書館の蔵書をデジタル化する計画を発表した。その結果、『デジタル化された歴史的記録によって、集団としての人間を定量的に考察できる環境が実現しつつある。』(pp.251)という。
そして、著者が考えている結論は、『人間圏のネットワークは成長を続けています。そのネットワークが最終的に意味を持つとすれば、それは秩序でなければなりません。しかし現代の人間圏にはまさに、その秩序が姿を現す直前の、臨界的な現象が現れていると考えられるのです。しかしその後に起きることは相転移です。そのとき人間圏は全く異なる様相を示すことになります。果たしてそれはどのような姿なのか。それはまだだれにもわかりません。』(pp.251)
臨界点を超えると相転移が起こるとは限らない。確かに、シンギュラリティーという技術上の臨界点には、いずれ到達をするのだが、そこでの相転移は起こらないと思う。現在も起こっているコンピュータ頼りの生活が、より一層進むだけではないだろうか。
私はむしろ、「人間圏」に拘る自然科学者の態度に歴史観の立場からの違和感を覚える。人文科学者の多くは生物圏からの人間圏の独立が、現代の文明上の多くの問題を引き起こしていると考えている。ビックデータは、人間圏の事象だけではなく、生物圏全体の事象を解明してほしいものだと思ってしまう。そうでなければ、人類の文明は長続きしない。
このシリーズはメタエンジニアリングで「文化の文明化」を考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です。
TITLE: 文明は見えない世界がつくる KMB3318
書籍名;「文明は見えない世界がつくる」[2017]
著者;松井孝典 発行所;岩波新書
発行日;2017.1.20
初回作成年月日;H29.7.14 最終改定日:H29.7.29
引用先;文化の文明化のプロセスImplementing
惑星探査などの宇宙論から人類の文明のあり方を模索している何冊かの著書の中での、最新刊の本書はその纏めのように思える。
それは、第4章の「宇宙論における人間原理と文明」に記されている。
『21世紀を前後して、我々の見えない世界の解明は飛躍的に拡大を遂げました。それはとりもなおさず、人間圏に蓄積される情報量が、爆発的に増加したということを意味します。果たして、我々が作り出すこの膨大な情報が今後、人間圏をどのように変化させてゆくのか。フラーの言う通り、我々がその生来の「包括的能力」を復旧することで、その情報を使いこなし宇宙船地球号を無事に水平飛行に戻すことは可能なのか?21世紀の人間圏はまさに、そのことが問われていることになります。』(pp.240)
『現在の人間圏は、IT技術をベースとした高度なネットワーク社会です。この情報ネットワークの発展が21世紀人間圏の最大の特徴です。その結果人間圏の構成要素は、組織から個人へと変化しつつあります。このネットワーク社会の発展が我々の文明にどのような未来をもたらすか、それを知る鍵を握っているのがネットワーク理論です。』(pp.241)
確かに、現在のホワイトハウスとトランプ大統領、日本の閣議と安倍首相の関係などを見ると、「人間圏の構成要素は、組織から個人へと変化しつつある」は、あちこちにその傾向を見ることができる。
その後、「ランダム・ネットワーク理論」、「スモール・ワールド・モデル」、「ベキ乗則」、「パレートの法則」、「ジッブの法則」などの説明が続く。
そして、ビックデータサイエンスとしての、新たな動きを独特な表現で記している。
『人文科学はこれまで、二元論と要素還元主義、あるいは仮説を観察やデータに基づいて検証するということを基本とする、いわゆる「科学」とは、ほど遠いものでした。しかしそれが今や、自然科学と同じ「科学」になろうとしているのです。
それは人間の行為が、デジタル化したデータとして蓄積され始めたことと関係しています。不特定多数が利用するウェブページ、ブログ、オンライン・ニュース、あるいは私的な連絡手段であるeメールやスカイプ、ショートメッセージにしても、すべてはオンライン上でやり取りされるようになっています。そうしたものの多くは、何らかの形で電子的に保存され、原理的には保存期間は半永久的です。これはまさに、人間圏についての分析可能なデータなのです。今やそれぞれの人に関して、その過去の驚くほど多様で詳細なデータが、蓄積され始めています。』(pp.248)
この考え方は、いかにも自然科学の専門家の意見だ。人文科学は、もともと立派な科学で、例えば「Why」を深く考える姿勢に関しては、自然科学は及ばない。自然科学者のタスクは、現象を数値化するか数式化するかでほぼ終わるが、人文科学はそこからが始まりになる。科学者=通常よりも論理を深く考えるヒト、とすると人文科学者のほうがよほど科学者らしいと思う。また、「原理的には保存期間は半永久的です」についても、現代の電子データが半永久的とは思えない。その保存に莫大な費用がかかるはずであり、例えば、ロゼッタストーンに刻まれたデータは無料で永久保存が可能になっている。全体最適の世界では、不要なデータは消去されると思う。
・人文を科学する
かなり以前に、グーグルが世界中の図書館の蔵書をデジタル化する計画を発表した。その結果、『デジタル化された歴史的記録によって、集団としての人間を定量的に考察できる環境が実現しつつある。』(pp.251)という。
そして、著者が考えている結論は、『人間圏のネットワークは成長を続けています。そのネットワークが最終的に意味を持つとすれば、それは秩序でなければなりません。しかし現代の人間圏にはまさに、その秩序が姿を現す直前の、臨界的な現象が現れていると考えられるのです。しかしその後に起きることは相転移です。そのとき人間圏は全く異なる様相を示すことになります。果たしてそれはどのような姿なのか。それはまだだれにもわかりません。』(pp.251)
臨界点を超えると相転移が起こるとは限らない。確かに、シンギュラリティーという技術上の臨界点には、いずれ到達をするのだが、そこでの相転移は起こらないと思う。現在も起こっているコンピュータ頼りの生活が、より一層進むだけではないだろうか。
私はむしろ、「人間圏」に拘る自然科学者の態度に歴史観の立場からの違和感を覚える。人文科学者の多くは生物圏からの人間圏の独立が、現代の文明上の多くの問題を引き起こしていると考えている。ビックデータは、人間圏の事象だけではなく、生物圏全体の事象を解明してほしいものだと思ってしまう。そうでなければ、人類の文明は長続きしない。