その場考学研究所 メタエンジニアの眼シリーズ(47)
このシリーズはメタエンジニアリングで「文化の文明化」を考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です。
書籍名;「異文化理解力」 [2015]
著者;エリン・メイヤー 発行所;英治出版
発行日;2015.8.25
初回作成年月日;H29.9.2 最終改定日;H29.9.11
引用先;文化の文明化のプロセス
著者は、フランスとシンガポールに拠点を置くビジネススクールの客員教授。異文化マネージメントのプログラム・ディレクターなどを務める。
第3章の「多文化世界における説得の技術」-「なぜ」vs「どうやって」
『相手を説得して自分のアイデアを支持してもらう力がなければ、支持を集めてアイデアを実現することはできない。そして多くの人は気づいていないものの、あなたが説得を試みる方法や説得力があると感じる議論の種類は、あなたの文化の哲学的、宗教的、そして教育的前提や意識に深く根ざしている。そのため、普遍的であるどころか、説得の技術は極めて深く文化と結びついたものなのである。』(pp.119)
様々なセミナーなどでの事例は、彼女の説の裏付けのためだ。彼女は、事例から一般論を導くタイプだ。
『ドイツでは、まず理論的概念を理解してから、それを現実の状況に当てはめようとします。何かを理解するには、まずあらゆる概念的データを分析してから結論を下したいのです。』
『アメリカで暮らした日々はヒューバートにアメリカ人は全く異なるアプローチをとるのだと教えた。彼らは理論よりも実用性に重点を置くため、提案から始める可能性がとても高いのだ。』(pp.122)といった具合だ。
・説得の指標における各国の位置づけ
ここでは、アングロサクソン系とラテン・ゲルマン系を明確に分離している。さらに、『ある国の指標における絶対的な位置よりも二国間の相対的な位置のほうが重要である。』(pp.126)と述べている。
例えば、アングロサクソンのなかでも、『他のヨーロッパ文化に比べると、イギリスはかなり応用優先である。しかしアメリカと比べると、極めて原理優先的だと言えるー文化の相対性がいかに私たちの認識を作っているかを浮き彫りにする一例だ。』(pp.127)
図3-1には、「説得の各国分布」が示されている。
最右翼は「応用優先」で、アメリカとカナダ。この国の文化は、『各人は事実や、発言や、意見を提示した後で、それを裏付けたり結論に説得力を持たせる概念を加えるように訓練されている。まとめたり箇条書きにしてメッセージや報告を伝えるのが好ましいとされている。議論は実践的で具体的に行われる。理論や哲学的議論はビジネス環境では避けられている。』
一方の最左翼は「原理優先」で、イタリヤ,フランス、スペインなどである。この国の文化は、『各人は最初に理論や複雑な概念を検討してから事実や、発言や、意見を提示するように訓練されている。理論的な議論をもとに報告を行ってから結論へ移るのが好ましいとされている。各状況の奥に潜む概念的原理に価値が置かれる。』(pp.127)なお、ここではアジア各国は含まれない。全く別のジャンルになっている。
しかし、私なりに日本の立ち位置を考えると、教育は「原理優先」で、ビジネスは「応用優先」であるように思われる。つまり、ハイブリッドなのだが、それが有利でもあり、不利でもある。どっち憑かずは、国際間ではよろしくない。
応用優先思考の代表はアリストテレスで、その方法論を近代に広めたのは、ロジャー・ベーコンとフランシス・ベーコンといったイギリスの哲学者としている。またデカルトやヘーゲルといった大陸系の哲学者は、「原理優先」のアプローチをとっている。
『応用優先の思考を持つ人々はまず実例をほしがる。その実例の数々から結論を導くのである。同じように、応用優先で学ぶ人々は「事例研究法」に親しんでおり、彼らはまずケース・スタディーを読んで現実世界のビジネスにおける問題や解決方法を学び、そこから帰納的に一般原理を引き出そうとする。』(pp.133)
・包括的思考―アジア的な説得のアプローチ
『西洋諸国の間には、応用優先と原理優先の思考という大きな違いがある。しかしアジアと西洋の思考パターンの違いを考えるにあたっては、別の観点を用いる必要がある。アジアの人々はいわゆる「包括的な」思考パターンを持っていて、西洋の人々はいわゆる「特定的な」アプローチをとっている。』(pp.135)
ここでも、いくつかの事例が紹介されている。象徴的なのは、「人物の写真を撮る」である。アメリカ人は、クローズアップの写真(左)を撮り、日本人は、背景を含めた全身の写真(右)を撮った。これに対する意見が記されている。
『西洋の参加者・・・だけど人物の写真を撮れといわれたんだから、左こそが人物の写真だよ。右の写真は部屋の写真だ。どうして日本人は人物の写真を撮れと言われて部屋の写真を撮るんだ。』
『アジアの参加者・・・左写真は人物写真とは言えない。顔のクローズアップ写真だ。これを見てその人物の何がわかるっていうんだ?右の写真は人物が、彼女の全身が、背景と一緒に写っているから彼女の人となりを推し量ることができる。どうしてアメリカ人は大事な細部を省いて、顔のクローズアップを撮るんだ?』(pp.140)
アジア人はマクロからミクロへ、西洋人はミクロからマクロへと考える。それは、住所の書き方や、年月日や氏・名を書く順番に現れているとしている。
しかし、同じアジア人でも日本人と中国人は異なる。『中国人は日本人が決断に遅く、柔軟性に欠け、変化を好まないと不満を言います。日本人は中国人がよく考えもせず、性急な決断をし、混乱を増長させると不満を言います。このアジア二か国は一緒に働くのが難しいだけでなく、日本人はあらゆる点で中国人というよりドイツ人的です。』(pp.298)
そこで、「4つの文化のカルチャーマップ」が登場する。4つの文化は、フランス、ドイツ、中国,日本である。カルチャーは8分類されており、①コミュニケーション(ハイコンテクストかローコンテクストか)、②評価(直接的なネガティブフィードバックか間接的なネガティブフィードバックか)、③説得(原理優先か応用優先か)、④リード(平等主義か階層主義か)、⑤決断(合意志向かトップダウン式か)、⑥信頼(タスクベースか関係ベースか)、⑦見解の相違(対立型か対立回避型か)、⑧スケジューリング(直線的な時間か柔軟な時間か)
ここで、日本人は赤字のカルチャーに極端に偏っている。中国人とは、⑤,⑥、⑧で逆方向であり、ドイツ人とは、①,②,③,⑥、⑦で反対方向である。
『日本人は直線的な時間の文化です。彼らは慎重に計画を立て、そこから逸れません。系統立て、組織化されていて、直線的な時間のドイツ人の同僚たちと同じように時間通りであることに価値が置かれています。実際、指標⑤と⑧では、日本人はドイツの文化と近く、フランスと遠く、中国とはさらに遠いのです。』
『中国人は素早く決断し、計画は頻繁かつ簡単に変更し、計画に固執するより柔軟性や適用性に重きを置いています。これら二つの指標(⑤と⑧)では、中国人は日本人よりフランス人に近いのです。』(pp.300)
この評価は、美人巣面でのことであり、政治の局面では異なるように思う。
・私たちはみんな同じで、みんな違う
『私たちが育った文化は、私たちの世界の見方に深い影響を与えている。どの文化でも、世界を特定の見方で理解するようになり、特定のコミュニケーションのパターンを効果的であるとか不適切だと感じるようになり、特定の議論を説得力があるとか受け入れがたいと考えるようになり、特定の決断方法や時間への認識を「自然だ」とか「変だ」と思うようになる。
リーダーたちはビジネスで成功するために人間の性質や性格の違いをいつでも理解しておく必要あるーそれは何も新しいことではない。21世紀のリーダーたちに求められている新しいものとは、いまだかつてないほど豊かで広範な働き方を理解するためにそなえることであり、人々のやり取りのなかでどこまでは単純に性格によるものなのか、どこからが文化の違いによるものなのか特定する能力である。』(pp.306)
この著書は、グローバルビジネスをリードする人宛てに書かれたもので、文明には直接に関係がない。しかし、「どこまでは単純に性格によるものなのか、どこからが文化の違いによるものなのか特定する能力」は、言い換えれば、「どこまでは単純に特定な地域における文化によるものなのか、どこからが文明に対する考えの違いによるものなのか特定する能力」は、文化の文明化には必要である。
ちなみに、私の40年間の航空機用エンジンの国際共同開発を通じて得た結論も、「どこまでは単純に性格によるものなのか、どこからが文化の違いによるものなのか特定する能力」は、最終的な結論がどちらへ傾くかにとっては、重要なセンスということであった。