生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

メタエンジニアの眼(125)「2025年までに世界を変える」 (その3)   

2019年05月09日 07時49分18秒 | メタエンジニアの眼
メタエンジニアの眼シリーズ(125) 
TITLE:  「2025年までに世界を変える」 (その3)              

書籍名;「世界を救う処方箋」 [2012] 
著者;徐 ジェフリー・サックス 発行所;早川書房
発行日;2012.5.20
引用先;文化の文明化のプロセス Converging、
 
このシリーズは文化の文明化プロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です。



著者は、現代の開発経済学の第1人者といわれ、国連ミレニアム・プロジェクトとコロンビア大学地球研究所のリーダーを務める。日本語では、2006年から2112年までに3冊の「地球全体を幸福にする経済学」の視点で著書が発行されている。これはその第3冊目。
 概要は、前2冊と同様にカバーの裏側に記されている。
 
『社会の分断、エネルギーの枯渇、環境破壊・・・。アメリなの危幾の淵源に、地球全体の課題を解く力ギがある。
世界各地で貧困と戦ってきた経済学者ジェフリー・サッ クスが、今回、危機に瀕する祖国アメリカに目を向けた。増大する一方の貧富の格差、社会の分断、教育の劣化、巨額の財政赤字と政治腐敗、グローバリゼーションへの対応の遅れ、環境危機の深刻化……。悪化しつつある母国の病状を、途上国支援の現場で鍛えられ た「臨床経済学」を応用して根本から診断、諸課題に対する抜本的な処方筆を提示する。
サックスは説く。いまこそ、私たちは行き過ぎた富の追求を見直し、とくに富裕層はその社会的責任を自覚して、「文明の対価」、すなわち税金を応分に負担すべきだ。 目指すべきは、政府と民間が協調し、効率性、公平性、 持続性が保証された他者への共感にみちた社会である。それがひいては、人類全体への共感へと至り、世界を救うことにつながるのだから。』(カバー裏)

 この書は、2部構成になっている。第1部は「大崩壊」で、主にアメリカについて様々な観点からの崩壊の事実を述べている。第2部は「豊かさへの道」で、本来著者が述べたかったことが「処方箋」として記されている。

 アメリカの危機は、まずは「価値観」の危機として述べられている。
 『価値観の危機
アメリカの経済危機の根底には道徳の危機がある。アメリカの政財界エリートのあいだで市民としての美徳が衰退している。富者と権力者が自分以外の人びとや世界全体に尊敬と誠意と思いやりを示さなくなったとき、市場経済、法律、選挙といったものは十分に機能しなくなる。アメリカは世界で最も競争の激しい市場社会を作りあげてきたが、その過程で市民としての美徳を食いつぶしてしまった。社会に責任をもとうとする態度をとりもどさなければ、意味のある持続的な経済復興をはたすことはできないだろう。』(pp.11)

 そして、その価値観に基づいたアメリカ経済の危機について述べている。
 『アメリカ経済はますます、社会のごく一部の要求を満たすものになっており、アメリカの政治は公明正大でわかりやすい問題解決によって国家を軌道修正することができなくなっている。アメリカのエリート、たとえば大富豪、企業のトップ、わが同業者である学者たちのなかには、社会的な責任を放棄している者が大勢いる。彼らは富と権力を追い求め、その他の人びとは取り残されてしまう。 私たちは二一世紀初頭にあるべき良い社会のイメージをあらためて思い描き、そこにたどりつくための建設的な方策を見つけだす必要がある。最も重要なのは、良き市民としてのさまざまな行動によって、文明の対価を進んで支払うことだ。つまり、税金を応分に負担し、社会のニーズについてよく学び、次世代を守り育て、思いやりの心こそが社会をーつに結ぶということを忘れてはならない。国民の大多数がこの課題を理解し、引き受けてくれることを願う。』(pp.13)
 どうも、単純にそれ相応の税金を払えばよいということのようだ。そのことによって、公徳心が自ずとついてくるということだろうか。

 そこで、マクロ経済学者の役目は、「臨床経済学」にあると主張する。
 『マクロ経済学の仕事は重篤な症状を呈する患者や未知の基礎疾患に対処しなければならない臨床医の仕事に似ている。効果的な対応として求められるのは、根底にある問題を正しく診断し、適切な治療計画を立てて、それを解決することである。自著『貧困の終罵』のなかで、私はこの。プロセスを「臨床経済学」と名づけた。』(pp.14)

 さらに、アメリカは改革を待っていると主張する。
 『本書は将来的な討画についても述べている。私は市場経済の可能性を信じて疑わないが、二一世紀にアメリカが繁栄するためには、政府計画や政府投資、そしてアメリカ社会に共通の価値観にもとづく明快かつ長期的な政策目標も必要だ。いまのワシントンでは政府計画の策定は激しい逆風にさらされている。アジアでの仕事に二五年関わってきて、私は長期的な政府計画の価値がよくわかるようになった。とはいえ、それは旧ソ連で採用されたような発展性のない中央指令型計画ではなく、質の高い教育、近代的なインフラ、安全な低炭素エネルギー、環境維持への公共投資をめぐる長期計画のことである。』(pp.17)

「質の高い教育、近代的なインフラ、安全な低炭素エネルギー、環境維持への公共投資をめぐる長期計画」という4つが、十分な政府予算で可能になれば、すべてがうまく進み始めるというわけである。
 それは、とてつもなく困難な仕事なのだが、やらざるを得ない。結局、「個人または、市民としての美徳がとりもどされたとき」を期待することになる。

 著者は、現在の世界情勢を「文明の対価」を支払いながら生きているのだとしている。要は、税金が足りないということに尽きているように書かれているが、これでは、聊か「処方箋」とは頼りないように思われる。



メタエンジニアの眼(124)「2025年までに世界を変える」(その2)

2019年05月08日 16時42分34秒 | メタエンジニアの眼
メタエンジニアの眼シリーズ(124) 
TITLE:  「2025年までに世界を変える」(その2)              

書籍名;「地球全体を幸福にする経済学」 [2009] 
著者;徐 ジェフリー・サックス 発行所;早川書房
発行日;2009.7.20
引用先;文化の文明化のプロセス Converging、
 
このシリーズは文化の文明化プロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です。

著者は、現代の開発経済学の第1人者といわれ、国連ミレニアム・プロジェクトとコロンビア大学地球研究所のリーダーを務める。日本語では、2006年から2112年までに3冊の「地球全体を幸福にする経済学」の視点で著書が発行されている。これはその第2冊目。

 1冊目と同じく、概要がカバーの裏側に示されている。
 『グローバル経済が着実に成長を続ける一方、自然環境の悪化や人口爆発によって世界はますます過密になっている。このペースを放置すれば開発途上諸国での水害や病気の蔓延、貧困の激化と政情不安定を引き起こし、連鎖的に先進国の社会や経済も深刻なダメージを免れない。私たちにとって21世紀の課題は、それらの危機の有機的なつながりを正しく見定め、持続可能な開発を成しとげ、世界共通の富を保全することである。それは夢のような話ではない。ごれまでの古い対立構図を捨てて、国際協調のもと、先進国が僅かなコストを振り向けるだけで解決可能なのである。』(カバー裏)

 序文は、次の文章で始まっている。
 『その卓越した経験と知識にもとづき、ジェフリー・D ・サックスがここにまとめあげた世界の現状に関するレポートは、緊急性をもつと同時に、現実的な面でもはかり知れない価値をもつ。きわめて明断な分析、統合、参考資料、フィールド・マニュアル、ガイドブック、予測、そして人間を幸福にするために欠かせない基本要素への提言が簡潔にまとめられている。この本は、地球に住む六六億人の運命に責任を負わされた人びとに、こう語りかける。この数字を見よ、と。

 急激に変化した。その変化はより大きく、より速くなってきている。この数十年で世界は急激に変化した。
その変化はより大きく、より速くなってきている。私たちは科学技術を通じて多くのことをなしとげてきたが、それにもかかわらず、いや、むしろそのせいでというべきか、やがて残っている資源を使いはたしてしまうだろう。い まこそ、何が起こっているのか、正確に把握しなければならない。明らかな証拠には抗えない。私たちがこの惑星を壊してしまう前に、社会と経済に関する政策を建てなおす必要がある。入類がこの先、明るい未来を手にできるかどうかは、この一回限りの賭けにかかっているのだ。』(pp.14)

 さらに続けて、
 『人類の経済発展に見られる大きな特徴は、幾何級数的な成長という点にある。つまり、成長をくりかえす段階で同じくらいの成長を果たすのにかかる時間はしだいに短くなるのだ。人類が従ってきた単純な命令は、本来、生物学的なものである。産めよ、増やせよ―あらゆる面において急速な増加をめざせ。より正確にいえば、この成長はロジスティック曲線を描く。幾何級数的な成長もやがて減速し、しだいに衰えてゆくが、それはひとえに、環境から来る制限のせいなのだ。』(pp.15)

 確かに、「人類が従ってきた単純な命令は、本来、生物学的なものである」のだが、なぜヒト族だけが、この命令が強くなってしまったのだろうか。

 かつてのケネディ大統領の演説を引用して、
 『ケネディの演説は何よりも、一見和解しがたいと思える敵とも協力できるとアメリカ国民に強く訴えることで歴史を変えた。ソ連の指導者ニキータ・フルシチョフはこの演説を、フランクリン・ル ーズヴェルト以来の歴代アメリカ大統領による声明のなかで最高のものと評価し、核実験禁止条約についてケネディと交渉する意思があると表明した。六週間後、モスクワで部分的核実験禁止条約が締結されソ連とアメリカは暫定協定を交わした。これがきっかけで、やがて冷戦そのものが終罵を迎え、ロシアおよびソビエト連邦下の一四の国家が主権国家として独立を果たす結果につながったのである。』(pp.32)

 「一見和解しがたいと思える敵とも協力できるとアメリカ国民に強く訴えることで歴史を変えることができる」とは、著者がまさに主張していることだ。

 貧困地域の経済発展のための戦力としては、次の様に述べている。
 

『新しいテクノロジーを活用しようとするとき、経済が乗り越えるべきハードルが四つある。このハードルを理解しなければ、地域ごとに異なる活用法も含めた経済発展に関するさまざまな謎は解き明かせない。実際、この四つのハードルを認識し、適切に対処することによって初めて、国家規模の政策も効果を発揮する。その結果、国家単位の経済成長に加速がつき、地球に役立つ先端技術もますます発展するはずである。』(pp.282)

何よりもまず、ほんの少しの貯蓄とそれらを含む社会への投資が、始まりだとしている。そこから、「開発の梯子をのぼる」ことが始まるというわけである。
 『開発の梯子を上る
現実に経済がどのように発展していくのかを知るために、経済成長の基本となる四つの段階を見ておくのもいいだろう。この段階をーつ上がるごとに、収入と開発の水準はより高くなる。この四段階は、自給自足経済、商業経済、新興市場経済、テクノロジー経済の順に進んでいく。段階が進むにつれて、福祉の水準と一人あたりの資本レベルは上昇する。
まず「自給自足経済」から始まる。この経済の特徴は、農業生産性が低いこと、公益事業やインフラ整備が十分とはいえないこと、輸出の量が少なく、その内容も狭い範囲の一次農産物(園芸品、原綿、毛糸など)に限られることである。生活形態はほぼ自給自足で、それ以下のこともある。収入のほとんどを生計のために費やすので、貯蓄をする余裕はほとんどない。個人は貯蓄ができないので、 民間投資はほんの少しか、あるいはまったくない。』(pp.284-5)

 企業が進むべき道としては、次のようにある。
 『企業の進むべき道には三つの方向がある。第一に、協力の一環としてミレニアム・プロジェクトに同意すること。第二に、創造性を発揮して、その企業ならではの技術、ネットワーク、専門知識でどのように貢献できるかを考えること。このプロセスは一つの発見であり、これれによって企業は世界各地で目の前の問題 に取り組んでいる人びとと足並みをそろえることができる。第三に、企業は、それまで足を踏み入れたことのない領域で働くことを覚悟しなければならない。マリ、 マラウイ、、タジキスタン、ボリビアなどで事業を開始しても、最初は利益がないだろう。だが、同じ志をもつ他の企業と提携して新たな土地に進出した場合、それほど大きな損失もないはずだ。ミレニアム・ ビレッジ・プロジェクトやこれに類したプロジェクトは、企業ならでは の役割を果たすのに向いていて、その初期には大きな力になれるジャンルである。』(pp.433)
 「同じ志をもつ他の企業と提携して新たな土地に進出する」ことが、第1歩というわけの様だ。単独ではリスクが大きすぎる。

  そして、政府と企業以外の非政府活動への期待を示している。
 
 あとがきでは、最終的な提案事項として次の4つを上げている。
 『本書で提案される解決策には、たとえば次のようなものがあります。
・科学的なテクノロジーを開発し、規制をとりいれて、持続可能なシステムを構築する。
・ 医療や女子教育の充実など、積極的な介入により出生率を低下させる。
・豊かな国がわずかな金銭的援助をすれば、貧困国は貧困の罵から脱出できる。
・その一歩が踏み出せずに迷うときは、ミレニアム・プロジェクトをもう一度見直そう。
世界が協力すれば、問題はけっして解決不能ではないのです。この本は私たちに大きな希望を抱か
せてくれます。ミレニアム・プロミスの実現に向けて、できることからまず始めようではありませんか。』(pp.459)

 このような流れの中で、アメリカ国民はトランプを大統領に選び、America Firstの道を突き進み始めた。どちらが、最終結果を出すのだろうか。


メタエンジニアの眼(123)「2025年までに世界を変える」

2019年05月07日 14時31分23秒 | メタエンジニアの眼
メタエンジニアの眼(123) 
TITLE:  「2025年までに世界を変える」
             

書籍名;「2025年までに世界を変える」 [2006] 
著者;徐 ジェフリー・サックス 発行所;早川書房
発行日;2006.4.20
引用先;文化の文明化のプロセス Converging、
 
このシリーズは文化の文明化プロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です。



著者は、現代の開発経済学の第1人者といわれ、国連ミレニアム・プロジェクトとコロンビア大学地球研究所のリーダーを務める。日本語では、2006年から2112年までに3冊の「地球全体を幸福にする経済学」の視点で著書が発行されている。これはその第1冊目。
 
概要は、カバーの裏側に記されている。
 『「2025年までに貧困問題を解決する --この明確な目標は夢物語ではない!
現在、全人類のうち10億人が飢餓・疫病・地埋的な孤立のために「貧困の買」から抜け出せず、1日1ドル未満で生活することを強いられている。そのうち、生きる闘いに破れ、死に追いやられる人は毎日二万人もいる。しかし、人的資源の確保とインフラの整備さえ行なわれれば、自然と促される経済活動によって貧困を過去のものとすることができるのだ。そして、そのために必要な援助額は先進各国のGNPのたかだか1パーセントに満たない。私たちは、人類史上初めて「貧困問題を解決でき「可能性を手にした世代」なのである。』(カバー裏)

 イントロダクションでは、20世紀初頭の大恐慌時代を振り返っている。
 『八十五年前のイギリスに生きた偉大な経済学者ジョン・メイナード・ケインズは、大恐慌の悲惨な状況についてじっくり考えた。周囲の深い絶望を目にした彼は一九三〇年に論文「わが孫たちの経済的可能性」を書いた。圧迫と苦悩の時代に、彼は孫たちの世代、二十世紀の終わりになれば、イギリスを初めとする工業国では貧困が根絶されているだろうと予見した。ケインズが強調したのは科学とテクノロジーの劇的な進歩であり、テクノロジーの発展によってさまざまな分野での経済成長が促され、ひいてはこの成長が旧来の「経済問題」を解決するに至って、人はついに誰でも食べることに困らず、また生きるのに必要なものを得られるようになるというのだった。ケインズは正しかった。現在、極度の貧困は豊かな先進国から姿を消し、中程度の発展を果たした国の多くでも見られなくなった。』(pp.39)

 地球上の様々な地域における問題事例を述べる中で、特にバングラデシュに注目をしている。最下層を脱した経緯が良くわかるというわけである。
 『バングラデシュは一九七ー年に東パキスタンからの独立闘争をへて建国された。その年、深刻な飢餓と混乱に見舞われ、ヘンリー・キッシンジャー時代の国務省の役人の一人がそれを「国際社会の完全な無能
力者」と呼んで有名になった。今日の。バングラデシュは無能力者とはほど遠い。一人あたりの所得は、独立以来ほぼ二倍になり、平均余命は四十四歳から六十二歳に延びた。乳児死亡率(新生児千人につき誕生から一歳未満に死亡する乳児の数)は一九七〇年の百四十五人から二〇〇二年には四十八人に減った。どれほど希望のない環境に見えても、正しい戦略をとれば、そしてそれと並行して正しい資本投入ができれば、前進することが可能だと教えてくれるのがバングラデッシュである。』(pp.48)
 
さらに続けて、 
 『バングラデシュを訪問したあるとき、私は英字新聞の朝刊を手にし、アパレル業界で働く若い女性たちへの長文のインタビュー記事を読んだ。その内容は感動的で興味深く、意表をつくものだった。
一人一人が勤務の辛さや労働条件の厳しさ、ハラスメントについて語っていた。だが、その記事で最も強く印象に残り、また予想外だったのは、彼女たちがこの仕事をそれまで考えられなかった大きなチャンスだと思っていて、これによって生活がよりよく変わったとくりかえし述べていることである。』(pp.49)

また、インドにおけるイギリスの支配についての事例では、次のように記している。 
 『天才的な政治的手腕と冷徹な非情さをもったイギリスは、分断したのちに征服するという戦略によってインドでの優位をかちえた。世界の反対側にある人ロわずか五百万の国から来た小さな貿易会社が、一億一千万人かそれ以上の人口をもつ亜大陸に将来のための足場を築こうと考えるだけでも相当なものである―いわんや帝国を築くなどとんでもない。一六〇八年の不古な第一歩から、一八五八年に最終的に亜大陸を征服するまで、イギリスの東インド会社は―イギリスの王権を後ろ盾にして― ー歩一歩、策略と武力によって権力を握っていった。』(pp.257)

 インド経済の再編成については、
 『軍事力による征服は、経済的な征服と組みあわさっていた。十八世紀の初めから末まで、イギリスはインドの繊維や衣料を輸入する側から、インドにとって重要な輸出国へと立場を変えた。十九世紀半ばまでにイギリスはインドの布地の製造業者になっていた。インドの何百万という手織り職人に代わって、イギリスの機械織機が工場に設置された。市場力がテクノロジーの進歩によって形作られる図として、この情景の図はよく教科書に載っている。ただし、きわめて重要な時期である十八世紀にイギリスがずっとインド繊維製品の対イギリス輸出に貿易制限を課していた―その間にイギリスは効率の悪い製造業の遅れをとりかえして優位にたつことができた―という事実は教科書には書かれていない。要するに、イギリスは繊維貿易でのインドの優位をくつがえすために、攻撃的な産業政策をとったのである。』(pp.259)

 また、日本についても言及をしている。
 『実際に、日本は帝国の餌食にならずに産業時代のテクノロジーの恩恵を受けることができた。 国家の主権を保ちながら、日本は植民地よりもずっと速く産業化を進めることさえできたのだ。むしろマディソンが書いているように「イギリス政府が技術教育をなおざりにし、イギリス系の企業やその経営者がインド人従業員に訓練の機会を与えず、経営実務も経験させなかったため、インド産業の効率性は損なわれた」のだった。 全般的にイギリス支配下でのインド経済はかなりひどいものだった。マディソンのデータによれば、 インドは一六〇〇年から一八七〇年まで一人あたりの所得がまったく増えなかった。一八七〇年から独立した一九四七年までは一年に〇・二パーセントしか伸びず、それに対してイギリスはーパーセンの成長率だった。』(pp.262)

 貧困をなくすには、何を置いても先ずは「投資」が必要というわけである。
 『貧困の民から逃れるプロセスはどうか? まず、貧しい人びとは一人あたりの資本がとても低い ベルからスタートする。やがて世代が移るにつれて、一人あたりの資本の割合がますます減るため、いつのまにか貧困の罵に陥っている。資本が蓄積される速さよりも、人口増加の進み方のほうが速いときに、一人あたりの資本は減少する。資本の蓄積は、二つのカ ―プラスとマイナスがある― によって決まる。プラスの力は、世帯が所得の一部を貯蓄にまわすこと、または所得の一部を税金として支払い、政府による投資の財源にすることである。貯金は、ビジネスへ貸与したり(普通は銀行などの金融仲介業者を経由することが多い)、じかに家族の商売や市場の株式へ投資したりする。資本はときには量が減り、あるいは価値が損なわれる。時間の経過によって、消耗したり、分割されたりするからだ。また、熟練した労働者が、たとえばエイズで死んだりすることもある。貯蓄の量が減少する量よりも多ければ、正味資本の額は順当に増えてゆく。貯蓄が減少に追いつかないと、資本のストックはどんどん減ってゆく。たとえ正味資本の蓄積が増えていても、一人あたりの所得の成長に関しては、正味資本の増え方が人口増加に追いつくかどうかによって決まる。』(pp.349)

 全世界的な視野に立って、最適な投資戦略を実現すれば、少ない資本で目標が達成できるという説だった。