メタエンジニアの眼シリーズ(125)
TITLE: 「2025年までに世界を変える」 (その3)
書籍名;「世界を救う処方箋」 [2012]
著者;徐 ジェフリー・サックス 発行所;早川書房
発行日;2012.5.20
引用先;文化の文明化のプロセス Converging、
このシリーズは文化の文明化プロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です。
著者は、現代の開発経済学の第1人者といわれ、国連ミレニアム・プロジェクトとコロンビア大学地球研究所のリーダーを務める。日本語では、2006年から2112年までに3冊の「地球全体を幸福にする経済学」の視点で著書が発行されている。これはその第3冊目。
概要は、前2冊と同様にカバーの裏側に記されている。
『社会の分断、エネルギーの枯渇、環境破壊・・・。アメリなの危幾の淵源に、地球全体の課題を解く力ギがある。
世界各地で貧困と戦ってきた経済学者ジェフリー・サッ クスが、今回、危機に瀕する祖国アメリカに目を向けた。増大する一方の貧富の格差、社会の分断、教育の劣化、巨額の財政赤字と政治腐敗、グローバリゼーションへの対応の遅れ、環境危機の深刻化……。悪化しつつある母国の病状を、途上国支援の現場で鍛えられ た「臨床経済学」を応用して根本から診断、諸課題に対する抜本的な処方筆を提示する。
サックスは説く。いまこそ、私たちは行き過ぎた富の追求を見直し、とくに富裕層はその社会的責任を自覚して、「文明の対価」、すなわち税金を応分に負担すべきだ。 目指すべきは、政府と民間が協調し、効率性、公平性、 持続性が保証された他者への共感にみちた社会である。それがひいては、人類全体への共感へと至り、世界を救うことにつながるのだから。』(カバー裏)
この書は、2部構成になっている。第1部は「大崩壊」で、主にアメリカについて様々な観点からの崩壊の事実を述べている。第2部は「豊かさへの道」で、本来著者が述べたかったことが「処方箋」として記されている。
アメリカの危機は、まずは「価値観」の危機として述べられている。
『価値観の危機
アメリカの経済危機の根底には道徳の危機がある。アメリカの政財界エリートのあいだで市民としての美徳が衰退している。富者と権力者が自分以外の人びとや世界全体に尊敬と誠意と思いやりを示さなくなったとき、市場経済、法律、選挙といったものは十分に機能しなくなる。アメリカは世界で最も競争の激しい市場社会を作りあげてきたが、その過程で市民としての美徳を食いつぶしてしまった。社会に責任をもとうとする態度をとりもどさなければ、意味のある持続的な経済復興をはたすことはできないだろう。』(pp.11)
そして、その価値観に基づいたアメリカ経済の危機について述べている。
『アメリカ経済はますます、社会のごく一部の要求を満たすものになっており、アメリカの政治は公明正大でわかりやすい問題解決によって国家を軌道修正することができなくなっている。アメリカのエリート、たとえば大富豪、企業のトップ、わが同業者である学者たちのなかには、社会的な責任を放棄している者が大勢いる。彼らは富と権力を追い求め、その他の人びとは取り残されてしまう。 私たちは二一世紀初頭にあるべき良い社会のイメージをあらためて思い描き、そこにたどりつくための建設的な方策を見つけだす必要がある。最も重要なのは、良き市民としてのさまざまな行動によって、文明の対価を進んで支払うことだ。つまり、税金を応分に負担し、社会のニーズについてよく学び、次世代を守り育て、思いやりの心こそが社会をーつに結ぶということを忘れてはならない。国民の大多数がこの課題を理解し、引き受けてくれることを願う。』(pp.13)
どうも、単純にそれ相応の税金を払えばよいということのようだ。そのことによって、公徳心が自ずとついてくるということだろうか。
そこで、マクロ経済学者の役目は、「臨床経済学」にあると主張する。
『マクロ経済学の仕事は重篤な症状を呈する患者や未知の基礎疾患に対処しなければならない臨床医の仕事に似ている。効果的な対応として求められるのは、根底にある問題を正しく診断し、適切な治療計画を立てて、それを解決することである。自著『貧困の終罵』のなかで、私はこの。プロセスを「臨床経済学」と名づけた。』(pp.14)
さらに、アメリカは改革を待っていると主張する。
『本書は将来的な討画についても述べている。私は市場経済の可能性を信じて疑わないが、二一世紀にアメリカが繁栄するためには、政府計画や政府投資、そしてアメリカ社会に共通の価値観にもとづく明快かつ長期的な政策目標も必要だ。いまのワシントンでは政府計画の策定は激しい逆風にさらされている。アジアでの仕事に二五年関わってきて、私は長期的な政府計画の価値がよくわかるようになった。とはいえ、それは旧ソ連で採用されたような発展性のない中央指令型計画ではなく、質の高い教育、近代的なインフラ、安全な低炭素エネルギー、環境維持への公共投資をめぐる長期計画のことである。』(pp.17)
「質の高い教育、近代的なインフラ、安全な低炭素エネルギー、環境維持への公共投資をめぐる長期計画」という4つが、十分な政府予算で可能になれば、すべてがうまく進み始めるというわけである。
それは、とてつもなく困難な仕事なのだが、やらざるを得ない。結局、「個人または、市民としての美徳がとりもどされたとき」を期待することになる。
著者は、現在の世界情勢を「文明の対価」を支払いながら生きているのだとしている。要は、税金が足りないということに尽きているように書かれているが、これでは、聊か「処方箋」とは頼りないように思われる。
TITLE: 「2025年までに世界を変える」 (その3)
書籍名;「世界を救う処方箋」 [2012]
著者;徐 ジェフリー・サックス 発行所;早川書房
発行日;2012.5.20
引用先;文化の文明化のプロセス Converging、
このシリーズは文化の文明化プロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です。
著者は、現代の開発経済学の第1人者といわれ、国連ミレニアム・プロジェクトとコロンビア大学地球研究所のリーダーを務める。日本語では、2006年から2112年までに3冊の「地球全体を幸福にする経済学」の視点で著書が発行されている。これはその第3冊目。
概要は、前2冊と同様にカバーの裏側に記されている。
『社会の分断、エネルギーの枯渇、環境破壊・・・。アメリなの危幾の淵源に、地球全体の課題を解く力ギがある。
世界各地で貧困と戦ってきた経済学者ジェフリー・サッ クスが、今回、危機に瀕する祖国アメリカに目を向けた。増大する一方の貧富の格差、社会の分断、教育の劣化、巨額の財政赤字と政治腐敗、グローバリゼーションへの対応の遅れ、環境危機の深刻化……。悪化しつつある母国の病状を、途上国支援の現場で鍛えられ た「臨床経済学」を応用して根本から診断、諸課題に対する抜本的な処方筆を提示する。
サックスは説く。いまこそ、私たちは行き過ぎた富の追求を見直し、とくに富裕層はその社会的責任を自覚して、「文明の対価」、すなわち税金を応分に負担すべきだ。 目指すべきは、政府と民間が協調し、効率性、公平性、 持続性が保証された他者への共感にみちた社会である。それがひいては、人類全体への共感へと至り、世界を救うことにつながるのだから。』(カバー裏)
この書は、2部構成になっている。第1部は「大崩壊」で、主にアメリカについて様々な観点からの崩壊の事実を述べている。第2部は「豊かさへの道」で、本来著者が述べたかったことが「処方箋」として記されている。
アメリカの危機は、まずは「価値観」の危機として述べられている。
『価値観の危機
アメリカの経済危機の根底には道徳の危機がある。アメリカの政財界エリートのあいだで市民としての美徳が衰退している。富者と権力者が自分以外の人びとや世界全体に尊敬と誠意と思いやりを示さなくなったとき、市場経済、法律、選挙といったものは十分に機能しなくなる。アメリカは世界で最も競争の激しい市場社会を作りあげてきたが、その過程で市民としての美徳を食いつぶしてしまった。社会に責任をもとうとする態度をとりもどさなければ、意味のある持続的な経済復興をはたすことはできないだろう。』(pp.11)
そして、その価値観に基づいたアメリカ経済の危機について述べている。
『アメリカ経済はますます、社会のごく一部の要求を満たすものになっており、アメリカの政治は公明正大でわかりやすい問題解決によって国家を軌道修正することができなくなっている。アメリカのエリート、たとえば大富豪、企業のトップ、わが同業者である学者たちのなかには、社会的な責任を放棄している者が大勢いる。彼らは富と権力を追い求め、その他の人びとは取り残されてしまう。 私たちは二一世紀初頭にあるべき良い社会のイメージをあらためて思い描き、そこにたどりつくための建設的な方策を見つけだす必要がある。最も重要なのは、良き市民としてのさまざまな行動によって、文明の対価を進んで支払うことだ。つまり、税金を応分に負担し、社会のニーズについてよく学び、次世代を守り育て、思いやりの心こそが社会をーつに結ぶということを忘れてはならない。国民の大多数がこの課題を理解し、引き受けてくれることを願う。』(pp.13)
どうも、単純にそれ相応の税金を払えばよいということのようだ。そのことによって、公徳心が自ずとついてくるということだろうか。
そこで、マクロ経済学者の役目は、「臨床経済学」にあると主張する。
『マクロ経済学の仕事は重篤な症状を呈する患者や未知の基礎疾患に対処しなければならない臨床医の仕事に似ている。効果的な対応として求められるのは、根底にある問題を正しく診断し、適切な治療計画を立てて、それを解決することである。自著『貧困の終罵』のなかで、私はこの。プロセスを「臨床経済学」と名づけた。』(pp.14)
さらに、アメリカは改革を待っていると主張する。
『本書は将来的な討画についても述べている。私は市場経済の可能性を信じて疑わないが、二一世紀にアメリカが繁栄するためには、政府計画や政府投資、そしてアメリカ社会に共通の価値観にもとづく明快かつ長期的な政策目標も必要だ。いまのワシントンでは政府計画の策定は激しい逆風にさらされている。アジアでの仕事に二五年関わってきて、私は長期的な政府計画の価値がよくわかるようになった。とはいえ、それは旧ソ連で採用されたような発展性のない中央指令型計画ではなく、質の高い教育、近代的なインフラ、安全な低炭素エネルギー、環境維持への公共投資をめぐる長期計画のことである。』(pp.17)
「質の高い教育、近代的なインフラ、安全な低炭素エネルギー、環境維持への公共投資をめぐる長期計画」という4つが、十分な政府予算で可能になれば、すべてがうまく進み始めるというわけである。
それは、とてつもなく困難な仕事なのだが、やらざるを得ない。結局、「個人または、市民としての美徳がとりもどされたとき」を期待することになる。
著者は、現在の世界情勢を「文明の対価」を支払いながら生きているのだとしている。要は、税金が足りないということに尽きているように書かれているが、これでは、聊か「処方箋」とは頼りないように思われる。