放映500回目の記念すべきエピソードだけど、それよりも登場編から6話目にしてジプシー刑事(三田村邦彦)のキャラが完全に崩れてしまった(と私は思う)回として、一生忘れられないエピソードです。
すでに前回レビューした#494『ジプシーとラガー』で崩れ始めてたけど、あれどころじゃない衝撃シーンが今回待ち構えてます。さて、一体なにが起きるのか?
☆第500話『不屈の男たち』(1982.3.19.OA/脚本=長野 洋/監督=竹林 進)
パリに潜伏してた国際的な殺し屋“J”が交通事故で死亡したんだけど、その“J”がやはり国際的なピアニストであり音楽大学の教授でもある吉行(北村総一朗)の写真とデータを記した手帳を所持していたと、治安当局から警視庁に通報が入ります。
すなわち“J”は、事故死さえしなければパリに滞在中の吉行教授を暗殺する予定だった。“J”が死んでも他の殺し屋がその任務を引き継ぐ可能性は充分にある。
教授が命を狙われる理由は不明だけど、帰国する彼の自宅が七曲署管内にある為、我らが捜査一係=藤堂チームがボディガードを務めることになります。
教授本人にも命を狙われるような心当たりは無いんだけど、空港から自宅へ向かう道中で早速トラックが突っ込んで来て、クラッシュした警察車輌内でロッキー(木之元 亮)が負傷!
同乗してたジプシーが民間人のバイクを奪って追跡するも、今度はトラックがクラッシュし、刺客はあの世へ逝っちゃいます。
ケガして入院するのが持ち芸みたいなロッキーは心配ないにせよ、国際的な殺し屋を雇うほどの黒幕が、このまま引き下がるとは思えない。
けど、身に覚えのない教授自身には危機感がなく、慈善団体からの依頼に応じてチャリティーコンサートの開催を勝手に決めた上、それに備えた体力作りとして毎朝ジョギングすると言い出し、藤堂チームの面々を困らせます。
で、やむなくジョギングに付き合うことにしたラガー(渡辺 徹)が、ナイフで襲撃してきた初老の男から教授を庇い、やや膨らみ始めてるお腹を刺されてしまう!
その男=杉田はゴリさん(竜 雷太)に取り押さえられ、山さん(露口 茂)の取調べを受けるという地獄……いや、ある意味「誉れ」とも言える接待コースを満喫するんだけど、吐いたら吐いたで雇い主に命を狙われる地獄が待ってるから、簡単には口を割りません。
しかし山さんは見抜きます。杉田が藤堂チームを油断させる為の“オトリ”であることを。そう言えば、杉田らしき男が若い女と一緒にジョギング(つまり教授の動きを偵察)するのをラガーが目撃していた!
さらに、教授と知り合いだった土地開発会社の社長で、倒産を苦に焼身自殺したとされる人物=宅間が、実は別人だった疑惑も浮上。
そして自殺の件を知らなかった教授は、パリのホテルで宅間を見かけ、声を掛けたのに完全無視されたと言う。
そう、宅間は資産隠しを目的に倒産を偽装し、さらに殺し屋を雇ってホームレスの男を焼死させ、自分の身代わりにした。ところがパリで吉行教授に姿を見られてしまい、慌てて“J”を雇ったに違いない。
これで命を狙われる理由がハッキリ判ったのに、慈善団体に迷惑をかけたくない吉行教授は、コンサートの中止を頑なに拒否します。
「教授、お気持ちは解ります。しかし他の場合とは違います。あなた自身の命が懸かってるんです」
「それを護るのがキミたちの仕事だろ?」
「そんな言い方は無いでしょう! あなたの為にすでに2人の刑事が!」
「よせ、ドック」
「ゴリさん!?」
納得できないドック(神田正輝)は、一係室に戻っても不満をぶち撒けます。
「まったく話になりませんよ。自分のために刑事がどうなろうと知らないって態度ですからね!」
そこで、今や指令塔の役目を山さんに譲って名誉会長化してるボス(石原裕次郎)がビシッと締めます。
「文句があるんならデカ辞めるんだな」
「え?」
「オレたちの仕事は何だ? デカが割の合わない仕事だってことは最初から知っててやってるんじゃねえのか」
「ボス!」
「教授がピアノを弾くと言うのを誰にも止める権利はない。オレたちは黙って教授の命を護ればいいんだ」
そう。それがプロフェッショナルであり、仕事の流儀。私もあらためて肝に銘じなきゃいけません。
というワケで教授のチャリティーコンサートは予定通り開催され、病院を抜け出したロッキーとラガーも駆けつけて、名誉会長を除く藤堂チーム全員が警護にあたります。(正確に言えばドックもいないけど)
で、ホール内を隈なく探ったジプシーが、大道具部屋で美味しそうな素足を見つけ、鼻息荒くカーテンをめくったら……
本来なら下着姿でなくちゃ辻褄が合わないけど、そこは永遠の童貞番組『太陽にほえろ!』だから仕方ありません。
緊縛された女の子はどうやら、コンサートを手伝いに来た音大の学生さん。彼女が担っていた役割は……!
すべての演奏を終えて、観客に一礼する吉行教授。ちなみにラガーの隣にいる教授の奥さん役の女優さんは、のちにトシさん(地井武男)の奥さんとなる吉野佳子さん。奥さんと言えば吉野さん!っていうぐらい奥さん役がハマる女優さんです。
で、スポットライトを浴びる教授に花束を渡すべく、舞台袖に現れた女を見て、ラガーが叫びます。
「あの女だ!」
間一髪! 女学生から話を聞いて駆けつけたジプシーとゴリさんが、花束に小型拳銃を忍ばせたその女を、物音ひとつ立てずに取り押さえます。
そんな“不屈の男たち”の決死行には眼もくれず、アンコールの拍手を浴びてご満悦そうな吉行教授ですが……
「あ、乙女の祈り!」
教授がアンコールに応えて弾き始めたのは、一緒にジョギングしたときにラガーが好きだと言った楽曲なのでした。
「ラガー、お前の為に弾いてくれてるんだ」
「いえ、僕たちみんなの為にですよ!」
というワケで黒幕=宅間もパリで拘束され、厄介な事件もなんとか解決。ここまで観る限りだとジプシーは、キャラが崩れたとまで言われるような言動はしてません。問題はここから。定番のコントチック・ラストシーンです。
“乙女の祈り”に感動したラガーからクラシックコンサートに誘われ、みんなが口々に「俺はロック派だから」とか「ニューミュージックがいい」とか言って敬遠する流れを受けて、ドックがジプシーに尋ねるワケです。
「お前はどうなんだよ?」
するとジプシーが澄ました顔でこう答える。
「松田聖子ちゃん」
それで全員が吉本新喜劇ばりにズッコケる。もう既に登場編で見せたニヒルさはすっ飛んでるけど、ここで終わってたらまだ救いはあった。とぼけたジョークで質問をかわし、あくまで周りのノリには合わせない孤高さが、ギリギリ成立しなくはなかった。
完全にキャラが崩れたのは、その直後。この顔です。
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もう何も言いますまいw 元からジプシーはネアカな人だった。けど、藤堂チームがとんでもない猛者揃い、あるいはスコッチと呼ばれた前任者がめっちゃニヒルな奴だったと風の噂に聞き、必死でキャラを作って来たけどすぐにバレちゃった。そう解釈しておきましょう。
三田村邦彦さんは、役柄に合わせて共演者たちと徹底して距離を置くつもりだったのに「3日目で崩れちゃった」とインタビューで仰ってます。ジプシー刑事は2ヶ月近くも我慢したんだから立派なもんでしょう。
ちなみに件の質問をジプシーに振ったドック=神田正輝さんが松田聖子さんと結婚されるのは1985年、これより3年後のことです。
さて松田聖子ちゃんですが、実は当時私はかなり熱烈なファンでした。デビューから3年くらいどっぷりハマっていた時期がありました。抜群の歌唱力と天性の明るさに夢中になりました。神田正輝さんと結婚して公然とベタベタする姿にはほとほとうんざりしましたが、やっぱり嫌いにはなれませんでした。人を惹き付ける魔力があります。少し脱線してしまいましたが。
松田聖子さんはアイドル界のスーパースターで、よもや間接的に『太陽〜』と繋がるとは思ってませんでした。私は神田正輝さんが俳優として「これからが勝負」って時に「聖子ちゃんの旦那」というレッテルを貼られてしまったのが、ちょっと残念に感じたりしてました。