時は’80年代後半。『Gメン’75』『西部警察』『特捜最前線』、そして『太陽にほえろ!』といった“刑事ドラマの代名詞”たちが長い歴史にピリオドを打ち、それらと入れ代わるように現れて大ヒットしたのが日本テレビの『あぶない刑事(デカ)』。
そしてフジテレビが月9枠“トレンディドラマ”の第1弾『君の瞳をタイホする!』をスタートさせ、グラサン姿の井上陽水さんが日産セフィーロのCMでニヤニヤしながら「皆さんお元気ですか?」と語りかけて来たのが1988年で、世はまさに「食う寝る遊ぶ」の時代。
その前年の4月にテレビ朝日&東映コンビが現在の『相棒』へと連なる“水曜21時枠の刑事ドラマ”第1弾『大都会25時』をスタートさせるも不発に終わり、第2弾として10月に送り出したのが『ベイシティ刑事(コップ)』全24話でした。
誰がどう見ても『あぶない刑事』の亜流ではあるんだけど、横浜・港町署に設置された捜査課の左遷部署“別動班”って設定は、むしろ藤竜也さんが’78年にレギュラー出演された日テレ火曜21時枠の刑事ドラマ『大追跡』を彷彿させ、これは世良公則さんとの“バディ物”というより石川秀美さん、いかりや長介さんも加えた“チーム物”と捉えるべきかも知れません。
アドリブ満載の軽〜いノリも『大追跡』ですでに完成されてたし、そのチームに柴田恭兵さんもおられたことを思えば、『あぶない刑事』も『ベイシティ刑事』も『大追跡』から派生したブラザーであり、たまたま放映時期が少しズレただけ。(つまり二番煎じとは違う)
『あぶデカ』のブランドスーツとは対照的にラフなファッションや、オールディーズ・ナンバーを使ったBGM等にも“時代に迎合しない”反骨心が感じられ、あえてヒューマン路線に回帰する後番組『はぐれ刑事純情派』にも同じことが言えそうです。
けど、残念ながら『ベイシティ刑事』はヒットしませんでした。とっても分かりやすい『あぶデカ』のオシャレさと違って、ちょっとひねくれた『ベイシティ〜』のソレは視聴者たち……ことに若い女性層には伝わりにくかった。
オッサンの懐古趣味とか銃器へのこだわりとか、いかりや長介とか石川秀美とか、そんなのがチャンネル権を握る女性たちに受けるワケがないw
だからコケるべくしてコケた番組ではあるんだけど、今となっては時代にも女性にも媚びなかった、創り手たちの頑固な姿勢がとっても眩しいです。
☆第24話 (最終回)『男たちのラストショー』(1988.3.23.OA/脚本=日暮裕一/監督=村川 透)
この時代のアクション物にドラマ性を求めても仕方ありません。テーマだのメッセージだの、マジメに伝えようとすればするほど「ダサい」とか「寒い」とか言われ、だから倉本聰さんや山田太一さんといった大御所の脚本家たちがテレビから次々に手を引いちゃった。
今回はさすがに最終回ってことで、お荷物部署“別動班”に解散命令が下るというイベントはあるにせよ、そこに悲壮感はカケラもない。
「ダメだこりゃ」
もはや老齢で家のローンも残ってる山崎班長(いかりや長介)だけは異動命令に従うしか無いけど、まだまだ若い小池(藤 竜也)、星野(世良公則)、河合(石川秀美)はすぐに転職先を思案。そりゃあの時代ですから仕事はいくらでもあります。
「俺だってな、潔く辞表を叩きつけてえよ。女房やガキがいなけりゃな」
「でもな、短い間だったけど一応、親方気分を味わわせてもらったんだ。お前らには感謝してるよ」
「…………」
本当は小池たちだって、悔しいし哀しいに決まってます。そんな想いを’70年代なら夕日や海に向かって叫ぶところだけど、’80年代は地下射撃場で弾丸を湯水のごとく撃ちまくって発散するという贅沢さ。
そう言えばあの時代、私自身はバブルの恩恵を受けた実感があまり無いんだけど、唯一、通ってた映像専門学校の課題制作で16ミリフィルムを湯水のように使っても叱られなかったのが、現在だとあり得ない贅沢さだったと思います。
足元に転がる空薬莢をわざわざ撮るなんてマニアックな演出が、日本のTVドラマで見られたのも多分『ベイシティ刑事』が初めて。だけど喜ぶのはガンマニアだけで、肝心の顧客(女性視聴者たち)には何も響きませんw
さて、別動班の解散を決めたのは捜査課長の桜井(神山 繁)なんだけど、その張本人が恥も外聞もなく、小池たちに協力を要請して来ます。
ヤクザだけをターゲットにする凄腕の“始末屋”を逮捕に向かった捜査課の部下たちが全員、逆にそいつに捕まったから救出して欲しいと言う。
基本は事なかれ主義の山崎班長もさすがに黙ってられません。
「そいつは身勝手過ぎやしませんかね?」
「そうか、それじゃキミもこいつらと一緒に退職するのか?」
「……仕方ありません。私は、小池たちに命令することは出来ません!」
家のローンが残ってる班長をクビにさせるワケにも行かず、小池と星野が立ち上がります。
「どこへ行くんだ?」
「ちょっと、こいつと別れを惜しみに」
そう言って小池は“ジョン”ことS&W・M29センチネルアームズカスタムを、そして星野は“マギー”ことコルトM1911ゴールドカップナショナルマッチ・コンバットカスタムを取り出すのでした。
「そう、それにはちょうど手頃なヤマよ」
ピストルの名前が何であろうと女性たちは知ったことじゃないけど、ここがこの最終回で一番熱いシーン。胸を打つような展開はもう二度とありませんw それがバブルという時代。
凄腕の“始末屋”=水谷を演じるメインゲストも、喜ぶのは私みたいな『太陽にほえろ!』ファンだけで、その中でも女性にはあまり人気が無かったであろう、この人。
『ベイシティ刑事』には2度目のご登場となる、元“ブルース刑事”の又野誠治さん。私は好きだったけど、この人が意識しまくってた松田優作さんほどのスケール感やカリスマ性を皆が感じないのも、まあ理解できます。
時代が違えば“ボギー”世良さんと再び組んでの刑事役もあり得たと思うのに、悪役専門アクターに収まっちゃったのは個人的に残念です。
それはともかく元ブルースは、自分が囚人として乗せられる予定だった護送車を港町署の表に乗りつけ、人質にした捜査課のボンクラ刑事たちを並べて、プラスチック爆弾を掲げます。
「このスイッチ押せばどうなるか分かるよな?」
「ハッタリかまして後で恥かくなよ」
「星野、あの男にハッタリはねえぞ」
又野さんが第7話で演じた悪党とは別キャラみたいだけど、今回も藤さん演じる小池刑事と因縁がある設定。
そんな元ブルースの要求は、裏切った雇い主にギャラの2億円を取り立てろというもの。タイムリミットは翌日の午前8時。
雇い主の正体を知ってるのは、連絡役を担ってた謎の美女(日向明子)だけ。捜査課に密告して元ブルースを「売った」のもこの女。
県警本部は元ブルースの要求を無視して強行逮捕する構えだけど、小池&星野は謎の美女を探し出して命懸けで拉致し、雇い主の正体が暴力団の幹部であることを聞き出します。
県警本部による強行逮捕を阻止する意図もあり、小池は進捗状況を元ブルースに伝えるべく護送車に乗り込みます。
「小池さんよ、俺は楽しみだぜ。あんたみたいなヤツと張り合えるのがよ」
「水谷、俺と相棒はワンセットだ。俺が二人いると思ってくれ」
そしてワンセットの小池&星野が決行したのは、第9話で刑務所へ送った金庫破りの名人(三上 寛)を脱獄させ、一緒にヤクザ幹部の屋敷に忍び込んで隠し金を全て盗み出すという、本気で刑事を辞める前提のミッション。
「よし、最後のお勤めだ。締まって行こうぜ!」
一方、桜井課長らに逃走用の高速艇を用意させた元ブルースは、このまま逃げるべきだと手下に言われても聞き入れません。
「ダメだ。約束だからな、小池との」
「信じるんですか? 相手はデカですよ!」
「テメエらには解んねえよ!」
ヤクザしか殺らない元ブルースに小池は一目置いており、そんな小池に元ブルースもシンパシーを抱いてる。
殺し屋と刑事の友情になんか、私はまったくリアリティーを感じないし共感もしないけど、このあたりは香港映画の影響かも知れません。
ともかく、タイムリミットぎりぎりに到着した小池&星野は、高速艇に乗り込んで約束どおり2億円を元ブルースに手渡し、港で見守る同僚たちに宣言します。
「人質を無事、解放しました! 小池警部補、只今をもって退職します!」
「星野巡査長、右に同じ! お世話になりました!」
「ところで相談なんだが……」
「俺も約束は守る。おたくらの行きたい所へ連れてってやる」
小池&星野が行きたい場所とは、警察官でなくてもカネさえあれば拳銃がいくらでも撃てる、ハワイという名の楽園。
そこで永住する夢に一步近づいたその時、何者かがライフルで元ブルースたちを、そして星野にも弾丸をぶち込んだ!
えっ、なんで? 撃ったのはどうやら警察側のスナイパーらしいけど、いったい誰の命令で? なんで星野まで撃っちゃうの?
……って、釈然としないまま展開が進んじゃうんだけど、そう言えば元ブルースの雇い主を探す過程の中で、ヤクザ幹部のバックにさらなる黒幕=県警本部の人間が絡んでることを臭わせてました。
それって、今回はレビューを書くために注意深く観てたから思い出せたものの、最初に観たときは完全に忘れてたから「なんじゃこりゃ?」って感じでした。
説明過多になるのも良くないけど、説明不足はもっと良くない。ましてや最終回のラストシーンなんだし!
「星野、いよいよ憧れのハワイだ! 向こうに着いたら、すぐにお前の射撃場の土地探しだ、な?」
「そいつはいいな……楽しみだ」
ところが! 元ブルースの手下が撃たれたときに手放した時限爆弾は、午前8時に起爆装置がセットされており……
『傷だらけの天使』や『俺たちの勲章』における“挫折の美学”がアメリカン・ニューシネマのダイレクトな影響だったとすれば、この『ベイシティ刑事』最終回のそれはオマージュというか、もはやパロディですよね。
別に笑わせようって意図は無いにせよ、ストレートに(哀しげに)それをやるのは照れくさい。だからあえて軽〜くやっちゃう。なにせ「食う寝る遊ぶ」の時代だから。
返す返すも、そして良くも悪くも、あの頃、僕らのニッポンがホントおかしな事になってましたよね。いや、2023年現在はもっとおかしいかも知れないけれど……
自分のリサーチ力の弱さを嘆くばかりです。
私にとってベイシティ刑事は、初回放送をオンタイムで楽しみ、その後何度か再放送される度にビデオ録画して、遂に2023年正月の東映チャンネル配信の際には、配信期間だけ同チャンネル契約をして録画したほど大好きなドラマです。
初回放映当時は日本のテレビ映画で毎回オートマチックがブローバックして排莢してくれる画面には釘付けでしたね。
なお、こちらの若い方々のコメントにはBGMに批判的な意見が多いですが、私は否です。毎回事件テーマに沿ったオールディーズが使われて、それが横浜というエキゾチックな街の雰囲気とマッチしていたと評価すべきでしょう。
藤竜也と世良公則のセリフ回しも言葉だけを捉えると歯が浮くような表現が確かにありましたが、あの二人が口にするとそうでなくなるのが二人の名優のお芝居だったかと思います。コウさんの年齢になればあんな素敵なオヤジになれるかと夢見ましたが現実は厳しかったですね。
世間では「あぶデカ」とよく比較されますが、コメディタッチの部分も含めてベイシティの方が絶対にセンスがあると私は思いますね。
モデルガンファンとしては、放映後すぐにジョンとマギーのモデルガンをカスタムして今でも家宝です。
さて、最終回はある意味ベイシティらしい終わり方でしたね。最後のハワイからの絵葉書は視聴者に何を思わせたかったのか、受け取る人それぞれでしょうが意味深でしたね。
また、名バイプレーヤーの北見敏之さんが又野さんの手下役だったのですね。既にお二人とも鬼籍に入られてしまいました。
後年、銃器担当をされた人から続編の予定があったと聞かされました。プロットは上がっていたものの残念ながら諸般の事情で実現されませんでした。
続編が予定されていた証拠にその方から譲っていただいたマギー2世が我が家には居ますから。
BIG SHOTの納富氏はシルバーのシリーズ70ゴールドカップは現実には存在しないので、続編ではシリーズ80を使いたかったらしく、その設定のプロトタイプを譲っていただいた次第です。プロトですから仕様は普通のモデルガンのままです。遠い懐かしい話です。
しかし結果として1シリーズで終わったからこそGUNファンに未だに伝説的に語られる存在になったのだと今では思っています。
世良公則さんと同い年というロートルですが、今年は何十年かぶりに二人のジャケットを誂え直しましたので、この冬は交互に楽しもうと思っています。
本放映当時の私は同じ刑事ドラマでも『太陽にほえろ!』等の王道派で、ファッションにもまったく無頓着だったので、『ベイシティ刑事』の“時代に媚びない格好良さ”をちゃんと理解できたのは、つい最近かも知れません。
ただ、モデルガンは好きだったので、快調なブローバックがテレビで観られることの凄さだけは理解してました。
BIG SHOTさんと縁がお有りのようですが、実は私も映像業界で働いた時期があり、納富さんや大川俊道さん、又野誠治さん等と一緒にお仕事したことがあるんですよ! でもモデルガンは貰えませんでしたw
続編の企画についてはまったく知りませんでした。アクションドラマというジャンル自体が下り坂なうえ『はぐれ刑事純情派』がヒットしちゃったもんだから、実現へのハードルが高過ぎたんでしょうね。
その替わりに生まれたのが東映Vシネマの第1弾『クライムハンター』だったのかも知れません。
私の場合は根っからのモデルガンファン繋がりで、出身の大阪から東京に赴任していた時期に東京の友人から紹介してもらったのが某工房代表の有名なガンスミスのN代氏でした。同氏と知り合えたことが大きかったですね。彼は惜しくもお若くして昨年他界されてしまいましたが。
続編の製作があるかもという話をお聞きしたのも彼からでベイシティ刑事2ではこのマギー2を使う予定だったんだが没になった云々で惜譲していただきました。
11月に横浜ピアアリーナでミュージシャンのKANの追悼コンサートに女房と行く予定にしています。
折角だから一泊して横浜の街や鎌倉を楽しんで来ようと考えています。
40年近く時間が経ているので随分と舞台になった名所が変化しているでしょうね。
萬珍楼の椅子で肉まんをかぶりついて、本来なら赤煉瓦構内跡でジョンとマギーをぶっ放したいところです。POLE STARかSTAR DUSTあたりでカクテルでも飲みたいです。もうすっかり御のぼりさんです(笑)。
ハリソンさんのロケ地レポートを拝見する限り寂しい感じのようですね。あいつがトラブルで使われた場所も見に行きたいのですけどね・・・。
ジョンとマギーをぶら下げていくのだけは絶対にやめて欲しいと家内から釘を刺されています(笑)
私みたいなリボルバー限定のコレクターは男性でも少なそうですが、こういう趣味はいくら歳を重ねても飽きないし、やめられないですね。