第324話『愛よさらば』(1978.10.13.OA/脚本=小川 英&四十物光男/監督=竹林 進)
もちろん、ボン(宮内 淳)が主役の回でロッキー(木之元 亮)が殉職する筈もなく、電気ショックによる心臓マッサージでなんとか息を吹き返します。
この大手術を担当されたお医者さんが実に冷静なお方で、終始淡々と処置しておられるもんだから、我々視聴者はあまりハラハラせずに済みましたw
昨今の医療ドラマで描かれる大袈裟な心臓マッサージとどっちがリアルなのか知る由もないけど、お医者さんにはもうちょっと焦って頂いた方が場面的に盛り上がったかも知れませんw
ともかくロッキーは生き返ったけど、まだまだ予断は許されない状態で、ボンは気が気じゃありません。なにしろ初めての後輩刑事であり同居人でもあるロッキーは、単なる同僚を超えた存在。毛むくじゃらだしイビキは超うるさいけど、素直で憎めぬ可愛い弟分なのです。
そんなボンの様子を見て、その兄貴分であるゴリさん(竜 雷太)が声を掛けます。
「ボン、大丈夫だ。あれだけの崖から落ちても死ななかった奴だ。一度呼び戻した命を金輪際離すもんか」
「ええ……でもまだ心配です。七曲署には1年目のジンクスがありますから」
「! ……ボス、そう言えばロッキーは」
「その話はよせ。そんなジンクスなんか、ロッキーが吹き飛ばしてくれるさ」
とは言いつつ、ボス(石原裕次郎)にも普段の落ち着きが見られません。
この時点での殉職者はマカロニ、ジーパン、テキサスの3名だけ。1年後にボンが、そしてその翌年に殿下が死んだ辺りから正直なところ「殉職」に重みが無くなっちゃうんだけど、この頃はまだ違ってました。
しかし今はロッキーの復活を祈るしかなく、ボンは恋人=白城幸子(純アリス)を奪って逃走した尾形清(清水健太郎)の人間性を掘り下げるべく、捜査を再開します。彼の内面を知れば行く先も予測できると踏んだワケです。
すると困ったことに、聞こえて来るのは「清はいいヤツ」という声ばかり。
清はワールドドラッグ社への投資の件を知らなかったのに、子供が生まれたばかりの仲間(穂積ぺぺ)に強盗をさせない為に、あえて自分の手を汚した。
過去に起こした殺人未遂事件も実は、幸子の生い立ちを知った途端に彼女を捨てた、元婚約者が相手だった。だけど清は、その動機を最後まで言わなかった。幸子をそれ以上傷つけない為に。
最初は清を撃ち殺しかねない勢いだったボンも、知らず知らず清に共感していきます。もし自分が清の立場だったら、きっと同じことをしたに違いない……
「清がなぜ彼女を拉致したのか、これでやっと分かりました」
ボンの話を聞いて、ゴリさんも頷きます。
「刑事のお前とは、所詮は結ばれない。それを彼女に納得させたかったんだろうな」
「……清たちと我々は、本当に違う世界の人間なんでしょうか?」
「…………」
「解り合うってことは、もうホントに不可能なんでしょうか?」
「いや、そんなことはない。絶対にない。非常に難しいのは事実だが……」
「…………」
ボンと清は似た者どうし。なのに片や裕福な家庭で愛情いっぱいに育てられた警察官。片や孤児で肉親の愛を知らずに育ち、さんざん差別や虐待も受けて来たであろうアウトロー。
ゴリさんが言う通り、解り合うのは並大抵のことじゃないでしょう。それでも、ボンは諦めません。あくまで人を信じ抜く意志の強さは、七曲署歴代刑事の中でも一番かも知れない男なんです。
ところが運命の悪戯か、北海道に渡って来た清の仲間=次郎が、その行方を追ってた長さん(下川辰平)や地元の刑事たちから逃げようとして、交通事故に遭って死んでしまいます。
次郎の目的はどうやら、警察の捜査を撹乱することにあった。これもまた、言わば自己犠牲……
「清を逃がすために命を捨てたのか、次郎……」
そんな時に、ようやくロッキーが意識を取り戻します。次週にはケロッと元気に仕事復帰しますから、彼はやはり人間じゃありません。
すぐさま見舞いに来たボンは、あの時なぜ自らロープを切ったのか尋ねます。するとロッキーは、一人でも命を救える道を選択するのが「山の掟だから」と答えます。
「方法は別として、自分たちの村を作るために命を捨てた次郎……そして山の掟とは言えお前は、清のために命を捨てようとした」
そうさせる何かが、尾形清という男にはある。
「つき合ってみると、ホントにいい奴かも知れないな、清って」
だけど刑事である以上、ボンは清を捕まえなくちゃいけない。もちろん、強盗に荷担してしまった大好きな幸子も……
その清と幸子は、北海道を諦めて海外で「俺たちの村」を作ることを決意し、密航準備を進めてました。ロッキーに命を救われて一時は心が揺らいだ清だけど、次郎が「警察に殺された」と知って再びダークサイドへの道を突っ走ってしまうのでした。
だけど港まで行くには厳重な包囲網を突破せねばならず、その為に二人は深夜、鉱山の工事現場にダイナマイトを盗みに行きます。そこでバッタリ出くわしてしまう若い作業員を演じたのが、この1年後にスニーカー刑事として登場する山下真司さん。
実はすでにレギュラー入りがほぼ決まってたそうで、なのにボンの殉職が延期されて浪人生活を送る羽目になり、その埋め合わせとして北海道ロケに呼ばれたみたいです。『太陽にほえろ!』における山下さんの不遇は登場前から始まってたワケで、そりゃあ確執的な思いが残るのもムリないかも知れません。
「山へ逃げ込んだ二人ってあんたたちだろ? 俺たちの村ってのが出来たら、俺も入れてもらおうと思ってたんだ」
スニーカーは警察に通報するどころか「好きなだけ持ってけよ」と盗みの手引きを自ら買って出ちゃう始末。
自分たちの牧場を作ることがそんな大した夢なの?っていう疑問は正直感じるけど、現実社会に絶望し、夢にすがってないと生きてられない彼らの気持ちは解らなくもありません。往年のアメリカンニューシネマみたいなもんで、行き着く先は破滅しか無いんだけども……
さて、清と幸子が強奪したと見られる車が検問を突破し、西部警察ばりにダイナマイトをぶっ飛ばしながら派手に暴走します。
すぐに駆けつけたボン、ゴリさん、長さんに包囲されるんだけど、運転してたのは清ではなく、後のスニーカー刑事でした。(もちろん実際のスニーカー=五代潤とは別キャラです。念のため)
「貴様、何者だ?」
「尾形清の仲間さ。もっとも仲間になってまだ半日しかつき合ってねえけどな」
そう、これも清たちを逃がすための陽動作戦。だけどそこは素人の浅知恵で、かえって刑事たちに清たちの行く先を特定させる結果を招きます。恐らく清はこの道と逆方向、つまり大雪山を目指しており、旭岳ロープウェイを使うに違いないとボンはヤマを張るのでした。
「ボン、車じゃ間に合わんかも知れんぞ」
「!!」
『太陽にほえろ!メインテーマ(信じあう仲間バージョン)』をバックに、ヘリを飛ばすボン! 眼下に広がるのは大雪山の雄大な風景! シビレます。『太陽~』にはなぜか大自然がよく似合う!
そしてロープウェイを降りたばかりの清&幸子を見つけたボンは、ヘリの着陸を待たずに決死のダイビング! このスタントにはジャパン・アクションクラブのメンバーが駆り出された模様です。
さぁ、ここで名曲中の名曲「ジーパン刑事のテーマ(青春のテーマ)」をバックにボンが疾走! カメラはその勇姿を上空から捉えます。単なる駆けっこをこれほど力を入れて撮り、これほど時間を割いて見せてくれるテレビ番組は、陸上競技の中継を除けば『太陽にほえろ!』以外にありません。だから私はこのドラマを愛してやまないんです。最高!
で、清と幸子は山の中腹にある避難小屋へと逃げ込み、ボンも続いて駆け込みます。そこには数人の登山者がいて、ダイナマイトを持った清にとって格好の人質となります。
拳銃を抜いたボンは清に銃口を向けながらも、必死に説得を試みます。
「盗んだ金でユートピアなんか作れやしない! やり直すんだもう一度!」
「うるせえんだよ! やり直せやり直せって、それがお前らの決まり文句さ! その一言で俺たちに手錠をぶちこみ、ムショに放り込んで安心してやがんだっ!!」
実際、地元の刑事は「あんな連中は1日でも長く刑務所に入れとくに限る」なんて言って、ボンを怒らせたりしてました。そんな世間に対する清の恨みが、積もりに積もってついに爆発したワケです。
「俺たちは、俺たちの村を作るほか無いんだよ……人間らしく生きるには……自由で幸せに生きるには、それしか無いんだ。それしか無いんだよ田口さん!」
「分かる! お前の気持ちは分かる! だから、それを正しい金で作るんだ。俺だって力になるよ! でも今はやめるんだ。俺はお前にこんなマネをして欲しくないんだよ! 清っ!!」
「あんたも、ただのデカなんだ! あんなインチキ会社に金返すくらいなら、お前らと一緒にここで死んでやるよっ!!」
「!!」
いよいよ清がダイナマイトの導火線に火を点けてしまい、ボンは拳銃の引金に指をかけます。撃たなければ、清を殺さなければ、幸子も登山者たちも救えません。でも……!!
ここで銃声が轟き、清の身体が小屋の壁へと叩きつけられます。と同時にゴリさんと長さんが突入し、導火線の火を消し止めます。
「お兄ちゃん!! お兄ちゃん!! お兄ちゃん!!」
幸子が駆け寄り、清の身体を揺らしますが、胸に被弾した彼は二度と動くことはありませんでした。
ボーゼンと立ち尽くすボンが窓の外を見ると、上空のヘリコプターに、拳銃を構えた藤堂ボスの姿が……
ボスが持ってたのはリボルバー拳銃のCOLTローマンMk-III4インチ。飛行中(すなわち激揺れ)のヘリから、数百メートル先の山小屋の中にいる人間を4インチの拳銃で狙撃し、たった1発で息の根を止めるという、ゴルゴ13でさえ不可能であろう神技をやり遂げられた理由はただ1つ。ボスだからです。石原裕次郎だからです。ロッキーとはまた違う意味で人間じゃない、ほぼ神様なんです。
だけど、ここはせめてライフル銃を使って欲しかった! この件については、後であらためて検証させて頂きます。
ともかく尾形清がボスに射殺され、「俺たちの村」の夢は完全に幻となりました。
「ボス……殺せなかった……俺には、殺せませんでした」
「……手錠だ、ボン」
「!!」
そう、ボンが愛した白城幸子は強盗事件に荷担し、清の逃亡を手助けするなど数々の罪を犯してしまったのです。ボンはじっと幸子の眼を見つめ、幸子も見つめ返します。
「白城幸子……強盗共犯容疑で、逮捕する」
切ないラストシーンです。充分に切ないんだけど、ボンが自分で尾形清を射殺しなかった事については、ファンの間で賛否両論があったみたいです。
『太陽にほえろ!』の新人刑事たちは代々、殺したくない犯人をやむなく射殺するという最大の試練を乗り越え、成長し、卒業していきました。
ところがボンだけは最後まで1人も殺さないまま殉職するんですよね! いや、正確にはマイコンとDJも射殺未経験のまま終わってるんだけど、DJは任期があまりに短かったし、マイコンは石原良純さんだから仕方ありませんw(ジプシーも確か殺さず終いだけど、彼は新人刑事じゃないから例外でしょう)
賛否両論の「否」は、要するに「甘いんじゃない?」って声だろうと思います。ボンというキャラクターに対しても甘いし、アクションを売りにした刑事ドラマとしても甘い。
だけど私は、ボンに限っては射殺経験ゼロで良かったと思ってます。とことん人間が好きで、何があっても人の良心を信じ抜くボンは、やっぱり何があっても人は殺せない。ドラマとして筋が通ってます。
もしかするとこのエピソードで、本来ならボンが清を射殺する予定だったんじゃないかって、思ってた時期もありました。それが撮影当日に急遽、ボスが代わりに射殺する案に変更されたもんで、小道具さんがライフル銃を用意しておらず、やむなくリボルバーを使う事になったのかも?って。
ところが脚本にはちゃんとボスが「拳銃で」射殺するって書かれてたそうです。ってことは多分、銃の知識に疎いライターさんがそう書かれたのを、小道具さんも真に受けてライフルを用意しなかった、っていうのが真相じゃないでしょうか?
思い返せば前編の中盤、ボンが射撃訓練所でマンターゲットの心臓ばかり狙う=憎しみに駆られて清を射殺するかも知れない、っていう伏線が張られてるんですよね。
本当にラストで射殺させるつもりなら、逆にそんな伏線は張らない筈です。つまり創り手たちは最初から、ボンにだけは何があっても射殺はさせないって決めてた。私はそう確信するワケです。
歴代刑事の中でもボンがイチオシだった私としては、そんな創り手たちのボン愛が詰まったこのエピソードもまた、イチオシせずにいられません。いや、ボンだけじゃなく、ロッキーも本当に痺れるほどカッコ良かった。今回だけはw
ゲストの清水健太郎さんも光ってるし、ヒロインの純アリスさんは歴代「ボンの相手役」の中でも一番ステキだったと思います。
そんなアリスさんは当時25歳。父親がニュージーランド人で2歳の時に両親が離婚しており、祖母に育てられ家庭というものを知らずに育った生い立ちは、今回演じられた白城幸子のキャラに少なからず反映されてるかも知れません。
柴田恭兵さんを輩出した「東京キッドブラザース」に所属し、同劇団でほぼ同期の三浦浩一さんと'80年にご結婚。次男の三浦孝太くんと三男の三浦涼介くんは共に俳優となり、特に涼介くんは私が脚本家として参加した戦隊ヒーロー番組にレギュラー出演された上、タベリストツアーで観に行った舞台で多部未華子さんと共演される等、ちょっとした縁を勝手に感じさせてもらってます。
なので昨年、アリスさんが66歳の若さで亡くなられたのはショックでした。ご冥福をお祈り致します。合掌。
日本テレビ開局25周年記念作品ってことで、'78年秋の改編期の目玉番組として制作された『太陽にほえろ!』北海道ロケ2部作、その前編です。
当初はこのタイミングでボン(宮内 淳)が殉職する予定だったそうで、その延期が決まった身代わりに相方=ロッキー(木之元 亮)が死にかけることになりますw
もちろん人気者の先輩を差し置いて毛むくじゃらの後輩が先に死ぬことはあり得ないんだけど、このエピソードで「山男」というロッキー刑事の設定が初めて本格的に活かされ、またその活躍により初めてロッキーが格好良く見えたことは、今回最大のトピックと言えるかも知れません。
けれど主役はやっぱり人気者のボンでw、切ないロマンスや犯人への共感などボン活躍編のエッセンスが全て詰まった集大成とも言える作品。ゲスト=清水健太郎&純アリスという華のあるキャスティングも見逃せない、'78年の『太陽にほえろ!』イチオシのエピソードです。
☆第323話『愛は何処へ』(1978.10.6.OA/脚本=小川 英&四十物光男/監督=竹林 進)
ボンが、最近つき合い始めたカノジョ=白城幸子(純アリス)と公園で待ち合わせ、さぁこれからデートしてチョメチョメしちゃうゾ!ってところに他の男が乱入、幸子にナイフを突きつけて拉致するもんだから驚いた!
もちろんボンは必死に後を追うんだけど、交差点で左折して来たトラックにぶつかってあえなく撃沈。
そんなワケで七曲署・藤堂チームは急遽、白城幸子の身辺調査を開始。するとボンが知らなかった彼女の特異な背景が次々と浮かび上がって来ます。
まず、幸子は北海道旭川にある児童福祉施設の出身であること。そして彼女を拉致したのは同じ施設で同時期に育った男、つまり幼なじみの尾形清(清水健太郎)であることも判明。道理で、幸子は拉致される時にあまり抵抗しなかったワケです。
困惑するボンに、ボス(石原裕次郎)が追い打ちをかけます。
「ボン、お前が知らなかったことがもう1つある。白城幸子は、北海道の女子刑務所で生まれた」
「!?」
幸子の父親はアメリカ兵であり、母親はそいつに捨てられ、無理心中を図ろうとして逮捕され、刑務所で幸子を産んだ直後に病死したという、今となってはリアリティーが感じづらい壮絶人生。('78年当時でもギリギリだったかも知れません)
「彼女がどこで生まれようと、俺の気持ちに変わりありません。俺を頼ろうとしていた彼女の気持ちにも、嘘は無いはずです」
思えば、これまで惚れて来た女性たちのほとんどにそういうハードな背景があり、もはやボンも慣れっこ。かえって普通の女の子じゃ満足できない体質になってるかも知れませんw
じゃあ、これならどうだ?とばかりに、さらにハードな仕打ちがボンを襲います。
マルチ商法で悪名高い投資会社「ワールドドラッグ」の事務所から隠し金300万円が強奪され、目撃した警備員の証言により主犯は尾形清、そして逃走車を運転してた女が白城幸子そっくりであることが判明しちゃうのでした。
いよいよ言葉を失うボンに、ゴリさん(竜 雷太)は「きっと尾形清に脅されて無理やり協力させられたんだ」と言葉をかけるのですが……
そのとき幸子は、やはり清と一緒にいました。二人は港で並んで北海道行きのフェリーを眺めており、幸子が清に脅されてるようには到底見えません。
「やっぱり、こうするしか無いのね。私たち……」
「ああ、こうするしか無いんだ。俺たちはな、違うんだ。世間の連中と同じ事しようとしたって、そうはいかないんだ。絶対にな……」
「でも私……田口刑事、好きだった」
「分かってる」
「あの人となら、きっと幸せになれる……そう思ったの」
「分かってる」
「ごめんね、逆らったりして」
「もういい。あの男のことは忘れろ」
「はい、お兄ちゃん。もうそんなことクヨクヨ考えてるヒマ無いもんね。私たちの村が出来るんだもん」
二人は兄妹じゃないんだけど「お兄ちゃん」という呼び方には肉親以上の強い絆が感じられます。
「ああ、とうとう実現するんだ。俺たちの村、俺たちの牧場……これだけは誰にも邪魔させない!」
そう、清の目的は、仲間たちと一緒に自分たちの牧場を北海道に作ること。その為に必死に貯めて投資した金をワールドドラッグ社に踏み倒され、カッとなって盗みに入ったのでした。
そのいきさつは捜査によって刑事たちも知る事となりますが、だからと言って強盗の罪が許される筈もなく、特に恋人を目の前で奪われたボンの怒りは治まる気配がありません。
射撃訓練所で黙々とCOLTローマンを撃ちまくるボンが、人型ターゲットの左胸ばかり狙ってるのを見て、相棒のロッキーは戦慄を覚えます。まさか先輩、にっくき恋敵をぶっ殺すつもりでは !?
心配になったロッキーは、北海道の「俺たちの村」予定地に先回りしようとするボンに付き添うのでした。
土地が比較的に安い旭岳山麓でその場所を見つけたボン&ロッキーは、美しく広大な風景に眼を奪われ、清たちの抱く夢に思わず共感しちゃいます。
「悪くないかも知れないな……」
だからこそ、その夢は犯罪で得た金なんかで実現すべきじゃない。ボンは清たちを東京に連れ戻す決意を新たにします。
ボンが睨んだ通り、清と幸子が北海道へ渡ったことが確認され、非常線が張られるも二人は検問を強行突破して逃走! ボンはその現場へ急行し、ヘリで駆けつけたゴリさんと合流しますが、ロッキーは二人が山へ逃げ込むだろうと予想し、徒歩でひとり天人峡を目指します。
で、その野性のカンが見事に的中し、崖の上でロッキーは清&幸子と鉢合わせ。この辺りの展開は後のカナダロケ編=ロッキー殉職編と非常によく似てます。そう、ロッキーはここで……
「岩城さん!?」
一瞬、熊と出くわしたと思ったものの、相手が服を着てて幸子と顔見知りである=ボンの仲間=刑事だと悟り、清は逆上します。
「黙ってこのまま東京に帰れ! もう俺たちの邪魔はさせない!」
清は勇敢にも、服を着た熊に乱闘を挑みますが、あまりに場所が悪すぎました。すぐに足を滑らせ、崖から転落する羽目になります。なんとか岩の出っ張りに掴まったものの、とても自力で登れる崖じゃありません。
「ロープはあるか!?」
ここで山男=ロッキー刑事の本領が発揮されます。幸子が携帯してたロープを手際よく大木に結びつけ、清が掴める位置まで下ろすのですが……
「ダメだ、左手が利かない!」
転落の際に左腕を負傷したらしく、清はロープに掴まるのがやっと。右手の力だけで登ることは不可能です。
「下を見るんじゃない! 俺が行く!」
躊躇なく自分も下りていくロッキーの勇姿に、BGM「ロッキー刑事のテーマPART2」が流れます。登場してから苦節1年、ロッキーが初めて格好良く見えた瞬間です。継続は力なり!
だけど、我々を心底からシビレさせる見せ場は、この後です。ロッキーが下から清のケツを鷲掴みにして押し上げるも、ロープに掴まりながら男1人を崖上まで登らせるには時間がかかり過ぎる。そして、幸子が持ってたロープは登山用の頑丈な物じゃなかった!
「き、切れる! ロープが切れるわっ!!」
岩石との摩擦により貧弱なロープはもう、今にも千切れそうな状態。
「早く! 早く上がってっ!!」
そんなこと言われたってニッチもサッチもいきません。
「無理だ……このままじゃ二人とも落ちる!」
ロッキーは覚悟を決めます。山の必需品の1つであるナイフを取り出したロッキーは、その刃をロープに押し当てるのでした。
「……俺は落ちる」
「や、やめろ! 一緒に上がるんだ! 一緒に!」
どうやら根は悪いヤツじゃない清が必死に叫びますが……
「無理だ! ……気にするな。これは山の掟だ」
ここで、ロッキーが静かに笑うんですよね! 上の画像だけ見ると、井戸の底から毛むくじゃらの猟奇殺人鬼が迫って来てるようにしか見えないけどw、そうじゃなくてロッキーは清に罪悪感を抱かせない為に笑ってるワケです。これにはホント胸が熱くなりました。
「ロッキー、やめろーっ!! ロッキーーーっ!!」
ゴリさんと一緒にヘリで駆けつけたボンが絶叫しますが、たぶんロッキーの耳には届いてないでしょう。
かくしてロッキーは自らロープを切り、天人峡の崖下へと転落して行きます。とても人間とは思えない足の曲げ方をしながらw(現在のテレビ番組なら『これはダミー人形です』とか『特別な許可を得て落としてます』みたいなテロップが入りそうです)
もし、これで本当にロッキーが死んじゃったとしたら、刑事ドラマ史に残る衝撃シーンになったかも知れません。『太陽~』に限らず殉職エピソードは幾多あれど、自ら崖に飛び込んで死んだ刑事はたぶん空前絶後。誰かを助ける為の「自己犠牲」による殉職はありがちなれど、これはまさにその究極形ですから。
少なくともリスを守って撃たれて死んじゃうより、遥かに我々の心に残る殉職シーンになっただろうと思います。山男=ロッキー刑事にしか出来ない死に方だし、この展開は本番(殉職編)まで取っておくべきだったかも?
それはともかくとして、落ちた先が滝壺だったのと、ボンとゴリさんがすぐに救助を要請したからでしょう、ロッキーは即死を免れました。が、緊急オペを担当する医者に「もし助かったら奇跡だ」と言わしめるほどの重傷で、ボスも大急ぎで北海道まで駆けつけます。
病院の廊下で固唾を飲みながら手術の終了を待つ刑事たちの所に、1人の看護婦が飛び込んで来ます。
「岩城さんの心臓が、止まりました!」
手術の途中で看護婦さんが、わざわざそんなこと報告しに来るだろうか?っていう疑問を残しつつ、ロッキーの命運は次回へ持ち越しとなるのでした。
(つづく)
『スペシャルアクターズ』という日本映画が昨年10月に公開されたことを、ご存知の方はどれ位おられるんでしょうか?
私はついこの間まで知りませんでした。あの『カメラを止めるな!』で一世を風靡したはずの、上田慎一郎監督による劇場用長編の第2弾です。
驚きました。何が驚いたって、あれだけの話題をさらった実写日本映画'18年最大ヒット作の監督さんの新作が、映画ファンである私のアンテナにまったく引っ掛からないまま公開されてた、つまりろくな宣伝もされないままひっそり公開され、恐らく早々に打ち切られたであろうという事実に対してです。
今回の製作費は約5.000万円との事で、確かに『カメラを止めるな!』の約300万円よりは一桁以上アップしてるけど、30億円以上のメガヒットを飛ばした監督さんの次作であることを思えば超低予算。当然、ろくな宣伝が出来るワケありません。
プロデューサーからオファーがあったのは『カメラを止めるな!』があれほどヒットする前だったらしいけど、製作がスタートする頃には上田監督は「最も次回作が注目されるクリエーター」になってたワケです。それがたったの五千万?って話です。
ハリウッドでは、インディーズで注目された監督がいきなり『ゴジラ』や『スター・ウォーズ』の新作を任されるなんてことが珍しくもないのに、これは一体何なんでしょう?
『カメラを止めるな!』が一世を風靡した時、私は「日本の映画界にもドリームがあったんだ!!」って、驚き、嫉妬もしつつ、マイナーなクリエーターにもブレーク・チャンスがあることを素直に祝福する気持ちも湧き、当時のブログにもそう書きました。
だけど、1発ドカン!と当てたところで全く次に繋がらない、そのサポートを誰もしてくれないんじゃ、そんなのドリームでも何でもない、本当の意味で「一夜の夢」に終わっちゃいますよ。
これはまさに、さんざんテレビで露出(浪費)しまくった挙げ句に使い捨てられる一発屋の芸人さんたちと同じで、本当に日本のエンタメ界は愛も情もない、若手を育てようとする気概もまるでない、薄汚い大企業や政治の世界と何も変わんない残念なオワコンであることを証明する顛末ですよね。
『カメラを止めるな!』はメジャーなクリエーターやタレントさんたちも絶賛してましたから、その中から「次回作にはいっちょかませてよ」「ノーギャラでいいから出してよ」って言う人が出て来ても不思議じゃない筈(実際、ハリウッドでやってるのはそういうこと)なのに、それも無かったワケですよね?
上田監督をテレビにさんざん引っ張り出した報道やバラエティー番組の創り手たちも知らん顔。誰の作品であろうが流行らなきゃ見向きもしない、後から「乗っかる」だけの気楽な人たちです。
そう言えば『カメラを止めるな!』の大ヒットを祝福する人が沢山いる一方で、低予算でも儲かることが実証されて日本映画界がますますケチになっちゃうことを危惧する声もありました。
まさか、そこまで腐っちゃいないだろうって思ったのに、その通りになりましたね。ますます本格的に、破滅です。
『スペシャルアクターズ』という作品自体はまだ観てないので、内容をどうこう言うつもりはありません。ただ、とにかく『カメラを止めるな!』の次回作が知らない内に公開され、ひっそり姿を消してしまったという事実に対して、私が感じた驚愕と怒りと絶望をここに記しました。
やっぱり、夢も希望もあったもんじゃありません。破滅です。
☆第27話『走れ!雪の中を』(脚本=篠崎 好/監督=湯浅憲明)
第26話と第27話は金沢ロケ編で、前回は父=修平(下川辰平)が親心でセッティングしたお見合いに親孝行でつき合う洋子(木之内みどり)と、それで大いに心を乱された大島刑事(加納 竜)とカールがw、わざわざ金沢まで追いかけて来ちゃうという、日本警察はどんだけヒマやねん!?っていうお話でした。
で、今回は和倉のホテルで働く幼なじみの純子(浅野真弓)を訪ねた洋子が、彼女の恋愛相談に応じるという、これまた事件が絡まないお話。
純子は二人の同級生だった明男(南条弘二)と結婚するつもりなんだけど、彼が相当なワルだった過去を気にする弟=信二(長谷川 諭)は猛反対。
で、口論の末に家を飛び出した信二が行方不明になってしまい、カールの嗅覚で探し出したら離島の掘っ立て小屋で死にかけてたから驚いた!
島の医者(伊沢一郎)を連れてきて診てもらうと破傷風であることが判明し、すぐに本土から血清を取り寄せないと信二は死んじまうんだけど、電話は通じないし外は吹雪で船を出せないしで絶体絶命!
てなワケで、カールが極寒の海を泳いで渡り、命懸けで病院から血清を運んで来るという、現在なら動物愛護団体から厳重なクレームが来るであろう展開となります。
もちろん、命を救われた信二は心を入れ換え、初めて明男を「兄さん」と呼んで純子を喜ばせます。明男はただ医者を呼びに行っただけで、あとは何もかもカールのお陰なんだけどw
こんな(言っちゃ悪いけど)凡庸なお話が連ドラの1エピソードとして成立するのも警察犬の活躍があればこそで、ほんとカール様様です。
いくら人命救助の為とは言えプライベートで警察犬をこき使い、生命の危険まで冒させたヒロイン=洋子に一体どんな厳重処分が下るのか、そこには一切触れずドラマは笑顔いっぱいでハッピーエンド。ホントおおらかな時代でした。
それにしても地方ロケのイベント編だけあって、ゲスト陣がやたら豪華です。信二のガールフレンドとして石田えり(当時のクレジットは内田エリ子)さんまで登場しますからね!
当時すでにメジャーだったのは下川辰平さん、浅野真弓さん、南条弘二さんだけ(それでも充分豪華だけど)かも知れないけど、後に売れっ子となる石田えりさんや長谷川諭さんの起用にはスタッフの確かな選択眼を感じます。
石田えりさんは当時まだ17歳か18歳。別名義での出演だったせいかWikipediaのフィルモグラフィーに『刑事犬カール』は記載されておらず、もしかするとこれがテレビ初出演だったかも知れません。
この翌年『太陽にほえろ!』第358話にゲスト出演、'80年~'81年の『ウルトラマン80』レギュラー出演を経て、ATG映画『遠雷』のヒロイン役でボインぼいぃぃ~ん!と大ブレイクされる事になります。
☆第19話『ワンワン子守歌』(脚本=四十物光男/監督=湯浅憲明)
警察犬第三訓練所には高杉洋子(木之内みどり)以外にもう一人、井上安子(小林伊津子)という女性訓練士がいて、エンゼルという名のテスト犬を訓練してるんだけど、カールに比べてメス犬のエンゼルはおっとりした性格で、なかなか頭角を表してくれません。
「警察官が女に向いてないように、警察犬にメス犬は向いてないんだ」
……なんて、大島(加納 竜)はドジ刑事のくせに普段からそんなことばっか言ってるw 現在ならやれセクハラだパワハラだと倍返しされちゃうけど、当時は一般の職場でもこの程度の発言は挨拶替わり。洋子も安子もムッとはするけど本気で怒ったりはしません。
そんな折り、生後4ヶ月の赤ちゃんが連れ去られる事件が発生し、警察犬の出番となります。安子としてはここでエンゼルの実力を示し、メス犬も女性警察官も立派にやって行けることを証明したいところ。
赤ちゃんを連れ去ったのは子供が産めない体質の女(桜井浩子)で、ベビーカーに乗せられたその赤ちゃんを町で見かけ、あんまり可愛いもんだからつい連れ帰っちゃっただけ。翌日には返しに行くつもりだったのですが……
「このガキ、なかなかいいもの着てるじゃねえか。金儲けになるかも知れんな」
そう言い出したのはロクデナシの亭主。演じるのは黒部進さん。そう、初代『ウルトラマン』のハヤタ隊員とフジ隊員の再共演ですw
「黙って返すこたぁねえんだよ、落としもんだって拾ったら礼を貰う権利があんだからよ」
ぼ……ぼくらのウルトラマンになんてこと言わせるんでしょうかw 黒部さんは当時すでに悪役街道まっしぐらだったけど、桜井さんとのコンビで見せられちゃうと困惑しますよねw
とまぁ、ほんの出来心が誘拐事件に発展していくワケだけど、赤ちゃんの匂いを追って来たカールとエンゼルにより二人の住処はあっさり判明。ハヤタ隊員は変身する間も無く逮捕され、一件落着、かと思いきや……
フジ隊員が赤ちゃんを何処かに隠したまま交通事故に遭い、意識不明の重体になっちゃったから事態は混迷。いよいよ警察犬の鼻に頼るしか手が無くなります。
いや、鼻だけじゃありません。いち早く赤ちゃんを見つけたのは勿論のこと、カールが洋子たちを呼びに行ってる間、エンゼルが赤ちゃんにミルクを与え、がらがらのオモチャを鳴らしてあやす等、メス犬ならではの母性を発揮して大活躍!w
結果、エンゼルがテスト犬から実働犬への昇格を果たし、大島刑事にギャフンと言わせて安子も鼻高々。毎回そうしてギャフンと言わされてるのに「女が」「メス犬が」と言い続けてる大島は、つくづく成長の無い男。さすが加納竜さんですw
そんなワケでまぁ、他愛ないと言えば他愛ない話だけど、動物と赤ちゃんっていう最強タッグに『ウルトラマン』カップルの再共演と、見どころは満載。
『太陽にほえろ!』の長さん=下川辰平さんがゲスト出演された第15話に続いて、第17話には山さんの奥さん=町田祥子さんがご登場、第21話には無名時代の大竹まことさんも出ておられるし、ゲストの顔ぶれだけ見てても楽しい番組です。