先日よりCATV「日本映画専門チャンネル」で再放送されてる『走れ!熱血刑事』は、1980年11月から1981年6月までテレビ朝日系列の月曜夜8時枠で全26話が放映された作品。
日テレ火曜夜9時枠の『警視ーK』と同時期に勝プロダクションが制作した連続ドラマで、警視庁 愛住警察署 捜査課に勤める熱血刑事=山本大介を演じたのは、近年『マツケンサンバ II 』のリバイバルヒットにより再々注目されたばかりの、松平 健。
両親を早くに亡くし、中学生の頃からグレて「殺人以外は何でもやった」と自慢するほどの元“暴れん坊将軍”だから、孤独な不良少年少女の気持ちがよく解る。
そんなキャラクターは当時『3年B組金八先生』のサプライズヒットにより巻き起こった学園物ブームに対応すべく、未成年犯罪をメインに描くため設定されたもの。
ゆえに番組序盤のゲストは演技の拙いガキンチョ俳優ばかりで、それが作品のクオリティーを下げたせいか視聴率は低迷しました。
そもそも『走れ!熱血刑事』っていうタイトルがド直球にも程がある! 『マツケンサンバ II 』が一周二周してウケちゃう昨今ならまだしも、肝心のティーンたちが昭和臭を敬遠しつつあった’80年当時の空気とあまりにズレてます。
以前『ウルトラマン80』のレビューにも書きましたが、戦中戦後を生きてきたクリエイターたちには、戦争を知らない(ゆえに苦労も知らない)世代の嗜好がまるで理解できなかったんですよね、きっと。
そもそも『金八先生』がウケたのも従来の学園物とは一線を画す内容だったからなのに、未成年問題さえ扱えば視聴率が取れると思い込んじゃう安易な姿勢が……って、それも今だから言えることで当時は誰にも分からなかった。最初に『金八先生』やトレンディドラマを生んだ人たちが如何に凄いかって事です。
それはさておき、刑事ドラマ史上最も滑舌の悪いボス=岩下課長に扮したのは、日活アクションの盟友である石原裕次郎を完全に意識してたであろう、宍戸 錠。
そしてやはり七曲署の山さん(露口 茂)を意識してそうな“チーフ”こと戸塚主任に扮したのは、“アヤパン”こと高島 彩アナウンサーの父親としても知られる、竜崎 勝。
大企業の御曹司でありながら両親に反発してあえてノンキャリアの警察官になった、“ジュニア”こと速水刑事をニヒル&ワイルドに演じるのは、『特捜最前線』で熱血刑事役は卒業した、荒木しげる。
1980年は暴力刑事ブームの頂点で、何かと言えば容疑者や参考人、聞き込み相手まで意味もなく、当たり前のように殴ってました。もちろん未成年であろうが容赦なし!↓
そんな当時の刑事ドラマに必ず1人はいたバイク乗りの“マー坊”こと佐々木刑事に、本職はシンガーソングライターの阿部敏郎。
さぞや軟弱なフォークソングを唄ってたであろう阿部さんも、刑事ドラマに出ちゃうとこの有り様。↓
ただ暴走族から情報を聞き出すだけの為にウルトラジャンプを披露し、これと言って用はない雑魚どものバイクを一台一台クラッシュさせて……
最後は自らクラッシュしてリーダーの車を止めるという狂人ぶり。これぞシン・刑事ドラマ!
夜明けの刑事にして明日の刑事、人情派の“テツさん”こと中村刑事には、コント55号の坂上二郎。
定番“お茶汲み”枠の制服婦警=虎子には、どなたかのバーター出演と思われる渡辺千恵乃。
そしてボインボインぼよよんぼよよ〜ん!な嘱託医で、明らかにマツケン目当てで鑑識課員も兼ねてるヒロイン=淳子に、水沢アキ。
☆1980年11月10日に放映された第1話『青春チャンピオン』(脚本=大野武雄&山崎巌/監督=小山幹夫)では、あのころ隆盛を極めた暴走族どうしの抗争が描かれ、その間に入って“用心棒”を請け負う黒澤映画ばりの少年が登場。
で、その少年=吾郎(常井 浩)が暴走族Aに百万円で雇われて暴走族Bのリーダーを拳銃で襲撃し、重傷を負わせて逃走。
かつて吾郎はプロボクサーの卵で大介(マツケン)と親しかったんだけど、ある夜、暴漢たちに襲われてた少女を助けようとして拳を振るい、暴漢の1人を死なせてしまった為に少年院へ送られ、すっかり人生をこじらせてるのでした。
にしても、根は優しい吾郎がカネのために人を殺そうとするだろうか? 疑問を感じた大介が捜査してみると、かつて吾郎が死なせた暴漢にみどり(前野礼子)という妹がおり、難病を患った母親の治療費を稼ぐためにキャバレーで働いてることが判明。
そう、吾郎はみどりに母親の治療費を工面するため、つまりキャバレーの仕事を辞めさせたくて殺しを請け負ったのでした。
だったらマジメに働いて稼げよ!って思うけど、当時は「ツッパることが男の勲章♪」なんてアホな歌詞のアホな歌謡曲が流行るアホな時代で、こういうアホがなんとなくモテる空気だったんですよね。
で、お人好しサンバ男の大介は吾郎の良心を信じ、何度も自首を薦めるんだけど……
吾郎はことごとく裏切った挙げ句、みどりにまで銃口を向けてまた逃走。これだけのアホをまだ信じてる大介までアホに見えちゃいます。
ちなみに大介の愛銃はコルト・パイソン357マグナム。甘いルックスのサンバ男には似合いません。
で、なんだかんだあり、吾郎が約束の百万円を受け取るべく、河原で暴走族とボクシングしてると聞いた大介は、改造ジープに淳子とみどりを乗せて現場へ急行!
わざわざ派手にジープをジャンプさせ……
猛スピードで急斜面を駆け下りて……
大量の水飛沫を上げながら川の中をかっ飛ばす狂犬サンバ男! 同乗させられた女優さんはたまったもんじゃない!(吹替えでもCGでもありません)
ツッパることが男の勲章とか抜かすアホどもに義理だの仁義だのは無く、集団フルボッコの刑に遭ってる吾郎の姿を見て、サンバ男の怒りがいよいよ爆発!
ちょっとタイミングをズラして仲間の刑事たちが駆けつけるのもお約束。
ずるいゾ大介、オレたちにも殴らせろっ!!
いや〜、王道です。『太陽にほえろ!』の第1話によく似てます。徹底して王道から逸脱した『警視ーK』と同じプロダクションの作品とは思えません。(社長の勝新太郎さんが『警視ーK』に入れ込みすぎて『走れ!熱血刑事』にはノータッチだったんでしょう)
「当分会えなくなるぞ。いいのか?」
「関係ねえよ。オレはとっくに自分の人生あきらめてんだよ」
「吾郎、お前はまだまだ若いんだ。いくらでもやり直しは利く。キレイになって出直して来い」
「へっ、今度あんたに会う時はさ、いっぱしの悪党になってんだろうよ」
「貴様……」
「貴様の腐った根性、叩き直してやる! かかって来いっ!!」
そりゃ相手はボクサーだからこうなりますw
けど、サンバで鍛えた暴れん坊は何度でも立ち上がる。このあたりは映画『ロッキー』を意識してそうだけど、それより先に『太陽にほえろ!』のボン(宮内 淳)がやってます。
「止めなくていいんですか?」
「やらせときなさい。あれが二人だけの対話なんだよ」
決着はまさかの“クロスカウンター”。ルーツは『あしたのジョー』だった!
こんなとき、昭和臭プンプンの青春ドラマならお互い無言で笑い合うもんだけど……
よっしゃ、いい面構え。笑うなよ? 絶対笑うなよ?
ニコッ!
ニコッ!
ダメだこりゃ。
こんなアホのどこがいいのかサッパリ解らんけど、みどりは泣きながら吾郎に抱きつきます。
「ゴローちゃんのバカッ、バカバカバカ!」
「こいつ……見せつけやがって」
「あの二人、不純異性交遊の現行犯でしょっぴいて下さい」
「将軍様のご命令とあらば仕方ないな」
「へっ、ざま見ろ」
さすが、殺人以外なら何でもやった男です。
「どいつもこいつも、ぶち殺してやるっ!」
最後にちょっと私なりのアレンジを加えたけど、あんなに甘いルックスの大介が、キレるとバイオレンスに歯止めが利かなくなる狂人なのはホントの話です。
同じ年に放映された『大激闘/マッドポリス’80』の渡瀬恒彦さんも『大捜査線』の杉良太郎さんも『爆走!ドーベルマン刑事』の黒沢年男さんもみんなそう。
そんな暴力刑事ブームを牽引したのは間違いなく石原プロの『大都会』や『西部警察』だろうけど、世間で“校内暴力”が吹き荒れた時代背景とも何か繋がるものがあったかも知れません。
やがてツッパリが姿を消すと共に『はぐれ刑事純情派』や『踊る大捜査線』がヒットしますから、まさに時代を写す鏡。そこがテレビの面白さです。
というワケでセクシーショットは、初回ゲストヒロインの前野礼子さん(本作がテレビ初出演)と……
レギュラーヒロインで翌年にはゴリさん(竜 雷太)と婚約する、水沢アキさんです。