ふと本作のオープニングテーマ(シリーズ屈指のカッコ良さ!)を出勤時の車内で聴きたくなり、サントラCDを買ったら本編も観たくなり、DVDを観たら久々にレビュー意欲も湧いて来ました。
主演のクリント・イーストウッド御大が『ダーティハリー』シリーズで唯一、自ら監督も兼任された作品で原題は『SUDDEN IMPACT』。日本公開は1983年の4月。
その春、私は実家を巣立って上京し、北品川で新聞奨学生をやってました。
生まれて初めてのアルバイトと独り暮らしにようやく慣れた頃、新宿に出かけて最初に観た映画が『ジョーズ3D』。タイトル通り『ジョーズ』シリーズの3作目にして立体映画だったけど、“東映まんがまつり”と大して変わんないレベルの3Dで、印象に残ったのは頭抜けて可愛かった脇役の女優さんだけ。その2年後に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でブレイクされるリー・トンプソンさんでした。
そんな余談も含めて’80年代に観たアメリカ映画には、格別な思い入れがあるんですよね。実際、面白い作品が他の年代より多かった。名作じゃなくて、あくまで“面白い”作品が。
そりゃもう夢中になったし、レンタルビデオが普及し始めた頃で何回も繰り返し観たから、特に好きな作品は細かいセリフまで全部憶えてる。
その中の1本が『ダーティハリー4』です。イーストウッド作品独特の暗さはあるものの、クライマックスにおける“ヒーロー登場”シーンのカッコ良さはシリーズ随一! いや、もしかしたら全アクションムービーにおいてもトップ1かも知れません。
冒頭、主人公=サンフランシスコ市警殺人課のハリー・キャラハン警部が裁判所に現れたときは「イーストウッドも老けたなあ」なんて思ったもんだけど、今となっては若い! というか、ちょうどいい!
で、名台詞が多いことで知られる本シリーズの中でも、この第4作はシビレる台詞のオンパレード!
まずは、せっかくとっ捕まえた犯人が「強引な捜査で得た証拠に信用性がない」という理由(実際は恐らく資産家の親による買収)で無罪放免となり、エレベーターでハリーと乗り合わせたそのボンが、よせばいいのに調子に乗っちゃう。
「警部さんよ、そう落ち込むなよ。また今度って事があらあな」
すると1秒も経たない内に首ねっこを掴まれ、青少年教育の手本みたいなお説教を賜るワケです。
「よく聞け、貴様は道端に垂れた犬のフンだ。犬のフンはどうなるか知ってるか? スコップで掬われてゴミ箱に捨てられたり、ひからびて風に吹き飛ばされたり、靴で踏み潰されるんだ。だから用心しろよ、犬のフン野郎!」
最高ですw 罵詈雑言もこの域まで達すると崇高なポエム。是非あいみょんさんに楽曲化して頂きたい!
そしてシリーズのお約束。ハリーがファストフード店とかに立ち寄ると、なぜか必ず強盗グループと出くわしちゃう。名台詞も大抵そこで生まれるワケです。
「俺たちからは逃げられんぞ」
「俺たちだと?」
「スミス・アンド・ウエッソン、アンド・俺だ」
あっという間にスミス&ウエッソンM29=44マグナムが火を吹き、彼方へと飛んでくゴロツキども。そして当時の大統領=ロナルド・レーガンも会見で引用したという、あの有名なセリフがここで登場!
「Go ahead, Make my day」
DVDの字幕では「撃て。望むところだ」と訳されてるけど、公開当時の字幕(あるいはテレビの吹替版)では「さあ、早く俺に撃たせてくれ」だった筈で、私は後者の方がハリー・キャラハンらしくて好きです。
さらに、娼婦を殺しておきながら何食わぬ顔で生きてる犯罪組織の幹部を、でっち上げの告発状を使って揺さぶるべく、そいつの孫娘の結婚披露パーティーに乗り込んだハリーがゴッツい用心棒2人に囲まれるんだけど、涼しい顔で受付嬢にこのセリフ。
「すぐに電話して救急車を呼ぶといい。人相の悪いのが二人、腕をへし折られて呻いてるってな」
それで結局、ウソの告発状を真に受けた爺さんは心臓発作を起こし、その場で倒れてあの世いき。
後にイーストウッドを御大たらしめる名作中の名作『許されざる者』(’92) でも、主人公は顔を傷つけられた娼婦のために立ち上がりました。『ダーティハリー4』と『許されざる者』にはけっこう共通点が多いんですよね。それだけイーストウッドの作家性が強く反映されてる。
それはともかく、当然ながらハリーは天敵の本部長から大目玉を食らうんだけど、毎度のことで慣れたもの。階級の格差なんか屁とも思ってない。
嗚呼、カッコいい! こうなりたい!って、少なくとも男はみんな思うけど、現実にはなれっこありません。映画はあくまでファンタジー。それで良いんです。
その後、幹部を死なせた報復として犯罪組織の刺客たちに襲撃されるハリーだけど、勿論いつも通り44マグナムで皆殺し。
「死人が増える一方じゃないかっ!!💢」
さすがに堪忍袋の緒を切らせた本部長に“強制休暇”をプレゼントされたハリーは、仕方なく暇つぶしに新しい拳銃を蔵出しし、相棒のホレース刑事(毎回違う役で登場するアルバート・ポップウェル )に見せびらかします。
それが本作もう1つの主役と言える、.44オートマグ。
1作目で元祖44マグナム拳銃=M29が一気にメジャー化したのと同様、オートマグも本作で注目を浴び、M29ほどじゃないけどトレンド入りを果たしました。
ところで、オートマチック銃を撃つ人の右側に立つことはオススメ出来ません。なぜならアツアツの空薬莢が顔を直撃する可能性があるから。プロフェッショナルたるべき警察官なら尚のこと。
右側に排莢する銃ばかりとは限らないけど、火花も散るしとにかく危ない。ましてや44マグナムです。
そういうリアリティーにこだわり始めたのは後の『ターミネーター』(’85) や『リーサル・ウェポン』(’87) あたりだと思うけど、イーストウッド御大はけっこう大雑把。銃にあまり興味が無いんでしょう。
さて、ここからがメインストーリー。市警の管轄内で股間を38口径の銃で撃ち抜かれるという、男として考えうる最も悲惨な最期を遂げたオッサンのご遺体が発見されます。
我々観客にはもう、最初から誰が犯人なのか示されており、その動機も10年前に起きた田舎町サンパウロ(架空の町であることを今まで私は知りませんでした)における集団レイプ事件の被害者による復讐であることも徐々に判ってきます。
復讐者は、当時イーストウッドのチョメチョメ・パートナーで『ガントレット』や『ダーティファイター』シリーズでも相手役を務めて来られた、ソンドラ・ロックさん扮する画家のジェニファー。
一緒に犯された妹が精神病院に今も入院中で、守ってやれなかった後悔を引きずり続ける日々の中、シスコのバーでたまたま輪姦犯の1人を見つけてしまった彼女は、コルト・ディテクティブスペシャル.38を入手し、その弾丸をレイプ野郎の睾丸にぶち込んだ。
それを契機にジェニファーは輪姦犯全員への復讐を決意し、忌まわしの町サンパウロへと向かう。
一方、ハリーも半ば「厄介払い」でこの事件を担当させられ、死んだレイプ野郎の出身地であるサンパウロへ。
ハリーが現地に到着した途端、すぐさま強盗現場に出くわしちゃうのは、もはや天丼ギャグ。犯人追跡用に借りた車が老人ホームの送迎バスなのも、1作目の幼稚園バスを意識したセルフパロディーかも? 乗り合わせた老人たちは久々に刺激をもらって喜んでるしw
で、そこでもオッサンが股間を撃たれて死ぬ事件が連続発生。
いつも通りの暴力捜査で10年前の輪姦事件との繋がりを掴んだハリーは、ひょんなことから親しくなったジェニファーがその被害者であり、すなわち復讐者であることも察してしまう。
彼女の復讐を止めるため、まずは輪姦犯の残党を捕まえにいくハリーだけど、狭い田舎町=完全アウェイな状況下で待ち伏せに遭い、フルボッコされた挙げ句に愛銃M29もろとも運河に投げ落とされちゃう。
その上、わざわざハリーを励ましにやって来た相棒のホレースを惨殺され……
ジェニファーが拉致されるに至って、いよいよハリーの怒りが頂点に!
輪姦犯たちは10年前と同じ場所でジェニファーをレイプ&抹殺すべく夜の遊園地へと連れ込みます。
必死に逃げようとする彼女をさんざんいたぶり、追い詰めていく最低チンカス野郎どものシーンがちょっと長いように当時は感じたけど、いま観直すとちょうどいい。
この適度な“じらし”があればこそ、次に控える“ヒーロー登場”の場面に(絶対駆けつけると分かってても)鳥肌が立つ!
「おいっ、あいつは!?」
ラロ・シフリンによるBGMも含め演出自体が超絶カッコいいんだけど、同じことを他のアクションスター(たとえばスタローンやシュワルツェネッガー)がやっても、たぶん気恥ずかしい場面になっちゃう。
これはやっぱり、いわゆる“マカロニ・ウエスタン”でスターになり、数々のバイオレンスヒーローを演じて“レジェンド”イメージを築き上げたクリント・イーストウッドだからこそ成立するカッコ良さだと思います。
もちろん、蔵出しオートマグによりチンカス野郎どもは1人残らず木っ端微塵!
と言ってもたったの3チンカスに過ぎないけど、このカタルシスを超えるには数で勝負するしかない!とばかりにスタローンやシュワルツェネッガーらは、ぶち殺す敵の人数と銃のサイズをエスカレートさせて行く。
’80年代アクションムービーを結果的に物量作戦たらしめたのは『ダーティハリー4』だった! ……と結論づけるのは強引にせよ、オレもこうやって超絶カッコよくチンカスどもをぶっ殺したい、けど御大には敵わないから数で勝負したる!って、シュワちゃんやスタちゃんが考えた可能性は充分あると私は思います。
さて……チンカスのリーダー格が持ってたコルト・ディテクティブスペシャルは、ジェニファーを拉致したときに彼女から奪ったもの。つまり一連のキンタマ撃ちに使われた凶器であり、普通に考えればチンカスリーダーが犯人ってことになる。
「これで解決ですね」と現地の警官に言われ、ハリーは一瞬迷うんだけど、結局こう答えるのでした。
「そうだ、終わった」
つまり、犯罪者を捕まえる為なら手段を選ばない、あのダーティハリーが初めて意図的に殺人犯を見逃した。シリーズ第2作では、法で裁けない悪党どもを闇で葬る現職警官たちを、ハリーは迷わず処刑したのに!
犯人を逮捕するんじゃなくて(正当防衛にせよ)射殺しちゃうことの是非はさておき、警察官としては第2作のハリーが正しい。けど、ひとりの人間として見れば今回のハリーに共感せずにいられません。皆さんもきっとそうでしょう。
けれどやっぱり、遵守すべき法を犯してしまったハリーは、今度こそ警察を辞めるに違いないと私は思ったのに、5年後には『ダーティハリー5』が何食わぬ顔で公開されるのでしたw
まだ無名だったリーアム・ニーソンやジム・キャリーが出てる見所はあるにせよ、内容的にはシリーズ中で一番パッとしないし、あれは完全に蛇足でした。
けど、そういう“何でもあり”なところが’80年代ムービーの魅力なんですよね、確実に。だからこそ忘れがたい!