1981年10月20日に日本テレビ系列で放映された『火曜サスペンス劇場』の第4作『さよならも言わずに消えた!』(脚本=清水邦夫/監督=石橋 冠) が先日、BSのジャパネットチャンネルで放映されました。
『太陽にほえろ!』フリークの1人としては、その翌年に登場する“ボギー刑事”のプロトタイプみたいなキャラを世良公則さんが演じてる点で見逃せない作品。
世良さんは’78年にロックバンド“世良公則&ツイスト”として大映ドラマ『明日の刑事』#27に特別出演はされてるけど、俳優・世良公則としての本格始動は本作から。実際、今回の刑事役が『太陽〜』レギュラー出演に繋がったとご本人やプロデューサー陣も証言されてます。
とはいえ主役は世良さんじゃなく、桃井かおりさんと原田芳雄さん。比較的マイナーな映画での共演が多いお二人を『火サス』で観られる点でも面白いし、前回レビューした『五番目の刑事』の主人公がそのまま中堅になったみたいな原田さんのキャラクターも大きな見どころ。
ちなみに原作はポーラ・ゴズリングのスリラー小説『逃げるアヒル』で、これより5年後にハリウッドでもシルヴェスター・スタローン先生が『コブラ』として映画化されており、それと比べてみるのもまた一興。(言うまでもなく片や『火サス』、片やスタローンですから作風は180度違います)
桃井さんが演じるのは中学校のごく平凡な理科教師・中沢みずえ。ところがある男が訪ねて来てから僅か5日間で、彼女の人生はまったく非凡なものに変わっちゃう。
「コーヒー牛乳飲む? コーヒー牛乳」
それが原田さん演じる“西新宿署”の乾刑事。(『五番目の刑事』は東新宿署でした)
函館でみずえの弟=中沢和夫らしき焼死体が発見されたので「北海道まで同行して遺体を確認して欲しい」というのが乾刑事の用件。コーヒー牛乳はまったく関係ありません。(牛乳が北海道産だった可能性は有り)
道警で捜査本部を指揮し、黒幕の匂いをプンプンさせてる新田警部に扮したのは、2年後に『太陽にほえろ!スペシャル』でも世良さんと共演することになる高橋幸治さん。
その部下であるベテラン刑事役に『ジャングル』の山谷初男さん。
新田警部とは旧知の仲で、中沢和夫が勤めてた大企業・幌平開発の札幌支社長である木村役には『代表取締役刑事』の高松英郎さん。
もうお察しでしょうから先に書きますが、その幌平開発の大規模な汚職の証拠を、中沢和夫が握っていた。東京でも支社長が不自然な自殺をしており、それを捜査してる乾刑事が和夫の行方を追ってたワケです。
ところが、どうやら焼死体が和夫じゃないことを密かに知ってる姉・みずえが命を狙われちゃう。
乾刑事は何故みずえが狙われるのか知らないまま、たった1人で彼女を護らなきゃいけなくなる。ぶっきらぼうな刑事・乾と謎多き女・みずえが、さんざん対立しながら函館→長万部→島内→歌別へと舞台を移し、行動を共にするうち恋愛感情とはまた違う絆を育んでいく。
『コブラ』はスタローン刑事がヒロイン(当時の妻=ブリジット・ニールセン)とすぐチョメチョメな感じになるし、事件もそんな複雑な話じゃなく(ただ彼女が殺人現場を目撃して狙われるだけ)、ひたすらドンパチを見せ場とする単純かつ荒唐無稽な(つまり私向けの)内容でした。
で、ライフルで狙ってくる敵に対抗すべく、乾が新田警部に「頭はパーでもいいから腕の立つのをよこして下さい」と要望し、派遣されて来たのがボギーのプロトタイプこと、梅木刑事。
若い! おぼこい! ボギーより真面目で素直なキャラ設定だから、あえて若造っぽく演じられたのか、あるいはオンエアを観た世良さんが「刑事にしちゃガキっぽいな」と反省し、『太陽〜』や『ベイシティ刑事』では眼つきを鋭くするよう意識されたのか?
そうして島内パートから梅木刑事も加わり、ロードムービーとしての面白さも増して来ます。個人的にはやはり、後の東映Vシネマ第1弾『クライムハンター』(主役が世良さんで、その上司役が原田さん) の前日譚を思わせる2人の関係性にワクワクしちゃいます。
ぶっきらぼうな乾と違って物腰柔らな梅木に、弟の面影を見たみずえは彼が気に入ったご様子。そこには俗に言う「死亡フラグ」の匂いも漂ってます。
そして決戦の地、歌別へ。まさに『クライムハンター』を彷彿させる場面。
世良さんの銃器の扱い方はまだ『クライムハンター』レベルには程遠く、のちに『太陽〜』で神田正輝さんと共演してガンマニアの世界に引きずり込まれ、そこから腕を磨かれたのでは?っていう私の想像もまんざらハズレじゃなさそうです。
そして此処でようやくアホな弟=和夫が登場。扮したのは『二人の事件簿』の高岡健二さん。確かに世良さんと雰囲気が似てると言えば似てます。
この時点ではもう、和夫が「俺が死んだら姉が情報(汚職の証拠)を警察に伝える」と敵に牽制をかけてた事実もバレてます。つまり、自分が生き延びる為と、敵から口止め料をふんだくる為に、実際は何も知らない姉を(保険として)和夫は利用したワケです。
前回レビューした『五番目の刑事』#14 に出てくる義弟を超えた“アホ中のアホ”だけど、すっかり寂れた炭鉱の町(国に切り捨てられた地方都市の象徴)で生まれ育った姉弟の不遇と、そんな町を復興させたいが為に汚職に手を染めた幌平開発の黒幕たちっていう、社会問題が裏テーマになってる深さが『コブラ』とは180度違う最大のポイント。
当然ながら結末も、筋肉と銃弾で並居る敵を全滅させ、美女と結ばれてオールハッピーな典型的’80年代ハリウッドアクション(私は大好きだけど)とは真逆にならざるを得ません。
まずは梅木刑事が和夫を庇って凶弾に倒れ……
結局は和夫も殺られて、乾刑事の怒り爆発!
だけどスタローン先生みたいにバリバリドッカーン!と並居る敵を皆殺しとはいかず、やむなく新田警部に応援を要請することに。
けれどそれは、黒幕が誰であるかを確かめる為のトラップでもある。行く先々で敵に襲われ、さすがに乾も内通者が道警内にいることを察してました。
現れたのはやっぱりこの人。高橋幸治さん独特の棒読みっぽい台詞回しが、冷血なラスボス役によくハマってます。
最終的には乾刑事もあっけなく爆死!
そして弟に似た梅木刑事の遺したライフルを、みずえが構えます。
が、5日前まで平凡な理科教師だった彼女にスタローンの真似事が出来る筈もなく、バッドエンドが確定したところで突き放すようにドラマは幕を閉じ、岩崎宏美さんの大ヒット主題歌『聖母(マドンナ)たちのララバイ』が流れるのでした。
’70年代の“挫折の美学”を彷彿させる内容で、本放映(’81年)当時の浮かれた空気とは合ってないように思うけど、創り手のターゲットはきっと’60〜’70年代に青春を過ごした大人世代で、だからこその“桃井かおり&原田芳雄”だったんでしょう。
当時まだガキンチョだった私にはピンと来なかっただろうけど、渋いキャスティングといい緩めのテンポといい、今の私にはとても居心地のよい世界観でした。