☆第250話『民芸店の女』
(1977.5.6.OA/脚本=小川英&柏原敏行/監督=竹林 進)
出勤途中の山さん(露口 茂)に、野間美保と名乗る淑やかな着物美女(上村香子)が声を掛けて来ます。美保は、亡くなった山さんの妻=高子とかつて料理教室で一緒だった仲で、線香を供えに訪問させて欲しいと言うのでした。
そこに居合わせたボン(宮内 淳)によって、すぐ「山さんの前に美女現わる!」の噂が捜査一係室を駆け巡り、すわ再婚か!?とゴリさん(竜 雷太)や長さん(下川辰平)は色めき立ちますが、アッコ(木村理恵)だけは不満、というより不安そう。
高子が亡くなってから約1年、まだ早いのでは?っていう女心もあるでしょうし、アッコは高子の最期を看取った唯一人の身内ですから、きっと複雑な想いがあるんでしょう。
そんな折り、自動車修理工場に勤める広瀬道夫という男が遺体で発見されます。盗難車で2度に渡って轢かれており、現場の状況から見ても計画殺人だろうと山さんは睨みます。
その捜査が進む中、美保が約束通り山さん宅を訪れて来ます。仏壇に線香を上げ、経営する民芸店の酒器を山さんにプレゼントした上、「またお邪魔してもいいですか?」と積極的なアプローチを見せる美保。山さんも満更じゃなさそうなご様子。
ところが、これも哀しい刑事のサガなのか、美保が去った後にふと「なんで私に?」と疑問を抱いた山さんは、机の上に置きっぱなしだった警察手帳に気づくのでした。そこには、捜査中の事件に関する情報が色々と書き込まれてる……
何かが引っ掛かって仕方がない山さんは、聞き込みの帰りに美保の民芸店を訪れます。そんな様子を見て、長さんは「だいぶ山さんも本気になって来たな。うひひひ」なんて言って喜びますが、実は山さんの目的は美保の身辺調査。怪しいことが何も無いことを祈りながら、店の片隅に置かれた駐車場の領収書に、本能的に眼を光らせちゃう山さんなのでした。
そんな事とはつゆ知らず、美保は山さんの来訪を喜び、一緒に食事をしながら、他愛もない身の上相談を持ちかける等、どんどん距離を縮めていきます。
「主人が亡くなってから私、ずっと独りぼっちでした。いつも1人、いくら話したいことがあっても誰もいない……心細い時も、楽しい時も……でも今は、相談出来る人がいる。頼れる人がいる。何だかそれがとっても嬉しくて……すみません」
「謝ることはありません。そういう相手がいないのは私も同じですから」
山さんとしても、高子の知人を疑いたくはないし、あわよくばチョメチョメしたい下心だって、男なんだから無いワケがありません。チョー生真面目な岡田プロデューサーに叱られるから顔に出さないだけでw
しかし、美保は車を持っていません。じゃあ、店にあった駐車場の領収書は、いったい誰の物なのか?
調べてみると、駐車場を使ったのは不動産会社の社長である笠山(小笠原弘)という男で、どうやら美保とは深い関係にあるらしい。
そして、その笠山こそ、いま捜査中の殺人事件における最有力の容疑者だった!
山さんは再び美保をデートに誘い、ミステリー小説が大好きという理由でやたら捜査のことを聞きたがる彼女に、事件の顛末を語って聞かせます。
捜査中の容疑者は、3ヶ月前に浪人学生を轢き逃げして死なせ、それを隠蔽すべく車を修理に出し、恐らく血痕を見つけた修理工の広瀬に脅迫され、今度は盗難車を使って計画的に彼を轢き殺した。証拠は残してない筈だけど、犯人は自分に捜査が及ばないか不安で仕方がなかった筈。そこで……
「幸い犯人には、所轄署の刑事を間接的に知っている女性がついていました。……あなたです」
「…………」
そう、美保は笠山の為に、捜査情報を聞き出すべく山さんに近づいた。ボンなら騙し通せたでしょうけどw、こりゃ相手が悪すぎました。
「ご主人に死なれて、ずっと寂しかったというあなたの気持ちに、嘘は無いだろう。だからあなたは、笠山をどうしても失いたくなかった……その気持ちは私には解る」
「…………」
「しかし、轢き殺された浪人学生と、広瀬道夫のことをほんの少しでも考えたことがありますか? 彼らだって、寂しくても一生懸命に生きてきた」
「…………」
口調はクールでも、言葉の端々から山さんの怒りが伝わって来ます。
「私が……どうにも我慢出来ないのはね、美保さん。私が利用されたからじゃない。やり口の問題でもない。どうしてこんな考え方しか、あなたには出来なかったのか? それが無性に腹が立ってね。1人の刑事としても……1人の男としても」
1人の男として……それはつまり、あの山さんも、美保を女性として意識せずにいられなかった、あわよくばチョメチョメしたかったという事でしょう。チョメチョメ。山さんがチョメチョメ。
この後、山さんはわざとスキを見せて、笠山に自分を襲わせます。
「笠山が犯人だという証拠は、まだ何も無かったもんでね」
もう一度書きますが、利用するには選んだ相手が悪すぎました。つくづくボンにしておけば良かったw
とは言え、さすがの山さんも、美保の美貌や淑やかさに僅かながらグラついたのは事実。高子と親しかったという前提にも油断させられた筈で、最終的には全て見抜き、事件を解決させたにせよ、その心中は決して穏やかじゃないでしょう。
そんな山さんを、ボス(石原裕次郎)が無邪気にからかいます。
「山さんよ、そろそろ新しい人生考えたらどうなの? 独りでいるから、こんなややこしい事件が起きるんだよ」
「ボス、それは無いでしょ。だいたいボスが独身でいて……」
「ああ、そこまでそこまで」
すぐに負けを認めちゃうボスがお茶目ですw
孤独に耐えられず、相手が悪い男と知りつつも尽くしてしまう女の犯罪は『太陽にほえろ!』の……というより昭和ドラマの定番。言わば演歌の世界ですよね。
昨今のドラマで描かれる女性はずっとドライで、逆に男が女に溺れて犯罪に走るパターンの方が圧倒的に多い気がします。無論、それは現実社会を如実に反映してる事でしょう。
上村香子さんはテキサス時代の第166話『噂』に続く2度目のゲスト出演。プロフィールはその回のレビューに書きましたので、今回は割愛します。
その第166話は、先入観に惑わされて無実の上村さんに容疑をかけてしまう、とても人間臭い山さんの一面を描いた作品でした。今回の第250話も、刑事である前に1人の男である山さんの心情が描かれており、いずれも相手役が上村香子さんなのは偶然じゃないかも知れません。
つまり山さんをも惑わせてしまう女を演じられる稀有な女優さんとして、岡田Pあるいは露口茂さんに見込まれておられたのかも?