『野生の女』(1)
中級フランス語
『フランス現代作家10人集』(昇龍堂)より
『野生の女』(アヌイ)からの一部
Marie : Yous n'êtes jamais allée en Angleterre ?
Thérèse : Non.
Marie : Moi, je viens d'y passer¹ trois ans.
J'étais dans un collège absolument merveilleux².
Vous savez³, on est très libre là-bas, très sport.
Quelle différence de clima !
C'est bien simple⁴, je ne sais plus parler à mes amies qui sont
restées ici dans les jupes de leur gouvernante⁵ ou de leur mère:
C'est dommage que vos parents ne vous y aient pas envoyée⁶.
Passer deux ou trois ans⁷ de l'autre côté du Channel⁸ :
il n'y a rien de tel⁹ pour faire connaître la vie à une
jeune fille.
————————————≪Voc.≫———————————————
collège:(n.m) カレッジ.
absolument:(副) 非常に、たいへん
sport:(形) フェアプレイ精神のある
clima:(n.m) 精神的風土
gouvernante:(n.f) 家庭教師の婦人
passer:(他) (時を)過ごす
côté:(m) 側面、~側 * 似た語に注意:côte (f) 坂、坂道
le Channel:(n.m) イギリス海峡 (= the Channel)
————————————《Notes》——————————————
1) je viens d'y passer:「あちらで過ごしてきたばかりである」.
<venir de + 不定法> は現在に近い過去を表す.y = en Angleterre.
2) absolument merveilleux:「すごくすてきな」.こういう最大級の表現
はMarie のセリフの中にしばしば見られ、屈託のない当世風な
若者の性格を示す感情的誇張となっている.
3) Vous savez:これから言おうとすることに注意を引くため、あるいは
それを強調するために会話ではしばしば用いられる表現で、言葉の
意味(あなたは知っている)にもかかわらず、その、これから言う
内容について相手は知っていないのがふつうである.文頭に置かれ
たり、時によっては挿入節として置かれたりする.
4) C'est bien simple:「その結果」.成句的表現
Cf. Si vous ne travaillez pas mieux, c'est bien simple,
vous serez privé de sortie.
(もっとよく勉強しなかったら、[その結果、そのために]あなたは
外出が禁止されますよ.)
5) qui sont restées ici dans les jupes de leur gouvernante:くだけた表現である.
別な表現をすれば=Qui n'ont jamais quitté d'un pas leur gouvernante.
「家庭教師の膝元を一歩も離れずにいたところの...」.
6) ne vous y aient pas envoyée: C'est dommage que...(...は残念だ) という
感情を表す成句の補足節であるから、接続法(aient...envoyée)が要求
される.y=en Angleterre.
7) Passer deux ou trois ans:
8) de l'autre côté du Channel :「英仏海峡のあちら側で」.もちろん(イギリスで)
の意味. le Channel は the Channel を冠詞だけフランス語にしたもの.
フランス語なら la Manche と言うのがふつう.それをわざわざ le Channel
と言うところに「イギリス帰り」のマリーの気取り、ないし衒いが見て
取れる.
9) il n'y a rien de tel:「そういうようなものは(ほかに)ない」.
quelque chose, rien などの不定代名詞は形容詞(ここでは tel)をとるとき
de を介する.
(...に)優るものはない
————————————(訳)——————————————
マリー : あなたはイギリスへ行ったこと、一度もないの?
テレーズ : ええ.
マリー : 私はね、あちらで3年過ごしてきたばかりなの.
すごくすてきなカレッジにいたのよ.
ねえ、向こうはとても自由で正々堂々としているわ.
精神的風土がまるで違うのよ!
だから私はもう家庭教師やお母さまのひざ元に居続け
たお友達と話はできないわ.
あなたのご両親があなたを向こう(イギリス)へ送り出さ
なかったのは残念ね.
むこうで2,3年も住んでごらんなさいな:
若い娘に人生を知らしめる上で、あれほどいい場所
はないわよ.
————————————(最後にひとこと)——————————————
「イギリス海峡」を意味するフランス語は「Manche」(固有名詞です)
manche (女性名詞)の方は、現代フランス語では古風な表現になり
ます。 現代フランス語での「海峡」相当語は、男性名詞で détroit
もしくは同じく男性名詞で bras de mer
尚、仏和辞典には「Channel」での見出しはありません。つまり、
フランス語としては、認知されていません。フランス語ではないのだから
発音は、英語式ということです。マリーは「イギリス帰り」を気取って
英語式発音で「あちらの国」と言ったことになります。
いち早く産業革命を成し遂げたイギリスは、農業国フランスにとって
羨望の国だったのでしょう。