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第四話 石採り
「今日は、かわいなに行ってみようや。」
学校からかえってきたさな達は、いつもの遊びをせずに石を採っている沢に出かけました。
工事の邪魔をしないように、遠巻きに工事の成り行きを見守る場所に陣取っていました。
沢沿いで掘り出される石の陰から現れる大きな蟹を追いかけたり、
沢沿いの泥田から迷い出てくるけらを捕まえたりしました。
毎日、自然が大きく変わるのが楽しみでたまらないのです。
「今日もようけ取れたでえ。」
さなは、木の樽の中を見ながら高志たちに報告しました。
さなは一年に一度ある祭りを見るようなわくわくした気持でした。
島中が、沸いたように活気に溢れているのです。
一日の作業が終わると、真っ黒に日焼けした男達は、車座になって、
どぶろくを飲み始めるのでした。
どぶろくは、島に連れて来られていつしか住み始めた朝鮮の人達が
今では堂々と造っていました。
「海軍さんご用達の酒がきたよ。今日のは特別吟醸よ。」
金さんは、言葉とは大違いの若い酒も出さざるを得ないほど繁盛するのを
喜んでいました。子供達が集めた魚や貝は格好の肴になりました。
どの子もつぎを当てたズボンを穿き、てかてかになった袖口の服をきていました。
人々が車座に座る輪の中心に、石油ランプが吊られています。
ほやの中の火は、時折吹く浜風にゆれています。手元を照らす手作りの灯りが、
男達の顔を赤々と揺らしていました。
子供達が、冬に作る隠れ家用に、墓場で集めた半端なろうそくの塊でした。
お盆の後の墓場には、燃え残った竹灯篭がぽつんと立っています。
その灯篭のなかの燃え残りの曲がったろうそくを子供たちが集めるのでした。
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女達を、聞くに堪えない言葉でからかっている酔っ払いの男達が、さなは嫌いでした。
「あんたは、おかあちゃんのけつだけ触っとりんさい。」
女達は、負けずに応酬していました。さなは、密かに女たちを応援するのでした。
伊藤はにこにこしながら黙々と飲んでいました。
さなは手伝うふりをして、そんな伊藤を盗み見していました。
さなたちは、れんげが咲く頃には、たんぼで遊びます。
男の子達に混じり、取っ組み合いにも果敢に入っていくさなは、
同級生の男の子達の誰にも負けませんでした。
「あんたが、つかむけんいけんのんよ。」
むしろ、大いに泣かせました。
悪童達の親も女の子に泣かされたとあっては、文句も言えませんでした。
「こりゃ、きいきいどんどんど、せりと間違えたらいけんでえ。」
と言いながら、信ちゃんはさなに説明をしています。
子供達は、喉が渇くとせせらぎに生えているみずみずしい、
ちょっと酸っぱいかっぽんをかじり、
お腹がすくと、綿毛の出た草を食べるのでした。
狭い島には空き地はなく、季節によって遊び場所は移っていくのでした。
竹子ちゃんと一緒に作るれんげの首飾りが、さなの唯一女の子らしい
仕草でした。子供達は勢い余って怪我をしても、擦り傷程度のけがは
蓬をもんで擦り付ければ治るのでした。
「これでなおるけえの。おやにいうんじゃないど。」
高志は、いささか無茶をしたことを反省しているのでした。
(つづく)