故郷へ恩返し

故郷を離れて早40年。私は、故郷に何かの恩返しをしたい。

さなさんー4

2014-12-15 17:18:18 | 短編小説
 かわいな 

第四話 石採り

「今日は、かわいなに行ってみようや。」
学校からかえってきたさな達は、いつもの遊びをせずに石を採っている沢に出かけました。
工事の邪魔をしないように、遠巻きに工事の成り行きを見守る場所に陣取っていました。
沢沿いで掘り出される石の陰から現れる大きな蟹を追いかけたり、
沢沿いの泥田から迷い出てくるけらを捕まえたりしました。
毎日、自然が大きく変わるのが楽しみでたまらないのです。

「今日もようけ取れたでえ。」
さなは、木の樽の中を見ながら高志たちに報告しました。
さなは一年に一度ある祭りを見るようなわくわくした気持でした。
島中が、沸いたように活気に溢れているのです。

一日の作業が終わると、真っ黒に日焼けした男達は、車座になって、
どぶろくを飲み始めるのでした。
どぶろくは、島に連れて来られていつしか住み始めた朝鮮の人達が
今では堂々と造っていました。

「海軍さんご用達の酒がきたよ。今日のは特別吟醸よ。」
金さんは、言葉とは大違いの若い酒も出さざるを得ないほど繁盛するのを
喜んでいました。子供達が集めた魚や貝は格好の肴になりました。
どの子もつぎを当てたズボンを穿き、てかてかになった袖口の服をきていました。
人々が車座に座る輪の中心に、石油ランプが吊られています。
ほやの中の火は、時折吹く浜風にゆれています。手元を照らす手作りの灯りが、
男達の顔を赤々と揺らしていました。
子供達が、冬に作る隠れ家用に、墓場で集めた半端なろうそくの塊でした。
お盆の後の墓場には、燃え残った竹灯篭がぽつんと立っています。
その灯篭のなかの燃え残りの曲がったろうそくを子供たちが集めるのでした。


 どぶろく 

女達を、聞くに堪えない言葉でからかっている酔っ払いの男達が、さなは嫌いでした。

「あんたは、おかあちゃんのけつだけ触っとりんさい。」
女達は、負けずに応酬していました。さなは、密かに女たちを応援するのでした。
伊藤はにこにこしながら黙々と飲んでいました。
さなは手伝うふりをして、そんな伊藤を盗み見していました。

さなたちは、れんげが咲く頃には、たんぼで遊びます。
男の子達に混じり、取っ組み合いにも果敢に入っていくさなは、
同級生の男の子達の誰にも負けませんでした。

「あんたが、つかむけんいけんのんよ。」
むしろ、大いに泣かせました。
悪童達の親も女の子に泣かされたとあっては、文句も言えませんでした。

「こりゃ、きいきいどんどんど、せりと間違えたらいけんでえ。」
と言いながら、信ちゃんはさなに説明をしています。

子供達は、喉が渇くとせせらぎに生えているみずみずしい、
ちょっと酸っぱいかっぽんをかじり、
お腹がすくと、綿毛の出た草を食べるのでした。

狭い島には空き地はなく、季節によって遊び場所は移っていくのでした。

竹子ちゃんと一緒に作るれんげの首飾りが、さなの唯一女の子らしい
仕草でした。子供達は勢い余って怪我をしても、擦り傷程度のけがは
蓬をもんで擦り付ければ治るのでした。

「これでなおるけえの。おやにいうんじゃないど。」
高志は、いささか無茶をしたことを反省しているのでした。

(つづく)

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針小棒大

2014-12-15 06:28:08 | プロジェクトエンジニアー

プロジェクトの落とし穴は、数々あります。
中でも、針小棒大の現象です。
気になることが、どうしても大きく見えてしまうのです。
確かに、プロジェクトのボトルネックでもあるのです。

しかし、そのことが全体に与える影響はどの程度なのか
見えません。
気になるそのことがボトルネックのピークで、
どれほど足を引っ張っているのか探る必要があります。

私は、「加重平均」という手法をよく使います。
生産数の比率とそのボトルネック(生産時間、人のピーク、経費など)を
かけるのです。
単純平均ですと、その気になることが感じるのと同じ数字で表れてしまうからです。

例えば、工場を運用するとき、原材料費、製造経費(副材料費、
ユーティリティー費、修繕費など)、製造人件費、物流費、
リース費用(物品、建物、プロセスなど)、減価償却、間接経費(開発、事務など)と
振らせてみますとよく分かります。
この工場の運用を圧迫しているのは、何が要因なのか。

プロジェクトを遂行する上で、どこがCCP(クリティカルコントロールポイント)なのか
見極めることが、早く正解にたどり着けるアプローチです。

新しい工場のコンセプトを作成するときなど、模造紙に気になること
やらなければならないことを思いつくまま間にあっという間(約2時間)に
書き上げます。すべてインスピレーションでの作業です。
プロジェクトエンジニアーとしての度量がそのまま表れます。
書きとめた「言葉」に関連性がある場合は、線でつなぎます。
すべての言葉にそれをします。
そして、線が多いものをピックアップします。多く線が出ている言葉が、
そのプロジェクトの「キーワード」です。「キーワード」は一つか二つです。
そのキーワードをプロジェクトに関わる人たちに、内容説明の緒言として発表します。
キーワードは、プロジェクトごとに変化します。
プロジェクトが抱える問題が違うからです。

人の生き方にも関わる重要なことです。
気になることが、どうしても大きくのしかかってくるのです。
冷静に分析してみると、大したことではないことが多いのです。
気にするばかりに、大事なことを見落としてしまうのです。

苦しんだ末の自分なりの解決ソフトです。

2014年12月15日

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さなさんー3

2014-12-15 00:48:07 | 短編小説
 さなさん

第三話 桟橋拡張

「初めの仕事は、桟橋の拡張からかかります。」
伊藤は、工事の手順を丁寧に説明しました。
工事に必要な機材や資材を船で運ぶため、最初の仕事は桟橋の
拡張工事と、海軍の船のきっすいより深く、海底を掘ることでした。

村長は、工事に必要な人数を集めるよう部落長に指示しました。
最後に伊藤から、工事に関する注意事項が語られました。
この工事のことは、他言無用ときつく約束させられたのでした。
若さに似合わず、伊藤の説明は、部屋にいる一同を妙に納得させるものがありました。
花冷えの頃だというのに、伊藤の説明の間、部屋の中には熱気がこもっていました。
光男は、村にはいないタイプのこの伊藤に最初から信頼を寄せる何かを感じました。
皆は、無言で帰って行きました。

苗床つくり、田植えの合間をぬって、工事要員は各部落から順番に送り
出されてきました。漁師たちも例外ではありませんでした。
役場で説明があった翌日から工事は始まりました。
集まった工事要員の50名ばかりを、5人ずつの班、10班に分けました。
班の名前はなぜかアルファベットでした。干潮時には、桟橋までの波止め
拡張工事に8班が動員されました。
海軍が調達したポンプ式しゅんせつ船で海底の泥が掘られ、太い鋼鉄で
できた金網の上で、泥と海水に分離されます。残った泥は、二人でかつぐ
もっこで陸揚げされます。その泥は、少し離れた干潟まで馬が運びます。


  魚とり

子供達は、急に始まったこの工事を見るのが楽しくてたまりませんでした。
むしろ興奮気味でした。
「こっちに、なんかおるど。さな、浅いほうへ追い込むけんの。」
ガキ大将の高志が、みんなに指示を出しています。
ある時は、泥と一緒に吸い上げられた小魚が、浅瀬に迷い込んで逃げ場を失います。
そんな小魚を追い込み、子供達は網ですくい、また手づかみで取ります。
掘り出されてくる泥に混じって現れるとり貝やおう貝を夢中になって拾い集めるのでした。

 
 魚はどこ


さなは光男と一緒に作業を手伝っている伊藤に恥ずかしげに大きな貝を
渡しました。数日前にとった砂抜きの貝でした。
「ほう、こりゃ立派な貝ですね。」
伊藤は初めて聞く島なまりのない言葉で礼を言いました。
さなはその太い若々しい声にどきどきしました。

光男達石工は、深堀をした海に浮かぶ桟橋をめがけて、波止めの拡張作業をしていました。
波止めの拡張に使われた石は、すべて山の沢沿いから運び出されました。
どこにある石を運び出すか、伊藤は的確に指示を出し、
馬を使って桟橋まで運ばせました。
島の狭い道は、往復する馬と大八車と人で海に零れ落ちんばかりでした。
梅雨前には、新しい頑丈な桟橋が完成しました。
もう、板を渡って定期船に乗り込む必要はありません。
海軍が調達した船が頻繁に入るようになりました。
海軍の船は、規則正しい静かなエンジン音を出す最新式の鋼鉄製の船でした。

(つづく)
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