故郷へ恩返し

故郷を離れて早40年。私は、故郷に何かの恩返しをしたい。

さなさんー19

2014-12-25 05:06:03 | 短編小説

第十九話 生きている 

さなが動き出せたのは夜中でした。長い時間寝ているようでした。
伊藤の連絡で、広島の病院に血清の手配がされていました。
さなは、足の先に多少の痛みと腫れを感じました。恐る恐る
噛まれた足を動かし、指を確かめるように動かしました。
「うちは、生きとる。」
さなは、大事にはいたりませんでした。
自分は助かったと思いました。
伊藤の処置がすばやく正確であったからでした。
さなは、伊藤の処置を思い出し顔が火照るのでした。
そして伊藤に強く感謝の気持ちが沸き起こってくるのでした。
さなは、起きだすことが出来ました。
普段どおり歩けました。
両親にそのことを伝えに居間に向かいました。
二人とも居ませんでした。

  ありがとう

さなは、離れの伊藤の部屋に向かいました。
両親は、伊藤のふとんのまわりに沈んだ顔をして座っていました。
蚊帳が吊ってありました。
さなが現れると両親は驚いたように顔をあげました。
さなが回復していることを伝えると驚き、やがて喜びの目に変わりました。
娘はなんでもなかった。感謝の目を二人は、伊藤に注ぐのでした。
伊藤の顔は普段の2倍にも膨れ上がり紫色に変色していました。
息をするのがつらそうでした。

「顔や首の回りが熱うなってきた。ほっぺたも、ちいとかとうなってきた。」
「大丈夫じゃろう。」
と光男が二人に言いました。
伊藤は、歯の治療ができていなかったのでした。
仕事が終わるのを待って治療をする予定でした。
二人は、さなを残し居間に戻って行きました。

(つづく)
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さなさんー18

2014-12-25 02:35:17 | 短編小説

第十八話 お弁当

「さな。できたけえ。持って行きんさい。」
さなは、農作業の合間をぬって母が作る2人分の弁当とお茶を
毎日山の上まで届けていました。
伊藤は大変だからもう良いと何度もさなに伝えるのですが、
さなは頑として譲りませんでした。
昼間も伊藤に会えるのが楽しみで仕方がなくなっていたのでした。
「花も嵐も乗り越えて。」と二年前に空前のヒットになった
旅の夜風を口ずさみながら、沢伝いに緑の中を登るのでした。
緑の中に、日の光をかすかに通すトーチカが出来るのを見て、
さなはなんと美しいと思ったり、
こんな残酷なものが必要なのだろうかと思ったりしました。
でも決して口にはしませんでした。

事件は突然起こりました。さなが、弁当を届けるために、いつもの
ように頂上への道を急いでいた時です。緑の中から、道一杯になって
トラックが降りてきました。
中には、伊藤と光男が運転手と共に見えました。ゆっくりしたスピードでした。
さなは、よけるために道の端の茂みに降りました。
湧き水がわずかに流れていました。さなは、もんぺに靴を穿いていました。

 お昼だよう

「せまいんじゃけえ。」
さなは、何かちくっとつま先に感じるものがありました。
向かってくるトラックに手を振りました。
さなは崩れるように倒れてしまいました。
トラックは、急ブレーキをかけて止まりました。
中から光男と伊藤が降りてきました。
伊藤は、さなの足元に動くものを発見しました。
蛇です。
頭は三角で、さなの靴に牙が刺さったまま逃げ出せないでいました。
伊藤がはがして、光男が持っていたハンマーで頭をつぶしました。

「さな。たいしたことは、ないけんの。がまんせえよ。」
光男が叫んでいますが、さなにはよく聞こえません。
伊藤は、すぐさま頭に巻いていた手ぬぐいを取って、
さなの腿の内側を縛り上げました。
靴をゆっくり脱がしました。
さなの右足の親指と人差し指にまたがって歯形が上下に4つついていました。
すぐさま、伊藤は足の指を口に含み思いっきり吸い上げました。
何度も吸い出しました。
指にやけ火箸を当てられたような激痛が走りました。
みるみる紫色に変色していきました。
さなは、激痛の中でも、若い男に指を吸われていることで
身体の芯がはじけるような感覚を覚えました。
橙の木で感じたものと同じ感覚であることに気付きました。
意識が失われて行きました。

(つづく)

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