故郷へ恩返し

故郷を離れて早40年。私は、故郷に何かの恩返しをしたい。

すずめ

2015-06-04 04:52:11 | 思い出話

すずめのさえずりが聞こえます。

40年以上前に、憧れの東京に出て来ました。
雨が降るのは、夜中で週末でした。
どうしてそうなのか考えてみました。
行きついた結論は、スモッグでした。

昼の間に、ウィークデーに溜まった埃を洗い流すのです。

東京の人は、吊革につかまりながら本を読んでいました。
満員電車の人ごみの中で、立って寝ていました。
自動販売機で切符が買えず、改札で行く先を告げて待っていました。
ボストンバッグが動いていきました。
知らぬおじさんが、悠然と荷物を持ったまま階段への曲がり角を
上がっていこうとしていました。

それ、僕の荷物です。
ああ、そうか。と返してくれました。
駅そばの真黒な汁を飲み込みながら、
恐ろしい洗礼を思い出すのでした。

瞬く間に、飲み込まれ喘ぎながら一年が過ぎました。
消化できないまま、二年目を迎えました。
すっかり翻弄され、自分を見失いました。
三年目に挫折しました。

すずめは、どこかに行ったようです。
行きかう車の音が聞こえなくなったらまた聞こえてきました。
まだ、そこらへんにいたんだ。

私は、スピンアウトしました。
学校を休学して、山谷、銀座、広島、阿蘇と転々としました。
やっぱり、初志を貫こうと決めて東京に帰ってきたのは、半年後でした。

あいかわらず、東京の雨は夜中にそして週末に降りました。

学校の機械工作工場の鍵を、技官から預かりました。
毎朝、履いて水を打って風を通し、
一日中機械を相手にものづくりに励みました。
やっと、自分の居場所が見つかったのです。
夜は、一日中削った鉄を片づけ、すべての機械を点検し
水銀灯を消すのは私の役割でした。
そんな生活をしていても卒業させてくれました。

スイス人を清水港の近くの焼き鳥屋に案内しました。
これはどうだと、雀の姿焼きを注文しました。
日本人は、こんな可哀想なことをするのかと、
涙を流さんばかりに、眼を剥いていました。

夜中に降った雨が歩道を濡らしています。
車道の雨は、行きかう車が乾かしています。

ここ数日腰が痛いと苦しんでいる妻が、
裸で前を通り風呂に向かいました。

まだ東京にいます。
今度は、スピンアウトではなく
旅に出るように終の住処に移りたいものです。

入道雲 甍の上の さらに果て

2015年6月4日
コメント
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