『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  194

2014-01-24 12:35:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『もう、いいですか、棟梁』
 セレストスは、エノス時代に尊敬の念を込めて、オロンテスをこのように呼んでいたのである。
 『セレストス、いいぞ!もっと叩け!』セレストスは力を込めて、『ガンガン』を打ち叩いた。
 『お~っ!なかなかいい!セレストス、打ち鳴らせ!ガンガンいけっ!』
 セレストスは、オロンテスの掛け声にせっつかれて木の枝につるした『ガンガン』を打ち鳴らした。彼が『ガンガン』を打ち鳴らすのに手渡されていた木の棒は、樹の根が塊状になったやや太めの木の棒であった。『ガンガン』こだまして鳴り渡った。彼らが居住している一帯に鳴り渡った。当然、浜へも鳴り渡っていった。居住しているところのあちこちから人が集まってくる、彼らはいぶかしい目で『ガンガン』を見つめたが、広場の情景を見て納得したらしい。
 『おい、イリオネス、あのガンガンは何事だ?』
 『あれはですね、統領。『食事の用意ができたぞ!皆、集まって来い』の合図です』
 『そうか、それはいい!走って伝えるより、このやり方のほうがず~といい、何となく雰囲気もいい、こういうのは俺も好きだな。お前たち何でも考えるな』
 アヱネアスは、感心の気持ちを語った。イリオネスは、あらかじめオロンテスから『ガンガン』の趣旨を聞いていたのである。それが今日の夕食に当たって実行されたのである。宿舎のオキテスも耳にした。浜にいるパリヌルスも耳にした。浜の者たちがパリヌルスに聞いてくる。
 『隊長、あのガンガンはなんです?』
 『あ、あれが何かだと、俺は知らん。それより、お前たち仕事は終わったのか。お前らに聞かれて考えたのだが、あれは『みんな集まれ』の合図だと思う』
 そのように答えて、彼は浜を見て回った。島のほうへと目を移した。アレテスたちの乗った船が波を割って浜へ迫っていた。
 彼の許へ一行を引き連れたテカリオンがやってくる。彼もパリヌルスに問いかけた。
 『おい!パリヌルス、あのガンガンは何だ』
 『俺も知らん。あのガンガンについては知らされていない。しかし、言えることは『めしだぞ!者ども集まれ!』の合図だと思う。テカリオン行こう』
 『判った!』テカリオンは一同に声をかけて、広場への道を歩み始めた。
 アレテスの船が浜に着いた。アレテスが笑っている。彼も『ガンガン』を耳にしている。
 『あのガンガンは何ですか?』
 『お前も俺に聞くのか。あれはだな、『めしだぞ!集まれ!』の合図だと思う。アレテス、お前何をにやにやしているのだ』
 と言って浜を見まわした。
 『ハッハ、私のにやにやですか、これは今日の楽しみです』
 浜にいる者たちがガンガンを耳にして『何だろう?』といぶかしんだ表情をしていた。
 パリヌルスは、彼ら一同に声をかけた。
 『お~いっ!皆、行くぞ!めしだ』
 一同は広場の夕食の場へと向かった。