伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む元市議会議員。1960年生まれ。最近は遠野和紙に関わる話題が多し。気ままに更新中。

スケジュールありきで唐突感しかない処理水放出時期確認

2023年01月13日 | 原発・エネルギー
 今朝もいつものように愛犬の散歩に出かけた。
 帰宅し昇った太陽の方向を見ると、空に虹色の柱がうっすらと見えた。ハロ(日暈)・・太陽から角度で22度離れた位置に出現する22°ハロに違いない。昨日は薄雲の状況もよく、太陽を丸く囲むように見えていた。今日は、地平付近にかかる雲だけが条件に適していたのだろう。太陽から若干離れた位置で柱のように、よく見ると若干内向きの孤を描いて見えていた。



 こうした現象は、太陽のエネルギーの大本にある核反応・・太陽(恒星)の場合は原子が合体してより重い原子になる反応による産物ということになる。核融合により発した熱エネルギーが地球に届き、水を蒸発させ、水滴あるいは大気中で凍結した氷の粒が光を分離してそれぞれの波長特有の色を見せる。

 この核融合そのものでは放射性物質は生じないと聞いた記憶がある。実現すればクリーンなエネルギー源だが、核融合に必要な高温・高圧を創り出すことができていないため、実現していない。兵器である水素爆弾は核融合のエネルギーを利用して、莫大な破壊力を創り出す。水素を融合させることによって莫大なエネルギーを発生させるが、水素を融合させるために必要なエネルギー源に、核分裂を利用する。このため大量の放射性物質がばらまかれる。

 核分裂のエネルギーを利用しようとすれば放射性物質の生成は免れない。核分裂を利用する原発でもこれは変わりがない。

 原発で生成された放射性物質を安全に無害化することは、今の技術ではできない。数万年かかってやっと半分の量になるプルトニウムなどの放射性物質を、どうやって安全に保管するのか、その保管場所や技術さえ、現状では用意できないように、いまある放射性物質さえ最終処分できるめどがたっていない。

しかも、原発事故によって示されたように、原罪の原発では、いざの際に放射性物質を閉じ込めておくことができない可能性がある。しかも、いったん事故が起きるとその被害は広範な人々・地域に及ぶ。

 私は、こうしたことから、原発に頼るエネルギー政策から抜けだし、技術的開発をしながら再生可能エネルギーの利活用に転換すべきという考えを持っていた。

 政府は、原発事故後、エネルギー源としての原発への依存割合を減らすエネルギー政策を採っていた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー供給に陰りが見えてくると、原発依存に再度舵を切り、既存原発の使用期間を延長させる方向を決定しようとしている。

政府は、原発事故後に原発の運転期間を「原則40年、1回に限り20年の延長が可能」とするとしてきた。原発エネルギーからの脱却を求める立場から見れば、この方針そのものが問題あるものと考えているし、原発事故からくみ取るべき教訓を無視したものとも考える。

しかし、政府の原発依存への傾斜はこれにとどまらなかった。昨年12月、「原則40年、最長60年」とした運転期間は、審査などで停止した期間を運転年数から除外して60年超の運転を可能にしようとしている。原発事故から11年が過ぎようとする今、なし崩しに原発に依存するエネルギー政策に立ち戻ろうとしているようだ。

 水素爆発事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所で発生する汚染水から・基準値内まで放射性物質を取り除いた処理水を水で希釈して放出する時期を、「今年の春から夏」と決めたことにも似たような政府の姿を感じる。

 もともと処理水の処分は、事故原発の廃炉工事の作業スペース確保に必要として問題になった。汚染水の発生を止められないため増え続けた保管タンクを抑制して、原発構内に業スペースを確保する。このため、保管された処理水を処分することが必要と考えられた。

この問題を検討していた政府のトリチウム水の取り扱いに関する小委員会は、海洋処分を含む5つの処分法を列挙した報告署をまとめ政府に提出した。これを受けて政府は海洋放出で処分すると決めていた。放出時期は保管タンクが満杯になる2022年頃としていた。

 その後、漁業者をはじめ放出反対の声が強まり、また、福島県をはじめ自治体等から政府が国民等に徹底した説明を求める声が強まった。こうした中で2022年の実施は見送られてきた。実施時期にはこだわらないと政府関係者が説明もしていたとも記憶している。

 処理水の処分が問題になるのは、そこに取り去ることができない放射性物質が含まれるからだ。汚染水から放射性物質を取り除く多核種除去装置・ALPSは、汚染水に含まれる放射性物質を取り除くが、トリチウム(三重水素)は取り除くことができない。トリチウムは水分子として存在することが多く、これを分離する技術が確立していない。

 ただ、近畿大学工学部および近畿大学原子力研究所らの研究チームが、極々細い穴を持つ多孔質体を開発した。この物質は、穴に水を取り込み、トリチウム水だけを保持、水を排出する能力を持つという。閉じ込めたトリチウム水は熱を加えることで排出され、繰り返し利用することができるという。

 ただ、研究チームの近大原子力研究所の山西所長は、
「実験室レベルでは量が少ないのでゆっくりやればいいのですが、実用化しようとすると100トンくらいの水を1日で処理することが必要。3、4基作るとなると数億円の規模でお金が必要ではないかと見積もっています。実用化はできると思うのですがそこにかかるコストや手間を考えていく必要がある」(読売テレビ「ウェークアップ」)としている。

 これを受け番組は、「そもそも『安全』と考えられているトリチウム水にこれだけのコストをかけることが難しい現実があるという。しかし、風評被害の払しょくに数億円の負担は安くないはずだ」とした。

 ここでいう「安全」はトリチウムの性質を踏まえたものだ。まず、紙1枚で遮断できるほどエネルギーが小さい。水分子として存在することが多いため、体内に取り込まれても生物学的半減期(半分が体外に排出される期間)が10日と短く、特定の臓器に蓄積することもないという。

運転される原発からは管理目標内とはいえトリチウムが放出され続ける。本ブログにも何度か紹介してきたが、事故前の東電福島第一原発のトリチウムの場合、年間の管理目標22兆bq(ベクレル) に対して大気中に2兆bq、海洋に2兆bqのトリチウムが放出されていた。原発によって目標は異なるが、国内の原発、世界の原発でも変わらない現実だ。管理目標が、第一原発よりはるかに大きい原発もあるほどだ。

また、第一原発では事故原子炉に到達する前にくみ上げた地下水を海洋に放出する地下水バイパスが行われた。東電はこれにより、最大おおよそ5億bqが放出されるとしていた。

 原発事故以来、第一原発の事故またその対応で何らかの事故が発生するたびに農産物や海産物、食品等が忌避される風評被害にさらされていた。

 こうしたことを踏まえて私は、まずは政府や東電が国民に対して処理水の処分に問題がないことをしっかり説明して国民の科学的知見を深めて風評の発生する土壌を改善し、国民の理解をもって処分の方法を検討する必要があると考えてきた。市議会議員当時も同様の考えを明かしてきた。

 また、処理水の海洋放出等が現実的な対応とされて以降、政府委員会の関係者から、国民への説明が大切だという意見が散見されていたことが報道されてきたと記憶をしている。実際の取り組みはどうだったのだろう。

 昨年8月から、東京電力が、処理水の海洋放出について、トリチウムや海洋処分の安全性を説明するためのチラシを新聞に折り込んだ。



 内容はこちらで確認できる。


 同社のホームページも、廃炉の取り組みや放射性物質の特性等について説明するコーナーを設けている。

 また、経済産業省も「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」とういチラシを作成し、新聞折り込みをした。



 手元で確認できるのは2種類だが、これもどの範囲で国民に知らせたのか・・。なお、同省の「廃炉・汚染水・処理水対策ポータルサイト」に廃炉や汚染水対策、ALPS処理水に関して等様々な情報を掲載している。

 そのホームページに広報の取り組みが掲載されている。内容を見ると福島県民を対象とした取り組みや岩手県、宮城県、茨城県など被災地を対象とした取り組みが多い印象が強い。それ以外の取り組みは「シーフードショー大阪」や「山梨県日川高校」「立命館大学」などでの説明や視察などごく限られた範囲という印象がある。しかも、この1年程の取り組みの記載はない。そこからくみ取れる姿勢は、海洋放出を含む処分方法が提示された2年前以前と何ら変わっていないように見える。

 本来、風評被害を克服していくために必要なのは、国や東京電力が原発事故の反省に立って全国各地で公聴会や説明会を無数に開催したり、新聞や放送などのメディアを活用した説明の場を繰り返すなど、国民向けにしっかり説明し、その合意を形成することだと考えてきた。見聞きする範囲ではそうした取り組みは実施されず、それ以前の取り組みに少し毛が生えた範囲でしかされてこなかった。

 国民的合意がないままに海洋放出が実施されるなら、福島県民をはじめ関係者が今後も風評被害の恐れにおののく構図が変わることはない。これでは国や東京電力が、風評被害払拭の責任を果たしたことにならないと思う。

 こうしてみると、国も東京電力も処理水の海洋放出の時期ありきで、やってきた感を出すためにしか取り組んでこなかったように思える。しかもその内容は、福島県民に合意をせまる取り組みが中心としか見えない。

 国は、風評被害に対する損害賠償の仕組みをしっかり作るという。何らかの被害に対して損害賠償は当たり前だが、おそらく損害賠償だけが被災者の希望ではないのではないか。原発事故のマイナスの影響を克服して、安全で安心できる製品や食べ物を当たり前に消費者に届けたい、当たり前に仕事をしたいという希望があるのではないか。その前提の構築にまともに取り組まず、処理水の海洋放出開始を「春から夏」の時期とした、今回の政府決定は、さらに福島県民を始め被災者・被災地に苦しみを押しつけるものとなるといわざるをえないと考える。

 私は、今もって、国や東京電力がまず実施すべきなのは、処理水の処分に関して国民的合意を作ることにまともに取り組むことであり、その合意を前提に処分方法を決定することだと考える。

 そのためにも「春から夏」とした、処理水放出の政府の実施目標は撤回すべきではないだろうか。


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