伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む市議会議員。市政や市議会、日常の活動などを紹介していきます。

原発事故後、何の情報もなし・前市長が講演

2014年02月14日 | 政治
 いわき市文化センターで12日夜、いわきフォーラム90が主催する400回記念のミニミニリレー講演会が開かれ、前市長の渡辺敬夫氏の講演を聞いてきました。同氏は自民党の市会議員、県会議員を務めた後、無所属で市長を務めた経歴から、政治的立場は異なり、また、市議会でも原発廃炉への市政などで論戦した間でもありますが、政治姿勢というか、政治哲学というか、特に震災以後の厳しい状況下での市政としての対応には興味深い部分もあり、90分の講演もあっというまに終わったという印象でした。

 渡辺氏が政治姿勢として強調したことが「言ったことに責任を持つ」ということ。この立場から考えれば、権限を持つ行政の長は、例えそれが各種団体に招かれてのあいさつでも、慎重な言い方が求められる。例えば、議員であれば「実現のためにがんばる」は、実際の権限はないことから「努力する」ととられるが、首長の場合は「実現する」ととられかねない、などという趣旨で話されていたのは“その通り”の思いでした。

 また震災後の復旧・復興の取り組みで苦労した点として、①いわき市が早くすすめようとしても、方針を定め資金を出す国・県の決定が遅く市の対応も遅れざるを得なくなったこと、②放射線対策では市の方針が決まっても住民の合意形成に時間がかかったこと――などをあげていました。

 中でも最悪の問題は、2011年の市議会での質問に対する答弁にもありましたが、原発が事故を起こした直後に、いわき市には何の情報もなかったという点です。

 思い起こせば市議団は、東電福島第一原子力発電所の原子炉の事故が次々に露呈し2号機で爆発音があったと報じられた2011年3月15日付けで、災害対策本部長あてに、①情報発信に努めること、②ヨウ素剤の配布準備をすすめること、③避難体制を構築すること、④安全な給水体制の検討をすすめること――の4点を市議会事務局を通じて提出していました。市議会事務局を通じたのは、災害対策本部が対応にてんてこ舞いの状況のため、混乱を避けるために議員が個々バラバラに要望を持ち込むのではなく、議会事務局を通じて提出しようという、議会側の要請があったためでした。

 渡辺氏は、最初に情報が入ったのは東電福島第一原発一号機の事故が起きてから12日後の3月23日だったとして、その間、手探りで原発事故への対応をすすめたことを明かしました。

 具体的には、いわき市は市独自に久ノ浜・大久地区の住民を避難させましたが、その判断をする根拠が①3月12日朝8時に楢葉町長から1,000人の避難者受け入れ要請があったこと、②救援活動に入った自衛隊が3月12日夜に翌日の捜索を中止とするような連絡を取り合っていたこと――など周辺の情報から、双葉郡に接する久ノ浜・大久は避難させることを決断したといいます。

 また避難については、避難計画にはなかったので、プロジェクトを設置しながら、避難の実施計画を作りながら取り組み、最悪に備えて、原発から40Km圏、50Km圏、60Km圏と段階的な避難計画も作ったと明かしました。

 いわき市で放射線値が最も高かった3月15日のエピソードも興味深いものでした。この日午前9時から、いわき市が独自に屋内避難を市民に呼びかけた、その日のことです。先立つ深夜、渡辺市長(当時)は、2人の副市長、保健福祉部長、保健所長とヨウ素剤の飲ませ方を検討していました。そこに消防長がやってきて「おかしい、放射線値が異常に高い」と申告したのだといいます。

 消防署には核物質の陸路輸送などに備えてガイガーカウンターが配置されていましたが、これを使って測定したのです。その時、午前1時30分で23.7μSvで、同4時には半分の値になったというのです。この数値を観測した時間はおそらく渡辺氏の勘違いで、23.7は午前4時の値だと思うのですが・・。

 ヨウ素剤の配布が始まるのは18日のことでしたが、15日零時過ぎにはヨウ素剤の飲ませ方を検討していた。私たちが「配布の検討」を要請したのは、同じ日のお昼前ですから、要請よりも早く検討は始まっていたということですかね。

 渡辺氏は、いわき市の復興の取り組みは他の自治体に比べて決して遅くはなく、島サミットの誘致、塩屋崎灯台周辺の整備事業、そして市民全員への賠償の実施など、「震災をプラス思考でとらえて、市民と、職員と取り組んできた。悔いはないし、誇りを持ってできた」と話を結びました。

 渡辺市長の施策には、当然、一致できることも、一致できないこともありましたが(もっとも震災以降は反対する案件も少なかったか)、震災と原発事故という異常な事態の中の取り組みに、立場は違えど敬意を表したいと思います。


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