<新ベンチャー革命より転載>
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日本のTPP参加でもっとも打撃を受けるのは農家ではなく、実は官僚ではないか
1.元・官僚の暴露本の出版が続く
本ブログにて、財務省の闇を暴露し続けている高橋洋一氏(元・財務省官僚)の近著『財務省が隠す650兆円の国民資産』(講談社、2011)は日本全国納税者6000万人必読の書だと紹介しました(注1)。
これと同様の本が古賀茂明著『日本中枢の崩壊』(講談社、2011)です。こちらは元・経産省官僚が現役時代に経産省の反対を押し切って出版した話題の書です。案の定、古賀氏は問題作出版後、9月末、経産省を辞職しています。
上記、古賀氏の本には、日本の官僚の生態のみならず、官僚と政治家、官僚とときの政権とのドロドロした関係が実名でリアルに描かれており、国民の関心を引いています。このような暴露本は辞職を覚悟しなければ絶対に書けない本ですが、辞職前に出版したとは驚きです。
この手の本はこれまでもありましたが、暴露された側からの報復により、書いた本人はその後、社会的に葬られる危険が高いし、そうされても、世間は同情しません。
こういう人物を再雇用する側は、非常に警戒するので、いくら能力があっても、敬遠されることが多いわけです。
2.日本は官僚天国国家であることを改めて認識させられた
2011年11月1日現在、筆者は、上記、古賀氏の本を読み終わってはいませんが、彼の官僚内情暴露から日本型官僚体制の実態を知れば知るほど、日本が官僚天国国家であることを痛感しました。
日本の官僚は、国民から厳しい目で見られていることを自覚しており、その深層心理には国民への後ろめたさが横たわっている気がします。なぜなら、官僚自身が、もし、自分が官僚でない民間人であったなら、一般国民と同じ厳しい見方をするであろうと思っているからです。
その後ろめたさは、多くの官僚の行動を屈折させるようです。その結果、何事においても、ごまかしたり、詭弁を弄したり、言い訳したりする習性が骨身に染み付いてしまうようです。古賀氏は、その官僚の生態をリアルにかつ事細かに記述しています。
この古賀証言を読めば読むほど、自民から民主へ政権交代したくらいでは日本の官僚機構にメスを入れるのは不可能だとわかります。その意味で、逆説的ですが、古賀氏の暴露本は、日本国民に官僚機構の抜本的改革は不可能なのではないかと絶望させた面を否定できません。
ちなみに、日本の官僚機構にメスを入れようとした民主党・小沢氏は、2010年、中国・温家宝首相、米国オバマ大統領に次いで、世界第3位のトップリーダーに選ばれたほどの豪腕政治家です(注2)。しかしながら、日本を代表する百戦錬磨の政治家・小沢氏も日本の官僚の前ではどうすることもできず、彼らが総力を挙げて仕掛けた無力化工作にて今、逆境にあります。この前例から日本の官僚がいかにしたたかか想像できます。
3.パーキンソンの法則を思い出させる
古賀氏の官僚生態描写から、筆者は“パーキンソンの法則”(注3)を思い出しました。この法則は、英国の官僚の生態観察から導き出された法則のようですが、過去、官僚制を研究した人は他にも居るようです(注4)。
古賀氏の指摘は日本の官僚に限らず、官僚制の特性を描写しているという気がします。現代では“官僚的”という言い方は、組織が硬直して非効率であるという意味合いを含んで解釈されるのが一般的です。その意味で、古賀氏は日本の官僚機構も“官僚的組織”の典型であることを国民に知らしめてくれたわけで、筆者の感想は、案の定そうだったのかという印象です。だからこのヒット作を読んだ全国の読者も同様の感想を抱いたと思われます。
ところで、古賀氏は自分が官僚でありながら、官僚批判するのは、彼の思想が新自由主義的だからだと思います。ただ彼がなぜそうなったのかは不明です。ちなみに、米国共和党下院議員のロン・ポールなどは、政府は小さいほどよく、国民に重い税負担を掛けるのは罪悪だという思想の持ち主ですが、古賀氏もロン・ポールに近い思想の持ち主のようです。
彼の思想を日本の官僚機構に適用するには、英国のサッチャー元首相のような鉄の政治家が日本に登場する必要がありますが、もし、サッチャーが日本の首相であったら、日本の官僚はあらゆる手段を弄して、サッチャーを潰したでしょう、それは上記のように、小沢氏への官僚対応から容易に想像できます。
4.日本型官僚体制を温存して、官僚天国の日本政府はTPPを受け入れられるのか
米国政府が日本政府に強要しているTPPは新自由主義をバックボーンにしていることは周知のとおりです。だから、新自由主義者と思われる古賀氏がTPPに賛成するのは矛盾しません。
しかしながら、古賀氏の描写する日本の官僚体制を抜本的に改革するのは至難であることが、彼の著作からわかります。
そうなると、新自由主義から程遠い日本型官僚体制の日本政府が新自由主義をバックボーンにするTPPを受け入れると一体どういうことになるのでしょうか。
今、話題のTPPというのは実質的にGDPの大きい日米大国間のビジネスにおける障壁をなくそうというものです。その際の障壁とは主に課税と規制です。ところが、課税と規制こそ、日本型官僚体制の存在理由そのものです。
結局、TPPが日本に入ってきたら、もっとも困るのは官僚なのではないでしょうか。日本政府の官僚は日本に参入した米国企業や、日本企業と取引する米国企業からしょっちゅう訴えられる可能性があり、TPPの取り決めに従って、日本政府の官僚は年がら年中、米国企業に損害賠償を払わされるはめになります。その賠償金を払うために、官僚はまた増税を画策するのでしょうか。そうなったら国民はたまったものではありません。
5.TPPにもっとも反対すべきは実は官僚なのではないか
新自由主義者の古賀氏が、自分の居た官僚機構を批判するのは、日本の官僚体制が新自由主義と根本的に相容れないからです。
今、日本中で賛否両論を引き起こしているTPPは、新自由主義思想をバックボーンにしています。それなら、TPPと日本型官僚体制は根本的に整合しないのではないでしょうか。
TPPは日本全体にとって、まさに外圧となり、日本において国際競争力の弱い分野ほど打撃が大きいはずです。だからこそ、国際競争力がないと自覚している農業関係者がTPPに反対しています。
しかしながら、日本の官僚体制こそ、実は、もっとも国際競争力が弱いのです。その証拠に、スイスビジネススクールIMDの2011年の世界競争力ランキングによれば、総合27位の日本の「政府の効率性」(≒日本の官僚体制の効率性)は世界50位(母数は59ヶ国)です(注5)。
要するに日本の国際競争力低下の足を引っ張っているのは日本の産業界ではなく、実は日本の官僚機構だったのです。
その意味で、日本がTPPを受け入れてもっとも被害を受けるのは日本の官僚たちなのではないでしょうか。ところが、農水省の官僚を除いて、他の官庁の官僚はTPPに反対していません、実に不思議です。
<転載終わり>
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TPPが農業だけの問題ではないということが、最近ようやく知られてきました。ただ、官僚はTPPの本質を理解していないように思います。
「日本の官僚体制こそ、実は、もっとも国際競争力が弱いのです。その証拠に、スイスビジネススクールIMDの2011年の世界競争力ランキングによれば、総合27位の日本の「政府の効率性」(≒日本の官僚体制の効率性)は世界50位(母数は59ヶ国)です(注5)。
要するに日本の国際競争力低下の足を引っ張っているのは日本の産業界ではなく、実は日本の官僚機構だったのです。」
日本の官僚の競争力は世界で50位ということです。日本の産業界は世界でもトップクラスですが、官僚がその足を引っ張っていたということになります。国際競争力が高ければ良いというものではありませんが、あまりに民間と官僚の差が激しいことが判ります。TPPが官僚にとって最も怖ろしい仕組みであることを、当の官僚が気付いていないとは、ずいぶんのん気なものです。