■愛なんてセックスの書き違い/ハーラン・エリスン 2019.12.9
『愛なんてセックスの書き違い』 は、SF作家の非SF短編集です。
ハーラン・エリスンの作品を読むのは、初めてなので、どのような傾向の作家なのか分かりません。
この短編集も、おじさんを通り越しておじいには、よく理解できませんでした。
「父さんのこと、殺す」と少年が言った。
「見つけたら、名乗ったり、挨拶したり、そういうことはしない。ただ近づいて殺す」
「なんで?」
「母さんなんてさ。五十歳に見える」
「だから?」
「まだ三十六なのに」
おれは長年旅してきたから、相手がしゃべりたくないというときにはそっとしておくべきだと心得ている。だがこの子どもは別だった。引きつけられた。なぜだろう。おれは女房もいないし彼ぐらいの歳の子もいないからかもしれない。 『第四戒なし』
心に響く聖書の言葉/十戒・第四戒
よく理解できた唯一の作品でした。
ティファナに入っていくのは、地獄に渡るのとは違って、ステュクス川のウォーターライドもないし、たとえ国境警備員がカロンという名前でも、少なくともシャロンと英語化するだけの良識は持ち合わせている。ただし、違いがあるのはそこまで。
ひとたびアーチをくぐり、左に曲がると、そこはホガースから抜け出したような場面だった。ヒエロニムス・ボスと言ってもいい。ダリでもいいか。ダンテは絶対。
汚濁だ。 『ジェニーはおまえのものでもおれのものでもない』
教養も豊です。
要するにクールかそうでないかという問題なのさ、おれの見たところ。世の中には、必ずどこかに行ける奴がいる。たとえそのどこかというのが自分でもわかっていなくてもな。それから、どこにも行けない奴もいる。そういうのは、大物を狙おうとすると失敗するような奴だ。わかるか?
つまり、腹に包丁を喰らうことになる奴もいれば、その罪をかぶることになる奴もいる、ということさ。そのおかげで、値打ちがあるものが続いていけるわけだ。
ミルズは、不完全に日焼けした顔の下で青ざめていた。
「これは出版できない」と、わなわなと怯えながら激しい調子で言った。「こんなものは、新聞雑誌の売店からたちまちお払い箱になる。どこでこういうネタを仕入れたのか知らんが、やめとけ。絶対売れん。あまりに----あまりに----なんつーか、ジルチすぎる!」
ミルズはきっぱりと首を横に振って立ち上がり、トミー・デニスの前に原稿の束を置いて、オフィスを出ていった。トミーはそこに留められた紙切れを見下ろし、厄介事は始まったばかりだと悟った。マキシーンの肉欲、金銭欲、彼女の果実を味見してしまった今となってはもう彼女を手放せないこのおれ。ジルチ以外なにも書けないことは言うに及ばず----もはや破滅だ。
トミーは虚脱感に襲われながら、無言で紙切れを見つめた。
いやはや、彼の苦悩は始まったばかりだった。
その紙切れは、これから何度もきっぱりと言い渡される審判の最初のものだった----<ボツ>。 『ジルチの女』
警官は、これら大都会の害虫ども、ストリートの子どもたちを見て、嫌悪の表情を浮かべた。
「おかしいよな。おまえら、自分らがやったとは思わないんだろうな。たぶんやらなかったんだろう。そうかもな。今回は……おまえらチンピラはなにもしなかったんだろう。
だけど、なにがこのイカレた小僧を人殺しにしたんだろうな」 『人殺しになった少年』
『 愛なんてセックスの書き違い/ハーラン・エリスン/若島正・渡辺佐智江訳/国書刊行会 』
『愛なんてセックスの書き違い』 は、SF作家の非SF短編集です。
ハーラン・エリスンの作品を読むのは、初めてなので、どのような傾向の作家なのか分かりません。
この短編集も、おじさんを通り越しておじいには、よく理解できませんでした。
「父さんのこと、殺す」と少年が言った。
「見つけたら、名乗ったり、挨拶したり、そういうことはしない。ただ近づいて殺す」
「なんで?」
「母さんなんてさ。五十歳に見える」
「だから?」
「まだ三十六なのに」
おれは長年旅してきたから、相手がしゃべりたくないというときにはそっとしておくべきだと心得ている。だがこの子どもは別だった。引きつけられた。なぜだろう。おれは女房もいないし彼ぐらいの歳の子もいないからかもしれない。 『第四戒なし』
心に響く聖書の言葉/十戒・第四戒
よく理解できた唯一の作品でした。
ティファナに入っていくのは、地獄に渡るのとは違って、ステュクス川のウォーターライドもないし、たとえ国境警備員がカロンという名前でも、少なくともシャロンと英語化するだけの良識は持ち合わせている。ただし、違いがあるのはそこまで。
ひとたびアーチをくぐり、左に曲がると、そこはホガースから抜け出したような場面だった。ヒエロニムス・ボスと言ってもいい。ダリでもいいか。ダンテは絶対。
汚濁だ。 『ジェニーはおまえのものでもおれのものでもない』
教養も豊です。
要するにクールかそうでないかという問題なのさ、おれの見たところ。世の中には、必ずどこかに行ける奴がいる。たとえそのどこかというのが自分でもわかっていなくてもな。それから、どこにも行けない奴もいる。そういうのは、大物を狙おうとすると失敗するような奴だ。わかるか?
つまり、腹に包丁を喰らうことになる奴もいれば、その罪をかぶることになる奴もいる、ということさ。そのおかげで、値打ちがあるものが続いていけるわけだ。
ミルズは、不完全に日焼けした顔の下で青ざめていた。
「これは出版できない」と、わなわなと怯えながら激しい調子で言った。「こんなものは、新聞雑誌の売店からたちまちお払い箱になる。どこでこういうネタを仕入れたのか知らんが、やめとけ。絶対売れん。あまりに----あまりに----なんつーか、ジルチすぎる!」
ミルズはきっぱりと首を横に振って立ち上がり、トミー・デニスの前に原稿の束を置いて、オフィスを出ていった。トミーはそこに留められた紙切れを見下ろし、厄介事は始まったばかりだと悟った。マキシーンの肉欲、金銭欲、彼女の果実を味見してしまった今となってはもう彼女を手放せないこのおれ。ジルチ以外なにも書けないことは言うに及ばず----もはや破滅だ。
トミーは虚脱感に襲われながら、無言で紙切れを見つめた。
いやはや、彼の苦悩は始まったばかりだった。
その紙切れは、これから何度もきっぱりと言い渡される審判の最初のものだった----<ボツ>。 『ジルチの女』
警官は、これら大都会の害虫ども、ストリートの子どもたちを見て、嫌悪の表情を浮かべた。
「おかしいよな。おまえら、自分らがやったとは思わないんだろうな。たぶんやらなかったんだろう。そうかもな。今回は……おまえらチンピラはなにもしなかったんだろう。
だけど、なにがこのイカレた小僧を人殺しにしたんだろうな」 『人殺しになった少年』
『 愛なんてセックスの書き違い/ハーラン・エリスン/若島正・渡辺佐智江訳/国書刊行会 』