■地下道の少女/アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム 2019.12.23
『地下道の少女』 は、ストリートチルドレンの物語です。
特に、少女たちが抱える問題は、深刻です。
あの両手が触れてくることはない。もう、絶対にないのだ。
ヤニケは扉を開ける。外は寒く、少しだけぞくりとする。
エーヴェルト・グレーンスが、大変、興味深い男として描かれている。
上司として、同僚として関わらなければならないとしたら、最悪。
絶対関わりたくない人物だけど、物語のなかでは、最高に面白い。
エーヴェルト・グレーンスは窓を閉めた。彼女が恋しい。この時間になると、彼女はいつもやってくる。こことは別の窓のそばに座って、入り江を、船を、傍観者として人生を眺めている、彼女。
“どうして私を採用したんですか?”
“そんなことはどうでもいいだろう”
“それに私、警部が女性の警官をどう思ってらっしゃるか知ってます”
エーヴェルト・グレーンスは禿あがった頭をひと撫でした。過去があり、いまがある。そのあいだのことなど、あとから思い返してなんになる?
その話を聞いたときには、さして重要な話だと思っていなかったから、そのまま忘れてしまった。自分の人生ですら把握する気になれないのだ、他人の人生までどうやって把握しろと?
エーヴェルト・グレーンスはときおりこんなふうに意外な思いやりを見せる。彼にあまりそぐわないから、居場所がなくていつも困っている、そんな思いやりだ。
なんと不思議な人だろう。苦しみ、途方に暮れているかと思えば、次の瞬間にはオーバーなほどの思いやりを見せ、また次の瞬間には底意地の悪さを発揮する。スヴェン・スンドクヴィストは息子を得る前からエーヴェルト・グレーンスを知っているが、それでもやはり、この人のことはなにもわからない、と思う。
スヴェンは成人してからの人生の半分を、この上司とともに過ごしている。
いつも、他人に食ってかかっているか、苛立っているか、ピリピリしているか、集中しきっているか、疲れているか、怒り狂っているか、あるいはその全部か。そういう人間だ。
その他、魅力的な人物が多数登場します。
読んでのお楽しみ。
人生だなあ、と感じる感動的な言葉も多数。
ふたりとも、やさしい目をしている。人間は、やさしい目をしているか、していないか、そのどちらかだ。
まだ子どもだ。が、その悲しみは大人のものだ。
エルフォシュはいまもなお、だれにともなくうなずいている。出しゃばらず、しっかり言葉を選んでから前に出るタイプの人間だ。ホームパーティーの最中でも、キッチンの隅に座って、ざわめきに耳を傾けているタイプ。
この人を見かけたことは、これまでに三度ある。
だが、言葉を交わしたことはない。一度も。地下の世界では、みんなそれぞれに物語があり、だれもが語るのを避けている。
他人の悪いところばかり嗅ぎつけて、自分の悪いところには蓋をするのが得意なんですよ。われわれは
『 地下道の少女/アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム
/ヘレンハルメ美穂訳/ハヤカワ・ミステリ文庫 』
『地下道の少女』 は、ストリートチルドレンの物語です。
特に、少女たちが抱える問題は、深刻です。
あの両手が触れてくることはない。もう、絶対にないのだ。
ヤニケは扉を開ける。外は寒く、少しだけぞくりとする。
エーヴェルト・グレーンスが、大変、興味深い男として描かれている。
上司として、同僚として関わらなければならないとしたら、最悪。
絶対関わりたくない人物だけど、物語のなかでは、最高に面白い。
エーヴェルト・グレーンスは窓を閉めた。彼女が恋しい。この時間になると、彼女はいつもやってくる。こことは別の窓のそばに座って、入り江を、船を、傍観者として人生を眺めている、彼女。
“どうして私を採用したんですか?”
“そんなことはどうでもいいだろう”
“それに私、警部が女性の警官をどう思ってらっしゃるか知ってます”
エーヴェルト・グレーンスは禿あがった頭をひと撫でした。過去があり、いまがある。そのあいだのことなど、あとから思い返してなんになる?
その話を聞いたときには、さして重要な話だと思っていなかったから、そのまま忘れてしまった。自分の人生ですら把握する気になれないのだ、他人の人生までどうやって把握しろと?
エーヴェルト・グレーンスはときおりこんなふうに意外な思いやりを見せる。彼にあまりそぐわないから、居場所がなくていつも困っている、そんな思いやりだ。
なんと不思議な人だろう。苦しみ、途方に暮れているかと思えば、次の瞬間にはオーバーなほどの思いやりを見せ、また次の瞬間には底意地の悪さを発揮する。スヴェン・スンドクヴィストは息子を得る前からエーヴェルト・グレーンスを知っているが、それでもやはり、この人のことはなにもわからない、と思う。
スヴェンは成人してからの人生の半分を、この上司とともに過ごしている。
いつも、他人に食ってかかっているか、苛立っているか、ピリピリしているか、集中しきっているか、疲れているか、怒り狂っているか、あるいはその全部か。そういう人間だ。
その他、魅力的な人物が多数登場します。
読んでのお楽しみ。
人生だなあ、と感じる感動的な言葉も多数。
ふたりとも、やさしい目をしている。人間は、やさしい目をしているか、していないか、そのどちらかだ。
まだ子どもだ。が、その悲しみは大人のものだ。
エルフォシュはいまもなお、だれにともなくうなずいている。出しゃばらず、しっかり言葉を選んでから前に出るタイプの人間だ。ホームパーティーの最中でも、キッチンの隅に座って、ざわめきに耳を傾けているタイプ。
この人を見かけたことは、これまでに三度ある。
だが、言葉を交わしたことはない。一度も。地下の世界では、みんなそれぞれに物語があり、だれもが語るのを避けている。
他人の悪いところばかり嗅ぎつけて、自分の悪いところには蓋をするのが得意なんですよ。われわれは
『 地下道の少女/アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム
/ヘレンハルメ美穂訳/ハヤカワ・ミステリ文庫 』