■お探し物は図書室まで/青山美智子 2021.4.5
長い人生の時間のなかで、子育の期間は、夜空の流れ星の一瞬の輝き。
絵本を読んで我が子と過ごした時間と思い出は、人生の意味を教えてくれるかけがえのないもの。
ぼくの人生の素敵な宝物。
これって、あの『ぐりとぐら』? 野ねずみがふたり出てくる絵本?
懐かしい『ぐりとぐら』。 ぼくも娘と一緒に何回も何回も繰り返し読みました。
生きにくい人生を、気持ちの持ち方を切り替えたり、生活環境を変えたりとあがきながら人と人が関わることを大切に、もう一歩をなんとか今日から明日へと踏みだす五人の男女の話です。
「人と人が関わるのならそれはすべて社会だと思うんです。接点を持つことによって起こる何かが、過去でも未来でも。
海老川さんの言っていたことがよく理解できた気がする。」
俺は今、生きている。
やさしく心温まる五つのお話でした。
「何をお探し?」
のぞみちゃんが手を向けたほうの天井に、「レファレンス」と書かれたプレートがつるされている。
そこに坐っていたのは、とてつもなく大きな女の人だった。
はちきれそうな体の上に、顎のない頭が載っている。ベージュのエプロンに、目の粗いアイボリーのカーディガン。肌も白く服も白く、「ゴーストバスターズ」に出てくるマシュマロマンみたいだ。
マシュマロマンの胸に、ネームホルダーが提がっている。小町さゆり。小町さんっていうんだ。お団子頭には白い花のかんざしが刺さっていた。
「何をお探し?」
小町さんは、かくんと首を傾ける。
「いつかって言っている間は、夢は終わらないよ。美しい夢のまま、ずっと続く。かなわなくても、それもひとつの生き方だと私は思う。無計画な夢を抱くのも、悪いことじゃない。日々を楽しくしてくれるからね」
「でも、夢の先を知りたいと思ったのなら、知るべきだ」
「人生なんて、いつも大狂いよ。どんな境遇にいたって、思い通りにはいかないわよ。でも逆に、思いつきもしない嬉しいサプライズが待っていたりするでしょう。結果的に、希望通りじゃなくてよかった、セーフ!ってことなんかいっぱいあるんだから。計画や予定が狂うことを、不運とか失敗って思わなくていいの。そうやって変わっていくのよ、自分も、人生も」
じわっと、涙がにじむ。そして心に固く決めた。
これからは本当に・・・・・・。
自分で自分を、ちゃんと食わせる。
「おまえは今、生きている」
小町さんはドスの利いた声でつぶやいた。
真顔なのでちょっとこわかった。でももちろん、それはケンシロウが言う決めセリフの「おまえはもう、死んでいる」のパロディだとわかっている。
ゆっくりとメールを打っていく。私はこれからあなたと、新しいとびらを開きたいのです。そんな気持ちをこめて。
地球はまわる。
太陽に照らされ、月を見つめる。
「酢豚に入ってるパイナップルって、どう思います?」
「あれ、嫌がる人いっぱいいるじゃないですか。許せないとか言われて。なのに、なんでなくならないのかなあって」
「な、なんでかな」
「少数派かもしれないけど、酢豚のパイナップルを好きな人はいて、その人たちはちょっと好きってレベルじゃなくて、ものっすごい好きなんだと思うんです。好きの熱量の問題っていぅか。たとえ多数に受け入れられないとしても、その人たちがいる限り存在が守られてるんだ思うんです」
東京で住んでいた若いころ、「しばらく東京に住んでいる人」から、「田舎に帰ってきたの?」と聞かれて、エッと思った。
あなたも少し前の田舎出身者なのに「田舎」って言うんだ。
ふるさととか故郷とかでなく、東京-田舎という感覚になぜかなじめなかった。
今でも東京の人は、里帰りを田舎に行くと言うのだろうか。
一刻も早く田舎を出たかった。
『 お探し物は図書室まで/青山美智子/ポプラ社 』
長い人生の時間のなかで、子育の期間は、夜空の流れ星の一瞬の輝き。
絵本を読んで我が子と過ごした時間と思い出は、人生の意味を教えてくれるかけがえのないもの。
ぼくの人生の素敵な宝物。
これって、あの『ぐりとぐら』? 野ねずみがふたり出てくる絵本?
懐かしい『ぐりとぐら』。 ぼくも娘と一緒に何回も何回も繰り返し読みました。
生きにくい人生を、気持ちの持ち方を切り替えたり、生活環境を変えたりとあがきながら人と人が関わることを大切に、もう一歩をなんとか今日から明日へと踏みだす五人の男女の話です。
「人と人が関わるのならそれはすべて社会だと思うんです。接点を持つことによって起こる何かが、過去でも未来でも。
海老川さんの言っていたことがよく理解できた気がする。」
俺は今、生きている。
やさしく心温まる五つのお話でした。
「何をお探し?」
のぞみちゃんが手を向けたほうの天井に、「レファレンス」と書かれたプレートがつるされている。
そこに坐っていたのは、とてつもなく大きな女の人だった。
はちきれそうな体の上に、顎のない頭が載っている。ベージュのエプロンに、目の粗いアイボリーのカーディガン。肌も白く服も白く、「ゴーストバスターズ」に出てくるマシュマロマンみたいだ。
マシュマロマンの胸に、ネームホルダーが提がっている。小町さゆり。小町さんっていうんだ。お団子頭には白い花のかんざしが刺さっていた。
「何をお探し?」
小町さんは、かくんと首を傾ける。
「いつかって言っている間は、夢は終わらないよ。美しい夢のまま、ずっと続く。かなわなくても、それもひとつの生き方だと私は思う。無計画な夢を抱くのも、悪いことじゃない。日々を楽しくしてくれるからね」
「でも、夢の先を知りたいと思ったのなら、知るべきだ」
「人生なんて、いつも大狂いよ。どんな境遇にいたって、思い通りにはいかないわよ。でも逆に、思いつきもしない嬉しいサプライズが待っていたりするでしょう。結果的に、希望通りじゃなくてよかった、セーフ!ってことなんかいっぱいあるんだから。計画や予定が狂うことを、不運とか失敗って思わなくていいの。そうやって変わっていくのよ、自分も、人生も」
じわっと、涙がにじむ。そして心に固く決めた。
これからは本当に・・・・・・。
自分で自分を、ちゃんと食わせる。
「おまえは今、生きている」
小町さんはドスの利いた声でつぶやいた。
真顔なのでちょっとこわかった。でももちろん、それはケンシロウが言う決めセリフの「おまえはもう、死んでいる」のパロディだとわかっている。
ゆっくりとメールを打っていく。私はこれからあなたと、新しいとびらを開きたいのです。そんな気持ちをこめて。
地球はまわる。
太陽に照らされ、月を見つめる。
「酢豚に入ってるパイナップルって、どう思います?」
「あれ、嫌がる人いっぱいいるじゃないですか。許せないとか言われて。なのに、なんでなくならないのかなあって」
「な、なんでかな」
「少数派かもしれないけど、酢豚のパイナップルを好きな人はいて、その人たちはちょっと好きってレベルじゃなくて、ものっすごい好きなんだと思うんです。好きの熱量の問題っていぅか。たとえ多数に受け入れられないとしても、その人たちがいる限り存在が守られてるんだ思うんです」
東京で住んでいた若いころ、「しばらく東京に住んでいる人」から、「田舎に帰ってきたの?」と聞かれて、エッと思った。
あなたも少し前の田舎出身者なのに「田舎」って言うんだ。
ふるさととか故郷とかでなく、東京-田舎という感覚になぜかなじめなかった。
今でも東京の人は、里帰りを田舎に行くと言うのだろうか。
一刻も早く田舎を出たかった。
『 お探し物は図書室まで/青山美智子/ポプラ社 』